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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

LINKS〜気高き命の凱旋歌〜

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  1. 1 : : 2015/03/10(火) 14:28:19
    みなさんお待たせ致しました!


    LINKS続編ようやく完成となりました。



    かなり長くなると思いますがおつきあいいただければと思います。



    今回も前回同様
    私にプラス進撃女性人全員好きさん、LOLさんなどなど6人の優秀な作家さんを集めてお送り致しております。



    投下は毎日20:00に行いますのでよろしくお願い致します。


    作品の見やすさを重視するためにコメントを非表示にしておりますが、しっかりと作者は見ていますので、どんどんコメントをいただければなと思います。


    コメント返信が欲しいという方はこちらへコメント頂ければ確実に返信させていただきます。


    http://www.ssnote.net/groups/91/archives/13


    では本編へ参りましょう。どうぞお楽しみ下さい。
  2. 7 : : 2015/03/10(火) 20:42:39
    期待コメントありがとうございます。少々遅くなりましたが投下させていただきます。
  3. 8 : : 2015/03/10(火) 20:45:07





    暗雲立ち込め、背筋に震えが奔るような不穏な風が吹き荒ぶ。



    魔王の力によってその力を奪われ、荒れ果てた大地。



    そこで魔王アスモデウスと、7人の勇者は戦っていた。



    しかし、その時勇者たちは明らかに劣勢を強いられているようだった。

  4. 9 : : 2015/03/10(火) 20:46:08





    突如として魔王が甲高い笑い声をあげる。




    アスモデウス「この程度か!勇者達よ!」



    アスモデウス「こんな矮小な力で私に勝てると本気で思っていたのか?」



    アスモデウス「そろそろ飽きた。幕引きとしよう」



    アスモデウスが手を勇者達に向けると、邪悪で巨大な力の波が勇者たちを襲う。



    アルミン「闇黒魔法か……!!」



    アルミン「しかもあんな規模の魔法、まともに受けたらいくら僕らでも粉々だよ!」



    アスモデウス「散れぇぇえ!!」



    その力の波はその巨大さにもかかわらず、物凄いスピードで一行に向け突き進む。怪我人を抱えたままでは回避に間に合わない。
  5. 11 : : 2015/03/10(火) 21:01:32






    その時、ユミルが一行の前に躍り出る。



    ユミル「クリスタ!まだ治んねぇのか!!」



    クリスタ「あと少し!あと少しだから!」



    クリスタ「神よ……どうか私達にご加護を……!」



    クリスタは祈りながら脚に深刻な怪我を負った武闘家コニーに淡い光を放つ両手を当て続ける。



    ユミル「チッ!10秒だ!10秒だけ持ちこたえてやる!」



    ユミル「その間に何とかしろ!」



    そう叫ぶとユミルは、手にもっていた長槍を巨大な盾に作り変え、アスモデウスの攻撃を受け止める。



    ユミルが苦悶に顔をゆがませ、さらに足が徐々に後ろに下がり始める。巨大な攻撃を1人で支えているのだから当然の結果と言えるだろう。



    そこにエレンやアルミン、ジャン、サシャが駆けつけ、共に盾を支える。



    エレン「きばれよ……!これを凌いだら反撃だ!」



    アルミン「ユミル。1人で頑張るなんて水くさいよ。」



    サシャ「お腹空きました……早く帰りたいです。」



    ジャン「お前よくこの場面でそんな気の抜けたセリフを……。馬鹿なこと言ってないで力込めろ!」



    こんな時ですら緊張感に欠ける皆の言葉を聞いてユミルはふっと笑う。



    ユミル「ったく……うちのバカ共と来たら……」



    ユミル「クリスタ!」



    クリスタ「もう少し走るくらいなら大丈夫!」



    コニー「すまん。迷惑かけたな……!」



    遂にユミルの盾に亀裂が走る。



    それは既に時間が無いことを示していた。



    ユミル「こっからは、私の仕事だ。」



    ユミル「てめぇらは、とっとと逃げな。」



    ユミルの言葉に6人は無言で頷き、急いでその場を離れる。
  6. 12 : : 2015/03/10(火) 21:12:43




    そして、ユミルは皆の無事を確認すると、盾の局面と攻撃の威力利用し、横に流しながら側面に吹き飛ばされる。



    それでも綺麗に着地しているのだから大したものだった。



    支えを失った魔法は遥後方へと突き進み、地面を大きく抉り取り痛々しいほどの爪痕を大地に残すのだった。



    ジャン「なんて無茶苦茶しやがんだあいつは……」



    アルミン「彼女の無茶苦茶は今に始まったことじゃないだろ?」



    エレン「んな事よりこの隙を逃す理由はない!総攻撃だ!」



    ジャン「言われなくともっ!」



    その言葉が皆の耳に届くのが前か後か、既にジャンの姿はそこになく、魔王の前に飛び出していた。

  7. 13 : : 2015/03/11(水) 20:05:26

    そして、懐に切り込むと目にも留まらぬ速度で無数の斬撃を繰り出す。



    その剣圧は天に張り付く雲を裂き、地を割り、克明にその傷跡を残した。



    しかし、その全ては受け流し、かわされ魔王に傷ひとつ残す事できない。


    アスモデウス「ほう。なかなかにいいスピードだ。だが所詮は人を超えた程度!!」



    アスモデウスはジャンの隙をつき、拳を放って来る。



    それを剣で防御するが、大きな力に耐えきれず半ばから叩き折られてしまう。



    ジャン「嘘だろ!?最上級神器の宝剣だぞ!」



    アスモデウス「だから無駄と言っている!!」



    アスモデウスがジャンをその腕で薙ぎ払おうとしたとき背後から声が響く。



    アルミン「ジャン!下がって!」



    アルミンの声に反応し、ジャンはすぐに後ろに飛び退くと魔王の上に巨大な魔方陣が現れる。



    アルミン「こんな馬鹿げた魔法使う事はないと思ったんだけどね……」



    アルミン「ジャンのおかげでした準備は万端だよ。」




    聖なる光よ


    神威の名の下に


    悪虐を裁け




    『裁きの閃光《アポロニウス》!!』




    すると、天空に描かれた魔方陣から光の柱が降り注ぎ、眩い程の力の奔流は魔王を飲み込む。



    その膨大なエネルギーは、あたり一帯を消し飛ばし更地にした。




    その爆風と共に(実際は逃げているだけだが)、先程まで魔王の元にいたジャンが必死の形相で駆け戻ってくる。



    ジャン「ば、馬鹿野郎!俺を殺す気か!」



    アルミン「やだなぁ。現に生きてるじゃないか。」



    ジャン「ばかたれ!現に死にかけただろうが!」




    ジャン「人がいるのに国家殲滅級魔法使うってどういう神経してんだよ……」



    アルミン「いやぁテンションあがっちゃって」



    アルミン「てへぺろ☆」



    もちろんよけられると踏んで放ったわけだが、ふざけるアルミン。


  8. 14 : : 2015/03/11(水) 20:06:45





    その顔に戦慄が奔る。



    そして、その目線の先には無傷の魔王が立っていた。



    アルミン「まさかとは思っけど、あれだけの魔力を一瞬で相殺するなんてね。」




    アルミン「これはなんとか対策を打たないと……」



    そんな杞憂を他所に、叫び声をあげる2人がいた。



    エレン「うぉぉお!いくぞサシャ!」



    サシャ「はい!!」



    エレン「俺がランスロットを突っ込ませる!援護はまかせた!」



    サシャ「やったるでぇぇえ!!」



    2人の様子にアルミンは笑顔を引き攣らせ、ジャンは頭を抱える。



    しかし、呆れる2人を気にすることもなくエレンとサシャは魔王に攻撃をしかける。



    しかし、サシャの放つ矢は全て撃ち落され、ランスロットの攻撃も全て受けられ、終いには殴り飛ばされてしまう。




    アスモデウス「解せんな。勝てないと分かって居ながら何故歯向かう」



    エレン「うるせぇ!負けられねぇからに決まってんだろ!!」



    エレン「もう一度だランスロット!全開でいくぞ!」




    エレンが目を閉じ、意識を集中させる。するとランスロットの白銀の鎧が一層輝きを増す。



    アスモデウス「ほう……面白い。まだ強くなるか」



    エレン「俺だって勇者の端くれ。舐めてもらっちゃ困るぜ」



    すると突如ランスロットの姿が消え、アスモデウスの背後に現れる。



    サシャ「今や!」



    『不可視の矢《インヴィジブル》!!』



    背後からのランスロットの斬撃と、サシャによる死角をついた矢の多角攻撃。



    流石のアスモデウスもこれは驚いたのか目を見開き、反転しながら飛び退く。



    しかし、わずかに反応が遅れたのもあり全てかわしきれず、頬を剣がかすめ血を流した。



    アスモデウス「ほう……やれば少しはできるじゃないか」



    エレン「次は殺してやる」



    アスモデウスは頬の傷に触れニヤリと笑う。



    アスモデウス「やれるものならな」

  9. 15 : : 2015/03/11(水) 20:10:54





    ジャン「無理だな」




    「!?」




    突然のジャンの言葉に一行の誰もが驚きを隠せなかった。




    エレン「どう言う意味だ?ジャン」




    ジャン「今のてめぇにはできねぇって言ったんだよ」




    エレン「なんだって?」




    エレンは言っている事が理解できないと言うかの様に眉をひそめる。



    エレンとサシャの攻撃はアスモデウスに傷を負わせるに至った。何に問題があったのか誰もわからなかった。



    ユミル「どういうことなんだ?私達にもわかるように説明しろよ」




    ジャン「さっきのランスロットの剣撃だ」




    ジャン「あの間合い、タイミングなら、もっと深く切り込めたはずだ。下手すりゃ首を落とせるくらいにな」



    ジャン「だが、踏み込みが浅くなり、一瞬剣閃が鈍って、剣速が落ちた」



    ジャン「召喚獣にそんな事が起こり得るとすれば、こいつの心が揺らいだってことだ」



    エレンを指差し真剣に語るジャンの言葉に半信半疑ながら皆、エレンの方を見る。



    エレン「な、なんだよ……」



    狼狽えるエレンの両肩をジャンが掴み、訴えかける様に告げた。



    ジャン「いつまで腑抜けてるつもりだ?」


    ジャン「あいつはもう魔王なんだぞ……!てめぇのエゴで世界の人を危険に晒すつもりか!!」


    エレン「俺だってわかってんだよ!!」


    エレン「それでも……っ!」


    エレンは歯を食いしばりうつむいてしまうが、ジャンは諦める事なく静かに訴えかける。



    ジャン「割り切れとも、忘れちまえともいわねぇよ」



    ジャン「だけどな。目の前の現実を受け止めて乗り越えるしか俺たちに生きる道はねぇんだ」



    ジャン「お前が今戦ってんのは魔王なんかじゃない。ピクシスさんの影だ」




    ジャン「今あの人はアスモデウスに自我を乗っ取られた魔王だ」



    ジャン「てめぇの師匠はあんなクズか?」


    ジャンはエレンの肩においた手をおろしエレンの胸を叩く。


    ジャン「まぁ俺は詳しいこたぁわかんねぇが……てめぇのここにいる。師匠を信じてやったらどうなんだ?」



    ジャンの言葉にエレンは想いを巡らせているのか、目を閉じ押し黙る。



    そして少しして目を開き共にある仲間の顔を見る。



    エレン「そうだな……ジャンの言う通りだ」



    エレン「俺は今のまま師匠をあんな風にした奴を放ってはおけない」



    エレン「世界を壊そうとする奴を放ってはおけない」



    エレン「俺は奴を倒して師匠を……この世界を救うんだ……!」

  10. 16 : : 2015/03/11(水) 20:12:07





    エレンの心境の変化に呼応するかの様に各々が口を開く。



    ジャン「ったく。世話の焼ける野郎だ」



    アルミン「エレンがよくない頭で考えこむのは昔からじゃないか」



    クリスタ「みんなそんな事言わないの!でもやっぱり今のエレンの方がかっこいいよ!」



    サシャ「お腹空いたので早く終わらせてください!」



    コニー「お前があんま言うから俺まで腹減ってきたじゃねぇか……」



    ユミル「馬鹿どもはいっぺん魔王様に殺してもらえ。馬鹿が治るかもしれねぇぞ」


    エレン「ほんと、お前ら最後までしまんねぇなぁ」


    エレンは少し嬉しそうにはにかみながら、頭をかく。その後表情を引き締める。



    エレン「次の召喚で奴を倒す」



    ジャン「だがどうする?さっきのは不意打ちだったからともかく次はねぇぞ。」



    エレン「俺に秘策がある」



    エレン「成功するかわからない。それに、皆の力を借りる必要がある。協力してくれるか?」



    エレン「だが、成功すれば絶対に勝てる!」



    アルミン「今更何を言ってるのさ。僕達は仲間だろ?」



    その言葉に全員が頷き、それを見たエレンは少々自嘲気味の笑みを浮かべる。



    エレン「そうだな……。ありがとう」



    そして皆を集め作戦を告げるとアスモデウスと向かい合う。



    アスモデウス「ようやく茶番は終わったか。待ちくたびれたぞ」



    エレン「待っててくれるとはな。なかなか気が利くじゃねぇか」



    アスモデウス「この私に雑魚の隙を付けと?」



    エレン「後悔するぜ?」



    アスモデウス「戯言を……」



    アスモデウス「みんなの力だ?いくら口で綺麗事を言おうが意味などないわ。人間の心など一皮むけば、醜く腐り果てているのだからな!!」



    エレン「それは違う!」



    エレン「確かに人は汚い部分も抱えてる。だけどな、人は繋がれる!人は相手を思いやり、手を取り共に歩んでいけるんだ!」



    エレン「行くぞ!みんな!」



    全員「おう!!(うん!!)」
  11. 17 : : 2015/03/11(水) 20:13:56




    エレンがアロンダイトを抜き放ち、剣に手をかざす。そしてエレンの背中に6人の勇者達が手を添え目を閉じる


    アスモデウス「そんな事をしても心の力が反発し合い召喚獣が崩れ去るだけ!」



    アスモデウス「無意味な事を!」



    エレン「それはどうかな……?」





    全員の心の力が集まり、アロンダイトが淡くも力強く、そして美しい光を帯びる。




    そして、エレンは呪文を唱える。





    鋼剣に眠る英霊よ──────




    今再び目覚め──────




    我が刃となれ──────






    『召喚《コール》!!』







    今までにないほどの強い輝きと共に、白銀の輝く鎧を纏ったランスロットが現れる。


    アスモデウス「ふっ……先ほどとなにも変わらぬではないか……」



    アスモデウス「こけおどしを使いおって」



    エレン「俺たちの力……こけおどしかどうか、お前の目で確かめてみろよ」
  12. 18 : : 2015/03/11(水) 20:15:25





    アスモデウス「そこまで言うのなら、我が最強の一撃で消し飛ばしてくれる!!」



    アスモデウスが両手を天空にかざしブツブツと呪文を唱え始める。



    終焉と混沌の始まりを告げよ───



    『神々の運命《ラグナロク》!!』


    アスモデウスは先程の呪文を遥に上回る禍々しさと巨大さを備えた、漆黒の球体を生み出す。



    すると、あたり一体の暗雲はさらに濃くなり、魔法の影響なのか漆黒の雷が地をえぐり、石は舞い上がる。


    エレン「ランスロット!!」





    『円卓の守護聖剣《ラウンドオブスピリット》!!』





    エレン「いっけぇぇぇえッ!!」



    ランスロットは腰を落とし、剣を下段に構え力を貯める。剣は徐々にその光の強さを増して行く。




    そして一層踏み込みを強くし、足腰に力を溜めたか思うと、その場から消える。




    正確には消えたのではなく駆け出したのだが、その速度は剣聖として己の剣を磨き、速さを極めたと言えるジャンですら見失うほどであった。




    刹那、ラグナロクとランスロットの切り上げたアロンダイトの剣身が触れ、眩い光を散らす。




    さらに激突は爆発を巻き起こした。その爆風と眩さ故に勇者達は目を開けていられず、腕で顔を覆う。

  13. 19 : : 2015/03/11(水) 20:17:13





    そして、爆風と光が収まり目を開けると






    剣を振り抜いた後のランスロットと、身体に縦に深い傷をつけられたアスモデウスの姿があった。





    アスモデウス「馬鹿な……こんな事が……」



    アスモデウス「あり……えん!この私は魔王なのだぞ……!」



    その言葉と共にランスロットは光の粒となり剣に戻り、アスモデウスは地に伏す。



    エレン「やった……のか?」



    アルミン「ああ。やったんだエレン!!」



    エレン達は歓喜した。互いに互いの健闘を讃え、抱き合い、喜びを表現した。



    しかし、それも束の間の事だった。



    アスモデウス「ゴハッ……まだだ。唯で死んでたまるものかッ……!」



    アスモデウスが立ち上がる。それには誰もが驚きを隠せなかった。



    ジャン「あれだけ深い傷を受けてまだ息があるってのか!?」



    アスモデウスは荒い息を抑え、ニヤリと笑う。



    アスモデウス「貴様らは見事に結束し、私を倒した。その事は認めよう」



    アスモデウス「だがな、貴様らが命を賭して護った世界はもっと醜い物に溢れている」



    アスモデウス「世界を救った貴様らに絶望の種を植え付けてやる」



    アスモデウス「いつか自らの手で救った世界を、自らの手で滅ぼすがいい!」



    アスモデウス「私はこの世に絶望や悲しみがある限り何度でも蘇る」



    アスモデウス「ここで私は負けた。だが、私は未来で貴様らに勝利する!」


  14. 20 : : 2015/03/11(水) 20:19:00





    我が魂を以って


    原初の呪縛を紡がん






    『開闢の混沌《カオス》』



    アルミン「そんなことさせるものか!」



    『解呪《ディスペル》!!』



    アルミンの解呪はアスモデウスの呪いを打ち消すはずだった。



    今までどんな呪いでも解呪出来ないことなどなかった。




    しかし今回は違った。




    アルミンの解呪は跳ね返され、勇者達の身体に呪印が刻み込まれ、みるみる身体が小さくなって行く。




    そしてついには10歳程度にまでなってしまう。しかも、ご丁寧に服までミニチュアサイズになっている始末だった。




    アスモデウス「ハァ……ハァ……そんな物で消えるちゃちな呪いではない」



    アスモデウス「勇者達よ……力を失い、世界を見るがいい」



    アスモデウス「そして、世界の醜さを知るがいい……」



    しかし、勇者達は微塵も動じはしなかった。決意を秘めた目でアスモデウスを睨みつけ、エレンが地面に剣を突き立て叫ぶ。



    エレン「俺たちは絶望したりなんかしない。お前が世界を滅ぼそうとするなら、何度でも俺たちが立ちはだかってやる!」



    エレン「俺たちの光は、希望は、絶対にお前の絶望なんかに塗りつぶされたりはしない!」



    アスモデウス「ふっ。見ものだな。せいぜい足掻くがいいさ」



    『転送《トランス》』



    アスモデウスは最後の力を振り絞るかの様に、エレン達を世界中に散り散りに飛ばした。そして散りじりに飛び去る彼らを見上げつぶやく。



    アスモデウス「私は間違っていたのかも知れん……」



    アスモデウス「私はほんの一部に絶望して、全てに目をふさいでしまっていた……」



    ピクシス「目の前にあれほどの希望があったというのに。ワシが間違っていたと証明してくれよ勇者達よ……」



    最後にピクシスは人の姿を取り戻し息絶えるのだった。
  15. 22 : : 2015/03/12(木) 20:07:52







    ◇ ◇ ◇








  16. 23 : : 2015/03/12(木) 20:07:59
    空は青く澄み渡り、燦々太陽が輝き木々の緑をより鮮やかに照らしている。



    特段暑いというわけではないが、運動をすれば少し汗ばむ程度の陽気だ。



    しかし、吹き抜ける穏やかな風がその温暖さを決して不快に感じさせない気持ちのいい天気だった。



    その中をエレンとミカサは歩いていた。



    マリア村から大凡5日程の行程。目的地のシガンシナ城下まであと10分というところまで迫っていた。
  17. 24 : : 2015/03/12(木) 20:09:13





    しかし────



    エレン「もうダメだ。ミカサ……後は……任せ……た……」



    ミカサ「エレン!?」



    ここに来て行き倒れの危機に瀕していた。



    エレン「腹減ってもう歩けない……」



    ミカサ「……え?」



    ミカサは唖然とした。昨日はシガンシナの最寄りの村に宿泊し、今朝出発したのだ。



    その村からここまで1時間程、エレンは朝食も大人二人分程平らげてきたのだ。



    お腹が空くなど到底考えられなかった。



    ミカサ「でも、まだ出てから一時間くらいしか経ってない……」



    エレン「それでも減るもんは減るんだ」



    ミカサ「宿を出る時あんなに食べてたのに……?」



    エレンの予想の斜め上を行く言動にミカサは呆れて物も言えず、頭を抱えた。



    ミカサ「まったく……仕方ない」



    溜息を一つ吐き、ミカサはエレンに背を向けて屈み込んだ。



    ミカサ「乗って」



    エレン「え?」



    ミカサ「シガンシナまでおぶってあげるから」



    ミカサは申し訳なさそうに背中にもたれかかるエレンを背負うと、テキパキと歩き出した。



    エレンは子供サイズのためとても軽い。これが大人のサイズだったと思えばゾッとする。



    こういう時は便利だとか、大人だったら行き倒れることもないのかとかくだらないことを考えているうちに時間は過ぎ、シガンシナ城下にたどり着いた。


  18. 25 : : 2015/03/12(木) 20:10:52





    シガンシナ城下。その周辺一体は緑豊かな丘陵地帯である。



    城下町とは名ばかりで同じ城壁と水路で囲まれてはいるものの城と街はかなり離れている。



    街の背後に小高い丘に挟まれた一本道があり、さらにかなり広い平地を挟んでシガンシナ城がある。



    これはもとは侵攻への対抗策らしく、これのおかげで先代以前の王たちは幾度とない侵攻を退けこの国を繁栄させたと言われている。



    石でできたかなり高い外壁を見てもわかるように、飾り気はなく質実剛健。生き残るための策と言う側面を強くうかがい知ることができる。




    ミカサ達はそのスケールの大きさに少し驚きながらもシガンシナ城下に入るべく跳ね橋を渡ろうとすると、両脇に立っていた兵士達が止めに入る。



    門兵「ちょっと待ちなさい。ここはダズ王が統治なされているシガンシナ城下。君達何をしにここへ来たんだね」



    あまりに突然のことで少し面食らったミカサだったが、慌てて笑顔を取り繕う。



    ミカサ「食事をさせていただきたくて。この子お腹が空き過ぎて倒れてしまったので」



    兵士は少し考え込むような素振りを見せるが、すぐに脇に避け道を開けた。



    門兵「ならば仕方ない。ダズ様は寛大なお方だ。だが、それに甘えて無礼なことをするなよ。この国ではダズ様が絶対だ。いいな」



    ミカサ「……は、はぁ」



    ミカサはあまりに強く念押しする門兵に気圧されるが、なんとかあやふやながら返事を返し通り抜けることができた。



    しかし、門兵の様子はエレンとミカサの心の隅に小さなわだかまりを残したのだった。
  19. 26 : : 2015/03/12(木) 20:11:31





    とはいえ、腹が減っては戦は出来ぬ。まずは腹ごしらえ、もといエレンの復活が先決だ。



    ミカサは城下に入ってすぐそばに会った小さなレストランに目をつけ、値段が安いことを確認するとすぐに中に入った。



    例によってエレンはよく食べる。吸い込まれる様に皿の上の料理は口の中へと消えて行き、次から次へと皿が空き積み重ねられて行く。



    それにしても良く食べる物だ。もう既にエレンの頭より上に積み上げられた皿の柱が2つ程完成している。



    ミカサ(こうやって見ていると、とてもじゃないけど伝説の勇者になんて見えない)



    そんな事をミカサが考えていると、後ろから声があがる。

  20. 27 : : 2015/03/12(木) 20:13:08




    「君は……もしかして、エレンかい?」



    その言葉にピクリと反応して食べるのをやめたエレンが声の先を見て目を見開く。




    エレン「おお!アルミン!それに、クリスタも!」



    クリスタ「わぁ!エレン!久しぶりだね!」



    エレン「ああ!本当だよ!探しても探しても見つかんねぇから本当に死んじまったんじゃないかって心配してたんだよ!」



    再開を喜ぶ三人を他所に、約1名困惑を極めていた。


    それもそうだろう、ミカサにすればアルミンもクリスタも完全なる初対面だ。しかもあまりに突然のこと過ぎて、思考が追いついていなかった。



    ミカサがオロオロと双方を見ていると、その様子にエレンはすぐに気づいた。



    エレン「あ、悪りぃな。紹介するよ。こいつらはアルミンとクリスタ。昔一緒に旅をしてた仲間だ」



    二人がよろしくと微笑むの様子のあまりの可愛らしさに、ミカサは言葉を失い思わず小さく頭を下げる。



    エレン「んでこっちがミカサ。この前いた村で知り合って、成り行きで一緒に旅をしてるんだ」
  21. 28 : : 2015/03/12(木) 20:19:36





    ミカサをエレンが紹介すると、アルミンとクリスタは目を丸くした。



    アルミン「君が人を連れて旅なんて珍しいこともあるんだね。てっきり空腹で倒れてるのを助けられたのかと思ったよ」



    クリスタ「ほんとだよ。危ないからって、魔王と戦う時も私達を置いて行こうとするくらいなのに」



    エレン「うるせぇよ。俺だって気が変わることくらいあるさ」



    図星をつかれたのか慌てるエレンを見てミカサはなんだが嬉しくなると同時に何故旅の同行を許したのか気になったが、気恥ずかしさからその疑問を飲み込んだ。



    エレン「んで、お前らなにしてたんだ?」



    アルミン「うーんそうだねぇ。何から話そうかなぁ……」




    アルミンは少し考え込むと、頭の中の整理がついたのか少しずつ語り始めた。
  22. 29 : : 2015/03/12(木) 20:20:41





    アルミンの話した内容を要約すると、1人で大陸の南端に飛ばされたアルミンは少しずつ北上しながら仲間と合流すべく旅をした。その道中に妙な輩に絡まれるクリスタを見つけて助け、合流。それからも他の仲間を探したが、見つからずここに到着。この国の王政の酷さを知り、2ヶ月ほど逗留している。とのことだった。



    アルミン「ジャン達とも会えれば良かったんだけど、ダメだったよ」



    エレン「俺は別にあんなやついなくてもいいけどな」



    ジャンの名前がでた途端あからさまに不機嫌になったエレンはポツリとつぶやきつつ顔を背ける。



    クリスタ「相変わらずエレンはジャンを毛嫌いするんだね。仲良くしなくちゃダメだよ?」



    エレンの様子を見ながら少しからかう様な口調で言うクリスタに、エレンは余計に口を尖らせた。



    アルミン「エレンはどの辺りから来たの?」



    アルミンの質問にエレンは機嫌の悪そうな表情を打ち消すと、少しずつつ思い出すかの様に答えた。



    エレン「俺は大陸の北東部から南下してきた。途中図書館なんかによってこの封印を調べたりしつつな。んで途中マリア村でミカサと知り合ってそこから今に至るって感じかな」



    アルミン「あとは西側かあ……でも移動してないとも限らないし」
  23. 30 : : 2015/03/12(木) 20:55:58
    4人が話していると、いくつもの鉄のガチャガチャとぶつかり合う大きな音が店の外から響く。



    窓から垣間見える兵隊の列からその音は聞こえているようだった。




    「全員、敬礼!!」




    エレン「なんだ?あの大業な大名行列は」



    ミカサ「張り切りすぎて温度差すら感じる……」



    二人の様子にアルミンは乾いた笑いを浮かべる。


    アルミン「これは、この国の昼の恒例行事だ」



    アルミン「絶対王政がとられているこの国では、ダズ王がトップにいて」



    アルミン「毎日、今日夜を共にする女の子を、城下町に探しにくるんだ」



    ミカサ「どういうこと!そんなことが許されるの!?」



    エレン「本当だぜ!そんなに女に飢えてんなら夜の街に繰りだせば……」



    その時エレンの頭に拳骨が落ちる。


    その拳骨の主は顔を真っ赤にしたクリスタであった。



    クリスタ「そういう問題じゃないでしょ……!」



    頭を抱えながらうずくまるエレンに、アルミンとミカサは呆れたように笑うしかないのだった。



    エレン「ってて……冗談じゃねぇか……てかクリスタはそんなちっこい体のどこにこんな力があるんだ……」



    エレン「て言うかよ、アルミン。そんな悪い奴、魔法でちゃちゃっとやっちゃえばいいんじゃねえのか?」



    涙目で頭をさすり、起き上がりるエレンの言葉に、アルミンは表情を真剣なものに変える。



    アルミン「それが……10分という僕らの制約では、なかなか難しいんだ」



    アルミン「さすがに、あの大きな城の最上階に住む、ダズを懲らしめようにも……僕は体力のない賢者だし、クリスタも力のない聖職者だ」



    アルミン「僕の魔法で、城自体を消し炭に変えることもできるだろうけど、そうすれば無関係な罪の無い人まで巻き込むことになりかねない」



    「あのぉ……ダズ王もいらしてますしそろそろ……」



    会話の頃合いを見てか、控えめに声をかける店員の言葉にエレン達はわかったと答えると、席を立ち外へでるのだった。

  24. 31 : : 2015/03/13(金) 20:01:42





    店の外にでてみると、たくさんの人が道の両端に並んでいる。




    そして、その道の中央を



    豪奢な馬車に乗った男が、20人ほどの取り巻きの兵士を連れて練り歩いていた。



    エレン「奴が噂の?」




    アルミン「ああ。なかなかにゲスい顔をしてるだろ?」



    エレン「ああ。違いねぇ」



    アルミンのおふざけにエレンは笑いながら答える。



    一方ダズはあたりにいる女性を品定めするような、いやらしい目でじろじろと眺めていた。



    そしてエレン達の方を見やると、ニヤリと下品な笑みを浮かべ馬車からおりてこちらに歩み寄ってくる。



    エレン「お、おい!やばくね!?」



    クリスタ「多分ロリコンとか男色の毛はないはずだから……ミカサさん……?」


    ミカサ「わ、私!?絶対いやだからね!?」



    あーだこうだと言っているうちにダズはこちらへと歩み寄りもうすぐ目の前だった。



    もはやエレンはミカサが選ばれればこの場で奴を倒すことすら覚悟していた。



    ミカサ自身も恐怖のあまり目を閉じる。
  25. 32 : : 2015/03/13(金) 20:09:12





    ダズ「うーーん、今日の幸運な女の子は……お前だ!」



    「ひ、ひいいいっ!」



    ミカサ「……え?私、じゃない?」



    アルミン「そう安心してもいられないよ。彼女はいわば今日の生贄だ」



    そうこう言っていると女の前に男が踊りでる。



    「ダ、ダズ王!!」



    突然現れた男にダズが目を白黒とさせていると、女が男に聞こえるギリギリの声で告げる。


    「ダメ!フランツそんなことをしたら……!」



    フランツ「ハンナ。俺は君を黙って他の男の手に渡すことなんてできない」



    ハンナ「フランツ……」




    明らかに恋仲の2人だった。



    2人が話している間に平静を取り戻したのか、ダズは偉そうに咳払いをする。




    ダズ「おい……そこの男。邪魔だどけ」



    フランツ「見逃してやってくれませんか!僕とハンナは、明後日結婚する予定なのです!」



    フランツが自身に些細ながらも反論したことが許せなかったのか額に青筋を立て、目元をピクピクと引きつらせた。



    ダズ「……なにぃ?」



    ダズ「貴様、誰に向かってそんな口をきいている!!」




    ダズ「僕にそんな態度とってただで済むと思ってんのか?」



    不覚にもダズの怒りを買ってしまったフランツは、自分の置かれる状況を理解してか一歩後ずさった。



    フランツ「うっ……!」

  26. 33 : : 2015/03/13(金) 20:11:14





    その様子をおかしそうに笑いながらダズは従者に尋ねる。




    ダズ「ここシガンシナは、どんな王国だ?キッツ」



    名を呼ばれ、後ろの兵士の軍団の中から一人の黒いローブを来た男が現れる。




    キッツ「……はっ!ここはダズ王が第一の国!ダズ王が絶対であります!!」



    ダズ「そうだ。その通りだ……」



    ダズ「僕に逆らったら、どうなるんだっけ?」



    キッツ「はっ」



    キッツ「本日は、丸焼きがよろしいかと……」


    嬉しそうに笑うキッツにハンナとフランツは思わず声を上げた。



    ハンナ「なっ!?」



    フランツ「え……ええっ!?」



    2人の様子をみたダズは下卑た笑いを一層色濃くみせた。



    ダズ「ふふ、いいな」



    ダズ「やれキッツ」



    命を受けたキッツは、ダズに一度会釈をしてからフランツに向きなおり、正面に向け手をかざす。



    フランツ「や、やめろ……やめてくれ……いやだいやだ……死にたくない!!」




    焼灼の炎(アブレーション)



    キッツの口から残酷にも漏れた一言、それとともにフランツの身体を炎が包み込む。



    決して激しくはない、体表からじわじわと熱を通すような炎。



    フランツはその熱に悶え苦しむ。



    フランツ「ぐぁぁあッ!!あがッ……ゲホッゲホッ……ガハッ……!!」



    苦しみ悶え、熱気を吸い込んだことで気管が、肺が焼け爛れる。
  27. 34 : : 2015/03/13(金) 20:17:54





    その様子をみていられなかったのかハンナが叫び声を上げた。


    ハンナ「そんな……いやっ!フランツ……!いやぁぁぁぁあッ!!」



    ダズ「あっはははははッ!!燃えてるよ!ざまぁないね!僕に逆らうからそうなるのさ!!」



    ダズはフランツが焼け焦げて行く様を高揚した様子で見物する。



    アルミン「今までまともに魔法をみたことはなかったけど、あの魔法使い……詠唱を破棄しても完全に術式をコントロールしてる。なかなかの手練れだね……」



    エレン「冷静に分析してる場合かよ!!なんだこのふざけた奴らは……!」



    エレン「あれが王の為すことか……!」



    アルミン「……これが、この国で当たり前のように起きていることだ」



    アルミン「なんの罪もない人が……」



    アルミンが言葉を紡ごうとしたその瞬間。



    彼らの横から人影がダズに向け飛び出した。
  28. 36 : : 2015/03/15(日) 20:02:25





    クリスタ「ミ、ミカサさん!?」



    エレン「あのバカッ……!」




    ミカサは耐えられなかった。


    こんな仕打ちを目の前で見せれて、耐えろということ自体到底無理な話だ。



    許せるはずもない。


    こんなふざけたわがままで人を殺さんとする王などあってはならない。その程度のことはミカサにでもよくわかった。
  29. 37 : : 2015/03/15(日) 20:09:24





    ミカサ「良い加減にしなさい!!人をなんだと思ってるの!この国の人達はあんたのおもちゃじゃない!!」




    ミカサ「あんまり図に乗ってると、二度と夜のお楽しみできないようになるまで踏み潰す……!」




    流石地方の村出身と言ったところか、言葉の選択に容赦はなかった。



    とはいえ本来こんな言葉遣いなど到底するはずのないミカサに、これだけの事を言わしめるに足るだけの惨劇がここにはあった。




    ダズや兵士どころか、先程まで声をあげ泣いていたハンナすらほうけたような表情でミカサを見つめていた。



    それもそのはずだろう。この国ではダズは絶対。



    逆らうことなど許されない。



    そうやって抑圧されてずっと生きてきたのだ。



    当たり前であってはならないことが当たり前としてまかり通っていたのがこの国だ。



    この国の人間、いやまともな神経を持った人間なら反抗しようなどという気は起こさないだろう。


  30. 38 : : 2015/03/15(日) 20:13:47





    ダズ「おお、なんと威勢のいい娘だ」



    兵士「ダズ王の前でなんという口を!!」



    ミカサ「は?こんな蛆虫野郎に敬意を払う必要がある?」



    兵士「き、貴様ッ!!」



    ダズ「まあ待て良いのだ。こういう威勢のいい子は好きだなあ」



    ダズ「おお、なんと美しい黒髪だ……」



    ダズ「うん、決めた!今日はやっぱりお前にしよう!」


    ダズはミカサの罵声を物ともせず、ミカサに歩み寄る。


    ミカサ「なっ!」



    ミカサ「ふざけるのも大概にしろって言ってんでしょうが……!!」


    この時ミカサの怒りは限界に達し、全力の蹴りがダズの股間を突き抜ける。



    ダズ「おぐぅっ!!?」



    突然の衝撃と激痛にダズは間抜けな声を上げ、股間を押さえうずくまる。



    ミカサ「ざまぁみろっての……!」



    ミカサ「あなたが国の王だなんて反吐が出る!あなたに国を任せるくらいならアリにでも任せた方がマシ!」



    あたりはざわめきを増し、何やら動揺を隠せない様子だった。



    反抗するどころかダズに蹴りをくれてやったのだ当然だろう。



    あっけに取られた兵士も、すぐにミカサを拘束にかかる。



    兵士「ぎゃ、逆賊だ!ひっとらえろ!!」


    兵士「「「はっ!!」」」



    ミカサも曲がりなりにも女の子。非力な彼女では屈強な兵士に叶うはずもない。
  31. 39 : : 2015/03/15(日) 20:16:21


    その様子を見ていたエレンとアルミンはと言うと。



    エレン「っぷうは。ちょ笑いが……!」



    アルミン「ぷくく。エレンしっかりしてよ……!」



    先ほどまであれ程偉そうにしていたダズの無様で滑稽な姿にエレンとアルミンは笑をこらえることができなかった。



    クリスタ「ミカサさんが危ないんだから2人とも真面目にやりなさい!」



    かくしてエレンにとっては本日2発目拳骨が落ちるのだった。



    エレン「ってて。なんで俺だけ……何回も殴るなよ。俺の頭は楽器じゃないんだぞ」



    2度目の拳骨に憤りながらも、エレンは兵士を睨めつけた。


    エレン「まあいい。とりあえずミカサを離してもらおうか?」



    エレン「離さないってんなら……」



    エレンは背中の剣に手を掛ける。


    兵士「ガキが何を粋がってやがる。死にたくなかったらとっとと消えな」



    エレン「ほう……そうかわかったよ……その言葉後悔させてやる!!」

  32. 40 : : 2015/03/15(日) 21:01:08





    駆け出そうとするエレンをアルミンが手で制す。



    エレン「アルミン……!なんで止めんだよ!?」



    アルミン「エレン、ここは任せて」



    エレン「どうしたんだ?突然」




    アルミン「……僕も今まで、この国の王政に言いなりだった」



    アルミン「でも今は、君の力がある」



    アルミン「だから安心して、僕は力を使うことができる」



    エレン「ど、どういう……!?」



    クリスタ「そうよエレン」



    クリスタ「私達はずっと、チャンスを待っていた」



    エレン「は……?」



    クリスタ「私達の力だけでは、この国を変えることは難しかったから」



    クリスタ「でも、今はあなたがいる」



    アルミン「ああ」



    アルミン「とどのつまり、ここは任せてってこと」




    エレン「わけわかんねぇけど……まぁ、いいや好きにしろよ」



    アルミン「ありがとうエレン。ずっと、僕たちは傍観者でいることしかできなかった」



    アルミン「ふふ、僕もミカサさんのように、何も考えず飛び出せる性格だったら良かったんだけど」



    アルミン「僕は、絶対に勝てる勝負にしか手を出さない」



    アルミン「そんな後のことばかり考える性格に、イライラしていたところもあるんだ」





    アルミン「この場は僕が預からせてもらうよ……!」




    アルミン「これまでの市民達の怒りを、僕がこの手で晴らす……!」





    アルミンはそう言うと、クリスタとともにダズの元を目指し歩き出した。
  33. 44 : : 2015/03/18(水) 19:59:55





    ダズ「この小娘めっ!お前にはこうしてやる!」




    ミカサ「ーーーーッ!」



    ミカサはダズの手によって猿轡(さるぐつわ)をかまされ、無理やりにダズの乗ってきた馬車に押し込まれる。



    兵士「ったく活きの良い小娘だぜ」


    兵士「静かにしろ!全く」



    その様子を他の市民は、関わり合いになりたくないとばかりに見てみぬフリをし、ハンナは相変わらず泣き叫ぶばかりだった。



    フランツ「ゲホッ……ゲホッ……ぞ、ぞん……ぁ……」



    フランツは全身に火傷を受けつつもまだ息はあり、ハンナの身代わりになったミカサの姿を消えゆく意識の中口惜しげに見つめていた。




    そんな時アルミンとクリスタが馬車の前に立ちはだかった。
  34. 45 : : 2015/03/18(水) 20:02:38






    兵士「ん?」



    キッツ「なんだ、またガキか」


    立ちはだかる2人をまるで完全に舐め切った様子のキッツ達であったが、そんなことは気にしない。




    アルミン「クリスタ……!」



    クリスタ「うんっ」




    掛け声ともに、クリスタが刃物で自らの指先を切ると、滲み出た血を肩にある紋章に塗り付ける。






    封印されし力────




    魂の血約に従いて────




    今その全てを解き放たん────







    封印解放(リベレイト)!!』





    【挿絵】
    http://www.ssnote.net/link?q=https://www.dropbox.com/s/ry2f1n40j1tm8ga/%E5%86%99%E7%9C%9F%202015-02-15%2021%2008%2009.jpg?dl=0






    強烈な閃光がほとばしり、収まった時にはクリスタの姿は20前後の大人の女になっていた。




    周りの住民「うおお!」




    兵士「なっ、なんだ!あれは!?」




    兵士「さっきまであそこにはガキが……!」



    そこには先程の幼い可愛らしい少女とは一変、美しいと形容するにふさわしい女性の姿があった。



    その姿は見るもの全てを魅了するかのように、町の人々の視線を釘付けにした。

  35. 46 : : 2015/03/18(水) 20:05:40





    周りの目など気にすることなくクリスタはすぐにフランツの元へと駆け寄ると、彼の傷に手を添える。




    クリスタ「もう大丈夫よ」



    ハンナ「えっ……?」




    その手は淡い光を放ち、手を添えた部分の傷がみるみるうちにふさがり跡形もなく消えて行った。



    フランツ「あ、あれ……痛みが……!」



    そう言っている間に身体中の傷は消えてしまうのだった。



    兵士「な、なんだっ!?」



    兵士「なんであいつ、いきなり回復を……!」



    キッツ「聖職者か……?しかし、なんだあの回復スピードは」



    キッツ「聖職者は他者を回復をできるといっても……通常あの火傷は数日は完治できないハズだ!それをあの一瞬で!?」



    クリスタ「……アルミンこの人、火炎で火傷を負っただけじゃない!身体の中にまだ不純なものがある……」



    クリスタの一言にアルミンは振り返るとすぐに言った。



    アルミン「ああ、死の宣告(デススペル)か。それくらいなら心配ないすぐに解けるよ。まだ刻限まで時間はあるし、これを片付けてから解呪しよう」



    キッツ「何……!」



    キッツ(一瞬見ただけで、そこまで見抜いただと。こいつ何者だ……)



    アルミン「今までの反抗した人々も、こいつのくだらないお遊び手品のせいで死んでいった」



    キッツ「なんだと……!!貴様ら一体……!」



    アルミン「何者かなんてどうでもいいさ……ただ僕は君たちに地獄を見せに来た」



    アルミン「クリスタ。再封印してくれ。時間を温存しよう」



    クリスタ「うん」



    放たれし呪縛────


    いま一度ここに刻まん────





    再封印(リスペル)




    その呪文とともにクリスタの身体が小さく縮んで行く。そして元の子供の姿に戻る。



    エレン「あれ?まだ1分くらいしかたってないのに……」


  36. 47 : : 2015/03/18(水) 20:07:48






    アルミン「さて、今度は僕の番だね……」




    アルミン「……さっきから聞いてればキッツ、ずいぶん偉そうじゃないか」



    キッツ「な、何っ!」


    見ず知らずの子供に名前を呼ばれる、そのことに驚きを隠せないのかキッツはたじろぐ。



    アルミン「師匠の教えを忘れたのかい?」



    アルミン「魔法は、人を殺めるために使うものではない」



    アルミン「人の生を輝かせるために必要なものだと」



    キッツ「な、なぜ貴様のような子供が、ダリス師匠の教えを知っている!」



    アルミン「ふふ、まだ分からないのかい?」


    アルミンは愚鈍なキッツを嘲笑うが如く、おかしそうな笑顔を消さない。




    アルミン「子鹿くん」




    キッツ「そ、その名は……!」



    キッツ「限られた魔法使いしか知らないハズ……!」



    キッツ「な、何故貴様がそれを知っているっ!」



    アルミン「……ふふ」



    キッツ「ま、まさか……いや、そんなっ!」



    キッツ「あいつは……あいつは10年前の魔王との戦いで死んだハズだっ!」


    キッツは気づいた。自分を常に脅かして来た物の存在に。



    キッツ「そんなことがあるわけがない!!」


    幾度あるわけがないと言い聞かせても、彼の発言のひとつひとつが、そうなのだと克明に示していた。



    アルミン「やれやれ。だから君はいつまでたってもダメなんだよ……」




    アルミンはおもむろに前髪に隠れた刻印に血を塗りつけると、キッツをみつめニヤリと笑う。



    封印されし力────




    魂の血約に従いて────




    今その全てを解き放たん────







    封印解放(リベレイト)!!』




    【挿絵】
    http://www.ssnote.net/link?q=https://www.dropbox.com/s/qiy6pxu1okdzqkl/%E5%86%99%E7%9C%9F%202015-02-15%2021%2009%2000.jpg?dl=0





    アルミン「これでもまだ信じられないかい?」



    キッツ「ば、ばかな……なんで……」




    キッツ「師匠の魔法すべてを受け継いだ、天才魔術師……!」



    キッツ「アルミン・アルレルト!なぜだ!なぜ貴様がここに立っている!!」



    アルミン「ふう……相変わらずこういう時は子鹿みたいな顔だね、キッツ」



    キッツ「う、うるさい!!顔は子鹿ではない!!



    アルミン「へぇ……性格の方は認めるんだ」




    キッツ「やかましいやかましい!!わ、私とてこの10年、伊達に修行をしてきたわけではないわ!!」


    アルミンのからかいに逆上気味にキッツは呪文を唱えはじめる。
  37. 48 : : 2015/03/18(水) 20:09:35





    灼熱騒嵐(フレイムテンペスト)




    火炎を振りまき、あたりを焼き尽くすまさに炎の嵐が現れる。


    その熱は凄まじく空気が焼ける音がパチパチと響き、轟々と唸りを上げていた。



    しかしそんな状況でもアルミンは涼しい表情を崩さなかった。



    アルミン「ほーそんな魔法も詠唱を破棄できるようになったんだ。すごいすごい」




    そうこうしているうちに魔法がアルミンに向け接近する、そして接触するか否かと言うところで、キッツの放った魔法は霧散した。




    アルミン「あれ?」



    アルミン「もしかして今何かしたのかい?」



    キッツ「え……?」


    アルミン「何でって顔をしてるね。簡単なことさ。僕の身体から漏れ出る魔力の方が君の放った渾身の魔力より強いってだけだよ」



    アルミン「君の成長はいつ見てもつまらない……」




    アルミン「どれだけ難しい魔法を習得しても君の魔法は三流以下だ」




    焼灼の炎(アブレーション)



    先程キッツがフランツに放った低級火炎魔法と同じものであったはずだった。


    しかし先程とはその様相は違った。


    迸るように一瞬炎が駆け巡り、キッツや、兵士、ダズの服を焼き、鎧を溶かした。




    そしてその直後そこには





    全員揃って下着一枚で、熱によって髪のチリチリになった、ダズ一行の姿があった。





    キッツ「うわあああああああ!」




    兵士「ひいいええああああああ!」




    ダズ「ぬおおおおおおお!」



    アルミン「ふふ、そんな姿になってもまだ反抗するつもりかい?」



    アルミン「愚鈍な君には裸の王様。よく似合っているよ」


    ダズ「オロロロロロォ……」



    アルミン「あ、ゲロ王様のがいいのかな?流石名前がゲロマミレのアナグラムなだけはあるね」




    嘔吐するダズの姿を冷徹な笑顔で見守るアルミンの姿にはその場が一様に背筋に悪寒を覚えたのだった。

  38. 49 : : 2015/03/18(水) 20:10:36





    アルミン「よいしょっと」



    指をちょいちょいと動かしアルミンは風の魔法で馬車に乗っていたミカサを自分のところに連れてくると猿轡を外してやる。



    アルミン「大丈夫ですか?勇敢なのも結構ですが、女の子なのですから無理はいけませんよ?」




    ミカサ「あ、は、はい!」


    ここまでとは一変、和かに笑いかけるアルミンに、ミカサは動揺し頬を朱に染める。

  39. 50 : : 2015/03/18(水) 20:11:12






    そしてその様子を面白く思わない者たちもいた。



    エレン「……」



    クリスタ「……」



    エレン「なんだあれ」


    クリスタ「本当だよ……アルミンの財布お金ナイミンにしてやろうかしら」


    エレン「お、それいいな俺にもなんか奢ってくれ」



    クリスタ「うん。何が欲しい?」



    アルミン「ちょっと!!なに人の財布からお金使おうとしてるのさ!?」


    クリスタ「アルミンの財布中身ナイミンにするの!」



    アルミン「するの!じゃないよ!!うまいこと言えてないからね!?てかなんで僕の財布なのさ!」




    エレクリ「アルミンが悪いんだろ(よ)」



    アルミン「僕何かした!?」



  40. 51 : : 2015/03/18(水) 20:12:58





    アルミンがわけがわからない様子で困惑するのを他所にダズはその顔を憤怒の色に染め上げ、怒鳴り散らしていた。



    ダズ「きっ、キッツ!何をしているッ!早くあんな奴懲らしめんかあっ!」



    エレン「お前らまだいたのか。いい加減静かにしろよ。近所迷惑だろうが」




    キッツ「ひっ、ひいいい!」



    しかしキッツにとってアルミンは過去のトラウマそのもの。自分を圧倒的なまでに上回る存在で有り続けた男だったのだ。そんな男を前にして臆病な性格の彼が平静を保っていることは不可能であった。



    ダズ「ええい!役立たずめ!城へ帰るぞ!!」




    ダズ達が去った後、アルミンはすぐにフランツの解呪をすませ元の姿に戻と、まわりにも安堵の空気が流れる。
  41. 52 : : 2015/03/18(水) 20:13:52





    エレン「はぁ……なんとかなったか……ミカサ、大丈夫か?」


    ミカサ「うん……ごめんなさい、無茶をして」


    エレン「いや無事ならいいんだ。なんかスカッとしたしな」


    エレンが笑いながら告げると、ミカサもようやく安心したように笑った。




    嬉しそうにはしゃぐエレンを他所にアルミンは背を向けて周りに目を走らせていた。


    エレン「怖い顔してどうかしたのか?アルミン」


    アルミン「それが……あんまり喜んでもられないみたいだよ、エレン」


    エレン「突然どうしたんだよ」


    訳が分からないといった様子のエレンだったが、目の前に広がる光景にすぐにその意味を理解した。



    エレン「なんなんだよこれ……」
  42. 54 : : 2015/03/19(木) 20:08:22






    住民は何者かに追われるかのように散って行く。その中にはエレン達をまるで蔑むかのような目で睨んでいる者もいた。



    エレンは最悪の王を蹴散らし、一泡吹かせた事で街の人々はさぞスッキリした事だろうと考えていた。




    さらに、そのとき側をを通り過ぎていった3人の男達の会話に耳を疑った。



    「───、明日にはダズ王が城下町に攻めてくるだろう」



    「今回は一段と酷そうだな……」



    「あそこまでやられりゃな……前の時とは程度が違うだろ」



    「ったく……なんてことしてくれたんだ」



    「しっ!あそこにいる。聞かれるぞ」




    彼らはちらりとエレン達に視線を向けると、まるで関わりたくないというかのように足早に去っていった。



    2人はただ困惑し、言葉を失った。彼らは善意からダズをこらしめたつもりだ。しかし目の前にある現実はエレン達の行為を否定している。



    その様子をみてアルミンは自嘲気味に笑った。



    アルミン「ね?わかったでしょ?僕達のしたことは───」




    「君達、ちょっといいかい?」



    そのとき、アルミンの言葉を遮るように一人の男がエレン達に声をかけた。
  43. 55 : : 2015/03/19(木) 20:09:59






    クリスタ「あっ、あなたは……」



    そこには、先ほど恋人をダズの手から守ろうとして丸焼きにされかけた男がいた。



    恋人の女も彼を支えるようにして立っている。



    クリスタ「あなたは、たしかフランツ……さん?もう傷は大丈夫ですか?」


    フランツ「うん、おかげさまで僕もハンナもこの通り無事だよ」


    ハンナ「本当に、本当にありがとうございました!」



    そういうと、2人はクリスタに向かってそろって頭を下げた。



    クリスタ「そ、そんな!いいんです。このくらい当然のことですよ!」



    ハンナ「でもあなたがいなかったらどうなっていたか……考えたくもありません」



    クリスタ「私はお2人が無事なら、それでいいんですよ」



    クリスタが2人に微笑むと、フランツとハンナも顔を見合わせて笑った。



    しかしフランツはすぐに表情を引き締め、声を落とす。



    フランツ「ところで、君たちはこれからどうするつもりだい?」



    エレン「どうするって……」



    フランツ「街の人たちはみんな君たちを恨んでる。あの男の怒りを買ってしまったんだからね」



    ハンナ「ここの人たちは皆、ダズ王を怒らせたらどうなるかを知っているから仕方ないのかもしれないけどね……」



    ミカサ「どういうことですか?」



    フランツ「すまないがあまりゆっくり話している時間がないんだ。僕たちももう戻らなければいけなくて……」



    フランツ「でも最後に一つだけ忠告させてくれ」



    クリスタ「忠告……?」



    フランツ「僕たちは君たちに助けられた。君たちには生きていて欲しいんだ。でもこの国にいる限り間違いなく君たちは殺される」



    ハンナ「だから今すぐ逃げて欲しいの。ダズ王がくる前に、ここから出来るだけ離れた場所に……」



    エレン「逃げるって……」



    フランツは辺りに素早く目を走らせながらエレンを遮った。



    フランツ「ごめん、こんな事しか言えなくて。でももう本当に時間がない。あの男が準備を整えてからでは遅いんだ」



    ハンナ「フランツ、私たちも……」



    ハンナも泣きそうになりながらフランツを急かす。



    フランツ「うん、わかってるよハンナ」



    フランツはエレン達に向き直って言った。



    フランツ「ごめん、あいつらがいつ現れるかわからない。僕たちも家に帰るよ。君たちに会えてよかったよ、どうか無事で」



    クリスタ「えっ、あの……」



    ハンナ「あなた達と一緒にいたことが知られたらまずいことになるかもしれないの。本当にごめんなさい。でも会えてよかったわ。ありがとう、さようなら」



    フランツとハンナは早口でそう言うと、路地の奥に駆けていく。



    取り残されたエレン達は嵐のように去っていった2人を呆然と見送っていた。

  44. 56 : : 2015/03/19(木) 20:36:13





    アルミン「さっきフランツさんが言ってたのは……」



    アルミンがぽつりと呟く。



    アルミン「前にも大切な人を守ろうとしてダズ王に逆らった人がいたんだ。さっきのフランツさんみたいにね」



    アルミン「結局、その人はその場で殺されてしまった。でも本当にひどかったのはそのあとなんだ」



    エレン「後?」



    アルミン「うん……逆らった国民がいたことに腹を立てたダズ王は次の日に大軍を引き連れてこの街にやってきたんだ。そこでもたくさん人が殺された。さらにはたくさんの女の人が連れ去られたらしい」



    ミカサ「ひどい……」



    アルミン「だから街の人たちが僕たちのしたことを快く思わないのも無理ないかもしれないね」



    ミカサ「ごめん、私のせいでこんなことに……」



    ずっと黙っていたミカサが弱々しく呟く。




    エレン「ミカサが謝ることじゃねぇだろ」



    ミカサ「でも……」



    アルミン「うん、ミカサさんは何も間違ってないよ。間違ってるのはあの王だ」



    ミカサ「そうは言っても街の人たちが……!」



    アルミンは短く頷くと、再び話し出した。



    アルミン「さっきも言ったけど、僕たちはずっとダズに反撃出来るチャンスを待っていたんだ」



    アルミン「君たちと会ったからにはすぐにでもそうするつもりだったし、少しその時期が早くなっただけだよ」



    アルミンはそう言うと、嬉しそうに笑った。



    ミカサ「でも私は皆と違ってなにも出来ない……」



    クリスタ「そんなことないよ、ミカサさん」



    クリスタはくすりと笑うと、ミカサの手を取る。



    クリスタ「ミカサさんが飛び出して行ってくれたから私たちも踏み切れたんだよ?」



    アルミン「そうだね、ミカサさんはいい意味で起爆剤になってくれた」



    ミカサ「起爆剤……」



    アルミン「もっと自信を持ってよ。僕はミカサさんにも出来ることはたくさんあると思うよ」


    アルミンはそういうと、不敵な笑みを浮かべた。


    エレン「さてはアルミン、もう何か考えてあるんだな?」


    エレンもつられてかにやりと笑う。


    アルミン「ふふ、もちろんさ。でもその前にいいお知らせがあるんだ」
  45. 57 : : 2015/03/19(木) 20:42:04






    アルミンとクリスタは顔を見合わせ、頷いた。



    クリスタ「私たちがこの街に来てから聞いた噂なんだけど………」


    アルミン「僕たちはこの国でずっと呪いを解く方法をさがしていたんだ」


    ミカサ「呪い?」


    アルミン「うん、僕たちにかけられた呪いだよ。子供の姿に変えられてるだろう?」


    クリスタ「一日10分だけ解くことはできるけどね」


    ミカサ「その呪いが解けるかもしれないの?」


    エレン「本当かアルミン!?」



    アルミン達からもたらされた思わぬ情報にエレンは目を輝かせる。



    アルミン「まぁ、あくまでも噂なんだけどね」



    エレン「いいから早く聞かせてくれよ!」



    アルミン「わかったわかった」



    アルミンはクスっと笑うと、その噂について話し始めた。



    アルミン「あのシガンシナ城の地下奥深くには魔法を極め魔人と呼ばれた魔導師が遺した『ティタニアの魔眼』っていう高純度の魔力玉があると言われてるんだ。それなら僕たちの呪いも打ち消せるかもしれない」




    エレン「ほ、ほんとかよそれ……!『ティタニアの魔眼』って言えば世界を3回粉微塵にできるほどの魔力が込められてるなんて言われてる伝説の宝玉だぞ!?」



    アルミン「うん。でも、もしそれが本当だとしても、『ティタニアの魔眼』があるのは城の中だ。伝説クラスの宝物になれば必ず魔術刻印がされてるから魔力探知にもかからないし、このままだと確かめようもないよ」



    エレン「あ……そうか……」



    目の前に呪いを解く方法があるにもかかわらず、お預けを食らったエレンはがっくりと肩を落とす。



    エレン「いやでもちょっとまてよ……?そう言えばお前らさっき10分も経ってないのに元に戻ったよな?それは呪いが少し解けてるとか、弱まってるとかそういうことじゃないのか?」



    アルミン「ああ、これはね……僕がここに来るまでの間に封印を解析してね、封印を小出しにする方法を見つけたんだ」



    クリスタ「私も初めて聞いた時はびっくりしちゃった!」



    アルミン「とはいえ、元に戻れる時間は10分のままだから今日は……えーと……僕があと7分くらい、クリスタが9分くらいかな」


    エレン「へぇ……」


    エレンとミカサは分かったような、分からないような表情でアルミンの話を聞いていた。



    とはいえ封印を小出しにできるのはかなり革新的な発見であった。普段なら1日に2回間隔を開けて襲撃を受ければなす術はない。




    しかし、封印を小出しにできると言うことは時間にさえ気を配れば複数回の戦闘にも対応できるということだった。



    アルミン「まあ、エレンも後々必要になるだろうし、落ち着いたら方法を教えるよ」



    エレン「よっしゃ!……でも何で今すぐ教えてくれないんだよ」



    エレンが不満そうに唇を尖らせると、アルミンは顔に苦笑の色を浮かべた。


    アルミン「あはは……今すぐには必要ないからかな」


    エレン「必要ない?」


    アルミン「そう。エレンがこれからすることに封印を小出しにする必要はないからね。まあ、人によって封印の形が違うから解析に時間がかかるって言うのもあるんだけどね」


    エレン「ええ……そんなあ……」
  46. 58 : : 2015/03/20(金) 20:12:47
    【追記報告】

    本編に挿絵のURLを追記致しました。もしよろしければご確認ください。
  47. 59 : : 2015/03/20(金) 20:15:54





    エレンが再び肩を落としたその時、クリスタが人の視線を感じすぐさま振り返る。



    クリスタ「ん……?」



    エレン「何者だ!用があるならさっさと出てきたらどうだ!」



    アルミン「ッ……!」



    ミカサ「え?何?」


    ミカサは何が何やらわからずキョロキョロとしていたが、3人それぞれがいつでも戦えるように警戒を強める。



    すると、すぐそばの家の裏から2つの人影が現れた。



    「ごめん、驚かせてしまったね」



    「まあよく気づいたもんだ。さすがは勇者様だな」



    ふたり分の人影はエレン達の方へと近づいてくる。



    エレン「あんた達俺たちに何の用だ」



    4人が尚も警戒しているのを見て、2人はくすりと笑った。



    「そんなに警戒しなくても、私たちは何もしないよ」



    「まあでも警戒するなって方が難しいんじゃねえのか?」



    2人はエレン達の前で立ち止まると、親しげに笑いかける。



    「まずは私たちから自己紹介をしよう。こんなに警戒されてちゃ話も進まないからね」



    「私はナナバ。『自由の翼』っていう組織のリーダーをしてるんだ」 


    ナナバと名乗る女性は隣の男性の肩に手を置く。



    ナナバ「で、こっちがゲルガー。私たちの組織の副リーダーだよ。酒癖の悪さは組織一なんじゃないかな」



    ゲルガーと呼ばれた男性は軽く手を振り、にやりと笑った。



    ゲルガー「おう、よろしくな。酒のことならなんでも聞けよ?」



    ナナバ「それで、君たちに少し話したいことがあるんだけど……」



    ナナバとゲルガーはちらりと視線を交わし、困ったような顔をした。



    ナナバ「君たちにそこまで警戒されてるとね……」



    ゲルガー「話したくても聞いちゃもらえねえだろうな」



    その言葉通り、エレン達はナナバとゲルガーが正体を明かしても警戒を解こうとはしなかった。



    ナナバ「まあ無理もないか……でもね、私たちの組織のメンバーに君たちの事を話したらすごく会いたがっていたよ。あ、もちろんさっきの騒動を直接見ていた人もいたね」



    ミカサ「会いたがったって……」



    アルミン「みんな僕らを避けているのにですか?」



    ゲルガー「そりゃうちは他のやつらとはちげぇからな。なんてったって───」



    クリスタ「反乱組織だから、ですか?」



    クリスタがゲルガーを遮る。



    それはごく小さな声だったが、場の会話を止めるには十分だった。



    ナナバ「君、私たちのこと知ってたの?」



    クリスタ「知ってたというか……以前に聞いたことがあるから……」



    クリスタ「昔王に立ち向かい、殺された人がいて……その復讐のために反乱組織が出来たって……」



    ナナバ「…………」



    アルミンがはっとしてクリスタを見る。



    アルミン「それって……」



    クリスタ「そう。さっきアルミンの話を聞いて、もしかしたらって思ったの」



    エレン「でもこいつらが偽物ってことも……」



    クリスタ「それはないと思うよ。だって……」



    突然ナナバの目をじっと見つめるクリスタにナナバの心臓が跳ねる。



    クリスタ「嘘をついてる人の目には見えないもの」



    クリスタが視線を外して微笑むと、緊張から解放されたナナバはホッと息をついた。



    クリスタ「だから、とりあえず話だけでも聞いてみない?なにかあったらすぐに逃げられると思うし……」




    アルミン「いいんじゃないかな。本当なら僕たちにも何かできるかもしれない」



    4人の中で話がまとまると、ナナバ達に向きなおる。



    ミカサ「ナナバさん、ゲルガーさん、お話聞かせてください」



    それを聞いたナナバとゲルガーは嬉しそうに顔を見合わせた。



    ナナバ「ありがとう!本当に助かるよ。でもここで話す訳にもいかないから場所を変えてもいいかな?」



    ゲルガー「ここだと誰に聞かれてるかわかんねえからな」



    アルミン「はい。もちろんです」



    ナナバ「こっちだよ。ちょっと道がわかりにくいから、ちゃんと着いてきてね」



    ゲルガー「はぐれたら大変なことになるからな」



    二人はそういうと、最初に隠れていた家の裏の方へ向かっていく。



    エレン達も慌ててその後を追った。

  48. 60 : : 2015/03/20(金) 20:28:50







    ◇ ◇ ◇







  49. 62 : : 2015/03/21(土) 19:44:45





    ナナバ「さあ着いたよ。早く中へ入って入って」



    エレン達がつれてこられたのは、埃っぽくさびれた古い倉庫のような所だった。


    街の大通りからはかなり外れており、周りの人通りも極端に少ない。



    目隠しでもされて連れてこられて、別の街とでも言われればそれを信じて疑うこともないだろう。



    それほどまでに大通りの活気とはギャップがあった。



    エレン「本当にここが……?」



    4人が疑問に思っていると、ゲルガーがおもむろに部屋の奥の床板を剥がしはじめた。



    アルミン「地下があるのか……」



    クリスタ「みたいだね……」



    ナナバはゲルガーが床板はがしたあとに現れた穴をのぞき込むと、そのまま穴の中に入っていった。



    ゲルガー「さあ、ナナバに続いてここに入ってくれ」



    ゲルガーはそういうとエレン達を手招きし、穴の中を指さす。



    中を覗くと、はしごが立てかけられた深さ2メートルほどの縦穴があった。



    エレン達は顔を見合わせると、ゲルガーに言われたとおりに梯子を降り、穴の中に入っていった。



    エレン達がハシゴを降り、その地下にたどり着く。



    エレン「うわっ!」



    およそ半径50メートル程の大きな空間にいくつかのランプの光が灯り、そこには机や椅子、酒、そして多種多様の武器が並べられていた。



    組織の代表であるナナバと、副リーダーであるゲルガーが帰ってきたからか、500人程はいるであろう反乱軍メンバーと思われる人々は少しざわついているようにも見える。



    エレン「……すっげえな」



    エレンはあたりをキョロキョロと見渡しながら感嘆の声を上げ、アルミンはアルミンで周りの人々の行動を観察しているようだった。



    一歩女性陣は著しく不快な様子であった。



    クリスタ「……なんか、お酒くさいね。ミカサ大丈夫?」



    ミカサ「あ、うん、ちょっと気持ち悪いけど平気」



    酒のにおいに慣れていないのかミカサは顔色が悪い様子だった。



    そんな4人をよそに、ナナバはその地下空間を奥まで歩いていき、一番奥に立てかけられた旗の前にある椅子へ腰掛けた。

  50. 63 : : 2015/03/21(土) 19:46:28







    ゲルガー「さ、こっちへ来てくれ」



    ゲルガーはエレン達を誘い、ナナバが座った元まで案内をする。



    エレンらは、少しの辺りを気にしながらもゲルガーの案内を受け、ナナバの元に辿り着く。



    その間周りにいた人々からは「こいつらがダズを……」「なんの冗談だよ……」「まだ子供じゃねえか……」と言った嘲笑を含む声が漏れ聞こえてきた。


    ゲルガー「まあ、掛けてくれ」


    ゲルガーは、ナナバが座る椅子の前に4つの椅子を用意する。


    エレン達は指示のとおりにナナバの前に腰掛けるが、先程のヒソヒソ話が勘にさわったのかアルミンはやけに不機嫌そうで口数が少ない様子だった。


    勇者とはいえども、昼間にダズ達に勇敢に戦った大人の姿をした彼らはその場にいない。



    ナナバらを囲む多くの人らも、彼らが本当に伝説の勇者であるのか疑問を抱くのも当然といえば当然だった。



    アルミン「にしても無礼な方ですね。ここも酒臭いですし、本当にダズと戦う気があるんですか?」



    アルミンはまくしたてるように言葉を終えると、指をパチリと鳴らす。



    すると閉鎖された空間内に一瞬風が吹き抜け、辺りの酒の嫌な臭いを消し去った。


    その様子をみて革命軍の人間たちは目を丸くし、ゲルガーは面白そうに笑いながら口笛をひとならししていた。



    ナナバ「……すまない、悪い気分にさせたね。気にしないでくれ」



    ナナバはアルミンの行動の意味を察したのか、ナナバは少し気を使うが、その時にはもうアルミンの機嫌も既に治っているようだった。



    アルミン「いえ。こちらこそ失礼しました」


    と言うのもアルミンは機嫌が悪かったわけではない。彼は完全になめられたままで交渉をするのは得策ではないと考えたのだ。



    たとえナナバやゲルガーが彼らを認めていようとも500もの人間が不信感を抱いていれば協力のしようもないのだ。



    空気の入れ替えをしたのはミカサ達を思ってのついでだった。
  51. 64 : : 2015/03/21(土) 19:52:47




    ナナバ「……すまないね。さっそくだが、単刀直入に言わせてもらおう」


    ナナバ「……自由の翼(わたしたち)に、協力してほしい。みたところ君達は相当腕が立つようだ。その力を借りたい」



    協力と言う言葉に少し反応を見せたものの4人とも黙ってナハバの言葉に耳を傾けていた。



    ナナバ「この国は絶対王政。ダズに逆らうことは許されない……そんな情勢が、5年前先代の王が亡くなられてからずっと続いている」




    ナナバ「毎日ダズは城下町に降り、自分の好きな女を攫い夜を楽しむ。住民は見て見ぬフリというのは君達にも分かっただろう……逆らえば、ダズの直近の兵士に殺されてしまうからね」



    エレン「……そんなの関係ない、みんなで協力してぶっ飛ばせばいいんじゃねえのか?」


    ナナバ「はは……さすがだね」


    ナナバ「本当はそうしたいけど……我々は一市民。数人、数十人が束になって飛びかかったところで、殺されるのは目に見えているよ」



    ナナバ「ダズの直近にいる兵士達は、それなりに戦場で名を馳せた兵士。ただの住民である我々が対抗したところで、勝てる訳ないんだ」



    アルミン「……エレン、みんな僕らみたいに力を持ってる訳じゃないんだから」


    アルミンがエレンをたしなめる。


    エレン「う……すまん」


    ナナバ「……それに、今君らの後ろに立っている自由の翼のメンバーは……まあ500名と言ったところかな」



    ミカサが後ろを振り返ると、自由の翼のメンバーと思われる男女がナナバの話を立ちながら聞いている。


    皆、希望にすがるような目で、エレンやミカサ達を見つめていた。


    ナナバ「……3年」


    ナナバ「3年かけて、たった500人だ」


    ナナバは遠くを見つめながら、虚しそうにその話を切り出す。


    クリスタ「……シガンシナの城下町は、確か人口は1万人程はいるはずじゃあ」



    ナナバ「うん。でも、人員を収集するにも最大の注意を払わないといけない。なんといってもどこでダズの耳に反乱軍のことが知れるかわからないからね」


    ナナバ「我々は慎重に慎重を重ねメンバーを収集し、反乱の機会を待っていた」


    ゲルガー「……そこで、今日、お前らが、ダズに反抗したって訳だ」


    アルミン「……この機会を逃すわけにはいかない、ということですか」



    ナナバ「……そうだね」


    クリスタ「……でも協力って一体どうやって…」



    ナナバはそこは考えていなかったのか押し黙る。


    いや、考えてはいたものの口にできなかったのかもしれない。


    エレンやアルミンらがダズに反抗したことは事実だが、反乱軍に協力すること自体エレン達にとってなんの特にもならないことがわかっていた。



    しかし、そこは勇者といったところか、ナナバ達の予想していた反応とは全くもって違うものだった。



    エレン「……いいんじゃねぇか?オレは協力するぜ」



    ミカサ「……エレン」


    あっけらかんに言い放つエレンの姿に安心したのか、可笑しかったのかミカサはくすくすと笑いはじめた。



    しかしその様子にナナバはイマイチ得心がいっていないようだった。ここまで簡単に承諾を受けてしまうと逆に疑いたくなるのが人の性と言うものなのだろう。



    ナナバ「本当にいいのかい?君達はシガンシナの人間ではないし、協力する義理もメリットもないはずだ」



    エレン「義理ならあるさ。あんたらが、この街の人たちが困ってんだろ?」



    ナナバ「それはそうだけど……」



    エレン「俺が剣をとる理由なんてそれで十分だ」



    無邪気に笑うエレンと逆に不安そうなナナバの様子をみてアルミンは少し頭が痛いと言った様子だった。
  52. 65 : : 2015/03/22(日) 20:09:33
    アルミン「……はあ」



    アルミンは1度ため息を付くと一度エレンを見てからナナバに向き直る。



    アルミン「エレン、ちょっとだけ黙っててね」


    エレン「あ、ああ」


    アルミン「ナナバさん」


    ナナバ「なにかな?」


    アルミン「……僕もこのシガンシナに何ヶ月か滞在しているので、ダズの王政がとてつもなく酷いことは分かっています。少なくとも僕の目の前でこんな事が起きているのを見逃すことはできない」



    アルミン「だから協力することは、前提としてお話させてください。ただひとつ聞きたい。どうしてあなた方は反乱軍を立ち上げたのですか?」



    ナナバ達は俯き、辺りがなんとも言えない沈黙に支配される。


    彼らに語りたくない過去があることは明白だった。またその復讐のために戦うと言うことも。


    クリスタ「そ、そんなこと聞かなくても……」


    アルミン「……いいや、聞くべきだ」



    アルミンはただその言葉を返す時ですらまるで何かを見定めるかのようにただ強くナナバ達を見つめていた。



    アルミン「ナナバさんやゲルガーさんのことを信頼していない訳じゃない。ただ背中を預かる者としてあなた達の覚悟を見留めなければならない」



    アルミンの言葉に少し肩を震わせながらもナナバは顔を上げ、ゆっくりと腕を上げ自由の翼の旗を指を指す。



    ナナバ「……そこに、写真があるだろう」




    その隣の壁には一面に写真が並べて貼り付けられていた。



    ナナバ「その、一番右上にいるのはミケ。私と彼は、将来を約束する恋人同士だったんだ……」



    ナナバ「3年前、私がダズに選ばれ、城に連れて行かれるとき……彼は兵士とダズに斬ってかかり、そのまま殺された」



    ミカサ「そんな……」


    ナナバの口調からはその絶望や怒りの深さが感じられた。それにミカサやクリスタは言葉を失い、直視することすらできず目を瞑る他になかった。



    ナナバ「……その他の写真も、他のメンバーの家族や恋人だよ。彼らは、ただダズのわがままのせいで命を落とした」


    命を落とすその言葉に意図せずエレンの拳に力が入る。



    何故そうやすやすと人の命を奪うことができるかエレンには理解できない。ただ許せなかった。



    そのとき、静かな地下の空間に車椅子の音が鳴り響く。




    ゲルガーは少女を乗せた車椅子を持ち、エレン達の前に立った。



    皆一斉に車椅子に乗せられた少女に目を向ける。



    その少女の目は既に光を失い虚ろな色をしており、何ひとつとして声を発することなくなくただ地を見続けていた。


    ゲルガー「………オレの妹のニファだ」



    ゲルガーが静かに口を開いた。



    ゲルガー「……こいつは2年前、ダズの城に連れていかれた」


    ミカサ「え……」


    クリスタ「それって……」


    ゲルガー「そして半年前……妹は城下町の隅に倒れていた。もういらないと判断されたんだ」


    悔しそうに顔を歪める。


    ゲルガー「散々……あのクソ野郎に……弄ばれて……!」


    ゲルガー「元気だった妹は……歩けなくなって……声も出せなくなっていた!!」


    ゲルガーはただ泣きそうになりながら歯を食いしばり、拳を固く握りしめていた。


    ニファはその言葉にすら何の反応も示さずただ力なくそこに座っているのみだった。


    ゲルガー「オレは……オレは……!!妹が連れ去られる時……何もできなかった!!」



    作った拳を自らの膝に打ち付ける。



    ゲルガー「何もできなかったんだっ!!!」



    ミカサ「でもそれは……!」


    ミカサはゲルガーのせいではないと言おうとした。



    しかし言えなかった。そんなことは本人は百も承知だろう。



    それでもゲルガー不甲斐なく怯えた腰抜けの自分を許せないのだ。安易な慰めなど口にできようはずもなかった。


    ゲルガー「俺が不甲斐ないばかりに……!ニファをこんな風にしちまった……!」



    ゲルガーは目を見開き、更に続ける。


    ゲルガー「だからオレは誓った!!」


    ゲルガー「あいつに……ダズに必ず復讐をすると…!!」


    ゲルガー「妹の全てを奪った野郎を……この手で殺してやると…!!」



    ナナバ「ゲルガー……」


    ナナバはゲルガーの肩に手を置くと、彼をなだめるようにその背をさすった。
  53. 66 : : 2015/03/22(日) 20:11:43






    ゲルガー「すまん……取り乱した」



    アルミン「いえ僕の方こそすみませんでした……」


    アルミンはナナバとゲルガー、そしてニファへ深々と頭を下げる。


    アルミン「でも、それを聞いて僕も決心がつきました。是非、協力させてもらいます」


    クリスタ「アルミン!」


    これから戦う相手はおそらく革命軍の戦力を圧倒的に凌ぐ規模の軍隊。



    綿密に作戦を組んだとしても大凡勝てるとは思えない相手に勝とうというのだ。中途半端な覚悟で逃げられては作戦に支障をきたしかねない。


    だからこそ例え彼らの古傷をえぐることになろうとも聞いておく必要があったのだ。


    その想いを知ったことで彼らの覚悟を疑ったことに対する非礼を、そして無粋な真似をしたことを詫びるためアルミンは頭を下げたのだ。

  54. 67 : : 2015/03/22(日) 20:12:29





    ミカサ「こんな王政、変えないといけない……そうよね!エレン!」



    その想いに情熱を燃やすミカサも、エレンに同意を求める。



    エレン「……いや、やっぱり俺は降りさせてもらう」



    しかし、エレンは先ほどとは一転革命軍に協力することを拒否した。



    ミカサ「へ?」



    アルミン「えっ」



    クリスタ「な、何言ってるの?エレン!」


    3人はあまりにエレンににつかわしくない言葉に驚き目を見開いた。



    ナナバ「なんで突然……!?」


    ナナバは一瞬その手に剣を持つ構えを取る。


    協力しない彼がダズに反乱軍のことを話すかもしれないそう考えた。しかし、今ここで斬りかかったところで意味をなさないことに気づき手を下げる。


    ミカサ「エレン、何言ってるの!こんなに人が苦しんでるのに!」



    ミカサは今まで信じてきたエレンが、心ない発言をしたことに焦りを隠せないでいた。



    何時もの彼ならば有無を言わせず協力したことだろう。
  55. 68 : : 2015/03/22(日) 20:14:21






    エレン「復讐の為に多くの人間を殺すと言うのなら俺は協力できない」



    クリスタ「あ……」



    クリスタやミカサはエレンという人物がこう言う人間だと言うことをすっかり失念していた。一方でアルミンもまた頭を抱えることとなった。


    アルミン「エレン……革命軍はたった500。ダズ軍は5000以上もの兵力がある。しかも向こうはプロだ。殺さずに制圧なんて不可能だ」


    ゲルガー「そ、そうだよ。国と戦おうってんだ。そんな甘ったれたこと言ってちゃあ守れるもんも守れねぇよ!」


    アルミンやゲルガーの言うことは最もだ。しかし、そんなことはエレンとて十分理解していた。


    エレン「んな事はわかってる。人質を取られて無理やり戦わされてる奴もいるって言うじゃないか。そいつらはどうする」


    エレン「お前らがそいつらを殺すのは復讐と言う名のわがままを通すためだ。やってることはダズとなんら変わりゃしねぇだろ」



    エレンはまっすぐな瞳で、彼らに言い放つ。



    エレン「罪もない人間を殺す片棒担ぐなんて俺はごめんだ」


    エレンが言っていることは綺麗事だ。



    今手元にいる戦力だけでダズに無理やり戦わされる兵を殺さずに制圧するなどと言う真似を誰ができようか。


    とはいえ、確かに憂慮すべき問題であると言うこともまた変えようのない事実であった。
  56. 69 : : 2015/03/22(日) 20:16:13





    エレン「俺だって戦いに身を投じた人間だ。時には人を殺める必要があることもわかる。力のないものには相手の生死を選べないこともな。だが、罪もない人間を殺してあんた達と同じ想いをする人間を増やしてどうなるって言うんだ」



    ゲルガー「そ、そんなこと言ってもよ……こっちだって多くの人間が命を賭けるんだ……相手を斬らなきゃ俺達が殺される」



    エレン「わかってる。だから俺から出す条件はふたつだ。無抵抗の人間は殺すな。そして必ず戦いの中で保護を前提に降参の意思を問え」


    ナナバ「前者はともかく、降参の意思を問うなんて戦いのさ中にそんなことをしていればそれこそ自殺行為だ!」


    エレン「なら、お前らの全員の鎧に今から真化召喚(レインフォース)をかけてやる。それで足りないって言うならアルミンに重力魔術の陣も書いてもらおうか?お前達の身体能力を底上げすれば多少の無理も効くはずだ」



    真化召喚とは物質に宿る記憶に干渉することで、その真の力を引き出す術である。



    もとより召喚師は召喚以外のことは何もできなかった。しかし、その進化の過程の中で物質や生物の記憶を扱う術が発展し、肉体や物質を強化する術なども生まれた。



    そのうちのひとつが真化召喚である。



    だが効果が一時的で、使用難易度が高いために汎用性が低くほぼ使われることのなくなった術式であった。



    だがエレンほどの術者ともなれば、およそ1日程度までなら効果時間を伸ばすことも可能だろう。


    しかもそのうえ重力魔術で鎧の重量を減らそうと言うのだ個々の戦闘力は格段に上昇し、かなりのアドバンテージになり得ることは疑いようのない事実だ。
  57. 70 : : 2015/03/22(日) 20:19:07






    アルミン「確かにそれならこの人達でもかなり戦えるかもしれない。でも僕は魔法陣を書けばそれだけですむ術式もあるけど、今度はエレンが解放できなくなるじゃないか」



    エレン「そんなのは百も承知だ。ナナバさんダズが軍備を整え襲撃を実行するまでにどのくらあるんだ?」


    ナナバ「どう少なく見積もっても10時間はかかるはずだ。だが、今までの行動から見て深夜に軍を配備させたとしても、襲撃をさせるのは必ず昼だ。おそらく自らが物見するためだろう」



    エレン「なら可能だなアルミン」



    エレン達の解放が1日10分である理由はわからない。だがこの呪いはかなり綿密に作り込まれているのか、深夜0時になると同時にまた10分の解放が可能になる。



    日の傾き具合から考えても配備するまで10時間以上かかるのであればなんら問題はない。



    アルミン「まったく。君って奴は……」



    アルミンがおかしそうに笑いだす。それに釣られるように先ほどまで真剣な顔つきだったナナバの表情もまた緩む。



    ナナバ「わかったその条件を飲もう。ただし君たちには相応の負担は覚悟してもらうよ」



    ゲルガー「お、おい!ナナバ……!?」


    ナナバ「……確かに彼の言うことは綺麗事かもしれない。だが彼らにはそれを現実にするだけの実力がある。信じてみようじゃないか」



    エレン「ああ。この約束が守られる限り俺はナナバさん。あんた達に絶対の勝利を約束しよう」



    エレンとナナバはしっかりと握手をかわした。ゲルガーをはじめメンバー達は頭を抱えている様子であったが、エレンはそんなことは気にもかけていなかった。
  58. 71 : : 2015/03/22(日) 20:27:24





    その様子を見ていたクリスタが何やら嬉しそうに笑う。



    クリスタ「ふふっ」



    ミカサ「どうかしたの?」



    クリスタ「昔から、変わらないなーって」



    ミカサ「エレンが?」


    クリスタ「うん。甘いって言うとそれまでなんだけどね……でもエレンは自分のそういうところも理解してるから全部最後まで守り通して、みんなを笑顔にしちゃう」


    まるで自分のことかのように話すクリスタを見ているとミカサは言い知れぬ罪悪感にみまわれた。



    エレンは困っている人を見捨てるような人ではない。実際、ミカサの村を救った時もそうだった。



    エレンはどんな時でも人の命の重さを理解し、尊重している。



    ミカサはそれを疑ってしまった事が恥ずかしかった。



    なんとなくその事を感じたのかエレンがうつむいたミカサの頭をわしゃわしゃと撫で回した。



    ミカサはというと何やら負けた気分だったため、仕返しにエレンの頭を撫で返して髪をぐちゃぐちゃにした。





    アルミン「まったく……人使いが荒いんだから。早速全員の装備品をお借りできますか?」



    アルミンがやれやれとばかりに進言するとナナバは苦笑していた。


    エレン「悪いなアルミン」



    アルミン「君も僕がいなきゃこんなこと言えないだろうに」



    エレン「いいじゃねぇかちょっとぐらいさ」



    エレンは笑いながら頭を掻いた。



    ナナバ「どういうことだい?」



    アルミン「……実は僕もこう見えて神滅級魔導師ですから」



    ナナバ「し、神滅級だって!?……ってことはじゃあ……!」



    団員達に一瞬彼の言葉に激しい動揺がはしる。普通ならばこんな子供を現代唯一の神滅級魔導師だと思うだろうか。



    対国家戦略級魔導師ですら世界中で100人といない尋常ならざる力の持ち主だというのにだ。



    ナナバがなんとか動揺から立ち直るとアルミンは彼女に向き直る。



    アルミン「あはは……まあ元勇者ってところですかね」


    ゲルガー「冗談じゃねぇぜ。こりゃ本格的に希望が見えて来たな……!」



    アルミン「とりあえず、僕らが反乱軍に協力することは決まりました。あとは、その作戦ですね」


    ナナバ「……ああ、そうだね。でもまずは礼を言わせてくれ。ありがとう」


    アルミン「お礼なら革命が成功してからにして下さいよ」


    アルミンは微笑みながら言う。


    ゲルガー「いや、オレからも言わせてもらうぜ。ありがとう」


    ナナバとゲルガーの様子に、クリスタやミカサ、エレンも嬉しそうに顔を合わせる。


    ナナバ「……まさか勇者が協力してくれるなんて思ってもみなかったよ。厳しい戦いにはなるが、共にこの国の人々を守り抜こう!」
  59. 72 : : 2015/03/23(月) 20:11:40






    ナナバはそう言うと、旗の近くに丸められていた地図を取り出す。


    そして、その大きな地図を、テーブルに開いた。


    ナナバ「まず問題は、明日のダズ軍の襲撃に備えなえればいけない。ダズは軍事面に巨大なパイプを持っている。すでに数多くの傭兵を雇い入れている可能性もある」



    ナナバ「前回はシガンシナ城の兵士達と、プラス1000名の傭兵を雇い、ちょうど真昼頃に襲撃をかけてきた」


    ナナバ「今回はできるだけ多くの住民を守りたい……そしてこの国を……!」


    ナナバが、悔しそうな表情を浮かべる。



  60. 73 : : 2015/03/23(月) 20:13:45





    アルミン「いえ。まず根底からその考えをなくしましょう」



    ナナバ「……え?」


    予想外の発言にナナバは虚をつかれ、間抜けな声をあげる。だが、動揺を隠せずにいるのはナナバだけではなかった。ゲルガーを含め、メンバー達にまでその驚きは波及していた。


    アルミン「襲撃を受けるのは、僕らではない。奴らの方です」



    ゲルガー「ど、どういうことだよ」


    アルミンがいくつかのびっしりと文字の書き込まれた書物を机に投げ出した。


    アルミン「僕が潜伏している間に集めた情報とその分析です。前回のダズの襲撃箇所やその傾向などから、軍の配置や配備時間などを割り出した物が書いてあります」



    ナナバ「なんてことだ……我々が3年間かけてこの程度の調査をここまで……!」



    驚くべきはそこだけではなかった。アルミンとクリスタだけで得られる情報など高が知れている。


    その少ない情報量の中から必要な物を選別しそれを発展させることで爆発的にその質を高めていた。


    性格無比かつその重要性の高い分析内容にはナナバ達も目を丸くするほかになかった。
  61. 74 : : 2015/03/23(月) 20:16:24





    アルミン「まず恐らくダズが襲撃に来るのは明日の昼です。恐らく前回の事を考えても街を囲うような配置から考えても夜には配備を始めるでしょう。その前。つまり、城を出て配備しようというところに奇襲をかけます。確かにこの地形は防衛に適している。だけど、奇襲を想定していないため著しく奇襲に弱い。自らの理を1度捨てることで勝機を見出そうと考えています。それにこちらから仕掛けて、街に進軍させない方が被害も減ることでしょう」



    アルミンは自信を秘めた表情ではっきりと言い切った。



    アルミンの提案した作戦はさして難しいものではなかった。



    城から街の周辺へと配備するために進行するダズ軍に奇襲をかける。その隙にエレンが城内に侵入しダズを捕らえると言った至極簡単なものだ。



    アルミンの分析によれば敵軍は正面に傭兵や一般的兵士の部隊。その両脇を剣や魔法にそれぞれ特化した精鋭部隊である剣客隊、魔導隊で固めるような配置となる可能性が高い。



    開幕アルミンの広域魔法で正面部隊に攻撃をしかけ無力化。その攻撃を陽動とし、その隙に革命軍は剣客隊を奇襲。その兵力を削り取ることで戦いを優位に進める。



    その後にアルミンが魔導隊を殲滅し、革命軍に加勢。



    アルミンが考えたにしては余りにも平凡。特に変わった点は見受けられなかった。



    そのことにエレンやクリスタは意外さを禁じ得なかった。しかしアルミンのような魔導師が加勢するとなると、小細工を張り巡らせるよりも大規模な魔法を陽動兼攻撃とした方が効率が良いらしい。

  62. 75 : : 2015/03/23(月) 20:19:50





    ナナバやゲルガーを含む革命軍のメンバーもアルミンの案に反対する者は現れなかった。



    そのためその場は一旦解散となり、エレンやアルミンは革命軍の装備品を預かり受けてさっそく補強を開始するのだった。



    各々戦いに向けての準備を整えるうちに時間は過ぎた。エレンやアルミン達を含め革命軍の兵士達は革命軍の本部に集合していた。



    万が一のことを考えて家族に挨拶をするようなものも多くいたようだ。



    そうすることで戦いの意味を再確認できたのか、昼とは全く違う顔つきを見せるものも多かった。




    エレンやアルミンから鎧など防具一式を受け取った兵士達はそれを着込むと皆が目を丸くしていた。


    アルミンの重力魔術の効力は総重量を90%以上もカットする。おそらくこの鎧を着たところで普段服を着ているのと大差ないレベルまで軽くなっている。



    目で見ただけではわからないが、強度はエレンの召喚術でかなり強化されている。



    攻守共に優れた鎧が完成している。




    ナナバ「こいつは凄いね。これならかなり速く動ける。助かるよ」



    アルミン「まあ1日くらいしか持たせられないのが難点なんですけどね」



    エレン「強度の方も完璧だ。おそらく大砲を正面から食らっても鎧だけは残るぞ」



    アルミンの横から、驚くナナバにエレンが冗談めかして笑いながら告げる。



    事実なのだが、鎧を残して中の人間が死んでしまえば本末転倒というものだ。それをわかってかナナバも笑っていた。


    そんなことをしているうちに時間は近づいた。まだ決行には少し早い時間帯ではあるがエレンが立ち上がる。



    エレン「よし。俺はそろそろ行くか。他の用意は任せるぞアルミン」



    アルミン「ああ。任せてよ」



    一言告げるとエレンは走り出した。エレンは元来せっかちで、黙って待っているのが苦手な質だ。ここで油を売っている時間すら惜しいのだろう。



    とはいえ状況が状況だけにアルミンも、革命軍の人々も同じ気持ちであった。



    アルミン「じゃあ少し早いけど僕達も行こうか!」



    アルミン達もまた自らの配置に着くべく動き始めた。
  63. 76 : : 2015/03/24(火) 20:03:03





    ◇ ◇ ◇






  64. 77 : : 2015/03/24(火) 20:05:08





    はっ……! はっ……! はっ……!



    時刻は既に、午後10時を回っている頃であろうか。



    街灯が点々と灯る中、昼間の行列・騒ぎが嘘のように、シガンシナ城下町は静寂に包まれていた。



    「はっ……! はっ……! はっ……!」



    時期的には春の季節であるものの、夜はまだ肌寒い。



    白い息を吐きながら、その少女は城下町の路を駆けていく。



    「はぁ……はぁ……」



    カシャカシャ、と鳴り響いていた金属音が一度止まる。



    ミカサ「はぁ……はぁ……はぁ……」



    荒く乱れた息を一度整えるとミカサは右ポケットに閉まっていた丸時計を取り出し、時間を確認する。



    時刻は既に、午後10時15分



    【彼】と約束した時間までは、後2時間弱しかないことが分かる。



    ミカサ「い、急がないと……!」



    焦るミカサの顔を見て、心配になったのだろうか。車椅子でここまで一緒に行動してきたニファは、不安そうにミカサに顔を向ける。



    ミカサ「大丈夫……大丈夫よ。ニファさん」



    ミカサ「もう時間がないんだもの……私たちは、私たちでできることをやらないと!」



    ミカサはそう言うと、持っていたニファの車椅子の持ち手を離し、目の前にあるシガンシナ城下町のとある一軒家の前に立つ。



    ミカサ「……」



    周囲を見渡しても、家、家、家の住宅街通りである。



    しかし、屋内からもほとんど雑音も聞こえない程、今この街は静まり返っていた。



    その理由はやはり、【明日にでもシガンシナ城のダズが報復にくるかもしれない】というのが妥当であろう。



    ミカサ「……よし」



    ミカサをその状況に納得しながらも、意を決して自らの前にある家のドアをノックする。






    ミカサ「すいません!」



    ドンドンドン、と音を立て



    ミカサ「すいません!誰かいませんか!」



    数回、声をかける。



    ミカサ「あの……! は、話を聞いてください!」



    さすがに、夜も更けている時間の突然の来訪者であったためか、その家屋の住人であると思われる中年の女性が、訝しげにドアを開けて顔を覗かせた。


  65. 78 : : 2015/03/24(火) 20:07:00






    ミカサ「あ……!」



    主婦「なんだい、こんな時間に……」



    主婦はすでに就寝前だったのか、はたまた常識では考えられない時間の来訪者に苛立っていたのか、その顔は明らかにミカサを疑るような顔色だった。



    ミカサ「す、すいません、こんな……夜更けに……」



    ミカサ「あ、あの……! 是非、皆さんにお願いしたいことがあるんです!」



    主婦「お願いだって……?」



    ミカサ「はい! 実は……私……!」



    その時、主婦の後ろから夫と思われる男性が顔をだし、ミカサの顔を覗く



    旦那「おい。やめとけ。ドア閉めろ。こいつ今日ダズに歯向かった大馬鹿野郎だ」



    主婦「えっ?」



    ミカサ「え……」



    旦那「……あんたのせいで、明日この城下町はダズ軍の総攻撃を受ける」



    旦那「よくオレ達の元へ顔が出せたもんだな。オイ」



    ミカサ「あ……いや……!」



    主婦「あんたが例の、旅の一味ってやつかい!」



    主婦「ほんと……迷惑なことしてくれたよ! いつものとおり歯向かっていなけりゃこんなことにはならなかったのに!」



    ミカサ「う……!」



    ミカサの後ろで待機する、ニファも黙ってその光景を見つめながら、少しため息を漏らした


    もう幾度となく同じ光景を見ていたのだ。ため息の一つもつきたくなるだろう。



    ミカサ「で、でも……!」



    ミカサ「実は今夜……反乱軍がダズ軍に総攻撃を仕掛けるんです!」



    旦那「……だからなんだ」



    ミカサ「だから、その……ダズを倒すのに協力していただけないかと……!」



    主婦「……何言ってんだい、あんた……」



    ミカサ「皆さんは、こんな王政でいいんですか!?」



    ミカサ「このままダズの良いように弄ばれるままで良いんですか!?」



    ミカサ「毎日毎日……あの理不尽な王のせいで、女の子がひどい目に遭って」



    主婦「何偉そうに言ってんだい!!」



    ミカサ「う……!」



    主婦「あんたねえ……この国に住んだことがないんだろう? だからそんな口が叩けんのさ」



    主婦「今までダズ様に、誰かが勝てたと思ってんのかい? 歯向かって無事だった奴がいるのかい?」



    女の言うことはもっともだ。今まで幾人もの人々がダズに歯向かいその命を落としてきた。



    最初は希望を持ったに違いない。しかしそれも、その度に薄れて行ってしまったのだろう。


    そんな状態でミカサ達に加担しようなどと思うほうがおかしな話だった。



    主婦「それに、反乱軍のこたぁ私も噂ぐらい知ってるよ。だけどあんなちっぽけな人数で何ができるってんだい」



    旦那「君たちのやろうとしていることが間違っているとは思わない。だが、君や君の仲間が起こしたことは我々シガンシナ城下町に住む人間からすると、絶対にやってはいけないことだったんだ」



    旦那「ここはダズ王が絶対。……我々だって街の娘が毎晩城に連れていかれることを望んではいない……しかし、それ以上に血が流れることを望んでいないんだよ」



    旦那「ダズの本気を知っているのか? 恐らく奴は今も、他国から優秀な騎士や兵士を集めているだろう。明日私たちを襲撃するためにね」



    ミカサ「でも……!」



    旦那「……私たちは、耐え忍ぶ戦いを続けていた。それを変える気などない」



    主婦「……帰りな。私らんとこに来たことは内緒にしてやるから」



    主婦「早く、この国を出な」




    主婦はそう言って、勢いよくドアを閉めた。

  66. 79 : : 2015/03/24(火) 20:08:15





    ミカサ「あっ……!」



    ミカサは閉められたドアを見つめた後、後ろで車椅子に乗るニファに振り返る。



    ニファはミカサを心配そうに見つめ何かを言いたそうにするも、彼女は声を発することができない。



    ミカサ「ニファさん……」



    ミカサはニファに近づき、精一杯の笑顔を作る。



    ミカサ「大丈夫。……大丈夫だから!」



    ミカサ「私、まだまだ頑張るからね!」



    ニファはこの時気付いた



    ミカサの強く握りしめた手から赤い雫がしたたっていることに。



    彼女は夕刻から現在までの間、絶えずニファの車椅子を持ち、シガンシナの街の各家を訪問している。



    簡単に考えても5時間以上、弱音も吐かず、諦めず、先ほどのように住民一人一人へ声掛けを行っているのだ。






    常に車椅子を押しながら走っていた。彼女は何度も掌の豆が破れ血を流していたのだろう。


    そんな手を震えるほど握りしめるなど、普通の人間なら発狂するほど痛いはずだ。


    それだけに彼女は目の前の現実に苛立ち、悔しさを覚えているのだろう。




    そのせいか、ニファを安心させるための笑顔にも少しずつ曇りがかかっていた。


  67. 80 : : 2015/03/24(火) 20:10:56





    ミカサは今一度、思い出す。



    何故自分たちが、住民に声掛けを行っているのかを。





    アルミン(……これは、君とニファさんにしかできないことなんだ)



    ミカサ(え……?)



    アルミン(この作戦指揮が終われば、僕とエレンは反乱軍へ補助呪文を行うため手が離せなくなる)



    アルミン(また、武器や防具の整備、攻撃場所の選定や作戦の準備のため、この作戦本部を離れる訳にはいかない)



    アルミン(この作戦で今動けるのはミカサ、そしてニファさんだけだ)



    ミカサ(で……でも……)



    ミカサ(さっきの住民の人の様子見たでしょ? わ、私たちが話したところで毛嫌いされて……)



    アルミン(……大丈夫だよ、ミカサさん)



    アルミン(君がやったことは、住民皆さんが本当は『やってやりたかった』ことだ)



    アルミン(自信を持って。君は正しいことをした)



    ミカサ(……)



    アルミン(そのことを証明するためにも、今回はシガンシナの住民の人たちの力を借りるしかない)



    アルミン(さすがに僕やエレンといった勇者がいたとしても、人数的なことを言えば圧倒的にこちらが不利だからね)



    アルミン(それに、僕たちや反乱軍の人たちだけでこの国を変えても意味はない)



    アルミン(……そのためには、城下町全員が動かなければいけないんだ)



    アルミン(頼んだよ。ミカサさん、ニファさん)



    アルミン(君たち2人にこの国の未来はかかってる)



    アルミン(住民の方々の心を、動かすんだ)


  68. 81 : : 2015/03/24(火) 20:12:58





    全て、アルミンの作戦だった。



    ミカサ「そんなこと言ったって……!」



    ミカサは車椅子横袋内にある、城下町の地図を取り出す。



    ミカサ「もう、ほとんどの地区を回ったのに……!」




    これまでにミカサはシガンシナ城下町のあらゆる地区を走り回り、住民への声かけを行った。



    その中では扱いがひどいものも含まれ



    「お前らの勝手な行動のせいで明日多くの人間が死ぬんだ!」


    「死ね! お前らこそ死ね!」


    「出て行ってよ! 勇者気取りも良い加減にして!」


    「二度とこの国に来るな!!」



    等と誹謗中傷を受けることが主であった




    普段悪口等を言われ慣れていないミカサであるが、自分の村で起こったことに比べればなんてことはないと思っていた。



    しかし、接触する人間一人一人が、ダズに反抗した自分を激しく憎んでいる。



    やりきれない想いに、ミカサの持つ地図にシワが増える。



    ニファは再び、不安そうにミカサを見つめる。



    ミカサ「ニファさん……」



    ミカサ「……そうね」



    ミカサ「……貴方や……みんなのためにも……私が頑張らなきゃ!」




    ミカサ「よし! 次はあの家に行くね!」



    そう言ってミカサはニファの座る車椅子を持ち、走り出す。



    彼女の元気は、もはや強がりにしか見えなかった。



    この国とは全く関係のないミカサが、ここまで頑張ってくれているのに、自分は何もできない。


    ニファは、自身が情けなくて仕方がなかった。

  69. 82 : : 2015/03/24(火) 20:14:42



    ミカサ「そうだ。私が諦めたら……!」



    ミカサ「みんなが……! エレンがっ……!」



    ミカサは決意を新たにと再び走り出す。



    城下町の床面は石路となっており、床石と車椅子の金属車輪が重なり合い「カシャカシャ」と音を立てる。



    しかし、前方にはニファがいるため、車椅子を操作しているミカサからすると自分の直下にある石の出っ張り等は見えず



    ミカサ「あ_____!」



    彼女は疲労からなのか、足を引っ掛けたのか、その場に盛大に転んでしまった。



    ニファ「!?」



    ミカサ「痛……っ……!」



    少し進んだ後車椅子は止まり、ニファは転んだミカサを振り返る。



    ミカサ「あたた……ご、ごめんね……ニファちゃん……!」



    ミカサはそう言いながら、激痛のする右足を見つめる。



    彼女を転ばせたのは出っ張った石でも、疲労でもない。



    自らの履いていた靴が、擦り切れていたのだ。



    自分の右足、そして膝からは軽く出血している。恐らく膝も強く打ったのだろう。



    ほんの小さな怪我でしかないはずだった。しかし素直に立ち上がることができない。



    ミカサ「うう……!」



    ニファも彼女が心配であるが、自分自身は歩けないうえに、声を掛けることすらままならない。ただ見つめることしか出来ずにいた。



    ミカサ「もう…………」



    ミカサ「ダメ……なの?」



    そのごくごく小さな痛みは肉体的にも精神的にも疲れきった彼女の心を折るには十分すぎるものだった。



    彼女の心は今にもポッキリと折れて、今にも諦めてしまいそうなほどだ。



    そこへミカサに声を掛ける人影があった。


    「大丈夫……ですか……?」




    ミカサ「え……!」
  70. 83 : : 2015/03/26(木) 20:02:29






    ◇ ◇ ◇





  71. 84 : : 2015/03/26(木) 20:03:58





    エレンと別れたアルミン達は城から少し離れた小さな丘にいた。


    アルミン「ここから城までおおよそ1分。決行は10分後。覚悟はできていますね?」


    その言葉に反応して沸き上がる兵士の中からナナバが前に出てくる。


    ナナバ「ここに覚悟の無い者などひもりもいないさ。私も含めてね」



    決意を口にする彼女の目は優しい色を失ってはいなかったが、いつもとは違う力強さを帯びていた。


    しかしその一方でアルミンの瞳には幾許かの不安や躊躇いが映し出されているように見えた。




    アルミン「ごめんなさい……ナナバさん僕たちのせいで……」




    ナナバ「なにを謝ることがある?君達は私達に希望を見せてくれたじゃないか。絶望の淵に沈んだ私達に、好機をくれたのは君達だ」



    その場にいた戦う決意をしたもの達は同じ想いをもっていたことだろう。しかし、アルミンは彼らの命を駒として扱うことを己の中で良しとは出来ずにいた。



    アルミン「それでもこの戦いは、いつ死人がでてもおかしくは無い!そちらにクリスタがいるとはいえ、相手は訓練された兵士だ!」


    自責の念が心にのしかかるのに耐えきれなくなり、声が思わず大きくなる。


    俯き、歯を食いしばるアルミンに向け今まで以上に柔らかな声でナナバは語り始めた。



    ナナバ「アルミンそれは違う。私達が恐れていることは、死ぬことなんかじゃない」



    ナナバ「私達はここで殉ずることになろうとも、戦わなければならない。君にならわかるはずだ。これは誇りを護る戦いなんだ」



    ナナバ「ここで退けば命より大切なものを私達は失うことになるんだ」



    ナナバの言葉にアルミンは肩を震わせる。そして、少しの逡巡の後顔を上げた彼の目にはすでに甘さや迷いはなく、見たものに怖気がはしるのではないかと言うほどに冷静さを宿してた。


    そして皆に背を向け、シガンシナ城に向き直る。



    アルミン「…………わかりました。どうか死なないで」



    ナナバ「もとより奴ら程度にこの命くれてやるつもりはないよ」



    淡々とした一言に、ナナバはただ不敵に笑い力強く返すのであった。

  72. 85 : : 2015/03/26(木) 20:05:43





    会話をしている間にも刻一刻と時間は迫る。



    その場全員の顔に緊張の色が張り付いている。圧倒的に数的不利を抱えた戦い。死地に赴くようなものなのだ、緊張のひとつやふたつもするだろう。




    アルミン「時間です……そろそろ移動してください」



    ナナバ「陽動は任せたよ」




    アルミン「はい。健闘を祈ります」




    ナナバ「勇者様ほどじゃないだろうがやってやるさ」



    アルミン「ええ。期待しています」



    アルミン「クリスタ、彼らを頼むよ。彼らの生死は君にかかってる」




    クリスタ「うん。わかってる。私の前で誰も死なせたりなんてしないよ」



    ナナバ「では、行こうか」



    そう言うとナナバは反乱軍を引き連れて行軍を始めた。


    ダズは必ず動く。アルミンは確信していた。


    いままでだってただ黙って見てきたわけじゃない。奴の性格や行動の傾向を分析してこの日のために備えてきたのだ。今日ここで終わらせる。その決意がより一層アルミンの集中力を研ぎ澄まし、心を冷ました。そのせいかやけに時間が早く過ぎるように感じられた。

  73. 86 : : 2015/03/26(木) 20:06:38





    そして、数分が過ぎた頃。城門が開きダズの軍勢と思われる兵が現れる。



    その配置は予想と寸分もたがわぬものであった。前方に3000程度の歩兵隊。両脇を挟むように剣客隊、魔導隊が両者1000程度。


    だが一安心もしていられない。奴らの姿は見えたが、アルミンの魔法を最大まで活用するには距離があった。



    アルミン(まだだ……もっともっと近く……!)


    軍隊のゆっくりとした前進を、焦る気持ちを抑え待つ。強く握られた手に汗がじんわりと滲む。しかし、もはやそんな事も気にする余裕すら彼には無かった。彼のタイミング一つで命がいくつ消えるともわからないのだ。


    失敗は許されない、一度きりの勝負。



    アルミン(今だ……!!)



    そして、彼はついに飛び出した。




    少し丘を駆け下り、出切る限り軍隊の正面に近い位置で木陰に身を隠す。

  74. 87 : : 2015/03/26(木) 20:07:02





    そして作戦通り魔法を放つべく封印を解き、それと同時に目を閉じる。


    体内を蠢く膨大な魔力を練りあげ、空中に光の線を走らせる。アルミンは、目にも留まらぬ速さで空中に大きな光の魔法陣を書き上げると、呪文を唱え始めた。






    大いなる強風よ──────






    神々の怒りを今ここに体現せよ──────





    荒れ狂え──────








    冷酷なる逆風(ゼピュロス)




    そのアルミンの一言が鮮烈な暴風と共に戦いの幕開けを告げた。


  75. 88 : : 2015/03/27(金) 20:05:24





    ◇ ◇ ◇





  76. 89 : : 2015/03/27(金) 20:06:13






    エレン「にしてもアルミンのやつ派手にやったなぁ……まあ、おかげで潜入はうまくいったし良いだろ」



    アルミンの陽動に乗じて城内に潜り込んだは良いものの城内はその豪奢で煌びやかな内装とは裏腹にあまりにも閑散としており、警備兵は稀に見えるもののそれ以外の人の気配というものが全くと言っていいほどなかった。



    エレン「これなら解放も温存してダズのところにたどり着けそうだな。早く終わらせて外を手伝わないと」



    特に見つかることもなくエレンは急ぎ足で上を目指した。
  77. 90 : : 2015/03/27(金) 20:06:31






    ◇ ◇ ◇






  78. 91 : : 2015/03/27(金) 20:07:39





    時は少し遡る。アルミンと別れてすぐ行軍を始めた革命軍は既に規定の位置に到着していた。


    あと2分半ほどでアルミンの大規模魔法が正面部隊を吹き飛ばすだろう。それと同時に剣客隊への急襲を行う手筈になっている。


    命をかけた戦いを前にナナバや民兵の顔には緊張と焦りの色が伺えた。その一方で彼らの表情は嬉々としている。士気は十分だった。



    その様子を見てクリスタは少し嬉しそうに笑うと口を開く。


    クリスタ「この戦い一つ間違えれば死者がでる。だからこれだけは絶対に守って」


    クリスタ「絶対に深追いはしないこと。出来る限り傷の浅いうちに私のところまで撤退すること。重症者が出た場合周囲が撤退の援護をして誰かが必ず私の元へ運んで来ること。」


    クリスタ「最後に……死なないこと!」


    その言葉に全員が頷いたその時、巨大な風の塊が正面部隊を吹き飛ばす。


    ナナバ「いくぞ!みんな!決戦だ!!」


    ナナバの一言に呼応して、革命軍が雄叫びをあげ、一斉に進軍を開始した。



    アルミンの魔法のタイミングは完璧。革命軍と剣客隊までの距離は大凡100m走れば20秒とかからない距離だ。暴風による突然の正面部隊の脱落、極めつけはナナバ達による奇襲で、剣客隊の対応は明らかに遅れた。


    まさにアルミンの読み通りの展開であった。大きな戦力差がある以上初撃でいかに相手の戦力を削ぎおとせるか、そこに勝敗は委ねられていると言っても過言ではなかった。


    実際に動揺した兵士はいとも簡単に地に伏した。



    しかし、ことがそうも簡単には進むことはなかった。

  79. 92 : : 2015/03/27(金) 20:08:05





    ◇ ◇ ◇






  80. 93 : : 2015/03/27(金) 20:08:42




    トーマスはキッツとは違い叩き上げの根っからの軍人であった。臨機応変に最善の策を練り、いかなる状況においても冷静に対応しきる自信を持っていた。



    それは今回においても変わらなかった。最初の一撃を揺動と見切りすぐに奇襲に備えるよう兵へと伝達した。そのおかげで奇襲による被害は隊の一部にとどまった。



    彼はダズへの忠誠心も信頼も持ち合わせてはいない。ダズの下に甘んじているのは、あの男が愚かで戦いを好む性格だからだ。



    元来彼の目的は強者との戦いにしかない。



    今回の街への進軍もダズの話から強者の匂いを嗅ぎつけたから参加したに過ぎなかった。案の定、この戦いには強者がいる。その事実が闘争心掻き立て、彼を突き動かしていた。



    トーマス「全隊!!突撃!敵は少数だが油断するな!一気にたたみかけろ!」




    トーマスの一声で、ダズ軍兵は一斉に動き出した。
  81. 94 : : 2015/03/27(金) 20:09:47





    ◇ ◇ ◇





  82. 95 : : 2015/03/27(金) 20:10:17





    彼の一撃は正面の舞台の大凡半数を抉り取る。突然吹き荒れた暴風に正面部隊は混乱を極めた。


    本来一撃で3000全ての兵士を吹き飛ばすつもりであったが、予想以上に反応が良かった。ダズのわがままは自らの力を強めるため、結果的に軍国主義的な側面を強く持っていた。その事が今回の結果を呼んだことは彼にとって不幸中の幸いと言えた。


    しかし、いくら統率された軍隊とはいえ、ダズの護衛や一般市民に対する報復ばかりで、これまで戦争をまったく経験していない。これだけの攻撃を受けて統率を保ち続けることが困難なのは明白だった。


    その混乱に乗じてアルミンはもう一度姿を隠す。時期に大凡1500と言う数の兵が分散してアルミンに襲いかかるだろう。そうなれば消耗なくして敵を倒し切るのは不可能になる。しかし、あくまで彼は陽動と言う役割を貫き通す必要があった。


    1番危惧すべきは正面部隊との衝突よりも、魔導隊が剣客隊の援護に回ることや、後退することに他ならない。そうなれば作戦は全て台無し、下手をすれば皆殺しだ。それだけはどうしても避けなければならなかった。



    かと言って想定外の戦力を放置するわけにも行かない。つまりそれは、今このタイミングで魔導隊と正面部隊の残り半数を相手にしなければならないということを意味していた。

  83. 96 : : 2015/03/27(金) 20:11:12




    アルミン「まずい……殺さずにこれだけの数を無力化するとなると……」



    しかし、やらないわけにはいかない、その強迫観念が彼の背中を強く押した。



    アルミン「……仕方ない」



    再び隠れていた草陰から飛び出すと先ほどより複雑な魔法陣を組み始める。魔法陣の構成に少し時間をくったせいか正面部隊がこちらに気づき始めていた。しかし、それも些末な問題でしかなかった。



    そのために、魔力の消費を度外視して、わかっていてもよけられない魔法を選んだのだから。

  84. 97 : : 2015/03/27(金) 20:12:07





    大海の神の名の下に────




    荒れ狂う波の力を我が元に示せ────




    海神の大槍(アクアヘヴィランス)



    呪文とともに巨大な水の塊が姿を表す。その大量の水が3本巨大な水の槍のごとく1本は正面部隊に残り2本は魔導隊の中心に降り注ぎ、地面に突き刺さる。



    地面にぶつかった大量の水は弾け散り、巨大な津波となり部隊を飲み込んだ。



    この攻撃には正面部隊も全滅を免れなかった。



    しかし流石に魔導隊を魔法の直撃なくして倒すことはできなかった。おそらく対抗魔術を使える者がいたのだろう。その被害は一部に収まっていた。


    これで魔導隊は完全にアルミンの存在を認識したにちがいない。作戦の第一段階としては予定外行動があったとは言え、上々と言えるだろう。


    あとは魔導隊を殲滅することだが、正面の部隊はいわば偵察や、切込みとなる。後方の部隊とは個々の戦闘力が圧倒的にちがうのだ。ここからが正念場となるのは間違いなかった。


    今更隠れたところで魔導隊には探知タイプの魔術師もいるはずだ、全く意味をなさないだろう。それに和えて正面から行けばよりこちらに目を向けさせることができるはず。作戦の確実な遂行のためにも、多少のリスクは背負う必要があった。

  85. 98 : : 2015/03/27(金) 20:13:15





    アルミン「キッツ!!!出てこい!!」


    先ほどの攻撃でびしょ濡れの魔導隊に向け声を張り上げる。すると、濡れ鼠になり苛立ちを隠せない様子のキッツが後ろから現れた。


    キッツ「よくもやってくれやがったなアルレルト……この数を目の前に正面から来るとはいい度胸じゃないか」


    アルミン「小鹿相手に全力を出す意味を見出せなくてね」


    キッツ「言ってくれるな。全隊!魔法準備!!」


    アルミン「やれやれ……」



    大凡100人単位で発動する戦略級魔術を発動しようとしているのがはっきりとわかった。この人数の魔力を練り込んだ魔法を食らえばアルミンと言えどひとたまりもない。


    しかし、アルミンは動じるどころか魔法陣を組むことすらしなかった。


    キッツ「ふっはははは!怖気付いて諦めたかアルレルト!!!」



    アルミン「勘違いしないでよ。地に伏すのは君たちだよ」


    その一言と共に指を鳴らす。魔導兵達の怒号の中に小さな声が響く。





    電光(ブリッツ)






    火花を散らすような閃光があたりを照らす。すると魔導隊の全隊がキッツを除き倒れ伏した。



    ほんの一瞬の出来事。



    アルミン以外の誰もがその出来事を認知出来なかっただろう。もちろんそこに立っているキッツでさえも。



  86. 99 : : 2015/03/28(土) 20:11:33





    ◇ ◇ ◇






  87. 100 : : 2015/03/28(土) 20:12:53






    途中で四方に扉のある大きな部屋へと抜けた。おそらく25m四方と言ったところだろう。


    エレンは辺りを見渡すと、ふと足を止めた。


    エレン「なんだここ……って俺の潜入ばれてたのか?」


    エレン「どうなんだ?隠れてる兵士さん」


    するとエレンの両側にある扉からぞろぞろと10人もの兵士が現れる。


    「いいえ、正直こんな子供がここに来るなんて思ってもみませんでしたよ」


    片側から現れた背の高い男の兵士が礼儀正しく言う。


    エレン「子供相手に大人が寄ってたかって喧嘩とは、大人気ないんじゃねぇか?」


    「伝説の勇者様が良く言いますよ」


    エレン「知ってたか……んであんたなにもんだ?」


    「申し遅れました。私の名はイアン。ダズ様直属の召喚師団長です」


    エレン「ダズの懐刀ってわけか」


    イアン「まあそんなところでしょう」


    エレン「どけっていってもどいてくれねぇよな……」


    イアン「私もできれば戦いたくないのですが、事情があるもので。できればエレン殿に退いていただきたいですね」


    エレン「俺も約束しちまったからな。そうもいかねぇよ」


    イアンと名乗る男は真っ直ぐな目でエレンを見据える。エレンもその目に何かを感じ取ったのか肩を竦めた。


    イアン「どうしても退けぬというのなら……」


    イアンの言葉と同時に予定調和で有るかのごとくその場の全員が剣を抜く。


    それを見てすぐにエレンも封印を解き剣を構え、互いに睨み合った。

  88. 101 : : 2015/03/28(土) 20:13:14






    ◇ ◇ ◇






  89. 102 : : 2015/03/28(土) 20:13:58






    後衛で司令塔に徹するナナバであったが、状況の悪さに頭を抱えていた。



    奇襲で敵の数を減らす事は出来たものの予定よりも遥かに少数に過ぎなかった。



    革命軍の兵は健闘している。確実に相手の数を減らして押しているのも革命軍側だ。アルミンとエレンの用意した装備もかなりの効果を発揮している。しかしそれも攻めている今だからこそ言えることだ。



    クリスタの存在に気づかれればそちらを守ることに戦力を割くことになり、数の少ない革命軍はジリ貧になりかねない。早急に何か新しい手を打つ必要があった。




    しかしこの混戦状態で打てる手など限られていた。先程の対応力から見ても、敵の将はおそらく相当切れる。なまじ策を講じれば逆手に取られ状況を悪化させかねない。手詰まりだった。



    ナナバ「くそっ……!どうすれば……!」



    思案を巡らせていると前衛から1人の兵士がナナバのもとへ駆けてくる。



    兵士「ナナバさん!敵軍の一部がクリスタさんにむけ集中しはじめています。このままでは……!」



    ナナバ「くそ!遅かったか。私も前へ出る!クリスタの護衛に兵を回せ!クリスタを守り切れ!」



    兵士「はい!」



    ナナバは敵軍の真っ只中を駆けだした。ここまで現状を分析し、的確に弱点をついてくる。その将を落とさねばこの戦い勝ち目はないと踏んだのからだ。



    目の前に立ちはだかる兵を叩き伏せ、幾重にもふりかかる剣閃をすり抜ける。

  90. 103 : : 2015/03/28(土) 20:15:19






    そしてようやく兵の群れを抜けるとそこには1人の男が立っていた。



    トーマス「よう。待ちくたびれたぜ」



    ナナバ「あなたがこの軍の将ね……」



    トーマス「まあ一応な。だが兵なんぞどうでも良いことだ。俺はお前と戦うためにここに立っているんだからな」



    ナナバ「私と……?」



    トーマス「あんたそいつらの将だろ?」



    ナナバ「知っていたのね……光栄じゃない」


    トーマス「いんや。お前からは強えぇやつの匂いがする。ただそんだけだ」



    ナナバ「わけのわからない人ね……おしゃべりしてる暇はないあなたの首ここでもらいうける!」



    その言葉を皮切りに、ナナバは駆け出し下段に構えた剣を振り抜く。しかし、その一撃目をトーマスは受け流し後ろへ飛び退く。



    トーマス「ほう……速いな。とても女が振るう剣とは思えねぇ」


    ナナバ「まだまだこんなものじゃないよ……!」



    ナナバは烈火のごとく立て続けに剣戟を繰り出す。しかしその攻撃の全てをトーマスは躱し、受け流して行く。


    トーマス「おーおーすげぇすげぇ!剣尖が見えねぇや」


    ナナバ「そういう事は斬られてから言ってくれる……っ!」


    しかし、ナナバが思い切り振り抜いた剣は虚しくも空を切るのみで、そこにトーマスの姿はなかった。
  91. 104 : : 2015/03/28(土) 20:17:10





    ナナバがトーマスの姿を探していると、後ろから声が聞こえてくる。



    トーマス「うーん。確かに速いが……イマイチだなぁ」



    トーマス「あんたの動きは確かに速い。恐らく俺よりも。だが、あんたじゃ俺を殺せない」



    トーマスは自信を持った目で言い放った。
  92. 105 : : 2015/03/31(火) 20:02:26






    ◇ ◇ ◇







  93. 106 : : 2015/03/31(火) 20:04:04





    わずかに沈黙がその場を支配し、互いの出方を伺うような時間が続いた。


    その沈黙を打ち破ったのはエレンだった。


    エレン「やる前に一つ聞く……何故あんなやつに従うんだ。あんたの目は少なくとも腐っちゃいないまっすぐな目だ」


    イアン「理由ですか……そんなものはとうに忘れましたよ」


    その言葉と同時にイアンは地面を蹴り、エレンの前に飛び出し大上段からの袈裟斬りを放つ。


    エレンは慌てることなく攻撃に反応し、半身で攻撃をかわすと剣を足で押さえつけた。


    エレン「俺はあんたと戦いたくない。何故ダズの下につくんだ」


    イアン「だから……忘れたと言ったでしょう!!!」


    イアンは剣を振り上げ、エレンを弾き飛ばす。難なく着地するエレンを睨みつけるイアンのその額には血管が浮き出し、怒りで顔を赤くしていた。


    そのイアンの表情を見てエレンは確信した。何もなければ、この程度のことで怒るはずがない。


    エレン「そんなわけねぇだろ!ダズに人質を取られたとか、なんかあんだろ!」


    イアン「あなたもわからない御人だ。私はダズ王に……」


    イアンの目が泳ぐ。


    イアン「……ダズ王に心より忠誠を誓う近衞騎士です」


    イアンは言い切ったが、彼の一瞬の逡巡がそれを真実では無いと明白に物語っていた。


    あの真摯な瞳の色がダズへの忠誠心からくるものであれば、ここで高笑いしていてもおかしくはない。
  94. 107 : : 2015/03/31(火) 20:06:10






    イアン「皆さん……行きますよ」


    イアンの言葉に先ほどまでピクリとも動かず、言葉も発しなかった騎士達が胸ものとに剣をかざす。




    誉高き騎士剣よ────


    王より賜りしその威名────


    今ここに知らしめん────



    騎士『身体召喚(エンチャントコール)!!王騎士剣(コンスタブル)!!!』



    エレン「身体召喚(エンチャントコール)か……いくら名剣の意思を身に宿したところで俺には勝てないぞ」


    イアン「でしょうね……しかし、私を忘れてもらっては困りますよ」



    騎士を束ねしその力────


    王の勅命に従いて────


    覇道を切り開かん────




    イアン『召喚(コール)!!!王勅の最高騎士(ロイヤルオーダー)



    イアンは今確かに記憶を引き出して召喚術を行った。エレンからみればまだ未熟のうちだが、かなりの完成度を誇っていた。


    エレンはこの状況でもイアンを攻撃することなく説得しようとしていたが、かなり厳しくなったのは間違いなかった。


    しかし、エレンはそれをやめようとは思わなかった。彼の頭の中にはイアンを救うことしか既に無かった。


    周りの兵の顔は甲冑で見えない。しかし相変わらず彼らの統率され、動きは気持ち悪いほどに機械的で全く同じ動作をしている。


    彼らには申し訳ないと思いながらも、エレンは彼らに眠ってもらう事を決めた。


    鋼剣に眠る英霊よ────



    今再び目覚め────



    我が刃となれ────



    召喚(コール)

  95. 108 : : 2015/03/31(火) 20:07:44





    召喚の最後の一言を言い終えると同時にエレンは走り出していた。


    それと同時にランスロットもイアンの周りの騎士を目指す。


    おおよそ同時。高速で移動したエレンとランスロットはイアン達が反応するよりも速く剣の腹でその頭を捉え吹き飛ばした。


    広間の両側の壁に打ち付けられた兵士たちは間違いなく落ちた────



    はずだった。しかし彼らは立ち上がった。いくら身体召喚で強化していたところで、生身の人間があの攻撃を受けて立てるはずはなかった。


    エレン「んなバカな……」


    驚きつつもエレンは足を止めなかった。さらに2人を吹き飛ばすことで他の3人も巻き添えにする。


    今回は先ほどよりさらに強く攻撃を加えた。本来なら人間の頭が割れるほどの一撃だった。


    しかしそれでも尚騎士達は何事もなかったかのように立ち上がってくる。


    エレン「嘘だろ……」


    イアン「もうおしまいですか?」


    エレン「こいつら何者だ……人間じゃねぇだろ」


    イアン「何をいっておられるのやら。彼らは私の剣……もとい王の剣。倒れることなど許されないのですよ」


    エレン「まあ手品のタネを聞いて明かすわけはねぇか……なら!」


    エレンとランスロットは今度は騎士達の首を刎ねるべく駆ける。


    しかしエレンとランスロットの剣はイアンと王勅の最高騎士(ロイヤルオーダー)によって受け止められる。


    イアン「我々を放って置かれては困りますよ……!」


    エレン「やっぱりあるんじゃねぇか……!タネも仕掛けも!」

  96. 109 : : 2015/03/31(火) 20:08:34





    エレンとランスロットは一度切り下がり距離をあける。


    しかし、後ろには先ほど吹き飛ばした騎士の1人がいた。


    エレン(迂闊だった……!)


    エレンはイアンに意識を釘付けにされ騎士達への意識を手放してしまっていた。その時に回り込んだのだろう。


    飛び下がったエレンは攻撃をかわすことも受けることも出来なかった。



    騎士の渾身の突きがエレンを捉え、血が飛び散る。


    しかし、その剣はエレンの右腕を抉った程度で、腹を貫通はしていなかった。


    一方、騎士は少し離れたところにその場に倒れていた。


    イアン「流石です。とっさに身体を捻って殴り飛ばしましたか……しかし、その腕では満足に剣も振るえないでしょう」


    エレン「はぁはぁ。勇者なめんなよ……」


    右腕からポタポタと血を滴らせながらエレンは不敵な笑みを作る。


    致命傷になるような傷では無いとはいえ、剣を振るうと言う意味では決して浅い傷ではなかった。



    それでもエレンはその笑みを崩そうとはしなかった。


  97. 110 : : 2015/03/31(火) 20:09:30






    ◇ ◇ ◇






  98. 111 : : 2015/03/31(火) 20:12:26






    ナナバはこのとき苛立ちを隠せずにいた。最速の剣を躱された挙句後ろを取られる始末。果たしてこいつに勝てるのか。そんな思考が頭をよぎる。しかしここで負けるわけにはいかないその気持ちだけが彼女を立たせ、剣を握らせていた。


    ナナバ「なら見せてあげる……」


    トーマス「ん?」


    ナナバ「使う事もないと思っていたけど……」


    ナナバは剣を天に向け掲げる。




    雷霆招来(ライジングジェネレート)!』




    ナナバの一言とともに天に暗雲が立ち込め、ナナバの剣に雷が落ちる。激しい光と音一帯を征服する。


    トーマス「な、なんだ……!?」


    光と音が収まると雷を受けたナナバがそこに立っていた。剣に雷を纏わせ、バチバチと辺りを小さな稲妻が走る。さらには、身体までも帯電しているかのように淡く青白く発光していた。


    トーマス「魔法……か?」


    ナナバ「そうだよ。魔法剣(マジシャンズソード)。全身を剣と定義し、魔法を付与する私だけの魔法」



    ナナバ「私の魔法剣は剣に魔法を付与するだけのちゃちな魔法とは違うよ」



    トーマス「おお!おもしれぇ!いいじゃねぇか!最高だ!」



    ナナバ「すぐにそうも言ってられなくなるさ……」
  99. 112 : : 2015/03/31(火) 20:15:57





    ナナバが剣を一振りすると、空中を稲妻が迸り。トーマスのすぐ横を通り過ぎ地面に突き刺さり小さな爆発を起こす。


    ナナバ「降参してくれ。殺さないで済むならそれに越したことはない」



    トーマス「お……俺が反応できなかった……」


    トーマス「速い……強い……」



    ナナバはトーマスが怯えているものと思った。彼を殺さずに戦いを終わらせることができるそう思った。



    だがそれは違った。



    ナナバは彼の本質を見誤っていた。ただの殺人狂ならここで怯えて逃げ出したかもしれない。しかし彼は強者を求め、その者と戦うことを求め続ける戦闘狂に他ならなかった。その目的の違いはこの場で明らかな結果の差を生み出した。



    トーマス「っはははははは!いいじゃないか!久々だ……負けるかもしれない戦い。本気の戦いなんてよぉ!!」


    ナナバ「なっ……!?」



    ナナバの動揺を他所に、トーマスは彼女の懐に入り込み剣を振るう。トーマスの剣はナナバ自身ほど速くはなかった。しかし、その一撃を自分の剣で受けた瞬間後悔した。圧倒的超重量の一撃。剣が特別大きいわけではない。一般的な規格のロングソードだ。到底想像しうる一撃ではなかった。


    ナナバはそのあまりに大きな力に10m近くも吹き飛ばされながらも、なんとか剣を地面に突き刺して体勢をたてなおす。


  100. 113 : : 2015/03/31(火) 20:19:16





    ナナバ「この力。思い出したよ……鬼冠者 トーマス」



    ナナバ「鬼の名を冠する者。その圧倒的な膂力と剣技だけでこの世に鬼の名を轟かせた男。まさかこんなところでお目に掛かるなんてね」



    トーマス「ほう。知ってたか。まあ名前なんて飾りみたいなもんだ」



    トーマス「俺は常に強いも奴と戦いたくてここまで来ただけさ」



    トーマス「そして、俺はお前とも戦いたい」



    ナナバ「出来ることならその御招待は辞退したいところだけど、今回限りはそうもいかない。謹んでお受けするよ」


    トーマス「そうこなくちゃなぁ!!」


    瞬間ナナバが地を蹴る。すると、爆発するかの土煙と共に彼女の姿がその場から消える。


    しかしトーマスは一切動揺の色を見せなかった。冷静に背後に姿を表したナナバから放たれる神速の一撃を己が剣で受け止める。


    ナナバ「!?」


    ナナバの顔に戦慄が走る。ナナバの魔法剣は体に雷を纏わせることで、筋力を増強している。そのため、通常の人間の速力を遥かに凌駕していた。大凡、反応できるはずのない速度で放たれた一撃なのだ。それをいとも簡単に受け止められることなど、想定できようもなかった。



    トーマス「何故って顔してるな」



    トーマス「いいだろう教えてやる」



    トーマス「経験値の差だ」


    トーマス「確かにあんたの剣は俺でも追いつけないほどに速い。だが、俺にはあんたの考えが大体わかる。しかも動きは直線的で読みやすい」



    トーマス「だから、俺はあんたの攻撃を止められる。躱すことができる」


    トーマス「あんたの攻撃は俺には当たらない」


    ナナバ「そんなばかな………」



    いくら否定しても、現実がトーマスの言葉が事実であると語っていた。それをナナバ本人は理解していたが、認めるわけにはいかなかった。ここで負けては協力してくれた者たちに示しがつかない。そしてなにより、誇りを失うこととなる。
    だから、虚言であろうとも吠えなければならなかった。


    ナナバ「こんな事で良い気にならないでくれよ。まだ戦いは始まったばかりだ」


    トーマス「強いねぇ。強い。面白くなってきたじゃねぇか……!」



    トーマス「今度はこっちから行くぜ……!」



    急接近したトーマスが剣を数度振るう。なんとかナナバも回避するが、その斬撃は威力のあまり地面に深い傷跡を残す。まともに貰えば確実に体の一部を失うか、死あるのみだ。



    トーマスは体制を低くし、ナナバの懐に潜り込み剣を振り上げる。しかし、それを黙って食らうほどナナバも愚鈍ではなかった。後ろに飛びのいて剣を躱しながら、前方を薙ぎ払う。


    しかしナナバの攻撃は完全に見切られていた。トーマスが薙ぎ払いを回避し即座に体勢を崩したナナバの腹に刺突を放つと彼女の身体が宙を舞った。


    吹き飛び、倒れたナナバの腹から血が溢れ出す。



    その様子にトーマスは嬉しそうに笑っていた。




    トーマス「剣で俺の攻撃を逸らし、身体の捻りでうまく致命傷は避けたか!流石だなぁ!」



    ナナバ「はぁはぁ……そう簡単に殺されてあげるわけにはいかないからね……」



    トーマス「そうこなくちゃ面白くねぇってもんよ!」



    致命傷は避けた。内臓にも損傷はない。しかし腹の傷は決して浅くはなかった。これ以上続けば確実に自らの死期が近づくのみだと言うことはナナバが一番よくわかっていた。だが、勝機は見えない。攻撃の当たらぬ敵を倒す術などあるのだろうか。しかし止まるわけにはいかない。時間があるうちにトーマスを倒さねばならないのだから。


    ナナバは腰を低く構え、駆け出す。
    持ち前の高速移動でトーマスの懐に斬り込む。幾重にも放たれる高速の斬撃。トーマスはそれを全て剣で受け切り、流し、躱していく。それでもナナバは手を止めはしない。むしろさらに速度を上げていく。大きな怪我の上の激しい運動により、失血が酷いのか視界が霞む。それでもなおその場に踏みとどまり剣を振り続けた。
  101. 114 : : 2015/03/31(火) 20:20:32






    トーマス「あんたは真っ直ぐすぎる……こんな剣じゃ俺は殺せねぇ」



    トーマス「このままじゃあんたがくたばっちまう。もうやめろよ」



    ナナバ「……何を言ってるんだい?勝負はここからだよ……」



    ナナバ「私が何も考えずに剣を振っていたと思うかい?」



    トーマス「なんだと……?」



    そのとき、ようやくトーマスは気づいた。自分の剣がナナバと同じ光を帯びていることに。


    ナナバ「あなたの剣は私の魔力から練り上げられた膨大な電力を帯びてる。それを一気にスパークさせたらどうなるかしら?」



    トーマスは慌てて剣を手放そうとするが、そのときにはもう遅かった。




    雷轟旋渦(ライトニングボルテックス)!!』



    剣を中心に起こった爆発的な放電はトーマスの身体を飲み込み、巨大な光の奔流と轟音を撒き散らした。


    光が収まると、そこには地面に伏すトーマスの姿があった。



    ナナバ「終わったの……?」



    魔力は底を突き魔法剣も消え、多量の失血で意識が混濁している中トーマスの生死を確認すべく彼に歩み寄ると、息はあるようだった。


    生きていることに安堵の息が漏れる。ほっとして腰を下ろそうとしたその時だった。


    トーマスが突然起き上がりナナバに突進する。完全に気を抜き不意をつかれた彼女には反応出るはずも無い。



    トーマス「……残心って言葉を知ってるか。敵が倒れても尚、反撃に備えるべしだ」



    ナナバ「かはっ……!」



    トーマスの突進から放たれる刺突はナナバの腹部を完全に貫通していた。傷口からは血が滴り落ち、内臓の損傷が原因か口から血を吐いた。


    ナナバ「ごめん……みん……な……」


    更に血を失ったことでナナバは意識を保つことが出来ず気を失った。



    トーマス「……っ!?何がごめんだ……とっくにあんたは仕事はこなしてんじゃねぇか……」



    トーマス「ちっ……試合に勝って勝負に負けたってか……」


    ナナバを追うかのようにトーマスもまた、膝を突き倒れるのだった。





  102. 117 : : 2015/04/01(水) 20:06:50






    ◇ ◇ ◇








  103. 118 : : 2015/04/01(水) 20:10:22





    そこには不敵な笑みを浮かべるアルミンの苦虫を噛み潰したかのように顔を歪めるキッツの姿があった。




    圧倒的数的有利を抱えていたキッツは、先ほどまでとは一転そのアドバンテージを失い焦っていた。




    アルミン「流石小鹿。臆病にも初めから対魔障壁を張っていた事が功を奏したね」


    キッツ「貴様何をした……いくら貴様とて、電光程度の低級魔法でこれほどの人数を倒せるわけがない……!」


    アルミン「君は何をみていたんだい?アクアへヴィランスは何も君たちの戦力を削ぐためだけにはなったわけじゃない」


    アルミン「本当は君たちをずぶ濡れにすることが目的だからね」



    キッツ「貴様……まさか!!」


    アルミン「今更気づいたかい?電気が伝導しやすいようにしただけの事だよ」



    アルミン「とはいえ、心配いらない。気絶してるだけさ」



    アルミン「お喋りは終わりだよ。これで最後だ」


    ゆっくりと手を構え、怯え膝を笑わせるキッツに向け魔法を放つべく魔法陣を描く。




    アルミン「雷獣の咆哮(ローラス・レランパーゴ)……」





    アルミンが最後の呪文を唱え、膨大なエネルギーを持った雷球を放とうとしたその時。



    急激な魔力の収縮と共に雷球は放散し、アルミンの身体は子供のサイズに戻ってしまった。


  104. 119 : : 2015/04/01(水) 20:10:40





    ◇ ◇ ◇





  105. 120 : : 2015/04/01(水) 20:12:08






    時は少し遡る



    場所はシガンシナ城下町の商店兼住宅街が並ぶシャトー・ストリート。



    石床によりつまづいたミカサであったが、右膝の擦り傷の痛みを打ち消すほどに彼女は自分自身が声をかけられたことに驚いていた。



    夕刻からシガンシナ城下町の全地区に声かけを行っている際も、城下町には誰も歩いていなかったからだ



    ダズという絶対王者からの報復は、人に外出する気さえもなくす程恐怖を植えつけるものであるということは、容易に想像された。



    だがしかしそんな中でも『彼ら』は、つまづいて転んだミカサに優しく手を差し伸べた。





    フランツ「大丈夫ですか?……ミカサさん」



    ハンナ「ハンカチ……使ってください」



    ミカサ「フ、フランツさん! ハンナさん!?」



    ミカサは驚いた顔で彼らを見つめ、その後ろのニファは不思議そうにその姿を眺める。



    ミカサ「……どうしてこんなところに……このシャトー・ストリートは、貴方たちの家から凄く遠い地区なのでは?」



    フランツとハンナはお互いを見つめあい、何かを決心したように頷く



    フランツ「……ずっと、君の行動を見ていたんだ。ミカサさん」



    ミカサ「え……?」



    ハンナ「私たち、最後に貴方たちに忠告したでしょう? 早く国を出るように、って」



    ミカサ「あー……」



    フランツ「本当は、国を出るのに何か力になれるかなと思って、ミカサさんの後を追っていたのだけど……」



    ハンナ「……貴方は、逃げようともせず、ましてや反乱に協力してと声掛けを行っていた」



    ミカサ「うっ……」



    ミカサは少し焦った



    彼らを信じていない訳ではない。

    だが、今までの住民の対応から察するに、『彼らが自分を止めようとしているかもしれない』と感じざるを得なかったからだ



    ミカサ「ご、ごめんなさい……」



    ミカサ「私、どうしてもこの国を変えたくて……」



    自然と謝罪するミカサ。しかし



    フランツ「……どうして、謝るんですか?」



    ミカサ「え?」



    彼らの意思は、ミカサに声をかけた時点で決まっていた



    ハンナ「……安心して。ミカサさん」



    ハンナ「私は、貴方に心を動かされた一人よ」



    ミカサ「どういうことですか……?」



    フランツ「……ずっと、話していたんだ。ハンナと」



    フランツ「ハンナは今日の昼間、本来ならばダズに連れられ、今頃ひどい目に遭わされているはずだった」



    フランツ「そして僕もだ。ダズや手下にやられ、本来ならば命を落とすはずだった」



    フランツ「しかし、勇気ある君や仲間のおかげで……僕たちは2回も命を救ってもらっている」



    ハンナ「……私たちの命は、本来なら今日二人共失くなっていたかもしれない」



    ハンナ「それを貴方たちが、守ってくれたの」



    フランツ「それに加え、君は自国でもないこの国を、根本から変えようとしてくれている」



    ハンナ「……なんの見返りもないのに」



    ミカサ「え……あ……」



    フランツ「……君たちは僕らの命の恩人だ。それに、無償でこのような危機に立ち向かおうとしている誇り高き戦士だ」



    ハンナ「……そんな勇ましい命の恩人を、私たちが放っておける訳はないでしょう?」



    ハンナににこりと笑顔を見せ、ミカサの血だらけの両手を掴む



    ミカサ「……ハンナさん……! フランツさん……!」



    くじけそうだったミカサの両目に、熱いものが込み上げてくる



    フランツ「さあ! まだまだこれからだミカサさん! 僕たちも声かけを手伝わせてもらうよ!」



    ハンナ「ええ! 後訪問してない家はどこですか?」



    ミカサ「あ……えと……」



    ミカサは慌てて地図を取り出し、二人に指示する



    フランツ等が加わってくれたことで、ニファ自身の心は多少は安堵するも、5時間かけて、たった2人しか人が集まらないという現実を直視する瞬間でもあった。



  106. 121 : : 2015/04/01(水) 20:22:06





    ニファは昔、このシガンシナ城下町の自治会指定で、鳴鐘係を担っていた。



    正午になれば、シャトー・ストリートに中央そびえ立つ高台に上り、その大きな鐘を鳴らすのが役目だ。




    ニファは車椅子に乗りながら、凡そ数百メートル程離れた場に存在する高台を眺める。



    午後11時を回るという夜中であることから、周囲は暗く、その高台の鐘は姿すら見えない。



    (よぉーー、ニファちゃん! 今日も鐘かい?)



    (キドウお爺ちゃん! うん! そうよ! 今日もいっぱい鐘鳴らすからね!)



    (ニファちゃんが鳴らす鐘は、いつ聞いても朗らかでいいもんさね~)



    (リッタおばさん! そんなことないよ~、他の人が叩いても一緒だって~)



    (ニファ姉ちゃん! 今日も鐘鳴らした後に歌ってよ! あの……シガンシナの戦場歌をさ!)



    (ええ~? あれ結構恥ずかしいんだよ~。はは。でもありがと!)





    彼女の頭の中には、『城に連れ去られる前』の光景が浮かぶ。



    毎日毎日が楽しかった。



    絶えず、笑顔だった。



    家の親の家事を手伝いながら、仲の良い兄と森へ狩りに出かける生活。



    忙しい中だったけれど、正午の時を知らせる鳴鐘係であったのは、自分の誇りだった。



    鐘を鳴らし、その音色に乗せてシガンシナの歌を歌うのが何よりも好きだった。



    しかし、自分にはもう



    鐘を鳴らすために高台を登ることも、誇り高き歌を歌うこともできない。


  107. 122 : : 2015/04/01(水) 20:23:35





    フランツ「すいません! お話を聞いてくれませんか!」



    ハンナ「こんばんは! 夜分にごめんなさい!」



    気付けばすでに、協力を約束してくれたフランツらが住宅のドアを叩きながら叫んでいた




    ミカサ「……強力な助っ人だね! ニファさん!」



    ミカサはいつの間にか立ち上がっていたのか、手を震わせながらニファの肩を持つ。



    恐らく、先ほどつまづいた傷が思いのほか痛むのだろう



    小刻みに震える彼女からは自らを必死に奮い立たせる様子が垣間見えた。



    「ふざけるな!!」



    フランツ「うっ……!」



    「帰れ!!」



    ハンナ「あ……!」



    フランツとハンナも、一蹴されたようだ。



    だがミカサに比べればまだ序の口。彼らはすぐに切り替え、他の家のドアをノックしていく。



    ミカサ「さあ……私たちも負けてられないね!」



    ミカサはニファが座る車椅子を押し、次の目的地まで走る。



    情けない。



    情けない。



    とてつもなく、情けない。



    自分はそう思うしかなかった。



    足は動かない。



    口は動かない。



    何をするときも、今、自分には何もできない。



    これでは街の人と何も変わらない。



    現実から目を背け、誇りを失ったあの人たちと。



    ニファ「……えぅ……」



    気が付けば、自然と涙が溢れ出していた





  108. 123 : : 2015/04/01(水) 20:29:52





    ミカサ「ここだ……! 待っててねニファさん! 行ってくる」



    ミカサはそう言うと、高台が近い近辺の住宅へ声をかけていく。




    ミカサ「すいません! あの……!」



    「帰れ!」



    ミカサ「今!反乱軍が準備をしてて……!」



    「うるさいってんだよ! 早くこの国から出てけ疫病神!」




    しかし結果は惨敗



    これまでの結果からも分かりきっていたことではある。



    だが、それでも、彼女は諦めない。



    ミカサ「すいません! これから反乱軍が命を賭してダズと戦おうとしてるんです! お願いします! 助けてください!」



    「アホか」



    ミカサ「早くしないと……早くしないともう!!」



    「ごめんなお嬢さん。わしらは平和に暮らしたいんじゃ」



    ミカサ「でも……それじゃ……!」



    諦めない。



    何もできない彼女は、黙ってミカサを見つめているしかなかった。



    ミカサ「はぁ……はぁ……はぁ……」



    ハンナやフランツが現れたことでようやく心を繋ぎとめたもののミカサは披露と傷の痛みで走るのがかなり辛い様子だった。



    ミカサ「あはは……」



    ミカサ「ごめんねニファさん。ここの地区の人もダメみたい……」



    ミカサは車椅子に座るニファの元へ戻りながら、苦笑いを浮かべる。



    ニファはそんな彼女に、頷きを返すことしかできなかった。



    そして不意に、ミカサは自己の時計を確認する。




    ミカサ「じゅっ……12時……30分!?」




    いつの間にか過ぎていたその時間に、彼女は驚きを隠せない。



    ミカサ「まずい……もう作戦が……!」



    ミカサがそう口にした瞬間



    シガンシナ城がそびえ立つ北から、「ビュオオオオオ」と大きな風音が響いた。



    ミカサ「っ!」



    ニファ「……!?」




    作戦が始まったのだ



    アルミンが解放した力で、シガンシナ城正面の兵士たちを一層し始めたのであろう。



    大きな風の音と共に、反乱軍の象徴とも言える突撃の音が鳴り響いていた。



    ミカサ「そんな……!」



    ミカサの顔はみるみる内に青ざめていく



    本来アルミンの指示であれば、現在の段階までに多数の協力者が得られ、反乱軍の加勢をするはずだった



    しかし現在ミカサ達に心動かされた者は




    フランツ「ミカサさーーーん!」



    ハンナ「こっちは100軒以上回ったわ! そっちはどう?」




    フランツとハンナの2人だけ




    ミカサ「……!」



    ミカサ「い、いません……」



    ミカサは悔しそうに呟いた。



    フランツ「え……!」



    ハンナ「嘘……!」



    ミカサ「フランツさんたちの方は……?」



    ハンナ「……0人……よ。誰も……話を聞いてくれない」



    ミカサは我慢していた何かが吹っ切れるように、その場の床に崩れる。



    ミカサ「そんな……!」



    間に合わなかった。



    彼女が人の心を変えることは叶わなかった。



    ミカサ「う……!」



    ミカサの目から涙が溢れる。



    自分自身には戦える力もない。戦える彼らを補助する力もない。



    信じている仲間の、なんの力にもなることはできない。



    そう悔しさを噛みしめることしかできなかった。



    それは、ニファも同じだった



    大きな風音や勇猛な戦士の怒号が響く戦場では、3人の小さな勇者達と、これまで苦楽をともにしてきた反乱軍が命を賭けて戦っている。



    自分の兄もだ。



    しかも、兄であるゲルガーが戦っているのは誰でもがない。



    自分(ニファ)のため




    ハンナ「所詮……私たちが動いたところで……」



    フランツ「国は変わらない、のか……?」



  109. 124 : : 2015/04/01(水) 20:30:54





    瞬間、ガシャンという音が鳴り響く。



    鉄製のものが石床にぶつかった音だ。



    ミカサ「え……!」



    ミカサが見たその先には



    ニファ「う……」



    車椅子から転げ落ち、這うように動くニファの姿。




    ミカサ「ニファさん!」



    ミカサはそそくさと彼女の元へ駆ける。



    ニファ「う……!」



    しかし、ニファは変わらず『ある方向』へ這いながら動いていた。




    (ニファ! 今日も兄ちゃんの勝ちだな~。薪割り当番はお前で決定ー!)



    (ニファ。その弓の引きじゃあ獲物なんかとれんぞ。そら矢ァ貸してみろ)



    (今日もおまえ鐘鳴らした後歌ってたのか! なんかすげえ良い評判らしいな~)



    (お前は兄ちゃんの誇りだからな!!)




    ニファ「う……!」




    (お、お……! ニファ……)



    (なんでだよ……なんでニファが……なんで……)




    ニファ「ひう……うう……!」




    (…………ニファ! ニファーーッ!!)



    (おまえ……こ、言葉が……!?)



    (……オレはダズを殺す。そのために反乱軍に入った)



    (ニファ。オレの心配なんてしなくていい。オレが絶対に仇をとってやる)



    (ごめんな……! オレがあの時……! お前を……!)




    ニファ「うぐうう……!」




    彼女は泣きながら、一番大事な兄の言葉を思い出す。






    ミカサ「どうしたの!? 大丈夫!?」



    フランツ「ニ、ニファさん!」



    ハンナ「どこかにつまづいたのかしら……」




    ニファ「うう……!」



    ニファは、声無き声である一点を指差す。



    ミカサ「え……?」



    そこには、大きな鐘が設備された高台が建っていた。



    ミカサ「あそこは……」







    ミカサ「あそこに……あそこに行けばいいの?」




    これまで、虚ろな目で周りを見ることしかできなかった彼女であるが、曇り一点ないその眼で、高台を見つめ力強く頷いた。



  110. 125 : : 2015/04/02(木) 20:10:20






    ◇ ◇ ◇







  111. 126 : : 2015/04/02(木) 20:16:20





    アルミンは完全に狼狽していた。



    彼の脳内には始めから終わりまで全ての工程が組み上げられ、さらには二重三重に不足の事態への対策が練られていた。



    とはいえ、それも全て彼の本来の力を以ってのことである。そのために正確かつ余裕を以って時間管理をして来たはずだった。



    しかし、得てして想定とは崩れ去り予想は百発百中とは言えないものだ。



    それを一番理解していたであろう彼が、最も想定外の状況に追い込まれていた。




    アルミン「ば、ばかな!まだ1分半は残ってるはず……」



    予想外の展開にアルミンは動揺を隠しきれない。この一撃で片を付けるつもりだったが、それは不発に終わってしまった。



    アルミン「まさか……魔力の使いすぎか!?」



    キッツ「何やら時間切れの様だな……」



    キッツ「私の勝ちだ!!」




    アルミン「くっ……!」



    絶望的と言うに相応しい状況であった。今のまま戦えばいくら相手がキッツとはいえ嬲り殺されるのが関の山だ。



    最善の策を練るため、時間を稼ごうと走る。しかし、キッツはほぼ無傷。まるで、アルミンを弄ぶかの如く、横を無数の魔法が掠めて行く。


    身体中に傷が増える。服がさけ、血が滲む。しかしここで彼が死ねば仲間の命が危険に晒されることとなる。ただ必死に駆けた。


    とはいえ、ただでさえ体力の無い上に身体の小さな状態ではすぐに力尽きるのは目に見えていた。



    その時は予想よりもさらに早くやってきた。木陰に身を隠し荒い息を潜める。しかし、仮にもあのダリスの弟子、身を隠したたところで魔力を探られればすぐにばれてしまう。



    キッツ「おいアルレルト……ついに俺の勝ちだ。隠れたって無駄だ」



    キッツ「やっとこれまでの借りを返せるなぁ……!」



    キッツが歓喜の声をあげ絶望に目を瞑ろうとしたその時だった。突然アルミンが笑い出す。


    アルミン「っはははははは……あははははは!!」



    キッツ「なんだ?恐怖のあまり気でもふれたか?」



    アルミン「いいや。君があまりに滑稽だから笑ってるのさ」



    アルミン「キッツ……君は勝ったつもりかもしれない。だけどね。僕にはまだとっておきの魔法が残ってる」



    キッツ「今更虚言を吐いたところで、その身体で何ができるというのだ!!」



    アルミン「君には聞こえないのかい?この足音が。この声が」



    キッツ「何も聞こえんではないか……やはり虚言か」



    アルミン「顔だけじゃなく耳も悪いみたいだね。さあ。今度こそ終わりにしよう」



    アルミン「ショータイムだ」


  112. 127 : : 2015/04/02(木) 20:18:10






    ◇ ◇ ◇






  113. 128 : : 2015/04/02(木) 20:19:21






    ナナバ(ここはどこだろう……そうか私負けたんだ……それで……)



    ……バ……ん。


    ナナバ(……声?)


    ……ナナ……さ……。……ナナバ……ん……。


    ナナバ(この声は……クリスタ……私を呼んでるの……?)



    ナナバさん!!



    ナナバ「……っ」



    ナナバが目を覚ますと目の前には泣きそうな顔をしたクリスタの顔があった。剣に刺された傷も綺麗になくなっていた。きっとクリスタが治してくれたのだろう。


    ナナバが目を覚ましたことに気づいたのかクリスタは目を見開くと、涙がこぼれる。



    クリスタ「ナナバさん!なんでこんな無茶したんですか!」



    クリスタ「私が間に合わなかったらか確実に死んでた!なんで……なんで……!」



    目から涙を溢れさせ訴えかける少女の姿に幾許かの罪悪感はあったが、仕方のない事だったのだ。ナナバはただ彼女の涙を拭ってやることしか出来なかった。




    ナナバ「すまない。敵は強くてね。逃げる余裕はなかったんだ……」



    同時に自分が生きていることに違和感を覚える。トーマスがいたはずだ。


    ナナバ「クリスタ……あの人は……?」



    クリスタ「あの人?ああ、一緒に倒れてるのを、縄をかけて治療したんですけど、いつの間にか消えちゃいました」



    クリスタ「それと、消える前に俺はもうこの戦いには関わらねぇ。あんたの勝ちだ。って伝えておいてくれって」



    ナナバ「そうか……ありがとう」



    不思議そうに見つめるクリスタを他所に、一瞬寂しそうな顔をしたナナバだったが、立ち上がると両手で頬を叩いて気合を入れる。


    ナナバ「よし。じゃあ残りの掃除といこうか!現状を教えてくれ!」



    ナナバの変化に気づいたのか、クリスタも目尻の涙を拭うと、顔を引き締めた。



    クリスタ「はい!まだ敵の3割程度しか削れてません……負傷もかなり増えてきています。このままではジリ貧に……」


    ナナバ「わかった。行こう」



    クリスタ「はい!」



    優秀な将を失ったことにより、敵軍の動きは鈍っていた。しかし、流石に多勢に無勢。状況は先ほどよりはマシと言った程度で、イマイチ好転したとはいえなかった。だが、最悪を脱した事はこの上なく大きいと言える。とはいえ、この数が減るわけではない。ここからが本番なのは変わりそうもなかった。
  114. 129 : : 2015/04/02(木) 20:21:57





    ◇ ◇ ◇







  115. 130 : : 2015/04/02(木) 20:32:45






    ゲルガーは敵との境界、最前線に立っていた。革命軍の兵に彼より剣の腕のたつものはいない。それは自他ともに認める事であったし、現に敵兵を何十人と地面に転がしているのだから違えようがない事実だ。


    しかし、他の兵はそうはいかない。敵は訓練を受けた兵士。革命軍はいくら強化されているとはいえ、1対1が限界。2倍の戦力は革命軍を着実に苦しめていた。先ほどナナバが敵将を討ち取ったと伝令が来たが、敵兵の士気が落ちたところで限界はある。かなり厳しい戦いであった。




    ゲルガー「ようやく3割だ!!敵兵の動きをみて、しっかり対応しろ!しくじれば戦線が崩れるぞ!」



    その時こちらに走ってくる2つ影が見えた。それはナナバとクリスタだった。早くも傷の治療を終え戦線に復帰するのだろう。


    ナナバが戦線に加われば多少は持ち直すことができる。だが、心配なのはクリスタの方だった。彼女が力を使えるのは10分間のみ。ナナバの回復に加え、これまでの兵の維持に力を使っていた。そろそろ時間が切れてもおかしくない頃だ



    ゲルガー「クリスタ。残りはどれくらいだ?」



    クリスタ「あと1分ってところです……」



    ゲルガー「まずいな……」



    ナナバ「まずいのは今に始まったわけじゃないさ。考えても仕方ない。今は戦うしかない」


    確かに考えても時間も兵力も増えはしないが、ゲルガーの目にはそれは些か軽率にうつった。ナナバは恐らくそれを察したのか少し笑顔を作ると口を開く。


    ナナバ「なに。私も考えなしにこんなことを言ってるわけじゃないよ」


    ナナバ「私達のフォローなしでは戦力の低下は更に激しくなる。ここで話し込んでる時間はないはずだ」



    いつも以上に冷静なナナバの姿にゲルガーは安心した。そして疑った自分を愚かに感じ自嘲気味に笑うと。ナナバとともに走り出した。

  116. 131 : : 2015/04/02(木) 20:34:23





    ナナバの加入は革命軍全体に士気の向上をもたらし、敵の戦力を大きく削り取った。



    しかし、クリスタの解放時間が切れてからは早かった。一気に戦力を削がれ、おおよそ500人いた革命軍も既に150人を切るところまで来ていた。敵は残り2割と言ったところか。革命軍の大奮闘にも関わらず、アルミンからの援護も一向に来ない。状況は絶望的と言わざるを得なかった。



    ゲルガー「まずい退こう!!このままでは全滅だ!」


    ナナバ「何を言っているんだ。まだ城にはエレンもいるんだぞ!」


    ナナバ「ここで退けるものか!」


    ゲルガー「しかし、このままでは兵の命が危うい!」


    ゲルガーの言葉に兵士も賛同し声を上げる。実際に兵も、体力の限界を迎えていた。しかしナナバは気に留めることすらしない。ただ振り返らず剣を振り抜きながら叫ぶ。




    ナナバ「我々の為に戦う人を置いて、逃げるくらいなら私はここで死ぬよ」



    ナナバ「逃げたい者は逃げればいい」



    ナナバ「私は最後まで戦う……たとえ1人になろうとも、負け犬に成り下がるつもりはない!!!」



    ナナバは吠えた。汗と土に塗れ、体力など既に尽きているだろう。膝は笑い、剣を握り立っていることで精一杯なのは目にみて明らかだった。
    しかし彼女の目にはいつも以上に力強い光を宿していた。




    ナナバ「さあ!ここは既に私1人だ。とおりたいものはかかってくると良い」



    ナナバ「但しこの先」



    ナナバ「通行料は君達の命だ」



    全兵の前に立ち。喉が裂けんばかりに叫ぶ。敵と味方の狭間。例え命を散らそうとも、義に生きんとする"人"の姿がそこにあった。


    敵は大勢。剣を構え向き合う。


  117. 132 : : 2015/04/02(木) 20:35:18





    しかしその姿に並ぶ者が居た。



    クリスタ「私は逃げるつもりなんて最初からないよ。エレンは私の仲間だもん」



    ナナバ「流石は勇者様。勇ましいじゃないか」



    ゲルガー「おいおい。何ふたりだけみたいな事を言ってやがる。俺がいなきゃすぐくたばっちまう癖によ」



    ナナバ「真っ先に逃げようって言った奴がよく言うよ」


    ナナバ「良いんだね。ニファちゃん泣くよ」



    ゲルガー「は?死ぬわけねぇだろ。こっからは俺の英雄伝説だ」


    そのふたりをきっかけに、兵士が立ち上がる。傷をおった兵士すら剣を取る。身体の傷の痛みなど忘れてしまったかのように嬉々とした兵の姿がそこにはあった。



    ナナバ「まったく……バカばっかりだね……誰に似たんだか」


    ゲルガー「いや、お前だよ!」



    ナナバ「私もバカだったか……」



    クリスタ「ひとりで敵軍に突っ込むあたりエレン並だね。病気かも知れないね」


    ナナバ「可愛い容姿して中々毒舌だね……」


  118. 133 : : 2015/04/02(木) 20:36:31





    ナナバ「いくよ!これで──」



    ナナバが叫んぼうとしたその時。


    地鳴りがするほどの足音と怒号が辺りを包む。双方の兵に戦慄が走る。


    城とは真逆。城下町の方から響くその大轟音の正体に革命軍側は歓喜した。

    想像を絶する巨大な人の波。1万は下ることはないであろうその数から察するに、城下町の人間のほとんどがそこにいた。


    ナナバ「ベストタイミングで来るじゃないか……もう少し早く来て欲しかったもんだけ……ど……」



    張り詰めた緊張の糸が切れたのか、ナナバは気を失い倒れる。トーマスとの戦いの後にも戦いに参戦していたのだ体力的に限界だったのだろう。酷使の度合いから見てもあの場に立っていることが不自然なほどであった。



    ゲルガー「負傷兵はナナバを運んで後方に下がれ!!元気な奴らは剣を取れ!情けねぇリーダーの尻拭いだ!!」


    ゲルガーは革命軍全兵を引き連れて敵軍に突っ込む。突然のあまりに巨大な増援に奔った動揺を見逃しはしなかった。


    後20秒もすれば増援は到着する。その間に戦線を押し込むことが目的だった。そうすれば、後は数で押し切れる。


    革命軍全体が力を振り絞り、疲弊し、軋む体を動かし剣を振るう。正真正銘力を最後の力だ。


    そんな時。懐かしい、とうの昔に失われたと思われた声がゲルガーの耳に入る。


    「おにいちゃん!!」


    夢中で目の前の敵を薙ぎ倒し、後ろを振り返る。そこには声を失い、歩けなくなったであろう。あの脱け殻の様になったはずのニファと車椅子を押すミカサが居た。



    ゲルガー「ニ、ニファ……?それにミカサも……」


    ミカサ「ゲルガーさん大丈夫ですか?」


    ニファ「おにいちゃん!助けに来たんだよ!街のみんなも協力してくれたの!」


    ゲルガー「ああ。大丈夫だ。それより、お前話せる様に……」


    ニファ「みんなが戦ってるのに、私だけ1人逃げてちゃダメだって。私も戦わなきゃって。そう思ったの」


    ゲルガー「そうか。よかった……ごめんな……」


    ニファ「うん!」


    ニファの瞳から涙が流れる。嬉しそうに笑いながら泣くニファをゲルガーは抱きしめようと手を伸ばす。



    しかしそれは叶わなかった。



    ゲルガー「……ゴフッ」



    ゲルガー「あ……う、嘘だろ……」



    剣が背中から貫き、ゲルガーは力なく倒れる。腹を貫通したその剣の持ち主は、先ほど倒したはずの兵士だった。


    ダズ軍兵士「はぁ……はぁ……感動の再会ご苦労だったなぁ」




    ダズ軍兵士「まあこれでお別れ……ミカサ「ふっざけるな!!!!」



    ダズ軍兵士「ぶるふぁっ!!?」



    台詞を言い終える間もなく兵士の頚椎にミカサの蹴りが炸裂し、兵士は間抜けな声をあげながら吹き飛び卒倒するのだった。


    しかしゲルガーはかなりの重症だった。根元までしっかりと突き刺さった剣は兵士の執念の深さを思わせる。彼の今の体力を鑑みても、生存の可能性は希薄だった。


    ミカサにはただ血を流しながら倒れるゲルガーに車椅子から転げ落ちながらも這い寄り、すがり泣くニファをどうにもしてやれない自分の不甲斐なさが歯がゆかった。



    その怒りを覆い隠すかのようにただ彼女は走り出した。



  119. 134 : : 2015/04/03(金) 19:57:26






    ◇ ◇ ◇








  120. 135 : : 2015/04/03(金) 20:00:30





    確かに腕の傷は致命傷になるような傷では無い。しかし剣を振るうと言う意味では決して浅い傷ではなかった。



    イアンを攻撃できない事を考えると分が悪い。などとエレンが考えている間に複数の騎士が襲いかかる。



    ランスロットでなんとか応戦するが明らかに手が足りない。



    さらにはイアンや王勅の最高騎士まで彼らを襲う。



    エレンも左腕だけで応戦するが、そこまで甘い相手ではなかった。



    ランスロットに全力で攻撃させればしのぎ切るどころか一瞬で勝負を決めることすらできただろう。



    イアンを救わねばならない。その思いがエレンを徐々に追い詰めた。


    エレンの体力は徐々に削られ、肩で息をするほどまでに消耗を強いられていた。




    エレン「はぁはぁ……やるじゃねぇか」


    イアン「左腕だけでここまで粘るとは思いませんでしたよ。しかもあなたはもう気づいてる」


    エレン「よく分かったな。俺がそいつらが精霊召喚(・・・・)だって気づいてるって」


    イアン「途中から騎士に関しては鎧の隙間を狙っていましたからね。私を攻撃しないにもかかわらず、彼らを攻撃する理由は他に思い当たりません」


    エレン「まあ、互いがカバーしやがるから失敗したけどな」


    イアン「あなたなら、私達全員蹴散らす事ができたはずです。何故そうしないんですか」


    エレン「カバーの中にあんたが組み込まれたからな。騎士達を蹴散らせばあんたを巻き添えにする可能性があった」
  121. 136 : : 2015/04/03(金) 20:03:56





    エレンの言葉にイアンは目を見開いた。


    見ず知らずの他人のために自らの命を捨てるような真似をすることが信じられなかった。



    この絶望に染まった街に、悲しみにによって狂わされたイアンの心ではその真意など到底理解できようもない。




    イアン「なんであなたはそこまで私を止めようとするんですか!!見ず知らずの私があなたを殺そうとしている。なのに……!」


    エレン「見ず知らずだからなんだよ。あんたの目は護る事に必死な奴の目だ。俺にはわかる。あんたは助けを求めてる。困ってる奴に手を差し伸べるのに理由なんていらねぇだろうが」


    イアン「流石勇者ってとこですね。しかし、あなたでは私を……いやリコを救う事は出来ない……」


    エレン「そんなことやってみなきゃわかんねぇだろうが!!」


    イアン「わかります!!!リコは不治と言われる病に犯されている。召喚術ではなにもできない!ここに置いておけば、リコは死なずにすむんです!!」


    エレン「ああ。俺には治せねぇよ。だけど俺には仲間がいる。この世界で一番の聖職者だっている。確かに俺一人なら無理だった。勘違いすんなよ。人間一人じゃないんだよ。支え合って生きてんだろうが!!」


    イアン「でも、俺にはダズにつくしかなかったんだ……!リコを守るにはそうするしか……!」



    エレン「なら殺せよ。俺を殺し、街の人々を絶望の暗い闇に陥れ、その上に成り立つ生をそのリコって人が喜ぶと思うんならな。そうすることに意味があるなら」



    エレンは剣を捨てその場に座り込む。



    それをみたイアンの顔が困惑に染まる。目の前の戦っていた相手が剣を捨て座り込んだのだ。とても正気の沙汰とは思えない。



    イアン「わかりました……リコのために死んでください!!」



    イアンは剣をかまえ、突き出す。エレンの頭を確実に貫き弾き飛ばすだけの勢い。



    高速で飛来する剣をエレンはよけるそぶりもなくまっすぐに睨みつけた。



  122. 137 : : 2015/04/03(金) 20:06:01





    しかし、剣はエレンの頭を貫くその直前で止まった。



    イアン「無抵抗の人間を殺せなんて無理に決まってるじゃないですか……こんなことをしていてもリコは喜ばないなんて本当はわかってるんです。でも彼女には生きていてほしい。私には彼女しかいないんですよ……」



    イアンは剣を取り落とし、力なく崩れ落ちる。それと同時に精霊召喚で動いていた騎士達も鎧だけとなり崩れ落ちた。


    イアンはただ涙を流し地面に拳を突き立てた。おそらく彼に戦う意思はもう無いだろう。エレンは身体中のひとまず細かい傷は無視し、腕の傷を袖の布を破いて止血するとイアンのそばに歩み寄る。


    エレン「心配すんな……ダズの野郎ぶっ飛ばしたら、お前の知り合いは必ずなんとかしてやる」



    イアンは返事はしなかったが、エレンはその無言を肯定と理解し、傷をかばいながら立ち上がると剣を拾い部屋を後にした。




    だだっ広い廊下をしばらく歩くと、一際大きな扉に突き当たった。


    王座の間に違い無い。


    エレンは静かに扉に歩み寄ると、派手なドアノッカーを強めにノックした。
  123. 138 : : 2015/04/03(金) 20:06:59





    ◇ ◇ ◇





  124. 139 : : 2015/04/03(金) 20:14:09





    (挿絵)
    http://www.ssnote.net/link?q=https://www.dropbox.com/s/ikxum3vqj041ybx/%E5%86%99%E7%9C%9F%202014-11-26%2020%2025%2007.jpg?dl=0





    ダズはいつものように女を侍らせ酷く下品な笑い声をあげていた。



    ここまでの人生で酒と女だけはダズにとって捨てることの出来ないものになっていた。




    彼にとってそれがなんの役割を果たしているかはわからない。だがしかし、決して彼はそれをやめようとはしなかった。



    まるで宗教を盲信するかのように。盲目的に貪り続けることをやめなかった。





    「ダズ王様謁見の時間です」



    そんな時乱雑なノックとともに、聞き慣れない声が響く。


    少なくとも記憶にない声。とはいってもダズの記憶に残っている声などたかがしれているのだが。


    はべらせていた2人の女を乱暴にどけ、従者達を引っ込ませる。


    ダズ「誰か知らんが通せ」


    めんどくさそうに、どうでも良さげに形式に則った言葉を吐く。

  125. 140 : : 2015/04/03(金) 20:14:53





    次の瞬間、大きな音とともに扉が吹き飛んだ。


    そこには鬼の形相をした男がただ1人。


    額に血管を浮き上がらせ剣を握った男は無理やりに作った笑顔で怒気を込めてこういった。


    エレン「ダズ王様。死ぬ前に一言どうぞ」


    端的に言えばダズはその瞬間なにが起こったか理解できていなかった。ただ思考が停止しその場で固まっていた。


    エレン「そうか……言い残すことは無いか……」


    エレンはそう言うと、ダズに近付きながらゆっくりと剣を構えた。


    そのひとこととエレンの行動で我に返ったのか、急に冷や汗を流し首を振る。


    ダズ「や、やめろ!なんでもやる!なんでも!金も!地位も!名誉もぉォオロロロロォ」


    ダズはただ吐いた。恐怖心と極度の緊張が彼の頭を支配し、それが直接嘔吐へと繋がったのだろう。


    エレン「てめぇのゲロに塗れたもんなんかなに一ついらねぇ!!!死んで詫びろくそ野郎がぁぁぁあ!!」


    エレンが手に持った剣を横薙ぎにする。


    地面にはダズのかぶった金色の王冠が音を立て転がり、ダズの体はゲロにまみれながら倒れた。

  126. 141 : : 2015/04/03(金) 20:15:35





    ◇ ◇ ◇





  127. 142 : : 2015/04/03(金) 20:16:24





    エレン「っはははははは。バカだなぁ。まあこれに懲りたら悪さすんのもやめるんだな」


    エレンは泡を吹いてゲロの中で気絶するダズをみて笑う。エレンは剣で軽く王冠を叩いて飛ばしただけだった。


    恐怖でなにも考えられないダズにとっては相当のショックだったのだろう。


    エレン「さてと……俺の仕事は終わりかね。外もなにやら終わりそうだし、作戦成功ってとこか」


    ゲロまみれダズはエレンが処理を近くにいた女の使用人に頼むと使用人は快く承諾した。


    女はダズにバケツの水をかけた挙句、王座に縛り付ける。


    日頃からダズに相当の恨みを抱いていたのだろう。その乱暴な扱いにはエレンも目を丸くした。

  128. 143 : : 2015/04/03(金) 20:17:50




    エレンは王座の間を後にし、イアンと対峙した部屋に戻る。


    イアンは壁にもたれ、うなだれていた。


    エレンが近付くと顔を上げ立ち上がろうとするが、エレンはそれを止めた。


    エレン「無理はするなよ。あれだけ戦ったんだ。相当体にきてるだろ」


    イアンは言われたとおりに再び座り直すと、エレンをまっすぐに見た。


    イアン「……ダズはどうなりましたか」


    イアンの目は真剣だった。


    が、エレンは先ほどの騒動とダズの成れの果てを思い出し、思わず吹き出した。


    いきなり笑い出したエレンにイアンは驚く。


    イアン「あの……」


    エレン「すまんすまん、思い出し笑いだ。あいつはもう自分の地位も名誉も投げ出した。今はずぶ濡れになって縛られて芋虫だよ」


    エレンの言葉にイアンは少し驚いた顔をしたが、すぐにくすりと笑った。


    イアン「とんだ臆病者ですね……いい気味です」


    エレン「周りにいたやつらも清々したって顔してたよ。よっぽど嫌われてたんだなあいつ」


    イアン「ええ、この城でダズに心から仕えている人なんてほとんどいませんでしたよ。みんな地位とか金とか、そんな物のためにダズに仕えているふりをしていたんです。……まあその中には家族のためにそうするしかなかった人もいましたが……」


    エレン「あんたもそうなんだろ?」



    イアンは無言でうつむく。



    エレン「助けたい人がいるからダズに仕えてきたんだろ?」


    イアン「……はい、その一心で今までダズに仕えてきました。リコのためだけに……」


    エレンはそれを聞くと立ち上がり、イアンに手を差し伸べた。


    エレン「ほら、行くぞ」


    イアン「行くってどこに……」


    エレン「そのリコって人のところまで案内してくれ」


    イアン「え……」


    エレン「助けたいんだろ?」


    イアン「しかしもうダズは……」


    エレン「何言ってんだ。もうあんな奴に頼る必要ねえよ。さっきも言ったろ?俺の仲間には世界一の聖職者様がいるってな」

  129. 144 : : 2015/04/03(金) 20:18:14





    イアンは少しの間黙ってエレンをじっと見つめていたが、しばらくしてゆっくりと口を開いた。


    イアン「私はあなたに酷い仕打ちをした。それなのになぜここまで……」


    エレン「俺は最初からあんたを助けたかったんだ。ちょっと刺されたくらいじゃ変わんねえよ。それに、困ってるやつを助けるのに理由なんていらねえだろ」


    そういうと、エレンはイアンの腕を掴んで立たせた。


    エレン「ほら早く行くぞ。あ、でも走ったりはしないぞ。お互い怪我人だからな」


    イアン「私は疲れただけで怪我なんてしてませんよ。私の肩に手を回して下さい。リコの所までお連れします」


    エレン「おう。じゃあ……」


    そう言いかけたとき、エレンが子供の姿に戻ってしまった。


    それを見たイアンはくすりと笑うと、エレンのことをおぶる。


    エレン「なんかすまんな……」


    イアン「大丈夫ですよ。では、リコの所へご案内します」


  130. 145 : : 2015/04/03(金) 20:19:01





    だだっ広い廊下を歩いていくと、小さな部屋に行きあたる。いままでの部屋のスケールで感覚がおかしくなっているのか、その部屋はあまりにこじんまりとして見えた。とはいえ、この国の一般的な家庭の部屋の広さからみればかなり大きいものだろう。



    ドアをくぐると簡素なベッドに横たわる1人の女性の姿があった。



    短く切りそろえられた白銀の髪は艶を失っている様に見え、陶磁のように白い肌には玉のような汗が張り付いていた。



    眠りについている彼女の顔は苦悶にゆがんでおり、時折としてうなされているように見える。



    エレンはベッドに歩み寄ると何やら、女性に触れて確認を始める。




    エレン「高熱、不整脈……しかも散瞳の所見があるな……」



    イアン「なにかわかるんですか!?」



    エレン「いや俺もそんなに知識があるわけじゃないが、どっかで見たことがある気が……とにかく彼女を連れて急ごうなんかやばい気がする」




    イアン「で、でも!リコを動かすよりその聖職者の方を連れてきた方がいいんじゃ!」



    エレン「恐らく定期的な投薬の時間を過ぎてるんだろう。症状がかなり酷い。行ったり来たりしてる時間はない!この人を負ぶって急ごう!」


    イアン「は、はい!」



    エレンとイアンは急いで城を後にした。


  131. 146 : : 2015/04/03(金) 20:21:05





    かくして多くの怪我人を出しながらも、街の人々達の力によってダズの絶対王政は瓦解した。



    しかし、安易に喜ぶ事は出来なかった。








    ゲルガーの腹には大きな穴が空いている。兵の突き出した剣が貫通したことにより、内蔵を大きく損傷し大量の出血を伴っているためいつ命を落としてもおかしくないといった状態だった。



    住民が集まるが為す術もない時に、ミカサが呼んだクリスタが駆けつけ治療にあたった。しかし、クリスタも封印した状態では治癒にも限界がある。



    一般的にクリスタのような聖職者の治癒術は神聖術と呼ばれ、神聖力いわば生命力を増幅し分け与える事で治癒をもたらしている。



    つまり身体の小さくなったクリスタでは神聖力はさほど強いわけではない。女性は子を産むため神聖力が男性の約10倍と言われているが、子供ともなればその力は激減する。



    いくらクリスタが選ばれた聖職者とは言えど神聖力を消費し過ぎれば彼女の命に関わる事となるのだ。



    しかも既にクリスタはかなり消耗している。このままのペースでゲルガーを治療し続ければ完治を待たずに気を失う事すらあり得る。



    そのことはクリスタ自身も理解していた。しかし、ゲルガーにすがるニファの姿を見て彼女の頭の中に諦めるという言葉は浮かび得なかった。



    クリスタ「ニファちゃん……大丈夫。私がかならずゲルガーさんを治すから……!」



    ニファ「クリスタさん……」




    クリスタ「そんな心配そうな顔しないの!私を信じて」



    そうクリスタが微笑みかけながらニファの頭を撫でる。



    クリスタの幼いながらも、慈愛に満ちた愛らしい微笑みははその場の者達の目を釘付けにし、同性のニファにすら動揺と赤面をもたらした。


    ニファ「……は、はい!」



    住民(め、女神がおる……!)


  132. 147 : : 2015/04/03(金) 20:23:46





    その後アルミンもすぐに駆けつけミカサと共にクリスタのサポートに徹した。



    周りの人間の様々な協力により、なんとかクリスタはフラフラになりながらも完治はしないものの、寛解と言える状態に持ち込んだ。



    アルミンの見立てによれば、街の病院で薬を貰い安静にすればすぐに完治するだろうとの事だった。



    これでようやく一安心。そう思った矢先。エレンとイアンがクリスタ達に向け走ってきた。



    エレン「おーい!クリスタいるか?」


    子供の姿で傷をかばいながら必死に走ってきたエレンは、すぐにクリスタに駆け寄った。



    エレン「あの女の人危ないんだ。クリスタなんとかならないか!?」



    彼女前にリコを寝かせ、エレンとイアンは必死の顔で彼女を見つめた。



    しかし、クリスタは完全に力を使い果たし疲弊していた。そのことをエレンは知らないのも無理はない。彼は今の今まで城の中を駆けずり回っていたのだ。



    アルミン「エレン。今のクリスタに治療は無理だ……彼女はもう神聖力をほとんど使い切ってる。これ以上は彼女が危ない」



    エレン「嘘だろ……」



    うつむき加減に告げるアルミンの言葉にエレンとイアンは戦慄した。




    リコを助けられると思った。希望をつかんだそう思った。しかし、その希望は手をすり抜けて逃げてしまったのだ。



    その困惑が怒りに変わるのにそう時間はかからなかった。


    イアン「なんでだよ!あんた、リコを助けられるって言ったじゃないか。なあ!!」




    涙ながらにイアンはエレンの胸ぐらを掴み上げる。



    イアンもそれが八つ当たりだと言うことはわかっていた。エレンは確かにリコを救おうと必死だった。



    彼は決してイアンを謀ったわけではない。しかし、そうせずにはいられなかった。



    ようやく見えた微かな希望すら絶たれた彼にとって、どうしようもなくやり場のない気持ちを八つ当たりと言う形でエレンにぶつけなければ、自らを保っていることすらままならなかったのだ。
  133. 148 : : 2015/04/03(金) 20:26:43





    エレン「まだだ……まだ終わってない!」




    エレンはイアンの目を見て叫ぶ。



    エレン「俺はこの人の症状を見たことがある。どこで見たのか分かれば、助かるかもしれない。それにアルミンは賢者だ。希望が一つ消えたくらいで諦めてたまるか!」




    エレンのあまりの迫力にイアンは思わず手を離す。するとエレンはすぐにリコの様子を見ているアルミンに駆け寄る。




    エレン「アルミンこの人の症状なんだけど。高熱と不整脈それと散瞳なんだが。何処かで見た気が……」




    アルミン「エレン!それ本当かい!?」




    エレンの言葉にアルミンは物凄い勢いで食いつく。あまりの勢いに流石のエレンもたじろぐ。



    エレン「ああ。ちゃんと見覚えが……」



    アルミン「そっちじゃなくて!症状!」



    エレン「お、おう。ちゃんと確認したからな」



    するとアルミンはすぐにリコのそばに行って身体をいくらか調べ始め、それを終えてすぐに立ち上がった。



    アルミン「エレン……これ僕も見たことがあるよ。多分クリスタもね」



    エレン「お前らも知ってる……!?ってことは魔王と戦う前か……そ、そうかわかったぞ!」



    アルミン「そうだよ。サシャがその辺でとって来たキノコを食べて倒れた時と同じだ」



    サシャがキノコを食べたときとまったく同じ症状。それこれが病気ではなく、毒を盛られた可能性を示唆していた。





  134. 149 : : 2015/04/03(金) 20:29:00





    その話を聞いて、先ほどから黙っていたミカサの顔に明らかに怒りの色が浮かぶ。



    ミカサ「それってリコさんの病気はダズによって仕組まれてたってこと……?イアンさんは騙されていたってことなの……?」




    あまりにも酷いやり口。到底人間のすることとは思えなかった。



    そのことにミカサは静かに怒りを燃やしていた。今までだって怒っていたが、街の人に比べればそう思っていた。




    だがそのときミカサの堪忍袋の緒が弾け飛んだ。



    ミカサ「エレン。着いて来て!!」



    エレン「え?どこ行くんだよ?リコさんは!?」



    アルミン「リコさんなら僕がなんとかするから大丈夫だよ。殺さないようにね」




    エレン「え?え?なんだ!?」



    アルミンは物知り顔で苦笑いをする中、ミカサはエレンを引きずるようにして腕を引っ張り城の方に足を向けた。




    エレン「え!?ちょ、ミカサさん!?引きずらないで!痛い!腕!怪我してるから!!千切れる千切れる!いやああああああああ」




    そしてわけもわからぬまま引きずられるエレンの叫び声がただあたりにこだました。





  135. 150 : : 2015/04/03(金) 20:29:27





    ◇ ◇ ◇





  136. 151 : : 2015/04/03(金) 20:34:09




    エレンはようやく自由を手に入れ、先ほど止血を終えた腕の傷を涙目になりながらさすっていた。



    エレン「いてて……んで?なんでこんなとこ来たんだ?」




    ミカサ「ダズを殴りにきたの。案内して」




    エレンはミカサを止めようとも考えたが、どう考えても止まらないことは彼女を見ればわかった。



    エレン「はぁ……」



    今止めればエレンがとばっちりを食らうだろう。これ以上出血するとシャレにならないので、ひとまず黙って付きそう事にした。




    城内は無駄に広かったが、一度来ているエレンのおかげですんなり目的地に着くことができた。



    大穴を穿たれた扉の先にはダズを運ぼうとする使用人の姿があった。



    なんともえげつないことに、芋虫状態のダズを足を引きずって運ぼうとしている。



    ダズはもう目覚めている様子で、ぎゃーぎゃーとわけのわからないことを叫んで暴れている。そのせいで、ダズの運搬は難航を極めている様子だった。



    そんなことはミカサはどうでもいいようで、ズカズカとダズのもとに近寄ると笑顔を無理矢理つくる。




    ミカサ「その人少し私に貸してもらっても?」



    使用人「ひっ……!は、はい大丈夫ですが……」



    ミカサ「そう。ありがとう」




    どうみても目が笑っていないミカサに使用人も顔が恐怖に引きつっている様子だった。



    エレン「悪い。この子今ちょっとやばいから先行っててくれるか?こいつは俺たちが連れてくから」



    使用人「は、はい。お願いします」



    先ほどエレンの頼みとして引き受けたことを考えれば無責任な話だが、ミカサのおかげでそんなことを言ってる場合ではないだろうし、粘れば面倒ごとが増えるのは間違いない逃げるようにその場を後にしてくれたことをむしろ感謝すらすべきかもしれない。


  137. 152 : : 2015/04/03(金) 20:38:59






    ミカサ「さて。人はいなくなったことだし。ダズ王様ご機嫌麗しゅう」



    ダズ「やかましい!さっさとこの縄をほどかんか!!」



    ダズに空気を読むスキルは備わっていないようでただミカサを怒らせ、エレンを呆れさせるのみだった。



    ミカサ「質問にお答えいただけるなら考えますよ?」




    ダズ「ええい!やかましい!とっととほどかんか!!」



    ダズがその言葉を言い終えたとき、ダズの顔の真横に勢い良く足が踏み降ろされ。大きな音が響く。



    ダズ「ひいい!?」



    ミカサ「立場を弁えて。あなたの命は今私の手の中。わかるわね?」



    ダズ「わ、分かったから殺さないでくれ。なんでも答えるから」



    すると乾いた音が響き渡る。ダズの頬をミカサが思い切り引っ叩いたのだ。



    ミカサ「それが人にものを頼む態度?お願いしますでしょ?」



    ダズ「な!?何を偉そうに!俺は王だぞ!!」



    不必要に積み上げられたダズのプライドが彼自身の墓穴を掘る事となる。



    ミカサはニヤリと笑いエレンの方を振り返る。



    ミカサ「へぇ。良いの。エレン剣貸して!」



    エレン「へいへい」



    エレンもミカサがダズを殺すとも思っていなかったし、今逆らうと勝てる気がしないしなかったため素直に抜いた剣を手渡す。



    ミカサ「さよなら。ダズ王様」



    そう、ゆっくりと口にするミカサにあわててダズは取り繕うように告げる。



    ダズ「す、すみませんでした!なんでも話しますから!殺さないでください!お願いします!」



    ミカサ「そう。素直なのが一番」



    ニコニコと笑うミカサの姿はさながら鬼。恐ろしく。先ほどからエレンももう見ないことにしている。


    だがそれも収まるところを知らぬようだった。



    ミカサ「あなたイアンさんを利用するために、リコさんに毒を盛ったの?」




    ダズ「そ、そんなことしてません」




    ミカサ「嘘を付くの?」




    ミカサが両手で剣を振り上げるとダズはまた焦り始める。




    ダズ「待って!待ってください!やりました!部下を飲食店に潜り込ませ、死なない程度のドクハゲツルタケをを煎じた薬をあの女の食事に仕込ませました」



    ミカサ「そう……」




    ミカサは静かに拳を握りしめていた。エレンも流石にまずいと思ったのか止めに入ろうとするが、震えた手で制されてしまう。



    ダズ「あ、あのぉ……これで私は……」



    そんな様子などつゆしらず、ダズはおずおずと伏し目がちに尋ねる。


  138. 153 : : 2015/04/03(金) 20:55:20





    ミカサ「そうね約束通り解放……するわけないでしょうが!!!」



    ダズ「うがぁぁああああ」


    ダズの顔面を思いっきり殴りつけた。歯が折れ血が吹き出す。縛られたダズは呻きながら悶えることしかできなかった。



    ダズを殴ったミカサの拳も、歯で切れたのかぱっくりと裂けて血が流れている。



    エレン「これぐらいにしとけよミカサ。お前の手が……」



    ミカサ「リコさんとイアンさんの苦しみはこんなものじゃない……!」



    ミカサはもう一度ダズの前に詰め寄り、胸ぐらを掴み上げる。



    ミカサ「あなたは人の命を、人生を弄んだのよ!?自分の欲の為に人を苦しめて!あなたのために声を失い歩けなくなった人だっている!」



    ダズ「お、俺は王だ……民は俺に尽くしてあたりまえだ!!」



    ミカサ「ふざけるな!!」




    ミカサは馬乗りになってダズの顔を何度も何度も殴りつける。



    ダズの口から血が流れ、ミカサの手から血が流れる。



    ミカサは人を殴ることの痛みを知っているし、殴られることの痛みも知っている。



    彼女はだから泣いていた。




    しかしその思いはダズに届かない。



    ダズ「国民は俺のものだ!俺がどうしようとも俺の勝手だ!」


    まるで自分にそう言い聞かせるかのように涙ながらダズは叫び続ける。その様子にミカサは嘆息する。



    ミカサ「わかった。なら今からあなたを殺す」



    エレン「おいちょっと……!ミカサ!」



    エレンの制止も聞かずミカサは剣を拾い上げると、ダズの頭に突き立てんと剣を振り上げる。



    そしてその剣はダズに向け振り下ろされた。



    剣が突き刺さる音が響く。



    剣はダズの耳をかすめ、地面に突き刺さっていた。


    ダズに当たっていないことを確認してエレンはホッと胸をなでおろした。



    ダズ「あ……ああ……」


    ミカサは本当にダズを殺す気だった。その業を一生背負い、生きて行くつもりだったのだ。




    しかし殺せなかった。ダズに剣を突き立てようとした時ダズが嬉しそうに安らかな笑みを浮かべたから。



    死ぬことがまるで嬉しいかのように。



    その表情に困惑しながらもミカサは続ける。



    ミカサ「これがあなたのやったこと。死ぬのは怖いでしょう?それだけじゃない、女性を辱めて捨てる様な真似もした。もしかして、今から裸で城の外に吊るしてあげなければわからない?」





  139. 154 : : 2015/04/03(金) 20:55:48





    ダズは血塗れの顔に涙を流していた。きっと今度は恐怖とは別の涙をだろう。


    もとより彼自身なにをしているのかなど理解しているのだ。




    ダズは涙ながらに語り始める。



    昔から先代は優秀で民のための政治を行い、有事は真っ先に身を切った。時にはこの国の発展のため国民の反対を押し切ってでも税を上げたりすることはあったが、後に国を豊かにし国民へと還元することで支持を集め続けた。後には国民は王と苦楽を共にすることを喜んで受け入れた。名実共に賢王と言える存在だった。しかし、彼の息子であるダズはあらゆる才に乏しく城の中では出来損ないとして扱われた。母はダズが幼い頃になくなり、父は王政が忙しく彼の味方はいなかった。優秀で民に慕われる父を尊敬していた。しかし、おいすがろうと努力すればするほど現実は彼を追い詰めた。父が亡くなり、ダズが王の座についてからも変わりはしなかった。街では先代の息子とは思えないと言われ、邪険にされた。彼なりに精一杯やったつもりだった。ただ認めて欲しかった。誰でもいい、ただ流石は先代の息子だと言って欲しかっただけなのだ。しかしそれは叶うことはなかった。そこからダズは狂い始めた。周りからの重圧に耐えきれず、周りを抑圧するという考えに至った。それが許されないことだとは分かっていたが、そうすれば国全体はダズを王と崇めた。ダズはそうやって自分の居場所を生み出した。一度やってしまえば事はエスカレートするのみだ。自分の居場所を守るためには力が必要だった。そのためにリコを利用してイアンを無理矢理引き入れたりもした。事を重ねる度その事はダズを罪の意識が苛んだ。それを逃れるために女を抱くようになり、今に至る。自分がやっていることが卑劣極まりない事は理解していた。だが、ここでやめてしまえば今まで以上に酷い現実を突きつけられる事となる。それがただ怖かったのだと。

  140. 155 : : 2015/04/03(金) 20:56:52





    ダズ「認めて欲しかった。親父に褒められるくらいにすごい王になりたかった。でもうまくいかなくて、頑張っても昔と変わらなくて。道を踏み外した。認められるわけないよな……バカだよ……」



    ミカサ「そうね。とんでもないバカよ……さて。エレン帰ろ。みんな待ってる!」


    先ほどとは一変スッキリした様な満面の笑みで告げるミカサの変わり身の早さにエレンは少し気圧される。



    エレン「お、おう。で、こいつどうすんだよ」



    ミカサ「置いといたら殺されちゃうじゃない。縄を解いて街の人とかナナバさんとかに交渉しよ!」



    以前何処かで聞いたような話にエレンは嬉しそうに笑った。



    エレン「ああ、そうだな」

  141. 157 : : 2015/04/05(日) 20:01:35





    エレンとミカサが戻る頃には全員揃って2人を待っていた。



    ダズの怪我を全てミカサがやったと言ったらアルミンを含めみな一様に驚いていた。それどころか一歩後ずさってすらいた。



    確かに特別力があるわけでもなく、ついこの間まで村人だった女の子がこんな事をするというのもなかなか異常な話である。



    それはさておき、先ほどまで苦しそうにしていたリコもアルミンの治療のおかげかすっかり顔色も戻り安らかな表情で眠っていた。



    本当の意味でこの時ダズとの戦いが終わったそんな気がした。




    傭兵として雇われた兵士たちはダズがエレン達に捕まった時点で逃げていったようだ。



    ダズが敵の手に落ちれば報酬も期待出来ない。義理堅く戦う必要など金が全ての彼らには微塵もないのだろう。



    その後皆で戦傷者の治療や人数の確認作業を行った。
  142. 158 : : 2015/04/05(日) 20:02:13





    ちょうどミカサが気を失っているゲルガーに付ききりというニファの様子を見ようとあたりを探しているとニファの声が聞こえてきた。



    ニファ「お、お兄ちゃん。まだ起きちゃダメだよ!」


    ゲルガー「このくらいの怪我どうってこと……ッ!」



    怪我をおして起き上がろうとするゲルガーを止めるニファの姿があった。


    ミカサはすぐに駆け寄りゲルガーを止めるニファの加勢に入る。



    ミカサ「もう。怪我人は黙って寝ててください。仕事増やさないでもらえますか?」



    ミカサの笑顔の圧力に負けてか、ゲルガーはおずおずと再び横になる。



    そして、神妙な顔つきでミカサに声をかける。



    ゲルガー「なぁ、ミカサ。ありがとな。お前がいなきゃ俺らは死んでたかもしれねぇ。それによくあんな頑固な奴らをどうやって動かしたんだ?しかもニファの声まで。なにがあった」



    ミカサ「ああ。私はなにも。どこから話せばいいかな……」



    ミカサは少しずつ思い出すように語り出した。


  143. 159 : : 2015/04/05(日) 20:02:34





    ◇ ◇ ◇
  144. 160 : : 2015/04/05(日) 20:03:45






    ミカサはニファが指差す先にあった高台にあるたかいやぐらのような木組みの建物まで来ていた。



    そこからニファがその上を指差すため。ミカサは今ニファを背負って登っているところだ。




    ミカサ「よぉい……しょお……!」



    ミカサは息を上げながら、シガンシナ城下町の高台に設置された梯子を上る。


    その背には、ニファの姿



    ミカサ「もう……少し……ね!」



    ニファからの指示で、ミカサは彼女をおぶったまま高台を上っていたのだ。



    ミカサ「ぶはっ!」



    二人はようやく高台の最頂部までたどり着く。


    ミカサ自身掌の傷はあったものの、ニファの必死な想いに当てられたのかフランツが代わりに行くと言った時も、自分がいくと言って聞かなかったのだ。



    フランツ「おお! 無事に着いたみたいだな!」


    ハンナ「ええ……でも……」



    フランツとハンナの二人は、高台の下でミカサ等の姿を見守っていた


    ハンナ「ニファさん……一体何を……?」



    ミカサ「はぁ……はぁ……はぁ……」


    頂上にたどり着いたミカサは、そのまま高台の床へ寝転がる


    すでに何時間も走り続け、更に人を抱えて高台の梯子を上り切ったのだ


    常人であれば、疲労により気絶してもおかしくはない。


    ミカサはもう精神力で動いているといっても過言ではなかった。



    ミカサ「うわぁ……!」



    そんな彼女であったが、寝転びながら見上げたその天井には、かなりの大きさの見事なまでに雄々しい鐘が吊るされていることに気付いた。


    ミカサ「すごい……!」


    数年は放置されていたのであろう、鐘は埃にまみれ多少のカビが生えているものの、その堂々たる存在は、見るもの全てを魅了する程の気高さを感じることができる。



    ニファは少しずつ這うように進み、鐘の中央にぶら下がっているロープ下へ移動した。



    ニファ「……っ!……!」



    ただ、立ち上がれない彼女は、1メートル以上の高さのあるロープを掴むことができない。



    ミカサ「ニファさん……!」



    ミカサ「もしかして……鐘を鳴らすつもりなの……?」



    彼女は必死に手を伸ばす。



    鐘を鳴らすことで、何かができるとは思ってはいない。



    鐘を鳴らすことで、住民に何かを伝えることなどできないかもしれない。



    鐘を鳴らすことで、この状況を打破できるような都合が良い話等ないことは判っている。



    ニファ「う……あ……」



    だが、彼女が今できること。



    命懸けで戦う兄のためにできることは、鐘を鳴らすことぐらいしか思いつかない。



    ニファ「っ!」


    その時、ニファの体をミカサが持ち上げる。


    ミカサ「この鐘を鳴らしたいのね? ニファさん!」


    とうに肉体の限界を超えたであろうミカサが、額に玉のような汗を浮かべながらもニファの体を支えてくれていた。


    ニファ「あ……!」


    ミカサに持ち上げられた彼女の目の前には、鐘を鳴らすためのロープが見える。


    2年前では当たり前に毎日鐘を鳴らしていた光景が彼女の脳裏を走り過ぎた。


    だがしかし、それは過去の話。



    今想うべきは、命を賭して戦う反乱軍のこと。


    兄は自分の仇討ちのために命を落とすかもしれない状況なのだ。


    『過去』を振り返っている暇はない。


    何をされたか忘れること等できない。だが大事なのは、『今』自分にできることを、精一杯成すこと。

  145. 161 : : 2015/04/05(日) 20:04:25





    ニファ「あぁぁあぁぁあぁああああ!!!」



    これまでの全ての想いを込め、彼女はロープを力いっぱい握り、鐘を鳴らした。



    ゴーーーーン、ゴーーーーン、と


    その鐘の音が街中に木霊する。



    1回、2回、3回、4回


    ニファ「あぁぁーーーーっ!!!」


    5回、6回、7回、8回


    声なき少女は、無くした声を振り絞るように叫び続ける。



    ミカサ「ニファさん……!」



    ミカサの眼に映った、ニファという声なき悲劇の少女はそこにはいなかった。誇りを取り戻し目の前にある絶望に立ち向かう気高き戦士の姿がそこにはあった。



    フランツ「……鐘だ……! シガンシナの鐘の音だ!」


    ハンナ「2年ぶりに聞いたね……この音色……」




    9回、10回、11回、12回




    ニファ「あぁぁあああああああああ!!!」



    少女は叫び、鐘を鳴らし続ける。


    すると、城下町に異変が起こる。



    閉じられていた全ての家のドアが、一つ、また一つと開けられていくのだ。


    「……なんだ、鐘の音……?」


    「これ……2年前まで響いてたお昼の鐘じゃないか」


    「こんな夜中に……なんで……」



    住民たちは一人ずつ、その鐘の音の元へ集まってくる。





    フランツ「えっ……!」


    ハンナ「う……嘘……!」



    鐘の音が鳴り始めて、ものの数分の出来事。


    しかしそこには、既に300人を超える住民達の姿があった。

  146. 162 : : 2015/04/05(日) 20:04:56





    「おい……あれ、ニファちゃんじゃないか……?」


    「本当だ……お昼の鐘のニファちゃんだ!」


    「あ、あの子でも……! ダズの城に連れていかれてから、歩けないし喋れない体になったって……!」





    ニファ「うぁぁああぁぁああああ!!!」


    既に20回は鐘の音が鳴ったのだろう。


    だが彼女は、鐘を鳴らすことを、止めない。



    「声……出してるぞ……叫んでる!」


    「なんで……どうしたの……ニファちゃん……!」


    「あの子が意味もなくこんなことをやるかい!何か意味が……!」



    ミカサは不意に、城下町を眺める。


    ミカサ「……わ……!」


    続々と住民達が高台の下へ集結し、その人数はゆうに1000人を超えていた。




    ニファ「あぁぁぁぁ……!!」



    普段動くことのない彼女の力も弱まり、鐘は少しずつ鳴りやむ。



    ニファ「はぁ……はぁ……」

  147. 163 : : 2015/04/05(日) 20:05:57




    そして彼女はロープを離し、ミカサに向かって自分を高台の外壁側に連れていくよう指さす



    ミカサ「た、高台の端に行けばいいのね?」



    ミカサはニファをおぶったまま移動し、高台から住民が見渡せる位置へたどり着いた。



    「あ……おい見ろ!ニファちゃんだ!」


    「ニファ姉ちゃああーーん!」


    「あの……歩けなかったニファちゃんが……!」



    集まっていた住民たちは、顔を出したニファに注目する。



    ニファ「はぁ……はぁ……」


    ミカサ「大丈夫? ニファさん」


    ニファ「はぁ……はぁ……」



    叫び声を上げ、自分の力を振り絞って鐘を鳴らした彼女は。



    無くしていたその声で、ミカサを真っ直ぐ見つめながらこう言った。



    ニファ「……ありがとう。ミカサさん」



    ミカサ「え……」





    ニファ「みんな!!聞いて!!」



    彼女は高台から皆へ向かって叫ぶ。



    「え……」


    「ニファちゃん……声が……?」



    フランツ「お、おいハンナ! ニファさんが……!」



    ハンナ「うん……! うん……!」



    ハンナの目頭からは、涙が零れる。



    ニファ「今……今! この王政を変えるべく、反乱軍と勇者様たちがシガンシナ城へ攻め込んでいます!!」



    ニファは続けて叫んだ。



    ニファ「でも……反乱軍の兵は少ないし……勇者様も限りある時間しか戦うことができません!!」



    枯れている声で。



    ニファ「このままでは反乱軍は全滅し、二度とこの王政を変えるチャンスはなくなる可能性もあります!」



    精一杯。



    ニファ「勝てるかなんて分からない、誰も死なないなんてことは言えない……でも!!」




    その目に涙を浮かべながら。



    ニファ「私たちは誇り高き、シガンシナの住民です!!」



    思いの丈を、叫んだ。



    ニファ「例え肉体が滅んだとしても、シガンシナの誇りまで失ってはダメ!!」



    ニファ「この腐った王政を……王政を変えなきゃいけないの!!」



    ニファ「そうしないと……いつまでも憎しみしか生まない国となってしまう!」



    ニファ「みんなお願い!!力を貸して!!」




    ニファ「私の……私の兄を……!」



    ニファ「お兄ちゃんを……助けて……!!」




    全てを出し切った彼女は、涙で震える声が漏れぬよう片手で口を塞ぐ。


    ミカサ「ニファさん……」



    ニファの痛すぎる程の想いが、ミカサにも伝わってきた。


    住民たちは、ニファの咆哮を聞くも、誰もしばらく声を発せなかった。


    声を失った少女の、精一杯の声。


    驚きもさることながら、今目の前で起こっている状況を少しずつ理解していたのだろう。


  148. 164 : : 2015/04/05(日) 20:08:08





    誰もが声を発せない、そんな中どこからか歌声が響いた。




    「我ら誇りは自由の軍勢__」



    「由々しき魂忘れるなかれ__」



    ポツリ、ポツリとその歌の声は大きくなる。



    「愚行の螺旋を打ち砕くのは__」



    「蒼穹を舞う、気高き兵士__」



    シガンシナの国を称える、戦火の歌だった。




    フランツ「両手には戦意、希望を唄い__」



    ハンナ「さあいざ行かん、自由の地平線へ__」




    そこに集まっていた1000人以上の住民が。



    声を揃えシガンシナの魂の歌。戦場の勇唄を歌っていたのだ。




    ミカサ「は……はは……!」



    ニファ「うぁ……!」



    ミカサ「動いた……みんなが……みんなが動いたよ! ニファさん!」



    ニファ「ううぁ……!」



    ニファの目から、ボロボロと涙が落ちる



    ミカサ「貴方が……貴方の声が……みんなの心を突き動かしたの!!」



    「「「「おお、シガンシナ__誇りを求め__」」」」」



    「「「「振り返るな__我らは戦士」」」」」




    1人、また1人と住民の数は増えていく



    少女の叫びと唄。たったこれだけで、シガンシナの住民はその誇りを取り戻したのだ



    高台の下には5000人以上の住民達




    「さあ!!みんな武器を取れ!!」


    「ああ!改革の始まりだ!反乱軍に遅れを取るな!!」


    「小さな女の子が頑張ってると言うのに俺たちはなんと情けないことか!!」


    「彼女のような犠牲者を、これ以上出させる訳にはいかん!!」


    「行くぞ!!シガンシナの誇りを今こそ取り返す時だ!!」




    おおおおーーーっ、という叫び声と共に、凡そ5000人の進撃が始まった。



    それは高台の下だけではなく、他の地区までも、人から人へ伝染されていく。


    フランツ「さあ! 僕らも行こう! ハンナ!」



    ハンナ「ええ!!」



    誰しも、今の王政を認めるものなどいなかった。



    皆、その悪行に目を瞑っていただけだった。



    現実から目を背けることをやめ、彼らはようやく取り戻した。



    人間としての、シガンシナ住民としての誇りを。



    ミカサ「ニファさんのおかげね……!」



    ミカサは泣き崩れていたニファを抱きながら、そう呟く。


    ニファ「……ミカサさん。それは違うよ」


    ニファは顔を上げ、ミカサにはっきりと言い放った。


    ミカサ「え……」


    ニファ「皆を動かしたのは、私じゃない」



    ニファ「ミカサさんやフランツさん、ハンナさんが住民の皆に声をかけてくれたおかげ」


    ニファ「私が鐘を鳴らそうが、叫ぼうが、こんなに人は動かなかった」


    ニファ「みんながミカサさんたちの言葉を聞いていたから、今、皆が私の声に耳を傾けてくれてくれたの」



    ミカサ「……ニファさん」



    ニファ「だから、これは、ミカサさんたちのおかげ……」



    ニファはそういうと、傷だらけのミカサの掌を手ぬぐいで拭った



    ニファ「さあ! 私たちも行こう! ミカサさん!」


    ニファ「お兄ちゃん達を助けに!」



    ニファ眼にはすでに、過去の迷いはなかった


    彼女は声を取り戻し、『今』を歩き出したのだ



    ミカサ「ええ……! 行きましょう!」



    ミカサはそういうと、再びニファを背負い高台を降りて行き、
    住民らと共に、戦場へ向け走り出した。



  149. 165 : : 2015/04/05(日) 20:09:00





    ミカサ「とまあそんなこんなで。皆さん協力してくれました」



    ゲルガー「お前すげぇな。よくぶっ倒れなかったってもんだぜ」



    ミカサ「昔から一日中走り回ったり、農家の仕事なんかもよく手伝ってましたから、こう見えて体力には自信があるんですよ」



    そう言って力こぶを作って見せる。ミカサをみてニファがおかしそうに笑う。



    ニファ「体力に力こぶは関係ないんじゃないですか?」



    ニファにつっこまれ少し恥ずかしそうに、慌てて腕を下ろすとミカサもおかしくなってか笑い始めた。


    ひとしきり笑い終えると、ミカサは立ち上がり言った。



    ミカサ「そろそろ行きますね。まだ怪我してるひとみなきゃ」


    ニファ「ミカサさんありがとうございました。話せたのも、こうして勝てたのもミカサさんのおかげです!」



    ミカサ「あはは……私はなにも」



    ニファの言葉に悲しそうな笑みをミカサは浮かべた。


    ミカサはその時無力感を感じ、とても自分のおかげでなどと言われて良いとは思えなかった。


    だがしかし、そんなミカサの様子をみて嘆息すると言った。



    ゲルガー「はぁ……ったく。お前がいなきゃどうにもなんなかったんだよ。それを俺たちも、お前の仲間だって認めてる。そんなしょぼくれてねぇで胸はれよ」



    確かに住民を動かしたのはニファの鐘だ。だが、それはきっかけに過ぎない。



    ミカサの声かけがなければ。いや、そもそもミカサがいなければニファは鐘にすらたどり着けない。



    考えればきりがないが、ミカサがあの場にいなければそう事はうまく運んではいなかっただろう。



    そもそもあんな長時間ぶっ通しで走れるような体力の持ち主はこの国ではそう多くはない。


    それを理解し、ゲルガーもニファも彼女を認めている。



    彼らの言葉を聞いてミカサの悩みが解決したかといえば、そんなことはないが彼らに認められていると言うことをしって少なからず救われていたのは間違いない。



    ミカサ「ありがとうございます。ではまた後で来ますね」



    少し嬉しそうに笑いながらミカサはその場を離れた。





  150. 166 : : 2015/04/05(日) 20:10:57





    ◇ ◇ ◇






  151. 167 : : 2015/04/05(日) 20:11:05





    翌朝、圧政から国を救った英雄たちはシガンシナ城の門に居た。



    ゲルガー「本当にもう行くのか?」



    エレン「ああ。楽しかったぜ。ありがとな」



    ゲルガー「いやいや礼を言いたいのはこっちだ。な?」



    そう言い、横に居る妹を見やる。



    ニファ「もちろん!本ッ当にありがとうございました!!」



    ハンナ「せっかく明後日挙げる式で最高のおもてなしをしようと思ってたのに……」



    俯くハンナ。



    エレン「また遊びに来るからさ。そん時にはガキの顔でも見せてくれよ」



    途端に顔を赤くして伏目になるハンナとフランツ。



    ミカサ「エレン……それは少し下世話じゃない?」



    エレン「あぁそれもそうか。悪かったな」



    ハンナ「とりあえずまた絶対来て下さいね!!」



    アルミン「もちろんだとも」



    イアン「本当に、本当にありがとうございましだッ!ごの、ぐでゅっだおれでぃっでゅふ…」



    リコ「ちょっと何言ってんの」



    泣き崩れながらお礼を言うイアンの横で、呆れて笑うリコ。



    その頬には、一筋の涙が流れていた。


  152. 168 : : 2015/04/05(日) 20:12:03





    そして、その場を見守っていたナナバが一歩前に出て4人と握手を交わした。



    ナナバ「4人とも、本当にありがとう。君たちのおかげでこの国は平和と秩序を取り戻せた」



    エレン「俺たちはただ手助けをしただけだ。これはシガンシナ住民達が誇りを取り戻し、戦った結果だ」



    ナナバ「そうだね。ありがとう。ダズもまあ散々やってはくれたが被害者の部分もある。しばらくは罰を与えるつもりだが、そのうち政にも参加してもらうつもりだよ。なかなかどうして、彼は知識は深いみたいだしね」



    エレン「おお!そりゃよかった!」



    そう言い微笑む。ナナバエレンは嬉しそうな様子だ。


    ナナバ「ところで、城の中の宝箱で宝玉を見つけたんだ。言っていた通りのところにあったよ」


    アルミンに光る真珠のような玉を手渡す。


    しかし受け取ったアルミンは浮かない顔をしていた。


    アルミン「残念ながら……これは偽物です」


    ナナバ「なんだって?」


    アルミン「恐らく自慢の元にしたかっただけでしょう」


    ナナバ「偽物だったのか……」


    ろくに先日の例も出来なかった成果残念そうにナナバは肩を落とす。


    アルミン「まあ、大丈夫ですよ。他にも候補地はあります。むしろ冒険するのが楽しくなってきたので違うことが分かって嬉しいです」


    と、ナナバに微笑みかける。


    ナナバ「次は……スカイピア、だっけ?」


    アルミン「ええ。どんな国か、伝え聞いた情報しかありませんが……」



    エレン、ミカサ、クリスタの顔を見渡す。



    アルミン「僕たちなら大丈夫です」



    ナナバ「ははっ、そうかもしれないな」



    その言葉に笑いながら頷いた。



    クリスタ「あ、そうそうゲルガーさん」


    ふと思い出したかのようにゲルガーに話しかける。


    ゲルガー「んあ?」


    突然呼ばれたゲルガーは間の抜けた返事を返す。


    クリスタ「あの…ニファさんも治ったことですし……その、これ、お礼とお祝いですっ」


    後ろ手で隠し持っていた箱をゲルガーに満面の笑顔で渡した。


    ゲルガー「ん?んんん??こっ、これは……」


    箱を見たゲルガーの目の色が変わる。


    ゲルガー「こ、これって……東の島国ポンジャでしか作られてない名酒……オニゴーロシか!」


    クリスタ「すみません、これぐらいしか用イッ!?」


    ゲルガー「ありがとう!!ありがとう最高だよ!!本当にありがとう!!!これできっと旨い酒が飲める!!!いやぁ、ニファが連れ去られてから酒が不味くてな!」



    感動の余りクリスタに抱きつくゲルガー。


    ニファ「……お兄ちゃん」


    ゲルガー「え?あっ…あっ!ごめんっ!!」


    慌てて回した手を離すゲルガー。


    ミカサ「ふふふ」


    エレン「外の世界ってのも楽しいだろ?ミカサ」


    エレンがミカサに笑いかける。


    ミカサ「ええ」


    ミカサもエレンに笑顔を投げ返す。


    アルミン「さてと」


    笑っていたアルミンが、顔を引き締める。


    アルミン「そろそろ行こうか」


    エレン「そうだな。まあ、いろんな事あったけどさ、この国楽しかったよ」


    ミカサ「ええ。ほんとに」



    クリスタ「さようなら!!」



    歩き出す4人。



    ニファ「さようなら!!お元気で!!」



    英雄たちは、4人の小さな勇者に向かっていつまでもいつまでも手を振り続けた。

  153. 169 : : 2015/04/05(日) 20:13:53





    かくして別れを済ませ旅立つ4人をを草陰からこっそりと覗き見る3人組の姿があった。



    「本当に、あんな子供達なのかい?」



    「ああ。もう住人達からの情報も得ている」



    「あの子達が、本当に僕たちの救いになるのか?」



    「ああ、奴らならきっとなんとかしてくれるさ」





  154. 170 : : 2015/04/05(日) 20:14:08







    fin
  155. 171 : : 2015/04/05(日) 20:31:11
    あとがき(?)のようなもの



    はい読者のみなさんこんにちは!


    いろはすでございます!



    えー大変長らくお待たせすることになりながらもなんとかLINKSの2話目を完結させることができました。なかなか完成まで波瀾万丈のストーリーがあったりするのですがまたそれは別のお話(笑)


    今回の作品のタイトルはメッセージ性の強いものにしたかったと言うことで今回のタイトルになってはいます。


    ただ少しSSと言うのも考えてわかりやすい様に投げてます。ぶっちゃけ本当は隠したかったです。ただまあ読者の方々に伝わることが優先なのかなという考えのもとわかりにくい伏線とかそういう感じにはいまのところしてません。ただ今後物語という大きな枠組みで考えると少々伏線なんかも用意してないわけではないかなと言うことでお楽しみに。


    えー全体でおそらく6〜7話くらいの構成になるかなとは思っているのですが、なかなか時間がかかりそうな模様です。そんなわけで3話目も制作開始まで秒読みと言った状態まで来てます。できるだけ早く仕上げたいと思っているのでどうぞご贔屓に。



    まあそんな感じでまだまだエレン達の旅は続きます。



    ほかの6人には一切相談してませんが、私個人としてはサブストーリーも考えてます。(更新速度落とす様なことすんなハゲ)


    アルミン外伝。胸が踊りますね(笑)





    まあそんな冗談はさておき、読者のみなさんコメントやGOOD本当にありがとうございました!!


    他の作成に携わっていただいた方からもあとがきなんかをいただくのでよかったらもうしばしお付き合いくださいね!


    では!私はこれで!あでゅー!




  156. 172 : : 2015/04/05(日) 20:51:44
    お疲れ様でした
    3話楽しみにしています
    アルミン外伝もよみたいです
  157. 173 : : 2015/04/05(日) 23:12:27
    お疲れ様です!
    ミカサの勇ましさに惚れ惚れしました(*゚∀゚)

    前作同様、制作された方々の力が綺麗に合わさって読む手が止まらず更新ボタンを何度も押してしまいました笑笑

    本当にお疲れ様です!

  158. 174 : : 2015/04/06(月) 07:31:55
    こんにちは。キース教官です。

    まず、読者の皆さん、ここまでお読み頂きありがとうございました。

    一話からすごく間が空いてしまい申し訳ありません。そして少なからずその原因に自分がいることも。


    っとまあ堅いのはこの辺りにしときたいんですが……あとがき書いてーって言われてもあまり何も考えてなかったので言うことがない。


    ので、一つ制作の時の話を。

    この合作は、それぞれにパートが振り分けられ、それぞれがある程度のあらすじに沿って書いていっています。


    あらすじはあの有名執筆者、進撃女性人全員好きさんです。あらすじから文章力を発揮してあらすじ読んだだけで泣きそうになるんですが。

    そして、書かれたパートには書き方にバラつきがあります。当然と言えば当然なんですが。

    そこで、いろはすさんが全ての文にチェックを入れ、手直しをしてくれます。この膨大な量をです。

    つまり、彼無しではこの合作はここまでまとまった素晴らしい作品にはなら無かったのです(自分で素晴らしいとか言ってしまった)。

    そういう努力を怠らず、取り仕切りまとめてくれたいろはすさん、あらすじに限らず、抜けがあったパートなどを書いてくれた助さん、そして忙しいなか書いてくれたもふこさん、受験生でも時間の合間を縫って書いてくれた進LOVEさん、今回は仕事であまり出てこれなかったけどムードを上げてくれたもじゃおさん、素晴らしい絵を描いてくれたLOLさん、そして読んでくださった読者の皆さんにこの場を借りてもう一度言わせてください。



    ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。



    すみません、長くなりましたがこれがあとがきということで……。ではでは!!
  159. 175 : : 2015/04/06(月) 07:55:13
    お疲れ様でした!

    相変わらずの文章力ですごいなぁと思いながら読んでました
    続編にも期待です!

  160. 176 : : 2015/04/06(月) 21:44:56
    >>172
    俺の妄想なのでまあ期待せず出たらラッキーと思ってていただければいいかと!


    >>173
    リピーターの方ですね!前もコメントをいただいたのを覚えています。毎度コメントありがとうございます!励みになります!



    >>175

    ありがとうございます!!さらに今以上に良い作品を提供できるように一層精進してまいります!
  161. 177 : : 2015/04/06(月) 22:05:59
    お疲れさまです!

    毎晩八時に楽しみにして待ってました!

    3話も期待してます!
  162. 178 : : 2015/04/06(月) 22:26:09
    >>177
    更新速度遅くてすみませんでした。時々俺個人の用事なんかで投下できなかったりしたので、肩透かしを食わせてしまったかもしれません。

    次回以降もお付き合いいただけたら幸いです。
  163. 179 : : 2015/04/06(月) 22:57:22

    進撃女性人全員好きです

    最後まで読んで頂けました皆様。
    本当に、ありがとうございました。

    私個人がなかなか第二話に参戦することができず、他の皆様で物語やイラストを頑張っていただき、メンバーの方々皆様にはこの度本当にご迷惑をおかけ致しました。


    合作って、簡単に見えてやはり難しく、お互いや相手の都合で色々と作品の進行が遅くなったり、途中で断念されたりします。

    ただでも、第二話を作り終えたのは他メンバーでお話を支えてくれたおかげですね(^^


    お話の構成や流れ等は前作のお話に比べ、SSというよりは小説・ラノベ風味となっていきました。

    これも、【作品とともに自分達が多種多様のことを学んでいった足跡の結果】とご理解して頂ければ幸いです。


    また、最終的な投稿段階でお話を捻り、総合執筆と投下をして頂いたいろはすさんに感謝。

    一作者、一読者として、
    「ここをこういう風に表現したのか、なるほどなあ」
    と関心してしまいました。



    色々なご意見等あると思いますが、厳しいご意見を頂けるとなお幸いです。

    この作品を通じて、私達、そして読者様共々成長していければと考えておりますので、次回作まで時間がかかることを承知の上、気長に待って頂ければ嬉しく思います。



    とにかくまあ、一言で言いますと


    読んで頂きました方々、ありがとうございます!!

    メンバーの人、本当、お疲れ様でした!!


    としか言いようがありません。


    最後のあとがきまで読んでいただき、ありがとうございました。

    次回作は東京オリンピックまでには間に合わせます。

  164. 180 : : 2015/04/08(水) 18:45:19
    こんにちは、もふこです

    まずはここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!

    そして前作からかなりの時間があいてしまって申し訳ありませんでした…

    私自身今作にはあまり関われず、総合執筆のいろはす氏にほぼほぼ任せっきりでした。そのこともあって私たちのあいだでトラブルが相次ぎ、なかなか書き進めることができず楽しみにして下さっていた方を失望させてしまったかもしれません。

    合作とは本当に難しいもので、リレーと違い他の執筆者が書いたものに意見したり手を加えたりもします。一人で書いていては気が付かない所に気が付くというメリットもありますが、自分が書いたものや取り入れようとしたことが他の人に受け入れられないということも多々あります。

    合作は一人ではできません。他の執筆者の意見を無視して自分の書きたいものだけを書いていて完成するものではありません。私たちは今作でそのことを強く実感しました。

    3話にももう間もなく着手することになると思いますが、そのときは今回の反省を活かしてもっともっとみなさんに楽しんで読んでいただける作品を作りたいと思います!


    思いがけず長くなりました。すみません。こんな駄文を読んで下さってありがとうございました。


    では次回作までしばしお待ちを!
  165. 181 : : 2015/04/09(木) 00:16:50
    >>179
    オリンピックとか遅すぎるわww

    どうも絵以外無能のろるです
    ここまで読んで下さった方々、ありがとうございます!
    いやー今回はいろいろと複雑でしたね
    合作を甘くみてましたw
    その分やっと完成したという達成感も味わうこともできました(絵しか描いてないけど(´-`〕

    アルミンとクリスタのイラストの背景は私の友人が担当してくれましたw(背景が描けないもので)
    自分でも1話の頃のイラストよりもレベルアップしたと思っています。4話も楽しみにしていてください!

    皆様ありがとうございました
    助さん、いろはす、もるこ、ハゲ、進ラブ、もじゃっちもありがとう そしてお疲れー!
    下手な日本語ですいやせんw
    アディオス
  166. 182 : : 2015/04/15(水) 22:39:22

    遅くなりましたが、そう言うわけで以下コメント解禁となります。これ以降のコメントであれば私が返信させていただきます。


    ぶっちゃけ合作メンバー全員にお願いするのも面倒なので(笑)



    詳しい感想、良い点、悪い点教えていただけると合作メンバーが喜びます!良い作品と思うならGOOD、ダメならどこがイマイチなのか色々教えてください。


    作者はあなたのコメントで成長します!



    以上。ありがとうございました。
  167. 183 : : 2015/05/24(日) 21:37:00
    凄く面白かったです!
    次回作も期待してます!
    頑張ってください!
  168. 184 : : 2015/05/24(日) 22:06:33
    >>183
    ありがとうございます!!
    そう言って頂けると幸いです。

    次回作は6月頃完成を予定しています。良けれはまたみてください!
  169. 185 : : 2015/06/11(木) 23:22:42
    面白かったです!ニファが鐘を鳴らす場面とても感動しました(/_・)続きも期待しています(^-^)ゝ
  170. 186 : : 2015/06/13(土) 23:36:15
    >>185
    ありがとうございます!次の話も完成目前まで来てますのでもう少々お待ちください。
  171. 187 : : 2015/10/08(木) 10:56:06
    打ち切りですか?
  172. 188 : : 2015/10/08(木) 13:32:11
    >>187
    次話完成を前にしているのですが、執筆陣の中で問題が起きていて更新できません。できれば打ち切りにはしたくはないと思っています。大変お待たせしてすみません。
  173. 189 : : 2016/02/13(土) 12:21:07
    打ち切りですか?
  174. 190 : : 2016/03/22(火) 00:12:02
    3話めきちしてます
  175. 191 : : 2016/06/01(水) 20:01:40
    打ち切りですかね?
  176. 192 : : 2016/09/27(火) 20:07:40
    打ち切り??
  177. 193 : : 2016/09/27(火) 20:07:53
    クソが
  178. 194 : : 2017/07/22(土) 11:03:25
    諸君 私はサシャが好きだ
    諸君 私はサシャが好きだ
    諸君 私はサシャが大好きだ

    頑張る姿が好きだ
    芋を食べている姿が好きだ
    笑ってる所が好きだ
    寝てる姿が好きだ
    困ってる顔が好きだ
    絶望する顔が好きだ
    パァンに飛びつく姿が好きだ
    真顔が好きだ
    髪型が好きだ

    平原で 街道で
    城壁で 草原で
    凍土で 屋根で
    草むらで 空中で
    室内で 暗闇で

    この地上で存在するありとあらゆるサシャの行動が大好きだ

    戦列をならべた同志のサシャSSが 更新と共に他厨の心を吹き飛ばすのが好きだ
    結構高く浮き上がったユーザーが サシャSSを見て心がでばらばらになった時など心がおどる

    同志が操作するパソコンのサシャの萌え画像が他厨の心を撃破するのが好きだ
    奇声を上げて燃えさかる激論から飛び出してきた奴を容赦ない罵倒でなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった

    攻撃先をそろえた同志の行列が他厨の心意気を蹂躙してから洗脳するのが好きだ
    恐慌状態の新参者が既に意気消沈してる他厨を何度も何度も攻撃している様など感動すら覚える

    敗北主義の裏切り厨を吊るし上げていく様などはもうたまらない
    発狂している他厨共が私の振り下ろした指がスマホとともに喘ぎ声を上げるR18のサシャのSSにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ

    哀れな他厨共(レジスタンス)が雑多な反論で健気にも立ち上がってきたの完璧な理論で他厨共の心ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える

    クリスタLOVEのクリスタ厨に滅茶苦茶にされるのが好きだ
    必死に守るはずだったサシャ愛が蹂躙されクリスタLOVEに書き換える様はとてもとても悲しいものだ

    エレン厨の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ
    エレンのエロSSに惑わされ害虫の様に地べたを這い回りながら興奮しながら読む時など屈辱の極みだ

    諸君 私は討論を地獄の様な討論を望んでいる
    諸君 私に付き従うサシャ親衛隊同士諸君
    君達は一体何を望んでいる?

    更なる討論を望むか?
    基地外ばっかの糞の様な討論を望むか?
    鉄風雷火の限りを尽くし三千人ほどの閲覧者の心を殺す嵐の様な討論を望むか?
     
    『討論! 討論! 討論!』
     
    よろしい ならば討論(クリーク)だ

    我々は渾身の力をこめて今まさにサシャSSを書かんとする親指だ
    だがこの暗い闇の底で半年もの間堪え続けてきた我々にただの討論ではもはや足りない!

    嫁争奪戦を!!
    一心不乱の嫁争奪戦を!!

    我らはわずかに 進撃ファンの千分の一に満たない敗残ニートに過ぎない
    だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している
    ならば我らは諸君と私で総力100万と1人の軍集団となる

    サシャの可愛さを忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう
    髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう
    連中にサシャの素晴らしさを思い出させてやる
    連中に我々のサシャの愛を思い出させてやる

    天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる
    一千人と一人のニートの戦闘団で
    世界を燃やし尽くしてやる


    さぁ……諸君




    サシャSSを作るぞ
  179. 195 : : 2017/08/03(木) 13:22:49
    とても、面白かったです。待ってますので、頑張ってください
  180. 196 : : 2017/08/12(土) 08:52:48
    上に同意
  181. 209 : : 2018/12/18(火) 11:42:20
    続き書いてくれぇー!!!!!
  182. 210 : : 2020/10/06(火) 09:09:56
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986

    http://www.ssnote.net/categories/%E9%80%B2%E6%92%83%E3%81%AE%E5%B7%A8%E4%BA%BA/populars?p=12
  183. 211 : : 2020/10/27(火) 10:19:48
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。
  184. 212 : : 2023/07/04(火) 14:50:19
    http://www.ssnote.net/archives/90995
    ●トロのフリーアカウント(^ω^)●
    http://www.ssnote.net/archives/90991
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3655
    http://www.ssnote.net/users/mikasaanti
    2 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:56 このユーザーのレスのみ表示する
    sex_shitai
    toyama3190

    oppai_jirou
    catlinlove

    sukebe_erotarou
    errenlove

    cherryboy
    momoyamanaoki
    16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ちょっと時間あったから3つだけ作った

    unko_chinchin
    shoheikingdom

    mikasatosex
    unko

    pantie_ero_sex
    unko

    http://www.ssnote.net/archives/90992
    アカウントの譲渡について
    http://www.ssnote.net/groups/633/archives/3654

    36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
    理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな

    22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
    以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。

    46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね

    52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
    一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑

    89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
    noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ

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