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苗木「僕達の未来は…」日向「俺達が創る!」

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  1. 1 : : 2014/03/22(土) 23:05:29
    お久しぶりです!ベータです!

    文化祭以来の二人でのリレーです!!
    そのためのルールとして
    ・お互いどんな無茶ぶりにも答える!

    アドリブで頑張っていきますので宜しくお願いします!
    ふじやまさんにパスです!
  2. 2 : : 2014/03/22(土) 23:26:09
    ご無沙汰してます。風邪は不治の病です。

    前作、苗木「超高校級の文化祭?」からはや2ヶ月。
    http://www.ssnote.net/archives/6621

    再び合作をする時が来ました!

    作戦はガンガンいこうぜ!で行こうと思います。

    ベータさん、よろしくお願いします!

    では、ベータさんのレスから始まりますー!
  3. 3 : : 2014/03/22(土) 23:29:41



    あのアドリブと激闘の文化祭が終わって一月ほどたったある日




    放課後

    俺らは学園長に呼び出されていた


    【学園長室】

    仁「君達に折り入って頼みがある」

    日向「は、はぁ」

    苗木「な…なんでしょうか?」

    なんと言うか嫌な予感がする

    仁「また…で申し訳ないのだが…劇をしてくれないか?」

    苗木・日向「はぁ!?」

    仁「なんと、あの希望ヶ峰ランド直々の要望だ!!」

    苗木「ちょ、ちょっと待ってください!またアレをしろって言うんですか!?」

    日向「アレ……アドリブでの劇か…」

    苗木「うん。」

    仁「ああ、そのことなんだが。アドリブでなくてちゃんと台本を作ってやってもらうことになる。大勢の人が見ている前で失敗されても困るからね」

    日向「ああ、それなら安心かもしれないな」

    仁「それで…だ。ホール丸々全部使え、機材、音響、ライトなども全て自由に使って良いらしい、その上予算も学園が負担する。だから…やってくれるかい?」


  4. 4 : : 2014/03/22(土) 23:48:25
    苗木「うぅ……」

    苗木(正直…学園長からこんなこと言われたら……)チラッ

    日向(断れないよなぁ……)チラッ

    仁「……」

    苗木「…………はい…やります……」

    仁「おお!そうか!ありがとう!日程は後で伝えるから!細かいことはそっちで決めた方がやりやすいだろう!じゃあ頼むよ!」

    苗木・日向「………」ハァ…


    ━━━━━━━━━━

    【食堂】

    みんな「えぇーっ!?」

    苗木「ごめん!断れなかったんだ!」

    日向「本当にすまん!」

    狛枝「もう……またあれをやるのかい?ちょっと恥ずかし 七海「おぉ!またできるの!?」フンス

    狛枝「!?」

    舞園「わぁ!早速お仕事をキャンセルします!」

    十神「おい腐川、早速台本を作れ」

    腐川「は、はい!」

    朝日奈「わっ!今回は先輩達ともできるんだね!」

    江ノ島「おやおや?なんだか面白そうじゃん!」

    戦刃「うん!やろうやろう!」

    セレス「山田くん。衣装を」

    山田「ふふふ…もう用意できてますぞ!」バッ

    ソニア「わぁ!なんだかすごいです!」

    左右田「つか、なんで用意できてんだよ!」

    葉隠「俺が占ってたべ!」

    桑田「お前かよ!」

    澪田「まぁまぁ細かいことはいいんすよ!さっさと練習っす!」

    西園寺「まだ衣装しかないよ……」






  5. 5 : : 2014/03/23(日) 00:15:02



    桑田「ぶっちゃけ、主人公は誰がするんだ?」

    霧切「前回のベストオブ希望ヶ峰から決めるのはどうかしら?」

    弐大「応ッ!つまりその場合は…」

    江ノ島「?」

    苗木「?」

    日向「?」

    花村「?」

    小泉「花村はスルーするけどさ…このメンバーで誰を選ぶの?」

    九頭竜「はぁ…結局どうすんだよ。全然絞れてねえじゃねえか」

    苗木「僕は良いよ、村人Aとかが僕にはあってると思うし」

    江ノ島「アタシもどうでも良いや、台本通りベラベラやる主人公なんて飽きちゃうし」

    日向「お前ら…乗り気じゃなさすぎだろ」

    狛枝「つまり、また日向くんの演技(笑)が見れるんだね!」

    日向「『(笑)』とはなんだ!!」

    腐川「はぁ!?アンタ達何言ってるの!?主人公は白夜様に決まっているでしょ!?」

    豚神「いやぁ、そんな風に言ってもらうと照れるなぁ」

    腐川「アンタじゃないわよ!!」

    十神「フン。まあお前らがどうしてもと言うなら俺が主人公を引き受けてやろう」

    朝日奈「はぁ…アンタバカなの?話聞いてた?」

    十神「バカ……だと?」



    ーーーーーーーーーーー



    左右田「で、結局よォ主人公は日向なのか?」

    田中「フッ…俺様の魔力は薄れてきた…お前らと交われるほどにな」

    左右田「オメェーは素直に主人公になりたいって言えねぇのかよ!」

    ソニア「わぁー!日向さんの主人公も見たいですが、田中さんのも見たいです!」

    十神「俺が空気だと!?どういうことだ!説明しろ苗木ィ!!」

    苗木「それはたぶん、前回大して活躍しなかったから…」

    十神「」break

    大神「結局誰が主人公とやらをするのだ?」

    辺古山「ストーリにもよって変わってくると思うのだがな…」

    日向「そうだな。台本待ちで…」

    腐川「出来たわ!!!」

    みんな「はやッ!!」



  6. 6 : : 2014/03/23(日) 00:31:14
    腐川「主人公は…苗木と日向先輩よぉ!」

    苗木・日向「!」

    九頭龍「あー、ダブルキャストって奴か?」

    腐川「そうよ!豪華でしょう?www」

    十神「……笑顔が気持ち悪いが、まぁそういうことなのだろう」
     
    豚神「どういうことだ。説明しろ苗木」

    苗木「えっと…どっちがどっちかわかんなくなってきたよ!」

    十神「!」

    七海「まぁ台本もできたしさ!練習しよ練習!」

    石丸「うむ!一に練習!二に練習!」

    大和田「おう!台本なんかさっさと覚えてやるぜ!」

    不二咲「が、がんばるよぉ!」

    腐川「一応全員に役はあるけど、都合上台詞が少ない役があるのはご愛敬よぉ…」

    江ノ島「そういえば、あたしはどうなったの?」

    罪木「ふゅぅ!江ノ島さんの役…とても難しそうですぅ!」

    江ノ島「あんたはなんで自分の役じゃなくてあたしの役を見てるの…」

    戦刃「盾子ちゃん台詞多いなー。それに対して私は…」シクシク

    江ノ島(台詞の数も残念なのね…)
  7. 7 : : 2014/03/23(日) 00:55:28
    前作は最高に楽しかったけど、まさかの続編とは…!
    超期待っす!!
  8. 8 : : 2014/03/23(日) 00:59:35
    >>7
    前作見てくださったんですね!
    ありがとうございます!頑張っていきます!
  9. 9 : : 2014/03/23(日) 00:59:45



    日向「苗木頑張ろうな!」

    苗木「うん!頑張ろうね!」


    江ノ島「………」ニヤッ

    戦刃「どうしたの盾子ちゃん?」

    罪木「どうしたんですか?江ノ島さん?」

    江ノ島「ん?ああ、ちょっとね…ってアンタらまとわりつくなッ!!」ゲシッ

    不二咲「ナレーターはアルターエゴに任せるね!」

    大和田「おう!頼んだぜ!」

    石丸「彼に任せれば安心だろう!」ハッハッハッ

    左右田「俺は小道具を作るぜ!!ソニアさん見ててくださいね!」

    田中「俺様に相応しい配役だな!破壊神暗黒四天王も喜んでいるぞ!」バッ

    ソニア「わあ、可愛いです!」

    左右田「……」グスッ

    霧切「………」

    七海「どうしたの?」

    霧切「いえ…この場合ヒロインも二人なのかしら?」

    舞園「私と七海さんですね!」

    霧切「それは違うわ!!」ビシッ

    花村「そうだよ!ヒロインは僕だよ!」

    狛枝「僕は相手が誰だろうと超高校級のみんなに寄り添うよ!!あ、ダメだよね…僕なんかが君達に寄り添うなんておこがましいよね!!」

    西園寺「ロリコンキモ男と変態が沸いてるよ!!」


    終里「うっめえー!こんなに上手いもん食えるなんて幸せだ!!」モグモグ

    弐大「なんじゃあ?その食いもんは?」

    澪田「美味しそうっすねー……ってギャーーッ!予算ほとんど使ってるっすぅ!」

    豚神「予算など俺がいくらでもだしてやるから騒ぐな」

    澪田「きゃーっ!カッコイイッす!」

    豚神「フッ…十神の名を持つものとして当然のことだ………と言うわけで」チラッ

    十神「結局出すのは俺なのか…」ハァ

    苗木(十神君も大変だな…)

    日向「とりあえず練習しようぜ!!いつするか分かんないんだし」

    プルルル

    霧切「……私のだわ…」ピッ

    霧切「はい…もしもし……!?……ええ…分かったわ」

    苗木「……どうかしたの?」

    霧切「お父……学園長から連絡があって…劇の日程が決まったわ…」

    苗木「…いつ?」

    霧切「………明後日」

    みんな「「「ええーっ!?」」」



  10. 10 : : 2014/03/23(日) 01:13:32
    桑田「ちょ、ろくに練習もできねーじゃねーか!」

    セレス「困りましたわね…。せめて台詞だけでも覚えないと」

    江ノ島「ん、覚えた」

    苗木「ええぇ!?は、早すぎない!?」

    江ノ島「んー?覚えてなかったら適当に合わせるからいいのー」

    苗木(そういうことか…)

    日向「セレスの言うとおりだ!とにかく台詞だけでも覚えよう!」

    この日は、台詞合わせを行っていたら、いつの間にか夜時間になっており、そのまま解散した。


    ━━━━━━━━━━


    【苗木個室】

    苗木「えーと……」ブツブツ

    個室に帰っても、台本とのにらめっこは続いた。

    苗木「………はぁ、難しいなぁ」

    僕ってもしかして、アドリブの方が向いてるんじゃないかなぁ?


    ━━━━━━━━━━


    【日向個室】


    日向「………」ブツブツ

    日向「あーくそっ!こんな量覚えられねぇよ!」

    頭をくしゃくしゃと両手でかきむしる。
    まるで集中が出来ず、日向は苦しんでいた。

    日向(台本があるとは言っても、これならアドリブの方がやりやすかったぞ!)









  11. 11 : : 2014/03/23(日) 01:17:57
    >>7
    ありがとうございます!
    ベータさんに精一杯追いつけるようがんばります!
  12. 12 : : 2014/03/23(日) 01:33:10



    日向「とりあえず、気分転換に散歩するか」スッ

    ガチャッ

    日向「はぁ…どうするかなぁ……ん?あれは」テクテク

    苗木「やあ、日向くん…」

    日向「どうかしたのか?」

    苗木「あはは、ちょっと気分転換にね」

    日向「俺もだ…もう無理かもしれないな」

    苗木「そんな!諦めちゃダメだよ!!君は超高校級の希望でしょ!?」

    日向「そんなこと以前の問題だろ…」ハァ

    苗木「そう…だけどさ」

    日向「まだアドリブの方が簡単だなって思っちゃってるんだけど…」

    苗木「まあ、僕もだけど…」

    日向「なあ…アドリブでしようって提案しないか?」

    苗木「……ダメだよ、皆必死になって覚えてるだろうし……それに腐川さんに申し訳ないよ…」

    日向「……だな。俺も頑張らないとな、ありがとうな苗木」

    苗木「え?」

    日向「良い気分転換になった。俺は部屋に戻って台本覚えるから…またな」

    苗木「僕もありがとう、良い気分転換になれたよ。またね!」

    ーーーーーーーー


    【江ノ島自室】

    江ノ島「……うぷぷ」


    ………………………………

    ……………………

    ……………


    こうして一日目の夜は更けていった


  13. 13 : : 2014/03/23(日) 01:58:12
    2日目

    まだ早朝の5時だと言うのに、ホールにはたくさんの声が響いていた。

    石丸・辺古山・舞園・霧切・七海・豚神・小泉・終里・弐大「あ!え!い!う!え!お!あ!お!」

    大和田「兄弟、早いな」

    石丸「うむ!いてもたってもいられなくてな!」

    不二咲「石丸くん…クマがすごいよぉ」

    石丸「はは、そういう君もだ」

    大神「睡眠をとったほうがいい…無理をして身体を壊すようでは本末転倒だ」

    石丸「いや…とにかく時間がない。ここで無理をしなくてはな」ハハハ

    大神(笑顔を作ってはいるが……本当に大丈夫なのだろうか)

    朝日奈「てか、みんなもう台詞は覚えたの?発声練習ばっかりしてるけど」

    辺古山「あぁ。台詞が少ないからな」

    小泉「滑舌と発声をしっかりさせないとね!」

    舞園「皆さんいい感じです!この調子でがんばりましょう!」

    朝日奈「舞園ちゃんに霧切ちゃん、七海先輩は台詞多いのに…すごいなぁ!」

    七海「ふふん、ポケモンの種族値やテンプレを覚えるより簡単だったよ」ドヤァ

    朝日奈「ごめんよくわかんない!」

    霧切「死体の状況や遺族等の関係者全てを覚えるよりも簡単だったわ」ドヤァ

    朝日奈「ごめんわかりたくない!」

    苗木「ふぁーあ…おはよう…」

    舞園「あっ!苗木くん!おはようございます!」

    苗木「みんな早いね!僕もがんばらなきゃ」

    舞園「台詞を覚えるには合わせるのが一番です!私、他の台詞も覚えてるので、一緒に合わせましょう!」

    苗木「わっ!すごいや!お願いするよ!」

    舞園さんの手伝いもあって、なんとか台詞を覚えられそうだ!

    苗木(日向くんは…大丈夫かな?)


    ━━━━━━━━━━


    【日向個室】

    時計の針は、ぴったり上を向いて重なり合っている。

    日向は、部屋から出なかった。

    日向(…覚えられない!何度も読んでるのに!)

    所詮、俺は元予備学科。
    必死に勉強して入ったとしても、超高校級の奴らには到底適わない。

    そんな劣等感が、日向の心に芽生え、覆っていた。

    日向「くそっ!」

    台本を床に叩きつけ、拳を握り、歯を食いしばったその時

    ピンポーン

    インターホンが鳴った。

    日向(………)

    日向「入れよ。鍵はかかってないぞ」

    ガチャ







  14. 14 : : 2014/03/23(日) 02:18:32



    江ノ島「おっじゃましまーす!」

    日向「……江ノ島か」

    そこには、手に大きな袋を持った江ノ島が居た

    江ノ島「先輩大丈夫ー?クマ凄いんだけど超笑える」

    日向「……別に良いだろ」

    眠気と覚えられないイラつきによって、俺は素っ気ない返事をする

    江ノ島「つまんないのー、あのさ、一回寝て落ち着いたら?」

    日向「それが出来たら苦労しねぇよ…」ハァ

    江ノ島「……ふぅーん。でもさ本番前に倒れたりしないでよねー」

    日向「……最低限の睡眠は取る…集中したいから出てってくれないか…」

    江ノ島「そっ、じゃあアタシどっか行くね。…そうだ」ゴソゴソ

    思い出したように手持ちの袋を漁る江ノ島

    江ノ島「疲れたときに甘いもんだよ。はい!」スッ

    江ノ島が袋から取り出したのは

    日向「……草餅」

    江ノ島「まあせいぜい頑張ってください。お茶もありますよ」スッ

    日向「……悪い」

    江ノ島「じゃあ、私はこれでー!まったねー!」スタスタ

    バタンッ

    それだけ言い部屋を去る江ノ島

    日向「礼…言いそびれたな」

    日向「…………」スッ

    俺は沢山ある草餅の1つに手を伸ばす

    日向「…旨い」モグモグ

    何故だろう…頑張ろうという気持ちが込み上げてきた

    日向「よしっ!また覚え直すぞ!!」

    俺は諦めない……俺が諦めたら皆の努力が無駄になるから!



    ーーーーーーーーーー

  15. 15 : : 2014/03/23(日) 02:34:11
    【学園長室】

    仁「ふふ、みんなよくがんばってるな」

    仁は学園に取り付けられた監視カメラを通して、みんなの様子を伺っていた。

    仁「しかし…みんながここまで真剣に取り組んでくれるとは思わなかった。なんだかんだ真面目なのかな」フッ

    PIPIPIPIPI………

    仁「ん、電話か」ピッ

    仁「もしもし」

    仁「………えぇ、みんな頑張ってますよ」

    仁「これなら期待に応えられそうです。えぇ、はい」

    仁「…………わかってますよ。ええ、当日はもちろん」

    仁「………私も参戦します」


    霧切 仁 参戦!!!


    ━━━━━━━━━━


    深夜

    【苗木個室】

    苗木「ついに明日だ!ドキドキして眠れないや…」

    台詞はなんとか覚えられたし、きっとどうにかなる!
    少ない時間とはいえ、あれだけ練習したんだ!

    苗木(寝よう!万全の状態で明日に臨んで、悔いが残らないようにするんだ!)


    ━━━━━━━━━━


    【日向個室】

    日向「な、なんとか覚えられた気がする…」ハァ

    日向「がんばろう……俺はもう予備学科じゃない」

    日向「超高校級の希望…日向創だ!!」
  16. 16 : : 2014/03/23(日) 03:12:23
    俺は江ノ島に貰った残りの草餅を頬張った

    そしてベッドに転がり込む

    日向「よし…寝るか。」

    日向(明日万全の形で取り組みたいからな…)

    こうして俺の意識は闇に沈む



    ーーーーーーーーーー






    そして当日…

    【希望ヶ峰ランド ホール】

    仁「みんな集まったかい?」

    当日僕と学園長を除いた31名が希望ヶ峰ランドのホールに集まって…………あれ?

    苗木「日向くんが居ない!!!」

    江ノ島「うぷぷ…」

    霧切「………江ノ島さん…貴女何か知ってるんじゃないかしら?」

    江ノ島「え?私知らなーい!」シレッ



    左右田「どぉーすんだよ!最初は日向からなんだぞ!!」

    江ノ島「…大丈夫大丈夫アタシに任せて!」ニヤッ

    戦刃(あっ…悪いこと考えてる!)

    罪木(わ、悪いこと考えてますぅ)


    狛枝「嫌な予感は大いにあるんだけど、覚えるスピード的に彼女に任せるしかないんじゃないのかな?」

    舞園「これは…しょうがないですね」

    江ノ島「まっかせてー!一時間あれば覚えれるからさ!」

    石丸「おお!頼もしいぞ!」

    江ノ島「あっ、でも台詞多いし少し違ったりするかもだけど、そこは許してね!」テヘッ

    セレス「まあ、そればかりはしょうがないでしょうね…」

    苗木「…江ノ島さん、任せたよ」

    ………………………………

    …………………

    ……………

    苗木「日向くん…」

    彼はまだ現れない。今日向くんはいったい何をしているのだろう…

    霧切「苗木君…やるしかないのよ。」

    苗木「!…………そうだよね、前向きだけが取り柄の僕なんだ!やるしかないよね!」

    霧切「ええ…頑張りましょう」

    苗木「うん!」

    仁(微笑ましいなぁ…)

    舞園・戦刃「「…………」」ゴゴゴッ

    葉隠「負のオーラが溢れてるべ!!」

    狛枝「日向くん…今何してるんだろう…」

    小泉「誰か学園に戻って呼びに行くべきだよね?」

    狛枝「………でも誰か一人抜けると展開が大きく変わっちゃうんだよね…」

    豚神「くっ…せめて役の決まってないアドリブであれば…!」

    七海「…………日向くん…」





    そして………結局日向くんは現れないまま、開始の時間になった

    仁「おっと…そろそろ時間だ!皆準備を」

    みんな「「「…はい!!」」」

    アルターエゴ『うん!任せて!』



    苗木(…3…2…1)

    ブーーーーー


    観客<パチパチパチパチパチ


    こうして主人公不在という不安を残しつつ、盛大な拍手に包まれ僕らの劇は幕を開けた





  17. 17 : : 2014/03/23(日) 03:48:13
    カシャン!

    真っ暗なステージの上でた唯一スポットライトを浴びているのは一台のパソコン。画面に映っているのは“顔”。

    その“顔”は観客に向かってお辞儀をすると、咳払いをして、口を開いた。

    アルターエゴ『………これは、昔々のお話です』

    アルターエゴ『その時代、世界は二つの国によって出来上がっていました』

    アルターエゴ『片方は希望の国。希望に満ちあふれた素敵な国です』

    アルターエゴ『もう片方は、絶望の国。絶望に満ちあふれた…素敵、とは言えない国です』

    アルターエゴ『二つの国は、相反する存在。決して分かり合うことはありませんでした』

    アルターエゴ『そして、ついに戦争を起こしてしまうのです』

    アルターエゴ『戦争が止まないまま何年も時は経ち、互いの国は人口を減らす一方です』

    アルターエゴ『これは、そんな世界のお話………』

    フッ

    スポットライトが消え、再び場は暗闇に戻る。

    数秒経って、今度はステージ全体が照らされた。

    まず目に入るのは、たくさんの人だかり。
    そしてその先にあるのは……大きな城門だった。

    ガヤガヤ……ガヤガヤ……

    話し声が聞こえる。

    「聞いたか?この前の戦争でまた“英雄”が活躍したって!」

    「相手の大軍を1人で全滅させたんだろ。しかも無傷で!」

    「すげーな!俺も“英雄”になりてぇ!」

    「……お!ついに来たぞ!」

    城門が開き、そこから出てきたのは……

    「“英雄”だ!“英雄”だぞー!」

    「「ウオオオオオオオ!!」」

    江ノ島「みんな。出迎えありがとう」

    江ノ島「……あたしが戦えるのは、みんなのおかげだよ」

    「いや!“英雄”がいるおかげで俺達は生きてるんだ!」

    「“英雄”には感謝してもしつくせないよ!」

    江ノ島「……うぷぷ」

    江ノ島「アーーーッハッハッハッ!!!」

    「「“英雄”!!“英雄”!!」」

    顔をあげ、高らかに笑う“英雄”と、それを信仰する国民達。

    希望の国の“英雄”と言えば、知らない人はいないだろう。
  18. 18 : : 2014/03/23(日) 04:45:04



    ーーーーーーーー


    【舞台裏】

    苗木「あれ?江ノ島さん…台本と違うんだけど、しかも最初の設定から…」

    アルターエゴ『え?江ノ島さんからそう言うように言われたんだけど…?』

    狛枝「…………」

    七海「…………」

    霧切「…………」

    苗木「…完全に江ノ島さんにしてやられたね」

    苗木(本当は平穏でほのぼのした話なのに、まさか昔話設定!!そして謎の英雄設定ッ!!)

    みんな「「「…………」」」

    苗木「どうしよう…みんな状況についていけなくて焦ってるよ」

    仁「くっ…失敗は許されないのに…」

    霧切「…苗木君」

    『やるしかないのよ』

    苗木「!!」


    そうだ…やるしかない。

    前回の劇だってそうだったじゃないか…

    最初からアドリブだったんだ

    そして、江ノ島さんは僕のアドリブに完璧に答えてくれた


    …………なら僕だってやるしかない…


    たかがアドリブなんだ……


    …だったらこんな所で諦めて良い理由になんてならない
    だろッ!!


    苗木「…」スッ

    舞園「苗木…くん?」

    苗木「大丈夫僕に任せておいて」

    霧切「………苗木君、任せたわよ」

    苗木「うん!」スタスタ

    こうして、僕はステージに足を踏み入れた



    ーーーーーーーーーー



    江ノ島「あははー!こんなに称えられるなんて!希望的ィー!!」

    「「“英雄”!“英雄”!」」


    アルターエゴ『空気が痺れるほど沢山の人達から賛美される“英雄”』

    アルターエゴ『そんな“英雄”を遠目で見つめる少年がいた』




    苗木「スゴいや…あんな大して歳も変わらない女の子が…」

    絶望…両親を殺した憎き絶望

    ここにいる彼女を英雄と称えている皆もそうだろう。

    ここまで彼女を熱狂的にしたうのだ、絶望に大切な人の命を絶望に奪われているはずだ

    希望にとって絶望は敵なのだ。

    相反する存在…きっと、いや絶対に交わることは無い


    江ノ島「じゃあね、皆の衆!まったねー!!」ブンブン

    そんな風ににっこりと笑いながら“英雄”である彼女は、城の中に姿を消した



    ゴーンゴーン

    一時間ごとになる教会の鐘が、

    英雄に目を奪われていた僕を無理矢理現実に引き戻す

    苗木「わわ!遅刻しちゃう!」タッタッタ

    そんなことを言いながら僕は駆け出した




    【国立希望ヶ峰学園】



    アルターエゴ『ここは絶望に立ち向かうための希望を育てるための学園。ここにいる生徒達は勉強はもちろん戦闘に関しても日夜腕を磨いている』

    アルターエゴ『この学園の生徒はスカウトのみで入学を許される。何故ならこの学園は英雄を…つまり希望を育てるための学園だからだ』

    苗木「ふう。ギリギリセーフだ」

    僕は息1つ乱さず、教室に入る

    日頃から訓練をしているので体力は自信がある方だ

    まあ、僕なんかより桁違いに強い人達がいるから、自信があっても誇れないだけどね…

    だけど、それでも誇れる所があるのならそれは…人より少し前向きな所かな



  19. 19 : : 2014/03/23(日) 05:24:29
    朝日奈「苗木おっそーい!」

    苗木「あれ?僕が最後だったか」

    十神「“英雄”のおかげで少しばかりこちらが有利になったことで、たるんでるんじゃないのか?」

    苗木「あはは…厳しいなぁ」

    仁「よし、みんな席につけ。出席をとるぞ」ガラッ

    先生の登場で、全員しぶしぶと自分の席に座った。

    1人ずつ点呼を取り終わったら、風紀委員である石丸が立ち上がり、挨拶をすます。

    キーンコーンカーンコーン

    授業開始の合図だ。

    仁は全員を見渡して告げた。

    仁「さぁ、授業をするぞ」

    石丸「起立!礼!」

    「「よろしくお願いします」」

    仁「よし、じゃあ」シュン

    セレス「!」パシィ!

    仁「……よく止めた」ニヤリ

    仁は教科書の端を千切り、尖らせ、それをセレスの額めがけて投げたのだ。

    ここまで一瞬の動作。

    そしてそれを難なく受け止めたセレス。

    苗木(やっぱりレベル高すぎるよ…!)

    仁「えー、何度も言ったが、国の中でも外でも常に戦場だ。安全なのは城とこの学校くらいだな。どこでもいつでも戦闘態勢でいるように」

    「「はいっ」」

    仁「うん、いい返事だ。じゃあ教科書の78ページを開いて。最初から読んでもらおうかな……苗木!」

    苗木「はい!」

    苗木「えーと……“絶望の国について”」

    苗木「“絶望の国”は“希望の国”の隣国である。“絶望の国”は絶望に満ちており、希望は存在しない。なお、“絶望の国”を率いるリーダーの姿は、誰も見たことがない……」

    仁「よし、いったんここまででいいだろう」

    仁「じゃあ次は………」

    みんな「………?」

    仁「………どうやら実戦授業になりそうだ」

    バリィィン!!

    窓ガラスが割れ、刹那の殺気が教室を支配した。

    苗木(誰かが入ってきた!!)

    生徒達が誰も動けない中、動いていたのは侵入者と、そして…

    仁「まぁ、これも授業になるかな」

    仁だけだった。

    仁「君はこの学園の…いや、この国の子じゃないね」

    「当たり前だ……俺はお前らを絶望させるために来た……」

    仁「……名前は?」

    「……斑井…一式だ………」

    仁「よし、斑井くん。君もまだ若い。ここで帰るなら見逃してあげるよ」

    斑井「ふざけるなっ!殺す!殺す殺す殺す!」

    斑井の細長い身体が膨張を始め、ガッチリとした筋肉が表面に浮かぶ。

    斑井「死ねっ!」

    斑井が仁に飛びかかる!

    苗木「あ、危ない!」

    仁「いや……」スッ

    苗木「!」

    斑井「なっ!」

    仁はたった一歩足を動かし、斑井の真横に移動。
    その間も斑井は空中を泳いでいる。

    ……当然、素早い移動は不可能。

    仁「よく聞いとけ……みんな」

    軸とした足とは反対の足を折り曲げ、そしてカッと目を見開き!

    仁「不用意に飛ぶな!」

    ドゴォオ!!

    仁の放った鋭い蹴りが、斑井の腹部にクリーンヒット!!

    斑井「ばかな……ガハッ……」ドサッ

    斑井はそのまま血を吐き、倒れて動かなくなった。

    教室内の空気が一気に洗浄された様に元に戻った。

    苗木「こ、怖かった~…」ヒヤヒヤ

    仁「ふふ、でもいい機会だったよ」

    仁「これでわかったかな?もはや学校すら安全じゃないってことを」

    仁の一言で、再び教室は凍り付いた。







  20. 20 : : 2014/03/23(日) 10:56:35
    お二人に超期待です!
  21. 21 : : 2014/03/23(日) 11:52:33
    期待といわざるをえない
  22. 22 : : 2014/03/23(日) 19:44:37
    >>20>>21
    ありがとうございます!
    頑張ります!(笑)
  23. 23 : : 2014/03/23(日) 19:44:51



    仁「よしっ。とりあえず、この少年は他の職員に任せて授業に戻るぞ」

    その後少年は他の職員によって連れていかれた


    僕と大して歳の変わらない少年が…たった一人で国に乗り込んできた事実に…ただ驚きを隠せないままでいた

    苗木「………」

    仁「こら、苗木君何ぼーっとしてるんだ!」

    苗木「あっ、すいません!」

    仁「もうすぐクラス対抗戦があるのだから気を引き締めるように!」

    苗木「は、はい!」


    クラス対抗戦…一度も面識の無い、もう1つのクラスの人達と真剣勝負をおこなう

    初顔合わせで戦闘をおこなうのは戦闘に対するためらいを持たせないようにするらしい…

    何故闘うかは明白だ

    勝った方のクラスからは最高3名、負けた方のクラスからは1名が選出される

    何にかと言うと…


    仁「ボケッとしすぎないように。そのままだと“英雄”に付き添いで戦争に行く以前の問題だぞ」

    そう。…なんとあの“英雄”と一緒に戦場へ赴けるのだ

    …でもまあ、一回っきりなんだけどね

    短期留学のような形である


    十神「フッ。苗木がどうであれ俺がいる時点で敗けはあり得んがな」

    セレス「あら、私の辞書に負けるという文字は無いのですわ…つまりそういうことになりますわ」フフフ

    石丸「皆で力を合わせて勝利を勝ち取ろうではないか!」

    朝日奈「うん!頑張ろうね!」

    そんな風に一致団結するこのクラス

    きっとこのクラスの皆とならどんな相手だろうと勝てるだろう…


    苗木「あれ?そういえば今日彼女来てないね」

    仁「ああ、彼女は今日は風邪で休みらしいんだ」

    苗木「へぇー、そうなんですか…」

    朝日奈「ねえねえそれよりさー、今日のパレード楽しみだよね!」

    苗木「ぱ、パレード?」

    朝日奈「ああ、そっか苗木は最近こっちに来たから知らないんだね…えっと…」

    仁「こらこら、授業中だぞ」ハァ…

    朝日奈「あっ、すいません…」

    仁「それでは続きかーー」


    キーンコーンカーンコーン!!

    授業の終了を知らす鐘がなる


    仁「…………大変不本意ながら授業はここで終わりだ。今日はパレードがあり午前までだが、鍛練は怠らないように!」

    五人「「はい!!」」

    こうして、今日の授業は終わった



    ーーーーーーーーーー



    【町】

    アルターエゴ『町には沢山の出店や、大きな看板。そしていつも以上賑わいが姿を現していた』

    苗木「うわーっスゴいやッ!」

    初めて見るパレードに興奮を隠せない僕

    こんな日に真面目に修行にいそしむわけもなく

    普段している鍛練を半分でほっぽりだし、僕は町に繰り出していた

    苗木「………わーっ」キラキラ


    その後小一時間ほど町を歩き回った



    そして、日が沈んできた頃


    ゴーンゴーン!!


    鐘の音が響き


    パレードが始まった


    苗木「うわっ!もう待ち合わせの時間になっちゃった!急がなきゃ!!」ダッ

    大慌てで駆け出す


    そう。僕はあの四人とパレードで一緒に行動すると約束していたのだ。

    苗木「ここは…こっちに」タッタッタ

    歩き回っている時に偶然見つけた、人通りの少ない裏道を走る僕


    その曲がり角で…


    苗木「うわあっ!!」

    ??「きゃあッ!!」

    ドンッ


    僕は………女の子とぶつかった…



  24. 24 : : 2014/03/23(日) 20:01:35
    苗木「ごめん!大丈夫!?」

    「大丈夫……だと思うよ?」

    苗木「だと思う?」

    ひどく曖昧だなぁ。
    というか、嫌みにすら聞こえる…。

    苗木「とにかくごめん!急いでて…」

    「あっ!一ついいかな?」

    その女の子は人差し指を立てて言った。

    「“英雄”を見てない?」

    苗木「“英雄”…?“英雄”がどうしたの?」

    「今、どこにいるか知りたいの」

    苗木「今は…えーと…わかんないな。ごめん」

    十神「おい、苗木。こんなところで油を売ってたのか」

    苗木「あっ!十神くん!」

    十神「…まったく、もう始まるぞ」

    苗木「ごめん!…あっ君!そろそろ僕行かなくちゃ…」

    振り返った先は、もう誰も居なかった。

    苗木「あれ……?」

    十神「何ボーッとしている。さっさといくぞ」

    苗木「あ、あの女の子は?」

    十神「女の子?…お前、1人でここに居ただろう」

    苗木「え……?」

    戸惑う僕の腕を、十神くんはグッと掴んで引っ張った。

    そのまま、僕は十神くんについて行くんだけど……


    ………確かに聞いたんだ。

    十神くんに引っ張られた時に。

    「…君とはまた会うかもね♪」

    それは、確かにあの女の子の声だった………。


    ━━━━━━━━━━


    【大通り】

    朝日奈「あっ!苗木!」

    石丸「まったく!君はいつも遅いなぁ!」

    セレス「心配していましたのよ?もしかしたら迷子になったのではと……」

    苗木「ご、ごめん……」

    苗木(なんだか謝ってばっかりだなぁ……)

    十神「……だが、パレードには間に合ったようだな」

    朝日奈「あぁっ!そうだね!パレードパレード♪」

    ここ、城門から続く大通りには多くの人が集まっていた。
    恐らくここに居るだけでほぼ国民全員だということを考えると、多くのと言えるかは疑問であるが。

    パーーッ パパーーーッ

    石丸「始まるぞ!静聴!」

    セレス「あなたもですわ…」

    城の方から流れる、始まりのファンファーレ。

    ついに、パレードが始まった……。
  25. 25 : : 2014/03/23(日) 20:51:14



    パレード…それは後々聞いた話によると

    戦争後に行われるお祭りのようなものだった


    朝日奈「ねえ?どこいく?!まずなに食べる?!」

    十神「お前にはそれしかないのか…」

    石丸「コラ君たち!買い食いはダメだぞ!」

    セレス「はぁ…それなら何も出来ませんわ…」

    石丸「そうだな…うむ!ならば焼きそば飴はどうだ?」

    苗木「何そのゲテモノ料理…」




    ーーーーーーーーーー



    【??】


    『“英雄”は見つかりまちたか?』

    「…ううん見つけられなかったよ」

    『そうでちゅか…あちしも魔法で探したんでちゅが見つけられなかったでちゅ………でも必ず現れるはずでちゅ!』

    「私もそうだと…思うよ?」

    『…何としてと止めないといけまちぇんね…』

    「うん。これ以上無駄な争いが起こるのを止めないと…ね」



    ーーーーーーーーーー


    【城】

    江ノ島「それじゃあ、堅苦しい鎧脱いで、さらに…髪をほどいてと…」シュルッ

    アルターエゴ『“英雄”と呼ばれる彼女は普段しているツインテールを下におろしていた』

    江ノ島「よっと」パチンッ

    アルターエゴ『彼女の鳴らした指の音と共に、彼女の金色の髪は真っ赤に染まる』

    江ノ島「さぁーって変装も完了したし。見張りが来ちゃうとめんどいので、ちゃっちゃといってきまーっす!!」

    バンッ

    城の窓から飛び出そうとするその瞬間扉が開く

    松田「待つんだ!!」

    江ノ島「一足遅かったねー!まったねー!」シュッ

    アルターエゴ『そう言うと彼女は城の頂上から飛び降りていきました』

    松田「待て!!………はぁ…全くどこのバカ殿様だよ、アイツ…」



    ーーーーーーーーーー



    【大通り】

    苗木「…魔法?」

    朝日奈「そうそう!苗木って魔法使えるの?」

    基本鍛練の授業はマンツーマンの個人授業なので各々の力量を僕はあまり知らない…

    まあ、皆僕より強いのは確かなんだけどね…


    十神「ちなみに俺は使えるぞ」

    十神君がどや顔で話に割り込んで来る

    朝日奈「あんたには聞いてないよ」

    セレス「私も使えますわ!」

    朝日奈「あっ!カードみたいなのがブワッてなるやつだよね!」

    セレス「ええ、他にも使えますが」

    石丸「僕は少しだけだ!…くっ…これも努力不足と言うことなのか!!」ブワッ

    十神「目障りだ!こんな所で泣くな!」

    朝日奈「えへへ、実は私もあまり出来ないんだよね…時間が分かったりするのと少しの通信魔法くらいで……で、結局苗木はどうなの?」

    苗木「……………」

    朝日奈「…苗木?」

    苗木「………え?……あ、ああ僕か…ええっと…僕全く魔法使えないんだよね。あは、あはは、」

    朝日奈「あーっ、よかった仲間がいて!」

    苗木「そ、そうだね!」

    セレス「…本当ですか?」

    苗木「え?!」

    石丸「こら!仲間を疑うのは良くないことだぞ!」

    セレス「…いえ、何か隠しているように見えたので…」


    十神「きっと苗木が言っていることは本当だろうな」

    セレス「なんででしょうか?」

    十神「こいつが時間を知る魔法を全く使えないのは、こいつの遅刻ぐせが物語っているからな」

    セレス「確かに…真面目な苗木君が時間にだけはルーズですものね…」

    苗木「…これって誉められてるのかな?」

    そんな話をしながら歩いていると…


    タッタッタ!!


    十神「!…苗木!前を見ろ!!」


    苗木「え?…って、うわぁ!」


    「…キャッ!!」


    ドンッ


    また女の子にぶつかった…本日二回目である



  26. 26 : : 2014/03/23(日) 21:26:06
    苗木「あっ、ご、ごめ ビュン!

    苗木「………え?」

    女の子は、一瞬にして自分の横を通り過ぎて行ったようだ……。

    苗木「は、速すぎ…ごめんも言ってないよ…」

    フワッ

    …遅れてやって来たのは、彼女の残した風。

    いい匂いだと、苗木は素直にそう思った。

    朝日奈「さっきの子、すごい速かったね!全然見えなかったよ!」

    十神「あれは確か、他クラスの……」

    石丸「他クラス?ということは…あんな速い子とも戦うのかね…」

    セレス「まぁ、訓練は正直ですわ。日々の行いが自分を作るのです」

    苗木「セレスさんが言うと全然説得力がないね…」ハハハ

    朝日奈「まぁさ、今はパレードを楽しもうよ!」

    十神「…そうだな。せっかくのパレードだ」

    苗木「うん…そうだね!」

    僕たちはとにかく、色んな店を回って楽しんだ。

    パレードは初めてだと言う僕に対して、国民の対応は暖かかった。

    「ほら!おまけしとくよ!」

    苗木「わっ!こんなにいいんですか!?ありがとうございます!」

    石丸「こら!買い食いはだめだと……モゴォ!?」

    石丸が言い終わるより先に、十神が口の中に肉の塊を突っ込んだ。

    十神「これで石丸、お前も同罪だ」

    石丸「モゴォ…ング…ゴクン………うぅ…僕は風紀委員失格だ…」ポロポロ

    セレス「楽しむことを縛るルールなんて、守る意味はないでしょう?」

    朝日奈「今度はすごい説得力だね!」

    「あれ?隣のクラスの…」

    苗木「……?」

    後ろからの声に反応し、振り向く。

    苗木「え、えーと…」

    桑田「やっぱり!隣のクラスの奴らじゃん!」

    苗木(ねぇ、誰?)ヒソヒソ

    十神(隣のクラスの桑田だ。…まぁ、めんどうな奴だな)ボソッ

    桑田「ははっ!やっぱ対抗戦、負ける気しねーわ!」

    石丸「な、なんだと!?」

    桑田「いや、ぶっちゃけお前ら見ててもオーラとかなんも感じねぇんだわ!これなら楽勝だな。むしろ、恥かく前に棄権しといたらどーだ!?」

    朝日奈「!」カチンッ

    セレス「………ふふふ」

    桑田「? 何がおかしいんだよ…!」

    セレス「弱い犬程…よく吠えますわね」ニコッ

    桑田「───ッ!」

    この一言が、彼の逆鱗に触れたようだ。

    桑田「むっきーー!俺に勝てるわけねぇだろアホアホアホ!誰が弱い犬だゴルァ!」

    セレス「失礼、猿でしたわね」クスクス

    桑田「あぁぁぁぁぁもう許さねぇ!!!ここでぶっ潰してやる!!!」

    「お、なんだ喧嘩か?」

    「パレードの出し物??」

    苗木(やばいよ!人が集まってきた!)

    苗木「ね、ねぇ…今はやめようよ…」

    桑田「あぁん!?」ギロッ

    苗木(ひぃー!)

    セレス「ここじゃあなたが恥をかくだけだからやめようと言っていますわ」

    苗木「ゼレズザン!やめでよ!!」

    十神「焦りすぎだ苗木」

    桑田「あぁぁ!?…てめぇ、面かせよ」

    苗木「えぇー!?ちょ、助けてぇぇええ!」ズルズルズル…

    石丸「ひ、引きずられていってしまったぞ…」

    セレス「後を追いましょう」

    朝日奈「そうだね!助けなきゃ!」

    セレス(……さぁ、何を隠してるのか…この目ではっきりと見させていただきますわ)

  27. 27 : : 2014/03/23(日) 22:26:07



    【広場】

    ズルズル

    かなり引きずられた。

    桑田「へっ!ここなら広いし、いいだろ」

    皆パレードで城付近にいるので、周りには誰もいない

    苗木「ね、ねえ、やめようよ。怪我しちゃうからさ」

    桑田「はぁ?!俺が怪我するってか?!なめんじゃねえぞ!!」

    苗木(はぁ…闘うのは避けられないのかな…)



    ーーーーーーーーーー



    【広場後方】


    十神「チッ。止めなくて良いのか」

    セレス「私達は、彼の力量も素性も全く知りません。ここは、彼の力を見極めるために1つ見守ることにしましょう…」

    十神「……一理あるな」

    朝日奈「そんなダメだよ!ほら石丸も何か言って」

    石丸「…僕は風紀委員失格だ…僕は………!」ウジウジ

    朝日奈「大変だ!まだウジウジしてるよ!」

    セレス「しかしこれで2対1ですわ…見守ることにしましょう。」

    朝日奈「で、でも!」

    セレス「苗木君を信じて……見守りましょう。それとも貴女は苗木君を信じていないのですか?」

    朝日奈「それは、…………わかったよ。私も苗木を信じて見守る」



    ーーーーーーーーーー


    【広場】

    桑田「てめぇが来ねぇなら、こっちから行くぞ!!」ブンッ

    そう言いながら桑田くんは、明らかに野球用ではないバッドのようなものを取り出した

    苗木「ちょっ!素手の相手に武器はずるんじゃない!?」

    桑田「うるせェ!!このご時世に常に持ち歩かない方がおかしいんだよ!!」

    苗木「…ま、まあその通りだけど…」

    苗木(だけど、あんな重そうな武器なら避けるのは、たやす………!?)

    桑田「いくぜぇ!!!」

    ゴゴゴゴ

    大量の炎が凝縮され、1つの球体が出来る。

    苗木「えっと、何それ?」

    桑田「火を圧縮した玉だ。当たるとちょっと火傷するかもだから気を付けろよ!!」カキィイン

    桑田くんはそれをバッドで振り抜いた

    苗木「明らかに火傷じゃ済まないよ!!!」ダッ

    とっさにその場から飛び退く!!

    ゴウッ!!!

    さっきまで僕がいた場所に炎の塊が通過する。

    避けはずなのに、大量の熱風が僕のさらされている肌を襲う

    苗木「ッ!!」

    桑田「ひゃっはァ!!!まだまだいくぜ!!バウンドを組み合わせたら避けらんねェだろッ!!!」カキィイン!!カキィイン!!カキィイン!!カキィイン!!


    苗木「!!」


    ドゴゴォオオオン!!!


    アルターエゴ『彼の居た場所は、爆音と砂煙に包まれた』


    ーーーーーーーーーー

    【広場後方】

    朝日奈「ねぇ…ヤバイよ…苗木が死んじゃうよ」グスッ

    十神「まだだ」

    セレス「まだですわ」

    朝日奈「まだってなんなの!?仲間が…命の危険にさらされてるんだよッ!!?」

    十神「…お前らには黙っていたが、俺は奴の過去を調べていた」

    セレス「……彼の過去ですか?」

    十神「先に前置きしておく。この世でもっとも重宝するのはどんな兵だと思う?百人分の力を持つ人間か?それとも百人分の知能をもつ人間か?」

    朝日奈「そんなこと、どうだって良いよ!!それより苗木が!!!」

    十神「俺はこう考える…どんな絶望的な状況でも、希望を捨てず。絶対に生き延びる……そんな人間だ」

    朝日奈「言ってる意味が!!」

    セレス「!!……あれを見てください!!」

    朝日奈「……え?」



    ーーーーーーーーーー


    【広場】

    桑田「…やっべぇやり過ぎた」


    アルターエゴ『モクモクと上がる煙』


    桑田「おーい生きてるかー?」


    アルターエゴ『舞い上がる砂塵』


    桑田「もしかして…死んじまった?」


    アルターエゴ『そして、その煙が晴れるとき彼は見た』


    桑田「!?……いない?」


    アルターエゴ『そう。先程まで、彼が居た場所には彼の姿は無かった』


    桑田「はぁ!?意味がわかんねぇッ!!どういうことだッ!!!……まさか、骨も残さず消し炭にしちゃった感じか?」

    苗木「下だよ」ドゴンッ!!

    桑田「はァッ!?ゴフッ!!」

    僕の拳は桑田くんの顎にクリーンヒットした。


    桑田「なっ!?どっから現れた!?意味わかんねぇぞ!」

    苗木「下だよ」

    桑田「下だぁ?……なッ!?」


    アルターエゴ『苗木誠は現れた。桑田の真下から……正確には地面の中から』


    苗木「散々やってくれたね。さあ、次は……僕のターンだ!!」



  28. 28 : : 2014/03/23(日) 22:57:52
    んっほお続編ですか!期待です!
  29. 29 : : 2014/03/23(日) 22:58:11
    尻餅をついている桑田を、上から見下ろす。

    苗木(ちょっと気持ちいいかも…)フフン

    桑田「! 隙あり!」

    咄嗟に火球を生み出し、それを素手で弾くことで時間を短縮。
    見事、それは顎にヒット。
    いい気分の苗木に尻餅をつかせた。

    苗木「うそっ!」

    桑田「へへ……結局こうなる運命なんだよクソ野郎!」

    苗木「どういう運命…かな…」

    桑田「!?」

    アルターエゴ『な、なんと!さっきまで倒れていた苗木くんがもう立ち上がって、桑田くんの背後に!』

    桑田「アポな!確かにお前は───」ガッ

    最後まで言うことなく、桑田の意識は沈んだ。

    苗木「アハハ……これ以上は何もしないから、許してね」

    アルターエゴ『苗木はそう言って、その場を去った』

    苗木「さて…みんなのところに戻らないと」

    アルターエゴ『そしてそれを後方から見つめる4人』

    セレス(なんだ…桑田君が想像以上に不甲斐なくて、何もわかりませんでしたわ)

    十神「……セレス、どう思った」

    セレス「別に何も」

    十神「……あぁ、そうか」 

    十神(だが、不審な点がいくつかある)

    十神(もしやそれが、苗木の秘密……?)

    朝日奈「さっ!もういいでしょ?苗木のところに行くよ!」

    石丸「うぅ……」シクシク

    朝日奈「石丸は長い!」

    アルターエゴ『その後彼らは合流し、引き続き、パレードを楽しんだ……』

    夜…… 

    朝日奈「もうパレードも終わりだね……」

    苗木「もう終わりか……。明日からは、また気が抜けないね」

    「明日から……?随分緩いことを言うんですね!」

    苗木「え……誰!?」

    「私です!私私!」

    アルターエゴ『苗木達の前に現れたのは、赤い髪の女の子』

    「音無って呼んでください!」

    苗木「わ、わかったよ音無さん!…でも、なんか厳しいこと言われちゃったな」

    音無「当然ですよー!もはやどこも安全ではないのに!今日とて例外ではないのに!ちょっとお祭りしたらその間は危機感0なんて絶望的です!」

    苗木「あ…その通りだね」

    朝日奈「何簡単に納得してんの!」

    十神「……?見かけない顔だな」

    音無「そりゃ、初対面ですから!」

    セレス「音無…聞いたことのない名字ですわね」

    音無「そりゃ地味ーに生きてますから!」

    石丸「だ、だいぶ変わってるな…」

    苗木(石丸君が言うんだ…)

    アルターエゴ『音無と名乗った少女と話していたら、いつの間にか大通りを抜け、それぞれの寮へと向かっていた』

    音無「あっ!みなさん希望ヶ峰学園の…!」

    苗木「うん。ここでお別れだね」

    音無「ですね!中々楽しかったです!じゃあまたいつかお会いしましょう!」タッ

    アルターエゴ『そう言って音無は、夜の中に消えていった……』

    ……………………

    なぁにあれ。まるで腑抜けばっか。

    あんなんと一緒に戦場とか死ぬっつーの!

    ……はぁ、ばかばかしい。

    全部全部、ばかばかしい。
  30. 30 : : 2014/03/23(日) 23:28:00

    音無「あー、絶望的にばかばかしい…」

    「馬鹿馬鹿しいなら終わりにしよう…」

    『そうでちゅ!終わりにするでちゅ!』

    音無「…は?アンタら誰?」バッ

    「誰かなんて関係ない。私はあなたを止めるために来た……んだと思うよ?」

    『ほぇ!?せめて言いきりまちょうよ!』

    音無「アンタらこの国の人間じゃないね、それに絶望の国のものでも」

    「…………」

    『…………』

    音無「それで?止めるって何を?戦争を止める?そのためには絶望の国を滅ぼす他ねぇだろ!」

    「……違うよ…」

    音無「はぁ?何が?」

    「きっと、二つの国が手を取り合っていける『未来』だってあるはずだよ!!」

    音無「ふぅーん…そう言うこと……それなら力で示して見なよ!!」ザッ

    『この展開は避けたかったでちゅね…』スッ

    「……しかた…ないんだよね」スッ


    音無「ああ、手加減なんかしないから、まあ死なないようにね!」ニコッ

    シュンッ

    「!?」

    『!!』

    アルターエゴ『一瞬で姿を消す彼女…………そして…』


    ………………………………………

    ………………………

    ………………

    ……



    ーーーーーーーーーー

    《朝》

    【寄宿舎】

    チュンチュン

    鳥の鳴き声で目を覚ます僕

    苗木「ふぁ~あ……今日は休みなのに早起きしちゃったな…」

    苗木「……散歩でもするか…」



    ~~~~~~~~~~

    【学園前】

    苗木「いやぁ…普段遅刻ぎりぎりで走ってばっかりで目にも留めてなかったけど…改めて見るとキレイだなぁ」

    寒さにめげず咲く花々や木々、鳥たちの交流、鳴き声が改めて新鮮に感じた




    だけど

    苗木「!」タッ

    そんな景色に不釣り合いなものがあった

    通り道を塞ぐ、赤い水溜まり

    苗木「これは…」

    それは血痕だった

    僕にとってそれは…嫌と言うほど見覚えがあるものだった


    苗木「……なんだよ、これ」

    その血痕は、点々と茂みの方に続いていた

    僕はその血痕を無意識に辿る……


    そして、その血痕の先には………………








    苗木「…あれ?」


    何も無かった


    いや違う。ここに何かがあって誰かが居たのは確かなはずだった


    …だけど、誰も居なかった





  31. 31 : : 2014/03/23(日) 23:49:07
    苗木「なんだったんだろう……」

    ズキンッ!

    苗木「ッ!」

    苗木(なんだコレ!頭が割れそうだ……!)

    ズキンッ!ズキンッ!

    『聞こえてますか?聞こえてますか?』

    『このメッセージが届いていれば…まだ希望は……未来はある!』

    苗木(希望…?未来…?)

    苗木(それに…この声どこかで…)

    『このメッセージが希望ある人に届いていることを祈って…伝えます』

    苗木(何をっ───)

    アルターエゴ『ここで、視界は、暗転した』


    ━━━━━━━━━━


    苗木「う……うぅ…」

    目が覚めた僕の目に写り込んだのは、全く知らない風景……ではなく、昨日の広場…?

    苗木「……?夜?」

    おかしい。僕は寝てたのか?

    辺りを見回すと、何やら二人の女子が話し合いをしているのを見つけた。

    苗木(…!この二人は!)

    音無さんと……ぶつかった子!!

    でも、二人とも雰囲気が違う……。

    アルターエゴ『しばらく沈黙が続いた後、音無が動いた』

    苗木「!」

    アルターエゴ『動いただけなのだが、苗木の目には瞬間移動した様に写った』

    苗木「なっ!」

    ガッ!

    音無が目にも止まらぬ速さで繰り出した拳を、腕を曲げて受け止める。

    苗木「な、なんで戦ってるの!?」

    声をかけても、自分の存在から気づかれていない。

    苗木は困惑しながらも、何も出来ないことを悟り、見届けることにした。

    苗木(何がなんだかわからないけど……とにかく状況を把握しないと!)

    「くっ……!」

    音無「あははっ!魔法無しで勝てるかも!」

    「……負けられないっ!」

    女の子は両手を前に突きだし、何かを唱え始めた。

    音無「お、魔法使えるんじゃん」

    「舐めないでよ……これでもエリート学校出てるんだから!」ドヤッ

    音無「ドヤ顔なんかよりも魔法を見せてみなよ!」

    「言われなくても!いくよ!」
  32. 32 : : 2014/03/24(月) 00:51:13



    シャウィイイン!!

    アルターエゴ『空気を飲み込むような白いレーザーが彼女の体を包み込むように放たれた』

    音無「ふっうーん、中々良い魔法使えるじゃん!」

    ゴウッ!!

    そして、そのレーザーは音無さんの体を呑み込んだ

    苗木「お、音無さぁぁん!!!」


    「…やった……のかな?」ペタンッ

    その言葉とともに彼女は尻餅を付く

    『まだでちゅ!』

    先程まで気付かなかったが、ウサギの形をした生物がそう言った

    音無「はいはーいその通りでーっす!!」

    無傷。あれだけの魔法をくらいながら、傷1つ無かった

    「そんな……私の最大魔法の1つなのに」

    音無「あれで最大魔法?アハハッ絶望的に期待はずれ…」

    「…………」ダラダラ

    焦りと恐怖からか、ぶつかった彼女から大量の汗が吹き出していた

    音無「飽きてきたし…そろそろ殺らせて貰うわ…ね!!」ブンッ

    彼女の手には大きな鎌が握られていた

    ザクリッ!!

    「う…アッ!」

    強引に体を捻るも、横腹を大きく削られる彼女

    当然大量の血が辺りに撒き散らされる


    そこへ


    音無「シューットーッ!!!」ゴスッ!!

    彼女の回し蹴りが放たれる

    「ぁあァ!」

    ドスンッ

    その蹴りで飛ばされた彼女は受け身も取れずに茂みに沈む


    音無「さぁーってそろそろトドメといきますか…」スタスタ


    苗木「止めろよ!!何もここまでする必要ないだろ!!」


    必死に叫んでも…僕の声は届かない

    音無「アンタは最後にどんな絶望の中で死ぬのかな?」

    苗木「もう彼女は戦えないだろ!!何も殺さなくたって良いじゃないかッ!!!」

    それでも僕は叫び続けた

    音無「はぁ?何アンタ?」

    苗木「!?」


    一瞬僕の声が届いたと思った。


    …だけど違った

    『…………』プルプル


    彼女の前に立ちふさがったのはウサギ型の生物だった


    音無「…何?邪魔なんだけど…」

    『い、いかせまちぇん!!』プルプル

    音無「あー、はいはい邪魔邪魔!」ゲシッ


    そのウサギ型の生物は踏まれ蹴り跳ばされた

    音無「今最高に楽しんでるんだからさ…邪魔しないでよね」スタスタ

    『させ……まちぇん…』プルプル

    ソイツは立っていた…踏まれても蹴られても立っていた

    そして……茂みに沈んでいる彼女を庇うように立ち塞がっていた…


    「ウ……ウサミちゃん…逃げて………」

    ボロボロで既に虫の息の彼女、自分が死ぬかもしれない状況

    ……それでも彼女はそういった


    『ふふふ、なぁにを言ってるでちゅか…あちしはあなたの先生でちゅよ…………大切な教え子を置いて…逃げるわけないじゃないでちゅよ…』


    音無「じゃまだっつーの!!」ゲシッ!!


    いくら蹴り飛ばされても、ウサミという教師らしき人物は立ち上がった

    体の形が変わるまでボロボロにされ……それでも手を大きく広げ、彼女の前に立ち塞がった


    音無「あーっ!もう邪魔ッ!!」ゲシッ

    そして彼女はウサミを蹴り飛ばした。今にも死ぬかもしれない彼女のもとに

    音無「ふぅ!もうめんどくさいので二人纏めて殺っちゃいまーす♪」

    苗木「やめ……ん?」

    やめろッ!!…そう叫ぼうとした僕は、ある声を聞きその声を止める

    ウサミが何かをブツブツと唱えている

    そして、

    ボワンッ!!

    ウサミと女の子の居た空間の茂みが歪む

    ウサミ『ぎりぎり間に合ったでちゅ…さあ早く!』

    「い……嫌だよ、ウサミちゃんも…一緒にいこ…うよ」

    ウサミ『ダメでちゅ…このワープホールは一人用なんでちゅ』

    「それ…なら、ウサミ…ちゃんが!」

    ウサミ『最後くらい、あちしに先生にらしいことさせてくだちゃい…』

    「嫌だ……いやだよ…」

    音無「そろそろいっくよー!おっしおきタイム~!!」ブンッ

    ウサミ『させまちぇん!!』

    ドンッ!!

    「え?」

    大鎌が振り下ろされる瞬間。

    ウサミは少女を庇うようにワープホールに押し込んだ



    ウサミ『千秋ちゃん………生きーー』グシャッ!!!!

    そして、脳天をかち割るように大鎌がウサミに向かって振り抜かれた

    千秋「いやぁあああああああ!!!」


    苗木「うわぁあああああああああ!!!!!」


    響き渡る叫び声

    目の前でおこなわれた絶望的な光景







    そこでまた、世界は暗転した


  33. 33 : : 2014/03/24(月) 01:14:28


    苗木「………!?」

    アルターエゴ『なんだかよくわからない世界。そうとしか形容できないこの世界で、苗木は再び目を覚ました』

    苗木「ここは……?」

    「目……覚めたかな」

    苗木「!?」

    アルターエゴ『声の主は、さっきの女の子だった』

    「私は七海。また会ったね」

    苗木「またって……君はやっぱりあの時の!というか、さっき君は…!」 

    七海「うん。殺されかけてた。音無……いや、“英雄”にね」

    苗木「!? “英雄”!?だって英雄は彼女と全然──」

    七海「魔法、だよ」

    苗木「!」

    七海「魔法で姿を変えてるんだよ……もっとも、高度な魔法だから使えるのは“英雄”くらいのものだよ」

    苗木「そんな……。って、君が“英雄”を探してた理由はまさか戦うため!?」

    七海「それこそまさかだよ。……あのね、君達が思う“英雄”は、本当はまったく“英雄”じゃないの」

    苗木「………?」

    七海「言葉通りの意味だよ。“英雄”は“英雄”じゃないんだ」

    苗木「………それって」

    七海「うん、信じられない気持ちはわかるよ。私もそうだった…。でもね、これが現状。私は“英雄”になりすます彼女の動向をずっと探ってたの」

    苗木「そうだったのか……。一ついいかな?“英雄”は僕たちにとって悪なの?」

    七海「……まだわからない。でも現に、私や…ウサミちゃんは……」

    苗木「……そっか」

    七海「ね、君に頼みがあるの」

    苗木「なんだい?」

    七海「私はもう堂々と捜査出来そうもない…だから、代わりに捜査して欲しいの!」

    苗木「!」

    七海「近いうち、彼女と戦場に行く機会があるんだよね?


    苗木「あるけど…そのためには…隣のクラスに勝たなきゃいけないんだ」

    七海「お願い!無理は承知の上だけど…この国のためなの!」

    アルターエゴ『頭を下げて必死に頼み込む七海に、苗木はたじたじだった』

    苗木「わ…わかった。この国のためだもんね。怖いけど、やってみるよ」

    七海「!」

    アルターエゴ『そう言うと、七海はこれまで見たことのない笑顔を見せ…』

    七海「ありがとう!」ギュッ

    アルターエゴ『お礼の言葉と共に、両手を握った』

    苗木「あ、あはは…///」

    七海「茂みのところに君がくれば、自動でここに来れるようになってるから、何かあったら連絡してね」

    苗木「わかった…がんばるよ」

    七海「うん。メッセージが君に届いてよかった…」

    ブオン!!

    アルターエゴ『そして、三度目の暗転』




  34. 34 : : 2014/03/24(月) 05:10:27



    苗木「…………」パチパチ

    見覚えのある景色

    苗木「……戻ってきた…さっきのは、夢?」ギューッ

    苗木「……いてて」

    今さら頬を引っ張ったところで分かるわけもなく

    とりあえず、夢の中で言われたことを信じ、また茂みに向かう……すると

    ブォン!!

    少しの暗転の後


    苗木「う…ううん?」パチクリッ



    七海「…また来たの?」

    夢で………正しくは夢だと思っていたもので聞いた彼女の声を聞いた

    苗木「……夢じゃなかったんだ」

    七海「当たり前だよ!もう…疑ってたの?」プクゥ

    苗木「いやいや、そうじゃなくて!」

    七海「……でも嬉しいよ。私も1人で寂しかったから…」

    苗木「…………」

    うーん、何か引っ掛かるけどまあ良いや。

    何が正しいなんて現状じゃ分からないし

    何が間違っているなんていくら考えても分かりっこない。

    だけど彼女は信用できる……いや信頼したい。そう思った。

    それだけは確かだった

    だから……あの約束を守る。そのためには…


    苗木「ごめん、来て直ぐにだけど僕戻るね。鍛練しなきゃいけないから」

    対抗戦で勝たなければいけない。

    “英雄”と行動して何が正しいのかを確かめるために…

    七海「……頑張ってね」ニコッ

    そんな僕の真意を見抜いたのか、微笑みながらそう言う彼女

    七海「…またね」


    対抗戦は丁度一月後


    苗木「うん。またね」


    ブォン!!


    そして、視界が暗転した後


    苗木「……戻ってきたんだね」

    見覚えのある風景が目の前に広がった


    苗木「…………なんだか、慣れてきたな」テクテク

    その後僕は軽い散歩をしたのに自室に戻った


    【寄宿舎】

    苗木「ふう…これくらいで良いかな」ガチャガチャ


    僕が部屋に戻ってきたのは、出掛ける準備をするためだ。

    ある程度の身仕度を整え、部屋に立て掛けてある剣に手を伸ばす。


    苗木「……よしっ行こう」




    一月…たった一月で僕は今よりも何倍も強くならなきゃならない。

    その為には生半可な覚悟はもちろん、血ヘド吐く程度でも足りない……

    やるなら死ぬ気だ。

    そして…強くなるためには


    苗木「利用できるものは何でも利用する!!」ダッ



    こうして僕は寄宿舎を飛び出した


    …………………………………

    …………………

    …………



    ーーーーーーーーーーー



    「だから!お願いですって!!」

    『ダメだダメだ!帰れ!』

    「そこをなんとか!」


    ワイワイガヤガヤ


    【城】

    江ノ島「ん~…何ぃ下が騒がしいんだけど…」

    松田「何やら、お前に稽古をつけてくれって言う希望ヶ峰の生徒が訪れてるらしいぞ」

    江ノ島「へぇー、……ってなんでアンタが部屋の中いるのよ」

    松田「ちょうどこのことを伝えに来たところだからな」

    江ノ島「ふっうーん」

    松田「なんだその適当そうな返事は…」

    江ノ島「そりゃあ適当だからね。それにしても、どんなバカかしら、“英雄”である私様に稽古をつけてと言いに来るなんて!」ウププ

    松田「お前直々に断ってきてくれないか?あまりことを荒立てたくないからな。お前が行けば相手も満足して帰るだろうしな」

    江ノ島「はいはい、ったく…アンタぐらいだよ“英雄”様にそんな口きくのは、」スタスタ



    ーーーーーーーーーー



  35. 35 : : 2014/03/24(月) 05:17:04
    >>28
    ありがとうございます!
    劇自体は、丸っきり違うかったりします!(笑)
  36. 36 : : 2014/03/24(月) 06:54:54
    苗木「お願いしますっ!」

    「だめだだめだー!帰れ帰れー!」

    苗木(くっ…やっぱりだめだったか?)

    ギィ……

    アルターエゴ『その時、城門が開いた』

    苗木「……!」

    江ノ島「あー……」

    江ノ島(なんだ……パレードの時の……)

    苗木「……“英雄”…」

    江ノ島「………聞いたよ。稽古をつけてほしいんだって?」

    苗木「! はい!」

    江ノ島(……なんてキラキラした瞳。でもその奥は…何か…違う……)

    江ノ島(……はぁ、とりあえず絶望的に断ろう)

    江ノ島「ごめんね。あたし忙しいからさ…無理」

    苗木「うぅ…」

    ゾクッ!

    江ノ島(! 何今の…)

    江ノ島(…………もしかして、こいつ……!)

    初めてだった。

    “英雄”……いや、“江ノ島盾子本人”はこの時初めて

    江ノ島「……稽古、つけてもいいよ」

    魔法にかかった。そんな様な感覚に包まれた……。


    アルターエゴ(あれ?こうなるなんて計算されてないぞ?)

    アルターエゴ(ど、どうしよう!)アセアセ

    苗木「ありがとう……“英雄”…」 

    江ノ島「ただし!」

    苗木「!」

    江ノ島「やるからには徹底的にやる!あんたはこの城に泊まり込みなさい!」

    苗木「…え?」

    江ノ島「辛くて苦しくて……希望も裸足で逃げ出すくらい絶望的な強化合宿をしてあげるんだから!」

    苗木「………はい!」

    苗木(やった!これで強くなれるだけじゃなく、捜査も出来る!)

    江ノ島「ほら、早く入りな」

    “英雄”に言われるがまま、苗木は城の中に入った。
  37. 37 : : 2014/03/24(月) 17:15:11




    江ノ島「でさ、アンタは一ヶ月後に控えた対抗戦というやつのために修行に来たんだよね?」

    苗木「は、はい。そうです」

    江ノ島「行かせないから」

    苗木「…え?」

    唐突にそんなことを言われ、僕は言葉につまった

    江ノ島「どうしても行きたいっていうならこの城から脱出してみなさい」

    苗木「でも、脱出って言ったって扉から出れば…」

    江ノ島「そんな簡単に出れると思うの?」

    苗木「…………やってみなくちゃわからないですよ」

    江ノ島「まあ、今のアンタならどうあがいたって無理。選りすぐりの兵士が揃ったこの城から出るのなんて夢のまた夢…」

    苗木「“今の僕”なら?」

    江ノ島「そうそう、そのために死ぬ気だ修行に取り組みなよ」

    苗木「もとからそのつもりなんだけどね…」

    江ノ島「口答えしない!ほらついてきなさい!」グイッ

    ズルズル

    苗木「痛い!痛いってば!」

    江ノ島「それとアンタ!ちょこちょこ敬語が抜けてるわよ!!私様の剣の錆びにしちゃうぞ♪」

    武器は剣なんだね…なんて返すことはなく。僕は普通に謝るのだった

    苗木「ご、ごめん…」

    江ノ島「また!!………はぁいいや、特別に年代近いしそれくらいなら許してあげるわ…」

    苗木「ありがとう!“英雄”!!」

    江ノ島「そ・れ・と!、私には“英雄”以前に江ノ島って名前があるんだから覚えときなさいよね、確かに語呂が似てるけどさ」

    苗木「似てないよ!!最初の一文字だけだよ!!」論破

    江ノ島「…………そだね」ムスッ

    苗木「あれ?…もしかして怒ってる?」

    江ノ島「いやいや、全然怒ってないよ?アンタの…修行内容考えてただけ!」グイッ

    苗木「嘘だ!!絶対に怒ってるよ!!」


    アルターエゴ『こうして、苗木誠の絶望的な修行が幕を上げたのでした。』




    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『それから四週間後。対抗戦まで三日となったある日』


    【希望ヶ峰学園】


    朝日奈「……苗木どうしてるのかな」

    石丸「強化合宿をサボるとは、けしからんぞ!!」

    セレス「まあ、実際に強化合宿に来たのは私たち三人だけでしたけどね…」

    朝日奈「セレスちゃんがいることに私驚いちゃった」

    セレス「ふふふ。それほど勝利は私にとって価値があるものだからですわ」

    石丸「ふむ…ところで残りの三人は一体何をしているんだ!」

    セレス「苗木君を除くお二人とは連絡がついたのですがどうやらお二人はお二人で鍛練に勤しんでるようでしたわよ」

    石丸「…苗木君は三日後に間に合うのか?」

    朝日奈「………苗木」

    セレス「まあ、いざと言うときは五人で闘えば良いのですわ」

    朝日奈「でも強化合宿の時に見たんだけど……相手凄く強そうだったよ」

    セレス「大丈夫ですわ。それは見間違えです」

    朝日奈「そ、そうなの!?」

    セレス「強そうではなく…強いのですわ」

    朝日奈「ダメじゃん!」

    石丸「だが、僕たちは負けないぞ!何故なら最後に勝つのは努力したものだからだ!!」

    朝日奈「うん!そうだよね!」

    セレス「相手方も同じように努力したはずなのですが…」


    ガラガラ!!


    アルターエゴ『そんな他愛もない会話をしている最中に、教室の扉が勢いよく開かれた』





  38. 38 : : 2014/03/24(月) 17:45:02
    仁「やぁ。うまくいってるかい?」

    朝日奈「先生!」

    石丸「僕達の準備は万全です!……ただ、苗木くんが…」

    アルターエゴ『ただごとではないといった雰囲気に、仁は眉をひそめる』

    仁「…何かあったのか?」

    セレス「いえ……何もないのですわ」

    仁「?」

    石丸「彼と、連絡がつかないんです」

    仁「なっ!この時期に!」

    セレス「思えば、パレードから彼の姿を見ていないですわね」

    仁「っ……事情はわかった。とにかく彼のことはこっちに任せて、練習に励んでくれ」

    石丸「わかりました!よろしくお願いします!」

    アルターエゴ『仁はそう言って教室を出た』

    朝日奈「さ……て、じゃあ、次は私vs石丸だね!」

    石丸「うむ!新しい技を試すぞ!」


    ━━━━━━━━━━


    【城】

    苗木「ハァ……ハァ……」

    兵士「! 居たぞー!」

    苗木「!」ダッ

    松田「……遅いぜ」

    アルターエゴ『全速力で走る苗木に、松田は先回りして足を引っ掛ける』

    苗木「う……うわぁぁぁああ!」ゴロゴロゴロ…

    ガッシャーーン!

    アルターエゴ『勢いは止まらず、そのまま壁に激突…』

    苗木「いてて……」

    松田「ったく。まだ抜け出せないのか」

    苗木「うぅ……今日こそはと思ったんだけどなぁ」

    松田「そんなに自信がつくほど、修行がうまくいってるのか?」

    江ノ島「当然!」ヒョコッ

    松田「! いつの間に…!」

    江ノ島「あたしの特訓メニューは完璧。こうして逃げる時間まで確保してやってるくらい余裕はあんのよ」

    松田「……わざとだったのか。通りでここ最近の仕事が鬼ごっこばっかりなわけだ」

    江ノ島「ねぇ苗木?あんたさ…このあたしが3週間も特訓してあげてんの。さっさと成果を見せないと…おしおきしちゃうよ?」

    苗木「お、おしおき!?」ビクッ

    江ノ島「そ。椅子に張り付けて…プレス機までベルトコンベアーでごあんな~い!…とかね」ウププ

    苗木「わ!あ、明日は抜け出されるようがんばるよ!」

    江ノ島「よろしい。じゃあ今日は部屋に戻りな。明日はまた4時起きだから」

    苗木「あ、あはは…」トボトボ

    アルターエゴ『苗木は重い足取りで、用意された部屋に戻った』


    ━━━━━━━━━━


    【苗木の部屋】

    苗木「明日……明日こそは抜け出さないと…」

    アルターエゴ『苗木は城の地図を見て、必死に逃走経路を考えていた。すでにいくつかのルートは失敗しているので、もう限られているのだが……』

    苗木(…僕のやることくらい、お見通しだよなぁ……)
  39. 39 : : 2014/03/24(月) 19:14:22



    苗木「あと、十日か…」チラッ

    アルターエゴ『苗木は日も沈んで城下の光だけしか映らない窓の外を眺めていた』

    苗木「……夜に逃げ出して良いならなぁ…」

    アルターエゴ『そう。この城から脱け出すにあたってルールが設けられていた』

    苗木「壁を破壊しちゃだめなのと、夜は兵士は殺す気で襲いかかって来るんだよな…」ゾッ

    1人相手でも全く歯がたたない相手が大量に…しかも殺す気で襲いかかってくる…

    苗木「こ、これは最終手段にしておこう。前向きに考えれば昼は危害を加えてこないうえに壁を壊す以外は何でもしていいんだから…」

    苗木「とりあえず……寝よう…………zzz」ボスンッ

    アルターエゴ『苗木は、そう言い終わると自らの枕に顔を埋めて寝た』




    ーーーーーーーーーー


    【??】

    七海「苗木君…来ないなぁ…………1人は、寂しいな…」



    ーーーーーーーーーー

    《朝》

    【苗木の部屋】

    バンッ!!

    アルターエゴ『扉が勢いよく蹴破られる』

    江ノ島「おっはよぉー!!希望の朝だよー!!こんな美少女に起こしてもらえるなんて苗木もや……あれ?」

    アルターエゴ『江ノ島の目に映ったのは綺麗に折り畳まれた毛布だけだった。そこに苗木の姿はない…』

    「……」ユラッ

    江ノ島(殺気!!)シュッ

    アルターエゴ『一瞬の判断でその場から跳躍する江ノ島』

    そしてロープが江ノ島が居た場所…つまり何も無い虚空を縛る

    江ノ島「はぁ…アタシを人質にしようなんて百年早いよ……苗木」

    アルターエゴ『上を見ながら言う江ノ島。そこには苗木の姿があった』

    苗木「…あはは、バレた?結構頑張ったんだけどな」

    江ノ島「うーん…まあ惜しかったんじゃないの?」

    苗木「そういうお世辞は捕まってから言ってよ…」

    江ノ島「はいはい、拗ねない拗ねない。苗木今日もはりきっていきましょーう!」

    苗木「うん!」

    江ノ島「おっしおっきタイムーー!!」

    苗木「なんでッ!?」

    江ノ島「あ、ついクセで、はりきったらお仕置きしたくなっちゃうだよね」

    苗木「何その嫌なクセ!?」

    江ノ島「……この茶番も飽きてきたしさっさと行くよ」スタスタ

    苗木「唐突すぎる!!」

    江ノ島「……」スタスタ

    苗木「ああっ、もう待ってよ」タッタッタ



    ーーーーーーーーーー

    【闘技場】

    江ノ島「と、言うわけで苗木には実践訓練をしてもらいます!」

    苗木「いつもながらの唐突さだね」

    江ノ島「それではカモーン!」パチンッ

    彼女が指を鳴らすと、向かいの扉が開き見覚えのある人物が現れた

    斑井「……」スタスタ

    苗木「君は…あの時の!!」

    そして扉を通るのと同時に僕の通ってきた扉と彼の通ってきた扉が閉まる。

    苗木(閉じ込められた!?)


    斑井「おい、“英雄”さんよォ」

    彼は気だるそうに江ノ島さんに声を掛ける

    江ノ島「ん?何々?」

    斑井「本当にこのガキ殺せば俺を逃がしてくれるんだな?」

    苗木「はぁ?」

    苗木(彼は、何を言ってるんだ。江ノ島さんがそんなの黙認するわけ……)

    江ノ島「もっちろん!私様嘘つかない!」

    苗木「はぁ!?」

    苗木(嘘つかないって…立案者江ノ島さんかよッ!!)


    斑井「じゃあ、ちゃっちゃと終わらすか…」ポキポキ

    腕をならしながら此方へ近付いてくる

    苗木「ちょ、ちょっと待ってよ!」

    斑井「待たない!!」ゴッ

    その言葉と同時に彼の細い身体が膨張した。

    学校で見せたアレ……本気で殺しに来るってことか

    苗木「ああもう!」スッ

    僕は強引に剣を抜き後方に走る

    斑井「逃げてても何も始まらねぇぞ!」ダッ




  40. 40 : : 2014/03/24(月) 20:41:18
    苗木「違うよ!戦略的撤退だよ!」

    斑井「お前はチャチャか!」ブン!

    苗木「うわっ!」ヒョイ

    江ノ島(斑井ツッコミするんだ…)

    斑井「ちょこまかと動き回りやがって!」ブン!

    苗木「わっ!やめてよ!」

    苗木(とにかく、あの腕に捕まったらアウトな気がする!)

    アルターエゴ『苗木はとにかく逃げ回った。それは無様に、時には這いずりながらでも、その狭い空間の中を逃げ回った』

    斑井「いい加減その逃げ腰がかんに障るんだよぉ!」

    斑井の肉体はさらに膨張し、まるで壁の様に苗木の行く先を塞いだ。

    苗木「わっ!」

    斑井「さぁ!逃げるのをやめろ!」

    苗木「それでも僕は逃げる!」ダッ

    アルターエゴ『苗木は斑井の脚の間を、スライディングの要領で華麗にすり抜け、なおも逃げ続けた』

    苗木(もう少し……もう少し!)

    斑井「苗木……ここまで俺をコケにした男はお前が初めてだ……」

    苗木「君が全力を出さないと…僕は戦わないよ!」

    斑井「………………ははは…!」

    斑井「ここまで怒りを感じるのも、初めてだ……」プルプル

    苗木「………」

    斑井「俺の本気を見せてやる!!『狂戦士』(バーサク)!!」

    カッー!

    斑井の身体から閃光が放たれ、一瞬苗木の視界を支配した。

    苗木「うっ!」
     
    ……徐々に閃光は薄れていき、その中で、苗木は見た。

    斑井一式の……本気の姿を!

    江ノ島(へぇ……さすがに1人で乗り込んでくるだけあるか)

    斑井「フシュゥ……コロス……」

    更に膨張した筋肉にその顔は埋まっており、背丈は天井にすら届くだろう。

    ……化け物。
    真っ先に思いついたのは、その言葉だった。

    苗木「………!」

    斑井「グルァ!」

    ブォン!!

    腕を一振りしただけで、凄まじい風圧。

    苗木「く…予想以上だ!」

    斑井「ブルルルゥァァア!!」

    もはや自我を失った斑井が、苗木に飛びかかる!

    苗木「………斑井くん…」

    苗木の背には、壁……。
    下がることはできない。

    苗木は覚悟を決めた。

    そして、斑井の拳が苗木に───!

    江ノ島「!」

    当たる直前!

    苗木は一歩、横に移動!斑井の拳はそのまま苗木に当たらず、壁へ!!

    苗木「よしっ!」

    ドガーーーン!!

    江ノ島「壁が壊れた!?」

    苗木(僕が壊したわけじゃないから…いいよね!ここから逃げるよ!)





  41. 41 : : 2014/03/24(月) 21:53:32



    苗木「これで…!」ダッ

    地面を蹴り、崩れた壁の向こうへ全力で走る

    斑井「ゴルガァァア!!」ダッダッダ

    斑井君も追って来ているが、彼自身が重くなったお陰かそれとも稽古の成果が出たのか、差は開くばかりだ

    苗木「これで…出れる……これでーー」

    松田「させると思うか?」スッ

    苗木「うわっ!?」

    ズザァァー!!

    足を引っ掛けられ転ぶ

    苗木「いってて…いきなり現れないでよ…」

    松田「はぁ…それならお前もいきなり逃げ出すな」

    苗木「閉じ込めといてよく言うよ!」

    松田「稽古をつけてくれと頼み込んだのはそっちだろうが」

    苗木「そ、そうだけど……それにしてもなんでここに?」

    松田「…俺が闘技場付近に居たのは江ノ島の命令でだ」

    苗木「命令?」

    ドスン!ドスン!と地響きがなる

    苗木「!!」

    彼が…斑井君がこちらへ近付いてきている…

    松田「アイツが斑井なら壊しかねないから見張ってろと言ったのでな」

    苗木「松田くん1人で?」

    松田「ああ、斑井など俺1人で十分すぎるからな」

    苗木「だったら!」

    松田「だがな苗木…これはお前を強くするためにおこなっているんだ。だから…目の前の脅威から逃げるな!」

    苗木「!!」


    斑井「フシュアラァア!!!」

    気付けば直ぐ後方に斑井君がいた

    松田「さあ…いけ。そろそろお前の修行の成果…見せてみろ」

    苗木「あっはは…そこまで言われると逃げるわけにもいかないよね…」スッ

    アルターエゴ『苗木は改めて武器を構え直す……彼にはもう逃げる気も負ける気もなくあるのはただ1つ…純粋な勝ちたいという気持ちだけだった!』




  42. 42 : : 2014/03/25(火) 19:13:38
    斑井「グォォオ!!」

    苗木(巨大な身体……少しずつ削り取るか……)

    スゥーーー……

    アルターエゴ『斑井が大きく息を吸い込んだ。すでに大きな身体がさらに膨れ上がり……』

    斑井「ブォォォオオオ!」

    アルターエゴ『そしてそれを一気に放出!!』

    苗木「! うわぁぁっ!!」

    ものすごい風だ!!

    僕は勢いよく吹き飛ばされ……

    ガンッ!!

    頭から、壁に激突した……。

    苗木「ウッ!」ズキッ

    ………視界が赤く染まっていく。
    嫌な感覚だ。不思議なくらいボーっとする。

    頭が熱い。
    壁が壊れてないのは幸いだったかな……。

    苗木(これじゃ……持久戦なんて無理だ……)

    フラッ

    苗木「おっと…」

    ちょっと歩いただけでこれか。
    こりゃ短期戦も無理かも……。


    …………………狙うは、超短期戦。

    苗木(………一発…一発で決めてやる!!)

    松田(さぁ苗木。どうするんだ?)

    江ノ島(これに勝てないようじゃ、対抗戦に勝っても意味ないよ!)

    斑井「グォォルァァァァア!!」

    叫び、涎をまき散らす、そこに知性はない。

    もはや獣のように、斑井はただその巨体をぶつけるためだけに、全力のダッシュ!!

    ドスン!ドスン!ドスン!ドスン!

    ものすごい轟音と風を巻き起こしながら、苗木に向かって走る!走る!

    そして……縮んでいく距離は!

    苗木の心拍数と比例!

    ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!

    苗木「ここだぁー!!」

    松田「! これは!」

    ガッ!!

    江ノ島(足をひっかけた!)

    苗木「それっ!」

    松田(そのまま回転!!)

    斑井の速度がそれに乗り!!

    斑井「グォッ!?」

    ドガシャァァァアン!!

    さっき苗木がぶつかった壁に、頭から激突!!

    そして壁が崩れ……

    ガラガラガラガラガラ!!

    …………ズズゥン……

    斑井は、瓦礫の下敷きとなった。

    苗木「………」

    苗木(やったか……?)

    松田(こいつ……)

    江ノ島「うん。まぁ、苗木の勝ちだね」

    苗木「! やった!」

    江ノ島(まさか魔法を使わないなんてね……。魔法は使えるはずなんだけど)

    松田「おい、斑井を牢屋に戻せ」

    兵士「はい」

    苗木「え、…勝ったけど……何もないの?」

    江ノ島「何か欲しい?」

    苗木「う……うん」

    江ノ島「うーーーん、じゃあねぇ……」

    ドキドキドキドキ!
  43. 43 : : 2014/03/26(水) 00:55:37



    江ノ島「おい松田、苗木にキスしろ」

    松田「なんでだよ。締め上げるぞブス」

    江ノ島「はぁぁ?!良いじゃんかかってきな!!アンタじゃアタシに勝てないことを、改めてその見に刻んでやるよ」ギロッ

    松田「いつまでもあのときの俺でいると思うなよ!」ギロッ

    激しい見幕で睨み合う二人

    苗木「ちょ、やめようよ!!二人で喧嘩なん…かしな…い……で」フラッ

    松田「!……おい、しっかりしろ!」

    江ノ島「あーらら当たり所が悪かったのかな…」

    苗木「あはは、大丈夫…だよ」ダラダラ

    江ノ島「松田、治癒魔法使ってあげなよ」

    松田「はぁ?回復魔法は魔法の中でも5本の指に入る難しさなんだぞ?」

    江ノ島「そこで、出来ないって言わないところがイヤらしいよねー。」

    松田「出来ることには出来るが、流石にここまで流血していると流石にな」

    松田「それより、お前がやれば良いだろ…ご褒美というやつで」

    江ノ島「うーん、どうしよっかなぁ?ねぇ苗木。」

    苗木「…なに?」ダラダラ

    江ノ島「ご褒美なんだけどさ、治療と私様のキス…どっちが良い?」

    苗木「……え?」

    何今のおかしな選択肢……聞き間違い?

    江ノ島「だぁかーら!治療かキスか選べッつってんの!」

    聞き間違いじゃなかった…

    なんと、魅力的な選択肢だ

    苗木「そりゃあ………」

    自分の性に従うなら後者の方に決まってる。……男の性に従うならだ

    江ノ島「そりゃあ……何?」ニコニコ


    確かに彼女は、可愛いし美しい……キレイだ


    そんな彼女とキスできる機会は今後二度とないだろう




    ……だけど僕は約束した。あの子に。必ず対抗戦に勝って彼女と一緒に戦場に行くと…


    だから僕はこんな怪我で倒れるわけにはいかない…だから!!!





    ……とカッコいい前置きはおしまい。


    僕はただ


    『ありがとう!!』ギュッ


    そう言いながら僕の手を握った彼女を裏切りたくないだけなんだ…


    苗木「そんなわけでゴメン……治療の方をお願いするよ…」

    江ノ島「何がそんなわけか分からないけど、まあアンタならそう言うと思ってたわ」

    頬をつり上げニヤニヤ笑う江ノ島さん

    江ノ島「しっかし苗木も勿体ないことするねぇ、こんな美少女とキスするチャンスを棒に振るなんて」

    松田「本当の美少女は自分のことを美少女とは言わねえよ」ボソッ

    江ノ島「聞こえてるからね。減給しちゃうぞ?」ニコッ

    松田「……お前は何を言おうと可愛いから例外だがな」

    江ノ島「それでよろしい」ニコッ

    そう微笑むと、彼女は何やら詠唱し始めた

    今まで聞いたどの詠唱より長いそれを、一度も噛まずに、それに加えスラスラと読み上げていく

    そして、僕の体を暖かい光が包み込み

    詠唱が終わる頃には、傷は完全に塞がっていた

    江ノ島「ふぅ…やっぱ疲れるわ」

    苗木「す、凄いよ江ノ島さん!体が軽い!」

    江ノ島「あったりまえでしょ!今まで蓄積されてた疲労も全部跳んでったわけだし…まあ今のは仙豆みたいなものって考えときなよ」

    苗木「お腹は膨れてないけどね……でもスゴいや!」

    松田「凄いのはこれからだぞ」

    苗木「え?これにまだ何か効果があるの!?」

    松田「これから凄くなるのは…稽古だ」

    苗木「ええ!?あれでも十分なのにまだするの!?」

    江ノ島「あれはまだ基礎中の基礎、こっからが本番。」

    松田「大丈夫だ。大怪我したら俺と江ノ島でどうにかしてやる」

    苗木「そんなに過酷なんだね」

    江ノ島「でも、強くならなきゃダメなんでしょう?」

    苗木「もちろんだよ!」

    松田「それなら……」

    苗木「やるしか…ないんだよね」

    松田「ああ」



    アルターエゴ『やるしかない。そう言った苗木の目は強い意思と希望に満ち溢れていた』




  44. 44 : : 2014/03/26(水) 00:59:16



    アルターエゴ『それから一週間後』


    《朝》

    目が覚め布団をたたむ。

    その後は顔を洗い、一通りの身支度をする

    苗木「今日も良い天気だ」キィィ

    ヒュウウウ!!

    窓を開けると風がここぞとばかりに部屋へなだれ込んでくる

    まだ日が出たばかりの風は肌にチクりと痛みを感じさせた

    僕が窓を開けたのは、当然風にあたるためではない。


    そう…城から抜け出すためだ


    どうするかは簡単。ただ七階の窓から飛び降りるだけだ


    苗木「よっと…」シュッ


    そのまま重力に従い下りつつ、下の階の手すりや照明を上手く使い勢いを緩和


    苗木「よしっ!」スタッ

    そして着地

    苗木「急がないと……多分もうバレてるだろうしな」ダッ

    そしてそのまま駆け出す


    ーーーーーーーーーー


    松田「!…アイツは江ノ島かよ…あそこが何階だと思ってるんだ」ハァ…

    兵士「今まで大人しいと思ってたけど、やっぱり油断ならねぇな」

    兵士「へへっ、ちげぇねえぜ」

    松田「口を動かさず足を動かせ!俺以外は二人一組で行動しろ!絶対に奴を城の敷地から出すな!!」

    兵士達「「「ハッ!!」」」ダッ



  45. 45 : : 2014/03/26(水) 02:07:25
    花村「あっ!今誰?腰を動かすって言った人!」

    松田「誰だこいつ」

    花村「通りすがりの総受けです」

    その後花村の姿を見た者はいない………


    ━━━━━━━━━━

    コツコツ……コツコツ……

    苗木「……ふぅ、なんとかここまで来れたね」キラン

    苗木の手に光るのは…鍵だった。

    苗木「ここの警備は案外手薄だな……」

    アルターエゴ『苗木が居る場所は【牢屋】の奥。そこからさらに最深部へ……』

    【牢屋:最深部】

    苗木「ふぅ………会いに来たよ」

    「…………」

    アルターエゴ『そこに居たのは……張り付けになった斑井だった』

    斑井「俺に何の用だ………」

    苗木「僕の脱出を手伝ってくれるなら……君を助ける」

    斑井「………!」

    苗木「僕だけじゃ脱出はできない。でも君がいれば─── 斑井「断る」

    苗木「………!」

    斑井「もう、俺に生きる道はない……」

    苗木「そんなことはないよ!希望を捨てちゃだめだ!」

    斑井「希望………そんなもの俺にはない」

    斑井「生まれたときから、あるのは絶望だけだ」

    苗木「………そっか」

    苗木「なら、断れないようにしちゃおうかな?」

    ガチャン!

    アルターエゴ『苗木は鍵を外した!』

    斑井「………なっ………」

    苗木「ほら、これで君は自由だよ。好きなことをしなよ」

    斑井「好きなこと………」

    苗木「そう………例えば」

    『復讐……!!』


    ━━━━━━━━━━


    松田「どこだ……苗木の奴……」

    ドカァァァァァアアアン!!!

    松田「な、なんだ!?」

    兵士「大変です!牢屋が……!」

    松田「牢屋……?」

    斑井「グルァァア!!」

    松田「斑井!?バカな!!」


    ━━━━━━━━━━


    兵士a「ぐぁあ!」

    兵士b「ぬぉぉ!」

    苗木(よし!松田くんが居ないから楽だ!)

    苗木「このまま突っ切るよ!」ダッ

    アルターエゴ『そして……ついに……!』

    ガタン!!

    アルターエゴ『城門が、内側から開いた!!』

    苗木「突破だぁ!」

    その勢いを止めず、苗木は学校に向かって走っていった…。

    江ノ島「ふん、お礼も言わないで」

    アルターエゴ『それを城門の裏で見ていた江ノ島。わかってて止めなかった彼女の真意は…』

    江ノ島「ま、わざと逃がしても問題ないよね♪」

    アルターエゴ『“英雄”の溝知る』







  46. 46 : : 2014/03/26(水) 11:04:59




    【寄宿舎前】


    苗木「皆と会うの久しぶりだなぁ」ワクワク

    皆と会うのは1か月ぶりである。

    そう言えば、全く連絡してなかった。

    一体どんな反応をするのか…考えただけで胃が痛い…

    苗木「あ、その前に七海さんの所に寄ってこっと」

    僕は茂みを掻き分け奥に進む。

    すると

    ブオン!!


    一瞬の暗転…そして


    【??】

    苗木「…」パチッ

    苗木「やあ、ひさしぶ…アレ?」

    久しぶりの再開…とはならなかった

    何故ならそこに居るべき人物はそこには居なかったから

    苗木「……買い物…かな?」

    彼女には色々話したいことがあったのに…


    力をつけて帰ってきたこと

    その過程での土産話

    彼女自身のこと

    そして、“英雄が”音無さんじゃないかもしれないこと


    苗木「だって、もしそうならあんな親切にしてくれないよね…」


    正直自分でもよくわからなかった。

    どちらも胡散臭いと言えば胡散臭いのかもしれない…

    いや、僕の憧れである“英雄”と見ず知らずの少女

    どちらを信じるかは目に見えて明らかなんだけど…

    …だけど、彼女を……いや彼女達を信じたいと思っている自分がいる

    苗木「あはは、不思議だな。…いやこれが僕らしいと言えば僕らしいのかな?」クスッ

    そんな一人言を言いながら、僕はこの空間に別れを告げた


    ブオンッ!!


    そして一瞬の暗転…暗転…暗転暗転暗転暗転暗転暗転

    苗木「!?」

    暗転暗転暗転暗転暗転


    ここで、僕の意識は途切れる



    ーーーーーーーーーー

    ~~~~~~~~~~


    アルターエゴ『むかーしむかしの少し昔、希望の国の外れの方に1つの村がありました。』

    アルターエゴ『そこは人々が手を取り合い。食料も完全自給。常に笑顔が溢れて“いた”平和な国でした』

    アルターエゴ『そう。『いた』。過去の話』

    アルターエゴ『ある日その村に居た人々は大量に殺されました。1人の少年を残し皆殺しにされたのです』

    アルターエゴ『絶望的な悲劇の中での奇跡の生き残り。そうして彼は希望ヶ峰学園にスカウトされました…』

    アルターエゴ『その彼の名はーー』


    苗木「うわぁああああああああ!!!!!!」ガバッ


    ……あまりの恐怖でベッドから飛ぶように起き上がる

    苗木「ハァ……ハァ……夢?」

    つーッ…

    冷たい汗が頬をつたる……



    苗木「ハァ………ハァ…………はぁ…」


    呼吸を整え、思考を落ち着かせる。


    まずは状況確認からだ…

    確か僕は…あの場所から出て……で…えっと…

    あれ?なんで僕は、ベッドの上で寝てるんだ?

    ……ていうか、ここはどこだ?


    アルターエゴ『普段自分が寝泊まりしている寄宿舎でも、一ヶ月愛用したお城の豪華なベッドでもない。それゆえ苗木は戸惑った…』


    苗木「とりあえず…部屋から出よう………」

    もちろん風にあたるため……そしてこの状況を確認するため

    窓から出ても良いのだけれど、

    あんな悪夢を見て、流石にそんな気分にはなれなかった


    苗木「ここは…いったい……」スッ

    キィイイッ!!

    少し老朽化した扉を開くと、そこには廊下があった。

    苗木「…どこから出るのだろう……」

    アルターエゴ『苗木は廊下を見渡すが、何故か玄関らしきものは無かった』

    苗木「…何か面倒な設計だな…ん?」


    ガタゴトッ


    向かいの扉の向こうから物音がする。


    苗木「…」スッ

    ガチャッ


    僕はその音に引かれるようにして、その扉を開いた


    そこには…






  47. 47 : : 2014/03/26(水) 21:32:54
    苗木(なんだこれ………)

    アルターエゴ『SF映画で見るような、人の入ったカプセル………そんな感じだろうか。しかし、中は見えない。たまにする音が、中に何か居る証だろうか』

    苗木「これ以外………何もない………」

    ゴポポ……

    苗木(気泡……。中の何かは生きているのか……)

    聞こえる………聞こえるよ、希望の星……

    苗木(!?)

    アルターエゴ『苗木の頭の中を、まったく聞いたことのない声が響きわたる』

    僕を……ここから………出せるのは……君だけ……

    苗木(何!?なんなんだ!?)

    そのために………絶望を………

    僕を捕らえた………絶望………を………

    苗木(絶望!?っていうか君は一体!)

    もう………伝えられない………魔力が………

    …………また……ここに来てほしいな………

    苗木(ここはどこなの!?僕は何もわからないよ!)

    ………を…………あの……“英雄”を………!

    ……………僕を助けて……!!

    ギュゥゥゥウウウウウン!!!

    アルターエゴ『そして、視界は暗転』

     
    ━━━━━━━━━━


    仁「……木くん!苗木くん!」

    苗木「ハッ!」

    仁「よかった!気がついた!」

    苗木「………ッ!ここは…?」

    仁「保健室だ。君は寄宿舎の前で気を失っていたんだ……。何かあったのかい?」

    苗木「何か……いえ、僕は何も……」

    仁「そうか。じゃあ今日が何の日かわかるね?」

    苗木「今日………あっ!!」

    仁「もうみんな校庭に集まってるぞ!」

    苗木「わ、、、わぁー!!失礼します!!」ダッ

    ガラッ ピシャン!

    仁「やれやれ……」

    仁「それにしても……こんな日も遅刻、か」

    仁「真面目な子なんだけどなぁ……」




  48. 48 : : 2014/03/27(木) 01:13:23



    苗木「これじゃ、間に合わないな…」ダッ

    校庭に行くには学園をグルッと回らなければいけない

    …全力で走ってもこのままじゃ間に合わないのは明白だった

    苗木「……近道するしかない…か!!」シュッ!!




    ーーーーーーーーーー


    【校庭】


    十神「遅い!」イライラ

    「開始3分前でーす」

    アルターエゴ『対抗戦にはいくつかのルールが存在した』

    アルターエゴ『武器の使用は許可。危険あり』

    アルターエゴ『 先鋒-次鋒-中堅-副将-大将―希望の六役に当てはめ、他クラスの先鋒-次鋒-中堅-副将-大将―希望と順に各々闘うのである。』

    アルターエゴ『勝ったクラスには1ポイント与えられる。なお希望の勝敗だけは2ポイント分となる』


    朝日奈「ねぇ?希望はどうするの?」

    十神「…安心しろ、そこは俺でエントリーしておいた」

    石丸「勝手に決めるなんて何事だ!多数決を取らないか!!」

    十神「二人遅刻している時点で多数決もないだろ!」

    石丸「あちらのチームはもう準備を終えてスタンバイしてるはずだ!!全くけしからんぞ!!」

    朝日奈「で、でもあと少し時間あるよ…!」

    十神「ん?あれは!」

    アルターエゴ『そこで十神は遠目に人の姿を見た』

    ズダダダダダダ!!!

    アルターエゴ『走ることで、砂嵐を起こしながら迫る人物に彼らは見覚えがあった』

    セレス「あら…あれは」

    朝日奈「!……さくらちゃん!!」

    大神「…遅れて済まぬかったな」

    アルターエゴ『あれほど走ったのに息を切らしていない彼女は、……6人目のクラスメイト』

    石丸「大神君!!遅れるとは何事だ!!!」

    大神「むっ…済まぬ…」

    十神「間に合ったからいい……それより苗木だ!」

    「開始30秒前でーす!!」

    朝日奈「どうしようまだ来てないよ!」

    石丸「くっ!姿を見せなければ欠席扱いにされるんだぞ!!」

    セレス「…そうですわね」

    十神「……ああ、そうだな。………………!!」

    大神「…来る」

    「5秒前……4……3……2」



    ドゴォオオオン!!




    アルターエゴ『校庭を中心に爆音が鳴り響く』





    アルターエゴ『その爆音の中心に居たのは…』


    苗木「……よしっ!」ニギニギ

    五体満足…

    忘れ物無し



    苗木「待たせて…ごめんね」


    アルターエゴ『苗木誠の姿だった』


    ーーーーーーーーーー


    苗木「……よしっ!」ニギニギ

    五体満足…

    忘れ物無し

    石丸「苗木君!」

    朝日奈「苗木……」

    セレス「苗木君…」

    大神「苗木よ……」

    十神「……苗木」

    久し振りの再開

    苗木「あはは、久し振り皆」

    そう返した僕に帰ってきたのは…お帰りでも優しい言葉でと無く

    石丸「君と言う奴は!!」

    朝日奈「バカー!!」

    セレス「はぁ…こんな日までギリギリなんて…」

    大神「我も似たようなものだがな…」

    十神「…チッ!」

    苗木「あれ?!久し振りの再会でこの反応!?」

    朝日奈「心配したんだよ!!!」

    苗木「……ごめん…」

    十神「苗木…お前は大将だ」

    苗木「ぼ、僕が!?」

    十神「どうせ不戦勝になるなら強い相手と闘わせようとしたまでだ」

    苗木「わ、わかったよ…」


    「揃ったようですね。それではグラウンドへ…」スッ

    苗木「あ、はい!」


    受付の人に促され、僕たちはグラウンドへ向かった



  49. 49 : : 2014/03/27(木) 02:14:09
    【グラウンド】

    苗木「あれ?なにも無いよ……?」

    石丸「うむ!今日のためにここは更地になったのだ!」

    十神「つまり、下手な小細工は出来ないということだ」

    大神「そういうことだな……」

    苗木「あ、大神さん!久しぶりだね!」

    大神「おぉ……苗木よ、たくましくなったな」

    苗木「ありがとう…大神さんも、相変わらずだね」

    十神「………おしゃべりが出来るのもこれまでだ。始まるぞ」

    アルターエゴ『十神の張りつめた一言で、5人に緊張が走る』

    アルターエゴ『……向かい側に立つ6人の放つ威圧が、戦いの過酷さを予測させた』

    仁「よし、みんな揃ったな」

    仁「それではこれより、クラス対抗戦を始める」

    仁「勝った方のチームから3人!負けたチームからは1人!“英雄”と戦争に行ってもらう!」

    仁「それでは!互いの先鋒!前へ!」

    石丸「よし!まずは1!だ」

    苗木「こっちの先鋒は石丸くんか…がんばって!」

    アルターエゴ『そして、相手の先鋒が前に出る』

    花村「ふぅー、なんとか間に合ったね!」

    石丸「むっ!君も遅刻してきたのかね!」

    花村「ん?あぁー僕はちょっとワケありでね。まぁアーバンな僕には子供に言えないこともあるわけよ!」

    石丸「よくわからないが…まぁよろしく頼むぞ!」

    花村「こちらこそ!本当は女の子がよかったけどね!」

    仁「さて、それじゃあいくぞ!」

    仁「試合……開始!」

    カーーン!

    どこかからゴングが鳴るのと共に、両者互いに向かって走り出す!

    花村「たまらないなァ!互いに能力を出す瞬間は!」

    石丸「ふんっ!僕にはわからない!」

    そして先に仕掛けたのは……


    石丸ッ!!

    石丸「くらってもらうぞ!」

    繰り出したのは、ただひたすらに熱い拳!

    『熱血パンチ!』

    花村「むほっ!?」

    ドガァァアン!!

    花村の顔に、クリンヒット!!

    ガッ!ドサッ!

    殴られた花村は飛び上がり、地面に叩きつけられるとバウンドし、そこでやっと立ち上がる。

    苗木(………あれ?大したことない…?)
  50. 50 : : 2014/03/27(木) 04:11:16




    花村「あはぁ~…はぁん」グググ

    そう言いながら立ち上がる彼の身体はボロボロだった

    石丸「悪いが決めさせてもらう「」ダッ

    アルターエゴ『石丸は花村に駆け寄りながら右手を引く』

    『正義の…鉄拳!!!』ゴウッ!!!


    アルターエゴ『その掛け声共鳴するようにに彼の右手にオーラが纏わり更に巨大な右手が出来上がる』

    石丸「うおおおおおおお!!!!」

    花村「いやぁあああああん!!!」

    アルターエゴ『それを花村に向けて打ち込む』

    ゴスンッ!!

    鈍い音とともに遥か後方へ弾き飛ぶ花村君

    ドタッ!バタッ!!ゴロゴロ!!

    弾き飛ばされたあとも地面を転がり、数十メートルほどの所で止まる


    石丸「やったか!?」

    その言葉に呼応するように花村くんは返事を返す


    花村「まだ…だよ」ピクピク


    もう倒れてもおかしくないのに、それでも彼は立ち上がる


    花村「ここからが…本番だよ」ニヤッ


    絶体絶命の状況……それでも彼は不適に笑っていた

    石丸「ど、どういうことだ?」

    十神「愚民が!!早くトドメをさせ!!!」

    花村「……挿すって…どこに挿すのかな?……でも遅いよ」

    ゴゴゴゴゴ

    禍々しいオーラが花村くんを包み込む…


    そして…

    『ヤられたらヤり返す……倍返しだ!!!!』ギロッ!!


    アルターエゴ『その言葉を言い終わる前に一瞬で花村は石丸の懐に潜り込み…その勢いのまま頭突きをした』


    ドゴォオオオオ!!!


    石丸「ぐっアぁっ!!!!」メキメキ


    アルターエゴ『メキメキと嫌な音をたてながらグラウンドの端まで吹き飛ばされる石丸の身体』


    石丸「……ぁ…ガハッ!」ビチャッ!!

    フラフラ

    アルターエゴ『身体は痙攣し口から血を吐く…だが石丸はそれでも立ち上がろうとする』


    石丸「はぁ…ぁあ……ぁ」ヒューヒュー


    アルターエゴ『肺をやられたのか石丸の呼吸はままなっていない』

    花村「あはぁーはん、棄権しないの?しないならまだ追撃加えちゃうよ?」



    そう提案する彼に石丸くんはこう返す

    石丸「まだ…終わってない……皆が託してくれた先鋒…僕は……君なんかに負けるわけには……いかないんだ!!!!」ユラユラ

    花村「…………」ギロッ!!

    その言葉を聞くと、花村は目を見開き…

    花村「……おどれがあきらめんかい!!ほげやー!!」ドゴッ

    ガッ!バキッ!!

    ゆらゆらと立ち上がる彼に花村君は無慈悲な追撃を加える。何度も何度も…』


    石丸「諦めない…僕は……諦めないぞ…」

    それでも彼は諦めていなかった


    花村「なごむわーずんずんなごむわー!!」バキッゴキッ

    石丸「僕は力に屈しない……僕が負けるのは………僕の心が……僕の正義が折れたときだ!!!」カッ!!

    シュウウウウウウウ!!!

    その言葉を言い終わると石丸君の全身をオーラが包み込む

    花村「なにそれ?!」バッ

    本能的に危険を察知したのか花村くんは後ろへ跳躍する



    石丸「……マジン・ザ・……ハンド!!!!」


    ゴオン!!


    巨大な何かが花村に迫る


    花村「え…何これ……いや…いやぁあああああんッ!!!!」



    アルターエゴ『全身全霊を込めて放たれた石丸の攻撃………それは』















    シュンッ!



    花村「……あれ?」


    アルターエゴ『惜しくも花村の目と鼻の先で消え、……花村に届くことはなかった…』



  51. 51 : : 2014/03/27(木) 04:13:18



    石丸「く…そ………」バタンッ……ガクッ!!


    アルターエゴ『それだけを言い残すし石丸は受け身をとることもなく倒れた』


    花村「お、驚かさないでよね。…でもね君が倒れようが僕の攻撃はまだ続くんだよ!!」ダッ



    仁(まずい!!)


    アルターエゴ『仁はこの状況を見てこう告げる』


    仁「石丸清多夏戦闘不能!!よって勝者!勝者花村輝々!!!」




    花村「……あーあ、終わっちゃったよ」ピタッ


    アルターエゴ『その言葉を聞くと、花村は石丸に向けて振り抜こうとした足を戻す…』


    仁「誰か!!!彼を保健室へ!!!」

    「かしこまりました!!」


    苗木「石丸君…!!」ダッ

    朝日奈「石丸!!」

    大急ぎで担架で運ばれて行く、彼のもとへ駆け寄る僕と朝日奈さん

    朝日奈「石丸、しっかりしてよ!石丸!!」

    石丸「……うぅ…ああ」

    苗木「石丸くん!?」

    石丸「…………ああ、そうか……僕は敗けてしまったんだな…」

    苗木「勝ち負けなんてどうでも良いんだ!!それより怪我は大丈夫?」

    石丸「すまない…本当にすまない…」

    朝日奈「謝んないでよ!だいじょーぶ…私たち仲間でしょ?石丸1人の責任じゃないからさ」

    苗木「うん。そうだよ。僕たちがなんとかするから、…だから石丸君はゆっくりや休んでてよ」

    石丸「……そうか…僕は、…君達と同じクラス……いや仲間でいれて…本当に……」ガクッ

    苗木「石丸君!!!」

    朝日奈「石丸!!!」




    アルターエゴ『…このようにして先鋒戦は、石丸の敗けで幕を閉じた』




  52. 52 : : 2014/03/27(木) 15:51:01
    十神「おい、いつまで心配してるんだ」

    苗木「! 十神くん!」

    十神「これはそういう戦いだ…。それに、戦争なら石丸は命を落としていた」

    十神「個人の敗北は俺達の敗北に繋がる……。勝つことだけを考えろ」

    朝日奈「………」

    アルターエゴ『十神の的を得た発言に、誰も何も言い返せなかった。クラス内に嫌な雰囲気が伝わる』 
     
    仁(朝日奈葵……彼女には少し酷だったか)

    仁(彼女は優しくて純粋………彼女に戦闘は向かないのかもしれないなぁ……)

    仁「じゃあ、次は次鋒戦を行う。互いの次峰は前へ!」

    朝日奈「私……行くよ」

    苗木「朝日奈さん!」

    朝日奈「十神の言うとおりだよね…。私、甘かった」

    十神「………」

    朝日奈「だから、この戦いで甘い私にサヨナラするの!」ザッ

    アルターエゴ『そして、朝日奈の前に現れたのは…!』

    桑田「よぉ……」

    朝日奈「……!パレードの時の!」

    桑田(あのアポ毛野郎と戦いたかったんだけどなぁ……。ま、とにかく勝ちゃあいいだろ)

    仁「よし、それでは次鋒戦!試合開始!」

    カーーン!

    桑田「いくぜっ!」ダッ

    朝日奈「!」

    苗木「あぁっ!あの時のバットだ!」

    セレス(彼女も、あのバットと彼の魔法については知っているはず)

    セレス(近距離ならバット本体が。遠距離なら火球が。…さぁ、どうします?)

    桑田「行くぜ!『灼熱千本ノック』!!」

    アルターエゴ『桑田の手から火球が形成され、そのままバットで放たれた!』

    苗木「!? いきなり!」

    桑田「こんなもんじゃねぇぜ!オラオラオラァ!!」

    カキィン!カキィン!カキィン!カキィン!

    苗木(前よりも速い!)

    アルターエゴ『無数の火の球が、朝日奈に遅いかかる!』

    アルターエゴ『対する朝日奈は…!』

    大神「! 一歩も動かぬだと!」

    セレス「このままでは直撃ですわ!」

    苗木「朝日奈さん!危な───」

    ドォォォオン………!!

    桑田「ふぅ……いっちょ上がり……」

    朝日奈「何が?」

    桑田「え」

    バコッ!

    朝日奈の蹴りが、桑田の顔面にヒット!

    桑田はその場で仰け反りながらも、追撃をなんとかかわす。

    桑田「い、いつのまに背後へ!」

    朝日奈「あんなに火球出しちゃったら、私の姿見えないでしょ!」

    桑田「!」

    アルターエゴ『そう!確かに火球がヒットした時点まで、朝日奈は動いていなかった!』

    桑田(こいつの魔法か!!)

    アルターエゴ『しかし!朝日奈は魔法が上手ではない。むしろ肉体を使った攻防が得意な彼女は、魔法が苦手だった』

    アルターエゴ『そして!この1ヶ月間朝日奈が鍛えた末ー!』

    『魔法耐性』(マジックバリア)!!

    アルターエゴ『朝日奈の出した結論は!魔法を無効化する魔法!!』

    アルターエゴ『そして…セレスから学んだ戦闘中の駆け引き』

    「あんなに火球出しちゃったら、私の姿見えないでしょ!」

    アルターエゴ『これにより!桑田は朝日奈の魔法を誤認!』

    桑田(あいつは火球を隠れ蓑にして俺に近づいた……それならば、スピードだ!あいつの魔法は素早さを上げる魔法!肉体強化と見て間違いない!)

    桑田「へへ、おどろいた……ここまでやるとはな」

    朝日奈「だって、いっぱい修行したもん!」
  53. 53 : : 2014/03/27(木) 18:42:15


    桑田「そうかよ…けどよ修行したのが…テメェだけと思うなよォ!!!」ゴォオオオオ!!

    アルターエゴ『桑田のバットに大量の炎が纏われる』

    朝日奈(なんて炎の量…ここまで熱が伝わるよ…)

    桑田「更にィ圧縮圧縮ゥ炎を圧縮!!」

    朝日奈「!?」

    アルターエゴ『桑田は炎を圧縮することで、質量、硬度を確保させ巨大なバッドを造り上げた』

    桑田「うォらぁ!!!『長渓炎』
    !!」ブンッ!!


    それを腰を使い横薙ぎに強引に振る

    バッドが巨大化したことにより朝日奈は射程距離内だった


    朝日奈(これは消せない!!)タッ

    アルターエゴ『それを躱すために朝日奈は地面を蹴り跳ぶ……が』

    桑田「それを待っていたぜ!!」

    アルターエゴ『全身を使い自分を軸にして巨大なバッドをもう一周させる桑田』

    桑田「空中ならいくら速く動こうと避けらんねぇだろうが!!!」ブンッ

    朝日奈「!」

    アルターエゴ『 『魔法耐性』…それは所詮耐性。高密度な魔法や朝日奈自身に相性が悪い魔法は消せない、逆もまたしかり。その点だけ見れば桑田…つまり火の魔法を使うものとの相性は最高と言えるだろう……なぜなら』

    朝日奈「はぁっ!!」バッ

    アルターエゴ『少量の水が朝日奈の掌から勢い良く放たれる。それにより朝日奈はバッド軌道をギリギリで避け、危なげに地面に足をつく』

    朝日奈「よかった…出てくれたよ…」ホッ

    アルターエゴ『朝日奈は、微弱ながらも水の魔法を扱えるからである』



    苗木「ねえねえ、朝日奈さんの魔法ってなんなの?」

    セレス「……ほぼ伝説とされる魔法の1つの簡易番ですわ」

    苗木「…なるほど、治癒魔法みたいなものだね」

    十神「そうなるな」

    大神「…………」



    桑田「さっきよ…」

    朝日奈「…何?」

    桑田「オメェのこと肉体強化系のスピード重視と思ってたんだけどやっぱ無しな」

    朝日奈「……別に勝手に思ってれば良いじゃん!」

    桑田「ああ、わりぃわりぃ……でもよ……」スッ

    アルターエゴ『そう言いながら桑田バッドを構える』


    桑田「アイツに比べたらよ……テメェなんて止まって見えるぜッ!!」ブンッ!!


    アルターエゴ『またもや全身を使いバッドを振る桑田』

    朝日奈「同じミスはしないよ!」スッ…ダッ!

    アルターエゴ『一方朝日奈は体勢を低くして、横薙ぎをかわし桑田に向け走る』



  54. 54 : : 2014/03/27(木) 20:20:42
    桑田「おう来いよ!返り討ちにしてやるぜぇ!」

    朝日奈(………)ダッダッ

    桑田(へへん♪さっさと来やがれ!)

    アルターエゴ『桑田は、朝日奈の見えないところで火珠を圧縮していた』

    桑田(今度のは熱さも威力もとびっきりのとっておきだ!)

    桑田(そして……常に内側に圧縮しているから、熱気でバレることもねぇ!)

    ダッダッダッダッダッダッ!!

    朝日奈「………!」

    朝日奈(普通に戦っても、あいつには勝てない……)

    朝日奈(……やってみる!出来ることは全部!)

    アルターエゴ『走る朝日奈!待ちかまえる桑田!』

    アルターエゴ『………勝負は一瞬。一瞬で決着がつく』

    アルターエゴ『つまり、一瞬をせいした方が……勝つ!』

    桑田(来い!)

    一瞬!!
     
    『君の負けだ!』

    桑田「!!?」

    アルターエゴ『桑田の頭の中に流れたのは、言葉!!』

    アルターエゴ『そして、その言葉が流れたことにより……』

    桑田(なんだこれ!?つか俺の負け!?…でも、もう溜めちゃってるし朝日奈すぐそこだし)

    アルターエゴ『迷いが生じた!!』

    朝日奈「いっけぇぇぇえええええ!!!」

    アルターエゴ『朝日奈は一瞬、通信魔法で相手の脳内に語りかけたのだ!』

    アルターエゴ『少ししか使えない魔法……しかし、モノは使いよう!』

    アルターエゴ『そして…桑田に、朝日奈の渾身の一撃が!!』

    ドガァァッ!!

    桑田「アポゥゥウオオッ!!!」

    ズサァァァア!

    殴られた勢いが止まらず、桑田は数メートル先まで飛ばされた。

    苗木「! やった!」

    朝日奈「ハァ……ハァ……」シュン

    朝日奈「…………え?」

    仁「!」

    朝日奈「………?……棄権………?…」

    苗木・セレス・大神・十神「!!?」
     
    仁「! 朝日奈、棄権!」

    朝日奈「え!?嘘!?」 

    数メートル先から笑い声が聞こえる……

    桑田「ククク……アーッハッハッハッ!!」

    朝日奈「あ……もしかして!!」

    桑田「そう!通信魔法が使えるのが、お前だけだと思うなよ!!」

    桑田「俺は殴られた瞬間、やられたと思った」 

    桑田「でも負けたとは思ってなかった!通信魔法を使って、仁の声で『危険』とだけ脳に送ったのさ!」

    桑田「口に出すと思った……お前なら……!よって!この戦い勝者は俺だぁ!!」

    苗木「! 待ってよ!戦いに勝ったのは朝日奈さんじゃないか!」

    仁「………いや、この次鋒戦、桑田くんの勝利とする」

    苗木「そんな……」

    十神「勝負に勝って試合に負けたというわけか………」

    朝日奈「そんな………みんな…ごめん…」

    朝日奈「私…勝ったと思って、『魔法耐性』解いちゃったんだ……ごめんね……」ポロポロ

    アルターエゴ『こうして、次鋒戦は桑田の勝利に終わった』

    現在

    苗木のクラス
    0ポイント 

    隣のクラス
    2ポイント


  55. 55 : : 2014/03/27(木) 21:33:01



    朝日奈「皆…ごめんね」ポロポロ

    苗木「朝日奈さん泣かないで!朝日奈さんは良くやったよ!」

    朝日奈「でも…でも…石丸との約束が…」ポロポロ

    苗木「……さっきも言ったように朝日奈さんだけが背負わなくて良いんだよ…僕たちは仲間なんだから」

    朝日奈「うん…」ヒック

    朝日奈さんは、しゃくりをあげながらそう返事をする

    朝日奈「でもね…ごめーー」

    大神「朝日奈よ…それ以上言うな……。……強く…なったな」

    朝日奈「……」グスッグスッ

    十神「やかましいぞ愚民ども」

    苗木「十神くん!そんな言い方…」

    十神「俺が希望の役職にいる時点で二点は確保されてるんだ。それがイーブンになっただけだ…だから安心して観戦していろ。」

    朝日奈「……ごめん…」

    十神「チッ。謝ることより、今後二度とこういうことの無いように気を付けろ。…まあ後は俺たちに任せていろと言うことだ」

    朝日奈「うん!………ありがと…」


    大神「ふふっ…」

    苗木「あははっ」

    朝日奈「な、何がおかしいの?!」

    十神「どういうことだ!説明しろ苗木!!」

    苗木「それは……ってあれ?セレスさんは?」

    十神「もう指定の位置についている…」

    苗木「……本当だ。」


    仁「それでは次は中堅戦だ。互いの中堅…前へ」(既に片方はいるけども)

    セレス「…ふふふ」


    アルターエゴ『そんな風に、にこやかに笑う彼女の前に現れたのは…』

    舞園「……宜しくお願いします」スタスタ

    アルターエゴ『可憐な少女だった』

    セレス「あら…貴女は」

    舞園「どうも、舞園です」ニコッ



    苗木「………」ポー

    朝日奈「あっ!何苗木見とれてるの!!」

    苗木「そ、そんな見とれてなんか!」

    大神「苗木よ、頬が赤いぞ…」

    苗木「あれ?熱かなぁ…あは……あははは…」

    十神(嘘が下手すぎるぞ…)



    舞園「見ない顔の男の子がいますね…」

    セレス「あれは苗木誠と言うんですわ…まあ転入のような形で入ってきたので貴女が知らなくても無理は無いでしょう…」

    舞園「彼が…桑田くんを」

    セレス「あら?彼は貴女のナイトでしたのね。それは苗木君に恨みがわきますわね…」

    舞園「いえ、違います。逆ですよ。感謝してるくらいです」ニコッ

    セレス「……複雑な事情が見え隠れしてますわ…」

    舞園「じゃあ、そろそろ始めましょうか…」

    セレス「……ええ」


    仁「よし、それでは……中堅戦!試合開始!」



    カーーン!!




    アルターエゴ『最初にアクションを起こしたのはセレスの方だった』

    セレス「……」ブツブツ

    アルターエゴ『短い詠唱のあと大量のカードが空中に現れセレスを軸にグルグルと回り始めた』

    セレス「まずは小手試しですわ」

    舞園「カウンター狙いですか…それなら!」


    アルターエゴ『舞園は長い詠唱を唱えると、何も無かったはずの手には大型の包丁が』

    セレス「…………」

    アルターエゴ『そして空中には、普段料理で使うよな包丁が大量に、刃をセレスの方へ向け佇んでいた』

    舞園「悪いですが、遠距離戦で決着をつけされてもらいます!!」



  56. 56 : : 2014/03/28(金) 00:54:53
    セレス「あら、この程度ですの?」クスクス

    舞園「この程度で十分なんです!」

    グッ!

    アルターエゴ『舞園が拳を握ると、空中の包丁が一斉に…超高速で動き始めた!』

    ヒュンヒュン!

    セレス「ふっ!」

    キィン!

    アルターエゴ『セレスのカードが、包丁を全て受け止めた!』

    舞園(あのカードは特別はアイテム?それとも魔法で強化している…?)

    セレス「あら、包丁が足りませんわよ」クスクス

    舞園「じゃあ、少し増やしますね♪」

    アルターエゴ『言った直後、またセレスを囲うように、包丁が配置された』

    苗木「こ、こんなに魔法を唱えて大丈夫なの!?」

    十神「恐らく奴は…魔法が得意なんだろう」

    苗木(得意って…このレベルに魔法使える人は、兵士にもいなかったぞ!?)

    舞園「あら、あなたは兵士さんに知り合いがいるんですか?」

    苗木「え!?」

    アルターエゴ『遠くで、しかも包丁を操っているはずの舞園から話かけられたことで、苗木は戸惑った』

    苗木「え…口に出してないのに!」

    舞園「わかるんです。だって私」

    グッ!

    再び握られた拳。

    一斉に飛んでくる包丁にカードを合わせる……が!

    スパァッ!

    セレス「なっ!」

    苗木「! セレスさん!」

    アルターエゴ『一つの包丁が、カードを貫いて……!』

    舞園「エスパー…ですから…」

    セレス「………ふぅ」パシッ

    舞園「…あら、受け止められちゃいましたか」

    セレス「飛んでくる物に対する反応は自信がありますの」

    アルターエゴ『言いながら、受け止めた包丁を投げ捨てる』

    仁(おお…やはりセレスは強い。卒業すれば即戦力になるだろう)

    仁(………だが、舞園も魔法に関しては類い希な才能を持つ)

    仁(この勝負は…かなりレベルが高い!正直どっちにも戦争に行って欲しいくらいだ…!)

    セレス「さぁ、次に行きましょう」

    パチン!

    指を鳴らすと、浮いていたカードがパタパタと地に落ちる。

    舞園「………」

    アルターエゴ『舞園も様子を伺うように、浮かんでいる包丁を消した』

    アルターエゴ『それを見て、セレスは詠唱を始める……』

    ボン!

    アルターエゴ『詠唱後出てきたのは…鎌だった』

    セレス「ふふ、第二ラウンドですわ」

    舞園「……上等です」

    アルターエゴ『舞園も手元の包丁を握りしめ…近づく』

    仁(おお!この2人が接近戦か!これはこれで見物だぞ!)ワクワク

    大神(楽しんでるな……)





  57. 57 : : 2014/03/28(金) 02:28:47



    アルターエゴ『鎌と言っても音無の使っていたような大鎌ではなく、鎖鎌の先にくくりつけられるようなものを二つセレスは握っていた』

    舞園「……」

    アルターエゴ『ジリジリと詰め寄る舞園』

    セレス「……」スタスタ

    アルターエゴ『それを見て何も考えてないように近付くセレス』

    舞園「!?」

    舞園(何か企んでいる?……だけど、何も考えてない………!!まさか、本当に何も考えて…)

    (一瞬で距離を詰める)

    セレス「はっ!」ダッ

    アルターエゴ『その掛け声と共にその場から、舞園の方へ跳躍!!』

    舞園「全部……丸聞こえなんですよ!」ブンッ

    スパッ!

    セレス「くっ!」

    スレスレで包丁をかわすも、その包丁はセレスのゴスロリ衣装の一部を切り落とした

    セレス「かすっただけでこの威力………洒落になりませんわ」

    アルターエゴ『舞園の魔法は簡単に言えば範囲内の心の声が読める。それ即ち先読み。これは攻防どちらでも絶大な力を発揮する』

    (右の鎌で肩を狙わせてもらいますわ!)

    舞園「丸聞こえなんですって!!」ヒラリッ

    アルターエゴ『舞園はセレスの鎌をヒラリとかわと、包丁をセレス目掛けて突き立てた!!』


    苗木「セレスさん!!!」


    ザクッ!!

    セレス「……っア!!」タッ

    アルターエゴ『強引に身体の軸を動かすことで、致命傷にはならなかったものの、セレスのゴスロリ服には血が…ジワジワと侵食していた』


    舞園「距離をとりましたか…懸命な判断です。だけど貴女には勝ち目はありません。大人しく降参してください」

    セレス「私の辞書に敗けは…ありませんわ」

    舞園「強がり言わないでください!私には分かるんです!!」

    (痛い……痛い、辛い……もう棄権したい)

    セレス「何がですの?私強がりなど何一つ言ってませんわ」ニコッ

    舞園「だから!私には!貴女の苦しみが!心の痛みが!!」

    (痛い……嫌だ……楽しい、面白い……餃子美味しい)

    舞園「え?…なにこれ」

    セレス「その反応…どうやら上手くいったようですわね…」

    セレス「貴女に私の心の声が送られるなら、嘘のことを考えてれば良いのですわ」ニコッ

    舞園「そんなありえません!だって、そんな自分を騙すようなこと…」

    セレス「出来るからそうなってるのでしょう?それに私…嘘は得意な方なんです…自分を騙すなんて朝飯前ですは」ニコッ

    舞園「……くっ…」

    セレス「遠距離は五分でしたが、近距離では分が悪いですわね…私下がらせて貰います」タッ

    舞園「待ーー」

    (さあ、近付いていらっしゃい…)

    舞園「!!……心の声が…」

    セレス「あら、どうしたのですか?近付いてこないんでしょうか?」ニコッ

    (来い…来い)

    舞園(これは罠があるの?それとも嘘の心の声?)




  58. 58 : : 2014/03/28(金) 02:30:36



    アルターエゴ『たかが二分の一の駆け引き。だがこの駆け引き1つで決着がつくかもしれない…誰だって慎重になる、だがときにその慎重さは仇となる』


    セレス「あらあら、追って来ないお陰でこんなものが出来ましたわ」ブンブンッ!!

    アルターエゴ『既に詠唱を唱え終わって、先ほどの鎌は鎖鎌へと変貌していた』

    舞園(やられた!!)

    セレス「さあ、こちらの番ですわね。私…鎖鎌など使ったことありませんから…全く軌道が分かりませんわ」ブンッ

    アルターエゴ『そういうと、セレスは回すことで勢いをつけた鎖鎌を放る!』

    舞園「ふふふ、甘いですよ…私が素人の扱う鎖鎌で捉えられるわけないですよ!!!」ダッ

    (来い!)

    舞園(これは嘘の心の声。もう騙されない!)ダッ

    キィンッ!!

    アルターエゴ『舞園は鎖鎌の鎌を包丁で弾き、鎖を握る……そして!』

    舞園「はぁぁあ!!!!」グイッ

    アルターエゴ『強引に引く』

    セレス「なッ!?」ポロッ

    アルターエゴ『セレスはそれにより武器を地面に落とした』

    舞園「今です!!」ダッ

    舞園は更に勢いを込め走る

    (まずい…このままだと!!負ける!!……来るな!!)

    舞園(これは本心……つまり…私の勝ち!!)

    アルターエゴ『そしてセレスとの距離はほぼゼロになり…』

    舞園「これで…終わりです!!!」

    セレス「…………」

    アルターエゴ『包丁を突きつけながら、舞園は手ぶらのセレスに飛びかかる』

    (愚か……ですわね)

    舞園「え?」

    アルターエゴ『その心の声を引き金のように舞園とセレスの周りの地面が輝きだす』

    アルターエゴ『正確には周りに散らばっていたカードが…』

    キュゥウウウウン!!!

    舞園「しまっーー」

    セレス「フフフ、遅いですわ」

    大量の光の束が舞園目掛けて襲い掛かる

    セレス「……さようなら」

    舞園「あぁぁああああ!!!!!」ジュウウウ!!

    アルターエゴ『あまりの痛みで叫び声をあげる舞園』

    セレス「もちろん殺さないので安心してくださいね」ニコッ

    (棄権しないなら殺す)

    舞園「!?」

    アルターエゴ『言葉と矛盾した心の声』

    舞園「く……うううぁ…き、きけ……ん……」

    セレス「あら聞こえませんわね?」

    更に輝きを増す、光の束

    ジュウウウウウウ!!!!!

    舞園「き、棄権します!棄権!棄権しますからぁ!!」

    仁「しょ、勝負あり!!舞園さんの棄権により勝者セレスさん!!」

    セレス「あら、つまりませんわね」パチンッ

    アルターエゴ『セレスが指を鳴らすと舞園を拘束していた光の束が消えた』


    舞園「……はぁ…はぁ…」

    セレス「この勝負…駆け引きの差と経験の差……でしたわね」ニコッ



    アルターエゴ『こうして、中堅戦はセレスの勝利で幕を下ろした』





  59. 59 : : 2014/03/28(金) 03:14:05
    仁(圧勝だな…。舞園もかなり強いが、その舞園を全て分析していた)

    仁(セレス…恐ろしい実力の持ち主だ。だが、それすらも越えてしまう彼女は、本当に恐ろしい…)

    苗木「セレスさん!」ダッ

    セレス「ええ、勝ちましたわ」ニッコリ

    十神「ふん。これで勝ちは決まったな」

    苗木「え……なんで?」

    十神「これで俺達が3ポイント(自分含む)、相手が2ポイント。俺達の副将は大神だ。負けはないだろう」

    苗木(十神くん…すごい自信だ。そして、大神さん……)

    仁「互いの副将!前へ!」

    大神「次は我だな……」

    仁(大神さくら。入学早々見せたその格闘術は学校1と言われる天才…いや、秀才か)

    仁(そんな彼女の相手は……)チラッ

    不二咲「………」ザッ

    仁(………不二咲千尋か)

    仁(単純な殴り合いなら勝つのは大神…だが、今から始まることは単純な殴り合いではない)

    仁(故にこの勝負、自分のテリトリーに相手を忍び込ませた方が勝ちか……)

    仁「よしっ。それでは副将戦、試合開始っ!」

    カーーン!

    大神「下がれ。弱き者を殴る趣味はない」

    不二咲「あ…そうだよね。やっぱり僕は弱く見えちゃうよね…」

    不二咲「でもね、僕だって副将だよ?君と戦う資格はあるはずなんだ!」

    大神「……それならば、実力差がわからないわけではなかろう」

    不二咲「えーと…それ!」

    ボン!

    アルターエゴ『煙と共に出てきたのは、キーボードと、空中に浮かぶディスプレイ』

    カタカタカタカタカタカタン!

    不二咲「どれどれ……わぁ!攻撃力、守備力、素早さ…どれをとってもSランクだ!これは一般の兵士のレベルを遙かに越えてるよぉ!」

    不二咲「あ、でも魔法はFランク…。ちっとも使えないんだねぇ」

    大神「我が産まれた家系は代々魔法に頼らず戦ってきた。例外はない」

    不二咲「ふーん…肉体の強さだけで魔法にも勝てるなんて…すごい自信だよぉ!」

    大神「………」

    不二咲「僕身体が弱いから……強くなりたい!ってずっと思ってるんだぁ」

    大神「………」

    不二咲「あ、大神さんは、僕が棄権するのを待ってるんだね!」

    不二咲「…しないよぉ。大神さんは、僕に負けるから」

    大神「…」ピクッ

    苗木「あの子が…大神さんに勝てるとは思えないけど…」

    セレス「………さぁ、どうでしょうか……」
    大神「………そうか。言っておくが、手加減はせぬぞ」

    不二咲「手加減だなんて!…やっぱり僕弱く見えるよねぇ」ハァ…

    大神「………すぐに終わらせる」

    シュン!

    不二咲「! 消えた!」

    大神「後ろだ」ヒュン

    トンッ……

    不二咲「カッ……」ドサッ

    仁(恐ろしく速い手刀………俺でなきゃ見逃しちゃうね)

    大神「………?」

    大神(まったく手応えを感じぬ……これが副将なのか?)

    十神「はっ!相手のクラスは勝負を捨てたか」クックッ

    「うん!やっぱり速いねぇ!」

    大神「!」

    アルターエゴ『声を出したのは、少し離れたところにいる不二咲だった』

    不二咲「情報通りだ!」カタカタカタ

    大神「……貴様…」

    不二咲「あ、それは僕のコピーだよぉ」

    カタン!

    ヒュン!

    アルターエゴ『キーボードを叩くと、倒れていた方の不二咲の姿が消えた』

    不二咲「えへへ、完成度高いでしょ!」

    大神「………」

    不二咲「今のはほんの挨拶代わりだよ!あんまり情報はとれなかったけどねぇ」

    大神「………」

    仁(技巧派な彼と大神は…やはり対極だな)
  60. 60 : : 2014/03/28(金) 09:42:29




    不二咲「えへへ…さあ次はどんな手を見せてくれるのかな?」

    大神「確かにお主は厄介な力を持っている……それを防ぐのならばその機械を壊せば良いのだな」シュンッ!!

    不二咲「え?」

    ドスッ!!

    アルターエゴ『一瞬で距離を詰め寄り、大神はディスプレイを自身の手で貫いた。そしてバチバチと嫌な音を立てながら、ディスプレイは鉄屑と化す』


    大神「これでお主は何も出来まい…さあ棄権するんだ…」

    不二咲「……本当に優しいね…大神さんは………でもね、僕は強くならなきゃいけない…だから棄権なんてしない!!」



    舞園「………」

    (怖いよ…怖い……皆助けて)

    アルターエゴ『舞園には不二咲の本当の声が聞こえていた』

    舞園「不二咲君…頑張って……」



    大神「そうか…」スッ

    アルターエゴ『大神は不二咲の決意を察したのか、腕を振り上げる』

    大神「安心しろ…出来る限り痛くしないようにする…」

    ブオンッ!!!

    アルターエゴ『そして振り下ろす!!』








    アルターエゴ『……が』


    大神「がはッ!!」

    アルターエゴ『ダメージを受けたのは大神の方だった。それもそのはず…』

    大神「……今のは…魔法か?」

    不二咲「……うん。そうだよ」

    大神「…だが…詠唱は?」

    不二咲「もちろん唱えたよ。一瞬で」

    大神「!……高速詠唱か………」

    不二咲「それもあるんだけど…う~ん半分正解かな。」

    アルターエゴ『得意気に…そして自慢気に話す不二咲』

    不二咲「短縮してるんだよ…」

    大神「…短縮?」

    不二咲「必要な所だけをピックアップするんだよぉ」ニコニコ

    大神「なるほどな…そんな方法があったとは…だが自らの手の内を晒すのは得策ではないぞ…」シュンッ!!

    不二咲「……また消えちゃった」

    アルターエゴ『不二咲は身体が弱い。もちろん動体視力もないため、彼の目には大神が認識できない。だけど見えない相手に向けて不二咲はこう告げる』

    不二咲「ねえ、大神さん……僕が出来るのはさ…短縮だけじゃないんだよぉ!!」

    大神(……どういうことだ?)シュンッ!シュンッ!!

    アルターエゴ『高速で動きながらも不二咲の言葉に耳を傾ける大神。』

    アルターエゴ『何故この状況であんなに冷静でいられる?そんな疑問が彼女の思考を支配する……が答えは直ぐに明らかになった』

    不二咲「それはね……連続と合成だよぉ」

    不二咲「 」ニコッ

    アルターエゴ『不二咲がそう笑うと同時に目に見えるアクションが起こる』


    苗木「え?!」

    朝日奈「何あれ…」

    アルターエゴ『不二咲の前方は火の海、左右は稲妻が駆け抜け、後方は氷柱の雨で多い尽くされていた』

    大神「!!」

    アルターエゴ『それは当然大神に襲い掛かる。大神が居たのは不二咲の後方…つまり氷柱の雨が大神を襲った』

    大神「こんなもの……はあああ!!!!」ブンッ!!

    アルターエゴ『大神は両手を使い器用に自分に降り注ぐ氷柱の雨を砕く。結局氷柱の雨は大神に傷一つつけることは無かった…』


    不二咲「わぁ!すごいすごいっ!!流石大神さんだね!……流石だよ…僕も大神さんみたいに強くなれたら…」

    アルターエゴ『まるで自分のことのように喜ぶ不二咲』

    大神「……今の闘いで分かったことがある…」

    不二咲「……何?」

    大神「お主は強い…だから自信を持て、お主に足りないのは自信、それだけだ…」

    不二咲「……自信…か」

    大神「……不二咲よ…我はお前に一切の手加減をしない。…だからお主も我に全力を見せてみろ…」

    不二咲「………良いの?」

    大神「やはり隠していたか…、我の心配はするな、これからお主が心配するのは………お主の身の安否だ!!」


    大神「はァアアアああああ!!!!!!!!!!」ゴゴゴゴゴ


    ゴォウ!!!!


    アルターエゴ『大神を中心に激しい爆発が砂煙を巻き起こす……正確にはそれは大神から放たれた気であった』



    不二咲「……!」

    アルターエゴ『徐々に砂煙が晴れ、不二咲が見たのは……身体中が深紅に染まり、至る所から湯気を放つ大神さくらの姿だった』


    大神「これが我の本気…【モード:オーガ】!!」ゴオオオオ!!!


    アルターエゴ『巨大な身体に深紅の身体……その姿はまるで…鬼そのものだった』




  61. 61 : : 2014/03/28(金) 16:24:45
    すごいですね
    頑張ってください
  62. 62 : : 2014/03/28(金) 17:30:44
    長いので、2レスにわけますね!
  63. 63 : : 2014/03/28(金) 17:31:19
    【モード:オーガ】!!

    かつてこの世を支配していたという“鬼”。

    その鬼の血が流れているのが、大神の一族だ。

    最初は敬遠されていた鬼の血筋も…このご時世。

    圧倒的力の前に、人々はすぐに手のひらを返した。

    【モード:オーガ】は、眠れるその鬼の血を一時的に覚醒させる禁術の一つ(大神さくらは、暴れようとする鬼の血を一族の中で唯一自分の意志で抑え込めるため1人での使用を許可されている)

    ※大神の血筋 より抜粋。

    仁(まさかこれを直にみれるとはな…。とは言え、発動中は常に肉体にダメージが負担される。長時間はもたない短期決戦の構え!)

    不二咲「………」ガタガタ

    苗木(! 震えてる…!)

    舞園「ここは負けても、後の2人が勝てばクラスとしては勝てます!無理をしないで!」

    不二咲「………僕は……」

    舞園「!」

    不二咲「僕は!もう弱くない!生まれ変わったんだぁ!!」

    不二咲「『天空の眼』(ゼウス・アイ)!!」

    大神「!」

    突然上空に出現したのは、巨大な眼!

    不二咲「『天空の眼』は全てを見通す!」

    舞園(代わりに……常に精神力をすり減らし続ける)

    仁(この勝負は、肉体のリミットvs精神のリミット!!)

    十神「覚悟を決めたようだな…… 」

    苗木「え?」

    十神「相手だ。さっきまでの弱々しい目ではない。あれは……」

    十神「覚悟を決めた、男の目だ!」ドン!

    セレス「この勝負、まだわかりませんわね」

    苗木(………大神さん……!)

    花村「なにあれ?セックス愛?」

    舞園「ゼウス・アイですね。不二咲くんが努力の末編み出した魔法……ですが、リスクも大きい。ここで使うということは、勝負ももう大詰めです」

    桑田「てかさ!ここで負けても後の2人が勝ちゃいいんだろ!?俺ならさっさと降参しちまうね」

    舞園「………」イラッ

    花村「………」ムラッ

    アルターエゴ『え、えーと……』

    舞園「あっ、続けてください!」ニコッ

    アルターエゴ『う、うん!』コホン

    アルターエゴ『不二咲の意志と連動して、眼がギョロギョロと動き、見たモノ以上の情報を脳内に直接映し出す』

    不二咲(思った通りだ!あの形態は、そう長くは保たない!)


    大神「ユクゾ……」

    不二咲「!」

    ダッ!

    苗木「! 速い!」

    不二咲(来る!右から!)

    アルターエゴ『不二咲は咄嗟に後方へステップ。すると目の前を何かがもの凄い速さで通過した!』

    ブオン!

    不二咲「っ!」

    アルターエゴ『突風で髪がなびくのを片手で押さえ、しっかりと前を“視る”』

    ピピピピッ

    不二咲(うん……なんとか避けられる!)

    仁(驚いた。ここまで“視れる”のか、ゼウス・アイは…)

    アルターエゴ『間髪入れずにもう一度、大神が、今度は、小ジャンプから!』

    不二咲(間に合わない!今度は受け止める!)

    ガッ!!

    アルターエゴ『大神の跳び蹴りは、不二咲はか細い両腕を胸の前にクロスするようにして受け止めた……が』

    不二咲「うっ!」ズキッ

    アルターエゴ『……致命傷は避けたものの、後方へ飛ばされてしまった』

    不二咲「はぁ…はぁ…」

    十神「……確かに強力な能力だが」

    セレス「彼に合ってはいませんわね……」

    苗木(確かに……あの能力は肉体の強さがあってこそな気がする)

    苗木(しかも、防戦一方だ。これはキツいだろう……)

    アルターエゴ『とどめを刺そうと、大神が不二咲に向かって走る!』

    舞園「! 不二咲くん!棄権して!」

    不二咲「棄権は…しないよぉ!」

    アルターエゴ『そして!大神が拳を振り上げ……!』

    舞園「やめてぇぇええ!!」

    十神「もらったな」ニヤッ

    アルターエゴ『………その時』

    不二咲「やっと“視えた”……ここだ!」

    仁「!」

    ドォォォオン!!

    アルターエゴ『地面から、突然4本のアームが姿を現した!』

    苗木「これは!」

    アルターエゴ『そして、そのアームの1本が大神の腕を受け止め!』

    パシッ!

    アルターエゴ『二本が脚を掴む!』

    ガッ!

    大神「!?」

    アルターエゴ『そして残った1本が!』

    不二咲「いけぇぇぇぇぇ!!」

    アルターエゴ『大神の頭……つむじを強く押した!!』

    ポン!

    大神「ぬ………?」

    【モード:オーガ】解除!!

    苗木・セレス「!」

    十神「なん………だと………」

    大神「うっ!がはっ!」ドバッ

    仁(! 【モード:オーガ】の反動…!)

    不二咲「よかった……」ハァ…ハァ…

    大神「……我の一族しか知らぬ…解除方法を……」

    不二咲「うん。だって、ずっと“視てた”からね!」

    大神「……ふっ。お主は…まさしく強者だった……」

    ドサッ……
  64. 64 : : 2014/03/28(金) 17:32:25
    仁「……副将戦。勝者不二咲千尋!」

    桑田「やったぜ!勝つと思ってたんだ♪」

    舞園「!」

    ドガッ!

    桑田「アポ?」ドサッ

    不二咲「うぅ………」ボロッ

    舞園「不二咲くん!お疲れ様でした!!」

    不二咲「ありがとう……僕、強くなれたよね!」

    花村「うん!じゃあ今夜ね!」

    不二咲「!?」



    苗木「大神さん!」

    大神「苗木……すまぬ…。託したぞ」

    苗木「………そういえば」

    苗木(僕と十神くんが勝たなきゃ……負け!?)

    十神「おい苗木」

    苗木「!」

    十神「わかってるんだろうな?」

    苗木「あ、あはは…」タラー

    十神「……正直、セレスと大神と俺で勝利は約束されているかと、遊び半分でお前を大将にしたことは謝ろう」

    十神「だが、ここは勝つしかない」

    十神「勝ってくれ!苗木!」

    苗木「!」

    セレス(勝ってくれ…なんて、あなたも苗木くんの魔法が見たいだけですのに)クスクス

    セレス(まぁ、相手も大将。きっと苗木くんも魔法を使わざるをえないでしょう)

    苗木「わかった……僕、がんばるよ!」

    苗木(見せてやる!修行の成果を!)

    仁「じゃあ、お互いの大将、前へ」

    苗木「………よし」ザッ

    アルターエゴ『そして、苗木の前に現れたのは…!』

    苗木「あ、あれ!?」

    「………この前は、ごめん」

    苗木「君は…やっぱり!」

    仁「?」
  65. 65 : : 2014/03/28(金) 21:05:17



    苗木「パレードの日にぶつかった…」

    アルターエゴ『そう、彼女は風のように掛けていった女の子だった』

    戦刃「あっ、名前は戦刃って言います。ごめんね…あのときは急いでたから」

    苗木「あはは、僕の不注意だったんだし気にしないで。…それより君が大将?」

    戦刃「……うん。よろしく」スッ

    そう良いながら彼女が取り出したのはサバイバルナイフだった

    苗木「それが君の武器?」

    戦刃「…………」

    苗木「?………まあいいか」スッ

    僕も剣を構える





    「苗木君…頑張ってくれ……」


    弱々しいが聞き覚えのある声

    苗木「石丸君?!……大丈夫なの!?安静にしてなきゃ!!」

    石丸「大丈夫だ…仲間のピンチだからな……僕一人で寝ているわけにはいかない…」

    苗木「そっか…うん。頑張るよ!!」


    仁「それではそろそろ始めるぞ…」

    苗木「……」チラッ

    僕はチラッと対戦相手の彼女を見る

    背丈は僕より高いが、スラッとした身体。吹けば飛ぶとまではいかないが、大神さんのような力強さは感じられない


    苗木(…出来るだけ怪我させたくないな)

    十神「苗木!!女だからって手を抜くんじゃないぞ!!」

    僕の思考を読んだかのごとくの発言

    苗木「わ、わかってるよ…」



    仁「では、そろそろだな。準備はいいかい?」

    苗木「はい!」

    戦刃「……」コクリッ

    仁「よろしい……それでは大将戦………始め!!!」


    カーーン!!!



    戦刃「まずは……小手試しだよ」タッ


    ビュンッ!!


    アルターエゴ『高速で…風のように舞いながら迫る彼女、その速さは残像が見えるほどだった』

    苗木「速ッ!!」



    十神「スピードが大神以上だと!?くそッ!!苗木にしたのは失敗だったか!!!」

    セレス「……このままでは、一撃で決まってしまいますわ…」

    石丸「僕ですら目が追い付かないぞ!!!」

    朝日奈「……私も…」

    アルターエゴ『すでに苗木達のクラスでは諦めムードが漂っていた。それもそのはず、誰よりも弱かったはずの苗木が、今までの誰よりも強い相手と対峙しているからだ』


    大神「…速い……か」フッ





    苗木「…………」


    アルターエゴ『だが、彼らが知っているのは一ヶ月前の苗木だった、今は違う』


    戦刃(これで終わり!!)シュッ!!


    アルターエゴ『いつの間にか背後に回り込んだ彼女が苗木の頸動脈目掛けてナイフを振るう』





















    苗木「見えてるよ…」スッ


    戦刃「!?」


    キィンッ!!!


    だが響き渡ったのは、ナイフが肉を裂く音ではなく、金属と金属がぶつかる独特な音だった




    ーーーーーーーーーー



    アルターエゴ『その光景を遠くで見つめる人間が二人』



    江ノ島「おーっ、やってるやってる!!」

    松田「あの、アホ毛野郎……俺たちが直々に稽古してやったんだ…負けるなよ」イライラ

    江ノ島「あっ!松田君ついに苗木のことアホ毛野郎って言うようになったね♪うぷぷ、でも信頼の証の毒舌なんて古臭いよね」

    松田「うるせぇドブス!!……それより苗木は勝てるのか?」

    江ノ島「あー…、今のままだと10%くらいかな」

    松田「!?」

    江ノ島「それほど、相手が強いんだよ。ま、アイツならなんとかするでしょ」ウププ

    松田「……そうだな」ニヤッ



    ーーーーーーーーーー



  66. 66 : : 2014/03/28(金) 23:18:48
    十神「受け止めたっ!?以前の苗木ならここでゲームオーバーだぞ!」ガタッ

    朝日奈「すごい…」

    セレス「いえ、まだですわ!」


    戦刃「…やるね」

    アルターエゴ『言った直後に、戦刃が脚をひっかけ、ぐるりと回した』

    苗木「わっ!」

    ステン!

    アルターエゴ『苗木は転び、仰向けに倒れるが、すぐに戦刃が上に乗る』

    キラン…

    苗木「!」

    アルターエゴ『苗木の目に入ったのは、先ほどのサバイバルナイフ!』

    戦刃「首を切ったら…終わりだよ?」

    苗木「どっちがかな?」

    戦刃「!!?」

    十神・大神・セレス・朝日奈・石丸「!!」

    桑田「! あれは!」

    松田「!」

    江ノ島「うぷぷ…それが見たかったよん」

    仁(…これは!?)

    アルターエゴ『いつの間にか、互いの位置が逆転。苗木が上に乗って、剣を首筋に当てている』

    苗木「ゲームオーバーだ!戦刃さん!」

    戦刃「ふっ!」

    ガッ!

    苗木「なっ!」

    アルターエゴ『戦刃は苗木の腹を足で押し、空間を作ることで華麗に抜け出した!』

    苗木(……抜け出せるのか)

    戦刃「………今の……」

    苗木「!」

    戦刃「なんの魔法かな……えっと…見たことなくて…」

    仁(戦刃が見たことない!?なら俺もないのは当然か)

    仁(戦刃むくろ。幼い頃から数多くの戦場を無傷で生き延びてきた生粋の戦争屋…。学園でもその才能は遺憾なく発揮されている)

    仁(何よりも目をひくのはその素早さだ。大神のように勢いのある素早さではなく、静かな素早さ…と言うのか?)

    仁(大神を暴風とするなら戦刃は疾風。とにかく速い!)

    仁(そして豊富な経験。こと肉弾戦においてなら大神と並んで学園のツートップと言える)

    戦刃「……暴くよ。君の魔法」

    苗木「嫌だなぁ、僕はただ…」

    アルターエゴ『言い終わる前に、戦刃が地を蹴った』

    ヒュン!

    苗木(来た!)

    十神(く…この俺が目で追えんとは)

    爽やかな、戦意を持った風が苗木をつけ抜ける。

    苗木(………!)

    戦刃「はっ!」

    ガンッ!

    苗木「ぐっ!」

    アルターエゴ『今度は前から!サバイバルナイフの柄で苗木の顔面を殴る!』

    アルターエゴ『苗木はそれで怯む…その隙に!』



  67. 67 : : 2014/03/29(土) 00:30:56




    戦刃「……」ザッ

    アルターエゴ『手を地面につけ逆さ状態になる』

    戦刃「……」ガシッ!!

    苗木(!!)

    アルターエゴ『戦刃は苗木の顔を足で挟み………強引に投げた……いや投げようとした』

    苗木「くらえ!!」ブンッ

    戦刃「え!」グルンッ

    アルターエゴ『なぜか、投げられたのは戦刃の方だった…』

    戦刃「くッ!」バッ

    アルターエゴ『身体を強引に動かすことで、頭から落ちていた戦刃は足で着地する』

    苗木「あれ?」

    戦刃「…本当に意味が分からないよ、何その魔法…」

    苗木「……内緒だよ」

    戦刃「そう…残念……それなら」

    ゴオォッ!!

    苗木「うっ!」

    大量の風がグラウンドに吹き荒れる

    当然砂も嵐も起こる

    戦刃「小手試しは、ここまで…」スッ

    苗木「……!」ゾクッ

    アルターエゴ『戦刃が手をかざすだけで吹き荒れる風は形を形成していく』

    苗木「なに…それ?」

    戦刃「……内緒。」



    十神「苗木鎌鼬だ!!」

    戦刃「はぁ、……正解だよ」


    鎌鼬………風の刃

    風と言ってもなめては行けない。それは平然と人の皮膚を裂く

    それがあれほど高密度な…そして巨大なものになると


    戦刃「…………」グググ

    アルターエゴ『大量に作り出される風の刃』

    苗木「あのさ…ちょっと多すぎないかな?」

    アルターエゴ『空中にはざっと百以上の鎌鼬があった』


    戦刃「これから私は君を殺してしまうかもしれない。だけど私は戦争屋……軍人だから……人殺しだから、恨まないでね?」ブンッ!!

    ヒュンッヒュンッ!!


    アルターエゴ『戦刃が手を振るのを合図にするように大量の風の刃が苗木に降りかかる』

    苗木「くそッ!」ダッ

    アルターエゴ『苗木は風の刃を迎え撃つように、戦刃めがけ走る』

    苗木「はァっ!」ブンッ!!

    苗木「やぁ!」ブンッ!!

    スパッ!

    苗木「ぐっ!!」ツー

    アルターエゴ『剣で切り落としていくが、全て切り落とせる訳も無く、風の刃は確かなダメージを与えていた』

    苗木(きっと、彼女の近くならば、自爆を避けるために風の攻撃は使えないはず…まずは近付かなきゃ!)タッタッタ!!

    戦刃「……」タッ!!

    アルターエゴ『そんな苗木の考えを読んだように、逃げるように駆け出す戦刃』

    アルターエゴ『戦刃は当然苗木より速い。つまり追い付けれない、逃げてる途中にも作り出され続ける風の刃が苗木に向けて放たれる』

    苗木「待ってよ!逃げるなんて卑怯だよッ!!」

    戦刃「卑怯じゃない…戦術。…生きるか死ぬかの状況で何言ってるの?」

    苗木「くっ…」

    スパッ!!

    そんな会話の中でも、風の刃は苗木の頬を裂き確かなダメージを蓄積させていく


    苗木(このままじゃジリ貧だ!確実になぶり殺される……どうすれば良い…良く考えるんだ!)



  68. 68 : : 2014/03/29(土) 06:29:21
    戦刃「もう無理だよ…私ここから負けない!」

    苗木「僕だって負けるつもりはないよ!」

    アルターエゴ『苗木は鎌鼬を丁寧に一つずついなし、近づいていく』

    キィンキィン!

    アルターエゴ『じわじわと、一歩ずつでも距離を詰める…が』

    十神「……だめだ。それではだめなんだ苗木」

    アルターエゴ『…だが苗木は、それをやめない。一心不乱に剣を振り続ける』

    キンキンキンキンキンキン!

    戦刃(……どうして…)

    苗木「うおおおおおおお!」

    戦刃(………なんでなの……)

    苗木「……ハァ…ハァ…」

    アルターエゴ『距離をとり、冷静に鎌鼬を生成するが、苗木はなおも進行をやめない』

    戦刃「なんで……なんで勝てないのにやめないの!?」

    戦刃「もうわかってるのに!無駄なことだって!」

    苗木「………だって…僕は負けられないから……」

    苗木「みんなの希望のために…僕は負けられない!僕の敗北はクラスの敗北だから!」

    戦刃「ーッ!」

    戦刃「じゃあ……そんな気も起こさないくらい!絶望させてあげる!」

    アルターエゴ『戦刃の生み出した鎌鼬か一カ所に集まり、巨大な鎌鼬に変化した!』

    石丸「で、でかい!」

    仁(ここに居ては私も巻き込まれるか…)ダッ

    ギュォォォオオオオ……!!

    アルターエゴ『凄まじい音をたてながら、巨大鎌鼬が苗木に向かう!』

    江ノ島「あら、これで終わりかしらん?」

    アルターエゴ『遠くで見ている江ノ島も、普段の調子を崩さないようにはしているがどこか心配そうに見守っている』

    苗木(……こんなところで負けられない!)

    苗木(僕は……希望を繋げるんだ!)

  69. 69 : : 2014/03/30(日) 17:10:58



    苗木(だから…)


    苗木「こんな所で…負けるわけにはいかないだよォオオオ!!!!」


    ゴウンッ!!


    アルターエゴ『苗木の言葉に、そして心に呼応するかのように剣に金色のオーラが纏われる』


    苗木「はァーーーー!!」ブンッ!!

    アルターエゴ『そして剣を振ると、そのオーラは斬撃の形を残しながら鎌鼬を向かいうつように飛んでいく』

    ギュィイイイイン!!!


    江ノ島「うぷぷ……、…なにあれ?」

    松田「俺に聞くな…」



    アルターエゴ『そして…』


    ギュォォォオオオ……!!!

    ギュィイイイイン!!!


    アルターエゴ『巨大な鎌鼬と金色の斬撃は空中でぶつかった……高密度のエネルギーの激突!!だが、その衝撃は都合よく相殺され消えたりはしない!!』


    ゴォオオオオオオオオオオ!!!!!


    アルターエゴ『当然衝撃の余波は苗木と戦刃を襲う』


    苗木「!!」

    戦刃「!…」タッ



    ゴォオオオオオォォォ……ォ…………


    仁(……決まったか…)


    アルターエゴ『衝撃の余波も止み、それによって撒き散らされた砂が晴れるとき、十神たちは見た…立っていたのは……』


    苗木「」



    戦刃「……終わりだね」



    アルターエゴ『戦刃むくろ…彼女だけだった』




    苗木「」

    十神「………くそッ」

    朝日奈「苗木!!起きて!!」

    石丸「苗木君!!目を覚ましてくれ!!!」

    苗木「」

    アルターエゴ『意識の無い苗木に彼らの言葉は届かない』



    ──────────



    苗木(…………)

    苗木(あれ…僕何してたんだっけ?……えっと…まあいいや………もう、いいや…)

    苗木(……………………)


    『お願い!』


    苗木「!!」パチッ

    アルターエゴ『過去に彼女から聞いた言葉が苗木の意識を強引に引きずり戻した』

    苗木「……そうだ僕は………この勝負は僕らのためだけじゃない…彼女の分も…」グッ

    戦刃「……まだ動けるの?」

    朝日奈「苗木!!」

    石丸「苗木君!!」

    大神「……」ホッ

    アルターエゴ『驚愕の顔を浮かべる戦刃、それとは対照的に安堵の表情を苗木のクラスメイト達』

    戦刃「誰かのため?………私は君みたいなぬるま湯に浸かった甘い人間が一番嫌いなんだよ!!」ブンッ

    ザクッ!!

    アルターエゴ『鎌鼬ではない何かが、苗木に突き刺さる』

    苗木「………ぁ…っ!」ググッ

    アルターエゴ『苗木の身体のあらゆる場所からは血が流れ続けていた……だけど、それでも苗木は立ち上がろうとした』

    戦刃「なんで!?もう棄権すれば良いのに!!」ブンッ

    ザクッ!!

    苗木「ッ!!」グッ

    アルターエゴ『鎌鼬ではなく、内側へドリルのように回転する細く、鋭い竜巻が苗木の肉を抉る』

    苗木「棄権なんか……しない…」

    戦刃「…いい加減諦めなよ!!」ブンッ!!

    ザクッ!!

    苗木「ァぁッ!!」グッ

    戦刃「なんで?なんで、そんなに…」

    苗木「はぁ………はぁ……僕は…諦めたりなんか…しない」グググッ


    石丸「………」

    十神「…………」

    セレス「…………」

    大神「………」

    朝日奈「……」


    アルターエゴ『苗木は血だらけで、今にも倒れてもおかしくない状況』

    朝日奈「もう……いいよ…」

    苗木「!!」


    アルターエゴ『そんな中、仲間の口から出た言葉は…励ましでも声援でもなく……』


    朝日奈「もう…いいよ…もう………諦めていいから…」グスッ


    アルターエゴ『諦めていいという、苗木を思った言葉だった』


    江ノ島「……チッ」

    松田「…………」



    ──────────



    苗木「……」


    石丸「僕たちは仲間だ!君が棄権しようと誰も責めない!!だからもうこれ以上自分を傷付けないでくれ!!!」

    苗木「………」


    十神「……棄権するなとは言わない…だが死ぬな」

    苗木「…………」


    セレス「諦めることも時に勝ちとなりえますわ…だから…」

    苗木「……………」


    大神「苗木よ…勝ちにこだわらなくて良い。それより我たちはお前の安否が大事だ」

    苗木「…………………」



    アルターエゴ『だけど、思いやりの言葉も時に凶器となりうる』

    苗木(なんで…皆はそんなことを言うの?僕はまだ諦めてないのに………でもそうだよね…僕が諦めても…諦めて…も)


    ??「それは違うなッ!!!」

    スタッ!


    苗木「……え?」

    仁「あ、貴方は!!!」


    僕の目の前には、女の子が居た。



    それは、見覚えのある……いや、ありすぎる人物だった








    江ノ島「どーも、どーも、皆大好き“英雄”でぇーっす♪」ニコッ


  70. 70 : : 2014/03/30(日) 17:25:20


    ーーーーーーーーーー


    松田「あのバカ!あんな所で何やってやがる!」

    アルターエゴ『そんな風に怒鳴りながらも…松田の頬は少しだけ緩んでいた…』


    ーーーーーーーーーー



    朝日奈「…なんで…“英雄”が…ここに?」


    江ノ島「いやなんかさ、一応一緒に戦地に行く奴を決めるわけでしょ?だから見に来てたってわけ」

    十神「違う!!俺たちが言ってるのは何故、英雄がその試合中にグラウンドに現れているのかという理由だ!!」

    江ノ島「……本気で言ってるの?、本気で……分かんないの?」

    セレス「ええ、全く分かりかねません…」

    江ノ島「……なんかさ、見てたらアンタらが絶望的なことほざき出すじゃん、だからあたしーカチンッと来ちゃってー、飛び出してきちゃった」テヘ

    石丸「ほざく!?貴方様は何を言ってるのだ!!」ビシッ

    江ノ島「はぁ!?まだ理解できないのかよ…、本当に絶望的だな。」

    大神「我らの言葉の何がいけないと言うのだ?」


    江ノ島「……はぁぁ…」


    アルターエゴ『江ノ島は改めてため息をつくと、冷たい口調でこう続ける』


    江ノ島「優しい言葉が正しいものと思うなよ。お前らが言ってるのはこういうことだ、『諦めろ。お前じゃ無理だ。大人しく棄権しろ』……あれれー?まるで敵さんみたいだね♪」

    朝日奈「……あ…」

    石丸「!!」

    十神「…」ギリッ

    セレス「……」

    大神「!…」

    江ノ島「仲間仲間言っておいて、結局コイツは一人じゃねえか!!なっさけねぇな!!結局は言葉だけかよ!!本心は違うんじゃねえかよ!!」

    江ノ島「笑えるよなぁ…仲間(仮)だなんて、笑うしかねぇよなぁ…」


    苗木「それは………よ…」


    江ノ島「どったの、苗木、アンタチビだからそんな声量じゃ聞こえないよ」

    苗木「…それは違うよ!!!」ググッ

    アルターエゴ『そう良いながら苗木は剣を杖にして立ち上がる…』

    江ノ島「何が違うっての?」

    苗木「皆……僕の仲間だ!友達だ!!……誰一人敵なんていない…だから……勝手なことを言うな!!!」

    仁(英雄にタメ口だと!?)

    江ノ島「ふぅーん…」ニヤニヤッ

    アルターエゴ『江ノ島は、嬉しそうに微笑むと、朝日奈達の方へ目を向ける…』

    江ノ島「的なこと言ってるけど、アンタ達はどうなの?」

    江ノ島「…アンタ達を仲間と言い切った苗木になんて言葉をかけるの?」



    朝日奈「私は…………苗木……ごめん…」

    苗木「朝日奈さん…?」

    朝日奈「無理いってるのは分かってる、だけど……だけど負けないで!!」

    苗木「朝日奈さん…」


    石丸「苗木君。負けた僕がこういうのはズルいのだが、負けるな!!勝ってくれ!!」

    苗木「石丸くん…」


    セレス「……私が折角勝ったのですから、無駄になさるとどうなるか…覚悟していてくださいね」ニコッ

    苗木「セレスさん…」


    大神「フッ…そんな覚悟を決めた目をしたお主には、もう我の言葉などいるまい…だが……勝つのだぞ」

    苗木「大神さん…」


    十神「苗木…勝て!!これは命令だ!!……この俺様直々の命令だ…必ず遂行しろ」

    苗木「十神くん…」


    江ノ島「じゃあ、アタシからも……」スッ

    チュッ

    苗木「~~っ!!」

    いきなり頬にキスされた

    江ノ島「アンタの力はこんなもんじゃない…やってやりなさい」ボソッ

    苗木「う、うん!!」


    江ノ島「じゃあアタシはここらで。……邪魔して悪かったね。ばーいばーい!」

    シュンッ!!

    こうして彼女は、僕らの前から姿を消した



    ーーーーーーーーーー


    スタッ!


    江ノ島「いやぁ、悪になるのも辛いぜェ!」

    松田「日常茶飯事だろうが………それにしても珍しいな…お前があそこまで誰かの肩を持つなんて…」

    江ノ島「別にー、ただイラついただけだし」

    松田「ただ、イラつくだけで試合中のグラウンドに飛び込むのはバカでもありえねーよ」

    江ノ島「でもさ、私様が行かなかったら、松田君が飛び込んでたでしょ?」ニヤニヤ

    松田「………………さあな」



    ーーーーーーーーーー


  71. 71 : : 2014/03/30(日) 19:13:54
    仁「もういいかい?」

    苗木「はい!すみません」

    戦刃「……君がなぜ“英雄”と面識があるかは聞かない。でも、“英雄”の期待を背負うことがどれだけ重たいか……それがどういうことなのか」

    苗木「………?」


    ━━━━━━━━━━


    【7年前】

    戦刃「盾子ちゃん!ほら!また倒してきたよ!」

    江ノ島「お。やるじゃん♪」

    戦刃「えへへ///」


    昔、私は幼き“英雄”のお気に入りだった。

    “英雄”と共に2人、この国の将来の最高戦力と言われた内の1人…。

    でも、私は影だった。

    “英雄”である盾子ちゃんと違って私は目立たない“戦争屋”。

    戦場に行かされるのも、やることは雑魚の掃除。

    強い敵を倒してますます光を浴びる盾子ちゃん。

    私は暗い………ずっと暗い影の中。

    それでも、私をお気に入りにしてくれる盾子のために私はがんばった。がんばり続けた。

    戦場から帰る時は必ず無傷。

    そして、私のスピードには誰もついてこれないとまで言われ始めた時。

    いつもの通り、私たちは戦争に向かった………。



    「フハハハハ!俺様の魔法の前に皆ひれ伏すのだ!」

    江ノ島「ハァ……ハァ……」

    戦刃「盾子ちゃん……こいつ、ちょっとやばいよ……」

    江ノ島「うるさい!あんたはいつもの通り雑魚専でいいんだよ!」

    戦刃「盾子ちゃん……」

    そう言われても、私は心配だった。

    ……だから、雑魚を片づけてから、盾子ちゃんの様子を見に行ったの。


    そしたら………

    「フハハハハ!これが俺様の最大魔法だ!くらえ“英雄”!!」

    戦刃「!」

    盾子ちゃんに、敵の最大魔法が迫っている瞬間だった!

    戦刃「危ない!」

    盾子ちゃんのすぐそばまで来た………でも、私は身体を張れなかった。

    戦刃「……!?」

    実践で一度も攻撃を受けたことがないからか、身体が無意識に相手の魔法に当たらないようにする。

    戦刃(なんで!これじゃあ私盾になることすらできない!)

    戦刃「盾子ちゃん……逃げてぇーー!!」

    江ノ島「うるせーよ。勘違い女」チッ

    戦刃「え!?」

    グアッ!

    その時、私はグッと引っ張られ……

    ドォォォオオオオオオオン!!!!

    ………………直接、被弾した。

    戦刃「盾子ちゃ…………ん…?」

    江ノ島「あぁ!?こっちは使えないゴミをうまく使ってやってんだよ」ペッ

    「………“英雄”が味方を盾にするとはな…」

    江ノ島「…あんたさ、あたしにそんな幻想抱いてたの?やっぱ男ってみんなバカだわ」

    「フンッ。ならば仕切り直しだ!」




    戦刃(盾子ちゃん……私を盾にしたんだ)


    戦刃(…………)


    戦刃(そんな……そんなのって……)ウルッ


    戦刃(……嬉しい!!)


    戦刃(私、盾子ちゃんの役に立てた!!)


    ━━━━━━━━━━


    戦刃(あれからもう見向きもされなくなっちゃったけど……)

    戦刃(この勝負、盾子ちゃんが見てたんだ!)

    戦刃(勝って、私の盾子ちゃんを取り戻す!必ず!)

    戦刃「君には、絶対に負けない!!」ゴォッ

    苗木「!!」ブワッ

    苗木(なんだ今の……もの凄い気迫だ!)

    仁「……よし。それじゃあ再開!」

    カーーン!
  72. 72 : : 2014/03/31(月) 06:30:56



    戦刃(近距離戦は、変な魔法使われるからやめた方がいいよね。それより…)キョロキョロ

    戦刃(……あっ、居た!)


    アルターエゴ『戦刃が遠目に見ていたのは、江ノ島だった』

    戦刃(きっと私が苗木君に勝てば、盾子ちゃんは昔のように私のことを見てくれるようになるはず…だから)


    戦刃「だから…苗木君……遊びは終わりだよ。」ゴゴゴッ


    苗木「今までの闘いを遊びって言えるなんて…どうかしてるよ…」

    戦刃「盾子ちゃんにまた振り向いてもらうために…君にはここで倒れてもらう!!」ブンッ!!

    ヒュン!

    苗木「邪魔者を排除するニュアンスがするのは気のせいかな!?」サッ!!


    アルターエゴ『ドリルのような竜巻を軽々とかわす苗木』

    戦刃「……避けれるんだ…」

    苗木「江ノ島さんのお陰である程度体力は戻ってきたからね」

    体力といっても、ゲームで言うHPではなく回復したのはただのスタミナである


    戦刃「……ずるい、“英雄”に……盾子ちゃんに私も……私だってあんな風に優しくしてもらいたかったのに…」

    苗木(……優しくしてもらいたかっ“た”?)

    アルターエゴ『ただをこねる子供のように戦刃はこう続ける』

    戦刃「どんな苦しい修行も頑張って…役に立てるように頑張って…盾にもなったのに……それなのに…」

    苗木「…………」

    戦刃「何で私じゃなくて君なの?!!私より遅くて、私より弱い…それなのに何で!!」

    アルターエゴ『感情のままに怒鳴り散らす戦刃』

    苗木「………」

    戦刃「答えてよ!」

    苗木「分かんないよ…」

    戦刃「分かんない…?そんな、うやむやなのに盾子ちゃんは君を擁護するっていうの?」

    苗木「それも分からないけどさ………僕は君の言ってることが分からないよ…」

    戦刃「………どういう意味?」

    苗木「なんで、そんなに江ノ島さんに拘るの?……なんで君はこの勝負を江ノ島さんのためだけにしか考えられないの!?」

    戦刃「……君には分からないよね、見放されることを知らない君は……失うことを知らない君は…」

    苗木「ーーッ!………そうだね…。」

    苗木「あのさ、このままじゃ水掛け論だしさ…分かりやすく勝った方が正しいってことにしない…?」

    戦刃「……良いよ。私は負けないから。……もう終わりにしよう」スッ!!

    苗木「……!」

    アルターエゴ『戦刃が、手を前に振りかざすと、ドリルのような竜巻と大量の鎌鼬が形成され砂嵐に紛れ苗木目掛けて襲いかかった』


    ギィァルルルルルルルルルルルルルッ!!!!


    戦刃「これで…終わり!!!」



    苗木「……」スッ


    アルターエゴ『【絶対絶望】。だが、そんな状況で苗木は目を瞑っていた』


    苗木「…………」


    今やるしかない!


    今使えなくてどうする!!


    今じゃないとダメなんだ…


    僕だけじゃない…皆のためにも!!!





    ……そして、彼女のためにも!!!!




    苗木「……『精神…集中』!! 」カッ!!


    アルターエゴ『苗木が目を開いたその直後!!』


    ドゴォオオオオオオオオン!!!


    アルターエゴ『…風とは思えないそれは、怒号を響かせ、グラウンドを激しく揺らした…』





  73. 73 : : 2014/03/31(月) 23:26:26
    アルターエゴ『………砂煙がグラウンドを包む』

    戦刃「フッ!」ブン!!

    アルターエゴ『戦刃が腕を振ると、風がグラウンドの真ん中を中心としたドーム状に大きく吹き、砂煙は見事に晴れた』

    苗木「………」ザッ

    戦刃「……やっぱり………」

    舞園「嘘……あれを受けても立っていられるなんて!」

    不二咲「こんなの!データじゃ解析できないよ!」

    戦刃「………当たる直前。確かに見た。君が魔法を発動したのを」

    苗木「………」




    江ノ島「あー、あれ使ってんのね」チラッ

    松田「……ふん、あのアホ毛が俺から盗める技なんてあれくらいだろ」


    江ノ島(ま、それでもあの残念な奴相手にどこまで通用するかね。…強さだけは認めてんのよ?)ウププ


    松田(『精神集中』………自分で自分の身体をコントロールすることで、理屈上人間の身体では不可能なことすら可能にする魔法だが…)

    松田(いかんせん負担が大きすぎる。あの魔法は【モード:オーガ】を真似て俺が生み出したからわかる)

    松田(苗木でも、もって10秒!)

    松田(この技を教えたつもりはなかったが、訓練の時に見られちまってたのか?)

    松田(……ま、“英雄”の相手は、人間越えなきゃ釣り合わねーよな)フゥ




    【10:00】

    シュゥゥウウウ………

    大神(!! あれは…似ている!似ているが、違う…)

    苗木「…………」

    戦刃「それは、あの変な魔法とは違うね」

    苗木「………」

    戦刃「………そう、黙りね」

    アルターエゴ『再び、戦刃がドリル状の竜巻を複数自分の周りに生み出した』

    戦刃「いくよ」

    アルターエゴ『竜巻が…合体!そして…』

    アルターエゴ『螺旋を描くようにして、苗木に向かっていく!!』

    戦刃「これが私の『大旋風』(スピア・トルネード)!!」

    ゴォォォォオオオ!!!

    【9:28】

    苗木「…!」グッ!!

    朝日奈「え!動かない!?」

    石丸「このままでは直撃だ!」

    アルターエゴ『そして…直撃!!』

    桑田「よし!勝った……って!マジかよ!」

    アルターエゴ『しかし!苗木はそれを片手で受け止めていた!!』

    苗木「………」シュゥゥ

    戦刃「……」

    アルターエゴ『さすがの戦刃も、少し目を丸くする。が、すぐに気を引き締め直す』

    戦刃「なら……!」

    アルターエゴ『と、サバイバルナイフを構えた時には!』

    【7:51】

    ドガッ!!

    戦刃「!」

    バンッ!ドスッ!

    戦刃「!?」

    戦刃(私…なんで…浮いてる…?)

    ドォォォオオン!!

    アルターエゴ『戦刃は空中から、地面に叩きつけられた!』

    戦刃(なんで……)

    ドガァッ!

    戦刃「!」

    ズサァッ!

    アルターエゴ『今度は蹴り飛ばされた。戦刃の身体が、脳が、相手の動きに反応出来ていないことに戦刃は気づいていた』

    アルターエゴ『なのに!!』

    戦刃(反応できない!)

    【6:08】

    アルターエゴ『そして、さらに戦刃は気づいていた』

    ドカッ!

    戦刃「うぅっ!」

    アルターエゴ『さっきから、剣で直接攻撃してきていないことに』

    苗木「…………」

    ドガッ!ドガッ!

    戦刃(………でも、私はまだ!)

    ブン!!

    アルターエゴ『サバイバルナイフを凪ぎ払い、牽制。苗木はそれをバックステップでかわす』

    戦刃「うおおっ!」

    アルターエゴ『そこにサバイバルナイフを縦に振り下ろす!』

    キィン!

    アルターエゴ『……それを苗木は、剣で受け止めた』

    苗木「………」

    戦刃「くっ………(押し切れない!)」

    【5:15】
  74. 74 : : 2014/04/01(火) 00:19:23


    アルターエゴ『苗木は戦刃の手ごとサバイバルナイフを蹴りあげる』

    ゴッ!

    戦刃「ぁぁ゙ッ!」パッ

    アルターエゴ『あまりの痛みに戦刃はサバイバルナイフを落とす』

    苗木「………」

    ゴスッ!!

    アルターエゴ『苗木はそれを見越してまたもや戦刃を蹴りあげる、そして…』

    ゴスッ!バキッ!!ドガッ!!!

    戦刃「ぁぁぁあ!!!!」

    アルターエゴ『空中で身動きをとれない戦刃に連撃叩き込んだ!!』

    苗木「……」

    ゴスンッ!!!!!

    アルターエゴ『そして地面に蹴り落とす!!!』

    ドゴォン!!!

    戦刃「…」

    アルターエゴ『戦刃は受け身1つ取らず…いやとれずにに地面へ叩き落とされる』


    【4:01】

    アルターエゴ『だが、それでも戦刃は立って居た』

    戦刃「はぁ…はぁ……私は負けられない……盾子ちゃんに振り向いてもらうため…」


    ーーーーーーーーーー



    苗木(あれだけ食らってもまだ立つのか…)

    アルターエゴ『『精神集中』状態の苗木には、全てが静止画の繋がりのように見えていた、…よって分かる。一撃一撃に苦痛の表情を浮かべる彼女の顔が』

    苗木(これは長時間持たないし…もう決めさせてもらうね!!)ダッ!!

    アルターエゴ『苗木は戦刃目掛け走り出す…剣ではなく、拳を構えて』


    【2:27】

    アルターエゴ『その直後…!』

    シュゥン…


    苗木「………え!?」ガクッ!



    アルターエゴ『苗木の『精神集中』が解ける』




    江ノ島「あれ?解けちってんじゃん」

    松田「チッ…アホ毛の今の状態では…あれが限界か…」クッ

    江ノ島「自身の限界を迎えないと使えない技なのに、身体の限界で使えないってどういうことよ…」

    松田「アホ毛の身体はとっくに限界を越えてたんだ…アイツあのままだといずれ死ぬかもしれないぞ…」

    江ノ島「……ふぅん」



  75. 75 : : 2014/04/01(火) 01:53:36
    苗木「ハァ………ハァ……」

    戦刃「……!」

    苗木「まだ……まだ…!」

    十神「………苗木…」

    石丸「ぐ……僕が勝っていれば……!」

    アルターエゴ『よろよろと、それでも剣を両手で握って戦刃に近づく姿に、クラスメイト達は暗く、まさに絶望的なムードを感じとっていた』

    戦刃「………なんなのよ!」

    ガッ!

    苗木「!」

    アルターエゴ『サバイバルナイフを握った手で、苗木の顔を殴る。苗木はそのまま横に飛ばされた』

    ズサァァ!

    仁(完全に立場が逆転したな…)

    仁(しかし、苗木くんはよく戦った。10秒以下とはいえ、あの戦刃むくろを圧倒したのだから)

    仁(クラスのみんなも、もうわかっているだろう……)

    仁(…………くっ、すまなかった…私が担任をしておきながら……!)

    苗木「…うっ………」ズキズキ

    朝日奈「苗木……起きあがらない……」

    セレス「………」





    江ノ島「あーあ、まーた絶望ですか」

    松田「………苗木…」

    江ノ島「終わったね。もう終わり終わりお開きお開き満員御礼ありがとうございました!」クルリ

    アルターエゴ『と、江ノ島がグラウンドを背にした時……』


    <ドサッ




    江ノ島「………?」




    戦刃「……はぁ……はぁ……」

    アルターエゴ『戦刃が…倒れた』

    仁「!」

    花村「あれ?」

    桑田「なっ!」

    不二咲「……!」カタカタ

    舞園「不二咲さん!何かわかったんですか?」

    不二咲「さっきの空から叩き落とされた衝撃で、肋骨が何本も折れてる……!」

    「「!!」」

    不二咲「なんて精神力だ…それでも立ってたなんて!」

    戦刃「……ハァ……ハァ……」

    仁「………」

    苗木「…………」

    ズル……ズル……

    戦刃「ま……だ……」

    アルターエゴ『戦刃が、地面を這いずり、苗木に近づく……』

    仁(……なんて執念だ)

    戦刃「…………負けない……マ……ケ……ナイ……」

    十神「………!」

    十神(不覚だ……思わず恐怖に飲み込まれそうになってしまった……)

    十神(……落ち着け…俺…まだ対抗戦は終わりじゃない!)

    苗木「………くっ…」

    アルターエゴ『苗木も、なんとか半身になって這いずり、戦刃から距離をとろうとする』

    ズル……ズル……

  76. 76 : : 2014/04/01(火) 04:20:00



    アルターエゴ『半身で距離をとる最中、苗木は見た。こちらを見る江ノ島と松田の姿を…』

    苗木「あはは…これは逃げられないね……それに…」

    戦刃「……マ……ケ…タク……ナイ……盾子ちゃんに……振り向いて……もらう…ために…」ズルズル

    苗木「…負けるわけには………いかないよな!!」グッ


    戦刃「無理だよ…」スッ


    アルターエゴ『戦刃は“倒れたまま”手を前に振りかざす』


    戦刃「敗けるのは君……、だから………ここで消えて!!!」ブンッ

    ビュゥウウウウッ!!!!

    苗木「!!」

    アルターエゴ『今までのどの魔法より凄まじい魔法が倒れている苗木に向けて放たれる』

    アルターエゴ『だけど、苗木は諦めていなかった!その目は、死んでいなかった!!』



    苗木「僕は君に負けない…自分のためにしか戦えない…君になんか…負けない!!」


    アルターエゴ『そう言いながら、苗木はとうに限界を越えた身体で立ち上がり…』


    苗木(一瞬だけで良いんだ……僕は彼女を救いたいんだ!!だから…持ってくれよ僕の身体!!!)


    苗木「……『精神…集中』!!」シュンッ!!


    アルターエゴ『そして上空に飛び上がる!!』


    苗木(もう、動けないかもしれない…でも!!)


    アルターエゴ『そして、重力に従い拳を構えながら落下する』


    苗木(重力を使えば!!)



    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『一方戦刃は戸惑い動けないでいた。避けられたことにでは無く…苗木の言葉に…』


    戦刃「自分の……ため?私は盾子ちゃんのために…」グググッ


    『私、盾子ちゃんの役に立てた!!』


    戦刃「私は…私は……」


    戦刃(私はあの時どう思った?、盾にされたとき本当に役に立てたと思った?本当に嬉しいと思えた?)


    戦刃(違う……本当は…役に立ててなんかなかった…盾にされたのも痛かったし嫌だった)


    戦刃(だけど…私は自分を偽った……役に立てたって思い込んで、自分を正当化して、嬉しいって自分に嘘ついて……)

    ヒュユユユユユ!!!


    石丸「苗木くん!!やるんだ!!」


    セレス「苗木くん!終わらして差し上げなさい!!」


    大神「苗木よ!!いけ!!」


    十神「苗木、命令だ!!決めろ!!」


    朝日奈「苗木ぃ!!いっけぇえ!!!!!」



    苗木「うぉおおおおおおおお!!!!!」


    戦刃(……ああ、そっか…勝てるわけなかったんだよね…だって正しいのは)…


    苗木「これで…終わりだぁああ!!!!」ブンッ!!


    戦刃(……最初から苗木くんの方だったんだから…)




    バキッ!!!






    アルターエゴ『こうして、大将戦は…』




    ドサッ



    仁「……勝負あり!!大将戦の勝者は苗木誠!!!」




    アルターエゴ『……苗木誠の勝利で終わった』




    ーーーーーーーーーー




    苗木「……ハァ………ハァ」

    戦刃「…………」

    アルターエゴ『決着後も苗木、戦刃ともにグラウンドへ倒れ込んでいた』




    戦刃「苗木くん……」

    そんな中唐突に彼女は僕に声を掛けてきた

    苗木「どうしたの?」

    戦刃「私は君が羨ましいよ…」

    苗木「……なんで?」

    戦刃「君は……私に無いものを沢山持ってるから……」

    苗木「ふふ……そんなこと無いよ。君にだって………ほら」



    アルターエゴ『そう言う、苗木の目線の先には…』







    舞園「戦刃さん!!大丈夫ですか!?」

    戦刃「え?」

    不二咲「ねえ、…大丈夫?!痛いところは??」

    花村「んふふ、僕のグングニルでマッサージしてあげようか?」

    桑田「黙ってろブーデー!!それより戦刃ちゃん!大丈夫か!?」

    ??「よく頑張ったな…」


    戦刃「……みんな…」


    苗木「…ねっ言ったでしょ」ニコッ

    戦刃「うん…うん!!」

    戦刃「これが……」

    苗木「どうしたの?」

    戦刃「ううん、なんでもないよ…それより苗木くん…」

    苗木「……ど、どうしたの?」



    戦刃「ありがとう!!」ニコッ


    苗木「……どういたしまして」ニコッ





    アルターエゴ『こうして……改めて激闘の大将戦は幕を下ろした』









  77. 77 : : 2014/04/01(火) 22:29:02
    仁「素晴らしい。素晴らしい戦いだった。2人を手当しろ」

    「はっ」サッ

    苗木「あ…僕はここで試合を見届けます」

    「……わかりました。その気持ちはわかります。ではここで手当しましょう」

    戦刃「あの…私も…」

    「ええ、わかりました」

    戦刃「………!」パァ




    江ノ島「………」

    松田「……どうした?」

    江ノ島「いや、苗木成長したなーって」

    松田「そ、そりゃそうだろ…」

    江ノ島「ま、いいや。どうせだから最後まで見ますか」




    仁(この希望戦で全てが終わると思うと、少し物足りない気持ちになってしまうが……)

    仁(………どっちのクラスもここまでよくやった。後少し、がんばってくれ!)

    十神「…………」

    セレス「……十神くん?」

    十神「…あ、あぁ」

    セレス「あら、緊張しているのですか?」クスクス

    十神「! そ、そんなことあるわけないだろう!」

    セレス「……よろしいですか?あなたが負けることは、皆の努力を水の泡にすることですのよ?」

    十神「……その点は問題ない。俺を誰だと思っている」

    仁「それでは希望、前へ」

    十神「俺は……十神白夜だ」ザッ

    仁(……勝つことを宿命づけられた十神一族の子か)

    仁(まぁ十神の成績は優秀だ。クラスの希望に相応しいだろう)

    仁(………だが、相手は…)

    十神「おい……貴様…ふざけているのか?」

    「ふざけてなどいない。俺と戦えることを光栄に思うんだな」

    アルターエゴ『十神の相手は…十神とまったく同じ格好をしていた。(しかし体型は同じではない)』

    豚神「さぁ、始めよう。最後の勝負を」

    仁(全てが不明の男。あらゆる状況に応じて格好や声を変えることことから、人は彼を“詐欺師”と呼ぶ…)

    仁「よし、希望戦、開始!」

    カーーン!

    十神「悪いが速攻でケリをつけるぞ」

    アルターエゴ『十神が両手を広げると、背後に巨大な太陽が現れた』

    十神「『太陽は知恵を持つ』(オーバ・ザ・サン)!!」

    アルターエゴ『太陽が人の形に変化し、十神の動きとリンクして両手を広げ、豚神を包み込む!』

    十神「終わりだ」

    豚神「…ほう。中々だ」

    十神「俺がこの手を閉じた時、貴様は豚の丸焼きとしてクラスの祝勝会に参加することになる」

    豚神「………ふっ」

    十神「何がおかしい」

    豚神「………こうか?」

    十神「!」

    アルターエゴ『豚神が両手を広げると、背後に十神とまったく同じ太陽が姿を現し、人の形になって行く!』

    苗木「! 同じ!」

    セレス「あれは……相手の能力をコピーする魔法ですわね」

    朝日奈「……まさか十神、負けはしないよね」

    石丸「! まさか!彼は勝利を約束してくれたじゃないか!」

    セレス「…まさか偽物に負けるなんてことは、ありませんわよね……」

    苗木(…………なんだか嫌な予感が)


  78. 78 : : 2014/04/02(水) 00:24:21



    豚神「俺が本気を出したとき、貴様は豚の丸焼きとしてクラスの祝勝会に参加することになる」

    十神「豚はお前だろう!!」

    アルターエゴ『十神は感情のままに怒鳴る。豚神はその隙を見逃さなかった』

    豚神「ドスコイッ!!!」

    グワッ!!

    アルターエゴ『豚神は、十神の太陽の化身を己の太陽の化身で吹き飛ばしそのまま十神に向けて手を伸ばす』

    ドゴォ!

    アルターエゴ『張り手…聞こえだけは優しそうだが、太陽が放つそれは洒落にならない』

    十神「グワぁぁぁああ!!!」バタリッ

    アルターエゴ『激しい痛みと同時に熱が十神を襲う』


    豚神「君は甘ちゃんだね…以前までの君なら、何も言わずに押し潰して焼いて、そこで終了だったのに」

    十神「……」ググッ

    豚神「何が君をそんな風に弱くしたんだろうね?」

    十神「………」ググッ

    豚神「諦めて降参しなよ。エリートである君は、エリートであるが故に僕に勝てない……」

    十神「ふざけるなよ…」グググッ

    豚神「……立つんだね」

    十神「確かに、流石は俺の魔法のコピーと言ったところだ…確かに強い。だが、所詮コピー……劣化だ!技も…お前自身もな!!」

    豚神「…………言うね、それもエリートの意地というやつかい?」

    十神「違う…。俺はエリートである前に………俺は俺としてお前に勝つんだ!!」

    豚神「そうか、それならお前はこの攻撃をどうしのぐ!!」

    ブンッ!!!

    アルターエゴ『十神に向けて両手を組んだまま下に叩き落とす、ダフルスレッチハンマーが放たれる』

    十神(俺は………負けるわけにはいかない!!)

    アルターエゴ『力が拮抗したもの同士の戦いは一瞬の判断で決着がつく。その時十神がとった行動は!!』


  79. 79 : : 2014/04/02(水) 01:04:35
    アルターエゴ『魔法を消した!』

    豚神「なっ!」

    十神「ふんっ!」モミモミ

    豚神「!?」

    アルターエゴ『なんと!背後に回って直接豚神の胸を鷲掴み!』

    十神「悲しかったんだろ……?」

    豚神「!///」

    ニギ…モミモミ……

    十神「自分って存在を認められたくて、それで編み出した魔法だろ?」

    豚神「……!」

    十神「魔法は本人の影響を受けるからな。俺にはわかるよ」

    アルターエゴ『言って、耳元にフゥーッと息を吹きかける』

    苗木「! 十神くん!」

    十神「動くな!俺はゲイだ!」

    苗木「!」

    朝日奈「えっ」

    石丸「なっ」

    桑田「まじかよ」

    花村「!」

    十神「隠していてすまなかった……」

    豚神「…………」

    十神「俺は家のこともあって、何不自由なく暮らしてきた。ゲイなことを除けば」

    豚神「………十神くん…」

    十神「わかるだろ…?」

    豚神「うん……グスッ、なんだか僕嬉しいよ。やっとわかってもらえた気がする…」ポロポロ

    十神「あぁ……」

    豚神「心なしか、今とっても暖かい気持ちだ」

    十神「それは今貴様を両手で包み込んでいるからだ」

    豚神「え?」

    十神「くらえ!」ギュッ

    アルターエゴ『いつの間にか、再び出された太陽の化身!』

    豚神「アァァァァアアアアア!!!?」

    ボォォォオオオオオオオ!!!

    アルターエゴ『燃える豚神!』

    仁「! そこまで!」

    豚神「」チーン

    十神「ふんっ。誰がゲイだ」

    苗木「ホッ」

    花村「チッ」

    仁「希望戦!勝者、十神白夜!」

    十神「豚の丸焼きの完成だ」

    苗木「十神くん!やったね!」

    十神「ふん、この俺を誰だと思っている」

    朝日奈「十神…サイテー!」

    セレス「金輪際近づかないで欲しいですわ」

    十神「なん………だと………」

    仁「…よって!勝ちクラスから3名!負けクラスから1名戦争に行ってもらう!」

    舞園「あぁ……」ペタッ

    桑田「くそ……くそーっ!」

    不二咲「うぅ……」ポロポロ

    戦刃「………」

    花村「え?え?」

    豚神「みんな…ごめん…」




    江ノ島「ふーん、ま、暇潰しにはなったよ」

    松田「で、誰かな“英雄”様的には」

    江ノ島「あぁ。誰に来て欲しいかって?そりゃあもちろん…」




    ━━━━━━━━━━


    アルターエゴ『次の日…』

    仁「みんな、昨日はよく頑張った!私のクラスとして誇りに思うぞ!」

    仁「そして、決めようか。誰が行くか」

    みんな「………」ゴクリ

    仁「そうだ、隣のクラスからは舞園さやかが抜擢された」

    苗木「!? 嘘!戦刃さんは!」

    仁「……彼女はケガがひどくてな。戦争に行っても今のままでは足手まといだ」

    苗木「そんな……」

    大神「……その理屈なら、我は棄権する」

    十神「大神…!」

    仁「………あぁ、辛い選択だとは思うが、最良の選択だろう」

    仁「……他に、棄権する者はいるか?」
  80. 80 : : 2014/04/02(水) 03:37:29




    石丸「僕も棄権させて貰おう」

    朝日奈「本当に棄権するの…?」

    石丸「ああ、この通り怪我も酷い。…それに情けないが今の僕では足手まといだ!」グッ

    石丸くんは唇を強く噛み締めていた。

    花村くんに負けたことが、まだ脳裏から離れていないようだった

    苗木「石丸くん…」

    石丸「ハハッ勘違いしないでくれたまえ、ヒステリックになったわけではない。僕はもっと強くなる!君たちに追い付けるようにな!!だから僕は残るのだ!!」

    苗木「あはは、石丸君らしいや」

    仁「残るは四人だがどうする?」

    朝日奈「わ、私も…」

    セレス「あら」

    朝日奈「私だって負けちゃったし…それに……」

    大神「朝日奈よ…怖いのか?」

    朝日奈「うん………怖いよ…戦争って実践練習とは違って殺すんでしょ?……そんなの耐えられないよ…」

    優しい彼女らしい選択。

    僕だって耐えられない…

    彼女……戦刃さんに刃を向けることさえできなかったし、殴るときも辛かった

    朝日奈「だからさ、私も棄権するよ…」

    仁「こうなると、残るのは苗木君、セレスさん、十神君の三名になるが…」

    十神「俺は行くぞ!!当然な!!」

    セレス「私…野蛮な争いは嫌いなのですが……まあ、行かない理由にはなりませんわね」

    苗木「…………」

    仁「苗木君…君はかなりの重症だけどどうする?」


    ……答えは決まっていた


    苗木「行きます!!!」

    仁「よしっ!それでは、英雄と共に戦争へ行くメンバーは苗木誠、十神白夜、セレスティア・ルーデンベルクこの三名に決定だ!!!」



    『こうして、僕たちは戦争行きの切符を手に入れた』



    『……だけどこのとき僕はまだ知らなかった。』



    『それは希望の切符なんかでは無くて』






    『……絶望の切符だと言うことを…』






    アルターエゴ『To be continued』



  81. 81 : : 2014/04/02(水) 04:13:08
    アナウンス『これより、15分間の休憩に入ります』

    ガヤガヤ………


    ━━━━━━━━━━


    【舞台裏:控え室】

    苗木「どういうことさ江ノ島さん!」

    全員が、江ノ島を囲むようにして問いつめる。

    戦刃が江ノ島に寄り添うが、江ノ島は邪魔そうだ。

    江ノ島「えー。おもしろいでしょ?」

    石丸「そういう問題ではないだろう!」

    左右田「ったく!俺もあの世界観でやるのかよ!」

    罪木「ふゅぅ!江ノ島さんを攻めるなら私を攻めてくださいぃ!」

    花村「おおおおおお!!」

    十神「それに…知らん奴も紛れ込んでいるしな」チラッ

    松田「俺はドブスに呼ばれて来ただけだ」

    斑井「俺もだ……」

    江ノ島「もーう松田くん毒舌!」

    狛枝「……っていうか、日向くんは本当にどうするの?」

    七海「日向くん……」

    江ノ島「あー、どうするんだろうね」シレッ

    苗木「人事じゃないんだよもーう!」

    仁「みんな、日向くんと連絡がとれたぞ!」

    みんな「!」

    豚神「よ、よかった~」ホッ

    仁「どうやら、今まで寝てたらしいな…」

    弐大「寝坊じゃとォ!?ありえん!ありえんわぁぁぁあ!!」

    終里「見損なったぞ日向ぁぁあ!!」

    西園寺「あぁもううるさい!ジャングルに帰れば!?」

    ソニア「帰っちゃだめですよ!?」

    仁「すぐにこちらに来させるから、みんなはそろそろスタンバイしててくれ」

    九頭龍「っても、アドリブだしよ……」

    澪田「泣き言言っても仕方ねぇっす。やるしかないんすよ!」

    小泉「うーん、がんばろうみんな!」


    ━━━━━━━━━━


    10分後……

    日向「みんな、すまない!」ハァハァ

    苗木「日向くん!」

    日向「すまん……目覚ましをいくつもかけたんだが…」

    霧切「……」ジロッ

    江ノ島「えーちょ、怖いよ!そんな目であたしを見ないで?」キャルン

    霧切「……そっちがその気なら私にも考えがあるわ」

    そっとケータイを取り出し、どこかに電話をかける霧切。

    江ノ島(……ま、ぼっちのことだからどこに電話かけててもかわんないでしょ…)

    アルターエゴ『あ、最初日向くんからだよ』

    日向「うえぇ!?」

    仁「みんな!始まるぞ!」

    日向「!!??」

    そして、休憩が終わった……。


    ━━━━━━━━━━


    再び幕が上がった。

    暗闇が観客を出迎えると、スポットライトが舞台の真ん中に当たる。

    日向「………」

    日向(ど、どうすりゃいいんだ!?あの覚えた台本も水の泡だし……)

    観客<おい…彼は大丈夫なのか?

    観客<棒立ちじゃないか…

    アルターエゴ『ひ、日向くん、なんかしゃべって!』ヒソヒソ

    日向「わ、わかった」ヒソヒソ

    日向「うおっ!ここはどこだ!?(棒)」

    狛枝(やっぱり予備学科!!)
  82. 82 : : 2014/04/02(水) 05:18:44


    日向(予備学科言うなよ!一応、希望だからな!!……ったく、こっちは何も分からない状況でステージに立ってるっていうのに…)


    そんな、俺の心情を察知したのか、アルターエゴが俺の声で語りだす。


    『俺の名前は日向創だ。見ての通り普通だけが取り柄の人間。最近までの記憶が全くないが、周りの温かい人たちの恩恵を受け無事暮らしている』


    『俺は朝の支度を整え学校に向かう。そこは“希望ヶ峰学園”……ではなく、普通の…一般的な学校だ。騎士などになりたいものが通う学校。もちろん勉強もする』


    『何故そのような学園があるかというと、希望と絶望とで戦争が起こっているためである。いつかに備え、学生は日々鍛練をしその腕を磨くのだった…』


    日向(ありがとうな…アルターエゴ)


    ────────────


    アルターエゴ『場面は切り替わり学校』





    ??「日向!」

    そんな風に唐突に名前を呼ぶ人物、俺はその声に聞き覚えがあった。

    日向「なんだよ、左右田……朝っぱらでかい声出して…」

    左右田「なんと、英雄が戦争から帰ってきたみたいだぞ!!」

    日向「……英雄?なんだそれ?」

    小泉「アンタそれ本気で言ってるの?」

    日向「ああ…本気だけど?」

    日向(何!?そんな設定俺知らないぞ!?)


    そして、俺の思考を察っしてか察せずか小泉は話し出す


    小泉「はぁ…英雄ってのは…戦争で誰よりも活躍している女の子を指す言葉よ」

    日向「……へぇ」

    左右田「でさ!でさ!英雄が帰還したことで、パレードって言う祭りがあるんだけどさ!一緒に行こうぜ!!」

    小泉「もちろん、三人じゃなくて他に何人か誘ってだけどね」ニコッ

    日向「別にいいぞ、予定も無いしな。…………それにしても、英雄か…」

    左右田「……どうかしたのか?」

    日向「いや……なんか、胡散臭いよなぁって思ってさ…ほらパレードもなんか餌にされてるような感じが…」

    「………………」

    「……………」

    その一言で教室中の空気が凍りつく


    日向「……ってのは、冗談で、会ってみたいなって思っただけだよ、ハハハ……ハハハー」

    左右田「見ることは出来ても、会うことは無理だろ…」

    日向「ダ、ダヨナー」

    小泉「あっ、写真あるけど見る?」

    日向「あ、ああ見るぞ」

    小泉「じゃあ、ハイ」スッ

    そう言うながら、小泉が見せてきたのは



    日向「ただの可愛い女の子じゃねえか!バーロー!!」


  83. 83 : : 2014/04/02(水) 22:51:42
    小泉「それも相まって人気があるのよ!」

    左右田「そうだぞ。現にうちの学校にもファンクラブがあるだろうが」

    日向「あ、あぁ!ファンクラブね!」

    小泉「で、どうする?とりあえず日寄子ちゃんは誘っておいたけど」

    日向「え?西園寺?」

    左右田「あ、あぁ!隣のクラスのな!」

    日向「そ、そっか!」

    左右田(冷や冷やさせんなよ日向。これは劇だって…)ヒソヒソ

    日向(すまん。なんか頭がボーッとしてな……)ボソボソ

    小泉「と、とにかく放課後は校門に集合ね!」


    ━━━━━━━━━━


    キーンコーンカーンコーン……

    【校門】

    日向「………で、どうするんだ?」

    西園寺「パレードに行くに決まってるじゃん!頭腐ってるなら重いだけだから置いてけば!?」ジャキン

    日向「わっ!」ビクッ

    小泉「こら!ここで鉄扇出しちゃだめでしょ?」

    西園寺「う……ごめんなさい」シュン

    日向「あ、危なかった……」ドキドキ

    左右田「てか、もういこうぜ!」

    ゴーン…ゴーン…

    日向「この鐘は?」

    左右田「お!パレードが始まったぞ!」

    アルターエゴ『そして、4人は大通りへと移動した』


    【大通り】


    日向「うわー…すげー人だ」

    小泉「はぐれないようにね?」

    日向「って、子供じゃないんだから…」

    日向「………」ポツン

    日向(すっげぇスピードではぐれた……)

    日向(ど、どうしよう……この中であいつらを見つけるのは骨が折れる…)

    日向(それに、この街の構造からあやふやだしな……)

    日向(あぁっ!こんなことなら通信魔法の一つや二つ覚えとくんだった!)

    アルターエゴ『と、むしゃくしゃする気持ちに任せて歩いていると』

    ドン!

    日向「わっ!」

    アルターエゴ『人とぶつかった』

    「きゃっ!…もう、なんでこんなに人とぶつかるのかな」プクーッ

    日向「す、すまん!」

    アルターエゴ『日向が手を差し伸べる…と、相手は目を見開いた』

    「日向くん!」

    日向「え……あっ、七m 七海「やっぱり日向くんだ!ほら!私だよ私!七海!…困ってたんだよ!勝手に居なくなっちゃって連絡もとれなかったから!」

    日向(あ、俺記憶喪失なんだっけ)

    日向「え…と、わりぃ。覚えてないんだ。君のことも」

    七海「………え?」

    日向「ここ最近の記憶がなくて…。俺、どっかで倒れてたところを親切な人に拾われたらしいんだ」

    七海「そ、そう……」

    アルターエゴ『七海は少し考えてから、言った』

    七海「わかったよ。君はこのままの方がいいと思う。私1人で大丈夫だから……」クルリ

    アルターエゴ『去ろうとする七海の肩を、ガシッと掴む』

    日向「……?まってくれ。俺が何だったか知ってるんだろ!?」

    七海「…もし君が自分の記憶を取り戻したいなら、また私に会えると思うよ。でも、その時は………覚悟しててね」

    シュン!

    日向「………消えた」

    日向(俺の記憶……か。あの子の話からだと、あの子と俺は何かしようとしていたみたいだけど……)

    日向(………今は左右田達を探そうか)
  84. 84 : : 2014/04/03(木) 19:57:21



    日向「…おーい、左右田ー!小泉ー!西園寺ー! ……全然見つからない 」ハァ

    アルターエゴ『思わずため息をつく日向の前、人だかりの真ん中で男の怒鳴り声が聞こえる』

    「あぁぁぁぁぁもう許さねぇ!!!ここでぶっ潰してやる!!!」

    日向「お、なんだ喧嘩か?」

    日向「まさか、左右田がカツアゲされてるんじゃ!」ハッ!

    左右田「ハッ!じゃねえよ!してねえよ!!」

    日向「左右田…無事だったんだな!」

    左右田「いやいや、何で俺が危険に巻き込まれているていで話進んでんだよ!」

    日向「そういえば、西園寺と小泉は?」

    左右田「ああ、皆で手分けして探してたんだった。ちょっと待っててくれ、集まるように伝えるから」


    アルターエゴ『…五分後』


    小泉「アンタねぇ…はぐれないようにって、言ったそばから…」

    日向「面目ない!!始めてのパレードでテンションが上がってたんだ!!」

    西園寺「……小泉おねぇともっと……もっとゆっくり過ごしたかったのに!!」ブンッ

    アルターエゴ『感情のままに任せて鉄扇を振るう西園寺』

    日向「っぶねぇ!!」スカッ

    アルターエゴ『日向がそれを避けると、日向というクッションによって止まるはずだった鉄扇は…』

    ゴスッ!

    左右田「ぎにゃあああああああああ!!!!」

    西園寺「あっ………まあいっか」テヘペロ

    左右田「いや、良くねぇーよッ!!!」

    小泉「そうよ、日寄子ちゃん。鉄扇は元々護身用のものなんだから、あまり用途を守らない使い方はしないようにね」

    左右田「そこじゃねェーーッ!!!」

    西園寺「こんな人混みで、そんな大声あげるなんてやっぱキモ。小泉おねぇ、こんなバカともほっといてどっか行こ。」

    左右田「ったく、ひでぇよなァ日な……あれ?」

    小泉「日向が居ないね。」

    西園寺「まさか…」


    三人「「「また、迷子かよ!!!」」」



    ーーーーーーーーーー


    ヒュンッ!!


    アルターエゴ『先程まで人混みに埋もれるほど賑やかな町にいたはずの日向……だが、今いる場所には、日向以外人ッ子一人いない。いるのは…日向とウサギ型の生物のみ』


    日向「……おいお前…今何をした!」

    『……………』


    アルターエゴ『…日向は迷子などではなかった。連れさられた……それが正しい解釈である』


    日向「おい、そこのウサギみたいなやつ!お前がやったんだろ!」

    ウサミ『……あちしは…ウサミでちゅ。その反応やっぱり忘れちゃってるんでちゅね…』

    日向「なんだよその言い方!さっきの七海って女の子もそうだ!!言ってる意味が分からないぞ!!」

    ウサミ『ほえ!?千秋ちゃ……七海さんに会ったんでちゅか?!』

    日向「ああ会ったよ!そしたら、『君はこのままの方が良い』とか、『私1人で大丈夫』とか、わけの分からないこと言われて…意味がわかんねぇよ!」

    ウサミ『…………千秋ちゃん…』

    日向「お前は……お前たちは知ってるのか?!記憶を失う前の俺を!!」

    ウサミ『…先生は教え子の考えを優先しまちゅ…だからあちしは何も言いまちぇん』

    日向「言ってる意味が分かんなーー」

    ウサミ『…それでは日向くん…バイバイでちゅ…』シュンッ!

    アルターエゴ『日向が言葉を言い終わるより前に、ウサミはその言葉とともに日向の目の前から消えた』

    日向「おい!!」

    アルターエゴ『いくら怒鳴っても返ってくるのは静寂…』

    日向(…いったい……どういうことだよ…)




  85. 85 : : 2014/04/03(木) 22:22:55
    日向「とにかくここから出ないと……」

    日向(でも、出口も何も見あたらない……)


    日向(…………)

    アルターエゴ『その時』

    こっち……

    日向「!」

    こっちだよ……

    日向「だ、誰だ!」

    ……………………

    アルターエゴ『……返事はない』

    日向「っ!とにかくそっちだな!」

    アルターエゴ『とりあえず、日向は声の方向に進んだ』

    日向(なんだこの道……ドラえもんで見たタイムマシンの道みたいに、グニャグニャしてる…)

    アルターエゴ『不思議な感覚を味わいながら先に進んでいくと、やがて何か巨大なカプセルのようなモノが見えてきた』

    日向(これは…?)

    …来てくれたんだ…嬉しいよ……

    日向「!」

    日向「お、お前は誰だ!その中に居るのか?」

    うん………僕は……この中に居る……

    日向「出てこいよ!そして、ここがどこなのか教えてくれ!」

    ここはここさ……他の何でもない……そして僕は……ある事情でここから出られないんだ…… 

    日向「出られない…?」

    うん……出るためには…希望の力が必要なんだ……

    日向「希望…?」

    そう………まだ見つかってないけれど、もうすぐ見つかる予感がするんだ……

    日向「………」

    ……希望が来れば、僕は……ここから出られるんだ……

    …………おっと…もう、君をここに居られるだけの魔力は使い切ったみたいだ……

    日向「! ちょっとまってくれ!俺は帰れるのか!?」

    もちろん…。……ただ、また来てもらうよ……

    日向「!」

    アルターエゴ『そこで、視界が暗転した』


    ━━━━━━━━━━


    【???】

    日向「いてて………」

    アルターエゴ『目を覚ました日向を出迎えたのは、見知らぬ天井だった』

    日向(結局ここはどこなんだ……。! そうだ!左右田達は!)ガバッ

    アルターエゴ『身体を起こそうとする…が』

    日向(な、なんだこれ!鎖!?)

    松田「目覚めたか予備アホ毛」

    日向(予備アホ毛!?)

    江ノ島「うぷぷ……」

    日向(あれ?この子は確か……写真で見た…)

    松田「じゃあ、さっさと終わらせるぞ」

    松田「………カムクライズルプロジェクトをな」
  86. 86 : : 2014/04/04(金) 12:15:03




    日向「はっ?終わらせるってなんだよ!」

    江ノ島「アンタは知らなくて良いの」

    日向「くそ!!」ジタバタ

    アルターエゴ『日向は、ここぞとばかりにもがく……が、いくら暴れようと鎖は外れることはなく、ただ身体に…肉に鎖が食い込む痛みだけが自身に伝わるだけだった』

    江ノ島「あー、無駄無駄アンタの力じゃ解けないから…」

    日向「…“英雄”……お前何を企んでいるんだ…」

    江ノ島「別にぃなんで言わなくちゃいけないの?それよりさ…これから自分がどうなるか気にならない?」

    日向「………」

    一番気になることが、それのため俺は何とも言い返せなかった

    江ノ島「沈黙は肯定ととるよ」

    俺の心情を察知…はたまた計算したのか江ノ島はこう続ける

    江ノ島「んまあ、簡単に言えば改造」

    日向「!!」タラリ

    背中に寒気が走る。

    焦りと緊張からか、冷や汗が止まらない…

    日向「改造…?」

    江ノ島「あっ、どんな風にかと言うと、アンタの髪が伸びて眼が赤くなるね。」

    日向「……え?」

    日向(……カムクライズルプロジェクト、チョロくね?)


    アルターエゴ『無事に帰れる……そんな希望を持ったその瞬間』

    松田「おいブス…」

    アルターエゴ『隣にいた男が怪訝そうな顔を浮かべ口を開く』

    松田「本当のことを伝えろよ…」

    日向「本当のこと?それってどういう…」

    江ノ島「本当のことは言いました。ただ伝えてないことがあるだけです」メガネ

    日向「なっ?!……伝えてないことってなんだよ…」

    江ノ島「貴方を殺します」

    日向「!?」

    バタバタ

    江ノ島「暴れても変わりません。もう準備は整っているのです。」

    日向「ふざけんな!!なんで、なんで俺なんだよ!!」

    日向「俺が何かしたのか?それとも俺が何か特別な存在だったのか?!」

    江ノ島「………」

    松田「………」

    日向「答えろよ!!!」

    アルターエゴ『そんな風にただただ、己の疑問を叫ぶ日向に向かって、江ノ島はツマラナそうに口を開く』

    江ノ島「…命乞いしないその度胸に免じて教えてやるよ」

    日向「……ゴクリッ」


    アルターエゴ『どんなことを言われても大丈夫なよう覚悟を決めた日向。……だが江ノ島の口から出たのは、常識と予想を遥かに逸した言葉だった』


    江ノ島「……なんとなく」


    アルターエゴ『なんとなく………つまり理由なんて無いと』


    日向「なんとなく…?」

    江ノ島「そう、なんとなく。そこら辺に居たから適当に連れてきた、以上。」

    日向「ふ、ふざけるなよ…!!!」

    江ノ島「はいはい、おふざけが過ぎたね。アンタの怒鳴り声聞くの飽きたし、松田くん。もう始めようよ」

    松田「……ああ」スッ

    日向「や、やめろ!!」

    松田「諦めろ…だが、一つ教えといてやる…お前は死なない。死ぬのはお前自身だ…」ボソッ

    日向「言ってる意味が分からないぞ!!」

    松田「用は、創り変わるんだ……まあ、分からなくていい…結局何も変わらないからな…」

    日向「何も変わらないってなんだよ!!」


    アルターエゴ『そんな日向をよそに江ノ島は詠唱を唱える…そして』



    江ノ島「それではこれより……」


    アルターエゴ『英雄は高らかに宣言する』


    江ノ島「カムクライズルプロジェクトをーー」


    日向「やめろ…」


    アルターエゴ『カムクライズルプロジェクトを…』


    江ノ島「開始する!!」


    日向「やめろォおおおおおおおおおおおお」




    アルターエゴ『……日向創を殺す…計画を』








    ──ブツンッ




  87. 87 : : 2014/04/04(金) 14:18:02
    アルターエゴ『………所かわって、こちらは希望とは対になる絶望の国』

    【絶望の国】

    アルターエゴ『絶望の国は最悪な絶望に満ち溢れており、いつ何時も絶望的な人間を歓迎する好戦的な無法地帯』

    アルターエゴ『……というのは、希望の国から見たイメージ』

    アルターエゴ『さて、本当は………?』


    【絶望の国:国立絶望ヶ峰学園】

    霧切(……ここは選ばれた才能を持つ人材のみが入ることを許される絶望ヶ峰学園)

    霧切(私はここで、戦争に行かされる兵士として教育を受けている)

    霧切(希望の国の“英雄”のせいで現状不利なこちらとしては、すぐにでも戦力を整えたいはず…)

    霧切(なのに、どうしていつも通りの授業なのかしら?)

    霧切(奥の手がある?…いや、それならとっくに使ってる)

    霧切(国民も普通に生活している)

    ソニア「霧切さん?顔色が悪いですよ?」

    霧切「…あら、ソニアさん」

    ソニア「授業もとっくに終わっているのに、帰らないんですか?」

    霧切「……ぼーっとしてたわ。すぐに帰る支度をしないと」

    ソニア「それなら、私待ってますわ!」

    霧切「ありがとう…でも、田中くんは?」

    ソニア「まあ!霧切さんたらそんな…私達まだそんなんじゃ…///」

    霧切(まだ…なのね)

    ソニア「田中さんは今日も最前線です!…“英雄”と戦った中で唯一の生存者ですから!」

    霧切「そう」

    アルターエゴ『霧切はさっさと持ち物を鞄にしまうと、ソニアと一緒に教室を出た』

    コツ…コツ…

    アルターエゴ『2人の歩く音だけが、廊下に反響する』

    アルターエゴ『周りも暗く、どうやら、かなり長い間ぼーっとしてたらしい』

    霧切(夜は危険だってわかっているのに…)

    アルターエゴ『チラりとソニアの方を見る』

    霧切(私を心配して待っていた…ということね)

    ソニア「……霧切さん、知ってますか?」

    霧切「何かしら」

    ソニア「近いうち、私達が戦争に行かされると」

    アルターエゴ『ここで、ソニアの手が震えていることに気づく』

    霧切「……ええ、知ってるわ」

    ソニア「田中さんの近くに居られる…というのは、とても嬉しいです…でも」

    ポロ………ポロ………

    ソニア「………私…とっても怖い……」

    霧切「…ソニアさん……」

    ソニア「………ごめんなさい…ただ、死にたくないんです……」

    霧切(絶望の国……私は気がついたらここに居て、ここで生活をしていた)

    霧切(でも…誰も絶望してるようには見えない。むしろ人間らしい…少しの希望があるようにすら見える)

    霧切(………まだなんともわからないわね)

    アルターエゴ『その日は、襲われることもなく無地に帰宅した』
  88. 88 : : 2014/04/05(土) 01:09:53




    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『「その日は無事帰宅した。つまり帰宅までは無事だった……裏を返せば…」』



    【寄宿舎】

    霧切「……本当に改めて見ると殺風景な部屋ね…」

    アルターエゴ『霧切の部屋は必要最低限なものが揃ったような部屋で、ベッドにタンス、机、備え付けのシャワールーム。』

    霧切「娯楽が本しかないと言うのも、悲しいのかしら?」

    アルターエゴ『自問。何故かこう言えば誰かが何か答えてくれたような気もするが…もう、分からない。何故なら過去の記憶が曖昧だから』

    ガタガタッ

    霧切「!……」

    アルターエゴ『風の影響で窓が揺れる。』

    霧切「はぁ…最近…物騒になってきたわね。気をはりつめ過ぎてしまうわ…」スッ

    アルターエゴ『霧切が自身の部屋の、カーテンに手を掛けた瞬間──!!』

    パリーーン!!!

    アルターエゴ『──廊下で突如窓の割れる音が響き渡る!!』

    霧切「…今の音は?」

    アルターエゴ『またもや、自問。だが声は返ってきた、だがそれは返事などではなく…』

    ゴスッ!!

    「ぐはァっ!」

    「ぐはァっ!」

    アルターエゴ『ゴスッという鈍い音と男の悲痛の声』

    霧切「この声は!斑井……なんとか式君だわ!」ダッ

    バンッ

    アルターエゴ『霧切は、ドアを蹴破るようにして部屋を飛び出した。そこには…』

    斑井「う…うう」

    斑井「う…うう」

    アルターエゴ『二人の斑井が!!』

    霧切(なんてシュールな光景…)



    霧切「斑井○式君…大丈夫?」

    斑井「この状況でその冷静さは評価するけどよ、○式ってなんだよ…」

    霧切「あら、だって見分けがつかないもの、しょうがないわ」

    斑井「…とりあえず、危機は去ったみたいだが…」

    霧切「……誰か他に居たのかしら?」

    斑井「ああ…黒髪で長髪の男にやられた…」

    霧切「……それ貴方達の兄弟でしょ」ハァ

    斑井「ちげぇよ!」


    霧切「とりあえず、そこでゆっくりしてなさい。すぐに彼女を呼ぶから…」

    アルターエゴ『口では軽口を、顔には微笑を浮かべる。だが霧切は冷静がゆえにことの重大さを理解していた』

    霧切(斑井君達を一瞬で倒すような人がこの国に侵入しているなんて、そしてどこにいるのか分からない状況……笑えないわね)スタスタ

    霧切(危険…とは言わないけど、危機的ね。斑井君は死んではいない。つまり殺す気は無いと考えるのが妥当よね…)スタスタ

    アルターエゴ『霧切は物事を冷静に推理しながら早足で歩く…向かう先は──』




  89. 89 : : 2014/04/05(土) 16:08:23
    バタン!

    アルターエゴ『外!!』

    霧切「…あなたね。家に斑井くんを投げ込んだのは」

    「………」

    霧切「あなたの目的は私でしょう?一体何の用かしら」

    「…………学園ランキング…2位……霧切響子……」

    霧切「………!」

    「あなたなら………満足出来そうだ」

    霧切「…………やっぱり。平和なとこなんてありゃしないわね」

    アルターエゴ『霧切は手袋を外し、別の手袋を装着』

    霧切「私も疲れてるの。すぐに終わらせるわよ」

    「…………」

    アルターエゴ『夜の闇にほとんど紛れている長髪。紅く輝く瞳。…第一印象は、不気味の一言だ。ただでさえ視界が悪い。一瞬たりとも目が離せない緊張感!』

    霧切(いくわっ!)

    アルターエゴ『霧切が、胸の前で、両手を使って弧を色々な角度で素早く、何度も描く。すると、光球が生み出された』

    霧切「まずはその姿をよく見せなさい!」

    バッ!

    アルターエゴ『そしてその光球を、空を打ち上げる!』

    カッ────!!

    アルターエゴ『光球がはじけ、辺りが昼間と変わらぬ明るさになった』

    霧切(これで気づいた人が集まる。それに、視界も良くなった)

    アルターエゴ『改めて、敵を見る』

    霧切(………やはり不気味な相手)

    霧切(それにしても、まったく隙だらけね。さっきも魔法を唱え終わるまで待っていた)

    霧切(…試されている?なんにせよ、油断は禁物だわ。斑井くん達が勝てなかったレベルの相手!)

    「…それで終わりですか?」

    霧切「終わりなら、どうするの?」

    「……あなたも期待を裏切るのですね…」

    霧切「夜中レディーの家のインターホンを盛大に鳴らしていたから、こうして対応してあげたら期待を裏切るのですねだなんて、一体何が目当てなのかしらね」

    「………冗談も、ツマラナイ…」

    霧切「」ムッ

    アルターエゴ(あ、本当にムッとした)
  90. 90 : : 2014/04/05(土) 20:21:20



    霧切「………」ギリッ

    アルターエゴ『霧切はその男を強く睨み付ける…いつどんな攻撃が来ても良いように…一瞬足りたも油断せず。だか、そんな霧切に向けられるのは拳や蹴りでも、魔法でもなく』

    「……………貴女はツマラナイ」

    アルターエゴ『ツマラナイ…という言葉だった』

    霧切「あら?何がつまらないのかしら?まだ私…本気だしてないわよ」

    「どうやらそうみたいですね…。だけど、いくら表情を隠そうが目を見れば分かる。君は僕に恐れをなしている…」

    霧切「ふぅーん…そう」

    アルターエゴ『素っ気なさそうに答える霧切だが、図星だった。未知の敵という恐怖とともに、「この男はヤバイ」と本能がそう訴えてくるから…』

    アルターエゴ『……そしてこの男と目があった瞬間から自分自身に死神の足音を聞いてしまったから…』


    霧切(一瞬も気は抜けない…一瞬でも抜いたら……死ぬ!!)

    アルターエゴ『凄まじい速度で詠唱を唱える霧切。それに対する男の反応は…』

    「………そんなツマラナイ貴女に朗報です…」

    アルターエゴ『自身に向けて魔法が唱えられているのに、その相手に向けて「朗報」と言った』

    霧切「…?」

    ガヤガヤ…

    アルターエゴ『いつの間にか周りには人だかりが出来ていた…』

    「そろそろ僕はここを去らないといけない…」スッ

    アルターエゴ『今にもその場から跳躍しようとする彼に向けて霧切は問う』

    霧切「待ちなさい!貴方は何者なの?!」


    「別に僕が誰であろうと関係ないでしょう…ただ言うなれば……………」





    「…………………火種…」


    シュンッ!!


    アルターエゴ『その一言とともにその男は霧切の目の前から姿を消した…』

    霧切「……火種…?」ダラッ

    アルターエゴ『極度の緊張状態から解けたためか、噴き出すように汗が流れ、頬をつたる…』

    霧切(威圧感だけで…ここまでなんて……)



    ソニア「霧切さん!」タッタッタ

    アルターエゴ『人混みを掻き分け、ソニアが霧切に駆け寄る』

    ソニア「大丈夫でしたか!?何があったのですか!?お怪我はありませんか!?」

    霧切「え、ええ…」

    アルターエゴ『対面していた自分よりも遥かに冷静さを欠くソニアを見て、逆に落ち着く霧切。』

    霧切「見ての通り怪我はないわ。何があったのかは、…後にでも皆の前で話すわ」

    ソニア「そうですか…とりあえず怪我がなくて良かったです!!」

    霧切「ええ、ありがとう。」シュルッ

    アルターエゴ『霧切は流れるような手際で手袋を取り替える。それはまるで、その手袋の下を見せないようにするかのようだ。』


    霧切「とりあえず、明日も早いし…もう戻りましょう。」

    ソニア「そ、そうですね」

    霧切「…あっ」

    ソニア「どうかなさいました?」

    霧切「忘れていたわ…」

    ソニア「何を…でしょうか?」

    霧切(…………)ギリッ

    アルターエゴ『何故忘れていたのか…それすら不思議だった…まるでそれが当然のように……呼吸をするように…忘れていた………』

    アルターエゴ『だが、それは安堵ともに……正確には部屋に戻る…戻れるという安心とともに思い出された』








    霧切「…斑井君のこと忘れてたわ」




  91. 91 : : 2014/04/05(土) 21:52:36
    アルターエゴ『翌日、国の兵士達がやっとこさ重い腰を上げて捜査したが、あの男の情報は一切掴めなかった』

    辺古山「……だめだな。痕跡を完璧に消している」

    霧切「兵士長であるあなたがそこまで言うのなら、相当な相手なんでしょうね」

    辺古山「そうだな。こんなことは例に見ない」

    ソニア「…………それにしても、やはり物騒ですね」

    辺古山「あぁ。戸締まりなんかしてもしなくても同じだ。とにかく己の身を守るなら、強くなることだな」

    アルターエゴ『言い終わると、辺古山は軽く近辺を見渡してから城に戻っていった』

    ソニア「城……といえば、この国の王を見たことがないですわ」

    霧切「…確かにそうね。話には聞くけれど、実際に見たことはない」

    霧切「…………そういえば、学校は?」

    ソニア「あっ」


    ━━━━━━━━━━


    キーンコーンカーンコーン

    霧切「………ふぅ、今日もやっと終わりね」
    ソニア「霧切さん!」ダッ

    霧切「ソニアさん?あなたが慌てるなんて珍しいわ」

    ソニア「罪木さんが…!」

    霧切「え…!」

    霧切(罪木蜜柑…昨日は斑井くんのことを彼女に任せた。まさか彼女の身に何かが!)

    ソニア「また転びました!」

    霧切「」

    ソニア「手伝ってください!保健室です!」

    霧切(か、彼女はほんとに…)


    ━━━━━━━━━━


    【保健室】

    霧切「罪木さん!」

    ガラッ!

    罪木「ふゅぅ~!助けてくださいぃ!」

    ソニア「きゃっ!おパンツが!」

    罪木「見ないでくださいぃ~!」

    斑井「」

    霧切「ま、斑井くんもどうしていいかわからない感じね…」

    アルターエゴ『ものすごい転び方をした罪木を、なんとか起こした』

    罪木「すみません…」

    霧切「斑井くん達の様子はどう?」

    罪木「はい!今は良好ですぅ。傷から魔法の属性も把握できました」

    ソニア「まぁ!」

    罪木「………相手、一人だったんですよねぇ」

    霧切「ええ。確かに一人だったわ」

    罪木「でも…ほぼ全属性の魔法を受けてますよぉ?」

    ソニア・霧切「!」

    斑井a「……俺達には、何が起きたのかわからなかった…」

    斑井b「気がついたら…やられていた…」

    霧切(aとb…切ないわね)アルターエゴ『翌日、国の兵士達がやっとこさ重い腰を上げて捜査したが、あの男の情報は一切掴めなかった』

    辺古山「……だめだな。痕跡を完璧に消している」

    霧切「兵士長であるあなたがそこまで言うのなら、相当な相手なんでしょうね」

    辺古山「そうだな。こんなことは例に見ない」

    ソニア「…………それにしても、やはり物騒ですね」

    辺古山「あぁ。戸締まりなんかしてもしなくても同じだ。とにかく己の身を守るなら、強くなることだな」

    アルターエゴ『言い終わると、辺古山は軽く近辺を見渡してから城に戻っていった』

    ソニア「城……といえば、この国の王を見たことがないですわ」

    霧切「…確かにそうね。話には聞くけれど、実際に見たことはない」

    霧切「…………そういえば、学校は?」

    ソニア「あっ」


    ━━━━━━━━━━


    キーンコーンカーンコーン

    霧切「………ふぅ、今日もやっと終わりね」
    ソニア「霧切さん!」ダッ

    霧切「ソニアさん?あなたが慌てるなんて珍しいわ」

    ソニア「罪木さんが…!」

    霧切「え…!」

    霧切(罪木蜜柑…昨日は斑井くんのことを彼女に任せた。まさか彼女の身に何かが!)

    ソニア「また転びました!」

    霧切「」

    ソニア「手伝ってください!保健室です!」

    霧切(か、彼女はほんとに…)


    ━━━━━━━━━━


    【保健室】

    霧切「罪木さん!」

    ガラッ!

    罪木「ふゅぅ~!助けてくださいぃ!」

    ソニア「きゃっ!おパンツが!」

    罪木「見ないでくださいぃ~!」

    斑井「」

    霧切「ま、斑井くんもどうしていいかわからない感じね…」

    アルターエゴ『ものすごい転び方をした罪木を、なんとか起こした』

    罪木「すみません…」

    霧切「斑井くん達の様子はどう?」

    罪木「はい!今は良好ですぅ。傷から魔法の属性も把握できました」

    ソニア「まぁ!」

    罪木「………相手、一人だったんですよねぇ」

    霧切「ええ。確かに一人だったわ」

    罪木「でも…ほぼ全属性の魔法を受けてますよぉ?」

    ソニア・霧切「!」

    斑井a「……俺達には、何が起きたのかわからなかった…」

    斑井b「気がついたら…やられていた…」

    霧切(aとb…切ないわね)
  92. 92 : : 2014/04/05(土) 22:12:16
    あ、同じ奴二つ投稿してますね(
    ミスです
  93. 93 : : 2014/04/06(日) 16:27:36



    霧切(…恐らく斑井君達を襲ったのは希望の国の者のはずだわ)

    『火種』

    霧切(でと、何故だかこの言葉が引っ掛かるわ……そして、私は何か大きな勘違いをしている。そんな気が………)


    『ピンポンパンポーーン』


    アルターエゴ『その時…霧切の思考を制止させるように、国中至る所に配置されているスピーカーから音が響く』

    『あー!あー!マイクテスト!マイクテスト!国内放送』

    霧切「この声は…」

    『皆さん…毎度お馴染みこの国の王の代弁者モノクマだよ』


    アルターエゴ『確かに彼女たちは王の姿を見たことも声を聞いたこともない。だが、王の代弁者の声には嫌というほど聞き覚えがあった』


    モノクマ『絶望ヶ峰学園の生徒たちに告ぐ。オマエラには…一週間後戦争に行って貰います!!』


    霧切「!!」

    ソニア「え!?」

    罪木「ふぇ!?」

    斑井ab「…!」


    モノクマ『理由は簡単。先の調査により、希望の国である彼らは僕たちの国に刺客を送り込んだみたいなんだ。』

    モノクマ『なんか、髪が黒くて赤眼の少年なんだけどさ。勿論僕が頑張って追い出したよ。大事なオマエラの為だからね』エッヘン

    霧切(ただの代弁者があれほどの強者を追い返せるのかしら…)

    モノクマ『か、勝手に出ていったんじゃないんだからね。勘違いしないでよね!』

    霧切(………)

    モノクマ『と、言うわけで。オマエラ一週間後に向けて腕を磨けよ……死なないようにね!』

    モノクマ『オマエラが死んじゃったら……悲しくて、ボクは…ボクは………中綿が飛び出ちゃうーー!!』


    ──プツンッ!


    アルターエゴ『その言葉と共に国内放送は終わりを告げた』


    ソニア「そんな…」ペタンッ

    罪木「ふぇぇ~ん!」ヘタッ

    アルターエゴ『あまりにも急すぎる出兵宣言。それは学生である彼女らには酷すぎるものだった』

    霧切「………」

    斑井ab「………」

    アルターエゴ『表情には出さないが、動揺してないものなど一人もいない。いるはずがない。』

    霧切「………とりあえず、皆を集めないと…」


    アルターエゴ『霧切は通信魔法を唱える。それも、かなり広域の範囲。そして対象のものにしか聞こえない高度な魔法だ』


    霧切『今すぐ教室に集まりましょう。今の現状とこれからのことを確認するために…』


    霧切「……さっ、皆行きましょう…」

    アルターエゴ『不安な気持ちを抱かせないよう気丈に振る舞いながら、霧切はソニアと罪木に声を掛ける』


    ソニア「………でも…」

    罪木「む、むりですぅ!怖いですぅ!」


    アルターエゴ『よく見ると彼女らの肩は微かに震え、目には今にも溢れそうなほど、雫が溜まっていた』

    霧切「私たちは…逃げられないのよ。」

    ソニア「わかってます…でも…でも」


    霧切「………それに危険を避けては前に進めないわ。」


    ソニア「!!」

    罪木「!!」

    霧切「希望は…前に進むのよ…。諦めちゃダメ」

    霧切「…怖いなら、こんなこと二度と起こらないように。あとの人たちにこんな思いをさせないように。………私たちが終わらせないと」

    アルターエゴ『普段の霧切ならまず言わないセリフ…だがその言葉は、彼女らの心を大きく動かした』


    ソニア「……わかりました。まだ怖いですけど…私逃げません!」

    罪木「わ、私も……皆さんと一緒に頑張りますぅ!」


    霧切「そう…よかったわ。さあ行きましょう」

    ソニア「はい!」

    罪木「はぃぃ!」

    斑井「「おう」」


    アルターエゴ『こうして、彼女らは教室に向かった』




  94. 94 : : 2014/04/06(日) 16:28:21
    でと→でも
    です!
  95. 95 : : 2014/04/07(月) 19:36:11
    【教室】

    アルターエゴ『学生にとっては貴重な放課後とはいえ、一大事である。呼ばれた全員が霧切の通信魔法によって集まった』

    斑井「とりあえず、連絡の取れない一式以外は全員集めた」

    霧切(やはりこうしてみると不気味…でも心強いわ)

    終里「…で、ここに居る奴らはつえーのか」

    霧切「私が知る限り、最強のメンツよ」

    九頭龍「…状況が状況だ。協力は惜しまねぇ」

    辺古山「ぼっちゃん同様、兵士を代表して協力は惜しまないつもりだ」

    九頭龍「…ペコもいつまで俺をぼっちゃん扱いするんだよ。お前は立派な兵士長になったんだから、国民としての階級は俺より上だ」

    辺古山「しかし、まだ恩は返せていません」

    九頭龍「………けっ」

    霧切「……由緒ある九頭龍家の跡取りと、兵士長の協力は本当にありがたいわ」

    ジェノ「…………」

    罪木「こ、この縛られてるのは誰ですかぁ…?」

    ジェノ「…」ギロッ

    罪木「ひいいぃ!すみませぇん!」ブワッ

    霧切「……そうね、裏の世界の人間…とだけ言っておくわ。実力は保証する」

    澪田「きゃっほー!唯吹が来たからにはアゲアゲで行くっすよー!↑」

    ソニア「み、澪田さん…浮いてるような」

    霧切(しかし…彼女は強い。特に彼女の魔法は戦場で大いに役立つはず)

    山田「ふむ……確かに全員戦闘力がすこぶる高い」

    霧切(兵士の山田一二三……数々の戦争を見てきた『全ての始まりにして終わりなる者』…)

    ソニア「田中さんは今も最前線ですね」

    霧切「そうね……。(しかし、彼が居ながらもあの男は国境を通ってここまで来た……)」

    霧切(……田中くん、通信魔法にも反応がないけれど、無事かしら…)

    弐大「応ッ。田中なら無事じゃい」

    霧切「っ! 弐大くん!」

    弐大「ワシも今丁度最前線から戻ってきたところじゃが、田中は無事じゃ。…とはいえ、あそこは忙しい。ワシもようやく戻って来れた」

    霧切(同じクラスで一緒に授業を受けながらも、常に最前線で戦っている田中くんと弐大くん…。頼もしいクラスメイトを持ったわ)
    大和田「………けどよ、戦争じゃあ俺らバラバラになっちまうんじゃねぇか?」

    霧切「…いえ、意図的にバラバラになればいいのよ」

    大和田「?」

    霧切「敵の主戦力にピンポイントでバラケる。複数vs1の状況を常に作って、有利に進めればいい」

    ソニア「…それでは、主戦力がわかるまでは……」

    霧切「……ふふ、そのために 神代「僕を呼んだんだよね?」

    みんな「!!」

    辺古山(バカな…私が気づかなかった!?)

    弐大(完璧に気配を消していた!)

    終里(へぇ、やるじゃん)

    神代「あー。実は前日から僕は依頼を受けててね、ちょっと敵の国まで調査に行ってたんだ」

    アルターエゴ『神代はどこかから大きな紙を取り出すと、それを広げ始めた』

    神代「…ほら、ここに載ってる奴らだよ」

    霧切「…“英雄”とその側近松田夜助……」

    辺古山「…有名な組み合わせだな。今回も脅威になるだろう」

    神代「そして、それに近い戦闘力を持つ学生が4人…」

    弐大「………」

    罪木「うゆぅ……そんな強い相手なんですねぇ」

    神代「あの国は毎年こうやって、学生を必ず送りこんでくるからね。ただ、今年は前例がないくらい強力だ」

    神代「………そして、それをまとめる先生役」

    霧切「!」

    ガタッ!

    ソニア「…………霧切さん……?」

    霧切「……………」

    大和田「どうした…顔色が悪ぃみてぇだが」

    霧切「………何でもないわ。続けて」

    神代「そして、例の長髪の男だよ」

    斑井「………」

    神代「うん、だいたいこれくらいかな。それじゃあ誰が誰を担当するか、決めようか」

    霧切「……待って」

    神代「?」

    霧切「まだ…来ていない人がいる」

    ヒュゥウウウウウ……

    アルターエゴ『…風を斬る音が、真っ直ぐ教室に向かっていることに気づく』

    バリィィイン!

    みんな「!?」

    アルターエゴ『そして、それは窓を破り、ダイナミックに教室に飛び込んだ!』

    「………いたた…。あ、皆さん本当すみません!」

    アルターエゴ『その人物は、ほこりを払うと、全員に向かってお辞儀をした』

    霧切「……来てくれたのね。お姉様」

    五月雨「………うん!君に呼ばれたらすぐにでも駆けつけるさ!」

    アルターエゴ(……ってあれ、こんな子データにない…)


    ━━━━━━━━━━


    【舞台裏】

    江ノ島「ふーん。イレギュラーにはイレギュラー…ね」

    江ノ島「面白くなってきたじゃない!あの霧切がまさかこんなサプライズをしてくれるなんて絶望的ぃ!」
  96. 96 : : 2014/04/08(火) 11:06:05


    苗木「絶望的って言うか収集がつかなくなっちゃう気が…」

    江ノ島「まあ大丈夫大丈夫、私様がなんとかするってば」

    狛枝「は?全ての元凶が何を言ってるのかな?」

    江ノ島「きゃー松田くぅーん、狛枝先輩がぁ…怖ぁい」ダキッ

    松田「ッ!!…離れろブス!怖いのはお前の七変化だ!!」ゲシッ


    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『窓を蹴破り教室は飛び込んだ彼女への反応は…』


    ソニア「わぁお!ジャパニーズ忍者ですね!」

    五月雨「あはは…忍者じゃないよ。私の名前は五月雨 結……探偵さ!」キリッ

    霧切「今回は、いえ普段から結お姉さまの推理力には期待してないわ…」

    五月雨「酷い言われようだなぁ」

    終里「ん?おめぇ強いのか?バトルしようぜ?」

    罪木「わわっ、ケンカはだめですぅ!

    辺古山「そうだ。今ここで争っている場合ではない」


    アルターエゴ『そんな会話を舐め回すように見る人物が一人いた…』


    神代「ああ、おっぱいが…いっぱい…」

    九頭竜「あぁん?テメェ…ペコに手でも出してみろ、指一本たりとも残さないからな!!」

    神代「その所有物みたいな発言…はぁ辺古山さんのバージンは…もうないんだね」

    九頭竜「テメェ!!殺す!ぶっ殺す!!」

    弐大「お前さん達!!いい加減にせんか!!」

    山田「………やっぱ三次元はクソですぞ…」

    大和田「チッ、これからどうなんだよ…」


    ガラガラ


    アルターエゴ『そんなとき突如教室のドアが開かれる……そして』


    「んあ?おめぇらここで何してんだべ?」


    アルターエゴ『収集がつかないこの教室に、あらたに気の抜けた声が加わる』


    霧切「葉隠……先生」

    葉隠「なんだべ、その若干先生って認めねぇぞ!みたいな間は…」

    霧切「…そのままの意味よ」

    皆「「うんうん」」

    葉隠「酷いべ!それでも生徒だべか?!」

    斑井「怪しげな壺を生徒押し売りするやつを教師とは言わねぇよ」

    葉隠「あ、あれは本物なんだべ!!」

    大和田「ろくに指導してこなかったくせに、こんなときだけ一丁前に先生面すんじゃねぇよ」

    葉隠「自習時間はもうけてたべ!!」

    澪田「自習だけで、グンッと強くなれたら苦労しねぇっす!」

    葉隠「そ、そうだけどよお…」


    霧切「とりあえず、彼は放っておいて、これからのことを考えましょう」

    斑井「これから…つまり、戦争までの一週間ってことだよな」

    霧切「ええ、その通りよ」

    葉隠「実はよ…そのことなんだが、良い考えがあるべ…」

    霧切「…良い考えって何かしら?」



  97. 97 : : 2014/04/08(火) 18:55:28
    葉隠「俺が占うんたべ!」バッ!

    アルターエゴ『懐から水晶玉を取り出した葉隠』

    葉隠「任せろ!これが一番確実で安心な方法なんだべ!」

    大和田「お前の占いはろくなことないんだからやめろ!」

    葉隠「先生に向かってお前とはなんだべ!」

    霧切「………まぁ、今はそんなことより作戦を練るわよ」

    葉隠「そ、そんなこと!?」ガーン

    霧切「敵の主戦力を、細かくグループに分けて潰しに行くわ」

    神代「“英雄”は僕が行くよ。ラッキースケベもありそうだし」

    終里「俺も行くぜ。“英雄”みたいなつえー奴と戦わなきゃ意味がねぇ!」

    霧切「…それなら“英雄”は2人に任せるわ」

    神代「よろしくね。おっぱい触らせてくれたら僕がんばっちゃう」

    終里「おうっ!触れ!」

    葉隠「そ、それは違うぞ!」

    弐大「なら…松田にはワシが行こう」

    大和田「松田か…確かにむかつく顔してやがる」

    霧切(松田くんにも2人…)

    斑井「長髪の男は俺達にやらせてくれ。借りを返す」

    霧切(長髪の男に7人…)

    霧切「この教師の男には、私とお姉様でいくわ」

    五月雨「久しぶりのタッグだね!がんばるよ!」

    山田「ふむ…このゴスロリ服の少女には僕がつきましょう。ね、先生!」

    葉隠「お、俺!?」

    ソニア「私は田中さんと、このアホ毛の子につきます」

    九頭龍「俺とペコは眼鏡につくか」

    辺古山「はい、坊ちゃん」

    罪木「えっと…私は青髪の子ですかぁ?」

    澪田「おーっと!唯吹もいるっすよ♪」

    罪木「はい!よろしくお願いします!」


    ───《まとめ》───


    アホ毛の子vsソニア&田中

    眼鏡vs九頭龍&辺古山

    ゴスロリvs山田&葉隠

    青髪の子vs罪木&澪田

    “英雄”vs神代&終里

    松田vs弐大&大和田

    教師の男vs霧切&五月雨

    長髪の男vs斑井二式~八式


    ───────────


    霧切「…こんな感じね」

    ジェノ「ふごふごふご!」

    みんな(あっ…)

    霧切「ご、ごめんなさい!」

    ベリッ!シュルルル(縄をほどいてガムテープをはがした音)

    ジェノ「シャァァアア!!呼ばれて飛び出てジェノサイダー!!」

    罪木「ひぃぃぃ!」

    ジェノ「んん!なんだこの眼鏡!萌えるじゃねぇか!」

    九頭龍「お、おい!そいつは俺らの!」

    ジェノ「あぁん!?うるせぇたわしヘッド!このイケ様は私のもんだぁぁあ!」

    辺古山「貴様!今坊ちゃんをたわしヘッドと言ったな!」

    九頭龍「ペコ…お前…」

    ジェノ「とにかくこのイケ様はアタシが殺す!誰も文句は言わせない!」

    ジャキン!

    アルターエゴ『自慢のハサミを左右に広げ、辺古山を威嚇する』

    辺古山「くっ……」

    辺古山(ここで揉めるのは得策ではないな……)

    辺古山「わかった。我々は長髪の男につこう」

    九頭龍「……あぁ、それでいい」

    ジェノ「どーも♪」


    ───《変更点》───

    眼鏡vsジェノ

    長髪の男vs斑井二式~八式&辺古山&九頭龍


    ───────────
  98. 98 : : 2014/04/08(火) 21:36:05


    アルターエゴ『それから六日が経った…』


    アルターエゴ『そして場面はまた切り替わり、希望の国へ』


    【希望の国】

    〈朝〉


    苗木「明日僕は戦争に行くのか…なんか実感わかないな…」

    アルターエゴ『明日戦争だというこの状況で、苗木がし
    ていたのは………日向ぼっこだった』



    ~~回想~~

    江ノ島『あんたさ、明日で戦争までの一日は最後なんだから、ゆっくり休みなさい』

    苗木『え!?修業は!?』

    松田『安心しろアホ毛…お前はもう十分に強い。だからさっさと帰れ』シッシッ

    苗木「えぇ…、でも…」

    江ノ島『ああもう、こっちにも準備があるんだからさっさと行けっての!』ゲシッ

    苗木『痛いッ!!…分かったよ、また明後日ね!!』ダッ


    ~~~~



    苗木(最近修業漬けの日々だったし、逆にどう過ごせばいいか分からないや…)

    苗木(七海さんもいないし、あの変な部屋の人も分からないし……)

    苗木(よしっじゃあとりあえず久しぶりに皆の所に行ってみようかな)

    苗木「そうと決まれば善は急げだ!」タッ



    アルターエゴ『苗木はそう言いながら駆け出した』







    ~~~~~~~~~~


    【希望ヶ峰学園】


    苗木「…」スッ


    ガラガラッ!


    アルターエゴ『苗木は勢いよく扉を開く…そこには』


    【教室】


    朝日奈「あ、苗木だ!」

    大神「フッ…久方ぶりだな」

    セレス「あらあら、そんなに慌ててどうかなさいましたか?」

    石丸「苗木君!久し振りではないか!」

    十神「愚民め…騒々しいぞ」


    苗木「皆…久しぶり!」


    アルターエゴ『待っていたかのように、皆揃っていた』


    ─────────


    十神「ところで苗木…」

    アルターエゴ『ある程度近況の報告をし、落ち着いてきた所で十神がそう切り出した』

    苗木「どうしたの?」

    十神「“英雄”との修業は終わったのか?」

    苗木「うん!…なんとかね」

    苗木(追い出されたなんて言えない…ほんと痛いところついてくるよなぁ…)


    セレス「良かったですわ。足を引っ張られたらたまりませんからね」フフッ

    苗木「う、うん!頑張るよ!」

    苗木(大丈夫だよね…僕だって強くなってるはず!)


    朝日奈「…………」

    大神「………」

    石丸「…………」

    苗木「って、三人とも…どうしたの?」

    苗木(普段なら三人とも、こんな会話に入ってくるんだけど…どうしたのかな……)

    十神「察しってやれ…」

    苗木「?」

    セレス「まあ、明日になれば分かるはずですわ」

    苗木「明日?戦争の日に?」

    セレス「ええ…。…全く、いくら修業して強くなろうと、その鈍感さは相変わらずですわね…」

    苗木「え、相変わらずって何!?もしかして僕そんな風な認識なの!?」


    朝日奈「うん!」

    石丸「ああ!」

    大神「そうだな」

    十神「当然だ」

    苗木「酷い!皆は僕を何だと思ってるんだよ!」

    セレス「そうですわね…強いていうなら豚小屋のこy」

    苗木「その認識はあんまりだよ!!!」


    ……………………

    ……………

    ………

  99. 99 : : 2014/04/08(火) 23:01:33
    苗木「うぅん……」

    苗木(夜になったけど、修行してないや……)

    苗木(明日は初めての戦争…僕はしっかり動けるだろうか)

    苗木(みんなの足を引っ張らないようにしないと!)

    アルターエゴ『と、苗木が気張っていると』

    コン…コン…

    苗木「……あれ、こんな時間に…誰が?」

    コン…コン…

    苗木「………?」

    ガチャ

    アルターエゴ『そこに立っていたのは……』

    苗木「……どちら様ですか?」

    「…………カムクラ…イズル…」

    苗木「カムクラ……?」

    カムクラ「そう……。君と明日、戦争で共に戦うと聞いて」

    苗木「あっ!…よろしくお願いします!」

    カムクラ「…………ふむ」

    ジロジロ……

    苗木(…なんだかジロジロ見られてて、いい気持ちがしないなぁ……)

    カムクラ「…………なるほど。特別な魔法ですね。それは血筋ですか?」

    苗木「!? なんでっ!」

    カムクラ「あなたに流れる魔力を“視た”だけです」

    苗木「………!」

    苗木(なんだこの人……)

    カムクラ「あぁ、そう身構えないで。敵意はないですから」

    苗木「………」

    カムクラ「………ふふ。明日、楽しみにしていますよ」

    アルターエゴ『そう言い残して、カムクラは去っていった』

    苗木(……あの人…怖い)

    苗木(……………敵じゃなくてよかった……!)

    苗木(…ともかく、明日の戦争に備えてもう寝よう)

    苗木(……………zzz………)


    ━━━━━━━━━━


    カムクラ「………ナエギマコト……」

    カムクラ(………あの魔力の色は、知らない……)

    カムクラ(………知りたい…彼の魔法の正体を…!)


    ━━━━━━━━━━
  100. 100 : : 2014/04/09(水) 04:38:38
    すみませんこの映画のチケットおいくらですか
  101. 101 : : 2014/04/09(水) 07:31:33
    >>100
    高校生3人で1000円ですが、予備学科は割増です。

    coming soon.
  102. 102 : : 2014/04/09(水) 21:31:44
    >>101
    嘘はダメですよ!(笑)

    >>100
    1000円+税なのでお気をつけ下さい

    かみんぐすーん
  103. 103 : : 2014/04/09(水) 21:32:00


    ……………………

    ……………

    ………

    チュンチュン

    苗木「う…うぅん…」ガバッ

    アルターエゴ『朝。小鳥のさえずりで目を覚ます苗木』

    苗木「ああ…支度を整えないと…」


    ゴソゴソ…


    苗木「よしっ!準備完了!」

    苗木「少し早いけど……まあ、何があるか分からないしもう行こうかな」

    ガチャッ!

    アルターエゴ『そして苗木は身支度を整えると家を出た』


    ~~~~~~~~

    【町】

    苗木「…………凄いや…」

    アルターエゴ『集合場所である城に向かっていた苗木は思わず目の前の景色に立ち往生していた』


    ガヤガヤっ!


    アルターエゴ『城から国の外まで続く赤いカーペット。それに近付けないように張られたバリケードがあり

    アルターエゴ『一面には花や弾幕が飾られ、まるで…いや、今まさに戦争へ向かう苗木たちを祝福しているようだった。』


    苗木「…何て言うか、これは…期待に応えないとな」ダッ


    ~~~~~

    【城】

    苗木「ふう…やっと着いた」

    十神「遅いぞ苗木!」

    苗木「えっ!?僕間に合ってないの!?」

    舞園「いえ、間に合ってますよ。」

    苗木「だよね…」

    十神「愚民が俺より遅れてくるとは何事だ…立場をわきまえろ!」

    苗木「そんなこと…言われたって…」

    セレス「フフ…横暴ですこと…」


    アルターエゴ『理不尽なことを言われ、言葉を詰まらせる苗木に、助け船を出す人物がいた』


    江ノ島「それならさぁ、私様より遅くに来てたアンタらは…皆オシオキで良いんだね?」うぷぷ

    十神「…チッ、それは………」

    苗木「ちょっと待ってよ!城に住んでる江ノ島さんに僕たちが勝てるわけないよ!」

    江ノ島「あっ、こっからは立場上、江ノ島さんダメだから。」

    苗木「えっ、そうなの?」

    セレス「本来“英雄”を名前で呼ぶ行為、しかも様ではなく、さん付けで呼ぶのがおかしいくらいですわ」

    松田「まあ、コイツも曲がりなりにも“英雄”ってことだな…」


    苗木「うわっ!松田くんいつの間に!?」

    松田「アホ毛…お前はいちいちリアクションがオーバーだ」

    苗木「ご、ごめん…」

    江ノ島「あっ、松田くんったらひどーい♪…苗木が落ち込んじゃってるじゃん」

    松田「あん?お前には関係ないだろブスッ!」

    江ノ島「え?アタシブスじゃないよ?」

    松田「悪い、そうだなお前はドブスだもんな」

    江ノ島「…よし、松田。剣を抜け!アンタは私様を怒らした!毎回面白くなさそうな漫画買いやがって!!」シャキンッ!

    松田「チッ、ウォーミングアップには丁度良いな」シャキンッ!

    苗木「ちょ、ちょっと待って!!何戦争前に内輪揉め起こしてるんだよ!やめようよ、ねっ?」


    アルターエゴ『二人の間に入り込み制止を促す苗木。それを見た二人の反応は…』


    江ノ島「…あーあ、なんか興が削がれた…」スッ

    松田「人も揃ったし。そろそろ頃合いだな…」スッ

    苗木「え?」チラッ

    アルターエゴ『辺りを見渡すと、いつの間にか兵士達が集まっていた。』

    苗木「いつの間に…ってあれ?」

    江ノ島「ん?、苗木どったの?」

    苗木「カムクラくんが…居ない…」

    江ノ島「………………誰それ?」

    苗木「いや実は、昨日夜に僕の家に来たんだよね。明日の戦争でヨロシクって…」

    江ノ島「………ふぅーん、そっか………まあ、多分冷やかしみたいなものだと思うから気にしなくて良いと思うよ」

    苗木「う、うん…」

    松田「はぁ…おいアホ毛」

    苗木「な…何?」ビクッ

    松田「いらない所に頭を使うな…死ぬぞ」

    苗木「!!…分かったよ…」

    苗木(…そうだよね、難しいこと考えたって分かんないんだ……それなら今できることを精一杯やらなきゃ…)


    キィイイイイイイイ!!!


    城の門が開かれる…


    ワァーワァー

    キャーキャー


    開きかけの門の向こうからは黄色い声援が僕らに向けて放たれているようだ


    門が開き全体が見える頃には

    「にいちゃん、頑張りぃや!」

    「わー、英雄さん頑張って!!」

    「絶望を滅ぼしてくれー!」

    「勝って!そして生きて帰って来いよ!」


    温かい声援が、僕らに浴びせられた


    苗木「あはは、なんか照れるな」


    そして、僕は兵士たちに着いていく形で一歩踏み出す

    ギュッ…

    カーペットを踏みしめる感触

    「頑張ってー!」

    温かい声援

    視界全体に広がる町の人たち…




    苗木「ん?」

    その視界の端に見覚えのある人物たちと、その声

    「なーえぎーー!!」



  104. 104 : : 2014/04/09(水) 22:10:31
    苗木「! 朝日奈さん!」

    朝日奈「私達の分までがんばって!」

    石丸「僕達の思いを…無駄にしないでくれ!」

    大神「苗木よ、生きて帰ってくるのだぞ!」

    苗木「大神さん…石丸くんも!」

    仁「先生もがんばるぞ!」

    桑田「舞園ちゅわーん!がんばってぇー!」

    舞園「不二咲くん、花村くん、戦刃さん、豚神くん!がんばります!」

    桑田「アポ?」

    苗木(みんなの期待に応えなきゃ!)

    アルターエゴ『決心を固めている苗木。…一方』

    左右田「うぉ…希望ヶ峰の生徒だ」

    西園寺「やだねー!こんな若くして戦争に行くなんて、国も何考えてんだろ!」

    小泉「…それにしても、日向は本当に見あたらないね。今日は会えると思ったのに…」

    左右田「………そうだな。なぁ、もしかしたら、日向の奴戦争に行ってるんじゃないか?」

    西園寺「え!?」

    小泉「…それなら連絡がないのもわかる……」

    西園寺「…も、もしかして……」

    左右田「よし、俺達も行こう」

    西園寺「やっぱりー!!うわぁーん死にたくない!」

    小泉「…左右田がそんなこと言うなんてね。明日はグングニルの雨?」

    左右田「へっ。もちろん足は震えてるぜ」ガタガタガタガタ

    西園寺「行かなくていいじゃん!バカなのはわかってたけど、それすらも越えた超バカなの!?」

    小泉「……でも、あたし、“英雄”の戦いを撮ってみたいかも…」

    西園寺「お母さんがの血がうずいてるよ!」

    左右田「決まりだ!兵士に紛れて行くぞ!」

    西園寺「ちょ、え、………もうっ!!」

    アルターエゴ『先導する2人に、西園寺もしぶしぶついていった…』


    ━━━━━━━━━━

    【道中】

    絶望兵士「キェェエエエ!!」バッ

    苗木「わっ!もう兵士がこんなところに!」

    松田「下がってろ」サッ

    ドンッ!

    絶望兵士「…」ガクッ

    江ノ島「……なるほど。今回はただじゃいかないかも」

    苗木「………え?」

    江ノ島「上、見てみ」チョイチョイ

    苗木「…………?」

    アルターエゴ『苗木達が“英雄”の言葉通り上を見る。すると、そこには……』

    舞園「ま、魔法陣!?とても巨大な!」

    苗木「ら、落下してくる!」

    松田「…………」チッ…

    ドォォォオオオオオン………!!




    アルターエゴ『魔法陣が落ちた場所に…“英雄”達の姿はなくなっていた』

    希望兵士「!?」

    「うぷぷ、気に入ってくれたかな。僕の空間転移魔法♪ま、一部飛ばす場所を変更しちゃったけどね♪」


    ━━━━━━━━━━


    左右田「って!」ドサッ

    西園寺「キャッ!」ドサッ

    小泉「ッ!」ドサッ

    左右田「……なんなんだいきなり…やっぱ戦争なんか来なきゃよかった…」

    アルターエゴ『と、嘆いていると』

    「……何、君たち?」

    左右田「………?」

    神代「おかしいなぁ…ここにはビックボインな“英雄”が来るはずだったんだけど」

    神代「貧乳、まな板、男…。どういうことさ」

    終里「…なんだか弱そうな奴らだな」

    小泉「……いきなり戦闘…!」


    ━━━━━━━━━━

    江ノ島「……どっかで見たような…」

    斑井「“英雄”か?」

    斑井「“英雄”だ」

    斑井「どういうことだ」

    斑井「長髪の男ではないのか」

    斑井「だがこれはこれで好都合」

    斑井「一式のことを知っているかもしれないからな」

    斑井「そしてここで殺す。希望の“英雄”を」

    九頭龍「…おいおい、とんだビックネームだな」

    辺古山「ぼっちゃん…気をつけて!」

  105. 105 : : 2014/04/10(木) 19:40:21


    ーーーーーーーーーー

    松田「ッチ…」

    葉隠「あれ?違うやつだぞ」

    山田「ブ…ブヒィイイイイ!!」

    葉隠「ど、どうしたんだべ?!」

    山田「あ…あれは…」

    アルターエゴ『恐る恐る指を指しながら山田は言う』

    山田「“英雄”の右腕…松田夜助!!」

    松田「喋るな豚…活字で並ぶとややこしいんだよ、養豚場送りにするぞ」シャキンッ!

    山田「やるしか…ありませんな…」


    ーーーーーーーーーー


    仁「…おや」

    大和田「あアん?イケスカねぇギザ野郎が来るかと思ったら教師の方じゃねえか」

    弐大「応!!これは予想外じゃったな」

    仁「ふむ…君たちは見たところ…学生のようだね」

    弐大「そうだが…だから何だと言うんじゃ?」

    仁「今なら見逃してやっても──」

    大和田「ふざけんなよ!!!」

    アルターエゴ『仁の言葉を遮るように大和田が怒鳴る』

    大和田「男が敵に背中見せてたまっかよ!それに、一度先公っつうもんをぶん殴りたかったしなァ」

    仁「…そうかい。残念だよ」スッ

    大和田「はンッ!どっからでもかかってきな!」スッ


    ーーーーーーーーーー


    セレス「あらあら…」

    澪田「あれ?違う女の子っすね」

    罪木「ですぅ!」

    セレス(…なるほど)


    ーーーーーーーーーー


    舞園「……誰ッ!!」

    田中「ふはははは!!!やはり隠れていても俺様の覇気は漏れ出てしまうのか…」

    ソニア「ジャパニーズ封印も無駄無駄無駄なのですね!」

    田中「ああその通りだ…かなり俺様の封印も弱まってきたみたいだしな……だが、その封印のための供物が空から舞い降りた!!」ビシッ!

    舞園「わ、私ですか?」

    田中「そうだ!!封印のための供物は処女の血だ!!」

    舞園「あ、私処女じゃないですよ?」

    田中「!!」

    ソニア「!!」


    ──────────


    【舞台裏】

    苗木「ええ!?」

    桑田「アポぉおおおおおおお!!!」


    ──────────

    【ステージ】


    舞園「ふふ、冗談ですよ」ニコッ

    田中「フッ…俺様を騙すとは、卑しい女狐め!ここで成敗してくれる!!」

    舞園「臨むところです!!」





    ーーーーーーーーーー



    苗木「ってて…ここは…」

    五月雨「あれ?霧切ちゃん。なんかちっちゃい子が来たよ」

    苗木「小さい子って…」

    霧切「結お姉さま…油断しないで、彼も敵の一人よ」

    苗木(あれ…)

    五月雨「そうだね。油断して死んだら笑えないもんね……君を守れなくなるから!」キリッ

    霧切「笑えない冗談は良いわ…結お姉さまはどこぞのナンパ師なのかしら?」

    五月雨「…うん。ごめん」


    苗木「あのさ…」

    霧切「…何かしら?」

    アルターエゴ『苗木は霧切に向けこう言い放つ』

    苗木「僕たちってさ…何処かで会ったことないかな?」

    霧切「無いわ…」

    苗木「…そっか」

    五月雨「どうしよう霧切ちゃん!本物のナンパ師が居たよ!」

    苗木「そ、そんな!僕は別に!」

    霧切「はぁ、…ふざけるのもここで終わりにしましょう」ギロッ

    苗木「ッ!」ビクッ!

    五月雨「まあまあ、そんな怖い顔しないでよ。可愛い顔が台無しだよ」

    五月雨「それにちょっとしたお喋りくらい別に──」

    霧切「私たちはコロシアイをするためにここにいるんでしょう?だったら話すだけ時間の無駄よ。」

    五月雨「…なんか論破されてばっかだな……でもその通りだね…」ググッ

    アルターエゴ『五月雨は脚に力を入れる。いつでも跳び出せるように…』

    五月雨「ねえ君…名前は?」

    苗木「え?あ、えっと…苗木誠です」

    五月雨「あのさ、今なら見逃しても良いんだけど」

    霧切「お姉さま!?」

    五月雨「ごめん、ここは黙ってて…」

    霧切「……」ムスッ

    苗木「なんでそんなこと言うの?」

    五月雨「まあ、色々事情はあるんだけど簡単に言うと君みたいな子供を殺したくないからかな…」

    苗木「…もし、僕が逃げ出したら、その後君たちはどうするの?」

    五月雨「それは…他の人の所へ行くよ。…もちろん殺しにね」

    苗木「………」

    五月雨「どう?悪い話じゃ──」

    苗木「それは違うよ!!僕は闘う…仲間の所には行かせない!!」

    五月雨「そっか…残念だよ」

    霧切「…交渉決裂ね。やっぱり時間の無駄だったわ」

    五月雨「ごめんごめん、そんなムスッとしないで」

    霧切「してないわ…それと」

    苗木「……」スッ

    霧切「どうするの?」

    五月雨「もちろん闘うよ。サポートよろしくね!」

    霧切「ええ!」スッ


    苗木「こい!!」スッ





    ──────────


    アルターエゴ『こうして、各地で闘い……コロシアイの火蓋が切って落とされた…。』



  106. 106 : : 2014/04/10(木) 20:25:37
    ……ただ、一カ所を除いて…。


    十神「………」

    ジェノ「あの…お名前を…」

    十神「………」ギロリ

    ジェノ「キャー!」プシュー

    ドサッ

    十神、人知れずWIN!


    ━━━━━━━━━━


    ガキィン!!

    アルターエゴ『霧切の剣と、苗木の剣が激しく火花を散らす!』

    苗木(……思ったよりも攻撃は軽いが、速い!)

    キィン!キィン!

    霧切「……本来、私達は教師の男と戦う予定だった」

    苗木「……!」

    霧切「あの男とは因縁があるの。必ず決着をつけなければいけない…ね」

    苗木「…それ、今なんの関係があるのさ!」

    キィン!

    霧切「……話したいから、話しただけよっ!」

    苗木「なっ!」

    ドガッ!!

    苗木「ぐっ!」

    アルターエゴ『霧切の剣をはじいたと同時に、わき腹を強い衝撃が襲った。そのまま苗木は吹き飛ばされ、二回バウンドし、勢いを殺しながら起きあがる』

    五月雨「どう?この脚!中々でしょ?」

    霧切「ええ。それだけは自慢できるわ」

    五月雨「だ、だけ!?」

    苗木(………つ、強い…!)


    ━━━━━━━━━━


    セレス(……見たところ、場所はさっきと同じ草原ですわね。離ればなれになってはいますが、そう遠いわけではない…)

    澪田「うーん、イメチェン?」

    罪木「戦争に行くのにイメチェン!大胆すぎますぅ!」

    セレス「………あなた達が、私の相手ですわね」

    澪田「そうっす!澪田唯吹っす!」

    罪木「て、敵に名乗ってどうするんですかぁ!」

    澪田「くぅー!蜜柑ちゃんのナイスツッコミ!効果は抜群だ!これならもっと早くコンビ組めばよかったっすねー!」

    罪木「こ、コンビってなんですかぁ!脱ぎますぅ!」

    澪田「わぁー!ボケは唯吹っすー!負けじと脱ぐっすー!」

    セレス「…………」

    パサッ

    アルターエゴ『セレスがスカートの裾をつまみ上げると、カードがバラバラと地に落ちていく』

    セレス(…………何かされる前に、さっさと倒してしまいましょう)

    セレス「『死を配る者』(デッドエンド・ディーラー)!」

    アルターエゴ『地に落ちたカードが、高速で一斉に澪田と罪木に向かう!』

    ヒュンヒュンヒュンヒュン!!

    澪田「……おっと、もう始まりっすか」

    澪田「『私の歌を聴け』(ソニックブーム)!」

    キィィィイイイイン!!

    セレス「!」

    ………ポトッ

    アルターエゴ『澪田のすぐ近くまで迫っていたカードの束が、再び全て地に落ちた』

    澪田「…ふぅ」

    罪木「…ふゅぅ。始まるんですねぇ…」

    澪田「……そうっすね。それじゃあ、ライブを始めるっすよ!」

    セレス(……そう簡単には行きませんか…!)
  107. 107 : : 2014/04/12(土) 01:23:10



    ーーーーーーーーーー


    田中「悪いが遊びの時間は無しだ!」

    田中「我が血を糧に、我が身を骨に、我が命を契約に!!! 『破壊神の宴』(デビルカーニバル)!!出でよ!!破壊神暗黒四天王!!!」パンッ!

    キュイーーン!!!

    アルターエゴ『事前に書いてあったであろう魔方陣の中心で手を合わせる…すると、魔方陣が輝き出しその四方からは四体の魔物が産み出された』


    ゴゴゴゴゴ!!!!


    舞園「なっ…」


    アルターエゴ『だが呼び出されたそれは可愛いハムスターでは無く…』


    『キュァルルル!!』

    『ギィギュウウウ!!』

    『シュァアアァ!!』

    『ガルルルルル!!』


    アルターエゴ『鋼鉄の鎧をもつ、巨大な…鳥、蛇、虎、馬の化け物達だった』

    ソニア「わぁ!」

    田中「下がっていろ!一瞬で終わらしてやる…」

    舞園「これは骨が折れそうですね…」



    ーーーーーーーーーー



    大和田「食らえ!!」ダッ!

    アルターエゴ『大和田は、つるはしを握りしめ仁に突っ込む』

    仁「………」スッ

    弐大「バカもんがァ!勝手に突っ込むんじゃない!!」

    大和田「うおおおお!!」ブンッ!!

    アルターエゴ『そんな弐大の制止も聞かず、大和田は仁に向けつるはしを振るう…………が…』

    ガシッ!

    大和田「……なッ!?」

    仁「ハァ!!」

    アルターエゴ『仁は大和田のつるはしを躱すのではなく懐に潜り込み、つるはしを持った右手を握り一本背負いをした』

    グルンッ!

    アルターエゴ『普通ならばこのまま投げ飛ばす“だけ”なのだが仁は違った…彼はそんなに甘くはなかった』

    仁「終わりだ!!」ゴスッ!!

    アルターエゴ『空中で一回転する大和田の背中へ、仁は己の膝を突き立てる……まるで大和田の背中を貫くように…』

    バギッ!!!

    大和田「ァガぁッ!!」

    弐大「大和田ァ!!!!」

    アルターエゴ『鈍く、耳障りな音が響く』


    大和田「」バタンッ!!


    仁「可哀想に…脊髄を砕いたからね。彼はもう歩くことはできまい…。だが大丈夫だ安心して良い、殺してなんかないからな」ニコッ

    弐大「………」

    アルターエゴ『仲間の骨の砕ける嫌な音、仲間の声にならない悲痛の叫び……それは確実に弐大の理性を飛ばしていた』

    弐大「殺さなければ何をして良いと思っとるんかァ!!……お前さん…覚悟は出来てるな?」ゴゴゴゴ!!!


    仁「……やれやれ最初に忠告しただろう………やはり子供と言うものは難しいものだな…」ハァ



    ーーーーーーーーーー



  108. 108 : : 2014/04/12(土) 02:16:24
    大和田・・・(´・ω・)
  109. 109 : : 2014/04/12(土) 15:20:37
    左右田「…………ぐっ…」

    小泉「左右田!」

    終里「んだよ…一発でくたばるレベルか…」

    神代「…あー、君達ただの兵士候補生か。通りでデータにないと思った」

    アルターエゴ『どこかからか取り出したパンを食べながら、一歩一歩小泉に近づく』

    神代「ま、来ちゃったのが運のツキ。貧乳だけど、下に期待するかな」

    アルターエゴ『そして、小泉に手を伸ばす…』

    小泉「ひっ…!」

    西園寺「…待て!」

    神代「!」

    西園寺「……汚い手でお姉に触るな!」

    バッ!

    アルターエゴ『…が、伸ばしたその手は鉄扇によって払われる』

    神代「……はぁ、悪いけど僕ロリコンじゃないんだ」

    西園寺「黙れ!殺してやる…!」

    神代「……殺す?…そっか、勝てると思ってるんだ」

    西園寺「……!?」

    アルターエゴ『西園寺は、神代をその眼に捉えながらも、強烈な違和感に襲われていた…。そう、それは…』

    西園寺(どういうこと!?景色にとけ込んでるの!?)

    アルターエゴ『神代の姿が、見えない!』


    ━━━━━━━━━━


    松田「……」

    山田「グフフフ!行きますぞ!数多の戦場を駆け抜けた僕の相棒!!」

    アルターエゴ『…どこからともなく、戦隊ヒーロー等で使われそうなbgmが流れてくる』

    山田「変形合体!!」

    ガシャン!ガシャン!!

    山田「『機会仕掛けの正義』(ジャスティスロボ)!!」

    デデーーン!!

    ドカーーーン!!

    アルターエゴ『…背後が爆発。七色の煙が上空に向かって行く……』

    松田「………」

    葉隠「俺も忘れちゃ困るべ!」

    バッ!

    葉隠「『案内人』(アルカナフォース)!!」

    アルターエゴ『葉隠の背後に、巨大な水晶が出現し、怪しいオーラを放つ』

    山田「どうだ!僕達の魔法は!」

    葉隠「腰が抜けて声をでねーべ!」

    松田「………」

    松田「……zzz」

    山田・葉隠(ね、寝てる!?)


    ━━━━━━━━━━


    江ノ島「あー、どっかで見たと思ったら、たった1人で乗り込んできたあいつとそっくり」

    斑井「! 一式か」

    斑井「一式のことなのか」

    斑井「やはり何か知っているようだ」

    江ノ島「あいつなら、殺したよ?松田くんのスペシャル拷問しても何も吐かなかったからね」

    斑井「死んだ…?」

    斑井「貴様……」

    斑井「よくも一式を」

    斑井「許さん!」

    江ノ島「……まったく滑稽じゃ。同じ顔が7人も私様に飛びかかってくるなんて」

    アルターエゴ『江ノ島は小さく息を吸い込み、吐き出すと、7人の斑井をキッと見つめ…』

    江ノ島「……『大切な使い捨て』(グングニル)!!」

  110. 110 : : 2014/04/12(土) 22:32:20



    アルターエゴ『たった一言…それだけで確かなアクションは起こった』


    グサグサグサッ!!

    斑井「「「「ッぁあッ!!!!」」」」

    アルターエゴ『何処からか大量の槍が現れ七人の斑井の全身を貫き、辺りに血を撒き散らす』


    江ノ島「はあ、本当にガッカリしたわ。アンタら…兄も含め拍子抜けだわ」

    斑井「なんだと…」ググッ

    アルターエゴ『斑井は江ノ島に向け手を伸ばす』

    江ノ島「はいはい、無駄」パチンっ!

    グサッ!

    斑井「ガァァッ!!」

    アルターエゴ『伸ばした腕は何処からともなく現れた槍によって地面と一緒に貫かれ、固定される……そして、そこからは更に血が溢れだす』

    斑井「テメェえ!!!」

    斑井「……一式の…仇!!」

    斑井「お前だけは…!!」

    斑井「殺──」

    江ノ島「……そう言うの別に良いから…もう飽きたし」パチンっ!


    アルターエゴ『その指鳴りと同時に大量の槍が既に地面に張り付けられていて身動きの取れない斑井に向け襲い掛かる』

    ザクザクザクザク!!!


    斑井「「「「「「「グガぁァあァ!!!」」」」」」」



    アルターエゴ『血生臭い空気……重なる悲鳴……斑井の身体からは彼らの血がまるで滝のように溢れていた』


    江ノ島「あーあ、もう終わりか…つまんないのー」

    斑井「く…そ……」ガクッ

    アルターエゴ『そして全斑井は……無様にも江ノ島に抵抗できず何一つ一矢報いれず…………………絶命した』

    江ノ島「全てが無駄…アンタ達が何をしたって…意味は無い…」







    辺古山「それは違うぞ」ブンッ!


    アルターエゴ『いつの間にか背後に居た辺古山の鋭い一閃』


    スパッ!


    アルターエゴ『熟練した者の…しかも不意打ち……江ノ島ですらそれを完璧に避けることは出来なかった』


    ツーッ


    アルターエゴ『その一閃は江ノ島の顔に、浅いが確かに傷を付けそこからは、血が流れ出していた』

    江ノ島「…いつの間に後ろに!」

    辺古山「斑井達のお陰だ。」

    江ノ島「……チッ、面倒な野郎達だ──」


    九頭竜「足元がお留守だぜ!!」

    江ノ島「下!?」

    ゴスッ!!


    アルターエゴ『九頭竜が江ノ島に向け放ったのはアッパーカットだった、それも顔面に』

    九頭竜「ッチ。入りが、あせぇな…」

    アルターエゴ『それもそのはず、江ノ島は殴られると同時に頭を反らしながら飛び上がるのことで勢いを殺していた。』

    …スタッ!

    アルターエゴ『その後、江ノ島は空中で華麗に一回転し地面に降りる』

    江ノ島「…ふぅーん、なかなかやるね……」

    九頭竜「ったりめーだろーが!!…覚悟しろよ…テメェは必ず殺す!!」

    江ノ島「うぷぷ、アンタ達なら……私様を楽しませてくれそうじゃん!!」ニコニコ

    九頭竜「…」ゾクッ

    辺古山「…」ゾワッ

    アルターエゴ『江ノ島は不適に笑っていた。数で負け、その白い肌からそれとは対照的な赤い血を流しているにも関わらず………笑っていた』


    ーーーーーーーーーー


    澪田「唯吹の歌唱力は世界一ィイイっす!!」

    セレス「…」スッ

    澪田「構えても無駄っすよ…唯吹の攻撃は構えたくらいじゃ意味がないっす!」

    セレス「…それはどういう…?」

    澪田「それは食らってからのお楽しみっす!」


    澪田「『私の歌を聴け』(ソニックブーム)!!!」


  111. 111 : : 2014/04/13(日) 11:14:49
    アルターエゴ『澪田が魔法を唱えた瞬間!』

    ビィィィイ!!

    セレス「!」ガフッ!!

    ボタボタボタッ…!

    セレス(血……!)

    澪田「ほらほら!やっぱ無駄だったっす!」

    罪木「さすが学年上位常連の澪田さんですね…!」

    澪田「ふふん!ちょっとやそっとじゃ負けねーっすよ!」

    セレス「……」

    セレス(……相手の攻撃。武器を出した様子はなかった。火球や氷、風の攻撃ではない……恐らく正体は!)

    セレス「……音…ですわね…!」

    澪田「ふふん。せーかいっす!唯吹だけが使えるオリジナル属性【音】!戦争でもクラス会でも大活躍すること間違いなしっ!」

    澪田「この喉が枯れるまで…唯吹は歌い続ける!」

    セレス「……」

    セレス(厄介…ですわね。音は振動。故、防御不可能!)

    罪木「澪田さんを見てたら、私も戦えるかもって思いましたぁ!」

    セレス「!?」

    澪田「お!いっちゃうっすよ!」

    罪木「はいぃ!『固定するご奉仕』(コール・ホワイト)!」

    アルターエゴ『罪木の足下に広がる魔法陣!そしてそこから白く、細長いモノがセレスに向かって射出されていく!』

    ヒュン!

    バッ!

    セレス「ッ!」

    アルターエゴ『なんとかかわす。が、罪木の攻撃は止むことなく続いていく』

    セレス(これは…包帯…!?)

    セレス(なんにせよ、当たらないにこしたことはありません!)

    アルターエゴ『左右のステップでかわしていく…が!』

    澪田「『私の歌を聴け』(ソニック・ブーム)!!!」

    セレス「! (また!)」

    セレス「くっ!」バッ

    アルターエゴ『咄嗟に大量のカードを出現させ、包帯を刺して地面に突きとす!』

    罪木「あぁっ!」

    アルターエゴ『そして残った枚数を自分の前に出し、盾代わりにする!』

    澪田「無駄無駄無駄ァ!技の性質上守ることも避けることも不可能っすぅ!!」

    ビィィィィィィイ!!

    セレス「………グフッ!」ドバッ

    セレス(この魔法、無差別攻撃なはず…)ハァ…ハァ…

    セレス(なら、どうして包帯の女は無傷なんですの!?)

    セレス(…きっとそこに、この魔法の仕組みがある!)


    ━━━━━━━━━━


    舞園「……『秘めた思いの具現化』(バイオレンス・ヒーロー)!」

    アルターエゴ『空中に大量の包丁を出現させ、そしてそれらを全て鳥に向かって放つ!』

    田中(……ククク、4体の中で鳥は最も速い!韋駄天の如きそのスピードは一切苦しませることなく獲物を天へ昇らせる…!)

    舞園(その心、読めてます!)

    アルターエゴ『舞園は素早い相手が苦手だった。まだ互いに能力が割れきっていない序盤に、苦手なモノを処理しようとする考え!』

    舞園「いっけぇぇぇえええ!!」

  112. 112 : : 2014/04/13(日) 15:01:35



    アルターエゴ『だがしかし!』

    ソニア「させません!!『王女の命令』(グラビトン・ザ・ギブ)」

    アルターエゴ『既に詠唱を終えたソニアがそう唱える…すると』

    舞園「嘘…」

    カランカラーン…

    アルターエゴ『鳥に目掛けて飛んでいた包丁は、その役目を果たすことなく地面に向け落下した』

    田中「フハハハハ!!人の子よ…絶体絶命だな」

    舞園「…まだ…まだ終わってないです!!」

    田中「ならば…その骨身の髄まで刻んでやろう!我が4つの刃で!!!いけ!破壊神暗黒四天王!!!」

    アルターエゴ『その掛け声とともに、四体の化け物が、四方から舞園に向け迫る』


    ーーーーーーーーーー


    松田「…あれをするまでもなかったな…」

    アルターエゴ『その場に立っているのは松田のみ…周りには既に虫の息の山田と葉隠……そして機械の残骸だけが残っていた』

    山田「」

    松田「しかし、流石『全ての始まりにして終わりなる者』だったな、少し手を妬いたぞ…」

    葉隠「ぁ…」

    松田「それに比べてお前は拍子抜けすぎだ…教師がその程度じゃ生徒も大したこと無いようだな」

    葉隠「へへ…そんなことないべ…」

    松田「おっと、まだ喋る力が有ったのか…」ゴスッ!

    アルターエゴ『松田は地面に這いつくばる葉隠の顔面に蹴りを入れる』

    葉隠「がフッ!」

    アルターエゴ『口内から血を吐く葉隠……それでも葉隠はこう続けた』

    葉隠「………俺は弱いしだめだがよぉ…アイツらは自慢の教え子だべ!…」

    松田「タフなやつだ」ゲシッ!

    ゴスッ!ドスッ!

    アルターエゴ『またも、松田は葉隠に蹴りを浴びせる……何度も何度も…』

    松田「……終わったか…」

    葉隠「ぁ…はぁ…はぁ…」

    松田「!…」

    葉隠「俺は……俺の生徒は…絶対にお前らなんかに…負けないべ!!だってアイツらは……俺の自慢の──」

    松田「耳障りなんだよ!!!」ゴスッ!!

    葉隠「がハッ!!………………」ガクッ

    松田「……チッ。口だけは達者なやつだったな……………くそっ」

    松田(なんつうか…勝った気がしねえな…)

    アルターエゴ『松田夜助 WIN』


    ーーーーーーーーーー


    弐大「貴様だけはァァ!!!」ゴゴゴゴ!!!!

    仁(オーラが……魔力が外に漏れだしている…何をする気だ…)

    弐大「うおおおおおおおお!!!!!」

    アルターエゴ『弐大がとった行動は…魔法の発動でも、仁に向けての特攻でもなく…』

    弐大「大和田ァ!!」ガシッ!

    ダッ!!

    仁「……なるほど」

    アルターエゴ『大和田を抱えての逃走…つまり敵前逃亡』

    仁「……最初なら見逃していたが…ふむ、どうしたものか……」



  113. 113 : : 2014/04/13(日) 19:30:30
    ダッダッダッダッ!!

    アルターエゴ『大和田を抱えながら敵に背を向け、弐大は、草原を走っていた』

    弐大(クソじゃ!こうなったら別の所から助けを呼ばないと、あいつには勝てん!)

    ダッダッダッダッ!!


    ━━━━━━━━━━


    神代「あはははは!姿が見えない相手と戦うのは初めてかい?」

    ガッ!

    西園寺「!」グラッ

    アルターエゴ『攻撃してくる場所も、タイミングも何もかもでたらめな攻撃に、西園寺は苦戦はしていた』

    西園寺(………くっ!魔法を唱える隙がない!)

    終里「俺はやるまでもねーな…。他の所見に行っていいか?」

    神代「うん、いいよ」

    アルターエゴ『終里が離脱。人数的には2vs1と有利ではあるが、戦況は変わらない』

    小泉(………怖い……!)ガクガク

    神代「おっと。貧乳ちゃん足が震えてるよ」

    小泉「!」

    西園寺「お姉をバカにするなぁ!」

    神代「うるさいな…」

    ドガッ!

    西園寺「うっ!」ヨロ…

    神代「ここは戦場。僕たちは命のやり取りをしに来てるんだ。それがわかっててここに来たんじゃないのかい?」

    小泉「…………」

    神代「……大した覚悟もなくここに来ない方がいい。まぁ、もう後悔する時間もないけどね」

    神代「僕の魔法『虚ろな存在』(インビシブル)、これすごく疲れるんだ。なるべく長い時間使いたくなくてね」

    神代「あっけないけど…はい、終わり」

    小泉「嫌…………」

    小泉「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

    神代「っ!?」

    アルターエゴ『突然、小泉から、強烈な光が放たれた!』

    神代「……っつ、見えない…」

    西園寺(!? 私には、見える…)

    西園寺(…敵の姿も!)

    アルターエゴ『姿が見えたら、もうこちらのもの。西園寺は一気に駆け寄り、そして!』

    西園寺「『桜舞い散る中で』(ピンク・ハリケーン)!」

    アルターエゴ『鉄扇で切り込み、飛ばされた後、さらに竜巻が追撃!』

    神代「うわぁぁぁぁあ!!」

    ………ドサッ!

    小泉「………あれ」ポカン

    西園寺「うわぁぁあん!お姉!よかったぁぁぁあ!」ダキッ

    小泉「え!?か、勝ったの!?」

    西園寺「うわぁぁぁん!うわぁぁぁん!」

    小泉「……すごい」

    左右田「うぅ………っ!」

    小泉「! 目を覚ましたのね!」

    左右田「………あぁ。すまねぇ、足手まといになっちまって……」

    小泉「………大丈夫。なんだか私達3人なら、大丈夫な気がするから…」

    左右田「…いや、日向を加えて4人だな」

    小泉「………そうだね!」

    西園寺「うわぁぁぁぁん!!」

    小泉「もうっ!いつまで泣いてるの!」

    左右田「ハハハハハハ!」

    アルターエゴ『小泉・西園寺・左右田 WIN』
  114. 114 : : 2014/04/13(日) 23:36:33


    アルターエゴ『……となるほど世の中は……戦争は甘くなかった』

    神代「ねえ、誰に勝ったって?」

    左右田・小泉・西園寺「!?」ゾワッ

    アルターエゴ『既に倒れて起き上がらなかった筈の神代が、その足で立って喋っていた』

    小泉「な…なんで?」

    神代「ん~、何でって言われてもただの火力不足ってことかな?」

    西園寺「倒れてから起き上がれてなかったじゃん!!」

    神代「それはローアングルからパンツが見たかっただけだよ」

    左右田「おいおいおいおい!!どうなってんだよ!なぁ、さっきまでのあのムードはどうしたってんだよ!!」

    神代「あれは見てて滑稽だったね…勝手に勝ったって思い込んでるんだもん」

    左右田「くそッ!」

    神代「じゃあ…そろそろ戦争の恐ろしさってものを教えてあげようかな……その体に!!!」ダッ!



    ーーーーーーーーーー

  115. 115 : : 2014/04/13(日) 23:37:40


    キィンッ!キィンッ!


    辺古山「ハッ!」ブンッ!

    九頭竜「オラァ!」ブンッ!

    アルターエゴ『辺古山は普通の刀を、九頭竜をドスを使い応戦する。一方江ノ島はそれをいなすように剣で受ける』

    江ノ島「なかなか…やるじゃん、だけど!!」ブンッ!

    スパッ!

    辺古山「くっ…」

    九頭竜「ペコ!!」

    辺古山「大丈夫ですよ…ぼっちゃん」

    九頭竜「チッ、ガキ呼ばわりすんじゃねぇーよ…無事なら良かった…」

    アルターエゴ『先程から同じようなことを繰り返しており、辺古山の体には生傷が増え、明らかに疲弊していた…』

    江ノ島「うぷぷ…」

    九頭竜「テメェ!何が可笑しいってんだ!!」

    江ノ島「ごめんごめん、…守られてるくせに、ガキ呼ばわりするなとか言ってるもんだからさ」

    九頭竜「……守られてる?…俺が?……! ペコお前まさか!!」

    辺古山「すいません…坊っちゃん」

    九頭竜「……謝んじゃねぇよ…ったくよ!!おい英雄とやら」

    江ノ島「……なに?」

    九頭竜「俺と1対1で勝負しろ!」

    辺古山「だ、ダメです坊っちゃん!」

    九頭竜「うるせえ!ただでさえ体がボロボロなんだ、大人しく休んでろ!」

    辺古山「しかし!!」

    九頭竜「ああ、くそッ!!…ペコ!!テメェは俺を信じてないのか?!」

    辺古山「そ、そんなことは…」

    九頭竜「なら黙って見てろ…」

    辺古山「はい…」

    九頭竜「おいペコ、刀を貸せ」

    辺古山「はい。これはもともと九頭竜家のものですし…どうぞ」スッ

    九頭竜「そんなこと気にすんなよ、今はテメェのもんだ」スッ

    アルターエゴ『ドスを納め、刀を構える九頭竜』

    九頭竜「よしっ!やってやる!!」


    江ノ島「…あのさ、勝手に話進めないでもらえる?」

    九頭竜「ただサシでやろうってんだ。文句ねえだろ」

    江ノ島「文句は無いけどさぁ、アンタみたいな雑魚が私様と戦ったら一瞬で勝負がついちゃうでしょ?」

    九頭竜「んだとこらァ!!」

    江ノ島「だから、ハンデあげる。」

    九頭竜「んなもんいらねぇよ!」

    江ノ島「…要らなくても勝手にあげるんだけどね。そうだね、魔法はグングニルしか使わないから」

    九頭竜「………」

    アルターエゴ『どんな魔法を使うかも分からない得体の知れない相手と戦う九頭竜にとっては願ってもないことだった』

    九頭竜「…ッチ。勝手にしろ」

    江ノ島「よぉーっし!どっからでもかかってこーい!」バッ!

    アルターエゴ『両手を広げ、誘い込むように挑発する江ノ島』

    九頭竜「なめやがって!!後悔しても知らねえからな!!」ダッ!!


    アルターエゴ『江ノ島目掛け一直線に走る九頭竜…そこへ』

    江ノ島「『大切な使い捨て』(グングニル)」パチンっ!

    九頭竜「!!」スッ

    アルターエゴ『咄嗟に身構える九頭竜だったが、槍は九頭竜を捉えてなどいなかった………ならば、その槍は何処へ行ったのか……………答えは簡単だった』

    グサッ!!

    辺古山「ぁあ…」

    九頭竜「ぺ…ペコッ!」

    アルターエゴ『一本の槍は深々と辺古山の横腹を捉え、抉っていた…』

    九頭竜「テメェ!サシって言っただろうが!」

    江ノ島「確かに言ったね。でも文句は無いって言ったけど、受けるとは言ってないよ?」

    九頭竜「減らず口を…!!」

    江ノ島「ねえ、こっち向いてて良いの?アンタは……丸腰の彼女をどうするのかな!!」パチンっ!

    アルターエゴ『その指鳴りとともに、辺古山を取り囲むようにグングニルの槍が出現する』

    九頭竜「やめろォ!!」

    江ノ島「やめない」ニコッ

    アルターエゴ『そして槍は辺古山目掛け放たれる』


    九頭竜「くそがぁぁあッ!!ペコォォォオッ!!!!」ダッ!!


  116. 116 : : 2014/04/14(月) 11:30:13
    アルターエゴ『九頭龍は辺古山に向かって飛び込む!』

    九頭龍(間に合う!どうにかペコの位置をずらし、俺もかわせる!)

    辺古山「! 坊ちゃん!」

    アルターエゴ『…しかし、辺古山は気づいた』

    アルターエゴ『“英雄”の……微笑みに……』

    ニヤリ……

    江ノ島「加速!」

    ヒュン!

    九頭龍「!」

    アルターエゴ『………最悪のタイミングだった。九頭龍の身体と辺古山の身体が重なり合ったその瞬間!』

    グサッ!

    九頭龍「………グフッ……」

    辺古山「………ガハッ……」

    アルターエゴ『…そして、槍は一本ではない』

    グサッ!グサグサグサグサッ…!!

    アルターエゴ『大量の槍が、無情にも2人を貫く』

    江ノ島「………ぷぷ」

    江ノ島「アーッハッハッハッハッ!!!」

    アルターエゴ『江ノ島 WIN』


    ━━━━━━━━━━


    セレス(よく見るのです……魔力を眼に集中させ、相手の魔力の流れを!)

    アルターエゴ『眼をこらし、罪木と澪田を見る』

    セレス(………!)

    澪田「もう一発行くっすよー!」

    罪木「すみませぇん!私の魔法で拘束出来なくてぇ!」

    澪田「いいっすよ!唯吹がきっちりばっちり倒しちゃうから!」

    罪木「はいぃ!お願いしますぅ!」

    セレス(………わかりましたわ!)

    セレス「ふふ…ふふふ……」

    澪田「あらあら。気がおかしくなっちゃったっす」

    セレス「ふふふ……演目中にタネを見破られたマジシャンは…廃業ですわよ?」

    澪田「!」

    セレス「そこ!」

    シュッ!

    罪木「!」

    澪田「く…!」

    アルターエゴ『たった1枚のカードに膨大な魔力を込め、放ったソレは澪田の反応出来ないスピードで罪木の首もとまで到達し、止まった』

    罪木「ふ、ふぇぇ!」

    澪田「蜜柑ちゃん!」

    セレス「…どうして、包帯女が音の魔法をくらわないのか、私気になっておりましたの」

    セレス「………一瞬見えた緑色の魔力…治癒の魔法ですわね。恐らく、超高速治癒!」

    罪木「ひぃぃ!(私の魔法に、こんなにあっさり気づくなんて…!)」

    セレス「さぁ。私はいつでもあなたの相方を殺せます」

    罪木「ひぃっ!!」

    澪田「ひ、卑怯な!汚いっす不潔っす汚物っすー!」

    セレス「あら、戦争において汚いなんて、負け惜しみですわよ?」

    澪田「ぐぬぬぬぬぬぬ………」


    ━━━━━━━━━━

  117. 117 : : 2014/04/14(月) 22:25:09



    アルターエゴ『希望側が優勢な所もあれば、もちろんそうでない所もあった』


    霧切「結お姉さま!」

    五月雨「了解!!」

    アルターエゴ『その掛け声とともに霧切は手で弧を作りながら詠唱を唱える』

    霧切「『死神か真実か』(キラーオアトゥルー)!!」

    シュン!シュン!

    苗木「えっ!?」

    アルターエゴ『霧切の造り出した白い円はその形を保ったまま苗木を取り囲む……そして!』

    シュゥウゥウッ!!!

    アルターエゴ『熱を帯びた白い粒子の塊が前後左右余すところ無く苗木に迫る!!』

    苗木「くッ!!」シュンッ!!

    アルターエゴ『これを受けるのはマズイ…そう察知した苗木は上へ跳ぶ………が』

    五月雨「予想通りだね!君は上に跳ぶしかないと思ってたよ!!」

    苗木「!! あの距離から…僕の上を!?」

    五月雨「脚力には自信があるんだよ!!…そーれっ!!」ゴスッ!!

    苗木「う…うわぁぁあぁ!!!」



    アルターエゴ『五月雨は苗木を蹴り落とす…そう、白い粒子の交差する場所へ』

    ──ザッ ジュゥウウウウ

    苗木「ァぁあぁあァぁあッ!!!!」


    アルターエゴ『肉の焦げる嫌な臭い。響き渡る断末魔の叫び』

    五月雨「ねえ…霧切ちゃん…その辺にしとかない?」

    霧切「いえ…油断は禁物よ…」

    五月雨「………でも…」

    霧切「……ほら…叫び声が聞こえなくなったでしょ?」

    五月雨「!! ま、まさか死んだんじゃ!!!」

    アルターエゴ『殺したかもしれない…そんな焦りによって注意がそれてしまった五月雨………そこへ』

    霧切「……違うわ!!下よ!!!」

    五月雨「……え?」


    苗木「はぁぁああッ!!!」ブンッ!

    アルターエゴ『地面から現れた…正確には穴から現れた苗木は鞘に納めた剣を振るう』

    アルターエゴ『……それは五月雨の肩を重たく弾く』

    ボキッ!!

    アルターエゴ『鈍く…嫌な音が戦場に響く』

    五月雨「──ッ!!!」

    霧切「結お姉さま!!」

    五月雨「……大丈夫…ちょっと油断しただけだから」

    アルターエゴ『五月雨は明らかに強がっていた。その細い身体に、近距離で…しかも全力で鉄の塊で殴られたのだ…当たり所が良くとも骨折は免れない』

    霧切「……るさ……い…わ」



    苗木(彼女ら個々でも厄介なのに…あのコンビネーション…)

    苗木(まずは、単純に動きが厄介な彼女から……!?)

    霧切「許さないわ!!」キッ!!

    苗木「!!」

    鋭く此方を睨み付ける彼女の目に僕は見覚えがあった…


    ─────────


    松田『おいアホ毛…』

    苗木『…何?』

    松田『ウォーミングアップは終わりだ。俺もアレを使うからな…全力で掛かってこい!』キッ!!

    苗木『僕はそんなポンポン使えないよ!!』


    ─────────


    苗木「なんで…なんで……君がその技を使えるんだよ」


    霧切「……逆になんで私が使えないと、初対面の貴方が思ってるのかしら?」


    苗木「だって!…だってそれは!!」




    アルターエゴ『そう…霧切が発動したのは…』



    霧切「一瞬で…決めさせてももらうわ!!!」


    シュンッ!



    アルターエゴ『……常人を越えた動き』




    苗木「!!」











    アルターエゴ『…それは紛れもなく………精神集中だった』



  118. 118 : : 2014/04/15(火) 09:59:15
    ドガッ!

    苗木「!」

    アルターエゴ『気づけば、苗木は宙を舞っていた』

    ドガッ!ガスッ!バキッ!ガッ!

    アルターエゴ『…攻撃は止まない。怒濤の連続攻撃に、苗木は手も足も出ないまま…』

    五月雨(……すごい。ずっと宙に浮いてる…)

    苗木「ぐっ!がぁっ!」

    アルターエゴ『苦痛に顔が歪む。痛みが全身に広がる。…意識が遠のいていくのがわかった』

    苗木(……くっ……このまま…僕は…死んでしまうのか……)

    苗木(……いや…だめだ…!最後の最後まで、諦めたりしたら、だめなんだ!)

    苗木「うおおお!」

    霧切「ッ!まだそんな元気があるのね…」

    アルターエゴ『霧切は先程五月雨がやったように苗木を蹴り落とした!』

    ドッカァァァン!!

    アルターエゴ『その衝撃によって、苗木を中心にクレーターのように地面が陥没した。けたたましい轟音と共に土煙が辺りを覆う中、霧切は空中から苗木を見下ろしていた』

    苗木「うぅ……」

    霧切「……フィナーレよ」

    アルターエゴ『霧切が両手を広げたかと思うと、その体勢のまま回転。回転速度はみるみる速まっていき、やがてそれは紫のドリルとなる』

    ギュルルルルルルルル!!

    アルターエゴ『そして…それは地上の苗木の露わとなった腹部めがけて一直線!!』

    五月雨「…すごい……」

    アルターエゴ『……全体的に見てしまえば不利である絶望側にとって、今の霧切はまさしく希望だった。この相手にとって一切の希望を与えず、無慈悲に絶望を与えた上、こちらを希望に導く技を五月雨はこう呼んだ』

    五月雨「……『希望の流星』(エスポワール・メテオ)…」


    アルターエゴ『………………しかし、苗木は待っていた』

    苗木(ここだ!)

    アルターエゴ『絶好の!チャンスを!!』

    霧切「!?」

    苗木「うおおおおおおおお!!」

    シュン!!

    霧切(どうして…私が倒れていて、彼が私の上を!?)

    五月雨「!?」

    ドォォォォオオオオオオン……!!


    霧切「…………」

    苗木「………ふぅ……」

    霧切「……どうして…当てなかったの…?」

    苗木「…たとえ戦争でも…人を殺すのは、抵抗があったから……かな」

    霧切「…………甘いのね」

    苗木「ハハッ……今の状態で僕を狙わない君にも言えるんじゃないかな…」

    霧切「……それは魔法の反動で動けない私に対する嫌味かしら?」

    苗木「っ!そ、そんなつもりじゃなくて!えっと…」

    五月雨「霧切ちゃん!」

    霧切「結お姉さま…私、あなたの仇を取れなかった……」

    五月雨「霧切ちゃん…大丈夫だよ。私が必ず倒すから……」

    苗木「………えっ…」

    五月雨「……覚悟!」キッ!!

    苗木「え、ええええ!!」

    苗木(精神集中使いとの…連戦!)
  119. 119 : : 2014/04/16(水) 17:34:14



    五月雨「…ふにゃぁあ」プシューー

    苗木「!?」

    アルターエゴ『気の抜けた声、へなへなと地面に崩れる五月雨』

    霧切「はぁ、なんで出来ないのにしようとするの」

    五月雨「いやぁ、ずっと練習してきたから出来るかなぁって…」

    霧切「……無理よ。だって国でこれをできるのは私だけの筈だから…」

    五月雨「ほら、勇者は二人居る!…みたいな展開だよ!某金髪になる戦闘民族だって、後半はインフレしてたし!」

    霧切「…言ってる意味が分からないわ…」

    五月雨「そんなぁ…」

    苗木(あれ…僕の空気感がハンパないぞ)

    苗木「ね、ねえ…」

    霧切「なに?」

    アルターエゴ『素っ気ない返事を返す霧切』

    苗木「これから僕たちは…正確には僕はどうするべきなのかな?」

    霧切「……私たちの負けよ…好きにすれば良いわ」

    五月雨「そんな!!薄い本が厚くなっちゃうよ!!!」

    霧切「空気の読めない突っ込みは止めて貰えないかしら…」

    五月雨「だってこれじゃあ、エロ同人誌みたいな展開に!!」

    苗木「そ、そんな!僕はそんなこ──」

    誤解を解くための必死の弁解……だけど僕は…それを最後まで言うことは出来なかった…何故なら




    終里「ッ隙有りィイイイ!!!!!」


    ドゴスッ!!


    アルターエゴ『背後からの鋭い蹴りが苗木の後頭部を捉える』

    苗木「がはッ!?」

    終里「へへん!いっちょあがり!!」


    苗木「…く…そ……」ガクッ


    アルターエゴ『明らかに不意をついて放たれたそれは…既に疲弊していた苗木の意識を落とすには十分すぎるほどだった』



    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『四方から迫るは鋼鉄の鎧を纏った四体の化け物』

    アルターエゴ『そして、その中心には舞園の姿があった。』

    舞園「…ふふっ」

    アルターエゴ『こんな絶対的不利な状況で舞園は笑っていた…だがその笑みは勝利を確信した希望に満ちた笑みではなく…』


    舞園(私…死んじゃうのかな……私には荷が重すぎたんですね…)

    アルターエゴ『舞園は、全てを悟り魔法を解く。』

    舞園(不思議な気分です……こんな状況で皆の顔を思い出すだなんて…)



    舞園「あーあ、結局声を掛けられませんでしたね…」

    アルターエゴ『そして…』


    田中「フハハハ!!!塵と化すが良い!!!!」


    舞園「さよなら…皆……」

    アルターエゴ『そう舞園が諦めの言葉を呟いた瞬間!!』


    「そうはさせるかッ!!!!!!」


    ゴオオオオオオオッ!!!


    ソニア「え!?」

    田中「な…なにィ!?」


    アルターエゴ『怒号と激しい熱気が辺りを包みこんだ』




  120. 120 : : 2014/04/16(水) 18:43:13
    「大丈夫か!?」

    舞園「あ、あなたは……」

    日向「あぁ、俺は日向創だ」

    舞園「日向…くん…」

    舞園(髪が長くて目が赤い…)

    田中「むっ!あれはこの前の!!」

    ソニア「……長髪の男!」

    日向「え、俺ってそんな人気者?」

    舞園(……この人、大丈夫ですかね…)

    日向(……気がついたらここに居て、つい割って入っちゃったけど…)

    ゴゴゴゴゴ………

    日向(俺…大丈夫か?)


    ━━━━━━━━━━


    セレス「さぁ、早く降参したらどうですの?あなたたちの技は封じられました」

    澪田「ぐぎぎぎぎ………」

    罪木「うぇーん!私が居なかったらぁ~!うわぁぁすみませぇん!」ポロポロ

    セレス(………よく騒ぐ……)

    アルターエゴ『しかしここで、運は相手に傾く』

    弐大「! 罪木!澪田!」

    澪田「猫丸ちゃん!」

    罪木「弐大さん助けてくださぃ~!!」

    弐大(……よし!罪木がいたぞ!)

    弐大「罪木!大和田を回復させてくれ!」

    アルターエゴ『罪木の前に、大和田を降ろす』

    罪木「……!これはひどいですぅ…私の力でも治せるか…」

    セレス「……あら、私を置いて雑談とは随分呑気ですわね」

    弐大「………お前さん、敵か…」

    セレス「……次にその包帯女が治癒魔法を使った時、首を跳ねます」

    弐大「なんじゃそんなこと…ふんっ!」

    セレス「!」

    アルターエゴ『弐大は罪木の首筋付近を浮かんでいたカードを掴み、粉砕した』

    バリィン!

    弐大「……これで自由じゃ」

    罪木「ありがとうございますぅ!」パァァ

    セレス(…カードを引っ込める時間がなかった……あの大男、相当な手練れ…)

    弐大「……さて、その間にワシはあのゴスロリを片づけるとするかのぉ…」

    澪田「キャー!やっちゃうっす!」

    セレス(……こうなったら、ここで全ての魔力を使う勢いでやらないと…!)
  121. 121 : : 2014/04/16(水) 23:55:44





    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『一方その頃』




    神代「」


    アルターエゴ『 三人の男女の目の前には、既に事切れた神代の姿………だが彼らの目には神代の姿など眼中に無かった』


    左右田「……おいおい、どう言うことなんだ!?」

    西園寺「……さっきのって…!!」

    小泉「…………日向……」




    ────────

    ~~回想~~


    神代「僕に君たちみたいなのを相手にする暇はないんだよね」シュウンッ!!

    左右田「! 消えた!!」

    神代「その反応…馬鹿の一つ覚えのかな!!」ダッ!

    西園寺「小泉お姉!!さっきのは!?」

    小泉「出来ないの!!…なんで?!さっきは出来たのに!!」

    神代「おやおや、さっきのに警戒する必要はないみたいだね…」

    小泉「!」

    神代「戦場では情報は命を左右する…簡単に口にしちゃダメだよ……甘ちゃんだね」

    神代「そうだ!そんな甘い君たち二人を連れて帰って良い感じに成長したら、僕専用の肉…おっとこれ以上はダメだね………色々なものに引っ掛かっちゃう。」

    西園寺「そんなのいやに決まってんだろ!!姿隠してないで出てこい!卑怯もの!」

    神代「多対1の時点で卑怯とか言われてもね。ねえ、本当にこの魔法は疲れるし、そろそろ終わらしてもらうね」シュンッ!

    左右田「くそッ!どっから来やがんだ!!」スッ

    小泉「皆、意識を張りつめてて!!」スッ

    西園寺「うん!」スッ

    アルターエゴ『三人が背中を合わせ、死角を潰す……とっさの判断にしては上出来だったが、神代の前では無駄も同然だった』


    神代(……素人だね。一人を一撃で仕留めれば、再度死角の出来上がりだよ…。まずは…厄介な赤毛の娘からだ!!)

    スッ!!


    アルターエゴ『魔の手が小泉に迫る………その時!!』

















    「ツマラナイ…」




    パシッ!!!




    左右田・西園寺・小泉「「「!?」」」




    アルターエゴ『四人が驚くのも無理はなかった。』


    アルターエゴ『なぜなら、突如現れた長髪の男が透明の筈の拳を易々と受け止めて居たからだ』


    「貴方の魔法も、貴方の戦闘スタイルも…貴方自身さえもツマラナイ………そして…何故だかとても不愉快だ」


    神代「君…何者?」


    「僕ですか?僕はカムクライズルです」


    神代「そんなカムクラ君が何のようかな?」

    カムクラ「単純なことです。ただ観測しておこうと思っていたのですが、どうやら不愉快な気持ちになったので………」


    アルターエゴ『言われた質問に淡々と答えるカムクラ…そしてカムクラはこう続けた』



    カムクラ「だから……貴方を殺します」



  122. 122 : : 2014/04/16(水) 23:57:17



    神代「殺すか……ヒュー、言うね。」タッ!


    アルターエゴ『神代はその場から強引に後ろへ跳躍…カムクラと距離を取る』


    神代(しかし厄介だな…。……そもそも何で僕の攻撃を止められるのかな…)

    アルターエゴ『そんな疑問を“心の中”で口にする神代』

    カムクラ「確かに見えません…だから観たんです」

    神代(!?……なんで僕の思考が!?)

    カムクラ「何でと言われても、聞こえるからです。いえ正確には聴こえるからです」

    神代(……意味が分からないよ……そうか、ハッタリなんだ!)

    カムクラ「……そう思うなら試してみてはどうですか?」

    神代(また!?)

    神代「良いよ。試してあげる。だって僕は強いからね!!」

    ダッ!!

    アルターエゴ『全力でカムクラ目掛け高速で飛ぶ神代』

    神代(見えない上にこのスピード……これなら!!)

    カムクラ「風が僅かに動いていますね…そして、心音もします……つまり…ここ。」ヒュン!


    ゴスッ!!!


    神代「がフッ!!!!」

    ビチャッ!

    アルターエゴ『カムクラの拳は神代の鳩尾に突き刺さった。たったそれだけで神代は大量の血を吐き、意識を失う』


    左右田「た…助かった」ヘナヘナ

    西園寺「うわぁーん!怖かったよー!!!」

    小泉「よしよし。コラ!アンタは男子なんだからしっかりしなさい!!」

    左右田「俺だけには厳しいよな…まさか俺のこと好きなのかァ?」

    西園寺「そんなわけねぇだろギザッパ!!」

    小泉「左右田のことは放っておきましょう。それより…カムクラさん!」

    カムクラ「…はい」クルッ!

    小泉「え!?」

    左右田「はァ!?」

    西園寺「ええ!?」

    アルターエゴ『クルりと此方を振り替えるカムクラ…その姿に…正確にはその顔に彼女らは見覚えがあった。』

    左右田「おい!お前日向なのか!?」

    西園寺「どっからどう見てもそうだろうが!」

    小泉「良かった…無事だったのね!」


    カムクラ「? 違いますよ僕はカムクラです」


    左右田「おいおい、冗談キツいぜ!今まで何処行ってたんだよ!」

    西園寺「あれぇ?それもしかしてカツラ?もう禿げたのかなぁ?ご愁傷さまだねぇー」

    小泉「さっ!冗談は止めにして帰りましょう」


    カムクラ「冗談?違います。その日向と言うのを僕は……俺は…俺?僕は僕です」



    『俺は…』


    左右田「日向!」


    西園寺「お兄!」


    小泉「日向!」





    『俺の名前は…』




    ズキィッ!!!


    カムクラ「くッ…失礼ですが僕はこの辺で失礼させてもらいます。貴方たちのせいで、頭が…」


    アルターエゴ『頭を抑えその場を後にしようとするカムクラ…』

    左右田「待てよ!日向!!!!」

    カムクラ「待ちません。全く…こうなったのは貴方のせいだ!!」ゲシッ!

    グチャリッ!

    アルターエゴ『カムクラは怒りのまま神代の身体を踏み潰すと』

    シュンッ!!

    その場を後にした。



    ……………

    ………






    ~~回想終わり~~


    ─────────


    アルターエゴ『そして、場面は戻り…』


    ソニア「待ってください田中さん!あの前と言うことは以前に?」

    田中「ああ、貴様らの時間軸に沿えば最後に会ったのが一年前…フハハハ!久しいな人間よ!!」

    日向「いや、誰だよ。人違いだろ」

    田中「しかし人間よ…先程の熱は貴様のものか?」

    日向「熱?俺は、ただ女の子が危機に判してたから飛び出して来ただけだけど…」

    田中「フン…やはりな」

    ソニア「ど、どういうことなのですか?」

    田中「つまり!…賊め!!!………貴様の居場所は分かっているぞ!!!」

    ザッ!

    十神「ほう…気配を消していた俺に気付くとは……なかなか出来るやつのようだな」

    田中「フハハハ!!まずは貴様から塵にし無へと返してやろう!!」

    十神「ハッ、寝言は消し炭になってから言うんだな!!」ゴォッ!



  123. 123 : : 2014/04/17(木) 16:04:44
    田中「さえずるな!」バッ!

    アルターエゴ『鋼鉄の蛇が、十神に牙を剥き、襲いかかる!』

    蛇「キシャァァア!!」

    十神「……愚かな」

    アルターエゴ『十神が胸の前で手を合わせると──』

    パンッ

    アルターエゴ『蛇の頭が、焼け落ちた』

    田中「!?」

    日向(うお…すげ……)

    ソニア「田中さん!」

    田中「なんのこれしき!」バッ!

    田中「続け破壊神暗黒四天王よ!蛇の死を無駄にするな!」

    虎・鳥・馬「ガルルッ!」

    十神「ふんっ、貴様らの世界では…“自分より強い者からは逃げろ”と教わらなかったのか?」

    鳥「キュアルルル!!」

    虎「ガルルルルァァア!!」

    馬「ギィギュウウウウ!!」

    十神「三匹まとめて……俺達の祝勝会に並ぶといい」

    十神「………虎の味は、保証できんがな」

    アルターエゴ『鳥が上から。虎と馬は左右からそれぞれ十神を狙う!!』

    十神「………!」

    ガチャガチャ!!

    日向「! 仕込みマシンガン!?」

    田中「放て!そして『絶望を与えよ』(アイアン・インフィニティ)!!」

    鳥「クエエエエエエエ!!!」

    タタタタタタタタタタン!!!

    アルターエゴ『十神に向かって、鉄の雨が降り注ぐ!!』

    十神「雨の日には…」

    アルターエゴ『それに対し、十神は、太陽の化身を当てる!』

    ボッボッボッボッ!!

    アルターエゴ『銃弾は全て、当たった瞬間に溶けて消滅していく…!』

    十神「傘を差すだけだ…」

    田中「図に乗るな人の子よ!」バッ!

    馬「ヒヒィィィイイイン!!」

    虎「ガルルルルルル!!」

    田中「太陽の化身は鉄の雨により動きを封じられたも同然!!よってがら空きの左右を狙うのは当然!!」

    田中「さぁ!『狩らせてもらおう!貴様の魂ごと!』(ジャングル・ハント)!!」

    十神「………今だ。やれ」

    舞園「はい!」シュン!!

    舞園「『秘めた思いの具現化』(バイオレンス・ヒーロー)!」

    アルターエゴ『虎と馬、そして鳥を、大量の包丁が襲う!!』

    田中「!?」

    虎「グルァッ!?」ザクッ!

    馬「プルルァッ!?」ザクッ!

    鳥「キエエエエエ!!」ザクッ!

    ザクザクザクザクザクッ!!

    田中「…馬鹿な!意思の疎通もなしに…」

    舞園「あ、私、エスパーですから♪」

    十神(人の心が読める…敵にすれば厄介だが味方なら頼りになる)

    ソニア「青髪の女…許しません!」

    舞園(っ!…あの金髪の女は分が悪い……)

    舞園「日向さん!頼みがあります!」

    日向「! なんだ!?」

    舞園「手を貸してください!…2vs1で、あの金髪の女と戦います…!」

    日向「…!わ、わかった!」

    日向(ええい!どうにかなるさ!)
  124. 124 : : 2014/04/17(木) 21:26:21



    田中「気を付けろソニア!!やつはただ者ではないぞ!!」

    ソニア「はい!!」

    舞園「日向さん…何か凄い力をお持ちなんですか?!」

    日向(え?どういうこと?凄い力持ってたら希望ヶ峰に入れてるはずだろ?え?どういうこと?)

    舞園「……ダメですね…」

    日向「ん…そういえば俺なんで刀なんか持ってるんだろう…」

    ソニア「あっ、あれは!!辺古山さんの持っていた…!許しません!めちゃんこにしてみせます!!」

    日向「なんか、見覚えのないことで怒りを買ってるんだけど…」

    舞園「……日向さん…」

    日向「…なんだ?」

    舞園「私に考えがあります。私が合図すると同時に突っ込んでください!」

    日向「……分かった」

    舞園「…………『秘めた思いの具現化』(バイオレンスヒーロー)!!今です!!」

    日向「おう!!!」ダッ!!



    ーーーーーーーーー


    セレス「はぁあぁ!!」シュウウウ

    アルターエゴ『セレスに取り巻くように姿を現した魔力はセレスの前につき出した両手へ吸い込まれるように集まり、形をなす』

    弐大「ほう…魔力が表へ……貴様何をする気じゃ?」

    セレス「フフフ、内緒ですわ!!!」ゴォウ!!

    弐大「来いッ!!」

    アルターエゴ『身構える弐大と、ギラギラと輝く魔力の玉を放つセレス……なのだが』

    弐大「無!上じゃと!?どういうことじゃあァァ!!!」

    アルターエゴ『そう、言葉の通りセレスは大量の魔力の集合体をあろうことか真上に放った』

    セレス「フフっ、先程も申したように、内緒ですわ。」ニコッ

    弐大「……そうか、だが惜しかったのぉ。あれを儂に向けて撃っておったら手傷くらいは負わせられたはずじゃ。」

    セレス「手傷じゃダメなのですわ。だってそれじゃあ負けてしまいますもの。私は負けるのは死ぬより嫌いなのですわ」ニコッ

    弐大「ほう…その口振りだと儂らが負けるように聞こえるが…」

    セレス「ええ…言葉通りの意味で…」

    弐大「ほう…言うな!じゃあこれを受けきってみんかい!!」ダッ!!

    アルターエゴ『弐大がセレスめがけて魔力を纏い突撃する…』



    ーーーーーーーーーー


    田中(奴と俺とでは相性が悪い…どうしたものか)

    十神「ハッ、所詮は選抜などをせずに勝ち上がったただの一般兵…そんな奴に俺が負けるわけないな」

    田中「なぁにィ?この俺様がただの一般兵だと?」

    アルターエゴ『田中は大きく目を見開き、高らかにこう告げる』

    田中「よかろう!氷の覇王と呼ばれた俺様の力…その身に刻んでやろう!!」ヒュオオオオオ!!

    アルターエゴ『周りの空気さえ凍てつかせる冷気が田中を包み込む』

    十神「そんなもの、全て溶かし尽くすまでだ!!!」

    ゴオオオオオッ!!!



  125. 125 : : 2014/04/17(木) 23:03:27
    田中「フハハハハ聞いて驚け!この俺様は“英雄”と戦い生き残ったことのある唯一の存在…!!」

    十神「!」

    田中「貴様のような子供に負けることは…天地が逆さになるよりもありえないことだ!!」

    十神「…どっちが子供か見せてやる……!」


    ━━━━━━━━━━


    苗木「ゲホッ!ガハッ……!」

    終里「……んだよ。こいつもたいしたことないみてーだな」

    霧切「…………」

    五月雨「……そんなことはないよ…私たちと戦ってたから、もう疲れちゃってるんだよ…」

    終里「ん?…関係ないだろ。これ戦争だぜ?体力ないのに来たこいつが悪い」

    五月雨「………」

    霧切「正論よ。あの子がどうなろうと、私達が知ったことではないわ」

    五月雨「でも!」

    霧切「……その傷、誰につけられたか忘れたわけじゃないわよね」

    五月雨「!!」

    霧切「…お姉様は少し優しすぎるわね」

    五月雨「………そっか…そうだよね。私も最初は殺すつもりだったし」

    終里「ふんっ!」

    ドスッ!

    苗木「ガハッ!!」

    終里「…まだ息があんのか。しぶてぇ奴」

    「………おい」

    苗木・終里・霧切・五月雨「!!」

    松田「…何寝っ転がってんだ……あほ毛…」


    ━━━━━━━━━━


    セレス「…暑苦しいのは嫌いですわ」

    弐大「ハッハァ!!」グァッ!!

    セレス「っ!」

    ヒュン!

    アルターエゴ『弐大の拳を確かにかわした…しかし!』

    セレス(頬が切れてますわね…!)

    弐大「次じゃぁぁああああ!!」

    ブン!!

    アルターエゴ『これまた完璧にかわす…が!』

    ピッ!

    セレス「!?」

    アルターエゴ『またも、頬に傷がつく』

    セレス(……何か仕掛けがありますわね)

    澪田(……猫丸ちゃんの魔法…いつ見てもタイマン向けで、とても戦争向けとは思えないっすね…)

    弐大「噴ッ!!」

    セレス(今度は蹴り!)

    ガキィン!!

    アルターエゴ『…咄嗟にカードの束を作り、ガードに成功する……』

    セレス(……今度は何もない…)

    弐大「甘いわぁ!」

    ビリィ!!

    セレス(! 力でガードをこじ開けて!)

    弐大「破ッ!!」

    アルターエゴ『セレスの顔めがけて、襲いかかる掌底!』

    セレス(速い…ですが、なんとかかわせるレベル!)

    アルターエゴ『後方に足を移動させ、セレスの目前で手の平が止まるが……』

    ドンッ!!

    セレス「!?」

    アルターエゴ『…何が起きたのかわからないまま、セレスの身体は後方に飛ばされる』

    弐大「どうしたぁ!!」

    セレス(……まさか、彼の魔法は…)

    セレス(攻撃範囲を、拡大する魔法…!)


    アルターエゴ『…そう。弐大の魔法、『危険信号』(レッド・ゾーン)は、自らの身体に纏った魔力の分だけ攻撃範囲が広がるというものである』
  126. 126 : : 2014/04/19(土) 00:32:23



    セレス「あからさまな技の紹介。ありがとうございますわ」

    弐大「無!?儂は何も言うとらんぞ」

    セレス「いえ、こちらの話ですわ。」

    弐大「そう…かい!」ブンッ!

    セレス「くっ」

    スカッ!

    アルターエゴ『セレスは弐大に纏われている魔力ごと避けるために、強引に身体を反らす』

    弐大「隙有りじゃあ!!!!」

    バキッ!

    セレス「っあ!!」

    アルターエゴ『またもや、後方に吹き飛ばされるセレス』

    弐大「どうやら、タネに気づいとるようじゃが、甘いのお。お前さんと儂では圧倒的な力量差がある」

    セレス「…あら?言ってくれますわね…」

    弐大「儂ぐらいのもんになると、見ただけで相手の力量は大体分かる。お前さんでは大和田にも勝てん!!」

    セレス「……それはどなたか存じ上げませんが、不躾な方ですこと」

    弐大「噴!好きに言え!!次で終わりにしてやる!!」

    セレス「!!………………あらあら」

    弐大「なんじゃあ、その反応は…」

    セレス「次に終わるのはどちらでしょうかね」ニコッ

    弐大「決まっとるじゃろう……お前さんじゃあァァア!!!」ダッ!!

    アルターエゴ『弐大がセレスに目掛けて突進』

    セレス「また同じ技ですか…」

    弐大「それは…これを見てから言うんじゃあァァア!!!!」


    シュウウウウウウ!!!!


    アルターエゴ『弐大の纏っていた魔力が形を形成』

    セレス「それは…角?」

    アルターエゴ『二本の巨大な角を携えた弐大がさらにスピードを上げセレスに迫る弐大』


    弐大「そうじゃあ!!!『死へ誘う角』(デッド・ホーン)!!これを食らって立っていたものは…居らん!!!!!」ダッ!!


    ガキィン!!


    「ふぅーん、じゃあアタシが第一号なんだね」


    弐大「なっ、なんじゃと!!?」

    アルターエゴ『弐大反応は当然のものだった。なぜなら突如現れた少女が、剣1つ、そして腕一本で弐大の攻撃を止めてみせたからだ』

    セレス「あらあら、随分遅いご到着で」

    江ノ島「まあまあ。そう固いこと言うなって、それに救援信号に気付いただけ感謝しろっつーの」



  127. 127 : : 2014/04/19(土) 12:39:48
    ガッ!

    アルターエゴ『弐大が角で弾き、江ノ島の体は空中で数回転して着地する』

    江ノ島「よっと」ストン

    弐大「ぬぅぅ!“英雄”!!」

    江ノ島「さすが私様有名人♪」

    ガキィン!!

    アルターエゴ『またも角を、今度は剣一本で受け止められる!』

    弐大(…動かん…ワシのフルパワーだと言うのに!!)

    ググググ…

    弐大(華奢な身体の、どこにこんな力が!!)

    江ノ島「…あんた、3位の弐大猫丸だね?」

    弐大「!」

    江ノ島「まったくあなた程度が3位?そっちの学園の甘さに呆れちゃうよ」

    江ノ島「たぶん、うちの3位のがあんたの10倍は強いよ?」

    弐大「な、なんじゃと!!」


    ━━━━━━━━━━


    苗木「……ハァ…ハァ…」

    松田「立てアホ毛。戦場は布団じゃねーぞ」

    苗木「松田……くん…」

    霧切(! 松田!?)

    五月雨「松田…“英雄”の右腕!」

    終里「へぇ…松田か…」

    松田「うちのアホ毛をボコ毛にしたのはお前か」

    終里「……だったらどうするんだよ…?」

    松田「ぶっ倒すだけさ」キッ!!

    霧切・五月雨「!!」

    【精神集中・改】!!

    終里「おもしれぇ!!」グァッ

    アルターエゴ『終里が飛びかかる…が!』

    松田「掴まれアホ毛」

    苗木「…!はい…」

    アルターエゴ『さっきまでの位置に、確かに松田が居た残像を残しながら、松田は一瞬で苗木の元に移動した』

    終里「…!?バカなっ!さっきまでそこに…!」

    霧切(人間を越えた動きを…さらに越えた動き!)

    これが…【精神集中・改】!!
  128. 128 : : 2014/04/20(日) 14:52:23


    終里「おめえ、つえーのか?でも今の俺はもっとつえーぞ、なんてったって──」

    松田「御託はいい」ブンッ!!


    アルターエゴ『一瞬で距離を詰めての一撃』

    ゴスッ!!

    終里「がハ!?」

    アルターエゴ『終里はそれを防ぐ間もなく食らう。正確には、反応できずに食らう』

    終里「……つぅ…」ガクッ

    霧切「終里さん!!」

    アルターエゴ『一撃…たった一撃で終里は沈んだ』

    松田「チッ、大したことねぇな。」スタスタ


    アルターエゴ『意識を失った終里など目にとめず、松田は五月雨と霧切に向け足を進めた』

    五月雨「……どうしよう霧切ちゃん…」

    霧切「…………結お姉さま…逃げて」

    五月雨「え?!」

    霧切「私が時間を稼ぐから…」

    五月雨「そんな!君を置いてなんか行けないよ!」

    霧切「……足手まといなのよ…」

    五月雨「─ッ!!」


    松田「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねーよ、命乞いか?」

    アルターエゴ『松田は既に、五月雨と霧切の眼前に迫っていた』

    霧切「結お姉さま!早く!!」

    五月雨「………」ギリッ

    松田「まあ、命乞いしても無駄だけ……どな!!」ブンッ!!

    アルターエゴ『二人の話など頭にいれず、松田は拳を振るう…終里をたった一撃で沈めたそれを……圧倒的な力を』

    五月雨「…させない!!」ザッ

    アルターエゴ『その時五月雨は前に飛び出した。敵の眼前へ……霧切の盾になるように』

    霧切「結お姉さま!?」

    バキッ!!

    アルターエゴ『再び嫌な音が戦場に響き、五月雨は数十メートル後方に飛ばされ受け身を取ることなど出来ずに地面に崩れ落ちる』


    霧切「結お姉さま!!!!」ダッ!


    アルターエゴ『霧切は五月雨の元へ駆けよった』

    霧切「結お姉さま!しっかりして!!」

    五月雨「霧切ちゃん…逃げ……て……」ガクッ!

    霧切「結……お姉さま?」

    松田「安心しろ…殺しちゃいねえよ」

    霧切「!?」

    アルターエゴ『松田はいつの間にか背後に居た。それも剣を構えて』

    松田「こいつらは見たところ脅威にならなそうだからな。後で情報を吐かせる……どんな手を使ってもな」

    霧切「そんな!!」

    松田「安心しろ…お前は違う」スッ

    アルターエゴ『松田は切っ先を霧切の喉元に向けこう続ける』

    松田「お前は厄介そうだからな…ここで殺しておく」

    霧切「…!!」

    苗木「そ、そんな!!殺すなんて!!」

    松田「黙ってろアホ毛!…これが戦争だ。自分だって殺されかけたくせに何言ってやがる!!」

    苗木「それでも…ダメだよ…」

    松田「敵に情が沸いたのか?くそアホ毛」

    苗木「情が沸く以前だよ!殺すなんて!!」

    松田「お前は甘いんだよ!動けないほど疲弊してやがるくせに何言ってやがる…」

    苗木「煩い!!」

    松田「ああん?」

    苗木「甘いとか、何て言われたって良い…だけど!」ググッ

    アルターエゴ『苗木は、既に動けないほど重傷の体で立ち上がろうとする』

    松田「アホ毛……俺とやる気か?お前じゃ俺には勝てないぞ」

    苗木「……勝てる勝てないかじゃない…今僕はここで君に立ち向かわなくちゃいけないだ!!」ザッ!!

    『精神集中』

    アルターエゴ『そして、苗木は立ち上がる…その目に確かな闘志を燃やして!!』


  129. 129 : : 2014/04/20(日) 16:36:17
    “松田夜助”

    もはや彼は一つのブランドである。

    普段は“英雄”の右腕として常に寄り添い、幅広くサポートするお世話係と言ったところだが、戦場での彼は別物。

    戦場で彼の名前を出せば、敵は震え、剣を置いて逃げ出す程。

    彼が【精神集中】の魔法を編み出したことは、魔法全書の歴史に名を刻む偉大な功績であり、使用者は限られるものの、その効果は絶大であるとされている。

    故、敵国にもその名は知れ渡っており、数名の【精神集中】使いが確認されている。

    また、最新の調査によるとこの魔法はその血に流れる魔力によって遺伝も可能であることが実験により証明された。

    未来には兵士全員を【精神集中】使いにすることも可能であると、魔法大臣は発表している。

    (希望の国魔法全書1117P 松田夜助の項目より抜粋)


    苗木(…その松田くんが、今ここで!僕の目の前に立ちはだかっている…)

    苗木(でも…君は間違ってる。どんな理由であれ、人を殺していい理由なんてない!)

    松田「…なぁアホ毛。そこの女達に何かされたのか?」

    苗木「! 何かって…」

    松田「まさか…裏切るなんてことねーよな」

    苗木「裏切るわけじゃないよ…ただ、君の間違いを正す!」

    ダッ!

    アルターエゴ『苗木が一気に駆け寄り、剣を振るう!』

    ブン!

    苗木「ッ!?」

    松田「後ろだ」

    苗木「!」

    ブン!

    アルターエゴ『声の通り後方に剣を振るが…これもまた外れる』

    松田「なぁ、お前が一度だって俺に勝ったことがあったか?」

    苗木「……!」

    苗木(また…後ろをとられた)

    松田「俺が敵だったらお前はもう二度死んでる」

    苗木「!!」

    松田「いいかアホ毛…よく考えろ。ここで俺に刃向かってなんのメリットがあるのか。状況を整理しろ。お前は女を見つけるために来たんじゃないだろ?」

    苗木「……そういうことじゃないんだ…」

    松田「…あのなぁ。そういうことにしといてやろうとする優しさだと理解しろ」

    ドン!

    苗木「ぐっ!」ドサッ!

    アルターエゴ『背中を蹴られ、前のめりに倒れる。倒れる苗木の背中に、松田は腰を下ろした』

    苗木「………君は間違ってる…」

    松田「…間違いなんてねぇ。戦争では勝った方が正義だ」

    松田「わかっただろ。お前がにわか仕込みの【精神集中】を使ったところで俺相手にはこのザマだ。ましてや敵にすらボコボコにされてたお前が、俺に勝てる道理なんて一つも…」

    苗木「…それは違うよ!!」

    松田「!!」

    ガクッ!

    松田「! お前!いつの間に俺の上に!」

    アルターエゴ『苗木が発言した直後、苗木と松田の位置が逆転した!』

    苗木「…松田くん。僕の全てを賭けてでも!ここで君を止める!!」

    松田「……そうか」

    アルターエゴ『松田が起き上がる。あまりの気迫に、苗木は思わず一歩下がる…が、再び剣を握り気合いを入れ直す』

    松田「今日この瞬間から、お前は反逆者だ」

    苗木「………」

    松田「…反逆者は見つけ次第殺すってのがモットーだ。悪いなアホ毛。楽しかったぜ」

    苗木「……松田くん」

    苗木(………来る…松田夜助の、本気の本気が!!)

    松田「【精神集中・更改】!!!」キッ!!!
  130. 130 : : 2014/04/20(日) 20:00:12


    ーーーーーーーーーー




    舞園「そのまま突っ込んでください!!」

    日向「わかってるよ!」

    日向(ここだけ聞くと卑猥)

    舞園「刺し殺しますよ!」

    日向「じょ、冗談だよ!!!」ダッ!

    アルターエゴ『日向はソニアに向け進む足を速める』

    ヒュンッ!

    アルターエゴ『それに呼応するように宙に浮かぶ包丁もソニアに向かう……が』

    ソニア「そんな攻撃くらいません!『王女の命令』(グラビトン・ザ・ギブ)」

    ヒュー

    アルターエゴ『包丁はその声と共に刃の向きを下に変え……重力に抗うことなく落下した。』

    日向「おいおい、これってまさか…」

    アルターエゴ『そう。包丁のある位置は日向の上部…つまり』

    日向「俺に突き刺さるじゃねえか!!」スッ

    舞園「動かないでください!!!」

    日向「っ!」ピタッ

    アルターエゴ『直ぐ様その場から飛び退け被害を最小限に済ませようとする日向、だがその足は舞園の制止により止まる』

    サクッ!サクッ!


    日向「…………」

    アルターエゴ『全ての包丁は、日向の肌をかすめることなど一切なく、地面に突き刺さる』


    舞園「やっぱり…下にしか向けられないようですね」

    ソニア「何故ですか!?」

    舞園「彼の上だけに包丁を配置してなかったですよ……それに…」

    ソニア(なんでバレてしまったのでしょうか!)

    舞園(…筒抜けです)


    日向「おいおい、俺はそのための囮だったのかよ…」

    舞園「確証はありましたよ。もしそうじゃないなら最初の攻撃を私に向ければ良いわけですから」ニコッ

    日向「……はあ、それで分かったからどうなるんだ?」

    舞園「私達の勝ちです。」

    日向「は!?」

    舞園「任せてください!」ニコッ


    ーーーーーーーーーー


    十神「ハァ!!」

    アルターエゴ『十神の動きとリンクし、太陽の化身が田中に迫る』

    田中「させるものか!!」

    ヒュオオオオオオ!!!

    アルターエゴ『一瞬で田中と太陽の化身の間に氷の壁が出来る…………のだが』

    十神「そんな壁…無いものと同じだ!」

    ジュオッ!

    アルターエゴ『太陽の化身が氷の壁に触れると同時にその氷は溶け水となり、熱によって蒸発した』

    十神「ハッ、一瞬しか役に立たなかった……死ね」

    田中「フハハハハ、やはり貴様はガキだ。一瞬時間がかせげれば、我が真の力を見せるのは容易いことなんだよォ!!!」

    十神「!!」

    アルターエゴ『その時十神は気づいた……自身を取り囲む無数の氷柱に』

    田中「自らの化身を己の身から離すなど愚の骨頂………死ぬのは貴様だ!!『千本氷柱』(インフィニティーレイン)!!!」

    アルターエゴ『大量の氷の刃が無防備な十神に迫る!!』



  131. 131 : : 2014/04/21(月) 07:42:01
    十神「くっ!(防御が間に合わん!!)」

    ザクッ!!ザクザクザクザクザク!!

    アルターエゴ『一本が刺さると、もう止まらない。残る全ての刃が十神の身体を容赦なく貫いて行く』

    十神「─────ッ!!!」

    アルターエゴ『絶叫。今まで体験したことのない痛みが全身を襲う。氷の冷たさも相まって、体力がみるみる奪われる』

    田中「ふんっ。乳臭さの残ったガキが戦争に来るからこうなるのだ」

    アルターエゴ『十神は、今までその能力故ほぼノーダメージで勝ってきた。敗北は経験したことがない。それが彼のプライドでもあった』

    アルターエゴ『……が、その男は今、倒れている。初めての戦争…初めての殺し合いで、初めての敗北。3つの初めてを同時に経験することになった』

    十神「…………」

    アルターエゴ『……が、これから先、彼にその経験を生かす機会は永遠に訪れないのである…』


    ━━━━━━━━━━


    弐大「……ワシはずっと最前線で戦ってきた根っからの戦士!!たとえ相手が“英雄”だろうと、全力で殺すまでじゃッ!!」

    弐大「うおおお『自立する暴走機関車』(ビルド・ホーン)!!」

    アルターエゴ『今度は弐大自身が巨大な角となり、まるで闘牛のように江ノ島に向かって突進する!』

    澪田「あれは猫丸ちゃんの必殺魔法っす!当たったら即死かよくて余命3秒っす!!」

    ドドドドドドドドドドドドドドド!

    セレス「…手は貸せますわよ?」

    江ノ島「いらないいらない」

    アルターエゴ『対する江ノ島は、いつも通り剣を構える』

    弐大(ぬぅ…剣!となれば、真っ向勝負で負ける要素ナシ!!)

    アルターエゴ『弐大はさらに魔力を練り込め、その身体の色が赤く変色する!その見た目はまさしく闘牛そのもの!!』

    江ノ島「…こういう奴は対処が簡単なんだよ」

    ドドドドドドドドドドドドドド!!

    江ノ島「馬鹿正直に受けるんじゃなくて」

    ドドドドドドドドドドドドドドド!!!

    江ノ島「流すっ!!」

    チャキン!

    セレス「! (刀で相手の先端をつき、そのまま力を流しながら自分は横に移動…相手は目標の居なくなった正面にまだ突進し続ける……)」

    ドドドドドドドッ!!キキィィ!!

    弐大「無駄じゃ無駄じゃあ!!お前さんを貫くまでこのワシは止まらぬ!!」 

    アルターエゴ『再び、江ノ島に向かって突進!』

    江ノ島「………じゃ、止まらせようか」

    江ノ島「『大切な使い捨て』(グングニル)!!」

    アルターエゴ『地面から、複数の槍が出現!それが弐大の足に突き刺さる!』

    ブシュウ!

    弐大「っ!」

    江ノ島「……ほら、止まった」ウププ

    弐大「ぐぬぬぬ……」

    セレス(……いとも簡単に相手の魔法を止めた…そして…もうチェックメイトまで…)

    澪田「そ、そんな…」

    江ノ島「悲しいけどこれ現実なのよね。最後に言いたい言葉ある?」

    弐大「………」

    江ノ島「あらあら、もったいない」

    ザクッ!!

    江ノ島「ま、言わせなかったけどね」

    江ノ島「……じゃ、次は2人…」

    澪田「!」

    罪木「ひ、ひぃぃ!」
  132. 132 : : 2014/04/21(月) 23:17:52
    二人とも息合いすぎ!!
    途中からリレーなの忘れてましたわwww
  133. 133 : : 2014/04/21(月) 23:56:33
    >>132
    文化祭から2回目ですからねw
    ベータさんが必ず軌道修正してくださるので安心して書けます
  134. 134 : : 2014/04/22(火) 19:03:27
    相性がいいんですね!きっと!
  135. 135 : : 2014/04/22(火) 21:31:35
    >>132
    違和感が無いのなら凄く良かったです!(笑)

    そう言ってもらえる嬉しいです!!
  136. 136 : : 2014/04/22(火) 21:31:44


    ーーーーーーーーーー

    田中「フッ…造作もないな。ソニア!今行くぞ!!」

    ソニア「田中さん!!」

    舞園「まずいです…私と彼らとでは相性が悪すぎます…」

    舞園(そして…十神君の声が途切れてしまいました……まさか…)

    日向「おいおい、俺のことを忘れてんじゃねーだろうな?」

    舞園「分かってますよ!」

    舞園(自身の強さを理解していない…つまり弱いと言うことくらい……だから…)

    舞園「……もうダメ…無理なんです」ヘタリッ


    アルターエゴ『圧倒的な力の差を目の当たりにして、地面へヘタリ込む舞園…』

    日向「はぁ?勝手に諦めてんじゃねぇ……ッあ!?」

    バンッ!

    アルターエゴ『舞園への激励の言葉を阻むように突如不可解な力が日向を襲う』


    日向「ぐぁァァぁ…!!」ミシミシ

    アルターエゴ『日向の体は地面にめり込み、圧迫された身体からは嫌な音が鳴り出す』

    舞園「日向さん!!」

    ソニア「……悪く…思わないでください!」

    アルターエゴ『日向を襲う謎の力の正体はソニアの技によるものだった』

    舞園「やめて!!」ブンッ!

    アルターエゴ『舞園は、それを止めるために…そして日向を助けるために刃を放つ……が』

    田中「させるものか!!」

    カンッ!

    舞園「なッ…」

    アルターエゴ『それは無慈悲にも氷の壁に阻まれた』

    田中「フハハハ!!諦めろ人間…貴様らも奴のように黄泉の門の供物にしてやろう!!」

    舞園「……くっ…」


    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『場面は切り替わり』

    十神「……」

    (死ぬ…寒い……)

    アルターエゴ『大量の血を失い、このままでは、もってあと数分の命』

    (………………)

    アルターエゴ『既に思考すら出来なくなった彼が見たものは…』

    舞園『……くっ…』

    日向『ぐぁァァぁ!!!』

    十神「……」

    アルターエゴ『かつて相手だった同級生と見ず知らずの他人』

    十神(アイツなら…この時立ち上がるのか?……いや…立ち上がるに……決まっている)グッ

    アルターエゴ『身体に力を入れ立ち上がろうとする十神……だが』

    十神「っ…」

    アルターエゴ『彼に立ち上がる力などあるわけがない…何故なら死ぬのだから…死ぬ人間が立ち上がるなんてあり得ないことなのだから…』

    十神(俺は…俺は…)




    ~~回想~~



    十神『お父様……』

    十神父『大丈夫だ…怖くない…お前の力を上書きするだけだ』

    十神『俺は太陽の化身なんか要らない!!』

    十神父『我が儘を言うな』

    十神『だって、俺には…』

    十神父『これは代々受け継がれて来たものなんだ。十神家繁栄の影にはこの力が大きく関わっていると言っても過言では無い…』

    十神『俺が断ったらどうなる?』

    十神父『きっと…十神家は滅ぶ』

    十神『ッ!!……分かった。上書きでも何でも好きにすればいい』

    十神父『…………そうか』


    …………………

    ……………

    ………


    アルターエゴ『そして月日は流れ戦争前夜』




    十神「珍しいなアンタが俺を食事に誘うとは」

    十神父『なあ、白夜』

    十神「なんだ?」

    十神父『…死ぬなよ』

    十神「当然だ。俺はエリートだぞ?その資格である太陽の化身も完璧に使いこな──」

    十神父『いざとなったらその化身を捨ててもいいからな』

    十神「ハッ、何を言うかと思えば…こんな使い勝手の良い力を手放すわけないだろう」

    十神父『お前が十神家のためにそれを使役してくれているのは分かる……だがな白夜。一度しか言わないから良く聞け』

    十神「……なんだいきなり、気持ち悪いぞ」

    十神父『父さんと母さんには十神家より大切なものがある………それはな───』

    ……………………

    ……………

    ………


    ~~回想終了~~


    ーーーーーーーーーー

    十神「そうだ…俺は、俺はエリートなんかじゃない…いやエリートじゃ無くなっても良い……だけど…俺は誓った。生きて帰るとな!!」ググッ!

    パァァンッ!!

    アルターエゴ『十神がそう言うと同時に、十神の動きに連携し地に伏せていた太陽の化身が爆散した』

    ゴォオオオオオ!!!

    ソニア「な、何ですか!?」

    田中「落ち着けソニア!」バッ!

    アルターエゴ『謎の爆発の答えを見つけるため背後に目を向ける田中』

    田中「な…何ィ?!」

    アルターエゴ『田中が驚くのも無理は無かった…。十神の傷は癒えていた。…そして十神は立っていた』

    田中「貴様ァ死んだはずであろう!何故だ!!」

    十神「確かにエリートである俺は死んだ…」

    アルターエゴ『十神は何かに誓うようにこう続ける』

    十神「だから俺は…俺としてお前を倒す!十神の名ではなく…十神白夜の名に掛けてだ!!!」


  137. 137 : : 2014/04/23(水) 06:56:17
    田中「…力の差を知り、一度は絶望の淵へ落ちたにも関わらずこの俺様に挑むその勇気は認めよう」

    十神「以前の俺とは違う。見くびるなよ」

    ソニア「控えおろう!!」バッ!!

    十神「!」

    ズゥゥゥン…!!

    アルターエゴ『十神の体が、地面に引き寄せられる!』

    十神「ぐ……」

    田中「…その命、神に返してもらおう」

    シュン!

    田中「!」

    アルターエゴ『田中の鼻先を、刃物がかすった』

    舞園(外した…!)

    田中「……ほう」

    舞園「……逃げてください」

    日向「え?」

    舞園「…ここは私が時間を稼ぎます。逃げて、英雄に救援を要請するなりして、生きてください」

    日向「ま、待ってくれ!俺は…」

    アルターエゴ『…その先の言葉が出ることはなかった。気がついたら、日向は敵に背を向け、走っていたのだから』

    舞園(…これでいい)

    田中「…終焉を迎える時が来たようだな。まとめて消え去れ!我が最大の魔法で!!」

    アルターエゴ『田中が両手を挙げると、大量の魔力が練り込まれていく!』

    田中「『絶対零度の炎』(イン・ダークネス)!!」

    舞園「お、大きい…」

    観客(ここだけ聞くと卑猥だな)ゴクリ

    十神「………うぉぉ……!」

    ソニア(…ッ!だんだん重力が跳ね返されてきています…!)

    十神「……いくぞ……本当の俺の魔法…!!」

    バキィィイン!!

    ソニア「! そんな!重力が押し返されるなんて!おったまげーですわ!」

    ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


    ━━━━━━━━━━


    江ノ島「……ふぅ。いっちょあがり」

    セレス「…なるほど。さすがは“英雄”ですわね」

    澪田「………」

    罪木「………」

    江ノ島「からかうなっての。そんなこと微塵も思ってないくせに」

    セレス「…あら、失礼」クスクス

    江ノ島「まぁいいけどさ。あんたまだ魔力は残ってるの?」

    セレス「ええ」

    江ノ島「そ。じゃああんたあっちね。あたしこっち」

    セレス「…みんなを探すのですね?了解ですわ」

    江ノ島「ん。じゃあまた帰りね」

    アルターエゴ『手をひらひらさせて、江ノ島は行ってしまった』

    セレス「…では、私も……」


    ━━━━━━━━━━

  138. 138 : : 2014/04/23(水) 19:25:23



    ソニア「この力…まさか肉体強化系なのですか!?」

    田中「案ずるな!俺様の魔法の礎(時間稼ぎ)にはなった!」

    アルターエゴ『十神が自身に降り注ぐ重力を跳ね返したとき、すでに魔法は目と鼻の先に迫っていた…』

    田中「地獄の業火に焼かれろ!!!」

    十神「くっ……!」

    アルターエゴ『その巨大な燃える氷塊は十神の身体を貫いた。そして十神の身体は炎に包まれる』

    ゴオオオオオオオ!!!

    田中「フッ…造作も無いな。ネズミに一匹逃げられたがこの際仕方ない。」


    十神「おい、誰が造作ないだって?」

    田中「なッ!!貴様…今確かに…」

    十神「ああ、確かに俺の身体を貫いたな」

    田中「ならば…ならば何故!!」

    十神「フンッ…おい女!」

    ソニア「わ、私ですか?!」

    十神「そうだ。貴様先程俺の魔法を肉体強化と言ったな?」

    ソニア「そうですが、肉体強化にそんな治癒魔法のような力は!!」

    十神「おい、ならば男の方。貴様なら分かるだろう?不死の肉体を持つ、太陽という最大級の炎に抑圧されていた俺の力の正体が…」

    田中「…ま、まさか……いやあり得んぞ!!」

    十神「フン。どうやら答えに辿り着いたようだな…」

    ソニア「田中さん!どういう?!」

    田中「お前の力は…不死鳥〈フェニックス〉のそれと同等と言うのか!!」

    十神「…半分正解だ」ニヤリッ

    田中「半分…だと?残り半分は何だと言うんだ!!」

    十神「教えてほしければ…俺を殺し尽くして見ろ!」バッ!

    アルターエゴ『十神のその一言と共に、十神の背中に大きな炎の翼が作り出される』

    十神「まあ…貴様には無理だろうがな!!!」ゴォッ!

    アルターエゴ『そして十神は文字通り飛んだ…田中目掛け一直線に!!』



    ーーーーーーーーーー

    アルターエゴ『更改…それは古いきまりやしきたりを新たなものに変えること……つまり』

    松田「アホ毛……いや反逆者。これはお前に見せてない技だからな。お前の常識は…通じねえぞ」ヒュンッ!

    苗木「!!」

    アルターエゴ『言い終わると同時に苗木の視界から松田の姿が消えた。正確には目が追い付かなかっただけなのだが…』

    苗木(くそっ、右と左どちらから来る!!)

    松田「後ろだ」

    ゴスッ!!

    苗木「ッぁぁ!!!」

    アルターエゴ『松田の正拳突きをくらい、苗木の肉体は嫌な音を立てながら吹き飛ばされ地面を転がる』

    苗木「くそッ」グッ!

    アルターエゴ『苗木はその転がる力を利用しながら立ち上がろうとする………だが』

    ガンッ!

    苗木「!!」

    松田「無様に地を転がる………まるでサッカーボールだな──」

    アルターエゴ『いつの間にか追い付いた松田の靴底で強く踏まれ立ち上がることなど出来なかった』

    松田「──そんなに転がることが好きなら、もっと転がしてやるよ!!!」ブンッ!!

    苗木「がハッ!!!!」

    アルターエゴ『松田は苗木の横腹を躊躇無く蹴り抜く。そして苗木は力に、抗うことなど出来ずにまた地を転がる』

    苗木「ッ……ぁ…」



    アルターエゴ『これが松田夜助の本当の力。それに苗木は何一つ為すすべが無かった。…ただ有るのは圧倒的な力量差……それだけだった…』



  139. 139 : : 2014/04/23(水) 20:04:37
    苗木「ぐっ!」

    松田「その目、まだ諦めてねぇな」

    アルターエゴ『剣を杖代わりに、よろよろと立ち上がる』

    松田「おいおい、剣は杖じゃねぇって何度教えたらわかるんだアホ毛」

    カンッ!

    苗木「うっ!」

    アルターエゴ『剣を蹴り飛ばされ、軸としていた物が消えたことから苗木は再び倒れる』

    松田「……しまいだ」

    アルターエゴ『その時、松田の視界が何かに覆われた!』

    バサバサバサ!!

    松田「!」

    ブォン!

    松田「………」

    アルターエゴ『腕でその何かを振り払い、再び視界が戻った時には』

    松田「…チッ」

    アルターエゴ『苗木の姿が、消えていた』


    ━━━━━━━━━━


    アルターエゴ『さっきの場所から、少しだけ離れた所──』

    苗木「ぶはっ!」

    セレス「苗木くん。大丈夫ですか?」

    苗木「はぁ…はぁ…セレスさん…」

    セレス「…たまたま通りかかったら、あなたが松田くんに襲われていたものでしたから…何かあったのでしょう」

    苗木「……セレスさん、僕と居ちゃだめだ」

    セレス「………?」

    苗木「僕と居たら…君まで…」

    セレス「…事情はわかりませんが、とにかくその傷を治すところから始めましょう」

    セレス「………国に戻って、病院に向かいなさい。あなたはよくがんばりました」 

    苗木「…違うんだ。僕は…もう…」

    苗木「…希望の国の人間じゃ…ないんだ…」

    セレス「………え…?」

    苗木「助けないと…あの子達を…」

    アルターエゴ『やっとこさ体を起こして、ふらふらとした足取りで歩き出す。全ては、あの2人を助けるため…それだけが苗木の体を動かしていた』

    セレス「苗木くん…」


    ━━━━━━━━━━

    田中「ほざけぇ!」

    アルターエゴ『田中が再び氷の刃をぶつける!が!!』

    十神「うおおおお!!」

    田中「ま、まだ倒れぬか!」

    アルターエゴ『何度魔法をぶつけても起きあがる相手に、田中は次第に恐怖を覚えつつあった。そして、それは焦りを作り…』

    十神「ふんっ!」

    バキッ!

    田中「ぬおぉっ!」グラッ…

    ソニア「田中さん!」

    ソニア(く…重力が通じません!)

    十神「どうした…動きが鈍っているようだが」

    田中「笑止!」

    アルターエゴ『氷の刃を形成し、もはや何度潰したかわからない心臓に向けて放つ!』

    ザクッ!

    アルターエゴ『それは確かに心臓を貫いた…だが!』

    十神「ふんっ!」

    ドガッ!

    田中「ッ!」

    田中(なぜ…動ける!!)

    十神「…ふんっ、その命、神に返してもらおう」

    田中「…なんだと……」

    アルターエゴ『だが、田中は確かな説得力をそこに感じていた』

    アルターエゴ『………もう勝負はついたも同然』

    十神(動きが鈍くなっている…今の貴様は、蛇に睨まれた蛙だ!)

    十神「さぁ…終わりだ!」

    アルターエゴ『背中の翼が、朱く煌めく!』

    十神「『帝王の翼』(ドーントレス・ヴァーミリオン)!!」

    アルターエゴ『煌めく翼は魔力の塊!それらが全て田中とソニアに向かって放出されていく!!』

    ゴォォォォォオオオオオ!!!

    田中「そ、その程度!我が最大魔法で打ち返せる!」

    田中「『絶対零度の…

    アルターエゴ『魔力を両手に込め、具現化しようとする、その時!』

    ズバッ!

    アルターエゴ『その魔法を、一閃!』

    田中「ばかなっ!」

    舞園「ふふっ。私を忘れないでください!」

    十神「よくやった舞園!」

    アルターエゴ『そして、十神の魔法が、田中とソニアを包み込み…』

    田中「う、ウオオオオオオオオオ!!!」

    ソニア「キャァァァアアアアアア!!!」

    ドォォォオオオオオオ………


    ………………………


    ………………


    …………


    ……






    アルターエゴ『……背中の翼が無くなった時は、すでに消し炭すら残っていなかった』


    アルターエゴ『十神白夜と舞園さやか、後にこの戦争がきっかけで名を上げることになる』
  140. 140 : : 2014/04/24(木) 19:51:38



    ーーーーーーーーーー


    松田「残念だったな。お前を守ってくれてたアイツが消えちまったぞ」

    霧切「ええ、そうね。正確には連れ去られたように見えたのだけど…」

    アルターエゴ『松田と霧切の距離は数歩程度、今の松田ならば一瞬で命を奪える状況で彼は口を開いていた』

    松田「まあ、今からお前を殺すわけだが何か言いたいことはあるか?辞世の句ぐらい聞いてやるぞ」

    霧切「…敵にわざわざ言わないわ……ただ…」

    アルターエゴ『そこで彼女は口ごもる』

    松田「ただ…何だ?」


    アルターエゴ『霧切は二位と呼ばれる通り、かなりの実力者である。弐大や田中の上をいく実力──正確にはポテンシャルをもつ』

    アルターエゴ『そんな彼女は今まで、庇われることはあれども守られることは一度も無かった。今の今まで…』


    霧切「御願いがあるの…」

    松田「……願いか…」

    アルターエゴ『松田は一瞬…ほんの一瞬だけ考え込むと…』

    松田「……お前にとっては最期だからな。無理じゃない程度には聞いてやるよ」

    アルターエゴ『そう、曖昧な返事を返す』

    霧切「……そう良かったわ」

    アルターエゴ『頭の良い霧切なら、曖昧な返事をされたと言うことは理解できたはず。それでも彼女はそこに追求するのではなくこう続けた』

    霧切「彼……さっきの少年の命を見逃してくれないかしら?」

    松田「……なんでだ?アイツはお前の敵だぞ?」

    霧切「………分からないわ…。だけど、彼には死んでほしくない……そう思ったのよ」

    アルターエゴ『松田は難しい顔をしたあと、ため息を漏らしながらこう言った』

    松田「はぁ、これがアホ毛の人徳っていうやつなのか…?」

    松田「ったく、分かったよ。殺さねえ」

    霧切「本当に?」

    松田「本当だ。もし本気で殺す気ならセレスティアなんとかに連れていかれる前に殺していたからな…」

    霧切「ふふっ、やっぱり彼のことを殺す気は無かったのね」

    松田「今の所はな、だがお前は違うぞ?」

    霧切「ええ、好きにすれば良いわ」

    松田「…最後に1つ聞きたいことがある。」

    霧切「何かしら?」

    松田「俺がアホ毛を殺すつもりが無いと気付いていた上でなんであんなことを言った?」

    霧切「大した理由は無いわ。ただの罪滅ぼしよ…」

    松田「そうか…やっとスッキリしたぞ」ザッ

    アルターエゴ『松田は霧切へと剣を構え足を踏み出した…そして』



    松田「……あばよ」ブンッ!!



    アルターエゴ『死を覚悟し、目を閉じた霧切に向け、松田は無慈悲に剣を振り下ろす!!』

















    霧切「…………?」


    アルターエゴ『が、その剣は霧切に届かなかった…何故なら…』



  141. 141 : : 2014/04/24(木) 21:22:08
    アルターエゴ『その剣は、振り下ろす途中で不幸なことに折れてしまったからである』

    松田「……?」

    アルターエゴ『カランカランと音をたてて、刃の部分がぽっきりと折れ、地面に落下していた』

    松田「………チッ…ついてねぇ」

    霧切「……あら、ツキが回ってきたのかしら?」

    松田「…仕方ねぇ。せめて最後はひと思いに斬り殺してやろうと思ったが」

    グッ!

    霧切「!」

    松田「悪いな。苦しんで死ね」

    アルターエゴ『霧切の首を掴み、一気に力を込める』

    霧切「カハッ…」

    アルターエゴ『あまりの苦しみに目から涙が溢れ、口は空気を求めてぽっかりと開き、生にしがみつくように、手足がバタバタと動き出す』

    アルターエゴ『…その気になれば、無抵抗の霧切くらいなら一瞬で命を奪うことは可能だった。しかし、それをしないのは……』

    苗木「やめ……ろ……」

    アルターエゴ『近くに、苗木の気配を感じたからだった』

    松田「アホ毛。わざわざ戻ってくるとはご苦労なこったな」

    セレス「苗木くん!」ダッ

    松田「セレスティアなんとか…お前は他を当たれ。ここはもうじき終わる」

    セレス「……松田くん、説明をしてください。何故苗木くんを攻撃していたのか…」

    松田「苗木は反逆者になった。それだけだ」

    セレス「…ですが、苗木くんが反逆など…」

    松田「嘘だと思うか?残念だが本当だ。この女の次は苗木、お前だ」

    霧切「グゥ………」

    苗木「させ…ない……」

    松田「……おいおい、お前はもう虫の息じゃねぇか。そこで己の弱さを噛みしめてろ」

    セレス「………苗木くん……」

    苗木「…セレスさん、ごめん……」 

    セレス「…………」

    アルターエゴ『セレスは顎に手を置き、考える仕草をとる。…少しして、考えがまとったようだ』

    セレス「…松田くん、その人を助けてあげられないでしょうか?」

    苗木「!?」

    松田「あぁ!?なんの冗談だ!」

    セレス「苗木くんにもきっと理由があるはずです。例えば、彼女が何か重大な秘密を握っていて、殺すのはまだ早い…なんてことも考えられませんか?」

    松田「それならそう言えばいいだけの話だ」

    セレス「…彼女に弱みを握られていて、直接伝えることができなかった。というケースもあると思いますが…」

    苗木(セレスさん…僕をかばおうと!)

    松田「………ほう」

    アルターエゴ『手を放し、霧切を解放する』

    霧切「!! ゲホッ…ゴホッ…!!」

    松田「おい…お前、何か握ってるのか…」

    霧切「…………」

    霧切(……ここの選択で…決まる…)

    霧切「……私は…」
  142. 142 : : 2014/04/25(金) 09:58:17
    良いところで更新止まるなーww
  143. 143 : : 2014/04/25(金) 13:14:47
    お互い学校がありますからねw
  144. 144 : : 2014/04/25(金) 13:24:30



    アルターエゴ『死と隣合わせの状況…その場で霧切は──』


    霧切「私は…何も知らないわ。」


    アルターエゴ『──知らない。つまり何も無いという、誰もが予想しえない答えだった』

    苗木「!!」

    セレス(いったい…彼女は何を……)

    霧切「正確には覚えていない、が正しいんでしょうけどね──」グッ

    アルターエゴ『霧切は首を絞められた際目元に溜まった滴を拭う』

    松田「ほう、やはり殺すことに支障は無いみたいだな…」スッ

    アルターエゴ『松田は再び霧切の喉元に手を伸ばす』

    霧切「──だけど」

    ピシッ!

    松田「ッ!」

    アルターエゴ『松田の表情が歪む。それもそのはず、霧切は凄まじい力で松田の腕を払いのけたのだ』


    松田「女…まだこんな力が…」


    霧切「貴方が私を殺した後に彼を殺すと言うのなら…私は死ねないわ!!」


    アルターエゴ『霧切…即ち絶望二位の彼女は、希望側最強の男とされる松田に、一ミリも臆せずにそう言った』




    ーーーーーーーーーー



    江ノ島「ふふふっふ~♪」

    アルターエゴ『江ノ島は戦場におよそ似つかわしくない鼻声を響かせながら、ランランとスキップしていた』

    アルターエゴ『剣と鎧…そして辺りが荒野でなければそれは絵になっていたかもしれないが、ここは戦場。分かることは彼女が浮き彫りになっている事実だけである』

    江ノ島「ん?」

    アルターエゴ『そんな中江ノ島は見た。見て気付いてしまった。』


    左右田「…これからどうすんだよ」

    西園寺「分かんないよ…」

    小泉「日向を連れ戻すに決まっているでしょ!」


    アルターエゴ『本来ここに居るべきでは無い希望の国の住人の姿に…』

    江ノ島「…」ニヤッ

    アルターエゴ『江ノ島の笑みとともに、パチッと音をたてるように、最悪の思考が彼女の体を駆け巡った』



    ーーーーーーーーーー


    舞園「…………」

    十神「ふう、終わったな。愚民にしてはよくやった」

    アルターエゴ『舞園に向け、珍しく労い(ねぎらい)の言葉をかける十神……だが』

    舞園「……………」

    アルターエゴ『舞園は明後日の方向を向き、十神を視界に入れようとすらしない』

    十神「おい!!俺様を無視するとは良い度胸だな!」

    アルターエゴ『そう、言いながら舞園の肩を掴もうとる十神……なのだが、それが出来ることはなかった…なぜなら』

    ブシャアァァアッ!!!

    十神「!!」

    アルターエゴ『辺りに鮮血が飛び散る。いや噴射のように噴き出されていると表すのが正しいだろう…』

    十神「どういう…」



    アルターエゴ『そこには、鼻から血を垂らしながら、電気を流された蛙のようにヒクヒクする女がいた』

    ジェノ「パンツ一枚とか……反則…」ヒクヒク

    アルターエゴ『そして不穏な発言』

    十神「え?」スッ

    アルターエゴ『反射的に十神は自身の身体に視線を落とす』


    十神「なッ!」

    アルターエゴ『その姿は、煤に汚れパンツ一枚だった。それもそのはず先の死闘肉体は再生しても服は回復しない…つまり!』

    十神「俺はパンツ一枚で戦っていたのか…」


    舞園「気付いたのなら、どうにかしてくださいっ!!」


    アルターエゴ『一気に羞恥の心に押し潰される十神、だが敵を前にしてそんな暇はない。十神は、キッと敵を見据える…が』


    腐川「血…血がァ~」ガクッ

    十神「………え?」


    アルターエゴ『十神白夜またもや WIN』



  145. 145 : : 2014/04/25(金) 15:18:45



    ━━━━━━━━━━


    松田「ほぅ…それはお前が俺を知ってて言ってるんだな」

    霧切「当然よ、松田夜助」

    松田「……なめられたもんだ。傷だらけの女と傷だらけのアホ毛が、まだ勝てる気でいやがる」

    霧切「…どうかしら?さっきまで【精神集中】を使っていたのだから、少なからずあなたにも負担はあるはずよ」

    松田「………なるほど」ニヤ

    シュン!

    アルターエゴ『緑色の光が、松田を包む!』

    霧切「!」

    松田「悪いが、俺は回復魔法も会得している。魔力がある限り、俺に負担はない」

    霧切「……そう。まぁいいわ。弱ったところを狙うなんてハイエナみたいなこと、したくないもの」

    松田「…まだ冗談が言えるか」

    苗木「…だめだ……君が…死んだら…」

    セレス「………」

    霧切「……守ってくれて、ありがとう」

    苗木「霧切さんっ!!」

    霧切「! …あら、名前を覚えていたのね」

    苗木「あ…眼鏡の子が読んでたから」

    霧切(戦闘中に、そこまで頭が回るのね…)

    霧切「あなたは…苗木くん、だったかしら?」

    苗木「! そうだよ!僕は苗木…苗木誠だ」

    霧切「ふふ…まだ動ける?」

    苗木「…もちろん……」グッ

    セレス「苗木くん!動いてはだめですわ!」

    苗木「ごめん…僕はもう戻れない。さっきもかばってもらったけど……本当にごめん」

    アルターエゴ『傷だらけの体にムチを打って、立ち上がる。もう何度目だろうか。苗木は、とにかく自分を騙し続けた。まだやれる、まだやれると…』

    セレス「苗木くん…そんな……」

    松田「…2vs1だろうが、俺には何も関係ない。どっからでもかかってこいよ絶望…!!」キッ!!

    霧切「…甘く見ていると、痛い目見るわよ」キッ!!

    苗木「…僕も…負けない……!」キッ!!


    「そこまでだ!」

    松田・霧切・苗木・セレス「!」
  146. 146 : : 2014/04/25(金) 17:26:30



    アルターエゴ『聞こえたのは、人の声とは思えない無機質な声。どうやら魔法で声を変えているようだった』

    松田「お前……何者だ」

    「……」

    松田「っち。答えるつもりは、ねぇか」

    アルターエゴ『立っていたのは、外見からして成人の男性…だが顔は仮面で覆われて分からない』

    松田「じゃあ、質問を変える。お前は何を止めようとしている?」

    「殺させない…計画のために……まだ」

    松田「意味が分かんねぇぞ。……つまりお前は、俺の邪魔をしに来たってことで良いのか?」

    「ああ」

    松田「そうか…じゃあ、死ね!!」ヒュンッ!!

    苗木「!!」

    アルターエゴ『松田がその場から消える。否消えたように見えるほど速く動いた!!』

    「………」

    アルターエゴ『それとは対照的に仮面の男は動かない。そこに留まる』

    松田「おいおい、俺もナメられたもんだぜ!!」ブンッ

    アルターエゴ『死角からの手刀が仮面の男に迫る…………が』

    ゴオオォンッ!!

    アルターエゴ『鈍い音が響く、正確には松田の手刀と仮面の男の蹴りがぶつかる音が』



    苗木「スゴい…あの松田くんと…対等に戦えてる!」

    霧切「彼は…何者なの…?」

    セレス「分かりませんわ、ただ確実なのは仮面の彼はあの男の敵であることは確か……ですわね」



    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『少年は戦場を集中を一瞬も切らさずに駆け抜けていた。何か考えるためにでは無く、何も考えないように』

    日向?「僕僕俺ボク……違う俺は俺だ!!」ダッダッ

    アルターエゴ『まるで雨細工のように自分の中で何かがうねり、形を成し己を支配しようとしているのが日向には無意識のうちに分かっていた』

    日向?「俺は俺だ!俺なんだよ!!!」ダッダッ

    アルターエゴ『誰にでもなく自分自身に叫びかける日向』

    日向「俺は…僕は…違う!!!」

    アルターエゴ『自分自身で手一杯の日向に、追い打ちをかけるような事態が襲いかかる。』


    「きゃぁーーーっ!!」


    日向「叫び声!?」

    アルターエゴ『まるで“計算”されたような最悪のタイミングで』

    日向「……」

    アルターエゴ『思い出すは先程、助けに割って入った少女に背中を向け走り出す記憶』

    日向「無理だろ…俺が言った所でどうなる………ここには化け物みたいな奴しかいないんだろ?……俺が居ても…何もならない。」

    日向「俺が悪いんじゃない…俺が力がないから、才能が無いのが悪い…そうだ!全部悪いのはこんな世界だ…!正しいやつじゃなくて強いやつがかっさらうこの世界が!!」

    (自己否定と肯定…そして、責任転換。本当に忙しい人だ)

    アルターエゴ『何処からか声が響く』

    日向「!!」

    (それなら僕に…僕にその身を委ねてみませんか?)

    日向「嫌だ…」

    (悪い話じゃないでしょう?貴方と言う人物が、『日向創』という人物が英雄になれるのですよ?)

    日向「あんなの…胡散臭いだけだ…」

    (それはヒガミですね…僕には分かります。いえ僕だから分かります)

    日向「違う!」

    (貴方は現“英雄”に対し…いえ英雄ともてはやされている人物をよく思っていないだけ。)

    (貴方が自分自身が好きなのは良く分かっています。何故なら僕は貴方なのだから…)

    日向「違う!!!!」

    (…そうですか、ならば進んで見てください…そして己の限界を知れ!)

    日向「うるさい!」

    (僕には分かる。僕だからこそ分かる。君は僕を必要とする…何があろうと……ね)

    日向「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッ!!!!!!」


    アルターエゴ『声を荒げながら叫ぶも、その叫びに答えが返ってくることはなかった……』

    「きゃあぁぁぁ!!!」

    日向「……!!」

    アルターエゴ『ただ、またもや叫び声を聞いた。』


    日向「……くそッ!」ダンッ

    アルターエゴ『そして日向は一度地団駄を踏むと苛立ちながらも、また走りだした』



    ーーーーーーーーーー


  147. 147 : : 2014/04/25(金) 18:41:42
    松田「チィ…」

    アルターエゴ『拳同士がぶつかり合ったと思ったら、今度は互いに半歩下がり、構えをとる。一進一退の攻防は続いた』

    松田(こいつ、かなりやりやがる…【精神集中・更改】を使ってる俺に互角とは…)

    ガッ!

    アルターエゴ『仮面の男を死角から狙った一撃は、またも防がれる』

    松田(くそっ!まったく通らねえ!)

    アルターエゴ『仮面の男が、腰をバネにして一気に右足を蹴り出す!』

    松田「ぐっ!」

    アルターエゴ『これを、右の手の平で受け止める。手の平を通って痛みが伝わるが、そんなことよりも…』

    松田「捕まえたぜ」

    アルターエゴ『じわじわと手の平が熱くなっていくのがわかるが、それでも捕まえたことは大きい』

    松田「ゼロ距離でくらいな…」

    アルターエゴ『今度は左の手の平を、仮面の男の胸に当てる』

    松田「『生命制限』(インフィニティ・バースト)!!」

    ドン!

    仮面の男「ぐぁっ!!」

    アルターエゴ『左手から放出されたのは、膨大な魔力!その魔力が直接相手の身体に伝わり、内部から攻撃する魔法!あまりの衝撃に、仮面の男は遥か後方へ吹き飛ぶことになる』

    ドッ!ガッ!ズサァッ!

    アルターエゴ『地を跳ね、ようやく止まったところで立ち上がる…が』

    仮面の男「ぐぅ!がはっ!」

    アルターエゴ『…この魔法は一度当てることさえできれば、心臓が自らの役割を放棄するまで追撃が襲う』

    アルターエゴ『そう…今もなお、仮面の男は松田の魔法に蝕まれているのだ』

    松田「…さぁ、正体を見せてもらおうか」

    アルターエゴ『苦しみ続ける仮面の男に、松田が歩み寄る』

    アルターエゴ『…そして、仮面に手を伸ばした!』

    仮面の男「!」バッ!

    松田「っ!」

    アルターエゴ『しかし、その手は寸前のところではじかれる』

    仮面の男「……松田夜助…さすがに一筋縄ではいかないか……」

    霧切(………!)

    松田「悪いが急いでるんだ。負けを悟ったらさっさと消えてくれるとありがたいんだが」

    仮面の男「…はは…それはできない相談だな…」

    霧切(この声…やっぱり!)

    松田「そうか。なら死ね」

    仮面の男「……残念だ。惜しい男を亡くすことになる…実に残念だ」

    松田「……?」

    仮面の男「『霧が全てを包み込む』(ドミネイト)」

    ファサァ……

    アルターエゴ『辺りを、魔法の名の通り霧が包み込んだ』

    松田「…なんだ、目くらましか?」

    アルターエゴ『振り払おうとするも、それは適わなかった。諦めて、感覚をひたすら鋭く…』

    松田(俺に死角はない…どこからでも来い!)

  148. 148 : : 2014/04/25(金) 23:30:31




    ーーーーーーーーーー


    澪田「…結局生き残っちゃったっすね」

    罪木「ふゆぅ…怖かったですぅ!それに…皆さんが…」ブワッ

    澪田「わわ!蜜柑ちゃん!泣いちゃだめっす!…そしたら…唯吹まで」ウルッ


    ~~~~~~~~


    アルターエゴ『話は数十分前に遡る』


    澪田「………」

    罪木「………」

    アルターエゴ『英雄に負け…無様に地に伏せたまま動かない二人』


    江ノ島「ん。じゃあまた帰りね」

    シュンッ!!

    アルターエゴ『手をひらひらさせながらその場を去る江ノ島…』

    セレス「…では、私も……」スッ

    アルターエゴ『その後セレスがとった行動は…』

    セレス「生きてるのは分かっていますわ。死んだフリというのは流石に無様すぎますわ」

    罪木「………」

    澪田「………」

    セレス「三秒以内に起き上がらないと…殺しますわよ」ニコッ

    罪木「ひゃあい!すいませぇん!」バッ

    澪田「ヘルプミーっす!ギブミーっす!」ガバッ

    セレス「何を差し上げれば良いのかは分かりませんが…ふふふ、本当に生きてるなんて…カマをかけて正解でしたわ」

    罪木「ふぇえ!?私たち…騙されたんですかぁ!?」

    澪田「で、どうしたんっすか…唯吹たちにトドメをさしに来たんっすか?」

    セレス「いえ、違いますわ…実は私魔力を先程の救命信号の時にほぼ使いきってしまったのですわ」

    アルターエゴ「そんな風にセレスは言った」

    セレス「ですから…貴女たちが生きてるのは彼女の回復魔法のお陰なのですよね?」

    澪田「………」

    セレス「黙ると…黙った方ではない方を殺しますわよ」ニコッ

    罪木「ふぇ!?」ビクッ

    澪田「…分かったっすよ…。確かに唯吹たちが生きてるのは蜜柑ちゃんの回復魔法のお陰っす…」

    罪木「と、言ってもまだお互い立つのが精一杯なんですけどねぇ」

    セレス「そうですか、ならば殺されたくなければ私を治療しなさい!」キッ

    罪木「ふぇ?!わ、分かりましたぁ!」

    澪田「だ、ダメっすよ蜜柑ちゃん!治ったら殺されるっす!!」

    セレス「あらあら、物騒なことを言いますわね。私殺しなんて出来ませんわ」

    アルターエゴ『儚げに、そして無駄にオロオロしながらそう言うセレス』

    澪田「嘘っす!!現に猫丸ちゃんは!!猫丸ちゃんは!!!」ブワッ

    アルターエゴ『澪田は、感情の高ぶりで涙を堪えきれなくなった、それもそのはず。一緒に学び、一緒に過ごし、一緒に強くなっていった仲間を目の前で殺されたのだから…』

    セレス「泣かないでください……綺麗な顔が台無しですこと…」フフッ

    罪木「……ひっ!」

    アルターエゴ『罪木にはセレスの言動全てが恐ろしくて仕方なかった。まるで蛇を前にした蛙のように立ち尽くすのみ』

    セレス「それで…」ニコニコ

    アルターエゴ『わざとらしい程の笑顔を向け、セレスは罪木の目を覗き込む』

    罪木「あぅ…」ガクガク

    アルターエゴ『罪木の膝はガタガタと震え、顔は恐怖のあまり青ざめる』


    セレス「さあ、私の条件を飲んでくださいませんか?」

    アルターエゴ『条件つまりそれは、殺さないから治療しろ…ということである』

    罪木「ほ、本当に、わ、わわ私たちを殺さないでくれるんですね?」

    アルターエゴ『必死に言葉を絞り出す罪木にセレスは…』


    セレス「私賭け事に負けるのは嫌いですが………約束は守りますわ」ニコッ

    ………………………

    ………………

    ………


    ~~~~~~~~


    アルターエゴ『そして………今』



    澪田「ねえ蜜柑ちゃん…」

    罪木「はいぃ…な、なんでしょうか?」

    澪田「何で唯吹たちは、戦争なんかしてるんてすかね…こんなにボロボロにされて…仲間も失って…全く歯がたたない相手に挑んで…」

    アルターエゴ『涙もとまり、やっと落ち着いてきた頃、澪田はポツリとポツリとそう言った…』

    罪木「…………わかりませぇん…でも…」

    澪田「でも?」

    罪木「戦わないと守れない命だって…あるはずですぅ!」

    澪田「!………ふふっ、蜜柑ちゃんがそんなこと言うなんて珍しいっすね」

    罪木「すいませぇん!脱ぎますぅ!」

    澪田「脱ぐのは今はいいっすよ…。でも…その通りっすよね………唯吹たちが戦ってるから守れている命がある。……でもこう考えちゃうんっす…」


    アルターエゴ『』


    澪田「こんなとき…あの三人が居てくれたらなって…」


    ──無いものねだりなのはわかってるっすけどね


    アルターエゴ『澪田は何とも言えない表情でそう付け足した』


    ーーーーーーーーーー



  149. 149 : : 2014/04/26(土) 00:26:50
    十神「…舞園、これからどうするんだ?」

    舞園「…そうですね…とりあえず、他のメンバーと合流したいところです」

    十神「すでに俺達以外は全滅…なんてこともありえるがな」

    舞園「……」クスッ

    十神「! 何がおかしい」

    舞園「いえ、十神くんも嘘をつくんだなぁと思って」

    十神「………チッ、くだらん魔力が流れているな…」

    舞園「『全員生き残ってるに決まってる』なんて、よっぽど皆さんの実力を信用しているんですね」

    十神「当たり前だ…希望の国の優勢は揺るぎない」

    舞園「……そうですね………」

    サァ……

    アルターエゴ『2人の間を、爽やかな風が吹き抜けた。風で持って行かれる前髪を押さえながら、舞園はあさっての方向を見つめる』

    十神「…どうした」

    舞園「……胸騒ぎがします。何か、この戦争に大きな災いが降りかかるような…」

    十神「…?」

    舞園「“人類史上最大最悪の絶望的事件”……予言者が言っていた日付は、今日…」

    十神「……はっ、ばかばかしい。予言などあてにならん」

    舞園「……でも、十神くんも気づいてますよね?」

    十神「………」

    舞園「この戦争…最初から全ておかしいです。そして今も、何やら不穏な空気が取り巻いている…」

    サァ……

    アルターエゴ『再び、風が吹き抜けた。しかし、今度の風は、どこか生ぬるく……まるで災厄を運んで来たかのような、そしてそれが当然であることのような…そんな、不安な何かを予感させる風だった』


    ━━━━━━━━━━


    アルターエゴ『日向は走っていた。悲鳴のした場所に向かって、わき目もふらずただ一直線に』

    タッタッタッタッ!

    アルターエゴ『…止まっていると、また自分を失う気がするから、それを誤魔化すように必死に足を動かした』

    日向「! あれは!」

    アルターエゴ『見覚えのある後ろ姿…いや、誰もが知っている後ろ姿が、そこにあった』

    日向「“英雄”!!」

    江ノ島「………ん?」

    アルターエゴ『くるりと振り返ると、あどけない表情を見せる。が、日向の顔を見るとすぐにそれは満面の笑みにかわった』

    江ノ島「あ~!あんた今器の方なんだ!」

    日向「……器って…お前に意味のわからない手術をされたせいで俺は!こんなに髪が長くなって、目だって赤くなって……いつでも俺を乗っ取ろうとする奴が、俺の中に生まれて…最悪なんだぞ!!」

    江ノ島「えー?泣いて喜ぶと思ったのに。こっちはよかれと思って…」

    「…その声、日向?」

    日向「……え?」

    アルターエゴ『声の方を見る。江ノ島でよく見えなかったが、そこにはまた見知った顔が集まっていた』

    日向「小泉…西園寺…左右田……!」ブワッ

    小泉「日向!やっぱり日向!!」

    西園寺「やっと会えた!本当に戦争に来てたんだ!」

    左右田「お前…心配かけやがって!」

    日向「みんな…!」

    アルターエゴ『久しぶりの再会。場所は場所だが、感動は感動だ。涙が容赦なく溢れ出るのを、止める理由はどこにもない』

    日向「…って、悲鳴が聞こえたはずなんだけど……」

    江ノ島「あぁ。私様が気分を紛らわせようと怖い話してたから」テヘッ☆

    日向「紛らわせようとって…なんて紛らわしいんだ…」

    日向(…“英雄”……案外いい奴なのか…?いや…でも俺をこういう身体にしたのもこいつだ。…俺にはこいつがわからない!)

  150. 150 : : 2014/04/26(土) 23:33:58


    江ノ島(うぷぷ…)

    アルターエゴ『江ノ島は誰にも気付かれないように、小さく笑った』


    ーーーーーーーーーー


    霧切「あの仮面の男の声は…」

    苗木「ど、どうしたの?」

    アルターエゴ『突如霧切がそう呟く。それが苗木には不思議でたまらなかった』

    霧切「……」

    アルターエゴ『何故なら魔法で明らかに変えている声に霧切は聞き覚えのある態度をとったのだから』

    苗木「声多分、魔法で変えてるみたいだけど…」

    霧切「そうね。でも何故か分かったのよ」

    苗木「あの人…もしかして知り合い…?」

    霧切「……復讐相手…」

    苗木「え?」

    霧切「よく覚えてないのだけれど…私はあの男を殺さないといけない…それだけは良く分かっているわ…」

    苗木(覚えていない…?…霧切さん………君の過去にはいったいどんなことが…)


    ーーーーーーーーーー



    松田「どっからでも来い!」

    アルターエゴ『感覚を研ぎ澄まし何処から何が起ころうと対処出来るように構える松田だが』

    ゴスッ!!

    松田「ッ!!」

    アルターエゴ『松田は額に拳をくらう……しかもそれは松田自身によって放たれたものだった』

    松田(なるほど、ドミネイト……つまり意味は…支配するか!!)

    仮面の男「ほう。どうやら気付いたようだな…」

    松田「どうやら範囲は霧の中だけのようだな!!」バッ!!

    アルターエゴ『松田は、その場から斜め後ろに向け全力で跳躍した───そして見た』

    松田「あれは!!」

    仮面の男「………なッ…!!」


    アルターエゴ『仮面の男もつられ空を見上げた…そこにあったものは』




    アルターエゴ『巨大な魔方陣が佇んでいた』


  151. 151 : : 2014/04/26(土) 23:45:18



    「うぷぷ、そろそろ帰宅の時間だよ!!」

    アルターエゴ『突如空から声が響く』

    苗木「!?」

    セレス「?!」


    「えー、早い?……だって、ボクはオマエラがこれ以上死んじゃうと、悲しく悲しく…中綿が出ちゃうぅ!」


    ヒュウゥッ!!


    霧切「……」

    アルターエゴ『その声が終わるとともに光が霧切を包む。正確には五月雨や終里など。各地の“生きている”絶望の国の住人達を』

    苗木「こ、これは?!」

    霧切「苗木君…」

    アルターエゴ『光に包まれた彼女はこう言う』

    霧切「私と一緒に、私の国へ行きましょう?」

    苗木「…え?」

    アルターエゴ『突拍子もないことを言われ、苗木は驚きの表情を隠せずにいた……何故なら』

    苗木「君の国は…絶望の国………」


    アルターエゴ『絶望の国……敵の国………憎むべき、忌むべき国…そこへ行こうと言われたからである。』

    霧切「このままだと、貴方は殺されてしまうのよ!!」

    霧切「貴方が敵である私を信じられないのは分かってる…だけど、…ほんの少しでも信用してくれると言うのなら…私についてきて!!」


    苗木「ぼ…僕は…」

    アルターエゴ『苗木誠は知っている。知識だけではなく実際に見てしまっていた。捕虜となった斑井一式の姿を…』


    セレス「待ちなさい!!」

    アルターエゴ『苗木が気付いていることを、当然セレスは気付いていた。だからこそ制止を呼び掛ける』


    セレス「苗木君行ってはダメです、行ったらきっと殺されますわ!」

    霧切「私がそんなことさせない!今度は私が貴方守る!!」

    セレス「私たちは仲間でしょう?大丈夫ですわ。私たちで貴方を守ります!」


    霧切・セレス「「──だから苗木君 !!早くこっちへ!!!!」」


    苗木「くそ…僕は……どうすれば良いんだよ…」グッ

    アルターエゴ『どちらに転んでも最悪の結末しか目に見えない状況。』

    アルターエゴ『そんな中…』


    『先に進むには……危険を避けては通れない』

    苗木「!!」

    アルターエゴ『苗木は、ふとどこかで聞いた言葉を思い出す』


    苗木(……そうだ…そうだよな)


    アルターエゴ『決心は決まったもちろん覚悟も。……そして苗木の出した答えは…』







    ーーーーーーーーーー




    ヒュウゥッ!

    日向「な、何だこれは…」

    アルターエゴ『絶望の国の人間を包み込む筈の光は何故か日向をも包み込んでいた』

    江ノ島「ありゃ?どういうこと?」


    「君は…君のルーツを知らなければならない…」

    日向「!!?…何だ今の声……」

    アルターエゴ『どこかで聞いたような声。最近あるいはかなり前に、聞いたような記憶のある声…』

    「ねえ、戻ってきなよ。」

    アルターエゴ『その声は、日向のみに語りかける…』

    日向「!?…お前は…誰だ?」

    「君だって知りたいはずだよ。君自身のことを…」

    アルターエゴ『声の主は、質問には答えなかった。だけど確かに日向の心を揺さぶった』

    日向「俺は…」


    アルターエゴ『その場に立ち尽くしてしまった日向。そこへ…』

    左右田「日向!!ゆっくりでいい!とりあえずそこから出ろ!!」

    小泉「なんか…そこヤバイ気がする。だから!!」

    アルターエゴ『そんな日向に向け、必死に叫ぶ左右田と小泉。だけどその声は日向の心に届きはしなかった』

    西園寺「おい!アンタ英雄だろ!!なら力ずくでも引きずってよ!!」

    江ノ島「ムリ、私様まで転送されたらやだからね」

    西園寺「そんな!!」


    日向(俺は……俺は…………)

    アルターエゴ『悩んで悩んで悩みきった結果…』

    日向「………わるいな…」



    アルターエゴ『日向創のくだした決断は…!』






  152. 152 : : 2014/04/27(日) 05:08:31
    日向「俺…やっぱり自分のルーツを知りたい!俺っていう存在を、しっかりと知りたいんだ!!」

    西園寺「おにい!」

    日向「大丈夫だ。必ず戻ってくる」

    アルターエゴ『三人に向かって、親指を立てて片目を瞑って見せる。その様子は、無理をして心配させないようにしているように見えた。が、』

    左右田「…わかった!必ず戻って来い!」

    アルターエゴ『三人は、あくまで日向を気遣った』

    小泉「…もう心配させないでね!早く帰って来るんだよ!」

    日向「あぁ…すまない」

    アルターエゴ『見計らっていたように、日向を包む光が、一層強くなる』

    日向「……じゃあ、すぐ戻るよ」

    江ノ島「………」

    日向「……!」

    アルターエゴ『光が完全に日向を包み込み、その輝きを最大まで増した時、日向は見た』

    アルターエゴ『“英雄”の、とても“英雄”とは思えない、悪意に満ちた微笑みを。自分に新しい人格をインプットした時と同じ…あの表情を』

    日向(……やっぱりこいつは!俺が間違いだった!こいつは決していい奴なんかじゃない!)

    日向「みんな逃げ─

    アルターエゴ『日向の言葉が最後まで届くことはなく、光ごと消えてしまった』


    小泉「…行っちゃった」

    左右田「なぁ…日向の奴、何か言い掛けてなかったか?」

    西園寺「そう?聞こえなかったけど…」

    江ノ島「……じゃ、あたしもやることやりますか」

    アルターエゴ『3人の頭を、たくさんのハテナが通過する。“英雄”はそれを見透かしたように微笑むと、剣を抜き、これが答えだと言わんばかりに大きく振りかぶった──』


    ━━━━━━━━━━


    苗木「……霧切さん。僕は君と行く」

    セレス「苗木くん!!」

    霧切「早く掴まって!私が消える前に!」

    アルターエゴ『もうボロボロな身体に残された、最後の力を振り絞って霧切の元へ駆けつけ、差し出された手を握った』

    松田「逃がすかっ!」

    アルターエゴ『松田も、霧切の方へ地を蹴る…が』

    ガシッ!

    松田「!」

    仮面の男「………」

    松田「てめぇ…離せ!」

    仮面の男「悪いな」

    アルターエゴ『どうにかして振り解こうとするが、力を弱める様子はなく、やがてそれは無駄なあがきだと悟った』

    松田「………クソッ!!」

    松田「アホ毛!お前は必ず俺が殺す!」

    セレス「苗木くん!私もっ!」ダッ

    苗木「えっ?」

    アルターエゴ『セレスも駆け出し、苗木の腕に飛びつくようにして掴まった』

    苗木「ちょ、えぇ!?」

    松田「セレスティアなんとかぁ!お前もかぁ!」

    セレス「敵国調査ですわ!!」

    松田「てめぇ!」

    アルターエゴ『そして、都合よく苗木達は光と共に消えていった』

    松田「っ!」

    アルターエゴ『ふと身体の拘束が解かれたので、松田は振り向く。が、そこに仮面の男は居なかった』

    松田「……仮面の野郎、いつのまに消えやがった…」

    松田「…チッ、今日は最悪の日だな」

    アルターエゴ『…様々な思惑が交差する中、ひとまず、この戦争は終わりを迎えたのであった』

    アルターエゴ『…が、後にこの戦争はまだ序章。これからが本番であり、そして、全てを呑み込む絶望のきっかけでしかないことを』

    アルターエゴ『…知っているのは、ただ一人』

    「うっぷっぷっ………」


    ━━━━━━━━━━


    《今回の戦争にて戦死した兵士、学生のリスト》

    『希望側』

    今回の戦争に参加する予定ではなかった学生の死体が3人分見つかった。

    左右田和一

    小泉真昼

    西園寺日寄子


    『絶望側』

    多くの主戦力を失った。今回の戦争で受けたダメージは致命的である。

    弐大猫丸

    山田一二三

    葉隠康比呂

    田中眼蛇夢

    ソニア・ネヴァーマインド

    斑井二式

    斑井三式

    斑井四式

    斑井五式

    斑井六式

    斑井七式

    斑井八式

    九頭龍冬彦

    辺古山ペコ

    神代優兎
  153. 153 : : 2014/04/27(日) 20:19:44


    ………………………

    ………………

    ………


    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『唐突であるが、テレポートには三種類ある。』

    アルターエゴ『1つは某猫型ロボの使うドアのようなもの。簡潔に言えば場所Aと場所Bを何かで繋ぐ』

    アルターエゴ『2つ目は、テレポートするものを一旦分子などに分解して高速で移動。そして再構築するもの』

    アルターエゴ『そして3つ目は…───』



    ーーーーーーーーーー



    アルターエゴ『眩い光目が苗木を包み、そして飲み込んだあと』


    【城】


    モノクマ『あれれ?』


    アルターエゴ『城の一室の、椅子に座りながら顔を横に曲げるヌイグルミ。正確には代弁者モノクマ』


    モノクマ『“人類史上最大最悪の絶望的事件”の鍵が自分から来ようとしてる…うぷぷ…予想外だけど結果オーライだよね………』

    モノクマ『もちろん女が一匹紛れ込んだ以外は…………あっ、そうだ…良いこと考えちゃったぞ…ボクは何て考えを思い付くんだろうなぁ……うぷぷ…うぷぷぷぷぷ!!』


    アルターエゴ『不適な笑みと奇妙な笑い声が部屋に響いた』



    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『一方苗木たちは、移動中だった。正しく言うと動く床のようなものに乗っている』

    苗木「こ、これは?」

    霧切「勝手に着くから、暫くじっとしていなさい」

    苗木「うん。わかったよ。ありがとう」

    霧切「別に…お礼を言われることはしてないわ。問題は…これからよ」

    苗木「そ、そうだね…でも、本当にありがとね」

    霧切「はぁ、バカ正直って本当に疲れるわ」

    苗木「バカ正直!?」

    霧切「それに、今の貴方がするべきは私と話すことじゃないでしょう?」

    苗木「う、うん。そうだね」スタスタ

    アルターエゴ『霧切の話が一段落つくと苗木はセレスの方へ向かい、こう口を開いた』

    苗木「ねえ、セレスさん…なんで君は、ついて来ちゃったの?」

    アルターエゴ『セレス自身をも危険に巻き込むことになってしまったことに苗木は後悔していた。………だからそう聞いた』

    セレス「そんなの、苗木君を連れて帰るために決まっていますわ」

    苗木「えッ?」

    アルターエゴ『答えは予想外のものだった』

    セレス「耳を貸しなさい…」ズイッ

    苗木「うわっ」

    セレス「よろしいですか…?」

    アルターエゴ『セレスは苗木の胸ぐらを掴み引き寄せ、霧切に聞こえぬように苗木に話す』

    セレス「貴方と私で絶望側を壊滅に貶めれるのです…」ボソッ

    苗木「!!」

    セレス「そしてなに食わぬ顔で国に帰りこう言います『絶望の国に言ったのは…彼女を庇ったのは絶望側を崩壊させるため』………と」フフッ

    苗木「そ、そんなこと…」

    セレス「私…このために布石も打ちましたの………賭け事はハイリスクハイリターンが思考ですから」フフッ

    苗木「!!…君は全部このために…?」

    セレス「当然苗木君を救う気持ちも少しはありましたが、貴方は強い…だからこそ救う価値。そして利用価値があります…」

    苗木「り、利用価値…?」

    セレス「貴方だって、皆のもとへ帰りたいでしょう?当然私だって帰りたいですわ…だから…協力しましょう?」フフフ

    セレス「………そして、お互いがお互いを利用しあいましょう…私たちは…仲間でしょう?」ボソッ


    苗木「!!」


    アルターエゴ『セレスは耳元で…そう囁いた』



  154. 154 : : 2014/04/27(日) 21:06:59
    苗木「………わかった。でも、あくまで目標は帰ることなんだ」

    セレス「ええ、わかっておりますとも」ニコッ

    アルターエゴ『不穏な笑みに、苗木は味方ながら背筋が凍る思いをした。セレスティア・ルーデンベルク。彼女は恐ろしい』

    霧切「…ゴスロリのあなた、私達の国で即打ち首もありえるわよ。よく着いてきたわね」

    苗木「え、えぇ!?」

    セレス「あぁ、ご心配なく」クスクス

    霧切「………」

    アルターエゴ『話していると、やがて周りに生き残った他のメンバーが何もない空間から姿を現していった』

    ヒュン!ヒュン!

    アルターエゴ『気を失っている者は、そのまま床に落ちるが、なんとか気を保っている者のみが、綺麗に着地する』

    澪田「ふぅ……やっと帰れるっ……」

    アルターエゴ『帰れることに歓喜し、安心しきっていた満面の笑みは』

    罪木「あぁ…無事に帰れました………ね…」

    アルターエゴ『ゴスロリによって、華麗に奪われた』

    セレス「あら、また会いましたわね」

    澪田「なっ!なっ、なっななっ、なんで…」ブクブク

    罪木「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!まだ戦争するんですかぁ!!」

    セレス「…ちょっと」

    アルターエゴ『セレスが2人を強引に引っ張り、できる限りの端っこ方へ連れて行く』

    苗木(な、何するつもりなのさ…ちょっとでも変なことしたら、霧切さんでも庇いきれないぞ……)

    アルターエゴ『……そして、最後に1人』

    日向「うわぁっ!」

    ドサッ!

    霧切「!」

    日向「……てて…」

    霧切(……見たことのない顔ね…)

    日向「………ん…ここは…」

    霧切「……あなたは誰…?」

    日向「…俺…俺は……日向創だ…」



    ━━━━━━━━━━



    【城】

    モノクマ「…うぷぷ。サービスとして、髪と目は気がつかない内に魔法で治しておいたよ。僕って親切でしょう?クラスメイトとの感動の再会を前に、あんなロン毛じゃあ恥ずかしいもんね」

    モノクマ「……ま、気まぐれでまた髪を伸ばしちゃうかもだけど!イメチェンは突然に、だね!うっぷっぷー!」
  155. 155 : : 2014/04/27(日) 22:24:54


    ーーーーーーーーーー



    セレス「────以上ですわ…」ニコッ

    アルターエゴ『部屋の隅で、話を終えるとセレスはニッコリと微笑んだ』

    罪木「………ふゆぅ」フルフル

    澪田「………そ、そんな」ブクブク

    セレス「あら、貴女方がして良いのは『はい』と言う返事だけですわ」キッ

    澪田「わ、分かったっす!」ビシッ(敬礼

    罪木「は、はいぃ!」ビクッ

    アルターエゴ『敬礼と怯えながらセレスの話聞き、受ける二人。……そしてその後に2人が見たのは…』

    澪田「えっ!?」

    罪木「はわっ!?」


    日向『…俺…俺は……日向創だ…』



    アルターエゴ『日向創の姿だった』


    ーーーーーーーーーー



    日向(コイツらが本当に俺のルーツを知る奴らなのか?俺のことすら知らないじゃないか…)

    アルターエゴ『現在話を聞けそうな人物は部屋の隅にいる三人と目の前の男女のみ』

    アルターエゴ『そのうちの一人から、自身の名前を聞かれ不安と不満を抱く日向……そこへ──』


    澪田「創ちゃん!?…たっはー!やっぱ創ちゃんっす!!!!」ギュッ

    アルターエゴ『──先程まで部屋の隅で恐怖におののいて澪田は日向の顔を見るなり飛び付き抱きついた』

    日向「うわっ!何だお前!くっつくなよ!」

    アルターエゴ『女子が抱きつく。男子なら嬉しいことかもしれない……だが日向にとっては、それより『知らない』と言う未知の恐怖と言うものが強かった』

    罪木「ふぇえぇん!今までどこに行ってたんですかぁ…!」ギュゥーッ!

    アルターエゴ『が……そこへ追い討ちが加わる!!』

    日向「うっ…くっ…くるじぃいー!!」ジタバタ


    霧切「………どういうこと?」

    アルターエゴ『どんどん青くなる日向を他所に、自身と彼女らの温度差に戸惑いそうもらす霧切。』

    澪田「あっ、響子ちゃんは絶望ヶ峰に来たの最近だから知らないんすよね!!」


    アルターエゴ『その答えは、たった一言で解決された』


    澪田「だって創ちゃんは………絶望ヶ峰学園の生徒っすよから!!」


  156. 156 : : 2014/04/27(日) 22:57:09
    日向「………は?」

    アルターエゴ『意味がわからなかった。思考が停止する。だが心のざわつきは消えなかった』

    罪木「日向さぁ~ん!私のこと忘れちゃったんですかぁ~!」ギュゥ-

    澪田「ベリーショックっす!創ちゃんの記憶から星になった唯吹!」ギュゥー

    日向「…………」

    アルターエゴ『確実な温度差の違い。だが、この2人が俺に対して上辺で接しているわけではないということだけはわかった。それ故、動揺はさらに強くなる』

    日向(どういうことだよ…俺、絶望の国の人間だったのか!?)

    ………あぁ、やっと思い出したんですか

    日向(………!)

    まぁまだ、失った記憶の方が多いですけどね。とりあえずルーツはわかってきたでしょう。

    日向(お前…!知ってたのか!)

    当然。

    日向(……何が当然だ。さっさと教えろ!)

    ……焦る必要はない。あなたの記憶など、ツマラナイものだから。

    日向(あぁっ!?)

    そんなことより…あの髪の毛がピンと立っている男

    日向(……?)

    ナエギマコトと言いましたか。彼はとても面白い。

    日向(あいつが…?そんなにすごい奴とは思えないが。それより話をそらすなよ!早く教えろって!)

    すぐにわかりますよ。それではまた眠ります。

    日向(って!寝てたのかよ!)

    zzz……

    日向(…ったく、マイペースな奴)

    罪木「日向さぁ~んうゆぅ~」ギュゥー

    澪田「創ちゃ~ん」ギュゥー

    日向(…………まぁ、とりあえず俺は嫌われ者ではなかったみたいだな)

    霧切「…そう。まぁ、怪しい者ではないのね」

    苗木「霧切さん。僕…どうすればいいの?」

    霧切「どうすれば…それは向こうについた時ってことね」

    苗木「うん…」

    霧切「…何も考えてなかったわ」

    苗木「え?」

    霧切「どうにかしましょう」

    苗木「ど、どうにかってそんなぁ!」

    モノクマ『あー!あー!マイクテスッ!』

    苗木・霧切・セレス・日向・澪田・罪木「!」

    モノクマ『これからみんなで絶望の国に帰ります!…まぁ、希望の国の奴も2人混じってるけど、僕は何も見てないよ!何も見えない聞こえなーい!』

    苗木・セレス「………」

    日向(…やっぱり俺は、カウントされてない……)

    モノクマ『…じゃあ、出発するよ!』

  157. 157 : : 2014/04/29(火) 00:14:07

    …………………

    ……………

    ……

    【医療室】

    罪木「と、とりあえず、治療ですぅ!!」

    アルターエゴ『連れられたのは医務室。どうやら彼女と職員たちが治療を施してくれるようだった』


    霧切「罪木さん…彼のこと頼んで良いかしら?」

    アルターエゴ『そう言いながら霧切は苗木を指差す。それに対する罪木の反応は…』

    罪木「ふぇ!?…こ、怖いですよぉ」

    アルターエゴ『怖い──敵だから。それは当然な反応だった』

    霧切「……お願い。もう…時間は無いかもしれないの…」

    罪木「……?」

    アルターエゴ『霧切は気付いていた。同じ『精神集中 使い』として気付いていた』

    苗木「……」

    アルターエゴ『苗木が精神集中を“し続けている”ことに』

    霧切「このままじゃ…彼は……間違いなく死ぬ」

    アルターエゴ『重苦しそうにそう言う霧切』

    アルターエゴ『苗木は精神集中による反動を精神集中で抑えているのだった。つまり、精神集中が切れたとき、その莫大な反動を受けるとき、ボロボロの体では苗木は……当然死ぬ』

    罪木「し、死んじゃうんですかぁ…?」

    霧切「……お願い」ジッ

    罪木「う…うゆぅ…わかりました」コクリッ

    アルターエゴ『罪木には精神集中のことなどさっぱりだったが、霧切の思いは彼女に伝わり、首を縦に振らせた……そして…』

    罪木「いきますぅ!『固定するご奉仕(コール・ホワイト)』」

    アルターエゴ『罪木の足下を中心に広がる魔方陣。そこから無数の包帯のような物が伸び、苗木を縛る』

    苗木「!?」

    アルターエゴ『突然のことで反応が遅れた苗木は、罪木の魔法によって葉巻のようにされた』

    罪木「さあ……始めますよぉ」

    アルターエゴ『獲物狙う獣のように一歩一歩苗木に近寄る罪木』

    苗木「!!」ジタバタ

    アルターエゴ『必死にもがく苗木だったが、既に精神集中の効果は薄れていることや、何重にも巻かれていることもあり、脱け出すことは出来なかった』

    苗木(これはどういう!取り合えず何があったのかを確認しないと!)グッ

    ゴロンっ

    アルターエゴ『全身の筋肉を上手く使い転がることに苗木は成功し、それによって後ろを見ることが出来た…』

    アルターエゴ『そこで苗木が見たものは…』

    罪木「……お注射ですよ」ニコッ

    苗木「えぇ!!?」

    アルターエゴ『苗木が驚くのも無理は無かった…何故ならそこには巨大な注射を持った罪木が立っていたから』

    罪木「『白衣の天使(マッド・キュア)』!!」ブンッ

    アルターエゴ『そう言いながら、注射を苗木目掛けて振るう。勿論針を向けて』

    苗木「いや、その当て字はおかしい………うわぁぁああ!!!!」

    ブスッ!!

    アルターエゴ『巨大な針は、苗木に深々と刺さった』



  158. 158 : : 2014/04/29(火) 00:54:52
    苗木(…………………)

    苗木「……って、痛くない…?」

    苗木(…確かに針は、僕のお腹にしっかり刺さってる)

    罪木「今、私の魔力を送ってますぅ。すぐに回復しますよぉ」

    苗木「す、すごい…こういう回復魔法もあるんだ」

    苗木(松田くんは、ほとんどノーモーションで発動してたからなぁ。でも、こっちの方が質は高そうだ)

    霧切「苗木くん。回復中に話しておきたいことがあるわ」

    苗木「…?」

    霧切「彼が席を外している、今しか聞けないの。日向創…彼のことを知ってたの?」

    苗木「…いや、初めて見たよ…」

    霧切「そう…」

    罪木「日向さんは…いい人ですよぉ?」

    苗木「わ、わかってるよ!だからそんな修羅みたいな顔しないで!」

    罪木「…うふふ、もうすぐ完治しますよ」

    苗木(やっぱり怖いよ…絶望の国)

    職員「霧切、彼とあっちの女性はいったい誰なんだ?」

    霧切「しばらくこの国で暮らすことになった難民よ。私が責任を持つわ」

    職員「そうか…」

    苗木(……そうだな…しばらくは、希望の国に帰れない…)

    苗木(いや、もう帰れないかもしれないんだ)

    苗木(セレスさん…彼女もある意味では危険だ。なるべく穏便に事は済ませたい)

    苗木(……それも無理だとは思うけどね)

    苗木(はぁ、それにしても、なんだかこの魔法気持ちいいかも)

    苗木(疲れたし…目を閉じたら寝ちゃいそうだ)

    苗木(…少しだけ、いいよね…?)


    アルターエゴ『苗木はそっと、目を閉じた。心も身体も疲れ切った苗木は、すぐに意識を沈めていく…』



    ━━━━━━━━━━



    ……やぁ、来てくれたんだね。

    苗木(君は…)

    覚えてないかなぁ。僕だよ。前に会ったよね?

    苗木(…あ、カプセルに入ってた……)

    そうそう!僕の希望である君に覚えていてもらえてよかった。

    苗木(…あれ、今日はずいぶん悠長に話してるね)

    うん、国内だからね。通信魔法がビンビン届くわけさ。

    苗木(なるほど…)

    …もう1人も、来てくれてるね。嬉しくて涙が出そうだ。

    苗木(もう1人?セレスさん?)

    誰それ?違うよ。僕の言ってるのは…もう1人の希望。

    苗木(…ごめん。わからないや)

    …そっか。とにかく、僕を助けて欲しいんだ!きっと君の…君たちの役に立つ!

    苗木(それは、前に言ってた僕を捕らえた絶望を──って奴かな?)

    そうなんだ。僕を捕らえた絶望…僕はあいつが大嫌いなんだ。

    苗木(うん。君はどこに居るの?)

    この国のお城さ。地下の牢屋に僕は居る。

    苗木(…そっか。わかった!必ず助けに行くよ!)

    はは、ありがとう。それじゃあ僕の魔力も切れそうだから、これで。



    ━━━━━━━━━━



    パチッ!

    苗木「!」

    アルターエゴ『目が覚めた。身体はとっくに回復しており、身体を縛る物もない』

    苗木(また…あの夢を見てたのか。でも、妙にリアルだった)

    アルターエゴ『むくりと身体を起こし、肩を鳴らす』

    苗木(よし、動く)

    アルターエゴ『時計を見ると、まだ10分程しか経っていなかったらしい。横を見ると、罪木は別の人に回復魔法を使っている真っ最中だった』

    苗木(…あれ、霧切さんが居ない……。寝てる間にどっか行っちゃったのかなぁ…)
  159. 159 : : 2014/04/29(火) 16:34:05



    苗木「それにしても…」

    アルターエゴ『あの夢と…そして彼女との約束を思い出す』

    七海『お願い!』

    苗木(僕がここまで強くなったのも彼女のおかげっちゃそうなのかもな)

    苗木「……そう言えば…あれから色々あったな」

    アルターエゴ『数々の死闘。数々の思い出が苗木の脳裏をよぎる』

    苗木(江ノ島さんは…本当に、どっちなんだろうな)

    アルターエゴ『苗木は迷っていた。何を…誰を信じれば良いのか』

    七海『ありがとう!』

    アルターエゴ『迷っている中、その言葉が頭の中で反響していた』

    苗木(近況も伝えてないし、それより結局あれから会えてない…)

    苗木(話したいことや聞きたいことだって一杯あるのに………)

    苗木「いったい…何処に行っちゃったんだよ…」

    アルターエゴ『苗木はそう呟いた』


    霧切「あら、私のことを探していたのかしら?」

    アルターエゴ『いつの間にか後ろに居た霧切がそう言った』

    苗木「霧切さん!…それとそれは違うよ」

    霧切「そんな風に否定されると傷付くのだけど…」

    苗木「あっ、ごめん」

    霧切「……別に良いわ。それよりも、貴方は誰を探しているのかしら?」

    苗木「それは…えっと」

    アルターエゴ『言葉を詰まらせる苗木。だが知るために、先に進むため苗木は口にする』

    苗木「……七海さんって…知ってるかな?」

    アルターエゴ『考え込む霧切。だが彼女はその問いに答えることは無かった。…何故なら───』

    「おい!!」

    アルターエゴ『──その会話は第三者によって強引に中断されたからだ』

    アルターエゴ『いや、正確には割り込み…と言う方が正しいのだろう』



    日向「お前今………七海って言ったか?」



  160. 160 : : 2014/04/29(火) 18:01:55
    霧切(…最悪のタイミングで御帰還ってわけね)

    日向「なぁ…答えろよ!」

    アルターエゴ『血走った目で、苗木の胸ぐらを掴み上げた』

    苗木「い、言ったよ…」

    日向「詳しく教えてくれ!頼む!」

    苗木「く、苦しい…」

    日向「! す、すまん…」

    アルターエゴ『慌てて手を放す』

    苗木「ケホッ…大丈夫…」

    苗木「僕が彼女と出会ったのは、つい一ヶ月前のことなんだ…」


    アルターエゴ『苗木は事情を話した』


    日向「…そっか……そんなことが…」

    霧切「希望の国も大変なのね」

    苗木「うん…だから僕は、また彼女に会わなきゃいけないんだ」

    日向「…キーワードは、“英雄”…」

    苗木「………うん。でも、僕には“英雄”が善か悪かなんて、わからなかった」

    日向「…あいつは悪だ。これだけは確実に言える」

    苗木「…?何かあったの?」

    日向「…まだ俺はお前を信用しきったわけじゃない。そのうち話すさ」

    苗木「…ハハ、そうだよね」

    苗木「あ、それで霧切さん!七海さんって知ってた?」

    霧切「いえ、知らないわ」

    苗木「そっか…」

    霧切(2人の共通点…“七海”と“英雄”、そして“希望の国”…)

    霧切(ただ事ではない香りがするわね…)

    アルターエゴ『チラリと時計に目をやると、時刻は正午を指していた』

    霧切(…なんだか今日は、時間の流れが遅いように感じる……)

    苗木「…ねぇ、霧切さん。お城はどこにあるの?」

    霧切「お城なら、ここを出て道なりにずっと真っ直ぐよ。どうかしたの?」

    苗木「え?いや…そこは避けて通らなきゃって。やっかい事になるかもしれないからね」

    霧切(………)

    苗木(…お城……行かなくちゃ)


    苗木「あ…そう言えば、今僕剣ないんだ」

    霧切「貸さないわよ」

    苗木「わ、わかってるよ!」アセアセ

    日向「…なぁ、飯はどこだ?」

    霧切「……下の階に、無料の食堂があるわ」

    日向「む、無料!?」

    霧切「代わりに、全員戦争に行かされるのよ。この国の国民なら、ね」

    日向「………そっか」

    日向「そういえば、罪木と澪田は?あの2人から話を聞きたいんだけど…」

    霧切「…なんでもかんでも人に頼ってないで、自分で探しなさい。私は何でも屋じゃないのよ」

    日向「…わかったよ。悪かったな」

    アルターエゴ『日向は少しむっとした表情で振り返ると、乱暴にドアを開け、行ってしまった』

    苗木「…霧切さん、ご飯は?」

    霧切「さっき済ませたわ」

    苗木「そう…。じゃあ、僕も食堂に行ってみるね」

    霧切「わかったわ。でも、あまり出歩かない方がいいわよ」

    苗木「うん、わかった」

    霧切「それと…ここにいる間は私の家に泊まりなさい。ゴスロリにもそう言っておいたから」

    苗木「ありがとう。あ、そういえばセレスさんは?」

    霧切「あなたが寝ている間に、「ちょっと散歩してくる」って出て行ったわよ」

    苗木(…何もなければいいけど)

    苗木「じゃあ、また後でね」

    アルターエゴ『苗木もまた、部屋を後にした』

    霧切(…………)


    ━━━━━━━━━
  161. 161 : : 2014/04/30(水) 21:14:06



    セレス「お邪魔しますわ」

    澪田「……どうぞっす」

    アルターエゴ『セレスは澪田の部屋に居た。というより押し掛けていた』

    澪田「それで、話ってなんすか?」

    セレス「私、この国のことをあまり知りません…だから…色々と教えてほしいのですわ」

    澪田「……なんだそれくらいならおやすいごようっす!後から部屋に行くって言われたときは百合百合とか色々考えちまったすけどそれなら良かったっす」

    アルターエゴ『澪田から不安で怪訝そうな顔つきは消え、いつもの彼女に戻っていた』

    セレス「まず、この国に“英雄”のような方はいらっしゃいますか?」

    澪田「英雄っすか…うーん。あっ!“騎士”ならいるっすよ!」

    セレス「騎士……ですか?」

    アルターエゴ『初めて聞く単語に、セレスは反射的にそう聞き返した』

    澪田「役職とは違うんすけどなんて言うんすかねぇ…」

    セレス「……では、どのような人がなるのですか?」

    アルターエゴ『頭を悩ませる澪田にセレスはそう言った』

    澪田「あっ!それなら簡単っす!絶望ヶ峰で一位のものは“騎士”って称号を得られるんっすよ!つまり凄く強いっす!」

    澪田「……でも、今回は…戦争には居なかったっすけどね…」

    アルターエゴ『澪田は、ばつが悪そうにそう言う。』

    セレス「……なるほど…つまり、その騎士と言う人物はまだ私たちの前に姿を現していないのですね?」

    澪田「……嫌、姿現してるっすよ?」


    アルターエゴ『話を進めようとしたセレスの出鼻を挫くように澪田はそう言った』



    ーーーーーーーーーー



    日向「意味が分かんねぇよ…」スッ

    アルターエゴ『日向は探し回るのに疲れた足を休めるためベンチに腰掛ける』

    日向「他のやつは治療中、罪木って子は治療してるし澪田に至っては見つからない。」

    日向「七海っていう子の足取りすら掴めない…アイツは確実に俺の何かを知っていたのに…!」

    アルターエゴ『日向は不満をボヤきながら地団駄を踏む』

    日向「俺は、本当に…絶望の国の人間だったのか…?」

    アルターエゴ『自問自答……だけど答えは返ってきた──』

    (そうですね。僕は貴方であるので、貴方が知りうる範囲なら分かりますが。貴方は絶望の国の人間です。)

    アルターエゴ『──自分自身から!』

    日向「!!…はぁ…やっぱりそうだったのか」

    (驚いた割りには随分と受け入れるのが早いですね…)

    日向「薄々気付いていたからな…あと驚いたのは、お前にだ」

    (……僕のことはカムクラって呼んでください)

    日向「………お前は俺じゃなかったのかよ……なあカムクラ」

    カムクラ(はい)

    日向「さっさと俺の中から消えろ」

    カムクラ(嫌です。無理です。できません。)

    日向「何だよその三段活用」

    カムクラ(……それより、僕と喋っていて大丈夫なのですか?)

    日向「は?どういうことだ?」

    カムクラ(僕が気付いていることは貴方も無意識に気付いているでしょう……)

    クスクス

    アルターエゴ『聞こえたのは笑い声。それも複数の声だった』

    カムクラ(傍から見たら…一人で喋ってるようにしか見えませんよ?)

    日向「先に言え!!」

    カムクラ(いつかは僕のものになる身体ですから、あまり変な風評ばかり立てないでくださいね。では、また僕は寝ます)

    日向「言いたいことだけ言って寝るな!……ったく」

    アルターエゴ『やれやれと、ベンチに手を拡げる日向』

    日向「──って、そういえば俺はなんでコイツと打ち解けてるんだよ……はぁ」

    アルターエゴ『日向は、まさに自分自身と言う敵をま……中にため息をつく』

    日向「なんて言うか…俺も寝ようかな……………」ウトウト

    アルターエゴ『うとうととし、そして眠気に身を委ねるに至って薄れていく意識の中で日向は二つのことを思っていた』

    日向(俺は…ここを知っている……何でか分からないけど…落ち着くから…)

    アルターエゴ『1つは、自分がこの国の住人であると言うことを再認識したこと…。二つ目は…』

    日向(俺と……アイツらは…敵だったのか……アイツらこれ知ったら何て言うかな………)

    アルターエゴ『日向は知らない。既に、あの三人とは二度と会うことは出来ないことを……』


    日向(…………………zzZ)


    アルターエゴ『そして日向の意識はゆっくりと闇に落ちた…』



  162. 162 : : 2014/04/30(水) 22:03:15
    苗木「………」

    アルターエゴ『苗木は今、絶望の国に居た』

    アルターエゴ『いや、すでに居るのだが、ここが絶望の国ということが、嫌という程わかる光景を目の当たりにしているのだ。それは…』


    苗木「なんだ…この空…」

    アルターエゴ『今日の天気は晴れ。屋内にあった魔法新聞には確かそう書いてあった。…だが、これが晴れかというと、苗木は断言できない』

    苗木「空が赤い……」

    アルターエゴ『空は燃え上がる炎のように赤く、そして昼間とは思えない程暗く、どんよりとしている』

    苗木(希望の国はもっと明るかった…。なんだかこの空を見ていると、不安になってくる…)

    アルターエゴ『が、そんな不安になっているような時間があるならば、少しでも動いた方がいいと思い、苗木は再び歩き出す』

    苗木「待っててね…」 


    ━━━━━━━━━━


    セレス「……へえ…」

    澪田「そうっす。でも、“騎士”がこの国を仕切っているわけではなくて、いつもは国王の代理人が出てきて話しをするっす」

    セレス「代理人…?」

    澪田「ほら、来る途中に声を何度も聞いたはずっすよ!」

    セレス「…あぁ、あの狸みたいな声ですわね」

    モノクマ『僕は狸じゃない!ネコ型ロボットー!』

    セレス・澪田「!!」

    テーレーレーレーレー↓

    モノクマ『まったく困っちゃうよねえ。入国検査受けた?パスポートは?』

    セレス「あいにく持ち合わせておりませんわ。難民ですから」ニコッ

    モノクマ『難民とは思えないその笑顔!』

    モノクマ『ま、まぁ僕が国王代理のモノクマです。名刺渡しとくね』

    セレス「どうもご丁寧に」

    モノクマ『何かあったらそこに書いてある通信魔法を唱えてね。僕だけに伝わる専用通信魔法だから。じゃあごゆっくりー』ヒュン!

    澪田「行っちゃった…」

    セレス(…なるほど、泳がせておくというわけですか)

    アルターエゴ『…渡された名刺には、汚い字で“希望お断り”と記されていた』
  163. 163 : : 2014/05/01(木) 19:17:31



    セレス「フフフ、こちらこそ…“絶望お断り”ですわ」スッ

    アルターエゴ『セレスはそう呟くと、窓から名刺を投げ捨てた』

    ヒュウウウ!

    アルターエゴ『名刺は突風に煽られ遥か遠くへ飛んでいき、やがてセレスの視界から消えた…』



    ーーーーーーーーーー



    日向(ん…ここは?俺は確かベンチで…)

    やぁ…久しぶりだね

    日向(!!……お、お前は…)

    おっと、その反応は覚えててくれたんだね…ボクみたいなゴミ屑のことを…

    日向(また、夢なのか…)

    違うよ。これは夢じゃない

    日向(……おい、カムクラアイツは何者だ……………カムクラ?)

    よく分からないけど、ボクは通信魔法で君を呼んだわけだから、今は、君とボクしかいないよ

    日向(お前は何者だ?)

    その答えは直接聞いてよ

    日向(……お前は何処にいる?)

    この国の…絶望城の地下牢でボクは待っている。

    日向(牢屋………犯罪者ってやつか?)

    それは来てからのお楽しみだよ。

    日向(行って俺に利益はねぇだろ…)

    ……そうだね。じゃあ教えてあげるよ…英雄の秘密を…

    日向(なっ…どういう)

    さっきも言った通り来てのお楽しみだよ

    日向(今ここで言えよ!)

    ……ごめんね。それはできないんだ…そろそろ魔力も持たないし…またね

    日向(!……待て!!)



    パァァァァ!

    アルターエゴ『その返事は返ってくることはなく。辺りは光に包まれた』


    ーーーーーーーーーー


    パチッ!

    日向「!」

    アルターエゴ『日向は目を開く。そして一通り辺りを見渡したあと』

    日向「そう言えば…俺ここで寝てたんだっけ……」

    日向(ってことは…今さっきのは何だったんだ?……夢?……いや、それにしてはリアルだった)

    アルターエゴ『顎に手を当て、考え込む日向…そこへ』

    苗木「あっ、…日向くん」

    アルターエゴ『先程日向が胸ぐらを掴み上げた少年…苗木誠が現れた』

    日向「えっと確か……苗木か…」

    苗木「うんそうだよ。…でさ、どうしたの?元気ないけど…」

    日向「悪い…今は話せない」

    苗木「そっか…」

    アルターエゴ『苗木は、少し寂しそうに目をそらす』

    日向「それよりお前はどうしたんだ?こんなとこまで来て」

    苗木「え、ええっと…」

    アルターエゴ『今度は都合の悪そうに苗木は目をそらした』

    日向(町から少し離れた郊外。目ぼしいものはほとんど無いし、あるのは城ぐらいだな………ん…城?)

    アルターエゴ『日向は先程の言葉…夢か現実か分からない場所で言われた言葉を思い出す』

    「(絶望城の地下牢でボクは待っている…)」

    日向「!!」

    アルターエゴ『そして、日向の中で何かが繋がった』


    アルターエゴ『カムクラの言う、面白い人物である【ナエギマコト】』

    アルターエゴ『先程聞いた、“今は”二人しか居ないの意味』

    アルターエゴ『そして…苗木がここに居る理由』


    日向(これから導き出される答えは…1つしかない…!)


    日向「なあ、苗木…」

    アルターエゴ『動揺を悟られぬよう、そう話を切り出す日向』

    苗木「なに?」

    日向「お前、もしかして…」




  164. 164 : : 2014/05/02(金) 08:11:15
    日向「お前!城に行こうとしてないか!」

    苗木「!」

    アルターエゴ『見透かされた…苗木はまたも目をそらす』

    日向「おい!」

    ガッ!

    アルターエゴ『肩を掴み、揺さぶる。苗木は唇を噛みしめるようにして、「ごめん」とだけつぶやき…』

    日向「!」

    アルターエゴ『日向の目の前から、消えた』

    日向「……クソッ!なんなんだよあいつ!」

    カムクラ(…ほぉら、やっぱり面白い)

    日向「…!」

    カムクラ(今の魔法、単純にして奥が深い。よく使いこなせている)

    カムクラ(…なのに、流れる魔力は未知数)

    カムクラ(…やはり、彼は面白い)

    日向「なんなんだよ!お前がそこまであいつに肩入れする理由は!」

    カムクラ(言った通りですよ。彼はこの世に蔓延るツマラナイ物とは違う。それだけです)

    日向「ちっ。めんどくさい思考だ。…よし、俺も城に行くぞ。そしたら、二つの正体がわかる!(かもしれない)」

    カムクラ(おお!僕も期待に胸が膨らみます)

    日向「じゃあ行くぞ!」ダッ!!

    アルターエゴ『日向は、城に向かって駆け出した』


    ━━━━━━━━━━


    【城】


    苗木(ここが城…)

    アルターエゴ『その城は、RPGで魔王が住んでいるような、禍々しい雰囲気を放っていた。一瞬のまれそうになったが、ぐっと気を引き締める』

    苗木(門は…開いてる…)

    アルターエゴ『滅多なことでは開きそうもない鋼鉄の門が、今は開いている』

    アルターエゴ『これがどういう意味か、苗木にもわかった』

    苗木(………こんなところで怯んでちゃだめだ!)

    アルターエゴ『…決意と反して、苗木は恐る恐るその門をくぐった』


    ……………

    苗木(…何も起きない……)
  165. 165 : : 2014/05/02(金) 17:15:32



    苗木(確か…地下で待ってるって言ってたな…)

    アルターエゴ『苗木は城の中へ入った。そして…地下への階段を下ろうとしたとき』

    「こら!お前何をしている」

    「勝手に入るんじゃない!」

    アルターエゴ『どこからともなく現れた兵士たちが苗木に向けそう怒鳴ると、階段への道を防ぐように戦斧をクロスさせた』

    苗木「僕…この先に行きたいんだけど」

    「どこの馬の骨か分からん奴にこの先行かせるか!」

    「そうだ!帰った帰った」

    苗木(ぐぅ、力ずくで行くのはダメだよな…霧切さんに迷惑がかかるし…)

    アルターエゴ『正論を言われ、なすすべの無い苗木。そんな彼が取った行動は…』

    苗木「…分かりました…」クルッ

    アルターエゴ『渋々引き返すことだった』



    ーーーーーーーーーー


    【城】


    日向「…ここか?」

    アルターエゴ『城の前に日向は立っていた。だが何故『?』と疑問の念を抱いたかというと… 』

    日向「門番が一人も居ないぞ…」

    アルターエゴ『日向の基準は希望の国のものであるからそう思うのも当然だった。いや、常識的に考えて門番が居ないのはおかしい』

    日向(城自体には、価値が無いってことなのか…?)

    カムクラ(早く中に入りましょう…)

    日向「…分かってるよ。でも推測ぐらいさせろ」

    カムクラ(外れるのは目に見えてますからね…時間の無駄なのは分かりきっていることです)

    日向「俺をバカって言ってるのか?言っとくがそれ、お前にも飛び火するからな」

    カムクラ(僕は貴方だからですか……だけど、違うんですよ…)

    日向「……言ってる意味が分からねぇぞ」

    カムクラ(いずれ分かります。だから今は…)

    日向「…はいはい、行けば良いんだろ」

    アルターエゴ『そう言いながら、日向は城へと足を踏み入れた』



    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『苗木は一旦諦め、兵士たちに背中を見せる……つまり後ろ…城の入り口に目を向ける……そこには──』

    苗木「日向…くん?」

    日向「そうだ…ったく、話ぐらい聞けっての」

    アルターエゴ『──先程巻いた少年。日向創が居た』

    苗木(追い付かれちゃったね)

    日向「さっきの反応とこの状況からしてお前も地下に行く気だったんだろ?」

    苗木「……“お前も”って…日向くんもなの!?」

    苗木「そういえば彼は言ってた……もう一人の希望がいるって…まさか!」

    日向「それは分からないけどな。俺は絶望側のようだし…」

    苗木「あっ、でもさ…駄目なんだよ」

    日向「何がだ?」

    苗木「彼らが、道をふさいで通してくれなくて…」

    アルターエゴ『苗木は後ろを指差し、日向は苗木の肩越しに二人の兵を見る』

    日向「……ぶっ倒して通れば良いんじゃないか?」ボソッ

    苗木「だ、ダメだよ!何考えてるの?!」ボソッ

    日向「それもそうだな…なあ、カムクラどうしたら良い?」

    (…………)

    日向「……シカトかよ、自分で何とかしろってことか…城だけに」

    苗木「!?」

    日向「い、いや、忘れてくれ…とりあえず俺もアイツらに言ってくる、一人が駄目でも二人なら何とかなるかもしれないしな」

    苗木「うん。そうかもしれないね」


    アルターエゴ『…そうして彼らは地下への階段へ向け歩き出した』



  166. 166 : : 2014/05/02(金) 18:11:47
    「…むっ、また来たのか」

    日向「…聞いてくれ。国王代理に頼まれて、この先を調査しに来た者だ」

    「そこの奴は、さっき来たぞ?」

    苗木「!」


    日向「彼は新人だから、勝手がわからなかったんだろう」

    「……そうか。ならば仕方がないな。通れ」

    アルターエゴ『やけにあっさりと、2人は斧の交差を外した』

    日向「…よし、行くぞ」

    アルターエゴ『日向が2人の間を通り、続けて苗木もそこを抜けた』

    日向(なんだよ…簡単じゃねぇか)

    苗木(おかしい…こんなに簡単に行くわけがないのに)

    アルターエゴ『嫌な予感がしていた。その嫌な予感を背中に受けながら、2人は慎重に階段を下りていく』

    コツ……コツ……


    苗木(……もうかなり下りた…けど、あの2人が追ってくる様子はない)


    日向「…ナエギ、マコト…」

    苗木「!」

    日向「まったく鈍感な人だ。あからさまなくらいにやったつもりですが」

    苗木「………?君は…」

    日向「日向創ですよ。僕の魔法で上の2人をマインドコントロールしたわけですが…どうやらわからなかったようですね」

    苗木「…そうなんだ。日向くんは、そういう魔法を使うんだね」

    日向「大抵の魔法ならなんだって使えますよ。だからこそ…」

    アルターエゴ『不意に振り返り、苗木と目を合わせる。…しばらくその状態が続き、日向が切り出した』

    日向「君は、面白い……」

    苗木「ッー!」ゾクッ

    アルターエゴ『…空気が凍てついていくのがわかった。日向創の意外な表情から、苗木は一気に血の気が引いていく』

    日向「…って、どうした?」

    苗木「え?」

    日向「なんだよ。目を丸くしちゃってさ。俺の顔になんかついてたか?」

    苗木「い、いや…」

    アルターエゴ『……さっきのは幻?苗木の中で、確かな疑問が芽生える。そして、』

    苗木(…日向くんって、一人称は俺じゃなかったっけ……)

    アルターエゴ『その疑問は、更に膨らんでいくのであった』


    ━━━━━━━━━━


    霧切「…………」

    アルターエゴ『霧切は一旦自分の家に戻ってきていた。シャワーを浴びて、タオルで全身をかわしながら、頭の中で今日のことを振り返った』

    霧切(…たくさん、死んでしまった)

    霧切(ソニアさん…何かと私の事を気にかけたくれた彼女の死は、信じたくないわね)

    霧切(先生も死んだ…さらには、兵士長まで死んでしまった)

    霧切(ただでさえ不利だったこの国は、今日で更に不利になった)

    霧切(一体、どうする気なのかしら……国王代理)

    霧切(………そして、あの男はやっぱり…!)ギリッ

    ドォォン!

    アルターエゴ『…感情の高ぶりから魔力が漏れ出し、壁に大きな穴が空いてしまった』

    霧切(………今夜までには、直さないといけないわね……)



  167. 167 : : 2014/05/03(土) 14:13:16


    ヒュウウ…!

    アルターエゴ『ぽっかりと空いた穴から冷たい風が入り、霧切の体と頭を同時に冷ます』

    霧切「あの男は殺さないといけない…だけど…」

    アルターエゴ『落ち着いても尚。一人でも尚霧切は語り続ける』

    霧切「理由が…分からない……」ギリッ

    アルターエゴ『不可解な記憶喪失の果て残っているのは、見ず知らずの男に対する憎しみ、恨み、そして殺意のみ…』

    霧切「……」

    アルターエゴ『だからこそ、彼女の不満と怒りは積もっていくのだった』



    ーーーーーーーーーー


    コツン…コツン…

    苗木()


    アルターエゴ『奥へ行くにつれて、外装が徐々に丁寧な造りになり、壁には蝋燭が、辺りには祭壇や花などのお供え物が添えられていた』

    日向(おいおい…地下牢って聞いたからてっきり囚人が居るような場所かと思ってたぞ…)

    苗木(周りにあるのは鉄格子じゃなくて…祭壇?……これじゃまるで…捕まっているというより…)


    アルターエゴ『二人は決してバカでは無い。だからこそ気付いたこの異質な光景に…』


    苗木「ねえ……日向くん…これって…」

    日向「ああ…お前も気付いたか…」

    アルターエゴ『不安を紛らわすため、立ち止まり向き合う二人』

    苗木「…この祭壇や沢山のお供え物…これじゃまるでここの人は…」

    日向「…………神か何かみたいに…崇め奉られてるみたいだな…」

    苗木「うん…」

    苗木(この先に…いったい何があるっていうの…?)

    アルターエゴ『苗木は立ち止まり熟考を始める……が』

    日向「苗木、先に進もうぜ。…きっと答えはこの先にある」

    アルターエゴ『そんな熟考は、日向の一言で一蹴された』

    苗木(そう…だよね。答えは目の前にあるはずなんだ…だから僕のすることは考えることじゃなくて──)

    苗木「……分かった。先に進もう!」

    苗木(──前に進むことだ!!)


    ──────────

    ──────

    ────

    ──


    苗木『ここで僕は、よく考えておくべきだったのかもしれない』

    苗木『今さら後の祭りなわけだけれども…それでも安易に進むべきでは無かった』

    苗木『だって、これが…“人類史上最大最悪の絶望的事件”の幕開けになってしまうのだから…』


    ────

    ───────

    ─────────



  168. 168 : : 2014/05/03(土) 15:49:49
    コツ…コツ…

    アルターエゴ『歩を進める。が、進む度に似たような祭壇…蝋燭、赤い液体、また、獣の頭蓋骨のようなものも見つかった』

    日向「………」ゴクリ

    アルターエゴ『次第に口数も減っていき、2人の中を嫌な風が吹き抜ける。…それは、“予感”』

    苗木「………!」

    アルターエゴ『それでも下り続けると、永久に続くような階段にも、ゴールが見えてきた』


    コツ…コツ………

    日向「ここが…最深部……」

    苗木「…これって……」

    アルターエゴ『苗木の目に映った物…なんとなく予想はできていた。だが、それは今までの何より凄惨で、理不尽で、非人道的で…絶望的な光景だった』

    日向「………」

    アルターエゴ『そのホールの様な場所で…最初に目を引いたのは赤い字で描かれた魔法陣。その先には一際大きな祭壇があり、蝋燭の炎は部屋全体を照らしている。…そして、視線を上に動かせば…』

    「………」

    アルターエゴ『…そこには大量の人間が、吊されていた』

    アルターエゴ『天井を覆う程の数の人間達は、すでに生気を失っているようだ』

    日向「…やっぱり…ここは牢屋なんかじゃない!」

    日向「俺達、騙されちまったのか!?」

    「いや…騙してなんかないよ」

    苗木・日向「!」

    苗木「この声…!」

    日向「おい!どこにいるんだ!出てこいよ!」

    「ははっ。これから君達に出してもらうんだよ」

    苗木「…?」

    「いやぁ…実は僕、特別な封印魔法によって、ここで縛られてしまったんだ。かろうじて残った魔力で、この封印を解ける人を探した…そして見つけたのが、そこの苗木くんさ!」

    日向「は?待てよ…そしたら俺はなんだよ!」

    「焦らないで…君も必要なんだ。この封印を解けるのは苗木くんだけだけど、日向くんは、鍵なんだ」

    日向「…鍵?」

    「鍵だけじゃこの封印は開かない。鍵を扱う人物が居てこそ…って意味だよ」

    苗木「なんとなくわかったけど…僕たちはどうすればいいの?」

  169. 169 : : 2014/05/04(日) 23:25:24



    日向「おい…待て!」

    アルターエゴ『既に“どうやって封印を解く”かと方法を考える苗木にそんな言葉をかける日向』

    アルターエゴ『そして日向はカプセルの男に向け、こう言う』

    日向「なあ、お前は名前は何て言うんだ?」

    「ボク…?ボクは……狛枝凪斗だよ」

    アルターエゴ『その問いに対し、彼はそう答えた』

    日向「狛枝…お前は本当に知っているのか?」

    狛枝「君の知りたいことならきっと知っているよ」

    日向「じゃあ、それを今すぐ教えてくれないか?」

    狛枝「……それはダメだよ、それは封印を解いた後。」

    日向「……くっ…」

    アルターエゴ『交渉は虚しく失敗に終わり、日向は悔しそうに歯を食い縛る…』

    狛枝「ああ、ごめんそう言えば話が逸れちゃったね。君たちにしてもらいたいのは…」

    狛枝「まずは苗木クン……君には絶対絶命の状態でのみ姿を現す希望…それをボクに目掛けて注いで欲しいんだ」

    苗木「は?」

    日向「お前…何を…」

    アルターエゴ『二人の怪訝そうな顔を他所に狛枝はこう続ける』

    狛枝「日向クン…君には苗木クンと殺す気で戦ってほしい」

    苗木「?!」

    日向「……は?俺が何だってそんなことを…それならもっと適任のヤツが他にいるはずだろ!!」

    狛枝「これは…【日向創】…君じゃないとダメなんだ!」

    日向「何でだよ!!」

    狛枝「……それは君自身がよく知っているはずだよ…」

    日向(……くそッ!覚えてねぇよ!!)

    苗木「……狛枝君…僕も君の言っていることがよく分からないんだけど…」

    狛枝「分からないなら分からないままで良いよ。結果は自ずと出てくるからね」ニヤッ

    アルターエゴ『口角を三日月のようにつり上げながら笑う狛枝…』

    苗木「………」

    日向「………」

    アルターエゴ『…そしてそれと対照的に、無表情で黙り混む二人』

    アルターエゴ『助けに…そして真実を求めにやって来た先で、戦うことを余儀なくされたのだ誰しもその反応になるだろう──』

    カムクラ(逃げるのですか?)

    日向「!!」

    アルターエゴ『──たった1人を除いて』

    日向「俺は…逃げてなんか」

    カムクラ(真実を知る答えが直ぐ側にあるのに…貴方はそのチャンスを棒に振り、諦めるのですか?)

    カムクラ(それを逃げと言わずして、何と言うのですか?)

    日向「…………………………」

    カムクラ(………貴方はそんなものでは無い筈です…だから見せてください…日向創の全力を…)

    日向「…………………分かったよ」

    アルターエゴ『そして日向は刀を抜き、丸腰の苗木に向け構える』

    苗木「日向……くん?」ザッ

    アルターエゴ『戸惑い、一歩後ずさりをする苗木』

    日向「俺とお前…知り合って全然たってないよな…って言うかまだ一日だ」

    アルターエゴ『尚のこと刀を構えたまま、日向はそう続ける』

    日向「本当に良かった…。だって、お前と…気兼ねなく戦えるからな!!」

    ブンッ!!

    アルターエゴ『その言葉を引き金のように刀を振るう日向!──』

    苗木「うわっ!」

    スカッ!

    アルターエゴ『──だが距離があったこともあり、その鋭利な刃は苗木を捉えることは無かった』

    苗木「……日向くん…何を?」

    アルターエゴ『突然の攻撃に驚きを隠せぬまま、そう言う苗木。それに対して日向は』

    日向「俺は…知りたい……真実を知りたい…だから!!」

    アルターエゴ『苗木を睨み付け、声をあらげながら刀を振り上げる』


    苗木(……くそっ…戦わないとダメなのか…?)






  170. 170 : : 2014/05/05(月) 21:39:19
    狛枝「さぁ!希望を見せてよ!」 

    アルターエゴ『カプセルの中から、戦いをはやし立てる狛枝。苗木はここに来たことを心底後悔した』

    苗木(わ、罠だったの!?)ブンッ

    アルターエゴ『日向の剣をかわし、どうにか対抗策を考える』

    苗木(…日向くん、剣筋はいいけど……)

    アルターエゴ『“普通”だった。他に言い方が見つからないが、とにかく“普通”なのだ』

    アルターエゴ『兵士と同じ訓練を受けた苗木にはわかる。一つ一つが基本の動作』

    アルターエゴ『そして、それらを忠実にこなしてはいるものの、今一歩足りていない実力』 

    苗木(…魔法は使わなくても大丈夫かな)

    日向(クソッ!余裕そうな表情しやがって!)ギリッ

    カムクラ(日向創。あなたは本当に何も覚えていないのですね)

    日向「あぁ!?戦闘中になんだよ!」

    苗木(? 日向くん…?)

    狛枝(………フフフ……)

    カムクラ(その筋肉は飾りですか?あなたが何もせずその身体になったと?)

    日向「…何が言いてぇんだよ!」

    カムクラ(…このまま何も起きないようなら、僕が出ます。どいてください)

    日向「はぁ!?そんなの許すわけ──」

    苗木「…………?」

    カムクラ「……ふぅ…」

    苗木「……!!」ゾクッ!!

    苗木(雰囲気が変わった…!何か来る!)

    カムクラ「あぁ。戦闘を中断してしまいましたね。申し訳ない」

    カムクラ「さぁ、ナエギマコト…第二ラウンドですよ」

    アルターエゴ『日向の目が、赤く光る。その目に苗木は見覚えがあったか、正確に思い出せない』

    苗木(……くっ…)ズキンッ

    カムクラ「ふんっ」ビュオッ!

    苗木「!」

    アルターエゴ『日向(?)はただ一太刀。剣を上から下に振り下ろす。ただそれだけの動作で』

    ズガァァァーーーン!!

    アルターエゴ『床に、谷のように深い亀裂が入った』

    苗木「!」

    アルターエゴ『そしてその亀裂は衝撃波と共にどんどんと苗木に向かって一直線に近づいていく!』

    苗木「くっ!」バッ

    アルターエゴ『横に大きくダイブすることで突然のそれをかわす。先程までとは段違いのスピードと威力…反応が遅れるのは当然とも言える』

  171. 171 : : 2014/05/06(火) 04:55:12



    カムクラ「まだまだ終わりじゃないです」

    苗木「くっ!」

    アルターエゴ『日向…いやカムクラは再び剣を構え、武器を持たぬ苗木は避けるために身構える──その時』

    狛枝「ねえ、君…」

    アルターエゴ『先程まで囃し立てていた狛枝が冷たい声でそう言った』

    狛枝「ねえ、聞こえてるでしょう?君だよ君…」

    カムクラ「……僕ですか?」

    アルターエゴ『武器を構えたまま、そして苗木を視界の端に入れたままカムクラがそう返事をする』

    狛枝「そう、君。あのさ、希望を輝かせるための戦いなのに何で邪魔するわけ?」

    カムクラ「邪魔?この僕が邪魔と言うのですか?」ギロッ

    アルターエゴ『心外だと言わんばかりにカムクラはカプセルの中の狛枝を睨み付ける』

    狛枝「うん、邪魔。ボクは日向創と苗木誠の闘いを欲してるんだ、たかがギャラリーが邪魔しないでくれるかな?」

    苗木(どういうことだ?)

    アルターエゴ『苗木には二人の会話の意味が分からなかった』

    アルターエゴ『だが、ただ1つ分かることがあるとするならば……』

    苗木(今がチャンス!!)ダッ!!

    アルターエゴ『苗木は物音をたてずにその場からカムクラに向け跳躍!』

    苗木(こっちは丸腰なんだ…不意打ちくらい悪く思わないでね!!)

    スッ!

    アルターエゴ『武器を落とされるのが狙いのその一撃は…』



    カムクラ「聞こえていますよ?」

    ブンッ!!

    苗木「なッ?!」

    ザクッ!!

    アルターエゴ『虚しくもカムクラに届くことは無く、逆に振り返ったカムクラの一太刀をその身に受けた』

    苗木「ぁぁぁあぁぁあ!!!!」

    アルターエゴ『鋭い痛みが全身に走り、大量の鮮血が切られた腹部から溢れ出す』

    狛枝「……いい加減にしてくれないかな?」ゴゴゴ

    アルターエゴ『苛立ちを態度に出しながら狛枝はそう言う』

    アルターエゴ『だが狛枝が先の言葉を言い終わる前に、緑のオーラが苗木を包み込み 腹部からの出血は収まっていた』

    カムクラ「傷口は僕が塞ぎました。だから死ぬことはないでしょう…。それと安心してください、僕は“彼は”殺す気は無い…」

    狛枝「……ふーん…ああ、そういうことね」

    カムクラ「分かったような素振りを取らないでくれませんか?殺しますよ?」

    狛枝「ふふっ、それはこっちのセリフだよ。まあ今はこの封印のせいでボクも君も何も出来ないんだけどね」ハハッ

    カムクラ「確かにできませんね……“今は”」

    苗木「……っ…」フラフラ

    アルターエゴ『苗木はフラフラと立ち上がる…そして!』

    苗木「……僕のこと…忘れてないかな……?」

    ガシッ!!

    アルターエゴ『カムクラの持つ刀を握りしめた…当然柄は握られているため刃を』

    アルターエゴ『だが、その手から血が流れることはない……何故なら』

    カムクラ「ほう…早速ですか…」

    『精神集中』

    苗木「当たり前だろ………このままやられるわけにはいかないからなッ!!」



  172. 172 : : 2014/05/06(火) 12:51:46
    アルターエゴ『言い終わると同時に苗木は姿を消す…否、』

    カムクラ(超スピードというわけですか)

    タンッ!  チチッ  タタタッ!

    アルターエゴ『四方から降りかかる砂煙。姿は見えずとも苗木が走り回っている音は確かに聞こえる』

    カムクラ(実力差を見切って、どうにかその差を埋めようとする策…というわけですか)

    アルターエゴ『そして、その砂煙で完全に視界が塞がった時!』

    ブオォッ!

    アルターエゴ『カムクラは、全身から魔力を放出…そこに』

    ガキッ!!

    アルターエゴ『苗木の鋭い蹴りが鈍い音を立ててその衝撃を吸われていく』

    苗木「…だめか」タッ

    アルターエゴ『素早く距離をとり、動き回りながら再び攻撃の好機をうかがう』

    カムクラ「やはりあのタイミングでの攻撃は必然。これは計算できるツマラナイ一手」

    カムクラ「早く魔法を使いなさい…僕はそれを間近で見てみたい!」

    日向(おい!まさかそんなことのために俺の身体を乗っ取ってるんじゃないだろうな!)

    カムクラ「そのまさかです」

    日向(何がそのまさかだよ!これは俺とあいつの戦いだ!)

    カムクラ「あなたがあまりに不甲斐ないから、僕が出てきたまでのこと」

    カキィン!

    アルターエゴ『会話をしながらでも、一切の焦りを見せず苗木の攻撃を剣で防ぐ』

    カムクラ「本気を出せば、君を殺すことなどたやすい」

    苗木「………」

    カムクラ「でもそれではいけない。君が認識できる範囲で死の恐怖を与えなければ」

    ダッ!

    苗木「!」

    カムクラ「君の魔法は、成立しない」

    アルターエゴ『一瞬で距離を詰めたカムクラの剣先が、苗木の喉仏をなでる』

    苗木「………!」

    カムクラ「さぁ見せなさい。さもなくばこの剣は、君の命に届く」
  173. 173 : : 2014/05/07(水) 19:54:41


    苗木「………後悔しても知らないよ!」スッ

    ヒュオン!

    カムクラ「…ほう」

    苗木「チェックメイトだよ…」スッ

    アルターエゴ『いつの間にか苗木とカムクラの場所が入れ替わり、苗木の手には刀が握られカムクラの喉には刃が当てられていた』

    カムクラ(これはただの座標空間系の魔法とは違いますね…もっと…本質的な何か………ワカラナイ…)

    狛枝(ボクが求めているのはそれじゃ無いんだけどなぁ)

    カムクラ「しかし…何がチェックメイトなのですか?」

    苗木「君は丸腰、僕は武器を持っている…だから君の負けだよ………諦めて降さ──」

    カムクラ「───誰が丸腰なんですか?」ブンッ!


    苗木「なッ!!」スッ

    アルターエゴ『苗木がその言葉を言い終わる前に、カムクラが突如手に持った「それ」を振るう。苗木は反射的に剣を斬撃の延長戦に構え防ぐ……』


    キィン!!!


    アルターエゴ『刃同士がの擦れる音が響き。苗木は衝撃を殺し切れず仰け反る』

    苗木「えっ?!何で君がその武器を…」

    アルターエゴ『カムクラの手に握られていたのは包丁。苗木はその武器に確かに見覚えがあった…』

    苗木(それは舞園さんの魔法のはず!!)

    カムクラ「おっとそれより、刀を首元から話してよかったのですか?」

    アルターエゴ『当然カムクラは、それを見逃さなかった今度は両手に持った包丁を2方向から振る』

    ブンッ!!

    カムクラ「これはどう防ぎますか?!」

    苗木(おかしい…何で彼があの武器を…あの魔法を使っているんだ…)


    アルターエゴ『迫り来る斬撃…その中で苗木が考えていたのは避け方ではなく相手の魔法についてであった。何故なら…』



    ~~~~~~~~~~


    アルターエゴ『思い出すは、地獄の修行のひととき…』


    江ノ島『苗木君クイズのお時間です』

    苗木『唐突!?』

    江ノ島『能力の近い相手と戦うとき一番勝利に貢献するのは何でしょう』

    苗木『え…ええっと…運?』

    江ノ島『いえ違います。情報です。これは実力差があっても勝敗を分けます覚えておくように』

    苗木『う…うん』

    江ノ島『よしっ!じゃあまた再開だぜェ!!』デストローイ

    苗木『やっぱり唐突なんだね…』


    ~~~~~~~~~~


    アルターエゴ『ある意味恩師“言葉”で教えてくれたこと数少ないことの1つ……それゆえ苗木は覚えていた』

    苗木(いや元々違和感はあった…「聞こえていますよ」と言う発言………つまり!!)ヒュッ!

    タンッ!

    カムクラ「何?!」

    アルターエゴ『苗木は仰け反った状態で跳躍。そして振るわれるカムクラの腕を足場にし更に跳躍し、空中で回転』

    スタッ

    苗木「ふう…」

    アルターエゴ『簡潔に結果だけ言えば、苗木は無傷でその場を切り抜けた』

    苗木(…精神集中がなかったら危なかったな…)

    アルターエゴ『己の攻撃をかわされ……それでもカムクラは嬉しそうに微笑んでいた…』

    カムクラ「やはり…やりますね」

    苗木「もう…やめにしない?」

    カムクラ「何を言っているのですか?これほど楽しいことは──」

    苗木「君の魔法の正体は分かっているよ…コピーだよね?」

    カムクラ「…………ほう、何故そう思ったのですか?」

    苗木「僕は豚神くんのを見たから知っているんだ」

    カムクラ「ふふっ…」

    苗木「何が…おかしいの?」

    アルターエゴ『カムクラはその言葉に僅かに微笑した……そして』

    カムクラ「…………あんな“簡易番”と一緒にしないでください」ギロッ

    アルターエゴ『そう言うと同時に、またもその赤い双眼で苗木を強く睨みつけるのだった』



  174. 174 : : 2014/05/07(水) 21:19:32
    苗木(!!)

    カムクラ「僕の魔法はこの世の全てを掌握したに等しい能力を持っています。君の肉体強化とは雲泥の差だ」

    カムクラ(…しかし、やはりさっきの魔法は興味深い。ですが、まだある)

    カムクラ(本人も気づいているかわからない……不自然な魔力の流れ)

    キィン!

    アルターエゴ『苗木の剣と、カムクラの包丁が火花を散らしてぶつかり合う。が、明らかに分があるのは──』

    苗木(僕!!)

    アルターエゴ『リーチがある分、こちらが有利と判断し、あくまで強気に、一歩踏み込んだ』

    カムクラ「っ!」

    アルターエゴ『気がつくと自分の首に刃が近づいている。…嫌な感覚だ。カムクラは少し余裕が崩れた表情で、包丁を前方に凪払う』

    ブォン!

    アルターエゴ『寸前のところで仰け反り、その一撃は空を斬ることになった。が、』

    バッ!バババッ!

    アルターエゴ『呼吸をする暇もなく、カムクラは素早い動きで苗木の懐に容易く侵入すると、そのまま苗木を抱き寄せる』

    苗木「っ!」

    アルターエゴ『一瞬の身動きが封じられた。それは戦闘では…死を意味する』

    カムクラ「君が死んだのは、これで二度目です」

    アルターエゴ『苗木の首に浮き出る血管に、包丁がしっかりと密着していた』

    苗木「………」

    カムクラ(ここも、君はあの魔法を使って切り抜けるだろう)

    アルターエゴ『そう確信していたカムクラ。だが!』

    苗木「…まだ、魔法を見せるには早いよ」

    カムクラ「………?」

    アルターエゴ『苗木は“言葉”で相手から一瞬の時間を奪った。そしてそれは苗木が、戦闘で引き出した情報があるからこそできること!』

    ガキィィン!!

    アルターエゴ『そう、効果抜群な、ただのハッタリである』

    アルターエゴ『その一瞬で、苗木はまず包丁を弾き飛ばした。そしてわずかに残ったコンマ数秒!!』

    カムクラ「!」

    アルターエゴ『左足を軸にして、大きく旋回!』

    ガッ!

    カムクラ(脚払い…!)

    アルターエゴ『想定していなかった動きだ。そのままカムクラは尻餅をつく形になり…』

    苗木「ここだっ!」

    アルターエゴ『勢いそのままに、苗木の剣がカムクラの心臓に突き立て………られることはなかった』

    苗木「!」

    カムクラ「……これで三度目、ですか」

    苗木「…………えっ……?」

    アルターエゴ『…弾き飛ばしたはずの包丁は、苗木の背中に深々と刺さっていた』
  175. 175 : : 2014/05/08(木) 19:52:50



    苗木「…な…なんで…」

    アルターエゴ『包丁の刺さった痛みで、声を振るわせなから苗木はカムクラに向けそう問う』

    アルターエゴ『それに対しカムクラは無表情のままこう答えた』

    カムクラ「貴方は知っているはずでしょう?あの魔法で作られた包丁は遠隔操作が出来る…」

    アルターエゴ『思い出すは、クラス対抗戦の第三試合』

    アルターエゴ『苗木はセレスと舞園の戦いを身近で見ていた……だからこそ知っていた──』

    苗木「そんな…!だって…自身が戦いながら遠隔操作なんて…彼女は一度も!!」

    アルターエゴ『──“出来るはずが無い”ということを…。だが、それに対しての答えは単純明快で、奇想天外だった』

    カムクラ「出来ないでしょうね…“彼女では”」

    苗木「!!」

    カムクラ「僕は…………簡単に言えば相手の魔法を使いこなす。…それも本人より上手くです。まあ相性によっては出来ないものもありますが……」

    苗木「……日向くん…君はいったい…」

    カムクラ「おや、そういえば自己紹介が遅れていましたね…僕の名前はカムクライズル……もう1つの日向創です…」

    苗木「……?それは…どういう…?」

    カムクラ「…強いて言うならオセロの石…でしょうか……まあそんな風に思っていただければ十分です」

    苗木「そっか……ッ!!」ズキィ!!

    アルターエゴ『何の前触れなく苗木の背中に鋭い痛みが走る』

    アルターエゴ『いや…正確には鋭い痛みを実感した…と言うのが正しいのだろう…』

    苗木「精神集中が…切れた…」

    カムクラ「なるほど、先程のは一種の痛み止めとしての役割もしていたのですね…」

    アルターエゴ『痛みに顔を歪める苗木を前に淡々とカムクラは言う』

    カムクラ「そろそろ貴方の本当の力を見せていただけませんか?…こちらとしてもタイムリミットがあるのですが…」

    苗木「見せるって…何を…」

    カムクラ「希望の魔法ですよ…僕は知識だけですが知っています。…貴方がクラス対抗戦の時、一度だけその力を使ったことを…」

    苗木「希望の…魔法?」

    カムクラ「……まさか知らないのですか?……仕方がないですね…説明してあげましょう…」スッ

    苗木「……ッ!…」

    アルターエゴ『そう言いながらカムクラは苗木の背中から包丁を抜き、またも治癒魔法で止血をした』

    苗木「……ありがとう」

    カムクラ「傷をつけた相手にそのような言葉を言うのは間違っていると思いますが?」

    苗木「……そうかもね、でもありがとう。それで説明って何を?」

    カムクラ「全く…分からない人だ……。」

    アルターエゴ『カムクラは顔には出さないものを呆れたような態度をとる…そしてこう続けた』

    カムクラ「…まず、魔法の五大エレメントはご存じですよね?」

    アルターエゴ『説明と言われたのにいきなりの問題。それに対し苗木は…』

    苗木「えっと…空、土、火、水、風、だよね…?」

    アルターエゴ『若干の危なげを残しながらもそう答えた』

    カムクラ「はい。そしてそれ以外にも元素的なものだけで見れば通信などの無属性魔法と、光と闇があります。」

    苗木「うん…実際に見たことがあるから分かるよ」

    苗木(確か七海さんが…)

    カムクラ「貴方の力は光の応用…正確に言えば進化した姿」

    苗木「応用?…進化?」

    アルターエゴ『聞きなれない言葉に、苗木は反射的にそう言った』

    カムクラ「応用とは簡単に言えば、風の魔法を音にする…のようなことですね」

    苗木「……なるほど」

    苗木(よく分からないや…)


  176. 176 : : 2014/05/08(木) 20:17:52
    カムクラ「あなたの魔法は名付けるならば“希望”。まったく新しい属性です」

    苗木「まったく…新しい…」

    カムクラ「…僕は君と、前に一度会っています。その時君の中に流れる魔力を僕は知った」

    苗木「……前に?………あっ!!」

    カムクラ「そう。戦争前夜です」

    苗木「…そうか…君があの…」

    カムクラ「…覚えていてくれましたか。もっともあの時とは見た目が違いますが」

    苗木「うん…覚えてるよ。君はあの時から、僕の魔法に目をつけていたのか…」

    苗木「…って、そうなると、日向くんは?」

    カムクラ「僕はワケあって、日向創の身体を借りているのです。そうしなければ、僕はこうして君と話すこともできない」

    日向(よく言うぜ。俺は勝手に植え付けられたってのに)

    カムクラ「…話を戻しましょう。属性には相性がありますよね。“希望”にも弱点となる属性が存在するはずです」

    苗木「……それは?」

    カムクラ「…闇の進化系。“絶望”です」

    苗木「…“絶望”……」

    カムクラ「“絶望”属性の魔法は確かに存在します。僕はそれを知っている」

    狛枝「そして…僕を封印している魔法もその“絶望”属性なんだ」

    苗木「!」

    狛枝「話が見えてきたみたいだね。そう、光と闇の属性が互いを弱点とするように、“希望”と“絶望”も互いを弱点とするはずなんだ。つまり色濃い希望の魔力こそ、僕の封印を解くキーとなると読んだ」

    苗木「…そうだったんだね」

    カムクラ「君はまだ、“希望”の属性を使いこなせていない。僕が無理矢理その力を引き出す必要があったわけです」

    苗木「そっか…それで」

    カムクラ「…君の魔法はまだまだ奥が深い。非常に興味があります」

    苗木「……でも、“希望”の魔力って言っても…僕はどうすればいいかわからないよ」

    カムクラ「ただそれをぶつければいいでしょう。僕も手伝えることはあります」

    狛枝「そう。日向くんに声をかけたのは、彼にも希望の魔力が芽生える可能性があるからなんだ」

    苗木「えっ!そうだったの?」

    カムクラ「僕にはわかりませんよ。日向創に聞かなければ」

    日向(知るかそんなもん!第一、魔法だってそんなに使えないぞ!)

    カムクラ「…あまり期待はできなさそうです」





  177. 177 : : 2014/05/08(木) 23:05:57



    狛枝「あっ、それとだけど」

    アルターエゴ『狛枝はニッコリとカプセルの中で微笑みながらこう続ける』

    狛枝「そろそろ君ジャマ…消えてくれない?」

    日向(そうだ!さっさと体を返せ!)

    カムクラ「…………日向創が…僕が体を支配している中で少しばかり自由を得ることが出来るようになっていますね…これは喜ぶべきか…悲しむべきか…」

    日向(は?意味が分からないぞ…)

    カムクラ「今は分からなくていいです。分かったときには全て終わっていますから…」

    日向(だから意味が…!!)

    カムクラ「では、僕はこの辺で……」ガクンッ!

    アルターエゴ『一瞬、糸が切れたようになるカムクラ……そして』

    日向「おい!答えろよ!!…って…あれ…戻ってる…」

    狛枝「やあ…。それにしても日向くんってそんなに粗暴な人だったっけ?」

    日向「はあ?俺はもともとこうだったぞ…って言うか今日会ったばかりのやつにそんなこと言うか普通」

    狛枝「……今日会ったばかり…ねぇ」ボソッ

    アルターエゴ『狛枝の発言に苛立ちでは無いものの不快感を感じながらそう言う日向に対し、狛枝は卑しい笑みをしながらそう呟いた』



  178. 178 : : 2014/05/08(木) 23:08:22



    苗木「えっと…今は日向くん?」

    日向「ん、ああそうだぞ」

    苗木「そっか、よかった…それで狛枝君…僕たちはどうすれば良いのかな?」

    狛枝「どうするって、さっきも言ったように戦ってもらいたいんだけど…」

    日向「そんなことしたって何も起こらなかったじゃないか!!」

    アルターエゴ『同じことの繰り返し──つまり堂々巡り、そう悟った日向は不満を狛枝にぶつけた』

    狛枝「やだなぁ、そんな怖い顔しないでよ…ほら、深呼吸ぅー深呼吸ぅー」

    日向(バカにしてるのか…?)

    苗木「日向くん…」オロオロ

    アルターエゴ『どうすれば良いのか分からない苗木は、おろたえながら日向に判断をあおぐため名前を呼ぶ……が』

    日向「…なあ苗木…さっきは悪かったな…」

    苗木「え?」

    アルターエゴ『帰ってきたのは判断ではなく謝罪だった』

    苗木「えっと、カムクラくんのこと?」

    日向「そうじゃなく…、いやそれもあるけれど最初丸腰のお前に剣を振るってたことだ…」

    苗木「あっ…」

    日向「あの時俺は、アイツの言ってた英雄の秘密を知ろうと必死だった。…それと同時にお前にどうやったら本気を出させれるか考えた結果が…」

    苗木「あれだったんだね…」

    アルターエゴ『苦虫を噛み締めるような表情をしながら日向はそう言う』

    苗木「大丈夫だよ…気にしてないよ。」

    苗木(……英雄の秘密?)

    日向「…それでだ。苗木、もう帰らないか?コイツのことは放っておいた方が良いと思うんだ」

    苗木「う…うん……僕も…」

    狛枝「!!…ちょっと待ってよ、何でなのかな?」

    日向「お前の正体は分からないが、胡散臭いのは確かだ。それにこの部屋に吊るされている人間と魔方陣…これは生け贄の儀式…またはお前への供物なんじゃないか?」

    狛枝「…………」

    アルターエゴ『嫌そうに、既に事切れ吊るされ、腐敗の進んだ数々の「それ」を見ながら日向はそう言った』

    苗木「…………」

    アルターエゴ『苗木もチラリと「それ」を見るがやはり目を逸らす…いや正確にはずっと前から、文字通り「それ」から目を逸らしていた──その事実を認めようとしなかった』

    狛枝「…………」

    日向「どうなんだ!答えろ!!」

    狛枝「そう…大・正・解!!…全てボクの仕業だったんだ!!」

    苗木「!?」

    日向「!!」

    狛枝「……なんてね…ビックリした?」

    日向「からかってんじゃねえよ!!」

    狛枝「……ごめん…でもさ信じてほしいんだ。これはボクの意思で捧げられたものじゃない………ボクの声は…今のボクの声は……『彼らには届かない』」

    日向「……どういう…」

    狛枝「文字通りだよ…。ボクは今意思疏通が出来ないんだ」

    日向「ふざけるな…今俺らと話しているだろう!!」

    狛枝「大真面目だよ…それはね、君たちに希望があるから…」

    日向「……意味が分からないぞ…」

    狛枝「今のボクの声は………内に希望を秘めた人にしか届かない…だから君たちが来たんだ…!!」

    苗木「!!……え?」

    日向「つまりこの祭壇や供物は、お前の意思とは………ってどうした苗木?」

    苗木「狛枝君…」

    狛枝「……何かな?」

    アルターエゴ『苗木は動揺を表に出しながら、こう問う』

    苗木「希望を秘めた人にしか君の言葉…つまりメッセージは届かないんだよね…?」

    狛枝「……そうだけど?」

    苗木(それって………)

    七海『私ってエリート高校出てるんだよね』

    絶望ヶ峰学園…この国のエリート高校…

    七海『このメッセージが希望ある人に届いていることを祈って…伝えます』

    希望のある人にのみ届くメッセージ…

    苗木「つまり彼女は……」

    アルターエゴ『パチンッと音をたてるように…苗木の中で何かが繋がった』

    日向「な、苗木?どうしたんだ?」

    苗木「七海さんは……」

    日向「!……あの娘がどうかしたのか?」

    苗木「……僕は勘違いしていた…彼女は第三勢力で、彼女が何故かは知らないけれど江ノ島さんの悪事を止めようとしてるって僕は、そう思い込んでいた……」

    違った。

    全部違ったのだ

    いや。前提から違った…

    日向「つまりどういう…」

    苗木「つまり、七海千秋さんは…………この国の人間だ…」


    これが僕の答えだった…



  179. 179 : : 2014/05/09(金) 07:56:33
    苗木「…おかしいと思ってた……。彼女は…スパイだったんだ……」

    アルターエゴ『こうなってしまったら、周りのことなど視野に入らない。つまり、苗木は七海に協力するとなった時から、すでに反逆者だったということなのだから。自分の無力さに絶望し、ただひたすら、自分を呪った』

    苗木「クソッ!クソックソッ!!」

    日向「苗木!」

    苗木「……ごめん。でもこれじゃ僕…希望の国のみんなに、あわせる顔がないよ…」

    アルターエゴ『苗木の顔は、希望を失ったように暗く、地面をにらみつけていた』

    狛枝(まいったな…。仕方ない、一旦僕の封印を解くことだけを考えよう)

    狛枝「…僕を助けてくれたら、君を希望の国に返すよ」

    苗木「…帰ったって…僕には…」

    狛枝「いや、まだ大丈夫だよ。それに君には、帰ってやることがあるはずだよ!」

    苗木「………」

    狛枝「…僕は知ってるよ。今日戦争があったことくらいね。絶望の国は、きっと黙ってない。すぐにでも攻撃を仕掛けるだろう」

    苗木「………!」

    狛枝「奇襲を仕掛けられたら…さすがに希望の国でも、少なからず被害はでる。その中に、君の友達だって─ 苗木「うるさい!」

    狛枝「!」

    苗木「…もううんざりだよ!戦争とか、スパイとか、魔法とか希望とか絶望とか」

    苗木「……僕はもう、戦いたくない」

    日向「………」

    狛枝(………)

    「やぁ。お葬式の会場はここですか?」

    苗木・日向・狛枝「!」

    モノクマ「みんなお口にチャック縫ったみたいに黙り込んじゃってさ。…おとなしく封印されててよ。希望厨さんは」

    狛枝「アハハ。そろそろ運動不足でね」

    モノクマ「で、そっちには…」チラッ

    モノクマ「不法入国者さんと」

    苗木「………」

    モノクマ「帰ってきた日向くんね」

    日向「………」

    モノクマ「あぁ。本当に記憶ないんだったね。君がここで、なんて呼ばれてたかも知らないんだ」ウププ

    日向「…えっ?」

    カムクラ(挑発です。落ち着いてください日向創)

    苗木「…それで、君は何しにきたの?僕を殺すつもり?」

    モノクマ「あぁ。そういうわけではないよ。君は大切な大切な…」

    モノクマ「 愛 弟 子 だ か ら ね ? 」

    苗木「……!!」

    ……ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!

    アルターエゴ『モノクマの一言が引き金となって、大地が揺れ始める。その揺れの中心で、モノクマが青白い光を放っていた』

    モノクマ「はははっ!特別に見せてあげるよ!僕の正体を……絶望の王を……!!」

    カッ────!!!

    日向「うわっ!」

    アルターエゴ『刹那。一際強力な閃光が、完全に場を制圧した』

    ………シュゥゥ………

    アルターエゴ『…徐々に光が弱まっていき、苗木達の視界もはっきりしてくる』

    アルターエゴ『そのはっきりした視界に映っていたのは……苗木もよく知る…いや、誰もが知っている人物だった』

    江ノ島「江ノ島盾子ちゃんでーす!!」
  180. 180 : : 2014/05/09(金) 23:36:15

    アルターエゴ『江ノ島がその言葉を言い終わる──その瞬間!!』

    苗木「それは違うよ…」ブンッ

    アルターエゴ『苗木は江ノ島に向け刀を振るう』

    ザクッ!!

    アルターエゴ『そして刀は江ノ島の体に深々と食い込む……が』

    江ノ島「何で…?何で分かったの?」

    アルターエゴ『斬られた脇腹からは一滴も血が流れ出ていなかった。そのうえ江ノ島の顔は痛みで歪むことはなく、唖然とした表情だった』

    苗木「彼女は…僕のことを愛弟子何て言わない…。まして精神集中を使っていない僕の斬撃なんか…避けれない…はずがないんだ」

    江ノ島(?)「あっそ、それにしてもバレっちゃった…よく気付いたね……うぷぷぷ」

    苗木「当たり前でしょ…少しの間とはいえ、一緒に暮らしてたんだからね…」

    江ノ島(?)「これが本当の姿クマ!!」

    ボンッ!!

    アルターエゴ『江ノ島の煙に包まれる…そして出てきたのは』

    モノクマ「何と!彼女の偽者の正体はボクなのでした~!!」

    アルターエゴ『そこには最初現れたときと変わらないモノクロのクマの姿』

    日向「…知ってた」

    狛枝「全く…趣味が悪いにも程があるね」

    苗木「……だね」


    モノクマ「コラーッ!!君たち二人!そんな風に言うとボクが可哀想だろクマ!!」

    日向「は?俺たち二人?」

    モノクマ「うん。喋ってるのは君と苗木君だけでしょ?あっ、もしかしてボクも数に入れてるの?日向くんって細かい性格だねぇ~」

    苗木(このクマには…狛枝君の声は聞こえていないのか…)

    モノクマ「ボクは…ミッションを失敗したので帰るクマ…苗木君に斬られたお腹が疼くクマぁー!!」ピョーン

    アルターエゴ『そう言い残すとモノクマは苗木たちの前から消えた』

    日向「お腹に傷なんて無かっただろ…」

    苗木「…そうだね」

    アルターエゴ『沈んだ顔で苗木は地面を見つめる…』

    日向「あ、そうだ苗木……ちょっと顔貸せ」

    苗木「え…ああ──」

    バキッ!

    アルターエゴ『苗木がその言葉を言い終わる前に鈍い音が響く。…正確には日向が苗木を殴った音が…』

    苗木「ってて…」

    アルターエゴ『殴られ赤くなった頬を擦りながら苗木は口を開く』

    苗木「……何するの?」

    アルターエゴ『突然頬を殴られたのだ。それが当然の反応である。それに対し日向は…』

    日向「悪い…ちょっとムカついてたからな」

    アルターエゴ『口では「悪い」と言いつつも日向は全く悪びれる様子もなくそう言う』

    苗木「ムカつくって…何に?」

    アルターエゴ『苗木も殴られたことに怒る様子はなく、単純な疑問を日向に問う』

    日向「わかんねぇんだよ…」

    アルターエゴ『分からない。それは即ち理由が無いともとれる』

    苗木「そんな少年犯罪みたいな…」

    アルターエゴ『苗木は呆れたようにそう漏らす…だが、日向の言葉はまだ終わっていなかった!!』

    日向「わかんねえけど…ただ…七海って娘を悪く言われたことに凄く腹が立った!!」

    ブンッ!!

    苗木「!?」スッ

    アルターエゴ『またも拳を振るう日向。だが“単純”な右ストレート…苗木はそれを重心を右下に落とすことで躱す……だが』

    日向「はぁッ!」

    ゴスッ!!

    アルターエゴ『日向の左膝が避けるために下げた苗木の頭に重い一撃を加える』

    苗木「ぐっ!」

    アルターエゴ『痛みに顔を歪める苗木…だが日向の追撃は止まらなかった』

    アルターエゴ『まずは刀を叩き落とす』

    苗木「くそっ!」バッ!

    アルターエゴ『苗木は武器を手放しその場から跳躍しようとした……だが』

    ダンッ!

    苗木「っ…!」

    アルターエゴ『日向は苗木の右足を踏みしめる…苗木は跳ぶことが出来ず体が伸びきるのみだった………そこへ』

    苗木(なんだこれ………最初の日向くんの素人みたいな動きとは違うぞ……いや桁違いだ!!)

    ゴスッ!!!

    アルターエゴ『左アッパーが苗木の顎を捉え、苗木は宙を舞った………それが決着だった』

    ドサッ…

    アルターエゴ『そして苗木は受け身を取る余裕もなく地面に倒れた…』

    苗木「……ッう…」

    日向「……」ザッ…ザッ

    アルターエゴ『地面に倒れ込みうなるような声をあげる苗木に日向は近付いた…』

    日向「……ほら、大丈夫か?」スッ

    アルターエゴ『それはもちろん追撃を加えるためではなく…手を貸すためだった』

    苗木「あはは…少しクラクラしゅるよ…」

    日向「呂律が回ってねえじゃねえかよ…」

    アルターエゴ『苗木は怒ることも隙だらけ反撃もしなかった……そんな気力すら無かった…』

    日向「……なあ、苗木…」

    アルターエゴ『それを見据えて日向は苗木に声をかけ』

    苗木「…………何かな?」

    アルターエゴ『そして日向はこう言った…』


    日向「お前は……何を信じたい?」


  181. 181 : : 2014/05/11(日) 11:52:14
    苗木「………そう…だね」

    アルターエゴ『少し間を置いてから、苗木は近くにあった岩の上に腰をかけた。』

    苗木(本当に疲れた…)

    日向「? 苗木?」

    アルターエゴ『苗木は俯いて、額に手のひらを乗せた。目を閉じれば、改めて心身共に疲労しきっている自分に気づいた』

    苗木(…パレードの日から、色んなことがあった)

    苗木(……結局僕は、絶望の国に情報を流そうとしてただけ)

    苗木(修行して身体は強くなっても、心は何一つ変わってない…昔の弱虫な僕のまま)

    苗木(………絶望の国…僕から全てを奪った、文字通り絶望の国…)

    苗木(………何を信じるかなんて、決まってるじゃないか)

    日向「………」

    カムクラ(…日向創。少しずつ思い出して来たようですね)

    日向「! …あぁ。自分でもわかる。ジグゾーパズルみたいに、一つ一つピースがハマっていってるのがな」

    カムクラ(記憶をジグゾーパズルとするなら、もう完成は間近ですよ)

    日向「…そうか」

    カムクラ(……ナエギマコトは、今非常に不安定な状態です。これは僕にとっても、この世界にとっても確実なマイナス)

    日向「俺に…どうにかできると思うか?」

    カムクラ(…他に誰か居ますか?)

    日向「…だよな」

    アルターエゴ『日向は俯いている苗木の横に座ると、肩に手を回して「大丈夫か?」と声をかけた』

    苗木「………」

    アルターエゴ『…が、反応は一切なかった。さっきまでの苗木とはまったく違う苗木がそこに居ることに、日向は少なからず動揺を隠せなかった』

    日向(…どうしたんだよ。苗木!)

    狛枝(…神様は、最高に気まぐれで、最高に飽き性みたいだ)

    狛枝(これじゃあ封印を解く解かない以前の段階だよ、苗木くん!)

    苗木(…………)

    僕は……

    どうして、ここに居るんだろう


    ━━━━━━━━━━


    ここは町はずれの小さな村。

    戦争とは縁のないその村は、毎日が笑顔で溢れかえっていた。

    日の出と共に目覚め、畑を耕して、日没と共に寝る。

    …僕には、幼なじみがいた。

    隣の家に住んでいて、紫の髪と目が特徴的な女の子。

    名前は思い出せない。そう昔ってわけでもないんだけど、思い出せないんだ。

    でも彼女とは一番遊んだ。家族以外なら、一緒に居た時間は明らかにトップだった。

    そんな毎日が最高に輝いていて、生きてるって実感できて

    ……かけがえのない、宝物だった。


    あの日までは


    絶望の兵士「ハハハ!みんな燃やせええー!!」

    ボォォオオオオ!!

    「パパー!ママー!!」

    「た、助けてくれー!!」

    「あぁ…畑が…」

    絶望の兵士「ッハハハハハ!!サイコーに気持ちいいぜ!!!」
  182. 182 : : 2014/05/11(日) 20:16:39



    絶望の兵士「ひゃっはー!汚物は消毒だァ!!」

    大量の兵士たちが僕たちの村を…襲った




    苗木「なんだよ…これ…」

    遠目で見て分かった。村の3分の1程は既に崩壊して…火に包まれていた


    「俺は戦うぞ!!うおおお!!」

    「俺もだ!!」

    遠くでそんな怒号が聞こえる…が

    「ァァあッ!!」

    「ぐわァァあ!!」

    直ぐにそれは断末魔の叫びと変わる


    当然だ…


    僕たちの村では魔法の訓練なんてしていない…

    故に使えない…

    そんな僕らが、鍛えている兵士たちに勝てるはずなんてなかった…


    ボォオオオオオオ!!!!

    「うわぁぁあ!!!」

    火柱と悲鳴が同時に上がる…そしてそれは徐々に村の最奥にあった僕の家に近付きつつあった


    【苗木家】

    苗木父『誠…お前は隠れていなさい』

    苗木「父さん!?何を言ってるんだよ!」

    苗木母『誠君…貴方は生きなければいけないの…』

    苗木「母さん!言ってる意味が分からないよ…!それなら皆で隠れようよ!!」

    苗木父『大丈夫だ…父さんたちは時間を稼ぐだけだ』

    苗木母『そうよ。きっと“英雄”が助けに来てくれるはずだわ……だから…』

    苗木父『安心して隠れていろ…父さんが強いのは知っているだろ?』

    勿論知っていた…決して強くないってことを…

    苗木「たかが農夫があんな化け物に勝てるわけ──」

    苗木父『誠!!!』

    苗木「ッ!」ビクッ

    突如怒鳴られたことで驚く僕に構わず

    父さんはこう語り始めた…

    苗木父『父さんがお前に伝える最初で最期の言葉だ…!』

    苗木「なっ…最期って言うなよ!!」

    苗木父『辛いことがあってめげてもいい…だけど潰れるな!』

    それに構わず父さんは、そう語り続けた…

    苗木父『嫌なことがあっていじけていい…だけど逃げるな!』

    苗木父『人を信じていきろ…いくら裏切られたって良い……だから人を疑って生きていくそんな悲しい生き方はするなよ…』

    苗木「何を…」

    苗木父『…いや、お前ならそんな生き方はしないよな…』フッ…

    父さんは…僅かに微笑しこう続けた

    苗木父『なんたって誠…お前は………俺の自慢の息子だからな』

    苗木「何で…今…そんなこと言うんだよ…」ギリッ


    苗木母『覚えてるかしら…』

    今度は何の脈絡もなく母さんが話し出す

    苗木母『誠君ったら、小さい頃は私にベッタリで…』

    苗木「今そんなの関係ないだろ!」

    苗木母『だけど、いっつも周りを見て、私たちにまで気を使って…』

    苗木母『お母さんの子とは思えないほどしっかりもので…』

    母さんは、一瞬だけ遠い目をした後…

    苗木母『ふふっ、誠君…。…貴方の母親でいれて…私は幸せだったわ』

    苗木「なんで…なんで…そんな辞世の言葉みたいなことを言うんだよ…!皆で生きようよ!!ねえ!!」

    いつも帰ってきた僕を迎え入れてくれような笑顔で…母さんはそう言った


    その時!

    <そろそろこっちに行くぞ

    <おう

    決して遠くはない場所でそんな声が聞こえた


    苗木父『もう…すぐそこまで迫ってきたか…』スッ

    そう言いながら、父さんは鍬を肩に担ぐ

    つまり、あの絶望の兵士たちに挑もうと言うのだ

    それなら…!

    苗木「僕だって……僕だって戦うよ!!」

    苗木父『だめだ!』

    苗木「ダメって言われても僕は!!」

    苗木父『………頼む……頼むから…最期くらいワガママを聞いてくれ!』

    ドスッ!

    父さんの手刀が首に入る

    苗木「うッ…!」バタッ!


    鈍い痛み…


    手足の痺れ


    苗木「…いかな…いで…」スッ


    そして…徐々に暗くなっていく視界


    苗木「……ひと…りに……しな………い……」ガクッ


    僕の意識はそこで途絶えた……








    そして…




  183. 183 : : 2014/05/11(日) 22:11:49
    苗木君の過去にそんなことが........
    頑張れ苗木!
    期待♪
  184. 184 : : 2014/05/11(日) 22:15:28
    ↑あっ、これは俺ですw
  185. 185 : : 2014/05/11(日) 23:42:44


    ━━━━━━━━━━


    僕の意識が戻った時、出迎えてくれたのは知らない天井だった。

    医者A「意識を取り戻したぞ!」

    医者B「君、大丈夫かい?何ともない?」

    苗木「………えっ」

    僕は…どうなったの?

    ここはどこ?

    医者B「病院だよ。何があったか…覚えてる?」

    苗木「…何が……」

    医者A「! ばかっ!」

    アルターエゴ『医者の言葉を引き金にして、忘れていた…いや、忘れたかった、それか脳が意図的に忘れさせていた光景がフラッシュバックする。海のように遙か先まで広がる炎。よくお菓子をくれたおじさんの断末魔。優しかったおばさんの奇声。一緒に遊んだことのある、名前も知らない子供の首。…遠くなっていく、両親の 苗木「ワァァアアアアア!!!」

    アルターエゴ『…耐えきれず、苗木はその日、動かなくなるまで病室で暴れ続けた』


    ━━━━━━━━━━


    カウンセラー「…もう大丈夫だね。たまに思い出すかもしれないけど、きっともう大丈夫。君はショックから立ち直れた」

    苗木「…はい」

    カウンセラー「…そうだ、君に希望ヶ峰学園から招待が届いている。名前くらいは聞いたことあるよね。寄宿舎もあるから、これからの生活は心配ないだろう。国から多額の手当も出る」

    苗木「…!本当ですか」

    カウンセラー「あぁ。荷物をまとめて、午後から行くといい。すぐにでも手配してくれるだろう」

    苗木「……お世話になりました」ペコリ

    カウンセラー「ああ。かんばってくれ!」


    こうして僕は、憧れの的であるエリート学校への入学が決まった。

    …だが、入学してから当分は、みじめな気持ちだった。

    直接手を合わせたわけではないが、わかる。

    僕とみんなとの、圧倒的レベルの差。

    僕はみんなに置いて行かれないよう、必死に訓練し、勉強した。

    そんな生活を続けていたある日だった。僕に変化が訪れたのは…


    苗木「………ハァ」

    深夜。

    月明かりの下、僕は1人でこっそりと魔法の練習していた。

    剣術だけでみんなに追いつくのは無理だってわかった僕は、どうにかしてその差を縮められないか…考えた。

    その答えが、魔法だ。

    僕には大神さんのような肉体もなければ、セレスさんのような魔力もない。

    それでも、魔法が使えれば…!

    僕はその一心で、目の前の木に向かって何度も両手を突き出した。

    しかし、何かが出たためしがない。

    苗木(…やっぱり、僕には才能がないのかな……)

    諦めて今日はもう帰ろうと思った…その時

    「へへへっ。こんな時間になにしてるんだい」

    苗木「!」

    僕は兵士に見つかった。

    それも、この国の兵士ではない。

    …胸元のエンブレムでわかった。

    いや、これだけは忘れもしない。

    苗木(絶望の国の…兵士…!)

    絶望の兵士「…どうしてここに居るのかって顔だな」

    違う。

    苗木にとって大事なのはそこじゃなかった。

    問題は、この兵士が村を襲った兵士なのかどうか。

    苗木(そもそも暗い上に仮面までつけられちゃ、顔は見えない…)

    絶望の兵士「ま、見つかったのが運の尽きだと思ってくれや」
  186. 186 : : 2014/05/12(月) 19:50:35
    >>184
    苗木頑張らせます!

    ここまで読んでいただいている嬉しさに今震えてます!(笑)
    ありがとうございます!
  187. 187 : : 2014/05/12(月) 19:52:29



    シャキンッ!

    絶望の兵士が剣を抜く

    それも身の丈程の大きな剣

    苗木「……」ガタガタ

    絶望の兵士「くくくっ…どうした怯えてよォ?」

    当たり前だ…丸腰でその上魔法が使えない僕が勝てる見込みなんて0だからだ

    苗木「………」

    絶望の兵士「おいおい何か反応が無いと、これから殺すのがつまらなくなるんだが?」

    この場合僕がするべき行動は1つ…

    苗木「うわぁぁあぁあ!!!!」ダッ!!


    逃げる


    僕は情けない悲鳴をあげながら絶望の兵士とは反対側へ走る

    だが

    絶望の兵士「良い悲鳴だ…だが遅い!!」

    後ろにいた絶望の兵士はいつの間にか僕に追い付き

    ゴスッ!

    僕の腹を蹴り抜く!!

    苗木「がハッ!!」

    肺の中の空気を出し尽くし、蹴られた勢いのまま僕は転がり無様にも地面に突っ伏す

    ザッザッ

    そして、ゆっくりと近付く絶望の兵士

    苗木「……だ…」

    ザッザッ

    苗木「……だ…誰か!!」

    ザッザッ

    助けを呼ぶも修行のために住宅地から離れた所にいるため、誰も助けに来てはくれない


    苗木「くそ…っ!」スッ

    うつ伏せで倒れたまま僕は絶望の兵士へ向け手を伸ばす

    来るなという意思表示の現れ。制止を促すような抵抗


    ──必死で、無駄な抵抗



    その手は、絶望の兵士の足を掴む

    だけど掴んだ所でどうなる?

    結果は簡単だった


    絶望の兵士「へへへ。やっとこさの抵抗か…だがよ、そんなに手を伸ばしていたら、まるで切り落としてって言ってるようなものだぞ?」

    苗木「!!」バッ!

    絶望の兵士「おせえ!!」

    ダンッ!!

    咄嗟に話した手を絶望の兵士は踏みつけ、地面に固定する

    苗木「ぐぁッ!!」

    そして…

    絶望の兵士「まずは左腕からだ…」スッ

    絶望の兵士は剣を地面に垂直のまま持ち上げる

    ───僕の腕を切断するために

    苗木「や…やめて…!!」

    絶望の兵士「無理無理!なんたって今最高にハイな気分だからな!!」


    …助けを呼んだって誰も来てくれない…今も昔も───


    絶望の兵士「まあ…せいぜい良い悲鳴を聞かせてくれよなァ?!」ブンッ!!


    そして絶望の兵士は巨大な剣を垂直に、地面に突き刺すように振るう



    ───誰も救ってくれない………あの日僕らの村を救ってくれなかったように!!






    ザクリっ!!!!


    ブチブチと肉の裂ける嫌な音…




    だが、切れた……正確には斬られたのは僕の腕では無かった

    絶望の兵士「は…はァッ?!」


    斬られたのは絶望の兵士の腕だった

    それも…絶望の兵士の腕は、彼の持っていた“巨大な剣”によって切り落とされたのだ

    そして僕は立っていた

    何故か立っていた


    だが、好都合。


    僕は、走り出した


    絶望の兵士「ふッざけんなよ……ンだよこれはァ!!!!!!」

    背後から肌に刺さるような激しい殺気

    そして、ケタケタと笑い声をあげた後絶望の兵士は言った

    絶望の兵士「…おい、ガキ。俺から逃げてみろ。捕まったら殺すからな」


    苗木「!!言われなくても!!」ダッ!


    僕は尚のこと足にかける力を強めた……が

    このとき僕は逃げるのではなく追撃を加えるべきだったことに気づく

    何故なら、先の件を思い出せば一目瞭然。一瞬で距離を詰められるからだ

    だけど、もう後の祭り

    僕は脇目を振れず走った。ただひたすらに


    絶望の兵士「よし、それでいい!!さあ!命懸けの鬼ごっこの始まりだァ!!」ダッ!


    そして命懸けの鬼ごっこが始まっ──


    「タッチ」


    その時、聞きなれない声が夜の森に響く

    苗木「えっ?」クルッ

    僕は反射的に後ろを見た。それはどうやら絶望の兵士も同じようだった


    絶望の兵士「はあ?」クルッ


    「アンタの負け」


    絶望の兵士「なっ!?なんでお前がここにい──」


    ──スパッ!!



    絶望の兵士が言葉を言い終わる前に彼の首がポトリと地面に落ち。噴水のように血が吹き出す


    その噴水の中心地に彼女はいた


    月明かりに照らされ、光輝くキレイな髪


    その名は…


    希望の兵士A「英雄様ー!」

    希望の兵士B「おお!ご無事で」

    “英雄”

    そう呼ばれる僕と対して歳の差が無さそうな女の子だった

    英雄「はあ、アンタら遅すぎ……とりあえず片付いたから後処理お願い。きったねぇー血浴びたからシャワー浴びたくなっちった」

    希望の兵士「「ハッ!分かりました!!」」

    英雄「んじゃあね~」シュンッ!


    そうして、英雄は消えた



    そして僕は……また、絶望的な状況で生き残ったのだった



  188. 188 : : 2014/05/12(月) 20:35:42
    生き残ったことを、僕は素直に喜んだ。

    だが、二回。奇跡とも言える生還を果たした僕は、これが偶然なのか、はたまた必然なのか、どちらにせよ、これから先に待ち受ける運命は決して楽ではないと…僕はこの時からある程度予感していた。

    そして、

    苗木(……さっき…とっさに起こったあの現象…)

    アルターエゴ『あの時点では、周りに誰も居なかった。絶望の兵士が圧倒的に有利の状況。しかしその状況が一瞬で、本当に一瞬でひっくり返ったあの現象。誰にも説明できない。…苗木は確信した』

    苗木(魔法だ!!)

    アルターエゴ『…さっきまでの感情と一転。高揚する気持ちを抑えられない』

    苗木(なにせ、魔法が使えるようになったんだから!!)

    アルターエゴ『これで、自分も置いてかれずにすむ!そう考えると、睡眠に時間を割くのはもったいないとすら思った』

    苗木(よしっ!早速またあの魔法を試すぞ!!)

    アルターエゴ『近くの木に手を当て、身体に流れる魔力を絶妙にコントロールする(今思えば、一度無意識に魔法を使っただけでコツを掴んだ苗木は、才能があったとも言える)』

    苗木「…いくぞ!ハァ!」

    シーーーン……

    苗木「…?」

    アルターエゴ『…魔力の流れは完璧だった。しっかりと、魔力を消費することに成功している。しかし、それに見合った効果は…一切発動しなかった』

    苗木「な、なんで!?もう一度…ハッ!!」

    ……………シーン…………

    苗木「………」

    アルターエゴ『…………』

    苗木「………」グスッ

    アルターエゴ『涙目になってきた…うん、苗木くん、僕も見てて悲しいよ…』

    苗木(え、演技なのに悲しまれた…)


    ━━━━━━━━━━


    【舞台裏】

    斑井「おい!死んだけどまだ出番あるって言うから待機してたら…顔も出ないじゃねぇか!」

    豚神「あ、斑井くんだったんだあの兵士」

    斑井「あぁそうだ!必死に悪役を演じたぞ!」

    豚神(顔が出たところで、見分けはつかないんだけどね…)

    小泉「人数足りないから、エキストラみたいな役も私達がやらなきゃいけないんだよね…」

    田中「フハハハハハ!出番はまだか!」

    ソニア「脇役でもいいですわ!」

    仁「あぁー…君達は出番少なかったからね。そうだなぁータイミングを見てなら‥」

    田中・ソニア「♪」
  189. 189 : : 2014/05/12(月) 20:54:35
    そう言えば、これって劇やったなw
    すっかり忘れてたww
    二人とも頑張ってね!
    期待♪
  190. 190 : : 2014/05/13(火) 18:52:21
    ⬆︎同感www
  191. 191 : : 2014/05/13(火) 20:30:32
    >>189 >>190
    書いてる本人も忘れてたりします!

    ありがとうございます!
  192. 192 : : 2014/05/13(火) 20:31:06


    ─────────


    苗木「あはは、全然使えないや…あの子凄かったなぁ」

    アルターエゴ『木を背に座り込む苗木が思い出すは先程見た英雄の姿』

    苗木「僕も…彼女みたいに強くなれるのかな?」

    苗木「いや違う!」ブンブン

    アルターエゴ『自らの言ったことを真っ向から否定するように苗木は首を横に振る』

    苗木「強くなりたいじゃない………強くなるんだ!!」

    ザッ!!

    苗木「よしっ!もう一回だ!!」

    アルターエゴ『強い意思を持って苗木は立ち上がり、修業を再開した……。そしてそれから二ヶ月後』

    アルターエゴ『パレードの開催…つまり彼女との出会いが待っているのだった』





    アルターエゴ『そして時は現代に戻り』









    『なあ、苗木…お前は何を信じたい?』

    苗木「…………」

    アルターエゴ『岩の上に座る苗木の頭の中では、日向に言われたその言葉がグルグルと渦巻いていた』

    アルターエゴ『だが、答えは出ていた。既に答えが出たから僕は自身の心の弱さを改めて痛感したのだ』

    苗木「そんなの…」

    日向「……」

    アルターエゴ『俯いて考え込んでいた苗木が喋りだしたため、日向はそれに黙って耳を傾ける』


    苗木「何を信じるかなんて…決まっている……」


    アルターエゴ『そして苗木は自身の出した答えを口に出す』


    苗木「………………希望の国の皆……それだけに決 日向「それは違うぞ!!!」」

    苗木「……何が違うって言うんだよ…君に何が!!」

    日向「…俺はお前が信じるものを聞いたんじゃない!!お前が信じ“たい”ものを聞いたんだ!!!」

    苗木「そんなの結局同じじゃないか!!」

    日向「同じじゃない!全然違うッ!!自分の願望まで躊躇ってんじゃねえ!!!」


    苗木「!!」


    何故だろう…彼の言葉は僕の心に深く刺さった


    苗木「僕は……」


    温かくて…優しくて……ああそうか…


    苗木「……僕は…」


    彼の言葉は、まるで僕の両親のような温かさだったから…


    だから、僕は全部ぶちまけた。希望とか絶望とか関係ない僕自身の願望を


    苗木「僕は…皆を信じたい…!!絶望とか希望とかそんなの関係なく!!皆をッ!!!!」

    日向「………」

    苗木「でも!でも!!…現実はそんなに簡単じゃない!!片方を信じるために、もう片方を切り捨てなきゃいけない!!」

    苗木「だから…僕は……」

    日向「……確かに…そうだな。確かに現実は難しい、理想が全て叶うとは限らないしな」

    苗木「……」

    日向「だけど…切り捨てるために疑うな…。……そんなの虚しいだけだろ…」

    苗木「……!」

    日向「だけどなこれだけは言っておく、人を信じるだけのやつは馬鹿だ」

    苗木「どういう…」

    日向「疑うのは悪くない。何でかっていうとそれは信じたいって気持ちの裏返しだからな。」

    アルターエゴ『切り捨てるためではなく、信じたいから疑う……日向はそう言ったのだ』

    『誠…人を信じて生きろ』

    苗木(…っ!!)

    アルターエゴ『一瞬ではあるが、苗木の脳裏に父親の姿が浮かぶ……そして苗木は気付いた』

    苗木(…まさか…父さんが僕に伝えたかったことって………あはは、父さん…本当に強かったんだね)

    アルターエゴ『僅かに頬を緩め…そして拳を握りしめる』

    苗木(そんな父さんの息子が…こんな所でへこたれてる場合じゃないよね!!)バッ


    アルターエゴ『それを思うと同時に苗木は勢いよく立ち上がった───新たな答えと確かな希望を抱いて!!』


    アルターエゴ『そして高らかにそう言った』



    苗木「僕の信じるものは───」






  193. 193 : : 2014/05/13(火) 21:39:39
    苗木「僕は…みんなを信じる!希望の国も絶望の国も、今は互いに傷つけあってるけど、霧切さんみたいな人がいてくれたら、きっと共存は可能だと思うから!!」

    日向「……それがお前の答えなんだな」

    アルターエゴ『苗木は曇り一つない顔で、力強く頷いた』

    苗木「人を信じるだけの奴は馬鹿だ。この言葉はよくわかるよ」

    苗木「人を信じるだけ…つまりそれは、その人について考えることを放棄してるのと一緒。無関心程恐ろしく、冷たいものはない」

    日向「…人を疑うってのは悪いことじゃない。むしろ、信じたいからこそ疑うもんだぜ」

    狛枝「………!」

    アルターエゴ『2人を包む、新しい光。少し離れた場所から2人を見ていた狛枝だけが、その変化に気づいた』

    狛枝(これは…この色はー!)

    【希望覚醒】(ホープフル)!!

    ピカ────ッ!!

    狛枝(……あぁ、これだ…これが僕の求めた……)

    狛枝(………優しくて…明るくて……暖かい……)

    狛枝(これが…“希望”………!!)

    狛枝(…ハハハハッ!素晴らしいよ!!やっぱり君達は最高だ!!)

    アルターエゴ『“希望”の光が、狛枝のカプセルを包み込み、溶かし始めた』

    ………“封印解除”

    アルターエゴ『カプセルは完全に液体と化し、魔法陣を塗り替えるようにして広がった』

    日向「……お前が、狛枝なんだな」 

    アルターエゴ『さっきまでカプセルがあった場所に居るその人物に、日向は声をかけた』

    狛枝「……いつぶりだろう。直接外の空気を吸ったのは」

    アルターエゴ『…だが、狛枝はまるで、日向の声など耳に入っていない様子で、深呼吸を始めた』

    日向「………?」

    カムクラ(………)

    苗木「狛枝くん…君の言うとおり、封印は解除できたみたいだけど……」

    狛枝「…あぁ、始めなきゃ」

    ヒュン!

    苗木・日向「!」

    アルターエゴ『狛枝の姿が、一瞬で消えた!直後!!』

    ブォォオオッ!!

    苗木「わっ!」

    日向「あぁっ!?」

    アルターエゴ『襲ってきた強風が、2人を壁に叩きつけた!』

    ドォン!!

    苗木「っ!」

    アルターエゴ『揺れる部屋の中…そしてその振動は』

    ………ボトッ

    アルターエゴ『最悪の形で、生かされることになる』 

    ズル……ズル……

    日向「っつー…!なんの音だ!」

    ズル……ズル……

    「…………………アァ…………」

    苗木「…こ、これって……!」バッ

    アルターエゴ『頭の中で繋がった推理を確かめようと、天井を見上げると』

    苗木「…………」

    アルターエゴ『…それは、当たってしまっていた』

    日向「こいつら全員…上にあった死体かよ!」

    「アァァ……」

    苗木「足は遅い…逃げることはできると思う。でも、ここで逃げたらこいつらが地上に出ることになる!」

    日向「主戦力はほとんど治療中…逃がすわけにはいかないってことか」

    カムクラ(…日向創)

    日向「! なんだよこんな時に!」
  194. 194 : : 2014/05/13(火) 23:08:40



    カムクラ(あちらを見てください)

    狛枝「……ブツブツ」

    アルターエゴ『カムクラが示した先には、何やら詠唱を唱えている狛枝が居た』

    日向「狛枝!テメェ何をしやがった!!」

    狛枝「…うるさいなぁ、少し黙っててくれないかな?」

    日向「…お前、この国を滅ぼそうとするつもりなのか!?」

    狛枝「ハァ…そんなわけないでしょ?何たってボクはのの国の王様なんだよ?」

    日向「は?それってどうい……」

    「ァァア」ヒュオッ

    苗木「日向くん危ない!!」ドンッ!

    アルターエゴ『日向の死角から迫ってきていたアンデッドの一撃。それを苗木は押し退ける形で防ぐ』

    アルターエゴ『押し退ける……つまりは庇う』

    アルターエゴ『そしてその一撃は苗木に届く………ことは無かった───何故なら』

    「マァァコォアト…」ピタッ

    苗木「…え?」

    アルターエゴ『アンデッド自体が攻撃を止めた。捕縛などでは無く明らかに自らの意思で!そしてそれと同時に言葉が苗木の行動を止めた』

    「ァァア」ブンッ

    アルターエゴ『そしていつの間にか苗木の背後に迫っていたアンデッドの一撃──』


    日向「うおおおお!」

    スパッ!!

    アルターエゴ『──それは日向の一太刀によって防がれる』

    日向「くそっ!苗木しっかりしろ!」

    苗木「!!…ごめん」チラッ

    アルターエゴ『チラリと見るのはその死体たち。それはもう人と呼んで良いのか分からないほど腐敗し、原型を止めておらず、悪臭を放つ化け物だった』

    苗木(くそっ…悪趣味なことをする…)


    日向「チッ…苗木どうする?かなりフリな状況だが…」

    苗木「一方から来るならともかく囲まれちゃったらね」

    アルターエゴ『二人は背中を合わせ、ジリジリと迫るアンデッドを退きながら会話をする』

    アルターエゴ『そしてその時日向がこう言った』

    日向「……なあ苗木。俺に考えがある」



  195. 195 : : 2014/05/14(水) 08:01:23
    日向「狛枝を一旦黙らせれば…この悪趣味な化け物達は活動をやめるはずだ」

    苗木「! でも!それをするには、こいつらを切り抜けていかないと…」

    日向「あぁ…それは至難の業だ」

    アルターエゴ『言いながらも、じりじりと近寄ってくるアンデット達に剣を振るう』

    「ウゥ……アァァ……」

    日向「…さっき斬った奴…再生してやがる。わかるだろ?やっぱり叩くのは狛枝だ」

    苗木「…ごめん。僕が夢を信じたばっかりに、日向くんをこんな目にあわせちゃって」

    日向「なぁに。俺も封印を解くのを手伝ってるんだ。ここまで来れば一心同体さ」 

    苗木「けど…やっぱりこの人数を相手にするのは、厳しすぎないかな…」

    日向「…そうだな。やるならこの距離で直接狛枝を狙うか、この大群を一気に倒して、その隙に狛枝をやるか…」

    苗木「…どっちにしろ、僕達にそれができるかはわからないね」

    日向「いや、できるぜ」

    苗木「え?」

    フッ!

    カムクラ「僕がやります」

    苗木「か、カムクラくん!?」

    苗木(入れ替わるの早いんだなぁ…)

    日向(入れ替わるの早いなぁ…)

    カムクラ「…僕の魔法、『楽園からの景色』(アーリアル・デアヴェルト)で…辺りを一掃することも、この距離から直接狛枝を狙うことも可能です」

    苗木「…どっちがいいと思うの?」

    カムクラ「………」

    アルターエゴ『カムクラは少し間を作って、こう答えた』

    カムクラ「どうせなら、一掃ですかね」

    ズズゥゥン…!!

    アルターエゴ『途端、周りのアンデット達はカムクラの前にひざまずいた』

    苗木「!」

    アルターエゴ『…否、ひざまずいたわけではない!』

    「アァ……」

    ズズズズズ……!!

    カムクラ「…僕の魔法は、一度見た人物の魔法を完全にコピーし、それを更に進化させるというもの」

    苗木「え…えぇ!?それって、最強じゃないか!」

    カムクラ「しかし、君の魔法はコピーできなかった」

    苗木「…!」

    カムクラ「更に、“英雄”や…そこにいる狛枝の魔法も、ワカラナイ」

    苗木「……」

    カムクラ「…この魔法は、重力を操る魔法です。君と僕はこの影響を受けないようにしましたが…どうやら、この魔法を使っている間、僕は動けそうもない」

    苗木「…わかった。僕が狛枝くんを…!」

    カムクラ「…お願いします」

    狛枝「………」ブツブツブツ

    カムクラ(この重力下で、まだ詠唱を続けられるますか…並の人間ならば押しつぶせるくらいの強さなのですが…)

    苗木「…よし」

    アルターエゴ『倒れて動かないアンデット達を踏まないように気をつけながら、苗木は狛枝の詠唱を止めるために歩き出した…』
  196. 196 : : 2014/05/14(水) 21:04:39
    狛枝なにしとんねん!
    カムクラ、苗木頑張れ!
    期待♪
  197. 197 : : 2014/05/16(金) 00:57:45


    「ァァアィ」

    アルターエゴ『床に這いつくばるアンデッドは既に原型を留めていない指でさえ動かせずにいた』

    苗木「よっと…」ヒョイッ ヒョイッ

    アルターエゴ『苗木はそれを器用に飛び越え狛枝の元に向かい、そして辿り着く』

    苗木「狛枝君!もうやめようよ…こんなの間違っているよ!」

    狛枝「……ブツブツ」

    アルターエゴ『苗木が制止をかける……が、狛枝は詠唱を止めない』

    苗木「ねえ!!」ガッ

    狛枝「………はぁ、君たちは何を言っているの?──全部逆だよ…」

    アルターエゴ『苗木が狛枝へ掴みかかろうとしたとき、狛枝はこちらへ向き合いそう言った──つまり詠唱を止めた』

    苗木「どういう…?」

    狛枝「後ろ」

    「グォオォ…」

    苗木「!!」タッ!

    ──スカッ

    アルターエゴ『背後から聞き覚えのある声。苗木は反射的に飛び退きそれを躱す』

    苗木「何で…詠唱は止めたのに…」

    苗木(いや違う…詠唱を止めたとしてもひな……カムクラ君の力で動けないはずなのに!!)

    狛枝「だから言ってるでしょ…逆だって」

    アルターエゴ『いつの間にか飛び退いた先にいた狛枝がネットリとまとわりつくような声で再度言った──逆と』

    苗木「逆ってどういう…」

    狛枝「…あんなにゆっくり動いていたゾンビが日向くんの背後から不意打ちしたの覚えているかな?」

    苗木「……僕が庇ったやつだね…」

    狛枝「うん。そうだよ。でもおかしいよね、何であんなにゆっくり動く彼らが不意打ちなんて出来たのかな?」

    苗木「それは…偶然…」

    狛枝「苗木君もされかけたよね?それも二回も…それでも偶然って言うのかな?」

    苗木「っ…」

    狛枝「全部共通点があるはずだよ…よく思い出してごらん…」

    苗木(共通点……)



    【~閃きアナグラム~】


    えいしょう



    苗木(そうか分かったぞ!!)



    苗木「………君が詠唱を止めたとき…」

    狛枝「正解だよ」

    苗木「つまり君は…足止めをしていてくれたんだね……ごめん…」

    狛枝「アハハッ別に気にしないで、信じたいから…疑う…でしょ?」

    苗木「う、うん…って、そう言えばアンデッドたちは!?」

    狛枝「日向く…カムクラくんが相手してくれてるよ」

    アルターエゴ『そう言って狛枝が目を向けた先には、大量のアンデッドに囲まれたカムクラがいた』


    「ァァア」

    「ギィイ」

    カムクラ「…邪魔ですね!!」ドガッ!バキッ!

    苗木「カムクラ君!!」

    ガシッ!

    狛枝「…大丈夫だよ」

    苗木「大丈夫って何がだよ!あんなに囲まれてるんだよ?!」

    狛枝「…4対1をそつなくこなせるなら、100対1でも負けないものだよ…スタミナが持つ限りはね」


    アルターエゴ『──まあ、100体も居ないけれど。そんな軽口を狛枝は言い、こう続けた』


    狛枝「でも、負けないからと言って決して勝つわけじゃないんだけどね…」

    苗木「…?」

    狛枝「とりあえず『カムクライズル』がその雑魚どもに勝てないのは確かだよ」

    苗木「え?でも、カムクラくんは最強の魔法を…!」

    狛枝「雑魚に勝てないから雑魚と言うわけではないけれど、…まあ雑魚なんだけどね。ねえ苗木くん君は彼の魔法が本当に最強だと思ってる?」

    苗木「えっ…当然思ってるけど…違うの?」

    狛枝「違うよ。全然違う…確かに一般的な魔法よりは優れている…ただ、それだけだよ」

    苗木「何かリスクがあるのかな…」

    狛枝「リスクなんて無いよ?」

    苗木「それならやっぱり!!」

    狛枝「アハハっ…君とボクとでは雑魚の基準が違うだけだから気にしないで……それより」

    苗木(基準…?)

    アルターエゴ『苗木との会話を強引に切ると、狛枝は手をメガホンのように使いこう言った』

    狛枝「日向くーん!聞こえるかなー!!」


    カムクラ「何ですか、今は僕ですよ!」


    狛枝「アハハっ知ってるよ。だからボクは中にいる日向くんに聞こえるように大きな声で言ったんだ」

    アルターエゴ『悪意のなど全く無いニコニコとした笑顔で狛枝は言う』

    狛枝「そろそろ気付きなよ!そして思い出しなよ!!……手遅れになっても知らないよ?」


    日向(どういう…ことだ?手遅れ?)

    カムクラ「貴方は気にしなくていいことです…」ドスッ!ゴスッ!

    日向(気にしなくていいって…俺のことだろうが)

    カムクラ「……チッ、とりあえず今はこのアンデッドたちに集中します。貴方もあの胡散臭い男から“英雄”について聞きたいことがあるのでしょう?」

    日向(ああ、それもそうだな悪い)



  198. 198 : : 2014/05/16(金) 01:30:46
    狛枝は足止めしてくれてたんか〜。
    ええ事してたのにそう見えへんって損やなwwwww
    期待、期待、超絶期待♪
  199. 199 : : 2014/05/16(金) 01:44:59
    >>198
    いつもコメントありがとうございます!(笑)

    期待にこたえれるよう頑張ります!
  200. 200 : : 2014/05/16(金) 21:23:24
    狛枝(あーあ、日向くん、まだ思い出してなかったのか)

    苗木「…今、僕はどうすればいいの?」

    狛枝「あぁ…自由になったから、お礼をしないとね」

    アルターエゴ『狛枝は思い出したように言うと、パチンと両手を合わせた』

    ヴォォン…!

    アルターエゴ『…と同時に、狛枝の足下から魔法陣が浮かび上がった』

    狛枝「さ、なんでもいいよ。たぶん叶えられるから」ニコッ

    苗木「え、えぇ!?」

    苗木(こんな状況なのに…しかも、なんて簡単に言うんだろう…)

    狛枝「遠慮しないで。さぁ」

    苗木「でもカムクラくんが!」

    狛枝「彼は大丈夫。むしろ、ああしておく方がいいんじゃないかとすら思うよ」

    苗木(あぁしておく方が…って)

    アルターエゴ『…正直、苗木は狛枝の考えがまったく読めなかった』

    アルターエゴ『だからこそ、このお礼も、胡散臭いとすら思った。あまりにもタイミングの良すぎる敵の押収…それももちろんあるのだが』

    苗木(狛枝くんが、何を狙っているのかわからない…)

    苗木(あそこまで封印解除を催促しておいて、いざ解かれても自分の事は後回しにしているようだし…お人好し?には見えないし…)

    狛枝「どうしたの?遠慮しないで…ほら!」

    苗木「………」

    アルターエゴ『苗木は…まだ、決めかねていた』


    ━━━━━━━━━━



    アルターエゴ『──時は遡り…こちらは希望の国』

    ガチャン!

    アルターエゴ『門が開き、“英雄”を先頭にして、戦争を終えた兵士達が国に帰り着いた』

    「ワァァァァ!!」

    アルターエゴ『もはやお馴染みとなった、無傷の“英雄”に国民が歓声を上げる。いつもならそれに対してにこやかに対応する…そう、いつもなら』

    江ノ島「………」

    「………?」

    「おい…“英雄”、なんだか元気ないぞ?」

    「戦争で、何かあったのか!?」

    ザワザワ……!!

    松田(…ちっ、まずいな。変に不安を煽るなよドブス!)

    松田「落ち着け!“英雄”は大丈夫だ。今回の戦争でも、俺達の圧倒的優位は揺るがない」

    「!」

    「なんだ…大丈夫ならよかった!」

    「ってことは、午後からパレードなんだな!」

    松田「…あぁ、パレードは予定通り開催しよう」

    「「ワァーーーー!!」」

    松田(……今回の戦争はいつになく疲労が激しいな。魔力も使いすぎた)

    松田(………早く休みたいところだがな)

    アルターエゴ『そして、兵士達の列が終わり、続いて選ばれた生徒達と引率の教師が門をくぐる』

    「おぉ!無事だったのか!」

    「みんなよくやったぞー!」

    「…あれ?」

    十神「………」

    舞園「………」

    仁「………」

    「朝よりも…減ってないか?」

    「………あ、本当だ!ゴスロリ服の子と…男の子がいないぞ!」

    「若いのに…なんてことだ」

    「今までこの遠征で戦死した子は居なかったが…」

    仁「……2人とも、顔を上げなさい。無事戻ってこれたんだ」

    舞園「……でも」

    石丸「! あそこだ!」

    アルターエゴ『朝日奈、石丸、大神の三人が、仁の前に飛び出す。朝日奈はすでに、涙を流していた』

    朝日奈「ねぇ…苗木は?セレスちゃんは……?」

    仁「…………」

    朝日奈「………やっぱり、そうなんだね」

    アルターエゴ『朝日奈は仁の横をすり抜けると、十神の前で立ち止まった』

    バシッ!!

    十神「………」

    「…!おい、あの子、殴ったぞ…」ザワッ

    仁「…やめるんだ。ここで感情を爆発させても─ 朝日奈「なんでっ!!十神も…先生も、“英雄”も居たのに!!なんで守れなかったの!!」

    アルターエゴ『朝日奈の悲痛な叫びで、国の雰囲気は一転した』

    「………」

    十神「…すまない」

    アルターエゴ『殴られた時に飛ばされた眼鏡を拾って、朝日奈に頭を下げる。プライドの高い十神からは想像もできない行動に、朝日奈は思わず後ずさりをした』

    石丸「…もうやめるんだ、朝日奈くん」

    大神「朝日奈…」

    仁「…私からも謝ろう。すまなかった」

    朝日奈「───ッ!!」

    舞園「あ、あの…」
  201. 201 : : 2014/05/17(土) 00:19:07
    たえちゃんまだ生きてんのに.......
    期待♪
  202. 202 : : 2014/05/17(土) 18:17:29



    アルターエゴ『仲間が帰還しなかった。そんな不穏な空気の輪に、先程まで溢れんばかりの祝福をクラスメイトから受けた舞園は申し訳なさそうに声をかけた』

    朝日奈「何…かな?」

    舞園「多分…苗木君とセレスさんは生きています…」

    朝日奈「本当に!?」

    石丸「本当か!?」

    仁「……」

    舞園「ええ」

    大神「何か確証はあるのか?」

    舞園「はい。心の声にも大きさがあるのですが、その中で一番大きいのが死に際の声なんです」

    舞園「私は戦場で沢山の声…そして断末魔の叫びを耳にしました…今だ頭から離れないその声の中に、二人の声はありませんでした」

    十神「!……つまり!」

    朝日奈「苗木と…セレスちゃんは………生きてる?」

    舞園「確証はありません…でも…貴女たちが苗木君たちを信じなくてどうするんですか!!同じクラスメイト…そして仲間でしょう!!」

    朝日奈「うん……うん…!」ポロポロ

    アルターエゴ『悲しみをこらえ気丈に振る舞っていた朝日奈はついに泣き出した。──生きているかもしれない…そんな希望をきっかけに…」



    アルターエゴ『その感動的な輪にーー』

    松田「あー…何て言うか」

    アルターエゴ『ーー松田は野暮ったそうに口を挟んだ』


    朝日奈「苗木たちのことで何か分かったことあるの!?」

    松田「…………」

    アルターエゴ『微かな希望にすがるような彼女と、彼女の仲間たちの目を見て松田は真実を伝える決意を鈍らせた……そして』

    松田「………………いや、やっぱ何でもない忘れろ……アイツらの状況は近いうちに分かるだろうからな」ザッ

    朝日奈「そんな!」

    アルターエゴ『何も言わず、何も伝えず、その場を去る松田。だが英雄の右腕と呼ばれる彼を止めるものも止めようとするものも一人としていなかった──』




    舞園(貴方が言わなくても私には関係ありません!)


    アルターエゴ『──もう一度言おう“止めようと”するものは1人もいなかった』



    舞園(私の魔法の前では…全部筒抜けで…………あれ?)



    アルターエゴ『舞園は何も反応が出来ず、ただ固まった…何故なら』

    松田「──────。」

    舞園(何も聞こえない…!?……まさかこの人は何も考えて…………いや違う、意図的に…心の声を遮断している!?)


    松田「……あばよ」スッ

    シュンッ!!


    アルターエゴ『そして舞園は何も聞けぬまま──何の収穫も得られぬままその場に立ち尽くし、一方松田はその場から消えるような速さで去っていった』


  203. 203 : : 2014/05/17(土) 18:59:38
    舞園(松田夜助…やはり、ただものではありませんね)

    アルターエゴ『初めてだった。心の声が聞こえなかったのは。舞園の『心理の真理』(サイコ・ジャック)はほぼ生まれつきから備わっていた魔法であり、もはや習慣と言っても過言ではない。そんな魔法が通じなかった…それが表すことは』

    舞園(圧倒的な、実力の差)

    朝日奈「…とにかく、2人は生きてるんだね」

    アルターエゴ『頬の涙を手の甲で拭ったら、朝日奈は真剣な顔を覗かせた』

    朝日奈「…みんな、ごめんなさい!!」

    仁「! …仕方ないさ。2人が無事に戻ってくることを祈ろう」

    朝日奈「はい……本当にごめんなさい…」

    十神「いつまで謝るつもりだ…」

    朝日奈「!」

    十神「それで最後にするんだな…お前に何度も謝罪されるほど俺は落ちぶれていない…」

    朝日奈「う、うん…わかったよ…じゃあ…そう…するね」

    花村(フ、フラグ…!)

    舞園「キャア!…って、花村くん」

    花村「なんで僕が居たら悲鳴なんですかねぇ……」

    豚神「舞園、無事だったか」

    不二咲「舞園さん!お帰り!」

    桑田「舞園ちゃん!心配してんだよ…よかった!」

    戦刃「舞園さん!」

    舞園「4人とも…来てくれたんですね!」

    桑田(花村、不二咲、戦刃ちゃん、豚、俺…)

    桑田「ねぇ、4人って 舞園「みんな…ありがとうございます!」

    桑田「ねぇ4人 舞園「私はなんとか無事に帰れました…が、苗木くんとセレスさんが…」

    桑田「ねぇy 豚神「あぁ、聞いている。あの2人のことだ…うまくやっているだろう」

    桑t 戦刃「大丈夫だよ。とにかく今は、舞園さんが無事で本当によかった」

    k 不二咲「それに、いざとなれば僕の魔法で全力で探すからさ!」

    花村「まぁまだ僕達も完治はしてないから、魔法を控えないといけないんだけどね!」

    舞園「…そうですよね。今日はゆっくり休みたいです…」

    アルターエゴ『…そして、全員が城の前に到着すると、そのまま解散となった…が』

    仁「ちょっと集まってくれ」

    アルターエゴ『この一言で、本通りから少しズレた所に、希望ヶ峰学園の生徒が集まることになった』

    仁「…みんな揃ったな」

    アルターエゴ『仁の口振りから、ただごとではないシリアスな空気が全員を包む。町のお祭りムードとは対照的な空気だ』

    仁「…苗木くんとセレスさんの件だ」

    みんな「!」

  204. 204 : : 2014/05/17(土) 21:37:27



    朝日奈「先生!何か知ってるの?」

    仁「いや、何も知らないよ」

    十神「ハッ。ならば何のことだ?二人の件について何かあるのだろう?」

    仁「二人について…まあ概ねその通りだし、先程もそう言ったな」

    戦刃「勿体ぶらずに話して…」

    花村「もったい…“ブラ”ッ!?」クワッ!

    豚神「いちいち反応するな会話が進まない」

    桑田(目ぇ開いたら怖ッ!!)

    仁「………多分だが、彼らの現在地が分かった…」

    舞園「本当ですか!?」

    仁「ああ…」

    石丸「ど、どこなんだ!?」

    仁「…………」

    不二咲「どうしたんですかぁ?」

    大神「先生よ…黙っていては分からぬぞ…」

    舞園(心は…読めませんね。…待つしか…ないですね)

    仁「……落ち着いて聞いてくれ…」

    アルターエゴ『言いにくそう閉じたままでいた口を開き、そう前置きを置いた。…まるどこれから話すことの不穏さを示すかのように』

    アルターエゴ『裏通りで人気もなく、静まりかえったその場所で…仁はこう言った』

    仁「彼らが…苗木君たちがいるのは…恐らく絶望の国だ…」

    ザワッ!

    アルターエゴ『静まりかえっていた雰囲気はその一言で崩れた』

    「どういうこと?!」

    「絶望の国?!」

    「意味がわかんないよ!」

    「それって…ヤバくね?」

    「敵国……拐われたということか!!」


    アルターエゴ『各々が各々の言いたいことを言い、そしてそれを仁にぶつける』

    十神「どういうことだ!説明しろ!!」

    朝日奈「苗木は!?セレスちゃんは!?……二人は生きているの?!」

    仁「生きているよ……少なくとも苗木君はね」

    石丸「何故そう言いきれる!!!」

    仁「……答えは簡単だよ………先程、魔法で通達があった…」

    舞園「……なんて…ですか?」

    仁「苗木誠は…この国を捨て……兵士長へ反逆し、自らの意思で絶望の国へ向かったそうだ…セレスさんはそれについていった形らしい…」

    「「「「!!??」」」」

    アルターエゴ『告げられたのは…苗木誠が反逆者に成り下がったという。理解しがたい言葉だった』

    朝日奈「そんな!!アイツが…苗木がこの国を……私たちを裏切るわけない!!!」

    仁「証人は…兵士長だ」

    朝日奈「!?」

    舞園「さっき、彼が言おうとしていたのは…それだったんですね…」

    石丸「ふざけるな!!彼が!彼がそんな人間じゃないのは僕は知っているぞ!!」

    大神「……ああ、短い時間だったが彼奴(あやつ)はそんな人間では無いのは考えなくても分かる…」

    戦刃「私も…そう思う……一度刃を交えた身だし…何となくそう思う」

    桑田「俺も拳交えたけど…んー、嫌いな奴だけど悪い奴ではねぇよな」

    花村「僕も交えてー!」クネクネ

    豚神「お前は空気も読めないのか…」

    不二咲「僕も、彼がそんな風な人だとは思わないなぁ」

    舞園「そうですよ!きっと苗木君は魔法か何かで操られて!!」

    朝日奈「もしそうなら…苗木とセレスちゃんはどうなるの?」

    舞園「きっと…酷い仕打ちを……」

    朝日奈「そんな!!早く助けに行かなきゃ!!」

    アルターエゴ『希望ヶ峰の生徒たちは二人の生存に喜ぶと同時に絶望的な状況に慌てふためきだす……………たった一人を除いて』




    十神「ハッ!愚民どもが騒々しいな」

    十神「奴がそんな人間じゃないだと?果たして本当にそうと言いきれるだろうか?」


  205. 205 : : 2014/05/17(土) 22:39:14
    朝日奈「それって…どういう…」

    十神「お前らが、苗木を本当に理解しているのかと言う意味だ」

    石丸「失礼な!彼は僕達の友達だ!」

    十神「なら、お前はあいつの好物を知ってるか?」

    石丸「!」

    十神「好きな色は?好きなタイプは?家族構成は?」

    石丸「…そんなもの 十神「関係ない、か?」

    石丸「…!」

    十神「…俺達は互いのことをほとんど知らない。ただ、同じ学校に通い、同じ授業を受けてきただけだ」

    十神「さらに、こいつらに限っては、この前知り合ったばかりじゃないか?」

    桑田・花村・不二咲・豚神・舞園・戦刃「……」

    十神「あいつは今頃、向こうの国で楽しく過ごしているかもな…」

    アルターエゴ『言い終わると同時に訪れた、重い沈黙……。誰もが俯いたその時、戦刃が切り出した』

    戦刃「…でも、わかるよ。苗木くんがどんな人かくらい。苗木くんは…何か深い理由があって、仕方がなかったんだと思う」

    舞園「……十神くんも、本当はそう思ってますよね」

    十神「…ふん。あくまで可能性の話だ」

    アルターエゴ『隠すように、眼鏡の位置を直す。唇を震わせて言った一言で、その場に居た全員に彼自身の不安が伝わった』

    十神(ちっ、舞園が居たんだったな)

    仁「心配する気持ちは痛いほどわかる。こうなったのは私の責任だ。必ず彼らを救出する…約束しよう」

    アルターエゴ『仁は全員の目を見て、力強く言い放った』

    舞園(……とりあえず、不安は一つ取り除かれた…)

    舞園(でも、もう一つ…もう一つだけ、不安があります)

    【人類史上最大最悪の絶望的事件】

    舞園(その予測は今日…。…まだ、何か起こるって言うの…?)


    ━━━━━━━━━━


    【城】

    松田「おい…なんか食ったらどうだ」

    アルターエゴ『分厚い肉を口いっぱいに頬張りながら、フォークで江ノ島を指して言う』

    江ノ島「ダイエット中」

    松田「アホか。戦争から帰ったら誰よりも食う癖に」

    アルターエゴ『やっとこさ肉の塊を飲み込むと、次の塊にフォークを突き刺す』

    松田「食わねーと魔力も回復しないぞ。それに、午後のパレードはもちろん出るんだろ?」

    江ノ島「出る出る。でるでるでるで」

    松田「………ドブス、お前どうした」

    江ノ島「別に。沢尻えりか風」

    松田「わかる奴いるのか…」

    アルターエゴ『噛みちぎった肉を水で流し込み、グラスの底を机に叩きつけた』

    松田「とにかく、自覚はあるんだろうな。お前はドブスである以前に“英雄”だ。辛気くさい顔してっと国まで辛気くさくなるんだよ」

    江ノ島「…お花摘んでくる」

    ガタッ!

    アルターエゴ『突然の淑女的発言に、松田は椅子から転げ落ちてしまった』

    松田(あ、あいつ…本当にどうしたんだ!?)

  206. 206 : : 2014/05/19(月) 02:52:21
    盾子ちゃんどうしたん⁉︎

    期待♪
  207. 207 : : 2014/05/19(月) 22:33:12
    >>206
    いつもありがとうございます!
  208. 208 : : 2014/05/19(月) 22:33:29


    【城】

    アルターエゴ『江ノ島は城の最上階。その屋根の上に居た』

    アルターエゴ『空は雨雲では無いが雲におおわれ、僅かに漏れる光がスポットライトのように江ノ島を包み込んでいた』

    江ノ島「はぁ…」

    アルターエゴ『そこで江ノ島は深いため息をついた』

    江ノ島「なんで戻ってこないのかな、あのバカは…」ボソッ

    アルターエゴ『苛立ちと、他にもうひとつ感情を交えながらそう呟く』

    江ノ島「…ねえアンタも、……お父さんやお母さんみたいに…帰ってこないの…?」


    シュンッ!!


    江ノ島「!!……久しぶりだね」

    アルターエゴ『江ノ島は突如独り言を止めそう言った。言った相手は──』

    「うん。…こうやって向かい合うのは……いつぶりだろうね……“英雄”……いや、盾子ちゃん…」

    江ノ島「チッ。そんな呼び方すんじゃねぇーよ耳障りだ戦刃むくろ」

    戦刃「……そうだね。ゴメン」

    江ノ島「いーよいーよアンタに謝られたって1銭の得にもならないし、寧ろ時間の無駄……消えろ」

    江ノ島(コイツの性格上…これくらい言えば直ぐに言うことを聞──)

    戦刃「──ごめん、それは出来ない」

    江ノ島「ハァ?……つーかアンタ何でここに来たわけ?」

    アルターエゴ『江ノ島は驚いたように目を見開いた。理由は予想外、否、計算違いが起こったことに対してである。そして江ノ島はそれを紛らわすようにそう言った』

    戦刃「……私は…」

    アルターエゴ『戦刃はその問いに対し、ゆっくりとではあるがハッキリとこう答えた』

    戦刃「…私は、英雄…貴女にけじめをつけにここに来た!!」

    江ノ島「……ふぅーん」

    アルターエゴ『江ノ島はつまらなそうにそう返事を返した』



    ーーーーーーーーーー



    【路地裏】

    アルターエゴ『人気の少ない路地裏…そこには二人の男が居た』

    仁「それで、話って何かな?」

    十神「ハッ、いちいち説明するまでもないだろう?」

    アルターエゴ『噛み合ってるのか噛み合って無いのか曖昧な会話。仁はそれをこう捉えた』

    仁「わ、私はノンケだ!」ガタッ

    十神「おい!何故そのネタを引っ張ってきた!!」

    仁「はは、すまない冗談だよ」

    十神「……たちが悪すぎだ」


    アルターエゴ『またもすまないと謝ったのち仁はこう続けた』


    仁「もちろん分かっているよ。さっきはありがとうね。君があんな発言をしてくれなかったらどうなっていたか…」

    十神「大方、『私たちが助けに行く』などと馬鹿なことをぬかしてたのではないか?」

    仁「そうだね。その通りだ……で、それで話は終わりかい?」

    十神「そんなわけないだろ。……何、簡単なことだ。お前は首を縦に振るだけで良い」

    仁「……どういう…」

    十神「絶望の国へ行くのだろう?俺も連れ… 仁「ダメだ!!」

    アルターエゴ『十神の言葉は言い終わる前に仁の怒声によって掻き消された』

    十神「……ハッ。どういうことだ?」

    仁「そのままだ。君じゃ足手まといだ」

    十神「…ほう。言うじゃないか……つまり俺が足を引っ張らないことを証明すれば良いのだな?」ニヤッ

    バサッ!!

    アルターエゴ『十神がそう不適に笑うと、彼の背中から真紅の翼が現れた』

    仁「この力………十神くん、君はいったい何を?」

    十神「先程も言っただろ……足を引っ張らない……つまり俺が“貴様より”も強ければ良いと言うことだ……かかってこい」

    仁「……はぁ…どうしてもやらないとダメかい?」

    十神「当然だ」

    仁「そうか…じゃあ残念だが十神くんは希望の国へ行くことは出来ないよ」

    十神「…何故だ?」

    仁「…そんなの考えなくても分かるよ……何故なら私より弱いからね」

    十神「ハッ!ぼざけッ!!!」ブンッ!!

    アルターエゴ『その言葉に激昂した十神は躊躇なく仁に目掛け灼熱の翼を振るった』



  209. 209 : : 2014/05/19(月) 22:36:26
    〈訂正〉

    希望の国では無く絶望の国です!

    素で間違えました!
  210. 210 : : 2014/05/20(火) 01:11:04
    ヒュン!

    十神「!」

    アルターエゴ『突然視界から消えた仁。遅れて、そこを炎が通過する』

    十神(ならっ!)

    アルターエゴ『──十神ははっきり言って、今の希望ヶ峰学園でもトップクラスの強さだろう。人一倍強力な魔法を操り、頭の回転は早く、運動性能も高い。そして今は、先ほどまで戦争に行っていたことから、彼自身の勘がいつも以上に冴え渡っていた』

    アルターエゴ『故ッ!!』

    十神「ここだ!!」ブン!!

    アルターエゴ『一瞬…ほんの一瞬感じた僅かな気配を即座に悟り、背後に炎を放出!』

    ブォォオオオオ!!

    アルターエゴ『完全に読み切った。その上で、最後に勝負を支配したのは…勝負勘だった』

    仁「…はぁ、暑いな」

    アルターエゴ『仁の声は、十神にとって予想外の位置から聞こえてきた』

    仁「十神くん、君の負けだ」

    十神「………!!」

    アルターエゴ『仁は十神の死角からゆっくり近づき…そして、手で銃の形を作り、それを十神の胸に当てる』

    仁「なぜ、って顔だね。確かに、魔法だけなら一線級だ」

    仁「…でも、君自身はまだ未熟だ。さっきも、背後から殺気を飛ばしただけの簡単なフェイクに見事ひっかかった」

    仁「私自身は…少し横に移動して、炎をかわしたにすぎない。それでも君の目には、私が消えて見えたんだろう?」

    十神「………」

    仁「はっきり言おう、私より、松田夜助の方が強い」

    十神「!」

    仁「そしてその松田夜助も、“英雄”には到底適わない」

    仁「絶望の国だって、その“英雄”を相手に戦い続けている。敵は決して弱くない」

    仁「そして…その敵の頭は、完全に未知数だ。私では手も足もでないかもしれない」

    仁「…そんな危険な場所に、君を…生徒を連れていくことなんて、私にはできないよ」ニコッ

    アルターエゴ『仁は頬を緩ませて、十神の頭をなでると、スタスタと大通りに出て行った』

    十神「………」

    十神(この俺が…ここまで恥を…)

    十神(……くっ、このままでは終わらせない…。行くしかあるまい…絶望の国へ!!)ザッ


    ━━━━━━━━━━


    【城】

    アルターエゴ『足場の不安定な屋根の上を、まるで気にせず、優雅に飛び回る2人の戦士が居た』

    アルターエゴ『近づいて火花を散らしたら、一度離れ、また火花を散らす。繰り返しに見える作業…しかしこの中で、有利に戦いを運んでいたのは…』

    江ノ島(何よ!滅茶苦茶強いじゃん!)

    アルターエゴ『戦刃むくろだった』
  211. 211 : : 2014/05/21(水) 18:49:48



    戦刃「………」シュンッ!

    江ノ島(あーもう、相変わらず速い)シュンッ!

    キィンッ!!!

    アルターエゴ『またも二人は消え、刃の交わる音だけがその場に響く』

    戦刃(…ここ!)シュッ!

    ドスッ

    江ノ島「くっ…やるじゃん」

    アルターエゴ『戦刃は一瞬の隙をつき“続け”、僅かであるが江ノ島にダメージを蓄積させつつあった』

    アルターエゴ『なぜ生徒である戦刃が“英雄”である江ノ島に有利にたち振る舞えるのかと言えば答えは簡単だった』

    江ノ島(タイミングが悪かった、魔力回復してないってのに…ってか、あの残念前より格段に強くなってない?)

    アルターエゴ『戦刃が以前より強く…そして江ノ島が以前より格段に弱くなっていたからである』


    戦刃「ねえ、英雄…それが本気なの?」

    アルターエゴ『挑発とも取れる言葉をさらっとした顔で戦刃は言う』

    江ノ島「あー本気。本気も本気も超本気。それよりアンタ何で強くなってんの?病み上がりのはずでしょ?」

    アルターエゴ『江ノ島はそれに対し、同じように挑発を返し、そしてそう問う』

    戦刃「怪我しながら授業してたから。…それで治るの遅くなってたりしたんだけどね…」

    江ノ島(相変わらず残念)

    江ノ島「それで…さっきアンタの言ってたけじめって何なの?」

    戦刃「この勝負の決着がついたら話すよ…全部」

    江ノ島「…………あっそ」

    戦刃「………………」

    江ノ島「………………」


    アルターエゴ『どちらも一歩も動かず、場は膠着状態となる………が戦刃の一言によりそれは崩れた』

    戦刃「……それで、時間稼ぎはそろそろ終わりにしない?」

    江ノ島「チッ。なんでアンタは戦闘中だけそんなに勘が鋭いのよ…」バッ!

    アルターエゴ『その言葉と同時に一瞬だけ江ノ島の手は光に包まれる…そしてその後そこには巨大な大鎌が握られていた』

    戦刃「…………」


    江ノ島「いやー、私って剣使うの苦手なんだよねー♪だからグングニルに頼っちゃう傾向…ダメダメだよねぇ♪」キャルーン

    江ノ島「はい…そうです……私はダメダメなんです………」キノコ

    江ノ島「しかし、魔力の少ない今、グングニルはあまり使えません。ですが貴方程度を倒すために攻撃魔法は必要ありません」メガネ

    戦刃「……なめてるの?」シャキンッ!

    アルターエゴ『戦刃はサバイバルナイフの切っ先を江ノ島に向けてそう言う』

    江ノ島「いやいや、誇るべきだと思うよ。アタシにこの大鎌を使わせることを……ね」ギザ

    戦刃「………」

    江ノ島「さあ…かかってきなさい……私様に勝てば次は貴方がこのリーグの新しいチャンピオンよ!!」カンムリ

    戦刃「…………言われなくても!」シュンッ!!

    江ノ島「はぁ……ノリ悪!」シュンッ!!



  212. 212 : : 2014/05/21(水) 20:43:04
    江ノ島「ほっ!」ブンッ!

    アルターエゴ『戦刃に向けて、鎌を横に大きく凪ぎ払った』

    戦刃「!」バッ

    アルターエゴ『その大振りな凪ぎ払いが素早い戦刃に当たるわけがなく、戦刃はそれを飛び越えて江ノ島の間合いに易々と侵入する』

    アルターエゴ『…この時、不幸な事が二つあった』

    アルターエゴ『一つは、戦刃むくろが強すぎたこと』

    アルターエゴ『もう一つは…“英雄”が大鎌を使っていると言うこと』

    ピク……

    アルターエゴ『少し手を伸ばせば、戦刃の持つサバイバルナイフは“英雄”の首に届いたかもしれない』

    アルターエゴ『それでも戦刃は…』

    ………スタッ

    アルターエゴ『一度、退かざるを得なかった』

    江ノ島「あら、空中でよくあんな自由に行動して…」

    アルターエゴ『言い終わる前に、気づいた。魔法を自らに当てて、強引に移動したことに』

    江ノ島(……さすがに勘がいい)

    アルターエゴ『江ノ島の大鎌…魔法名『三丁目の悪夢』(デッド・オア・ナイトメア)は、ただの大鎌を呼び出す魔法ではない』

    江ノ島「………」ズズズ

    アルターエゴ『大鎌を構え直し、戦刃の出方を伺う姿は死神の如く不気味だが、その不気味さと完璧な構えに戦刃は美しさすら感じた』

    戦刃(とにかくまずい。鎌を振らせるのすらも…)

    アルターエゴ『戦刃、得意の鎌鼬を形成。遠距離から仕留めようとする考え…というわけではないみたいだが』

    江ノ島(ま、そうくるだろうね)

    アルターエゴ『これは、予想の範囲内』

    アルターエゴ『そして、その予想を戦刃が超えようとしてるのも…』

    江ノ島(予想の範囲内…♪)

    戦刃(まずはその鎌を…!)

    アルターエゴ『一気にダッシュし、再び近づく。しかし、それはただのダッシュではない』

    ブワッ…!

    江ノ島「!」

    アルターエゴ『そう、通常では考えられない軌道での…高速ダッシュ!』

    江ノ島(辺りの鎌鼬を利用して…ってか、コレ最早竜巻じゃん!)

    アルターエゴ『風と一体に…風と共に一気に近づき!』

    ヒュゥッ──

    アルターエゴ『颯爽とすれ違ったら…その時には』

    スパッ!!

    アルターエゴ『“英雄”の頬から、あまり経験のない赤い液体が流れていた』

    江ノ島(…はっ、マジ!?)
  213. 213 : : 2014/05/23(金) 22:39:49


    アルターエゴ『江ノ島が驚くのも無理はなかった。何故なら計算違いだったから』

    アルターエゴ『全てを計算し尽くし答えを導き、最善の行動を取る…そんな計算が狂ったのだ』

    ガシッ!!

    アルターエゴ『──だが、それは自分が傷付くことに対して“だけ”だった…』

    江ノ島「ふう…捕まえたッと」

    戦刃「!?」

    アルターエゴ『捕まえた。文字通りのその行動。だが戦刃の脚を捕まえたのは鎌でも江ノ島の手でもなかった』

    戦刃「何…これ…」

    アルターエゴ『掴んでいたのは黒い何か。生き物なのか物質なのかも分からないそれは、戦刃の細い右脚を握りしめ空中に逆さで吊るしあげていた』

    江ノ島「いやぁ、アンタが私様の鎌を振る位置に風を圧縮させるのは計算できてたんだけど、まさか届くとはね…」ヒラヒラ

    アルターエゴ『江ノ島は手をヒラヒラさせながら、余裕を持った顔でそう言った』

    アルターエゴ『戦刃は強い。確かに強い。……だがそれは兵士や生徒としてであり、英雄とは比べることすら烏滸がましい力量差がそこにはあった』

    戦刃「……嘘つき…魔法使わないって言ったのに…」

    江ノ島「はぁ?私様『攻撃魔法』必要ないとしか言ってないんだけど」

    戦刃「…………そう」グワッ!

    アルターエゴ『戦刃は腹筋を使い強引に上半身を持ち上げた。そして自身の脚を掴む黒い物体を手に持ったサバイバルナイフで切り落とそうしたその時』

    江ノ島「そうはさせるかっての」ダッ!

    アルターエゴ『江ノ島は束縛を解かせぬよう、つまり戦刃の動きを阻害するために駆ける』

    戦刃「……させるかっての」ボソッ

    アルターエゴ『それに対しオウム返しのようにそう呟く戦刃。そして、それと同時に江ノ島は気付いた』

    ヒュウウウウウ!!!


    江ノ島「……うぷぷぷぷ?」


    アルターエゴ『自身の周りを取り囲む、風の刃に』


  214. 214 : : 2014/05/24(土) 11:44:17
    戦刃「…わかってる……私には本来勝てない相手だなんて…」

    アルターエゴ『風の刃により、身動きがとれない江ノ島にあえて一歩ずつ、ゆっくりと近づく』

    戦刃「だから私は考えた。“英雄”の行動パターン…癖…そして知ってる魔法を全て計算して、いくつかの勝ちパターンを私は編み出した…!」

    アルターエゴ『話を無言で、少し嬉しそうに聞く江ノ島。…いや、少しではない。まるでゲームを買ってもらった子供のように、あるいは人気アイドルと握手をする時のファンのように…目を輝かせ、息を荒くしていた』

    江ノ島(あぁ…昔切り捨てた奴が、残念なアイツがあたしを一歩動いたら死ぬところまで追いつめてる…なんて絶望的なの…!窮鼠猫を噛んじゃうの…?//)ハァハァ

    アルターエゴ『そして、江ノ島のすぐ目の前に来たところで戦刃は足を止めた』

    戦刃「…ここで勝負は終わりなはず…だよね。決着は誰の目にも明らかだよ」

    アルターエゴ『両手を広げ、風の刃を消そうとする戦刃に、「異議あり!!」の声。戦刃は驚いた表情で、「なんで!?」と返す』

    江ノ島「そんなの明白!まだ勝負は終わってないからに決まってんじゃねぇか!」デストローイ

    戦刃「……よくこの状況で言えるね、それ」

    江ノ島「…んー、あんたあたしをここまで追いつめたの、すごいよ。初めてだと思う。でも…わかってない。わかってないよ。あたしっていう人物をまーったくわかってない!!」

    アルターエゴ『一転、今度はゲームを取り上げられた子供のように顔を赤くし、駄々をこね始めた』

    戦刃「…え?」

    江ノ島「いいからほら!とどめ刺す!あたしを殺したらあんたの勝ちであんたが次の“英雄”!!」

    戦刃「え…え?」

    江ノ島「あぁもうなんなの!?ここまで来て1人殺す勇気もないの!?残念の極みで残念の頂点で至高の残念なの!?」

    戦刃「……」ムッ

    戦刃「わかったよ…じゃあ恨まないでね!」
    パチンッ!

    アルターエゴ『戦刃の合図で、全ての風の刃が江ノ島に襲いかかる!!』


    ズババババババババババババッ!!!!


    戦刃「…………」

    アルターエゴ『無数の風に、鮮血が乗って四方八方に飛び散った』

    戦刃「………さよなら、盾子ちゃん」

    「はい、こんにちは」

    え─────

    アルターエゴ『戦刃の思考より早く』

    チャキン!

    アルターエゴ『それは剣を首に当てたまま』

    ドズン!

    アルターエゴ『のしかかった』

    江ノ島「チェックメイト、だよね?」

    戦刃「………え?」

    アルターエゴ『自分がどうして仰向けに倒れているのかを考える戦刃…だが、上に居る江ノ島がすぐにわからせた』

    江ノ島「あたしの勝ち。殺さないのは、話を聞けないから。ドゥー・ユー・アンダスタン?」

    戦刃「………」

    アルターエゴ『戦刃は理解した。風の刃を刈り取ったのだと』

    戦刃「あの鎌…振ったんだ」

    江ノ島「うん。振ればこっちのもんだもん。ま、風に切られた腕は後で松田くんに治してもらうとしてね」

    アルターエゴ『三丁目の悪夢(デッド・オア・ナイトメア)の能力…鎌自身は肉体と魔法を切り裂き、鎌を振った時に現れる目に見えない衝撃波は精神を削り取る。弱点は大量の魔力を使うこと、そして使用者の精神も蝕むこと』

    江ノ島(まったくしんどいわ。ま、いい運動にはなったけど)

    江ノ島「…で、聞かせてもらえる?最初に言ってたこと」

    戦刃「………私、絶望の国に行こうと思うの」

    江ノ島「!」
  215. 215 : : 2014/05/24(土) 17:30:15



    江ノ島「ふーん…なんで?」

    戦刃「…苗木君とセレスさんを助けに行く」

    江ノ島「……へぇ、でも殺すためにしか動けないアンタが…よくそんなこと言えるね」

    戦刃「人は変われるんだよ」キッ!

    アルターエゴ『戦刃は確かな意思をもった目でそう言う』

    江ノ島「残念な所は変わらないけどね。…まっ、私様に刃を向けれるようになっただけ成長したって言えるんじゃないの?」

    アルターエゴ『それに対し江ノ島は興味なさげにそう返した』

    江ノ島「ねえ、アンタって私のこと好き?」

    戦刃「うん。大好きだよ、でも嫌い」

    アルターエゴ『脈絡の無い質問に訳の分からない回答。だがそれに対し江ノ島は…』

    江ノ島「…それでよし。腑抜けより残念の方がマシだかんね」ニッ

    アルターエゴ『口角をつり上げながらそう言い、こう続けた』

    江ノ島「まっつだくぅーん!居るのは分かってるよカモーン!!」


    シュンッ!!


    松田「チッ…気付いてたのかよ、あと一人称とキャラは統一しろ」

    江ノ島「うぷぷ…無理だね。だってこれがボクのアイデンティティーだもーん」ダミゴエ

    松田「黙れドブス。で、何で俺を呼んだんだ?」

    江ノ島「はあ、アンタらって本当にノリが悪い…少しは苗木を見習えよ」

    松田「別にアホ毛から学ぶものなんてねぇーよ」

    江ノ島「あっ?まだ苗木のことアホ毛って呼ぶんだ?反逆者とかじゃなくてアホ毛って呼ぶんだー?♪」キャルーン

    松田「…最近のドブスは大変だな。人の揚げ足を取ることしか楽しみが無いなんて、全国ドブス選手権でもぶっちぎりの1位だなお前は」

    江ノ島「はいはい、残念ですがそんな大会無いですし、私はブスではありません」メガネ

    松田「…でだ。話が逸れてるが、何で俺を呼んだんだ?」

    江ノ島「ああ、簡単なことだよ。コイツ」ビシッ

    戦刃「……?」

    アルターエゴ『江ノ島は戦刃を指差しながらこう続けた…』

    江ノ島「……この残念の怪我を…治療してやってくんない?」

    戦刃「え?」

    松田「………チッ、分かったよ」

    戦刃「ええ!?」

    アルターエゴ『基本無表情の戦刃もこの時は驚きを表情に出していた』

    アルターエゴ『それほど意外なのだ…否、それほど異例なのだ。英雄が民ではなく、個人を思いやることが』

    戦刃「盾子ちゃん……何で?」

    江ノ島「何度目か忘れたけど、盾子ちゃん言うな」ニコッ

    戦刃「……英雄…何で?」

    江ノ島「…まっ、私“も”変わったんじゃないの?いや、変えられたのかな?あのバカに」

    戦刃「……そっか」フフッ

    江ノ島「はあ…笑った顔も相変わらずブスだな」

    松田「お前もなドブス」

    戦刃「ブスがゲシュタルト崩壊してる…」

    アルターエゴ『そんな刺々しい言葉があるもののほのぼのしたその状況で、江ノ島はこう考えていた』




    江ノ島(私は変えられない。だけど私が変えないといけない。…この世界を)



    ーーーーーーーーーー



    【希望ヶ峰学園 教員用寄宿舎】

    パカッ

    仁「ふふっ」

    アルターエゴ『十神との戦闘を終えた仁は学園に戻り、ペンダントを眺めながら優しげに微笑んでいた』

    仁「大きくなっていたな…そして、強くなっていたなぁ」

    アルターエゴ『そして誰に対して言っているわけでは無いが…そう呟いた』


    仁「………あと少し…あと少しで……」


    ーーーーーーーーーー



  216. 216 : : 2014/05/24(土) 19:29:26
    【城】

    江ノ島「ま、あんだけの実力があれば足手まといってことはないでしょ。いいよ、あたしも行ってあげる」

    戦刃「え、本当!?」パァッ

    江ノ島「ただし!行くなら今日!」

    松田「はぁ!?パレードはどうするつもりだ!」

    江ノ島「ん?勝手にやってて」

    松田「は……はぁーー!?ド低脳が!そんな好き勝手許されると思ってんのか!?」

    江ノ島「あぁー…まぁ松田くんも来ればいいんじゃない?」

    松田「どうして話を聞かないんだお前は…ガキじゃないんだぞ!」

    江ノ島「松田くんこそ、ガキじゃないの?」

    松田「あ!?」

    江ノ島「ただのお祭りと…この国のことと…どっちが大事なの?」

    アルターエゴ『おちゃらけた言い方から、真剣な雰囲気。松田は江ノ島の考えを完全に理解したわけではないが、何か裏があることは察したようで』

    松田「………ちっ、なら仕方ねぇ。出てこいよ」

    アルターエゴ『松田の声で、一斉に現れたのは…』

    大神・石丸・朝日奈「…」ザッ!

    松田「お前らがここで暴れてる間に、こいつらがお前を訪ねに来たんだ」

    江ノ島「ふーん、みんな絶望の国に行きたいの?」

    大神・石丸・朝日奈「!」

    江ノ島「あ、図星。まぁいいよ、あんたらも一応は連れてってあげる」

    石丸「! 待ってくれ!」

    松田「……なんだ?今朝の戦争に行けなかったお前らを連れてってやるって言ってるんだぞ」

    石丸「その件についてなんだ」

    アルターエゴ『石丸が思い詰めた表情で、少しためらってから…叫んだ』

    石田「俺にも…稽古をつけてくれええええ!!!」ボォー!!

    朝日奈「も、燃えてる!?」

    石田「頼む!苗木につけてくれたのなら!俺には少しでいい!少しでいいんだ!!」

    アルターエゴ『熱い物言いとは裏腹に、頭を地につけて、涙を流したながら石丸…もとい石田は頼んだ』

    江ノ島「うーん…だめ、かな♡」

    石田「!?」

    江ノ島「まず、時間がないこと。さっさと支度して…もう行くよ」

    朝日奈「え、も、もう!?」

    江ノ島「そ、もう。悪いけど、稽古なんてつけてる暇ないの」

    アルターエゴ『言って、江ノ島は屋上から姿を消した。支度をするために』

    松田「………おい、白髪坊主」

    石田「!?」

    松田「“英雄”(アイツ)はあぁ言ったが…お前、中々伸びしろがあるぞ」

    石田「ほ、本当か!?」

    松田「あいつの支度が終わるまで…少し教えてやるよ」スッ…
  217. 217 : : 2014/05/25(日) 16:17:32



    アルターエゴ『松田は両手を大きく広げこう言った』

    松田「さあ、お前の全力を俺にぶつけてみろ」

    石田「あッ?それが修行なのか?」

    松田「ああ、そうだ」

    石田「これから絶望の国へ行くってのに怪我してもしらねえぜ?」

    松田「いや、お前じゃ俺に傷1つつけられねぇよ」

    石田「んじゃあ、食らいやがれ!!!」ダッ

    アルターエゴ『石田は松田に向け駆け出した、そしてそのスピードを保持したまま拳を振り上げる!』

    石田「うおおおおお!!『怒りの鉄槌!!!』」

    ドゴォオッ!!

    アルターエゴ『石田の声に呼応して石田の手には赤くバチバチと輝くオーラが形成されていた。それはオーラではなく圧縮されることにより物体と化していた』

    石田「くたばれオラァァア!!!」ブンッ!!!

    アルターエゴ『そして石田はその腕を降り下ろす!!』

    松田(チッ、よりにもよって降り下ろす技かよ…城壊させないためにもどうにかしないとな!)キッ!

    『精神集中 更改』

    ガシッ

    石田「なッ?!」

    アルターエゴ『松田が取った行動は避けることでも受け止めることでもなかった』

    石田「何で止めれるうえに掴めんだァアアン?!!!!」

    松田「簡単なことだ…お前が弱くて俺が強いだけだ!!──はアああッ!!!」ブンッ!!

    アルターエゴ『松田は、オーラで出来た巨大な手を二本の腕で掴み、そして強引に投げた!!』


    石田「クソォオオオ!!!」シュンッ!

    松田「他愛もないな…」


    ドシャッ!

    アルターエゴ『石田…いや石丸は背中から屋根の上に落ちる…』

    石丸「はぁ…はぁ…降参だ」

    アルターエゴ『──そして決着はついた』


    石丸「……けど、これは何の修行だったんだ?」

    アルターエゴ『石丸はふと気付いた疑問の念を松田へ問いかける』

    松田「いや、修行と言ってもこの短時間で教えてやれるのはアドバイスくらいだからな。見定める意味もかねて全力を出させただけだ…」

    石丸「なるほど!それでアドバイスとは?」

    松田「まず、さっきの技だが…弱点が三つ存在する」

    石丸「三つもだと!?」

    松田「ああ。だが、その三つさえ克服すればお前はかなり使えるようになるはずだ」

    石丸「そ、それは何だと言うのだ!?」

    松田「簡潔に言えば、1つ目は隙がデカイことだ。隙があると言うことは、敵に攻防どちらも有利な状況を作ることになるからな」

    石丸「ああ…確かにその通りだ…」

    松田「そして、二つ目、動きが直線的で単純。尚且つ分かりやすい所だ。“片手”のみで振り上げれば、その対策をされる………当然だよなぁ?」

    石丸「うむ!!」

    松田「そして最後だ。圧倒的な威力不足」

    石丸「なっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!僕の魔法は威力には自信が!!」

    松田「いや、それはお前の自己満足だ。それと安心しろ。これはつまりお前の魔法が成長するってことだ」

    石丸「成長…?」

    松田「お前はサイズにこだわりすぎなんだよ。確かに弱い相手ならデカイ方が良いかもしれない、だが強い相手ではサイズだけの薄い攻撃は意味がない…」

    石丸「くっ!!」

    アルターエゴ『思い出すは、花村との戦い。二発当てても仕留められず、カウンター魔法で沈んだ苦い思い出』

    石丸「そ、それなら僕は…僕はどうすればいい!?」

    松田「まずは、サイズにこだわらず圧縮しろ…そして…」ニヤッ

    アルターエゴ『松田は顔に笑みを浮かべながらこう言った』

    松田「お前、異国の武術らしいが………ボクシングっての知ってるか?」



    ーーーーーーーーー


  218. 218 : : 2014/05/25(日) 20:23:50
    アルターエゴ『苗木とセレスの救出に向かって動き出す希望の国。しかし、動くのは希望の国だけではなかった』

    ガバッ!

    終里「ぷはっ!」

    罪木「あ…目覚めたんですねぇ」

    五月雨「うぅ…霧切ちゃんは?」

    罪木「一度帰宅しましたよ?五月雨さんも一度帰宅したら 五月雨「霧切ちゃーん!」ピュー

    罪木「・・・」

    終里「なぁ…罪木がここに居るってことは…今回も…」

    アルターエゴ『罪木は無言で頷いた』

    終里「…だよな。そっか、またダメだったのか」

    アルターエゴ『ふてくされたように、枕に後頭部を沈める終里。それを見て、罪木も五月雨が使っていたベッドを整え始める』

    罪木「…大丈夫ですよ。きっといつか…」

    『いつか…何?』

    テーレーレレレー♪

    罪木「わっ!」ステーン

    観客<ohパンツ!!おパンツ!!

    モノクマ『な、なんて露骨なサービスシーン…しかも男受けを狙った白だなんて、罪木さんやっぱりクソビッ 罪木「違いますぅ!ふぇ~ん助けてください~!」ジタバタ

    モノクマ『…まぁいいや。それで、いつかと言わず今日!希望の国を落としたいなーって思ってるんだよね』

    終里「きょ、今日!?」ガバッ

    アルターエゴ『聞き流していた終里が、思わず起きあがる』

    モノクマ『そう、今日です!みんな傷も治ったでしょ?ならいつ行くの?今でしょ!』

    終里「……おもしれえ…ワクワクすっぞ…」

    罪木「あのっ、さすがに急すぎませんか?」

    アルターエゴ『やっと立ち上がった罪木が、お尻をさすりながら涙目で尋ねた』

    観客<ムクムクッ

    モノクマ『君は本当に……まぁいいや。そう、とにかく今なんだよ!国王も復活しちゃったし!ガッデム!』

    罪木「え…国王って…」

    アルターエゴ『そう、絶望の国の国民すら、国王の姿はおろか名前すら知らなかったのだ』

    モノクマ『まったく困るクマ!…クマるクマ!』ドヤッ

    終里「いや面白くねーよ」

    モノクマ『………』

    終里(マジで落ち込んじまった…)

    モノクマ『ぼ、僕この国を出て行ってもいいんだよ?か、覚悟はあるよ?』

    終里「わ、悪かったよ…(なんてめんどくせぇんだ…)」

    モノクマ『コホン、とにかく、国王が表に出てきたらもう僕は代理じゃなくなるわけ。だから、今のうちに好きなことやっておくんだ!』ピョーン

    罪木「…行っちゃいましたね」

    終里「あぁ…」
  219. 219 : : 2014/05/26(月) 22:31:27



    罪木「……あれ?」

    終里「ん?どうした?腹減ったんか?」

    罪木「いえ…」

    終里「んっか!」

    罪木(以前澪田さんと話した三人って…あと一人誰だったでしょうか…)


    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『苗木は狛枝からなんでも願いを叶えてあげる…そう話を持ちかけられていた』


    苗木(なんか…胡散臭いな)

    アルターエゴ『やはり、それが苗木の素直な感想だった』

    狛枝「どうしたの?ねえねえ何でも言ってごらんよ」

    苗木「……保留にするのはダメかな?」

    狛枝「それが…君の願いってことで良いのかな?」

    苗木「それはダメかな、うーん……」

    アルターエゴ『うーん…と言いながらも苗木の中では願い事は決まっていた』

    苗木(……僕の願いは………)

    苗木「……」ゴクリッ

    アルターエゴ『そんな苗木の様子を見て狛枝は微笑みながらこう言った』

    狛枝「……決まったようだね」ニコッ

    苗木「うん…………、無理を承知で言うね…。両親と…村の皆を生き返らせてほしいんだ…!!」

    狛枝「……………………生き返らせるねえ……ごめん、流石に生き返らせるのは無理だよ」


    アルターエゴ『意を決して言った願いは虚しくも叶わないと…不可能だと言われた』


    苗木「ごめん…そうだよね」

    狛枝「こちらこそごめんね…、何か他にないかな。大金持ちになりたいとかでも大丈夫だよ?」

    アルターエゴ『──ああ、不老不死は無理だけど。と狛枝は続けた』

    アルターエゴ『そんな冗談混じりな狛枝に対し苗木は真剣な表情でこう言った』

    苗木「あのアンデッドたちをどうにかしてほしい…」

    狛枝「…え?それでいいの?」キョトン

    アルターエゴ『狛枝は驚きながらそう訪ね、こう続ける』

    狛枝「国へ帰りたいとか、七海さんと再会したいとか、英雄の正体はなんなのか!みたいなのが来ると思ってたんだけどなぁ…本当に良いの?」

    苗木「うん…今、国に戻ったらこのアンデッドたちがこの国に放出されちゃうし、女の子をこんな危ない状況で呼ぶのも…僕には出来ないよ」

    狛枝「…ふふっ、優しいんだね……流石だよ」

    苗木「いや、別にそんなことはないと思うけど…」

    狛枝「この状況で、そこまで配慮が回ってそして敵国をも思いやる姿勢…流石希望だね!!」

    苗木「僕はただ…目先のことから考えちゃうだけなんだけどね」アハハ

    狛枝「切り捨てられないのは弱さだけれど、全てを背負って前に進めるのは…強さだよ」

    狛枝(……もちろん前に進めた場合“だけ”なんだけどね………それが出来なければただの甘さだよ)フフ



  220. 220 : : 2014/05/26(月) 22:36:43



    苗木「それでだけど…」

    狛枝「あっ、ごめん願い事の件だね。オッケー分かったよ、あのアンデッドをどうにかすれば良いんだね!」

    苗木「うん…お願い」

    狛枝「よし、じゃあ日向クンを連れて早く地下から出ようか」

    苗木「え?」

    狛枝「大丈夫…ボクに任せて」ガシッ!

    ダッ!

    苗木「うわっ!!」

    アルターエゴ『狛枝は苗木の手首を掴むと大地を蹴った』

    「メアァア…」

    「ガァァ」

    狛枝「邪魔」ダンッ!

    「シンン…」

    「カアァ」

    狛枝「よしっ」ガシッ!

    カムクラ「…何をするのですか?」

    狛枝「舌噛むとあれだから…黙ってて」ダッ!!

    アルターエゴ『狛枝はアンデッドを弾き飛ばし、その中心に居た日向(カムクラ)を残ったもう片方の手で掴み出口へ駆けた』

    狛枝「よっと」ポイッ!

    アルターエゴ『出口につくや否や狛枝は二人を外に放り投げた』


    カムクラ「……貴方は何を?」スタッ

    苗木「狛枝君…な、何をする気なの?」スッテンコロリン


    狛枝「まあ、見てて」クルッ

    アルターエゴ『そう言いながら狛枝は後ろを向く。何十体いるか分からないアンデッドは此方へ向け、仲間であるはずのアンデッドを押し退けながら迫っていた』

    狛枝「あはっ、某忍者が主人公の漫画でさこんなのがあったんだよね」

    ボッ!!

    アルターエゴ『そう言う狛枝の手にはソフトボール程の大きさの光球が握られていた』

    狛枝「相手が自称不死身の相手でね、それに対して頭の良い忍が取った行動がこれなんだけど…さ!」ブンッ!!

    アルターエゴ『そして狛枝はそれを放った…──迫り来るアンデッド目掛けてでは無く天井へ!!』


    苗木「え?」

    カムクラ「……なるほど」


    ドゴォオオオン!!!


    アルターエゴ『光球は天井にぶつかるや否や爆発を起こした。そして』

    ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

    アルターエゴ『地響きをたてながら天井は崩れ、それはつぶてとなってアンデッドに降りかかる』

    「グァァ…」

    「ギィイイ」

    アルターエゴ『グチャリっ…と辺りから肉の潰れる音と人のものとは思えない唸り声が響く』

    狛枝「チェックメイトだよ、いくら治ったって動きを封じちゃえば無駄だよね。…まるでボクみたいに」アハッ

    アルターエゴ『──まあ、ボクは治ったりはしないんだけどね…と狛枝はそう付け加えながら笑った』



  221. 221 : : 2014/05/26(月) 23:10:41
    狛枝「さて…と」

    アルターエゴ『アンデットの件は一段落し、無事地上に戻れたことに安堵の息を吐いて、狛枝は振り向いた』

    狛枝「これで、僕は自由だ」

    アルターエゴ『空を見上げ、まるでこの世界を抱きしめるように両手を広げながら微笑む。タイミングを見て、苗木が口を開いた』

    苗木「狛枝くん…さっきはありがとう」

    狛枝「ん…あぁ、君の労力に見合った願いかは、わからなかったけどね」ハハッ

    日向「って、俺の願いも叶えてくれるのか!?」

    アルターエゴ『いつの間にか戻っていた日向が、息を荒くして狛枝に近寄る』

    狛枝「うん、そうだね。何がいいかな?」

    日向「それはもちろん!俺の記憶を戻して欲しい!」

    アルターエゴ『その言葉を聞いた時』

    狛枝「…やっぱりね」

    アルターエゴ『誰にも聞こえない小さな声で、しかしはっきりとした口調でそう呟いた』

    日向「?」

    狛枝「…残念だけど、僕は君の記憶を操作することはできない」

    日向「…そうか……」

    アルターエゴ『日向は肩を落とし、ため息を吐いた。落ち込んでいるのは、誰の目にも明らかだ』

    狛枝「…いや、でもそうだな。君の記憶を失った原因はたった1人の人物が握ってるんだ。彼に会えれば…あるいは…」

    日向「!」

    日向「彼って!だ、誰なんだ!?」

    アルターエゴ『再び息を荒げる日向。対して、狛枝は冷静に続ける』

    狛枝「……松田夜助、だよ。彼が記憶を失わせたに違いない」

    日向・苗木「!」

    日向「松田…夜助…」

    日向(……もう一度、希望の国に行く必要がありそうだな…)


    ━━━━━━━━━━


    セレス(……退屈、ですわ)ズズ…

    澪田「あの…お味は…」

    セレス「てんでなっちゃいませんわね」

    パリーン!

    澪田「ドッヒャー!」

    セレス「また作り直しですわ。さっさと美味いロイヤルミルクティー出せゴラァ!」

    澪田「 ∩(´;ヮ;`)ンヒィ〜wwwwwwwwww」スタコラ


    セレス「…まったく」

    セレス(はぁ、絶望の国を壊滅させるとは言ったものの、やはり簡単には行きませんわね。まぁ、今はじっと待って好機を伺いますか…)

    アルターエゴ『景気付けに、と、カードの束を空中に出現させ、念入りにシャッフルする。およそバラバラにカードを展開したら、その中から一枚をセレスは手に取り、ニヤリと笑った』

    セレス「戦車の…正位置…」

    アルターエゴ『その意味は、“勝利と前進”』
  222. 222 : : 2014/05/28(水) 23:07:34


    ーーーーーーーーーー


    日向「って…何やかんやで俺の願い事うやむやになってないか?」

    狛枝「うやむやに何かしないよ。ボクは嘘はつかない…ちゃんと約束は守るよ」ニコッ

    日向「嘘をつかないなんて嘘つきしか言わないぞ……」

    狛枝「あはッ!信じてよ☆」

    日向「…………」イラッ

    狛枝「そんな怖い顔しないでよ」

    日向「お前も知ってるんだろ?」

    狛枝「……何を?」キョトン

    アルターエゴ『惚けたわけではなく、本当に分からないのか首を傾げながら狛枝は尋ねた』

    日向「俺の過去に決まってるだろ!」

    狛枝「ん、ああ知ってるよ。凄く知ってる。君自身より知ってる」

    日向「はぁ?…って、俺は記憶なくしてるから俺より知ってるのは当たり前だろうが!」

    狛枝「あははっその通りだね」ニコッ

    日向(……やっぱり胡散臭いな)


    アルターエゴ『日向は思う…最初から胡散臭いと思っているのに何故かコイツを信じる自分がいる……と、だからこそ自分について聞いたのだが』

    狛枝「でもさ…やっぱりボクから話しちゃダメだと思うんだよね…」

    アルターエゴ『帰ってきた答えは言えないでも言わないでも無く「ダメ」だった』

    日向「……何でだよ…」

    狛枝「何も変わらないからだよ…」

    アルターエゴ『悲しげに狛枝は呟く』

    日向「?……ああ、確かに主観と客観じゃ大分変わるけど」

    狛枝「それに違うでしょ?」

    日向「……何が違うって言うんだよ」

    狛枝「君が今一番知りたいこと」

    日向「……分かったように言うな?」

    狛枝「そりゃあ…分かってるからね」ニヤッ

    アルターエゴ『知ったように…いや実際に知ってるからだろうか、狛枝は悟ったような口調でそう言う』

    日向「じゃあその願いって何だよ」

    狛枝「あれ…本当に忘れてしまったの?それとも…君の中にいる彼が記憶に蓋でもしてるのかなぁ…」フフッ

    日向「は?」

    カムクラ(耳を貸す必要はないですよ…虚言です)


    アルターエゴ『日向が何か言う前に、そして考え付く前に恐らく狛枝の言う“彼”から制止が入る』

    狛枝「君がボクに最初に願った願い事……もしかして忘れたわけじゃないよね?いや、忘れてるからこんなことになっているわけだけれど…」

    日向「だから!それは何だって聞いてるんだよ!!」

    アルターエゴ『怒鳴る日向とは対称的に落ち着いた口調で狛枝は言う』

    狛枝「英雄について…」

    日向「……!!」

    アルターエゴ『それを聞いて日向の顔色が変わる』

    狛枝「あれ?言われて思い出したの?」

    日向「……ああ…」

    日向(何で…何で俺は、それを忘れていた?……まさか)

    カムクラ(……)

    日向(いや…この身体は俺のものだ………まして!心や記憶まで支配されるなんて…そんなことあるわけ……)

    アルターエゴ『体は支配されることはあっても心…つまり内面を支配されてるかもしれないなど日向は考えたくなかった………何故ならそれは、自分が自分じゃないかもしれないからだ…』

    狛枝「まあ、どう思うかは君の自由なんだけどさ、……それで知りたい?」

    日向「……ああ!教えてくれ!」



    苗木「あのさ…僕にも教えてくれないかな?」

    アルターエゴ『二人の会話を端で聞いていた苗木も英雄という単語に食いつき、そう言った』

    狛枝「うん。全然良いよ」

    アルターエゴ『それに対し狛枝は笑顔で了承した』











  223. 223 : : 2014/05/28(水) 23:12:02



    狛枝「これからする話には…嘘なんて無いから…真面目に聞いてね?」

    苗木「うん」

    日向「わかってる」




    アルターエゴ『コホンっ…ここから暫くは、尺の都合上狛枝君の音声のみでお楽しみください』ペコリっ



    狛枝「昔々、あるところに幸せな男女がいました」

    狛枝「その男女は子供を産みました…。名は誰かを守れるように……と意味を込めて盾子って名付けたらしいね」

    狛枝「そう。それが今の英雄だよ」


    狛枝「え?ただの出生秘話じゃないかって?いやいや違うよ。まだ…何も始まってない…いや、終わってないって言う方が正しいのかな?」

    狛枝「ごめんごめん、回りくどかったね」

    狛枝「今の話だけだとただの幸せそうな話だよね………だけど、状況が……そして立場が違ったんだ」

    狛枝「英雄の母親は“当時”絶望の国の王女。そして父親は“当時”希望の国の英雄だった人なんだ!」

    狛枝「そう。敵対国の上位身分同士が…駆け落ちしたんだよ」

    狛枝「そして、当然それじゃあ民衆の示しがつかないよね?」

    狛枝「さあ、果たして希望の国と絶望の国はどうしたと思う?」


    狛枝「……ごめん、意地悪な問題だったね…答えは簡単、処刑したんだよ」

    狛枝「違う、逆だよ…希望の国が英雄を、絶望の国が王女を…そう各国が各国の人間を殺したんだ!!」



    狛枝「そして今に至るわけだけさ…おかしいとは思わない?」

    狛枝「確かに英雄は武力や功績で決まるんだけどさ…」

    狛枝「何で希望の国は…英雄が全てを取り仕切ってるのかな?」

    狛枝「答えは簡単。他の上位身分が居ないから……死んで居ないから」

    狛枝「じゃあ、問題。誰が殺したでしょう?」


    狛枝「そう…大・正・解ッ!!現英雄が殺したんだよ。じゃあ、続いての問題…何のためと思う?」


    狛枝「…うーん、復讐か…さんかくだよ。正解は…希望の国を自由に扱うためさ……」

    狛枝「…絶望の国“も”滅ぼすためにね」ニヤリッ


    狛枝「つまり彼女の目的は………全人類の抹殺──」


    狛枝「──…いや、ちょっと大袈裟だったかな、文明が滅ばない程度に人を殺すって言うのが正しいね」


    狛枝「そして、それの最大の障害になるであろうボクを封印した……以上だよ」




    苗木「…………」

    日向「…………」

    狛枝「さあ、こんな話を聞いた君たちはどうするのかな?」ニヤニヤ

    アルターエゴ『そんな風にニヤニヤしながら狛枝は尋ねた』


    苗木「そんなの言われるまでも無いよ…」

    日向「ああ…その通りだな」

    狛枝「ふぅーん、良いねえ…覚悟を決まった目をしてる」ハァハァ

    アルターエゴ『彼が興奮している理由は、けしてやましい何かがあってではない…ただ、この絶望的な話を聞いたにも関わらず彼らの目に……』


    苗木「彼女を止める!!」

    日向「アイツを止める!!」


    アルターエゴ『確かな希望が宿っていたからである』



  224. 224 : : 2014/05/30(金) 21:27:03

    ━━━━━━━━━━

    【城】

    江ノ島「呼んだ?希望のお二人さん」

    アルターエゴ『城の中にある"英雄"専用部屋の一つ、"英雄専用"シャワールーム。シャワーを浴びながら、遙か遠くから感じた久しぶりの気配に対し、聞こえるはずのない返事をしながら不敵に笑った』

    江ノ島「…うっぷっぷっ」

    キュッ!

    アルターエゴ『シャワーを止め、前に集中した髪の毛を勢いよく振り上げて、背中側に戻した』

    パチン!!

    アルターエゴ『指を鳴らすと、天井の魔法陣からバスタオルが出現し、ゆっくりと降ってきたソレは、江ノ島の頭に綺麗に被さった』

    江ノ島(はぁ、ここだけは時間が止まってるみたい。あの頃の城そのまんま…それで満足してるんだけど)

    アルターエゴ『髪を乾かし、一通り体を拭くと、またも指を鳴らした。するといつもの服が、今度は床の魔法陣から姿を現した。ゆっくりした動作でそれを拾い上げる』

    江ノ島(さっさと塗り替えよう。この世界にサヨナラして)

    アルターエゴ『再び指を鳴らすと、空中に現れた魔法陣が江ノ島の全身を頭からすり抜けると、江ノ島の姿は消えた』


    ━━━━━━━━━━


    【霧切の家】

    霧切(…この国は、私の産まれ育った国。失いたくない。私の過ごした時間が、この国に愛着を沸かせている…)

    霧切(苗木くんの、あの時の必死な表情…本当は、少し同情した。だからこそ彼を、救ってあげたいと思って…気がついたら手を伸ばしていた)

    霧切(希望の国はそれを口実に、どんな外道な手を使ってでも攻めてくるはず。近いうちに…恐らく今日中には)

    霧切(させない…必ず ドンドンドン!!

    霧切「!」

    <霧切ちゃーん!開けて…ってどうしたのこの壁

    霧切「…。いいわよ。入りなさい」

    アルターエゴ『扉…ではなく、壁の穴から五月雨が顔を出した』

    五月雨「霧切ちゃん!!大丈夫?心も身体も怪我ない?」

    霧切「大丈夫よ…結お姉さまこそ、さっき起きたのでしょう?」

    五月雨「私は大丈夫!それより霧切ちゃん、ごめんね。せっかく呼んでもらえたのに、ただの足手まといだったよ」

    アルターエゴ『惨めさを押し殺して、照れ隠しのようにはにかんだ』

    霧切「そんなことはないわ。あなたが居なかったら、私は今頃死んでいたかもしれない」

    五月雨「…そっか。ありがとう」

    霧切「ふふ、今更ね」

    アルターエゴ『霧切が、いたずらっぽく笑った。こんなことは珍しい。五月雨は少し驚いたが、笑って返した』

    五月雨「…霧切ちゃんがこの国に来てくれて、本当に良かった」

    霧切「………」

    アルターエゴ『五月雨の一言で』

    霧切「………え?」

    アルターエゴ『霧切の世界に、ヒビが入り始めた』


    ━━━━━━━━━━


    仁「…さて、そろそろ向かおう」

    アルターエゴ『ペンダントをポケットにしまうと、仁はスーツの襟を正した。しかし、いざ向かおうとしたところで…』

    仁「…!ゴホッ!ゲホッ…!」

    アルターエゴ『仁の口から、血が吐き出された』

    仁「…松田夜助…。やってくれる」

    アルターエゴ『痛みの続く心臓を押さえて、そう呟いた』
  225. 225 : : 2014/06/04(水) 00:05:10



    ーーーーーーーーーー



    狛枝「そっか」ニコッ

    アルターエゴ『二人の言葉を聞いて狛枝は微笑む。その時』

    モノクマ『ピンポーンパーンポーン…国内放送!国内放送!』

    アルターエゴ『何処か特徴のある声、自称国王代理の声が国中にあるスピーカーから響く』


    モノクマ『オマエラ……回復したよね?治療は済んだよね?』


    モノクマ『ならさ、やっちゃいましょう!いや、殺っちゃいましょう!!仲間を、大切な仲間を殺した憎い希望にオシオキを!!』

    苗木「なっ…!」

    日向「なんだって!?」

    狛枝「……………」

    モノクマ『…というわけで、これから1時間後希望の国へ進軍します!!あっちはトドメをさそうとしてるからねぇ…進軍して迎えうっちゃおうってことだよ!!』


    アルターエゴ『同じ日に…二回の戦争宣言。明らかに常識はずれな発言。……だが、仲間を殺された国民たちを駆り立てるのに十分過ぎる程の発言をモノクマは言った』

    狛枝「……ごめん、ボク少し用があるから一旦ここで」ググッ

    アルターエゴ『その演説を聞いた狛枝は足に力を入れ、そう別れの言葉を告げる』

    苗木「…うん。わかった」

    日向「あとからまた話聞かせろよ」

    狛枝「うん、分かったよ。また後で…いや約束は必要ないね……きっとまた会うことになるよ」

    日向「?どういう──」


    ダッ!!!


    アルターエゴ『日向が言い終わる前に狛枝は激しい音と共に彼らの前から姿を消した』


    ゴゥウウン……


    日向「……あれ?アイツどこに」

    カムクラ(上です)

    日向「上?…………はぁッ?!」

    アルターエゴ『上…つまり天井。そこにはぽっかりと穴が空いており、それは城の上の方まで続いていた』

    苗木「……跳躍した…ってことなのかな…」

    日向「跳躍より、突進の方が近い気がするな…」


    アルターエゴ『そして先程のスピーカーからまた音が響く』


    スピーカー『ガガガ!『うわっ!お前何すんだよ!』「いや、君、誰だよ。これは国王が使うものだから交代だよ」『うわーー!!』』

    苗木「……狛枝君だ…」

    日向「狛枝だな」




    スピーカー『コホンッ……えーっと…聞こえてるかな?…』(ネットリ

    苗木(やっぱりね)

    日向(やっぱりな)

    スピーカー『初めまして……じゃないね、久し振りだね。ボクは狛枝凪斗、この国の国王だよ』

    日向(やっぱり、本当だったのか)

    カムクラ(ええ、それは揺るぎない事実ですよ)


    狛枝『まあ、今言われても分からないよね、存在そのものを封印されてたんだ…思い出すのはまだだよね…』

    アルターエゴ『狛枝は少し悲しそうにそう言ったのち、大きく息を吸い込み…こう言う』


    狛枝『よく聞いてほしい!!希望の国が今日中に攻めてくることは正しいと思う!…けどさ、進軍することには反対なんだよね』

    狛枝『ん?何でかって?相手も待ち伏せしてた場合どうするの?ボクたちの国が勝てるとしたら完璧な奇襲か、完璧な返り討ちしか無いと思うんだよね』


    アルターエゴ『誰に質問されたわけでもないがそんな風におどけたように言う』


    狛枝『そして奇襲は不可能だと考えると、やっぱり最高の準備…つまり魔方陣や詠唱を唱え、待ち構えるのが最善の策だと思うんだ!』



    アルターエゴ『──だから…と狛枝は付けたし、高らかにこう宣言した』



    狛枝『ボクらは彼女らを待ち構える………最終決戦は二時間後……舞台はこの国でだ!!!』




  226. 226 : : 2014/06/04(水) 00:51:31
    アルターエゴ『最終決戦。狛枝はハッキリとそう言った。その言葉の意味するところは、すなわち出し惜しみをしないということ…捨て身の覚悟で、すべてを失っても勝利だけを手に入れようとする強い覚悟の表れ』

    アルターエゴ『…残った国民は少ないが、こうなれば手強い。それに狛枝の実力は完全に未知数である』

    アルターエゴ『苗木は、これから戦う敵の強さを…決意を、しかと受け止めた』

    苗木(狛枝くんの「また会うことになるよ」…こういうことだったんだね。つまり僕は…利用されたってことなのかな。敵の国に)

    アルターエゴ『昔の苗木なら、ここで挫けていた。しかし、今の苗木なら!』

    苗木(でも僕の本当の敵は…自軍にいる。まずは彼女を止めて…そして絶望の国を止めるんだ!!)

    アルターエゴ『1人は完全なる世界を。1人は完全なる勝利を。そして、1人は完全なる平和を…』

    アルターエゴ『…未だかつてない三つどもえの戦争が、その始まりを静かに待っていた…』


    日向(………)

    カムクラ(どうしましたか。まさかこの期に及んで怖じ気づいたなど)

    日向「…そんなんじゃねぇよ……ただ、故郷に帰って来たってのに、いきなり戦争…それも特大のだ」

    カムクラ(………)

    日向「勝つぞ!相手は“英雄”だが、必ず勝つ!」

    カムクラ(…!日向創…)


    日向「…不思議な気持ちだ。体が軽い…今なら空も飛べそうだ」ハハッ

    カムクラ(…そうですか。僕が出る幕はないかもしれないですね)

    日向「何言ってたんだよ!俺は魔法得意じゃないし、お前の方が頭良いから、むしろ俺の出番がないくらいだ!」

    カムクラ(…確かに僕は何でもできる。ですが……)

    日向「…わかってる。お前は自分が作られた意味を知らないんだな。この戦争で、明らかにしよう。そのためには“英雄”…そして松田を殺さないように倒さないといけない。ただ倒すより、よっぽど難しいだろうな」

    カムクラ(…飛車角落ちと言ったところですか。大丈夫。僕達ならできます)

    日向「…僕達、か」

    カムクラ(ええ。僕達は文字通り一心同体です)

    日向「…そうだな…!」

    アルターエゴ『日向は久しぶりの笑顔を自分に向けて、戦争に対する決意を固めた』


    ━━━━━━━━━━


    五月雨「聞いた?聞いた!?また戦争だよ!」

    霧切「…早く苗木くんに連絡をしないと!」

    アルターエゴ『霧切は素早く通信魔法を詠唱した』


    ━━━━━━━━━━


    澪田「…また、戦争っす…」

    セレス「あら、好都合ですわね」

    澪田「え?」

    スパッ

    セレス「…こうやって、私が内部から数を減らせばいいのでしょう?」

    アルターエゴ『澪田の頭が、鮮血をまき散らして、セレスを赤く彩った』
  227. 227 : : 2014/06/05(木) 22:26:49



    澪田「くぅ…う」

    セレス「……服が汚れてしまいましたわ」

    アルターエゴ『不意の一撃をもろに受け、呻き声をあげながら床に這いつくばる澪田を見ながらセレスは煩わしそうにそう呟く』

    澪田「ぅ………」

    セレス「好都合ですわね、殺したつもりがまだ息があって良かった…かもですわね」グッ

    ゴスッ!!

    アルターエゴ『セレスは澪田の髪を掴み、そして持ち上げ腹に蹴りを入れた』

    澪田「ぁッ!」

    アルターエゴ『既に虫の息の澪田に抵抗するすべは無く、蹴られた勢いのまま壁へぶつかり、崩れるようにベッドに倒れ込む』

    セレス「フフフッ…これから何をするかおわかりですか?」

    アルターエゴ『セレスは不適に頬を緩ませながら足を進ませる』

    澪田「さあ……百合百合じゃないんすかねぇ…」

    アルターエゴ『セレスを睨み付けながら、澪田は吐き捨てるように軽口を言う』

    セレス「……拷問…ですわ、ただでさえ情報が少ない中で新手の登場。…私も流石に情報が必要ですわ」ニッコリ

    アルターエゴ『満面の笑みで、それと全く不釣り合いの拷問という発言をするセレス、それに対し澪田は…』

    澪田(あらら…ダメっすね……)ダランッ

    アルターエゴ『壁にもたれかかり、足はベッドへ投げ出され、目はうつろだった…それもそのはず』

    澪田(………………)ダラダラッ

    アルターエゴ『彼女の頭部からは大量の血が流れ出ていた。意識が無くなるのも………そして亡くなるのも時間の問題だろう…』

    澪田(……怖い…怖いよ)

    アルターエゴ『軽口を言おうと、戦争に参加しようと所詮はただの女の子なのだ』

    澪田「怖い………怖い…」

    セレス「……まあ、情報さえいただければ、無駄な殺生は致しませんわ」

    澪田「!……」

    アルターエゴ『甘い言葉…甘い誘惑』

    澪田「………」

    アルターエゴ『澪田は一瞬悩んだ末、細々と口を開く』

    澪田「何で…こんな危険なこと……するんすか?」

    セレス「フフっ…何かを得るにはそれ相当のリスクが必要ですもの」

    澪田「……得る?」

    セレス「私は貴女たちの国を壊滅させ……次期英雄になりますの」ニコッ

    澪田「そんな…肩書きだけに何の意味が…」

    アルターエゴ『手は出せないがせめて口だけでも…と、そんな悪意をもって放った言葉をセレスは気にすることもなくこう続ける』

    セレス「肩書きではありません。…英雄になれば国の中心にあり、全てを見渡せるあの城を手中に納められる………凄いでしょう?」

    澪田「狂ってる…っす………」

    セレス「まあ、どう思うと貴女の勝手なのですが……そろそろ貴女の意識的が持ちそうにないので早々に吐いてもらいますわ」ニコッ

    アルターエゴ『笑顔で、セレスは手にカードを携え近付く…。一方で澪田は』

    澪田「……そんな………皆を踏み台にするなんて………そんなこと……死んでもさせないっす!」カッ!!

    アルターエゴ『目を見開き、そう言う…そしてそのすぐ後に』

    『ッ────────────ッ!!!!!!!!!!』


    アルターエゴ『言葉では表せないような爆音が、澪田を中心に波紋を描くように響く…否、響き続ける!!』

    セレス「くッ!」バッ

    アルターエゴ『セレスは反射的に耳を塞ぐ』

    セレス(この音はいったい……………攻撃魔法…ではありません………ならば何!?)

    ガンガンガンガン!!

    アルターエゴ『空気の振動は窓を激しく揺さぶる、今にも窓枠ごと外れそうな程に』

    澪田「この……魔法が何か知りたいようっすね………」

    セレス(……何を?)

    アルターエゴ『爆音の中で耳を塞いだ状態では上手く聞き取れる筈もないが澪田は続ける』

    澪田「何でもないっす………強いて言うなら危険信号、多分皆……わかってくれる……筈っす」ダラダラ

    アルターエゴ『音、つまり空気の振動、それの影響か澪田から流れる鮮血はなおのこと勢いを増す』

    澪田(最後に………最期に、皆で…一人も欠けてない皆で………お祭り騒ぎしたかった…っす)

    アルターエゴ『そんな最期の言葉を澪田は心の中で呟く……何故なら』

    セレス「……もういい…耳障りですわ」


    アルターエゴ『フワフワと浮遊するカード、そのカードは鋭利な作りのようだった…それが澪田に向けられていた』

    セレス「……また来世でお会いしましょう」

    ヒュオッ!!!

    アルターエゴ『トドメをさすためカードが放たれる……が』

    パリーーーンッ!!!!!

    アルターエゴ『カードが澪田へ届く、それより前に…窓ガラスが割れた』



  228. 228 : : 2014/06/07(土) 01:57:26
    終里「おうっ!無事か澪田!」

    アルターエゴ『割れた窓ガラスから現れたのは…終里!』

    セレス(増援…)

    アルターエゴ『しかし、そのタイミングは、決して劇的なモノではなく』

    ドスッ!

    澪田「グフッ…!」

    アルターエゴ『澪田の中に生まれた一瞬の希望を、死神が切り捨てた』

    セレス「少しの間、暇を潰してくださったあなたに…せめてもの救いとして、このJOKERを送りますわ」

    終里「……てめぇ…!」

    セレス「…タイミングが悪かった、としか言いようがありませんわね。あなたのお友達は死んでしまいました」

    終里「…これは戦争だ。死ぬのは仕方ねぇ。だがな、お前は俺が殺す!!」

    アルターエゴ『四肢を膨張させ、獣の如く牙を剥いてセレスに飛びかかる!』

    セレス「野蛮なのはあまり好きではないですけれど…」ス…

    アルターエゴ『袖口から飛び出した一枚のカードが巨大化し、セレスの身を守る盾として終里の一撃を受け止める』

    キィン!

    アルターエゴ『受け止められた力は行き場を失い、終里の体は空中に放り出される…が、すぐさま体勢を立て直し地上へ。両腕を地面に押しつけ、低い姿勢から威嚇するように声を発した』

    終里「厄介な魔法だな…」

    セレス「あらあら。あなたの魔法は単調な肉体強化ですか」

    終里「うるせぇ!俺は武器なんか使わねぇ…この肉体で十分だ!」

    終里「『無駄な物は要らない』(ハングリー・ビースト)!!」

    アルターエゴ『詠唱を終えると同時に、終里の体に異変が起き始めた』

    ググググ……!!

    セレス(…つくづく野蛮な魔法……)

    終里「ウオオオオオオオ!!!」

    アルターエゴ『発達した牙…見るからに鋭利な爪は、凶暴な野獣を連想させた』

    シュッ!

    アルターエゴ『…そして、隙を見てセレスがカードを飛ばす。終里は見た目通りの動きでそれを簡単にかわした…いや、かわすと言うには速すぎる反応…』

    セレス(四肢を使った素早い動き…人間より遙かに発達した嗅覚、そして勘…。戦闘においてならソレは確かに進化)

    終里「フシュウ…!!」

    セレス「…品のかけらもありませんわね」シュッ

    アルターエゴ『またもカードを…今度は二枚。終里に向けて勢いよく放たれた』

    ヒュゥゥゥウ…!!

    セレス(素早さで勝てないことは承知の上…)

    バッ!

    終里「!」

    アルターエゴ『カードは終里の目前まで迫ったところで、急停止。振り払おうとした右手(前足)が空を斬った。予想からズレた動きに思わず反応が鈍る…その隙に、もう一枚のカードが終里の肩を浅く斬った』

    セレス(さすがに勘がよすぎますわね。首を落とすつもりで放ったのですが)

    アルターエゴ『肩を通過したカードは血に濡れて、終里の背後に回った。一方急停止したカードは再び動き出したところを噛みつかれ、耐久値を越えたからかその場で消滅。鋭い眼光はセレスに向けられる』

    終里「グルァ!!」

  229. 229 : : 2014/06/11(水) 00:49:46




    セレス(しかたないですわ!)バッ

    アルターエゴ『セレスは致命傷を避けるためカードを盾に使う………が』

    終里「ウラァ!!」

    ダンッ!!

    セレス「くっ…」

    アルターエゴ『終里はそれをものともせず突進。セレスは部屋の後方へ吹き飛ばされる』

    セレス「ゴホっ…」ツーッ

    アルターエゴ『そして、セレスの口から血が垂れる』


    セレス(致命傷は…何とか避けましたか………ですが!)

    終里「グラァァ!!」

    アルターエゴ『安堵の息を漏らす暇も無く追撃を…この場合トドメを加えるためにこちらへ突っ込む終里』

    セレス(…………)

    アルターエゴ『一瞬で距離を詰められ、恐らく数秒後には肉片と化してしまうであろうこの状況。その状況でセレスは冷静さを保っていた…そして』

    セレス(…本能のままに動く…まるで獣ですわね…。知性の欠片もありませんわ。だからこそ…厄介!!)ダッ!

    終里「ヅァァ!!」ドゴンッ!!

    アルターエゴ『今回は突進だったため、セレスは横に跳び終里の一撃を避けることに成功した』

    セレス(………)

    アルターエゴ『そしてそれと同時に思考の時間も獲得した』

    セレス(いらないものを捨て、残ったものを底上げにする力…というわけでしょうか………知性を犠牲に力を底上げしている…と)

    アルターエゴ『ついでに私への憎しみも消してくれれば良いのに──そんなことを思いながらセレスは笑う。』

    セレス(しかし…だからこそ…この場を切り抜ける方法を見つけましたわ!!)

    アルターエゴ『切り抜ける方法…それは最低で最悪な行動だった』

    セレス「…ここですわ!!」

    ブンッ!!!


    アルターエゴ『セレスは放る…………カードではなく──』




    アルターエゴ『──澪田の屍を!!!!』


    終里「!?」


    アルターエゴ『理性は捨てても本能は残っていた。知性は捨てられても澪田と言う存在は終里にとって捨てられないものだった。…だから隙ができた』


    セレス「フフっ、チェックメイトですわ」スッ


    アルターエゴ『そして二人の線上に澪田が重なったときセレスは手を前に伸ばし放つ!!』


    セレス「『氷女王の微笑(ハイリターン)』!!」



    終里「グルァ!!」

    アルターエゴ『終里には分かっていた。自身に危険が迫ってることを…澪田ごと自分を冷気を放つカードで貫こうとしてることを』

    アルターエゴ『この状況。無傷で済ますには横に避ければ良い。少ない傷で反撃をするなら澪田の体を盾に使えば良い』

    終里「ヅァッ!」ガシッ!!

    アルターエゴ『…だけど、終里はそれをしなかった…そんなことはしなかった』


    アルターエゴ『終里は澪田を抱きかかえるよに掴む、そして冷気を放つカードを避けようとした………が』


    セレス(遅いですわ…)


    アルターエゴ『そんなこと出来るわけ無かった…こちらへ迫る攻撃に対し前に出て、人一人抱え避けるなんて不可能に等しかった』


    アルターエゴ『カードは終里の左肩に深々と突き刺さる』


    終里「がぁぁッ!」

    アルターエゴ『終里はあまりの痛みにより唸るような叫び声をあげた。………終里がした澪田を庇うと言うのは最悪手だった』

    アルターエゴ『何故なら戦場やコロシアイでは優しさや思いやりなど足枷でしかないからだ。』


    アルターエゴ『ならば何故彼女がそんなことをしたか。…知性がないから?理性がないから?…もちろん違う。きっと終里は知性や理性があろうとも同じ行動を取っていただろう』

    アルターエゴ『口では死ぬのは仕方ないと言っていても…それでも彼女の大切な仲間だったのだから…』

    終里「くっそぉおおお!!!」

    アルターエゴ『あまりの痛みに魔法が解除され、それでも感情のままに飛び付く終里……………だが』


    終里「ん?…あれ…」



    アルターエゴ『そこに、セレスの姿は無かった』



    ーーーーーーーーーー




    【路地裏】

    セレス「はぁ…はぁ、流石敵の本拠地……厄介すぎますわ」

    アルターエゴ『セレスは路地裏に居た。彼女は魔法が被弾するのを確認したあと即座に部屋を飛び出したのだ』

    セレス(確実に捉えたと思いましたが…油断なりませんわね)

    アルターエゴ『何故か……答えは簡単だ。彼女の目的は終里を殺すことではない。戦果をあげ生きて帰還し英雄になることである』

    アルターエゴ『これ以上新手が現れても困るため、彼女は戦略的撤退をしたのだ』

    セレス「少し休みましょうかね……」スッ

    アルターエゴ『そしてある程度離れた所でセレスは血に濡れたドレスが汚れるのも気にせず座り込む…』

    セレス「………………はぁ…」

    アルターエゴ『そして…まるで後悔しているかのように大きなため息をついた』



  230. 230 : : 2014/06/11(水) 21:08:58

    セレス(しかし…主戦力の澪田を退場させたのは、かなり大きいはず…)

    アルターエゴ『戦闘を終えて、なおも体外に放出される鉄分を鬱陶しく思いながら、セレスは辺りを再び見回した』

    セレス(………アウェーと言うのは感覚が働きっぱなし…休む暇くらいくださらない?)

    セレス「…出てきなさい。今出てくればあなたの背後に飛ばした武器で首を跳ねたりはしませんわ」

    「え…ご、ごめん!僕だよ!」

    セレス「………!」

    アルターエゴ『曲がり角の向こうから聞こえたのは聞き慣れた声。セレスは敵地に居ることを忘れて安堵し、さっきとは別のため息を吐くと、』

    セレス「…冗談ですわ。覗きなんていい趣味してますわね」

    アルターエゴ『まるで普通の少女のように、冗談を言ってみせた』

    「っ…ごめんね」

    アルターエゴ『照れ隠しにはにかんだら、セレスは差し出された手に掴まって、立ち上がった』

    苗木「…行こう……」


    ━━━━━━━━━━

    「“英雄”ー!!」

    「パレードは!国民の楽しみです!」

    「開催の合図をー!」

    兵士「“英雄”はお取り込み中だ!」

    アルターエゴ『パレードの時間まであと少しだと言うのに、何の準備も…号令もなく、国民達はただただ困惑していた。目的を失って戸惑い、城門を叩く姿は“英雄”あっての希望の国だと言うことを兵士達に再確認させる。そんな事を知ってか知らずか、その少し上…城の屋根は、沈黙と驚愕に包まれたまま“英雄”を待っていた…』

    松田「………」

    大神「………」

    朝日奈「……………」

    アルターエゴ『沈黙の時間が、ただひたすら流れていく。何も口を開けにくい雰囲気ではない…いや、口は開いている。ぽっかりと、それも全員が。しかしそこから声が出ることはなく、口が閉じられることもない』

    石丸「………」

    アルターエゴ『…そしてようやく、無限に思われた時間に終末が訪れた』

    石丸「………え?」


    アルターエゴ『話は、5分前にさかのぼる』

    ー5分前ー


    松田「ボクシング…限られた空間の中で殴り合い、相手を倒した者が勝つと言う単純明快な競技だな」

    石丸「…それが、どうしたんだ?」

    松田「注目すべきところは、【限られた空間の中での殴り合い】であるということだ」

    石丸「………?」

    松田「いいか…」

    ヒュッ!

    アルターエゴ『言い終わると同時に消え、瞬きした瞬間にはもう存在している…松田の動きをまったく目で追えなかったことに石丸は奥歯を噛みしめる』

    松田「今俺が跡をつけた…この四角形の枠があるな」

    石丸「!」

    アルターエゴ『言われてはっとした。確かに今立っている周りに、自分を中に入れて四角形の枠ができている』

    松田「お前がこれからするべきことを言う。いいか、リングから出ないようにしながら殴ってかわせ。以上だ」

    石丸「な…それだけか!?」

    松田「あぁ。じゃあ始めるぞ」ス…

    アルターエゴ『タン!と地面を蹴ってほんの少しその場で跳ねること二回。両手を胸の前に出して、肘を折って構え、松田は石丸の出方を伺った』

    石丸「…うおお!」

    石丸(わかってる…今僕の目の前で存在感を放っている彼は遙か格上の相手!!)

    アルターエゴ『声に出し、叫んだ闘志と同じように拳をまっすぐ、松田のボディに向かって突き出した』

    松田(おぉ、さっきよりはいいな)タッ

    アルターエゴ『軽いフットワークでかわし、今度は松田が右から攻めた』

    石丸「くっ!」タッ

    アルターエゴ『松田の動きを真似し、かすりこそしたが直撃は避けることに成功』

    松田「いいぞ!このままどんどん速くしていく!」

    シュシュッ!

    石丸(…なんとか見える!これなら受け流すことは可能だ…!)

    松田(…なんて成長速度だ。こいつ…)

    松田(今まで、どれだけ辛い思いを…)

    石丸「! ここだ!」

    松田「!」

    ドガッ!!

    アルターエゴ『…完璧だった』

    ドサッ…

    アルターエゴ『そのアッパーは、完璧に松田の顎を捉え、脳を揺らした。精神集中を使ってないとはいえ、松田が倒れるのも無理はない。いや、倒れなければおかしいほどの…そんな完璧な攻撃だった』

    アルターエゴ『…そして、今に至る』
  231. 231 : : 2014/06/17(火) 20:48:04




    石丸「……え?」

    アルターエゴ『石丸はそれしか言えなかった、自身の頭の処理能力では追い付かない』

    松田「……」

    アルターエゴ『松田夜助…英雄の右腕。実質国の二番目の実力者。それを己の拳一撃で倒してしまった……ノックアウトさせてしまったという異常事態に』

    石丸「ど、どういう…」

    松田「……」

    アルターエゴ『彼は言葉を返さない。もちろん意識を失っているのだから』

    朝日奈「……」

    大神「……」

    戦刃「……」

    アルターエゴ『ジャイアントキリング──本来なら大歓声が上がるのだが、この場合は違った』

    アルターエゴ『石丸には悪いが、蟻が象に勝ったようなものなのだ、驚愕し言葉を失うのは当然である』

    アルターエゴ『ましてや、戦争前に兵士長の意識を刈り取ったのだ…一言で言うなら「まずい」』

    石丸「……だ、大丈夫でしょうか!!!」ダッ

    アルターエゴ『そして、石丸は冷静さを取り戻し松田に駆け寄ろうとする…そこで』

    ヒュゥンッ!!

    空気の…空間の裂けるような音ともに彼女は現れた


    江ノ島「どもどもー!待たせ……って松田くん大丈夫!?」

    アルターエゴ『英雄。やはりそれでも一人の女性なのか、大の字に倒れる松田へ心配そうに声を掛けながら走る』

    江ノ島「……もうっ!松田くんったらしょうがないな!」プンプン

    松田「……」

    江ノ島「~~~」

    アルターエゴ『ぷんぷんしながら、江ノ島は魔術を唱える。すると松田の周りに、温かそうな緑のオーラが集まり松田を包み込む…そして』



    松田「──ってて…」

    アルターエゴ『松田は目を開き立ち上がった』

    石丸「も、申し訳ありませんでした!」ペコッ

    アルターエゴ『そんな松田に向け、石丸は頭を深々と下げながらそう言った』

    松田「気にするな…それより、お前の拳…中々使えるな……期待しているぞ」

    石丸「は、はい!!ありがとうござます!」

    松田「じゃあ、俺も支度を済ませてくるから、お前らは下に降りてろ」

    石丸「了解だ!」

    朝日奈「はい!」


    アルターエゴ『そんな二人と少し離れた所で…』


    大神「……」

    戦刃「どうしたの?」

    大神「フッ…言わずとも気付いておるだろう?」

    戦刃「……まあね。松田くんのことでしょ?」

    大神「ああ、彼奴は気絶などしていなかった…そのうえ…」

    戦刃「殴られた場所に、治癒される前から傷が無かったって言いたいんだよね?」

    大神「ああ。流石だな」

    戦刃「大したことじゃないよ。それにしても…」

    大神「…どうかしたのか?」

    戦刃「盾子ちゃんの治療…羨ましいなぁ」

    大神「…………そうか。」






    ーーーーーーーーー

    【城内】


    江ノ島「まっつだくーん!」

    アルターエゴ『既に準備を整えた筈の英雄。それでも彼女は松田を追い、彼の名前を呼びながら飛び付く』

    スカッ

    松田「いつまでそのキャラでいくつもりだ。気持ち悪いぞ?」

    江ノ島「…ったく、松田くんの考えを一瞬で見抜いて協力してあげたのに、何その態度?」

    松田「別に協力を頼んだ覚えは無いんだけどな」

    江ノ島「素直じゃないの…で?何であんなやられたフリみたいなバカな真似したの?」

    松田「見抜いてねぇじゃねえかブス」

    江ノ島「まぁまぁ、揚げ足取る前に言えよ。英雄特権」ニコッ

    松田「そんなの聞いたことないがな…ま、端的に言えば自信を持たせるためだ。」

    江ノ島「うわっ、やっさしぃー!よっ!優男!!」ドンドコドコドコ

    アルターエゴ『どこから取り出したか分からない小太鼓を鳴らしながら、からかうようにそう言う』

    松田「うるせぇドブス、テメェはさっさと戦刃の治療に行ってこい!!」

    江ノ島「…はいはい、じゃ、また後で」

    シュンッ!!


    松田「…………」



    松田「やれやれだな…」ニッ

    アルターエゴ『そして松田は江ノ島が居なくなるのを確認した後……やれやれと口にしながらも、嬉しそうに微笑んだ』


    ーーーーーーーーー



  232. 232 : : 2014/06/23(月) 20:49:04
    戦刃「っ!」バッ

    大神「?」

    アルターエゴ『何もないその空間に、戦刃が反応した。それを見て、続くように大神も反応するが、状況は把握できていない』

    大神(敵か………?)    

    ブォン………

    アルターエゴ『魔法陣の出現。そしてその魔法陣をくぐり抜けるかのように出現したのは…』

    戦刃「やっぱり!」ダッ!!

    大神「………」

    江ノ島「うわっ!抱きつくな!」バッ!

    戦刃「ねぇ!私のこと見直してくれた!?私もう盾でもいいかr 江ノ島「やかましいっ!」ドカッ!!

    大神(戦刃…キャラが変わったぞ……)

    江ノ島「あー…大神、どう?あんたの方は」

    大神「…別に変わらぬ。我が一族は、ただただその身に強さを宿してきた。魔法を覚える必要などない。いつもと同じ…その拳で未来を切り開くのみよ」

    江ノ島「……そ、まぁあんたは大丈夫か」

    江ノ島(じゃあ、やっぱり心配なのは…)

    アルターエゴ『ちらり、と石丸の方に視線をずらす。正確には、石丸に寄り添うその背中に』

    江ノ島(朝日奈葵…ね)

    <ねぇ~痛いよぉ~

    江ノ島(あ、治療するはずなのに怪我増やしちゃった)テヘペロ


    ━━━━━━━━━━


    【希望の国:城門から少し離れた所】


    「ふんっ。まさか俺に助けを求めるとはな」

    「足手まといにならないようにするよぉ」

    「今の俺、マキシマムかっこいいかも…」

    「その言葉はマキシマムダサいですけどね」

    「はぐぅっ!?」ズサッ

    「……十神くん、行きましょうか」

    十神「…あぁ、行くぞ」

    『十神くん、苗木くんと合流しましたわ』

    十神「了解だ。移動用魔法陣を展開する。魔力を目印にしたい」

    『えぇ、わかりました。すでに数カ所マーク済みですわ』

    十神「……よし、頼むぞ」

    「うん、任せて。これでもエリート学校出てるんだから!」ドヤッ


    ━━━━━━━━━━


    【絶望の国】

    苗木「セレスさん、何してたの?」

    セレス「十神くんと通信魔法を少々」

    苗木「あぁ十神くんと…えぇ!?」

    セレス「どうやら、十神くんの周りに通信魔法のスペシャリストが居るようです。おかげで会話がスムーズでしたわ」

    苗木「…それで、何を話したの?」

    セレス「…ふふふ、こちらから仕掛ける奇襲について…ですわ」

    アルターエゴ『セレスは自らの赤い唇を人差し指の腹でゆっくり撫でながら、妖しく微笑んだ』

  233. 233 : : 2014/06/25(水) 18:28:30

    苗木「そっか、流石セレスさんだね!」

    セレス「フフっよしてください」ニコッ

    苗木「でもさ、君たちは大きな勘違いしているよ」

    セレス「?…何をですの?」

    苗木「………内緒」ニコッ







    グサッ!!!!!!
























    セレス「………え…?」


    アルターエゴ『訳の分からぬ状況に戸惑いセレスはそんな声を漏らした…いや、そんな声しか出せなかった……何故なら』

    セレス「な…………なんで………?」

    アルターエゴ『セレスの胸には苗木の持っていた剣が深々と突きささっていたからである』

    苗木「さあ、なんでだろうね?気分?」スッ


    ブシャァアァアッ!!!


    アルターエゴ『苗木が剣を引く抜くと塞き止められていた大量の鮮血が噴水のように噴き出した!!』

    苗木「いやぁ、良い眺めだね…うぷぷそれにしても苗木君も可哀想だよねぇ、仲間に気付いてもらえないんだからさ!」

    セレス「…まさか……偽者?」

    苗木?「うぷぷ…………バレた?」

    セレス「ええ…いや………何故気づけなかったのでしょうか…」

    アルターエゴ『この苗木は明らかにおかしかった。正しくは、本来の苗木なら取るべき行動をこの苗木は取らなかった…………セレスの返り血に対するリアクションを、彼女自身への…………心配を』

    苗木?「Re.アクションなんて古いからね~そりゃあしないよ」ウププ

    アルターエゴ『そして何故セレスがそんな見え透いたことに気付けなかったか』

    アルターエゴ『…それは皮肉なことにセレス自身弱っていたからである。自らの手で人を殺したのだ……態度に出さないだけで彼女は普通の女の子、マシーンなどでは無く生きた人間………だから、そんな心が疲弊した状況で現れた苗木を疑うことなんて………出来なかった…』

    苗木?「狂気的なものは狂気的なものに消される…まっ、これは当然の結末ってやつだよ」ウププ


    セレス「ワタクシの………野望まで……あと…少し………」


    モノクマ『無理無理、君は何も出来ずにここで死ぬ…』


    セレス「また来世で…………いえ、貴方……とは来世でも………会いたくない……ですわね…」


    モノクマ『うぷぷ…安心して、君に来世なんて無いよ……………………………じゃあ、バイバイ』ブンッ



    ザクッッ!!!



    アルターエゴ『偽苗…もといモノクマの鋭利な爪はセレスに抵抗の間さえ与えず、その命を刈り取った』





    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『英雄が横目で見つめる先に居るのは朝日奈葵。それを彼女は品定めするように見る』


    江ノ島(朝日奈葵…コイツもコイツで力を正しく理解してないだけなんだけどね………………まっ、面倒だから教えないけど)

    アルターエゴ『そんなことを思いながら江ノ島は治癒魔法を展開。緑のオーラが戦刃を包み込む』

    戦刃「治癒魔法…気持ちいい…」ニヘラ

    江ノ島「気持ち悪いのでにやけないでくれませんか?」メガネ

    戦刃「ご、ごめん」

    アルターエゴ『そんな風に彼女らは、治癒の最中で会話を続ける』

    戦刃「ありがとね…盾子ちゃん」

    江ノ島「別にー、役にたつから治してやってるだけなんだけどね。あと英雄ね」

    戦刃「うん。ありがと英雄」

    江ノ島「……………ああ、それと勘違いしないでね」

    戦刃「……何を?」

    江ノ島「アンタは私の盾じゃない…矛だから」

    戦刃「!………うん!」

    アルターエゴ『英雄のその言葉に戦刃は嬉しそうにそう頷き笑った………そして治癒が終わると江ノ島は立ち上がりこう言った』

    江ノ島「そろそろかな………松田くん!」



    シュンッ!

    松田「んだよ、人が準備してる最中に…」

    アルターエゴ『その呼び掛けに答えるようにしてシャツをだらけさした松田が現れる……どうやら言葉通りまだ準備中のようだ』

    江ノ島「そろそろ呼び掛けなきゃ」

    松田「………誰にだ?」

    江ノ島「…この町にいる雑魚どもにだよ」ニコッ


  234. 234 : : 2014/06/25(水) 18:35:57


    松田「はぁ…やっぱりアイツらも連れていくのか」

    アルターエゴ『そんな英雄の言葉を聞き松田は、明らかに嫌そうにため息をついた』

    江ノ島「連れていくって言うか監視下に置くってのかな?」

    松田「………」

    江ノ島「それに、あの希望厨が復活した………つまり、雑魚の手も借りたい状況ってこと」

    松田「……………猫な」

    江ノ島「…シッテタヨ」

    松田「………………そうか」

    江ノ島「……………」

    松田「…………」

    江ノ島「うっせぇーな細かいことは良いから広域通信魔法発動しろ!」

    松田「何も言ってねぇんだけどな、へいへい…」スッ



    アルターエゴ『いやいや手を眼前で合わせ詠唱を唱える……すると無数の魔方陣が江ノ島を包み込みまだ暗くない空に江ノ島の姿を映し出した』


    アルターエゴ『分かりやすく言い表すなら空をスクリーンにつかい、まるで映写機で映し出すかのようだった。そして江ノ島は全国民に向けての放映を口にし始める』





    江ノ島『…あっ、化粧してくれば良かった』

    松田「英雄の第一声がそれかよ…!」

    江ノ島『まあまあ、………ではでは改めて…』コホンッ

    アルターエゴ『こほんッと可愛らしく咳払いしたあと、英雄は溢れんばかりの笑顔でこう言った』




    江ノ島『──希望の国全国民に朗報でーす!!』



    ーーーーーーーーーー


    アルターエゴ『大きな英雄の演説が始まる少し前…』




    ──プツンッ


    十神「……!」

    アルターエゴ『十神は普段しないであろう驚愕の表情を取る』

    桑田「何だよいきなり顔色変えて、もしかして漏らしたとか?」

    花村「え!?何を漏らしたの!?何を!?何を!?」

    舞園「花村君流石にがっつきすぎです…それと桑田君、気持ち悪いです。一回自宅へ帰ってくれませんか?」ニコッ

    桑田「舞園ちゃん!俺にだけあたり強くない!?」

    不二咲「しょうがないよぉ…きっと舞園さんは居なくなった二人のことが心配で…」

    豚神「だな。」

    七海「それで…どうかしたの?」

    十神「セレスとの…通信が途絶えた」

    豚神「ん?先程通信魔法を切ったからではないのか?」

    十神「いや、そうではない。正確にはセレスの魔力が消えたんだ。俺は戦争前セレスとお互いの生存が確認できる魔法を掛け合っていた。それが消えた」

    不二咲「それって…もしかして…」ウルッ

    桑田「…不二咲ちゃん…まだ分かんねぇから最後まで言うな…」

    不二咲「ごめん…」

    舞園「……待ってください!生存確認魔法?それなら苗木君は!?」

    十神「…アイツとは出来なかった…正確にはアイツが出来なかったから出来なかった…だから分からない…」

    花村「とりあえずいち早く乗り込むべきだよ!」

    十神「いや無理だ。チェックポイントの指定が無い。そのうえ、こちらから一方的に道を繋ぐなど不可能だ…」

    桑田「んな!それじゃあ出来ねぇじゃねぇか!奇しゅ──」

    十神「黙れ!」チラッ

    アルターエゴ『桑田の言葉を遮るように十神はどなり、一瞬だけ七海へ向ける』

    七海「………?」

    桑田「…ああ、悪かったよ」

    アルターエゴ『そして桑田は何かに気付いたのか彼らしからぬ返事を返した』

    十神(これは戦争だ…だから仕方がないことだ…)




    ~~~~~回想~~~~~



    アルターエゴ『ある所に二つの国の平和を願う少女がいた』

    アルターエゴ『その少女はなんと希望の国へ教師とたった二人で乗り込んだ』

    アルターエゴ『………が、それは敢えなく失敗に終わる。ウサミと言う名の教師の死によって…』

    アルターエゴ『そして少女は一人の少年と出会った。そしてその少年は今、噂では反逆者とされているらしい…』

    アルターエゴ『少女は、それが自分のせいだと思った。…だから動いた。それも大胆に!』





    七海「お願い…皆を………絶望と希望の国の皆と…苗木君を助けて!!!」



    アルターエゴ『…そして彼女がその言葉を発したのは……対絶望の国のエリートたちが集う学園。つまり国立希望ヶ峰学園だった』




  235. 235 : : 2014/06/26(木) 07:54:27


    ━━━━━━━━━━


    【希望の国:城下街】

    「「…………」」

    アルターエゴ『民衆にとっては、待ちに待った英雄の登場。“英雄”の声に、静かに耳を傾ける国民達は、自然に、完全にコントロールされているのかもしれない』

    江ノ島「今日のパレードはなんと特別企画!“英雄”と愉快な仲間達によるショーを開催しまぁす!!」

    「「ワァァァァァアア!!」」

    「なんだ、“英雄”は考えがあったのか!」

    「意味のない遅れじゃないんだな!」

    江ノ島「えーというわけで!この映像はLIVE中継としてここに残します!最後まで楽しんでいってね!」ウププ

    「「ワァァァァァァアアア!!」」

    松田「…ただの国民には、刺激が強すぎると思うがな」

    戦刃「いいんじゃないかな」ジュンコチャンステキ♪

    石丸(なんて発言だ…今から僕達のすることを流したら、確実に国民全員に強い衝撃が襲うだろう!完膚なきまでに圧勝するつもりか…そんな絶対的な自信に満ちあふれている!)

    江ノ島「じゃ、行くよん」パチン!

    アルターエゴ『ヌルりと出現した魔法陣に、愉快な仲間達は飲み込まれて行った』


    ━━━━━━━━━━


    十神(とは言え、これはとんだ誤算だ。すでに奇襲は失敗。下手すれば、敵国に侵入できないまま、今の通信が仇となって押し負けてしまう可能性すらある…)

    十神「不二咲、ここから絶望の国までの最短ルートを示せ」

    不二咲「! うん!『天空展望台』(ゼウス・ビジョン)!」

    カッ!

    アルターエゴ『天空に現れた眼…ゼウス・アイとは違う色をしたそれが、青白い光で道を作った』

    不二咲「…僕達が最高速度で向かったら、一番早く着くのは十神くんで1時間…かな」

    十神「…上出来だ。このルートで進むぞ」

    アルターエゴ『言い終わると同時に、十神は地を蹴り羽ばたいた』


    ━━━━━━━━━━


    【絶望の国:路地裏】

    モノクマ「お掃除♪お掃除♪半端な希望を♪クリーニンッ♪」ゴシッゴシッ

    モノクマ「あーやっぱり血って中々とれないや…たまげたなぁ…」

    モノクマ「でも大丈夫♪乗り込んでくる希望♪アイツらの血で♪この街もノアの大洪水♪そしたらそしたら♪こんな半端な汚れた血だって♪木を隠すなら森の中♪全然気にならない!HEY!モノクマラップYoチュクチュク」ゴシッゴシッ

    アルターエゴ『陽気なリズムで街の掃除をするモノクマ。そのモノクマを、背後から見つめる男が居た』

    「………」

    アルターエゴ『モノクマは少し前から気づいていたようで、振り返ると、モップを股に挟んでポールダンスを始めた』

    モノクマ「…あら、今お取り込み中なの。また夜に来てくださる?」

    アルターエゴ『冗談の中に敵意を込めて言い放った。しかし、その男は冷静に返す』

    「…気分良く歌っていたところ…悪いが…」

    ダッ!

    モノクマ「!」

    ザシュッ!

    モノクマ「………」

    アルターエゴ『……一気に飛び出し、“一体”のモノクマを沈黙させた』

    「………」

    アルターエゴ『動かないところを見て、振り返るが…』

    「…どこ行くの?」

    「!?」

    モノクマ「君、この国の人間じゃないよね。何しに来たのかわからないけど、僕の目が黒い内は…ザシュッ!!

    モノクマ「………え?」ドサッ

    「……悪いが、急ぎなんでね。一々入国審査を通るわけにはいかない」

    アルターエゴ『そして、再び振り返るが…』

    「「「うっぷっぷっぷっ……」」」

    「!」

    (やれやれ…いち早く会いたいんだがな)

    仁「…まったく、これを連れて行くわけにもいかないしなぁ……」ハア

    アルターエゴ『ため息をつく仁に対し、一斉にモノクマ達が飛びかかる!』

    仁「…『霧が全てを包み込む』(ドミネイト)」
  236. 236 : : 2014/06/29(日) 22:35:12




    ブワッッ!!


    アルターエゴ『仁が魔法を唱えた瞬間辺りは一瞬にして濃霧に包まれる』

    モノクマ『うぷぷ、目眩ましのつもりなのかな?』

    アルターエゴ『それに構わずモノクマは動く。まるで見えてるかのように動き──』

    モノクマ『チェックメイトくまーー!!』ブンッ

    アルターエゴ『──その鉤爪を振るった!!』

    ザクッ!!!

    アルターエゴ『肉の裂ける音が町外れの静けさも相まって響く』

    モノクマ『ふぅ…弱っちいなぁ。もっと期待してたんだけど』

    仁「そうかい」

    モノクマ『!』バッ

    アルターエゴ『モノクマの後ろには仁が居た。肉を裂かれ、無様に地に伏せている筈の仁が立っていた』

    モノクマ『ん?どうして生きてるのくま?』ダッ

    アルターエゴ『モノクマはその体に似合わぬ機敏な動きをし、仁から距離を取る』

    仁「ふっ、簡単なことさ君が壊した物をよく見てごらん」

    モノクマ『くまだからってバカにしてるくま?ボクは確かに…………って、ファザナドゥ!!』

    アルターエゴ『意味の分からない叫び声をあげるモノクマ……だがそれもその筈だった…何故なら…』

    モノクマ『何でボクがやられてるんだよ!!!!』

    アルターエゴ『そう。モノクマが倒した相手はモノクマ自身だったのだ。そしてそんな風に取り乱すモノクマに対して仁は…』

    仁「私の魔法が…かつて希望の国最強と唄われたこの私の使う魔法が…ただの目眩ましだなんて本気で思っていたのかい?」

    アルターエゴ『そんなことを言い放ち、静かに笑った』



    ーーーーーーーーーー


    十神「行くぞ!!」ダッ!!

    七海「うん!」

    桑田「おうよ!」


    舞園「ちょ、ちょっと待ってください!!!」


    十神「……なんだ」

    アルターエゴ『進み始めた足、そして羽ばたき出した翼は舞園の一声によって止められ、それに対し十神は苛立ちながら返事を返す』

    舞園「……」

    十神「早く用件を言え!その時間が無駄になるだろ、大したことじゃないなら移動中に言うんだ」

    舞園「やっぱり…ダメです。」

    十神「……何がだ?」

    舞園「こんなの…いや、このやり方は間違ってます!」

    七海「…どうしたのかな?」

    舞園「七海さん…本当にごめんなさい!」

    十神「!」

    七海「どうして謝るの?」

    アルターエゴ『話が飛躍しすぎてついていけない七海はやや戸惑いながらもおっとりとした口調でそう返す』

    舞園「私は…私たちは七海さんを騙してるんです…」

    七海「…え?」







    アルターエゴ『希望ヶ峰学園にて助けを懇願した彼女』

    アルターエゴ『その場に居た生徒たちは罠ではないかと警戒した……が、舞園さやか。彼女の前では真実は全て見透かされてしまう』

    アルターエゴ『彼女の言うことが罠ではなく本心であることは舞園や他の十神などの生徒にも伝わる、同時に彼女が絶望の国の者であることも…』

    アルターエゴ『だが、彼女に危害を加えられることは無かった……………もちろん利用するために…』


    アルターエゴ『だけど1つ誤算があった。それは何よりも七海が真っ直ぐであることだった』


    アルターエゴ『七海は本心で苗木と二つの国を救おうとしている。なのに自分はそんな彼女を騙して絶望の国も落とそうとしている…』

    アルターエゴ『…そんな罪悪感に負け、舞園は全てを吐露したのであった』







    舞園「ごめんなさい…」

    アルターエゴ『一通り説明したのち彼女はまた謝った。その可愛らしい顔から大粒の涙を流しながら…』

    七海「………」

    桑田「いや、舞園ちゃんだけが謝ることじゃないよ…ごめんな」

    七海「……」

    不二咲「ごめんねぇ……それに舞園さんも…一人で背負わせて…ごめんね」グスッ

    アルターエゴ『そしてそんな湿っぽいムードで花村や豚神も謝罪の言葉を言う。言わないのは十神だけだった』


    七海「謝らなくてもいいよ?」

    舞園「……え?」

    アルターエゴ『暫しの沈黙の後、彼女はそう言った。それに対し舞園は驚きの声を漏らす』

    七海「だって、本来なら騙すのが当たり前でしょ?私たちは敵国何だから」

    舞園「………」

    十神「…………」

    七海「でもさ、君は…舞園さんは話してくれたよね?謝ってくれたよね?……それってさ、私を本当の意味で信じてくれたってことだよね」

    七海「だからね。皆……私のことを信じてくれてありがとう」ニコッ


    アルターエゴ『騙され裏切られても、彼女は…七海千秋は微笑みながら本心でそう言った』



  237. 237 : : 2014/06/29(日) 22:35:51



    アルターエゴ『辺りを包む感動的なムード…それを気にもせず十神は口を開く』

    十神「…っち、貴様のせいで全て台無しだ」

    桑田「あんだコラ噛ませ眼鏡!舞園ちゃんの何が悪いってんだよ!!」

    アルターエゴ『吐き捨てるように言う十神に桑田は掴みかかる』

    十神「これで苗木やセレスを救えなくなり、そのうえこちらの被害がさらに増えることになるかもしれないだろう!」ギロッ

    アルターエゴ『明らかに苛立ちを表情に出しながら十神は言う』

    舞園「もし…」

    十神「もし、何だ」

    舞園「もしも、七海さんを騙して苗木君たちを助けたら…私苗木君に合わす顔が無いです!」

    十神「死んだら、それこそ顔を合わせられなくなるだろう!!」

    アルターエゴ『淑やかな舞園と何時も冷静な十神。その両名が己の主張をぶつけ合う。そしてきっとどちらも間違っていない……だから桑田は十神の襟から手を離し、周りの者たちは黙って二人の討論を聞いていた』


    舞園「もし、…もしも十神君の立場に苗木君が居たらきっとこうするから!」

    十神「黙れ愚民、今苗木は関係無いだろう!」

    舞園「十神君だって本当は分かってるんでしょう!?こんなやり方間違ってるって!!それに本当はしたくないんでしょう!?」

    十神「お前に何が分か───」

    舞園「分かります!!全部聞こえてるんですよっ!!だから言ってるんです!!」

    十神「ッ!!──」

    アルターエゴ『舞園がそう叫び、十神が何か言おうとさたその時!!!』





    江ノ島『…あっ、化粧してくれば良かった』



    アルターエゴ『夜空に英雄の姿が映しだされ…』


    パチンッ!


    アルターエゴ『江ノ島が指を鳴らすと同時に魔方陣が出現し十神たち一人一人囲んだ』

    桑田「ああ!?んだコレ!!」

    不二咲「状況やタイミング、それに僕の魔法で逆算した結果…空間魔法みたいだね。行き先は…絶望の国だよ!」

    豚神「移動の手間が省けたと言うことだな」

    花村「全自動…シティーボーイな僕にうってつけだね!」

    七海「私だけ囲まれてないね…」

    アルターエゴ『言葉通りこの場に居た彼らの中で唯一七海は魔方陣に囲まれていなかった………それもその筈七海千秋は愉快な“仲間”では無いからだ』


    舞園「七海さん!乗って!!」スッ


    アルターエゴ『そんな彼女に舞園は手を伸ばす。それを脇目で見ながら十神は冷静に思考する』


    十神(冷静に考えろ…一番してはいけないのはコイツを一人ここに残すことだ)


    十神(…連れていくかここで殺すか…いや、連れていったところで英雄に殺されるのは目に見えている……ならばこのまま連れていった方が良いのではないか?)


    十神(そうだ。寧ろそれが正しい。俺は焼き殺すことしか出来ないが、きっと英雄なら痛みを与えずに殺せるだろう…………………)


    十神(………………)


    七海『ありがとう』

    苗木『ありがとね』


    十神「!」

    アルターエゴ『一瞬、十神には苗木と七海が重なって見えた……だから!』

    十神「…くそッ!」



    バッ!!



    アルターエゴ『十神は何よりも自身に苛立ちながら言葉を吐き出す。…そうした瞬間、舞園と七海の間を隔てるように炎の壁…正確には翼が現れる』


    七海「え…?」

    舞園「あ!」

    アルターエゴ『七海は訳の分からぬ表情をし、全てを聴きとった舞園は驚きの声を漏らした』

    アルターエゴ『そして、一瞬の間をあけ、状況を悟った七海は…』

    七海「……良いの?」

    アルターエゴ『そんな声を十神に掛けた……それに対し十神は…』

    十神「よく聞け七海千秋」

    七海「…何かな?」

    十神「…この国に傷1つつけてみろ……俺は、必ずお前を殺すぞ」ギロッ

    アルターエゴ『十神は、殺意を込め冷たくそう言い放った。そして当人である七海は…』


    七海「大丈夫…だと思うよ?…直ぐに追いかけるから…待っててね」ニコッ


    アルターエゴ『自身への明確な敵意や殺意を向けられても尚、優しげにまたも微笑んでいた』


    十神「…フン、つくづくアイツに似て……感に障る女だ」ニッ


    フッ シュン!


    アルターエゴ『そんな風に言いながら…十神を含む希望の国の全ての精鋭たちは、希望の国から姿を消した』




  238. 238 : : 2014/06/29(日) 23:33:08



    ━━━━━━━━━━


    【回復魔法について】

    回復魔法は便利な反面、膨大な魔力を消費する魔法である。

    また、回復魔法と言えば聞こえがいいが、結果として体を騙しているためその負担は少なくない。


    江ノ島「あ、着く直前になんだけど。あたしも松田くんももう回復魔法使えないから。それと敵国も相当準備してるはず。みんな固まって一網打尽とか絶望的だから飛ばすところはバラバラだよ!そこんとこヨロシコ」


    ヒューーーーーン……!



    ━━━━━━━━━━


    【絶望の国:城】

    狛枝「……あぁ、この魔力…来たね」

    アルターエゴ『城の窓から、城下街をのぞき込み微笑む狛枝。その傍らに、小さな人影があった』

    「あははっ!お兄ちゃんも見てるかな…!」

    狛枝「ふふ。さぁ、もうすぐフィナーレだ」

    【人類史上最大最悪の絶望的事件】



    ━━━━━━━━━━


    【絶望の国:4番街】

    桑田「って!」ドサッ

    朝日奈「きゃっ!」ドサッ

    桑田「…てて、随分乱暴だな…」

    朝日奈「……って、桑田…」

    桑田「…ん、なんだよ。もうここは敵地だぞ。そんな不満そうな顔すんなよな!」

    朝日奈「………」プイッ

    桑田(おいおいやめてくれ…こんな空気で戦うのかよ!)

    俺ももうガキじゃねぇ…そりゃあの試合は忘れてねぇさ。でもな?これは戦争だぜ?しかも恐らく最後のな。

    …クソッ、こいつとなんて運がねぇ。
    俺は嫌われちまってるし…これじゃあ味方は信用できねぇってことじゃねぇか!

    アルターエゴ『桑田の中に生まれたのは、まず初めての戦争に対する“不安”。そして、一緒に放り出された仲間が朝日奈だったことによる“動揺”。その二つの要素が、お互いを切磋琢磨しあって桑田を困らせた』

    アルターエゴ『…そして、すでにここは敵地』

    ザッ

    アルターエゴ『敵と遭遇することなど、至極当然』

    五月雨「はぁ…ハードスケジュールすぎるよ、霧切ちゃん…」

    ま、君のためならエンヤコラサ、てね。


    桑田「………!」

    朝日奈「…私がやる……やらなきゃ!」



    ━━━━━━━━━━


    【絶望の国:中央広場】

    十神「………」

    十神(俺一人…か)

    苗木「……!十神くん!」

    十神「!? 苗木!!」ダッ

    十神「よかった、無事だったか…」ホッ

    苗木「十神くん、時間がないからよく聞いてほしい。“英雄”を止めなきゃいけないんだ!」

    十神「…“英雄”を?」

    苗木「うん!彼女は シュッ

    十神「!」

    アルターエゴ『苗木の前を、見えない刃が通過した』

    「…“英雄”の悪口?」

    十神(──ッ!よりにもよって、こいつが…)

    「何それ。止める?」

    戦刃「………本気で言ってるの?」

    苗木「戦刃……さん」

    戦刃「あぁ、本当だったんだ。苗木くんは反逆者だって松田くんが教えてくれたもん」

    戦刃「………反逆者は見つけ次第消すのが決まり。悪いね苗木くん」

    アルターエゴ『喋りながらでも、明確な殺意を具現化したようなサバイバルナイフを握りながら、ゆっくりと苗木達に近づく』

    苗木(やばい…戦刃さん、本気だ…)

    十神「…待て。戦刃…」

    戦刃「…?何?十神くん、反逆者の味方するの」

    十神「…お前は冷静じゃない。落ち着くんだ」

    戦刃「落ち着いてるよ。清々しい程ね」

    十神「違う…お前は」

    戦刃「あぁ…もういいよ。十神くんも反逆者だ」

    苗木「! そんな!」

    十神「苗木、俺がこいつを止める」ボソッ

    苗木「!」

    十神「俺以外にも、ここに来てる奴は多い。そいつらに掛け合うんだ」

    苗木「でも、十神くんが…」

    十神「大丈夫だ。俺は勝つことを約束されている。だから行けっ!」

    苗木「……必ず戻るからっ!」ダッ!!

    戦刃「…まる聞こえだよ。行かせると思ってん…のッ!」グァッ!!

    苗木(! 風の刃によるバリケード…!)

    十神「思ってるさ」ブォッ!!

    戦刃「!」

    アルターエゴ『十神が背中の翼を広げ、大きく羽ばたかせることで新たな風を生み、バリケードを吹き飛ばした!』

    苗木「ありがとうっ!」ダッ!!

    戦刃「………」

    十神「…戦刃、俺はお前と争うつもりなど 戦刃「うるさい」

    戦刃「………必ず殺すから。君も苗木くんも…」

    十神(……愚かだ。敵国で仲間割れなど…!)




  239. 239 : : 2014/06/30(月) 23:13:36


    戦刃「死んで!」ブンッ!

    アルターエゴ『戦刃はそう言いながらナイフを放る……が、そのナイフはあらぬ方向へと飛んでいく』

    十神「……何のつもりだ?」

    戦刃「…少しすれば分かるよ」


    キィンッ!!


    アルターエゴ『戦刃がそう言い終わる瞬間。背後で金属音が響く……そして』



    ジェノ「あっぶねぇーな!死んだらどうすんだ!殺すぞ!!」ゲラゲラ

    十神「!……いつの間に!」

    ジェノ「あぁら久し振りダーリン!」ウットリ

    十神「誰が貴様のダーリンだ」

    ジェノ「私とダーリンは運命の赤い糸で繋がれてるのかな」ゲラゲラ

    戦刃「……私のこと忘れてない?」

    ジェノ「あ?そういえば居たな、つぅーか、何で気付いた?気配は消してた筈なんだけどー」

    戦刃「気配は消せても…殺気は消せてなかったよ」

    ジェノ「マジ?…まぁでもダーリンとまこちんが居たんだし、そりゃあ殺気だつわ」ゲラゲラ

    戦刃「…十神君…行って」

    十神「……どういうことだ」

    戦刃「コイツは私一人で大丈夫だから行って…十神君は苗木君みたいにお人好しじゃないから分かるでしょ」

    十神「!……まさか、さっきまでのは…」

    戦刃「敵を騙すにはまず味方から…てね」

    十神「……死ぬなよ」ダッ!!

    戦刃「もちろん」


    アルターエゴ『激励の言葉をかけ十神は走り出した』


    ジェノ「………」

    戦刃「……あれ、追わないの?」

    アルターエゴ『その場で立ち止まったままの彼女へ戦刃は不思議そうにそう訪ねる』

    ジェノ「あぁん当然だろ、逆に自分の周りにガチガチにトラップの魔法式展開しておいてよく言えるわ」

    戦刃「…ふふ」

    ジェノ「何笑ってんの?発情期?」

    アルターエゴ『戦刃は静かに笑う…ジェノサイダー翔という獲物をその目に捉えながら』

    戦刃「当たり前…だってこれは戦争だよ?……久し振りだけどやっぱり楽しいな」ニヤッ

    ジェノ「!」ゾクッ

    ジェノ「……へぇ…良い殺気してんじゃん」シャキン!!

    アルターエゴ『ジェノは一瞬身震いしたものの、それと同等の殺意を向け、既に用意してある武器…鋏を取り出した』


    戦刃「死んでも文句は言わないでね?」シュンッ!

    ジェノ「死んだら喋れねっつーの!!」シュンッ!


    キィンッ!!

    キィンッ!!


    アルターエゴ『こうして最強の軍人と言われる戦刃と、最恐と呼ばれる殺人鬼の…………殺人のプロ通しのコロシアイが始まった…』



    ーーーーーーーーーー


    「私も戦場へ行く!お兄ちゃんを殺した希望の国を必ず滅ぼす!」

    狛枝「…いや、英雄はやめといた方が良いよ」

    「何で?」

    狛枝「君たちに死んでほしくないんだ…それに…メインディッシュは最後にとっとかないと」

    「……それも…そうかもね。じゃあ行ってくるよ」シュンッ

    狛枝「いってらっしゃい………………九頭竜さん」ニッコリ



    ーーーーーーーーーー



    【希望の国:住宅街】



    こまる「……」


    こまる(私にはお兄ちゃんはいませんがお兄ちゃんはいます)


    こまる(意味が分からない?……えっと、兄のように慕うお兄ちゃんがいます!)


    こまる(現在…正確には戦争に行って以来帰ってこず、いまでは反逆者の噂がたっている……彼です)


    こまる「……何で…戦争なんてするのかな」


    アルターエゴ『こまるはそんなことを呟きながら、空に浮かぶ映像に目を向けていた』


    こまる「小泉先輩や西園寺先輩、それに左右田先輩まで犠牲になって…日向先輩は行方不明…」

    こまる(何で人が人を傷付けないといけないの?)


    アルターエゴ『一人で自問自答しても答えは出るはずもなく。何が起こるでもなく…ただただ、時間だけが過ぎていく…………………………何てことはなかった』



    ドゴォオオオオオオン!!!!!



    こまる「え?」

    アルターエゴ『激しい音とともに町の中心。英雄の城から大量の煙が上がる』

    こまる「……何あれ…」

    アルターエゴ『その煙が晴れる時こまるは見た…数キロ離れている筈なのにその存在をはっきりと視認できた…──』


    斑井「アイツらが死んだこともあって完全復活だ!!…英雄の提案に乗る訳じゃあねぇが、手始めにこの国をぶっ壊す!!!!!」


    アルターエゴ『──かつて国に侵入し、その身柄を捕らえられた筈の少年斑井一式を…』

    アルターエゴ『…いや、既に彼は人の形をしていなかった…例えるなら』


    こまる「蛇の…化け物…」


    アルターエゴ『そう、八つの頭を携えた人ならざる生命体………八岐大蛇〈ヤマタノオロチ〉』




  240. 240 : : 2014/07/01(火) 00:40:59
    アルターエゴ『逃げまどう民衆』

    「ワァーーー!!」

    「ギャーーーー!!」

    アルターエゴ『戦わない民衆』

    「……………」

    「おい!城の兵士は何やってんだ!」

    「城なんかとっくに崩れたよ!」

    斑井「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

    アルターエゴ『咆哮。その衝撃で城の瓦礫が飛び散り、城下街を火の海に変えた』

    こまる「…………化け物………」

    アルターエゴ『平和な国は、墜ちた。次々と消えていく魂の声に、こまるは思わず耳を塞いでしゃがみ込んだ。小さい時、お化けが出たと思ったら、そうしていたように』

    アルターエゴ『こうすれは、こまるの世界は外とシャットアウトされる。外とは別の時間が流れる』


    「~~!」

    「~~~~~」

    「~~~!!」

    ~~~~~~~~!!

    ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


    …………………………………


    アルターエゴ『どれだけの時間が過ぎただろう。10秒にも満たない閉ざされた時間は、肩に人の温もりを感じたのと同時に、綺麗さっぱり崩壊した』


    こまる「…………誰?」

    七海「君の味方だよ。…一緒にあの化け物、倒そ?」

    こまる「…」

    アルターエゴ『こまるは無言で立ち上がり、頷いた。七海は微笑んで返す』

    アルターエゴ『そして2人は、城を玉座に見立て君臨するその化け物を、覚悟によってにらみつけた』

    こまる(…お兄ちゃん、私、もう逃げない!がんばるから!)

    アルターエゴ『こまるの中に巡る魔力が、活性化する!』

    七海「いくよ。〈ヤマタノオロチ〉一頭の討伐」

    斑井「ウォォオオオオオオオオオオオオオ!!!」

    アルターエゴ『再び咆哮。すでにほとんどの瓦礫は雨として降り注いだため、衝撃波と轟音のみが響きわたった。それを皮切りに、七海が魔法を詠唱する!』

    七海「『胡蝶の正夢』(ドリーマーズ・ハイ)!!」パンッ!!

    アルターエゴ『魔法によって出現したのは、魔力で具現化した蝶だった』

    こまる「何をするの?」

    アルターエゴ『言いながらも、七海はノーアクションだった』

    こまる「ねぇ!」

    七海「この魔法は、唱えてから効果発動まで時間がかかるの!でも効果が発動したら絶対勝てるから!それまであいつを止めるの!」

    こまる「…わかったよ!お姉さん!」

    アルターエゴ『こまるもまた、魔力を表にした!』

    こまる「もう城も街も崩れちゃったけど…これ以上、アンタの好きにはさせないから!!」
  241. 241 : : 2014/07/03(木) 20:37:11
    劇のレベルじゃないな 期待
  242. 242 : : 2014/07/04(金) 11:19:29
    これがリレーとかクオリティ高すぎと思った今日この頃。

    期待です♪
  243. 243 : : 2014/07/04(金) 23:42:08
    >>241
    >>242

    そう言って貰えて凄く嬉しいです!
    励みになります!
  244. 244 : : 2014/07/04(金) 23:47:00



    斑井「おいおい…化け物とはひでぇ言い草だなァ七海」

    アルターエゴ『数キロ離れ、声など普通は届かないのに斑井は名指しでそう言った』

    七海「!…何で私の名前を?」

    斑井「あぁン?元クラスメイトの名前を忘れたのか?俺は斑井一式だよ」

    七海「!!…嘘…」

    斑井「まあ、この姿だから分かんねぇかもしれねぇがよ」

    斑井「それで?お前に俺を殺せるのか?クラスメイトだからとかじゃねえ…実力的にだ!サシですら敵わないお前がよ!」

    七海「…無理だよ」

    こまる「え?」

    七海「クラスメイトだし…殺せないよ…」

    斑井「ククク…、相変わらずの甘ちゃんだなぁ!!」

    斑井「そんなんで───七海「だからね…」

    アルターエゴ『七海は斑井の言葉を遮り、こう続けた』

    七海「…だから……倒すんだよ!殺すんじゃなくて…倒すの!」

    斑井「ああ?…本気で言ってるのか?今の俺なら英雄にも匹敵するレベルだぜ?」

    七海「それでも!」

    斑井「それに俺はお前の魔法を知っている…お前じゃ俺には勝てない。まして日向が居ないお前なんて全く脅威にならねぇよ!」

    こまる「わ、私だっている!」

    アルターエゴ『日向という見知った名前を聞いたこともあってか、こまるは二人の会話に割って入る』

    斑井「…ああ、忘れてた…希望ヶ峰学園に入れなかったおちこぼれさん…俺の好きにはさせないんだったよな?」ニヤッ

    アルターエゴ『それに対し斑井は八つの顔でこまるを睨みながら笑う』

    こまる「…!」ビクッ

    斑井「ほらビビっちゃって…へへっ喰っちまいてぇな」ペロリッ

    アルターエゴ『そう言いながら舌舐めずりをする斑井…今の彼ならこまるのような華奢な女の子など軽く一飲み出来そうであった』

    こまる(……怖い…)

    アルターエゴ『それが彼女の素直な感想。…そして彼女の体はガクガクと震え今にも倒れ込みそうになる』

    こまる(怖いよぉ…)ガクガク



    こまる(…助けてよぉ……お兄ちゃん)





    ~~~~~回想~~~~~


    アルターエゴ『これは苗木が希望ヶ峰に入って幾分もたっておらず、まだ彼が英雄と修行する前の話だ』







    こまる「ふんふ~ん♪」

    アルターエゴ『鼻唄まじりで登校する彼女。名前はお分かりの通りこまる』


    アルターエゴ『そんな彼女が向かう場所は魔法が使えるも希望ヶ峰学園に選ばれなかった者達が集う学園。通称予備学科』

    アルターエゴ『そんな学園に通う彼女らは才能を持った凡人。…落ちこぼれという人もいる……そんな中でも彼女達は…特に彼女は真っ直ぐに生きていた』

    「おはようこまるちゃん。気を付けてね」

    「おうよ、こまるっち。気を付けてな!」

    こまる「ありがとう八百屋のおばちゃん!魚屋のおじちゃん!」

    アルターエゴ『だからこそ、町の人達は温かい声で彼女にそう言う』


    ??「……」


    アルターエゴ『そんな彼女を路地裏から町の人達とは対照的な目で見る影があった……それはまるで獲物を狙う狩人のような目だった…』




  245. 245 : : 2014/07/06(日) 20:34:07
    こまる「!」サッ

    シーン…

    こまる(? おかしいな…誰かに見られてるような気がしたんだけど)

    アルターエゴ『あやふやな不安を振り向きで誤魔化して、こまるはひとまずその場を去った』

    「…………」


    ━━━━━━━━━━


    こまる(…わかった…あの時と同じなんだ……)

    こまる(あの時感じた…嫌な視線…)

    こまる(蛇に睨まれた蛙って言葉の意味を、体感させられる…)

    斑井「ハハハハ!足が震えているなぁ落ちこぼれ。そんなんじゃこの国はおろか…自分の身も守れな ドォーーン!!

    こまる「! お姉さん!」

    アルターエゴ『七海の手のひらから放たれた光線は、着弾を確認すると白い余韻を残しながら消えていった。斑井の顔に煙が被さる』

    シュゥゥウ…

    七海「…それは違う…と思うよ?」

    こまる「!」

    七海「こまるちゃんは落ちこぼれなんかじゃないし、私も、負けない。あなたと居た頃が…私の全てじゃない!」

    斑井「…ククク、このレーザーは、お前の得意な魔法だったな」

    こまる「…!無傷!?」

    斑井「確かに日向のサポートとしては最適な魔法だが…単体じゃちと威力が足りんな。一般の兵士を倒すのがやっとな威力だろう」

    七海「………」

    こまる(…お姉さん………)

    斑井「今の俺は機嫌がいい。最高の力を手にしてみて、わかる。俺は最強だ。絶望の国が手こずっていた希望の国ですらこのありさま…これが頂点のみに見ることが許された景色」

    七海「…あなたは頂点なんかじゃないよ、斑井くん」

    斑井「あまり俺を怒らせるな。その気になればお前らも…すぐに景色の一部だ」

    こまる「…………お姉さん」

    七海「!」

    アルターエゴ『斑模様の巨大な尻尾が、七海の居る周辺に影を作り出したことに気づいた』

    七海「危ない!」バッ!!

    ドシィーーーーン!!

    七海「はぁ…はぁ…」

    アルターエゴ『回避の姿勢から起きあがる七海。しかし、七海の目の前には黒のカーテン』

    七海「…」ゾクッ

    アルターエゴ『そのカーテンが、ギョロりと動いた時、それは斑井の不潔な長髪だと言うことに気づく』

    七海「斑井くん…」

    斑井「ほらよ。間近で見る化け物の姿はどうだ?」

    七海「最悪、だよ」キュゥゥ…!

    アルターエゴ『強い眼差しで、集めた魔力を光に変えて、今度はゼロ距離で放つ!』

    ドォォォーーーーン!!

    七海「………(これならどう…)」

    七海「………!」

    アルターエゴ『そして、再び視界は黒いカーテンに包まれる』

    斑井「少しは成長したか」

    斑井「だがまるで威力不足だ」

    斑井「やはりゼロ距離だと威力は違うな。しとめられない時点で使えた技ではないが」

    アルターエゴ『八方向から話しかける斑井。七海の戦意は、目に見えて喪失しかけていた』

    七海「そんな…もう…」

    こまる「お姉さん!」

    七海「!」

    斑井「あん?」ギョロ

    こまる「ッ!」ビクッ

    こまる(…大丈夫!)

    こまる「…私、臆病だったね…!何言われても言い返せないで、お姉さんばっかり戦って、怖い思いして…」

    こまる「私が…今度は私が!お姉さんを救ってあげる!」

    私の震えは、もう止まっていた。
  246. 246 : : 2014/07/10(木) 20:54:38


    こまる(いつも…守られて…助けてもらってばっかりの私だって…今こそは!)

    アルターエゴ『そんな決意を胸にこまるは腰にぶら下げてあった拡声器を手に取る』

    斑井「おいおい…そんな玩具で俺に歯向かおうってのか?」

    こまる「そうだよ」

    斑井「はぁ、恐怖で頭おかしくなっちまったのかよ…」

    こまる「それは違うよ」

    斑井「まさかお前、俺との力の差に気付いて無いのか?」

    こまる「……ううん…分かってるよそれくらい…」

    こまる(圧倒的に私が弱いってことくらい)

    斑井「じゃあ何で逃げない?今も無様に我先にと逃げ出す民衆のように」

    こまる「…弱いからって…力の差があるからって…逃げる理由にならないから…!」

    斑井「………あァ?」

    こまる「私しかあなたを止められる人が居ないなら……私が逃げちゃダメだから!!」

    アルターエゴ『こまるは自身に言い聞かせるように…そして同時に奮い立たせるようにこう続けた──』



    こまる「今度は私が皆を……そしてお兄ちゃんの帰ってくる場所を守る番だから!!」スッ



    アルターエゴ『──拡声器を構えそして放つ!!!』



    こまる「踊れェエエ!!!」




  247. 247 : : 2014/07/10(木) 21:01:19


    ~~~~~~~~~~
    ~~~~~~~~~~



    アルターエゴ『話はまた遡る』


    アルターエゴ『こまるは魔法の中でもかなり希少とされる干渉系の魔法使いである………が、当然使いこなせる訳もない』


    絶望の兵士1「……………彼女だ」

    絶望の兵士2「んじゃあ、サクッとラチりますか……それにしても中々良い顔してんなァ」


    アルターエゴ『だが、そんなこまるを誘拐し利用しようと目論む人間が過去に居た………それは絶望の国の人間であった…』



    絶望の兵士1「…世にも珍しい干渉系の魔法使いだ…失敗するなよ」

    絶望の兵士2「今は戦争中。英雄は外だぜ?」

    絶望の兵士1「それでもだ…我々が何のために今まで潜伏してきたと思っている…」

    絶望の兵士2「……へいへい」


    シュンッ!!


    アルターエゴ『風に交わるようにして絶望の兵士が姿を消す。……そして』

    こまる「……うーん、遅刻しないかなぁ…」タッタッタ


    シュンッ!


    絶望の兵士2「やあ、久しぶり」

    アルターエゴ『一瞬にしてこまるの前に立ち塞がる』

    こまる「お、おはようございます……ど、どちらさまですっけ」

    絶望の兵士2「いや、初対面だよ」

    こまる「あ、そうなんですか…それじゃあ私急いでるので」タッ

    絶望の兵士2「…させねェよ」ガシッ

    こまる「!」

    アルターエゴ『男はこまるの歩み出した足を止めるように靴を強く踏みしめ腕を強く握り締める』

    こまる「な、何するんですか!こんなことしたら兵士たちから…!」

    絶望の兵士2「いやいや来ない来ない、来ても残ってる雑魚じゃア俺には勝てない………何てったって俺、絶望の方じゃ結構顔知られてるからなァ」

    こまる「え…?」サァー

    アルターエゴ『こまるは男の言葉の真意を汲み取るとそんな声を漏らし顔は見てとれるように青ざめる』

    絶望の兵士2「じゃあ、行きますか」

    こまる「ど、どこに…?」

    絶望の兵士2「俺らの国に…だ」


    こまる(…俺らの国…つまり絶望の国!!)


    こまる「そ、そんな…私大した魔法使えないし…オモチャのロボットだってろくに…」

    絶望の兵士2「ああ、安心しな…俺がしっかりと躾てやるから」ニタァ

    アルターエゴ『違う意図があるんじゃないかと思うほど、絶望の兵士は嫌な笑みをした…そしてそんな邪な考えをこまるは敏感に感じとる』

    こまる「…嫌だ……そんなの嫌だ!誰か助けて!!」

    アルターエゴ『こまるはその目に涙を浮かべながら叫び辺りを見渡す…確かに人は居た…居たが彼らはあまりの恐怖にその場に立ち尽くし動けずに居た』

    こまる「そんな…」

    絶望の兵士2「それじゃあ、一時間ちょいかかるしそろそろ頃合いか」

    こまる「嫌………嫌ぁあ!!!」

    絶望の兵士2「叫んでも無ー駄、誰も助けてくんねェんだからなァ!!」ニタァ

    こまる「そんな!嫌だよ!誰か──!」







    シュンっ!!!


    アルターエゴ『助けを求める声に答えなど帰ってこず。こまるの泣き叫ぶ声とともに、絶望の兵士は民衆の前から姿を消した』




    …………………………
    …………………………
    …………………………





    アルターエゴ『棒日棒刻』



    苗木「修行…上手くいかないなぁ」タッタッタ

    アルターエゴ『苗木はそんな弱音を吐きながら、鍛えた脚力で屋根の上を飛び越えながら走っていた』

    苗木「あ…でも、今回は遅刻じゃないかも」ダッ!

    アルターエゴ『時刻を知らせる鐘の音が未だ鳴っていないことに希望を持ってその時…』


    「誰か──!!」


    苗木「!!…」

    アルターエゴ『苗木は、決して遠く無い場所で誰かが助けを求める声を聞いた…』



  248. 248 : : 2014/07/11(金) 17:53:03
    苗木(声が聞こえたのはこっち!!)ダッ!!

    アルターエゴ『苗木は遅刻のことも忘れ、学校ではなく声のする方へ足先を向けた』

    ━━━━━━━━━━

    【希望の国:某所】


    苗木「たしかこの辺だったはず…」

    アルターエゴ『辺りを見回すが、どうやらここは袋小路のようで、行く手を阻む壁が苗木の進路を絶った』

    苗木(………)

    苗木「…行き止まり、か…」

    苗木「おかしい…たしかにここから聞こえてきたはずなんだけど…」

    苗木「………」

    苗木「クソッ!」

    アルターエゴ『悲鳴を聞きながらも助けられなかった。そんな歯がゆい思いを拳に乗せ壁を叩いた!』

    ドン!

    「うわぁあ!」ガラガラッ!!

    苗木「!」

    アルターエゴ『すると、叩かれて飛び散ったのは煉瓦ではなく…人だった』

    苗木「しかも…魚屋のおじさん!」

    魚屋のおじさん「応ッ…誠くんか」

    苗木「どうしたんですか!」

    魚屋のおじさん「わからない…いきなり目の前に人が現れて、気がついたら壁に…」

    苗木(壁…)

    アルターエゴ『ともかく、前に進む道は開けた。苗木は再び勢いよく地を蹴った』

    ダッ!

    アルターエゴ『その時だった』

    キーン コーン カーン コーン…!

    苗木「あっ。。。」

    アルターエゴ『苗木誠の…記念すべき100回目の遅刻を祝う鐘が鳴った…』


    ━━━━━━━━━━


    絶望の兵士1「相変わらず便利な魔法だな…特にこういう時は…」

    絶望の兵士2「へへっ、ここはもうお前の知る国じゃないぜ追ってクン」

    アルターエゴ『触れた人を壁に変える魔法…『建築のすゝめ』(エキサイト・ジャマー)』

    ━━━━━━━━━━
  249. 249 : : 2014/07/18(金) 23:10:57


    苗木(!!…また仁先生に怒られ………いや、いまはそんなこと考えてる場合じゃないよな)

    アルターエゴ『苗木は自らの首を横に振り、走りながらも思考をリセットし冷静に考える』

    苗木(町の人への明らかに度を越えた魔法…もしかして絶望の国の仕業か?……それなら先程の女の子の悲鳴は…)

    アルターエゴ『……のだが、冷静になったのもつかの間またも苗木の心は強くざわめく。恐怖に…そして何より怒りに』

    苗木「くそっ!!」ダッ


    ……
    ………
    …………


    苗木「はぁ…はぁ」

    アルターエゴ『ものの数分であるが苗木は全力で走り続けた。見えない敵を追いかけ、本来あるべきではない壁に阻まれながらも…』

    苗木(どうする?このままだときっとこの国から逃げられてしまう…そうしたら…)

    アルターエゴ『嫌な考えばかりが脳裏によぎる』

    苗木「あれ…そういえば」

    アルターエゴ『その時苗木はふとあることを思い付く。正確にはある疑問に辿り着く』


    苗木「…何で…僕は壁の違和感に気付けないのだろう」


    アルターエゴ『本来あるべきではない場所に壁がある。いくら見知ってない場所とはいえ普通なら気付くはずだ』


    苗木(それなのに何でこの付近の住人は壁の異質に気付いていない?……まるで、以前からそこにあったかのように……いや違う)


    アルターエゴ『そして自問自答の末、苗木はこの魔法の答えに行き着く』


    苗木(“以前からそこに居たように”だ……まるで壁にされている町の人たちのように…!!)



    アルターエゴ『が、行き着いた所で何か変わるわけでもなかった…所詮通信魔法すら使えない素人なのだから』

    苗木「……」ダッ!

    アルターエゴ『それでも彼の顔は絶望に眩まず、また前へ足を踏み出した。姿も見えない少女のために…』



    ────────

    【???】

    絶望の兵士2「ふう…ちッと休むか」

    絶望の兵士1「……もう疲れたのか?」

    絶望の兵士2「るせェな!人一人抱えて魔法使い続ければ消耗するだろうが、それに…念のために魔力は残しとかないとな…」

    絶望の兵士1「念のため…か、そんなことあるのか?」

    絶望の兵士2「無いとは言いきれねぇだろ……テメェもさっき言ってただろ、失敗できないってな」

    絶望の兵士1「……そうだな」


    ────────



  250. 250 : : 2014/07/19(土) 00:15:24
    苗木「っつ!」

    アルターエゴ『苗木の苛立ちは「舌打ち」という形を持って具現化した。額から顎にかけて走る一粒の汗は、「焦り」の具現化だろうか』

    アルターエゴ『さっきから進んでは阻まれ、ターン、ダッシュ、カーブ、ターン、ダッシュ、ダッシュ、またターンの繰り返し。苗木がストレスを感じないわけがなかった』

    苗木(かたっぱしから壁を壊す?屋根を通っていく?無駄無駄、さっきから空が見えない。僕はとっくに何かの魔法にハマっているらしい)

    アルターエゴ『自分を覆う、三次元の巨大な迷路。この時あまり実戦経験のない苗木は、常に魔力がダダ漏れの状態(もちろん学校では、必要な時以外魔力は秘めておくように教わる)で迷路を探索し続けていた。その結果、体力の消耗は通常以上に激しく、苗木はすでに息を切らせていた』

    苗木(どうにかしないと…)

    アルターエゴ『その時だった』

    (………聞こえますか?)

    苗木「!」

    (お願いします!助けてください!)

    アルターエゴ『直接脳内に響きわたった声。しかし、これは通信魔法の類でないことがすぐにわかった。となれば、これは…?』

    苗木(この感覚…今までに経験したことがないけれど…)

    (お願いします!私、まだ死にたくない……)

    アルターエゴ『不純物のない心の声。これが彼女の血に流れる干渉系の魔法なのだろうか』

    苗木(………)

    アルターエゴ『しかし苗木は確信する。この声が自分だけにしか聞こえていないこと。自分に助けを求めていること!』

    苗木「………」カッ!!

    アルターエゴ『苗木の目が…変わった』



    ━━━━━━━━━━


    絶望の兵士2「…そろそろ行くか。魔力も保つだろう」

    絶望の兵士1「おう…」

    こまる「んー!んー!!」バタバタ

    絶望の兵士2「ちっ、もう少し待てよ。たんと可愛がってやるから………」

    アルターエゴ『下衆な表情が、ある一点を見つめながら、徐々にアニメのように青く変化していく』

    絶望の兵士1「おい…どうした?」

    アルターエゴ『視線を追って、気づく。その先は…絶望の兵士1が魔法により具現化したキューブ!』

    アルターエゴ『キューブは光を放っていた。それはだんだんと輝きを増し、やがてその輝きに耐えられなくなったかのようにキューブは消滅した』

    絶望の兵士1「バカな…俺達の魔法が?」

    絶望の兵士2「そんな…ありえない!」

    アルターエゴ『絶望の兵士1の魔法『手の平の仮想世界』(インスタント・マンション)は、触れた者を自らが作り出した何もない空間に閉じこめることが可能である。しかしもちろん条件はあり、使用中は常に魔力を消費し、さらに触れた時点での魔力が絶望の兵士1以下の相手にしか効果はない。この魔法と絶望の兵士2の魔法を合わせることで、巨大な迷路を作り上げていたのだ!』

    シュゥゥウウウ……

    アルターエゴ『キューブからは、魔法を受けた人物が次々と飛び出して来た。壁にされていた人達は意識を失っているようだが、唯一意識のある男が、かろやかに地に降りた』

    苗木「………」

    絶望の国1「……!」

    アルターエゴ『閉じこめた時とは明らかに違う、魔力。背中が固まった。蛇に睨まれた蛙の心境を理解した時、とっさに兵士の血が出した警告によって、彼らは気がついたら手ぶらのまま逃走していた』

    苗木「……ふぅ………」

    こまる「んー!」

    苗木「! もう大丈夫だよ!」バッ

    シュルル

    こまる「ぷはっ!助けてくれてありがとう!」ダキッ

    苗木「わっ!// お礼なんていいよ別に!当然のことだし!」

    こまる「あなた、私の魔法に応えてくれた!私を純粋な目で見てくれた!そんな人…初めてかもしれない」

    苗木「…え?」

    こまる「あのっ、これからあなたのこと、お兄ちゃんって呼んでいいですか?//」

    苗木「えっ、えぇー!?//」

    こまる「すっごく干渉しやすかったもん!きっと生き別れの兄妹なんだわ!さ、帰りましょ!お兄ちゃん!」

    苗木「って、腕組まないでよ!それにまだ決まってないし!なにさお兄ちゃんって!干渉ってなに!」

    こまる「全部答えてあげるから!今は帰ろ!」

    苗木「ちょ、魚屋のおじさん達はどうするのさー!」

    こまる「お兄ちゃん全員持って!」

    苗木「無茶言うなってー!!」テー…テー……
  251. 251 : : 2014/07/19(土) 21:36:49



    ─────────


    絶望の兵士1「ありえねぇ!嘘だ!何で奴が!」ハァハァ

    「流石だ。勘が良くて助かるよ……これで大事な生徒に人が死ぬのを見せなくて済むよ」

    アルターエゴ『なりふり構わず走る絶望の兵士。そんな彼が誰に言ったわけでもない言葉。その言葉に対して返事が返ってくる』


    絶望の兵士1「なッ!?どこだ!!出てこい!!」


    「後ろだよ」ボソッ


    絶望の兵士1「!…くそがぁッ!!」ブンッ

    アルターエゴ『耳元でそのように囁かれ絶望の兵士は虫を払うように剣を横凪ぎに振るう……が』


    「どこを見てるんだい?私はここだよ」


    アルターエゴ『その男が居たのは遥か後方。おおよそ囁ける位置ではなかった』


    絶望の兵士1「……でやがったな…仁!!」

    仁「おやおや、名前まで知られているとは…流石私だ」

    絶望の兵士1「黙れ…お前のせいで計画は台無しだ」

    仁「……台無しか…所で君のお仲間はどうしたんだい?」

    絶望の兵士1「…………」

    仁「……黙りかい。まあ、彼の居場所は大方特定できている。君を殺してから向かうとしよう」

    絶望の兵士1「ハッ!やってみろよ過去最強ッ!!!」

    仁「……………ああ。死ぬより苦しい目にあわせて……殺してあげるよ…」



    ──────────



    アルターエゴ『一方』


    こまる「えへへっ」

    苗木「わぁ!暑いからあまりくっつかないでよっ」


    アルターエゴ『気絶した彼らが起きるのを待つ苗木とこまる。こまるは苗木にくっつき、一方の苗木は照れ隠しからこまるの捕縛から抜け出そうとする』

    こまる「ごめんなさい…でも、もう少しだけ」ギュー

    苗木「…………っ」

    アルターエゴ『その時苗木は気付いた。彼女の脚は…いや全身が震えていることに…』

    こまる「……」ギュー

    苗木(……そっか、本当は凄く怖かったんだね…そして今もまだ…怖いんだね)

    アルターエゴ『それに気付いた苗木はもがくのを止め、優しくこまるの頭を撫でた』

    こまる「あっ…」


    ーーーーーーーーー

    【舞台裏】

    舞園「ダメ!これ以上続きはさせられない!」ぐぬぬ

    霧切「アルターエゴ!その不快なナレーションは止めなさい!」キリッ

    アルターエゴ『いや…そんなこと言われても…』


    舞園「ほら!絶望の兵士2!早く行ってください!」

    桑田「ええ!?俺逃げたんじゃなかったの?」

    舞園「さっきの場面で出てなかったから良いんです!さあ!」ゲシッ

    桑田「蹴らないで!分かったから蹴らないで!」


    ーーーーーーーーー



    アルターエゴ『苗木が頭を撫で続けたお陰か、こまるの震えが止まりだした頃』

    絶望の兵士2「おいおい、兄ちゃんたちよぉ…何宜しくやってンだぁ?」

    アルターエゴ『その男は現れた。先程逃げた筈の絶望の兵士が……何の前触れもなく』



  252. 252 : : 2014/07/20(日) 14:05:50
    こまる「いやっ!」ビクッ

    苗木「………」ギロッ

    桑田(怖えぇよ!目がマジすぎんだろ!)

    絶望の兵士2「へ、へへへ、やっぱり諦められねぇよ……たった1人の貴重な魔力だ…」

    アルターエゴ『徐々に近づきながら、剣を抜く』

    絶望の兵士2「確かに魔力の変化は驚いたが…何も魔力が全てじゃねぇ!」チャキ!!

    苗木(…構えに隙がない)

    こまる「お兄ちゃん……」ギュッ

    苗木「大丈夫…心配しないで」

    アルターエゴ『こまるを一瞬抱きしめ返すと、苗木は立ち上がり、剣を引き抜いた』

    絶望の兵士2「真剣で戦うのは初めてか…」


    苗木「!」

    絶望の兵士2「ククッ、素人の構えだな」

    苗木「………」

    桑田(目は相変わらず怖ぇけど…)

    苗木「………」

    絶望の兵士2「……来ないのか?ならこっちから行くぜ」ダッ

    アルターエゴ『剣を振りかぶり、一歩近づく。剣道で言う面を打つ動作!』

    絶望の兵士2「頭かち割ンぞ!」

    ブォォ!

    アルターエゴ『そして、それが振り下ろされる刹那!』

    【!】

    絶望の兵士2「アポ…?」メリッ…

    苗木「…頭かち割れないといいね」

    アルターエゴ『苗木の面打ちが、絶望の兵士2の鉄仮面を粉々に砕いた』

    アルターエゴ『そしてそのまま…人形のように力無くその場で倒れた』

    苗木「ふぅ……」チャキ

    こまる「………今の、魔法?」

    苗木「…うん。気がついたら使えるようになってたんだ…」

    こまる「見たことない魔法だった…何かアクションを起こしたようにも見えなかったし……」

    苗木「魔法、詳しいの?」

    こまる「魔法大辞典、いっつも読んでたもん!」

    苗木(魔法大辞典…魔法の基礎が細かく記された…)

    こまる「でも、お兄ちゃんの魔法はなーんにも当てはまらないなぁ…」ジーッ

    苗木(近い!近いって!///)

    こまる「お兄ちゃん、興味深すぎ!もっとお兄ちゃんのこと知りたいな♪」

    苗木「う、うん…///(女の子になれてないから、どういう反応したらいいかわからないなぁ…)」


    ━━━━━━━━━━


    【舞台裏】


    舞園「桑田君の役立たず!まったくどこまでもアポです!」ゲシッゲシッ

    桑田「ちょ、まだ出番あるかrッ バキッ

    セレス「…舞園さん…その辺にしておいた方が…」

    桑田「」

    辺古山「おい…これ…」

    桑田「」

    九頭龍「……意識を失ってる…」

    舞台裏に居る全員「!!?」

    左右田「どうすんだ~!まだ桑田の出番が!」

    朝日奈「え、私桑田と組んでたのに…!」

    五月雨「うーん…桑田君が私にやられたところから始めればいいんじゃないかな?」

    舞台裏に居る全員「あ」

    仁(桑田君…強く生きろ!)
  253. 253 : : 2014/07/22(火) 07:00:45



    九頭竜「チッ…それにしても実の妹に照れるなんてアイツどうかしてるぜ…」

    左右田「オメーがそれを言うのかよ」

    霧切「おそらく単純すぎる彼だから、役に入りきってるのよ」

    舞園「そういう所が良さでもあるんですけどね!」

    霧切「……ええ、でもまあ何となく不愉快だからこの回想早く切り上げましょう」

    舞園「そうですね。」

    アルターエゴ(…横暴だよぉ)


    ─────────


    アルターエゴ『苗木が己の煩悩と戦ってる中、一方仁の方では』


    ポトリ…

    アルターエゴ『そんな音ともに1つの肉の塊が地に落ちる』

    絶/望の兵士2「」

    仁「弱い…弱すぎる。」


    アルターエゴ『首だけもげ、それに寄り添うように倒れる絶望の兵士…正確にはその体を見ながら仁は吐き捨てるように言う』


    仁「仲間の方にも魔法を掛けて魔力を割いていたと言うのに…この程度なんて」


    アルターエゴ『そして、一瞬だけフッと視線を遠くに向けこうもらす』



    仁「このままでは心配だよ…私の娘の………………成長が…」



    ─────────



    苗木「お願い流石にくっつきすぎ!落ちついたなら一旦離れて!」

    アルターエゴ『苗木も年頃の男の子。流石に女の子に長時間くっつかれると流石に……ほら』

    こまる(意味深!)


    こまる「……ごめんなさい…」

    アルターエゴ『こまるは言われるがまま苗木の腕を離し、一歩距離を取る』

    苗木「いや、謝らなくても良いんだけどね」

    こまる「少し冷静になると…私ちょっと興奮しすぎてました」

    苗木「……まあ…そうかもしれないね…」

    こまる「実は私…魔法からっきしなんです…」

    アルターエゴ『曖昧な返事をする苗木に、こまる悩みを打ち明けるようにそう告げた』

    苗木「……あはは、僕も似たようなものだよ」

    こまる「え?でもさっき」

    苗木「…まぐれ…かな」

    こまる「そうなんですか……そういえば予備学科の生徒皆魔具が無いと魔法使えないです…よね?」

    苗木「マグ?」

    こまる「え?知らないんですか!?」

    苗木「ごめん、最近まで魔法に無縁な村ぐらしだったから…」

    こまる「えっと、マジックウェポンみたいな感じで、扇子やらカメラやらお兄さんの剣やら要は媒体みたいな感じです!」

    苗木「なるほど」

    苗木(この子…僕の剣を魔具って勘違いしてるのかな?)


    こまる「それで…私も拡声器使わないと魔法使えなくて…いや、拡声器があってもろくに魔法が使えなくて…」

    アルターエゴ『二番手の中の落ちこぼれ。そんな見えないレッテルを自らに貼るように…とても悲しそうに』

    苗木「………」

    こまる「それが…今日は拡声器無しで発動できたんです!」

    アルターエゴ『こまるは先程の表情が嘘のように晴れ晴れとした表情でそう言った』

    苗木「!…良かったね」

    こまる「はい!私たち予備学科だって、頑張れば希望ヶ峰の皆に勝てますよね?」フフッ

    アルターエゴ『そしてそんな邪気の一ミリも無い笑顔を苗木に向ける』

    苗木「…うん。きっと出来るよ」

    アルターエゴ『その笑顔に対し苗木は脳裏にクラスメイトの顔をちらつかせながらもそう言う』

    こまる「えへへ、一緒に頑張りましょうね」

    苗木「え?…一緒に?」

    こまる「いやぁ、お兄さんみたいに強い人が予備学科に居たなんて知りませんでしたよ!」

    苗木(勘違いしてる!!)

    苗木「あのさ…実はぼ…」


    ──ドスンっッ!!!!!!!


    苗木「え?」

    アルターエゴ『苗木が真実を告げようとするのを遮るように、背後でそんな轟音が響いた』



  254. 254 : : 2014/07/22(火) 21:27:21
    こまる「………」

    ヒュウウウウウ…………

    アルターエゴ『世界はくしゃくしゃに丸められた紙のように収縮し、暗転。先ほどまで丸められていた世界が再び開く』

    斑井「フシュウ………」ズズズ…

    アルターエゴ『大きな音の正体が、ヤマタノオロチが動いただけだと気づくのに、そう時間はかからなかった』

    こまる(思い出に浸ってる場合じゃないよね)

    アルターエゴ『「踊れ」。自分に言い聞かせるように放った。そう、ここは希望の国という名のステージ。絶望の国なんてお呼びでない、こまる達だけの独擅場』

    こまる(踊りきるんだから…最後まで!)

    アルターエゴ『ここから先は、こまるが主人公…そう言わんばかりに希望の国(ステージ)の中央に立つ』

    こまる(私は拡声器がなくちゃ魔法も使えないけど…あれから成長したんだから…!)

    アルターエゴ『再び拡声器を構えた。傍らでは、七海が未だに魔法の効果が現れるのを待ち望んでいる』

    こまる(そうよ!お兄ちゃんの帰る…この国を守るんだから!)

    斑井「……フシュウ…」

    アルターエゴ『斑井は、獲物を吟味するかのように舌をチロチロと遊ばせながら、両目をどんよりと動かしていた』

    七海「こまるちゃん…」

    こまる「大丈夫。お姉ちゃんは魔法に集中して。それが発動すれば、勝てるんだもんね」ニコッ

    七海「…うん。必ず…勝ってみせるから!」

    コクリ

    アルターエゴ『こまるは頷くと、視線を斑井に向けた』

    斑井「何をしても無駄だ。今の俺は人間を越えている」

    こまる「そっちこそ無駄よ…干渉系の魔法は普通の魔法じゃない。人間って枠で見ている時点であなたは浅はかだわ」

    斑井「言ってくれるな」ピキピキッ

    こまる「言うわよ…何度でも!」
  255. 255 : : 2014/07/25(金) 15:44:01



    アルターエゴ『そしてこまるは拡声器を目の前に構え再び放つ!!』

    こまる「続撃燃焼(モエロ)!!」


    ダァンッ!!

    アルターエゴ『そんな音とともに拡声器から光が放たれる…………も』

    フッ シュン

    こまる「……あれ?」

    アルターエゴ『光は斑井に届くことなく数メートル飛んだのち自然に消滅した』

    斑井「ケケケケケっこいつは傑作だ。魔法もろくに使えなかったのか…そのくせして俺にあんな大見得切ったってのか…一人じゃ何も出来ないガキが神に向けて」

    こまる「それでも私は諦め…」

    斑井「おいおい、それは勇気じゃねえ…無謀なだけだ」ギロッ

    こまる「!」


    斑井「ほら?何か言い返してみろよ」


    こまる「私は……」


    こまる(思い返せば私は守られたり助けられたりばかりで………)

    こまる(……そうだよ…その通りだったんだ…)



    こまる「……私は…一人じゃ…何も出来な─」


    七海「…落ち着いて、君は、一人じゃないでしょ?」


    こまる「七海さん…」


    七海「ほら前向いて、私も力を貸すから!」


    ボフッ


    アルターエゴ『その一声とともにこまるの体は光に包まれる』


    こまる(温かい……体が…軽い)


    七海「ごめんね…今の私じゃこれが限界だと…思うよ」



    斑井「…っとォ、今のは確か潜在能力を引き出す魔法って奴だっけか?……でも落ちこぼれにそんなの使ったって魔力の無駄じゃねぇのか?」

    こまる「!… 七海「それは違うよ」

    アルターエゴ『こまるが何か言う前に七海はそう言い切る』

    斑井「あァ?」

    七海「彼女は弱くない…落ちこぼれなんかじゃない…だって斑井君には負けないから!」

    斑井「……言うねぇ…封印されてた俺一人にも及ばないのに」


    七海「……そうだね。でも、私達は負けないよ」

    斑井「…そうかよ、それで時間稼ぎはオシマイか?」

    七海「!」

    斑井「気付いてないと思ってたのか?さっきの蝶…いったいどこに行ったンだろうな?」ニヤッ

    アルターエゴ『八つの顔をこちらに向け嫌な笑みを浮かべる斑井…いやヤマタノオロチ』

    七海「簡単だよ」

    アルターエゴ『そんな彼に向け、七海は強い口調でこう言う』

    七海「さっきの魔法は別名『虫の報せ』効果は…指定対象に助けを求めるんだよ」

    斑井「もしかして、日向にでも助けを求めたのか?残念だがアイツでも俺には─」


    七海「英雄」

    斑井「……は?」

    七海「英雄だよ。斑井君と同等の力を持った彼女なら、私と力を合わせれば…」

    斑井「………おい本気で言ってるのか?」

    七海「うん」

    斑井「おい、誤解してねぇか?」

    七海「何を?」

    斑井「俺が言ったのは…『英雄が本当に助けにくる』って前提で話を進めてる点だよ」

    七海「……どういう…」

    斑井「はァ…ちゃんと話聞いて無かったのかよォ……」

    アルターエゴ『斑井は呆れ溜め息を漏らし、こう続ける』

    斑井「俺をこの町に放ったのは英雄。つまり、英雄はこの国の崩壊を目論んでんだよ!残念だったなァ七海ちゃんよォ」

    七海「…………」

    斑井「おい、黙り決め込んでねぇで何か言ったらどうだ?」

    七海(分かってるよ…英雄がどんな人間か何て…私が一番よく分かってる!!)

    アルターエゴ『かつて、目の前で殺された教師の顔をちらつかせたながら…七海は口を開く』


    七海「…………てね」ボソッ


    斑井「……あぁ?今、何………ッ!」


    アルターエゴ『その時斑井は気付く、先程まで居た筈のこまるの姿が無いことに……そして七海が斑井と会話をしていた真意に!』


    七海「…今度はしっかり当ててね」


    こまる「はァァァ!!!!」


    アルターエゴ『そう。こまるは既に斑井の目と鼻の先に居た…つまり射程距離にいた!』


    斑井「いつの間にィ!」


    アルターエゴ『避けようとしたが既に遅い。こまるはもう拡声器を構え終え、魔力も込め終わっていた…あとは──放つだけだ!!』




    こまる「『自発破壊(コワレロ)』!!!!」ダァンッ!!!



  256. 256 : : 2014/07/25(金) 17:16:25
    ドゴォン!

    斑井「!」

    アルターエゴ『破裂音。音の正体を探って八つの首が見つけたのは、一つの破片。その破片が自らの鱗だとわかった時には、すでに反応が遅れていた』

    こまる「『続撃燃焼(モエロ)』!!」

    ボォォッ!!

    斑井「ぬわっ!」

    アルターエゴ『頭の一つに、突然火が着いた。焦げる匂いと揺れる視界に、斑井は素早くその頭を自ら落とす』

    ゴトッ…

    こまる「………」

    アルターエゴ『斑井の頭は…残り7つ』

    斑井「なるほど。見違えたナ…」ズルズル…

    斑井「魔法の威力も、詠唱スピードも、本人の動きも格段に上がった。…が、1に何掛けたところでたかが知れてるぜ」

    斑井「お前がこの俺に勝てない理由…丁寧に教えてやるよ」

    ザァッ!

    アルターエゴ『7つの頭がこまるを囲い、一斉に口を開いた』

    斑井「「命という名の…授業料でな」」

    ザァァァァァァ!!

    アルターエゴ『7つの頭が、口を開いたままこまるの頭上を捉えた』

    ポツン

    ジュウ…

    アルターエゴ『何かが地面に落ち、焼ける音がした。だ液だ。斑井の牙から垂れる、毒々しいだ液』

    こまる(あれに当たってもアウトね…)

    斑井「レッスン1…貴様が戦闘の素人だと言うこと!!」キシャァァ!!

    アルターエゴ『7つの頭が、こまるに牙を剥く!対してこまるはすでに、拡声器を口に当てていた!』

    こまる「『逆流噴射』(フキトベ)!!」

    ブォォオン!!

    斑井「───!?」

    アルターエゴ『こまるを中心に起こったのは、強い突風。少しだけ、斑井の体が浮いた』

    パクン…!

    アルターエゴ『遅れてそれぞれの口が、空気を噛みしめる。こまるはその間にスライディングの要領でなんとか斑井の下をくぐり抜けた』

    七海「もう少し!お願い!」

    こまる「うん!」タッタッタッ…

    アルターエゴ『ドシィイン…!斑井の巨体が、再び地に足を着けた』

    斑井「チッ!逃げ回りやがって!」

    七海「!」

    斑井「こうなりゃ七海!まずはテメェからだァ!!」グァッ!!

    こまる「させない!」

    斑井「!」

    こまる「『送電麻痺』(シビレロ)!!」

    斑井「!」ビリッ!!

    七海「ありがとう!こまるちゃん!」

    こまる「大丈夫だよお姉さん!だって約束したもん!」

    斑井「グァァァァア!!さっきカラおかシな魔ほウばかり使いヤがッて!!」ブチブチブチ…

    こまる(頭に血が上ってるね…ってことは冷静な判断のできない今がチャンス!)

    こまる「『続撃燃焼』モエロ!!」

    ヒュッ!

    こまる「!」

    斑井「…レッスン2…経験が足りない!」

    アルターエゴ『こまるの読みははずれ、斑井はうまく左にずれることでかわした』

    斑井「……フッ。俺が冷静じゃないと思ったか?」

    こまる「…!」

    斑井「あァ!レい静なワけネぇだろぉぉオおオ!!」ヒュンッ!!

    こまる「あっ!」

    ガブッ!

    こまる「ッ!」クラッ…

    七海「! こまるちゃん!」

    斑井「てメェのマほうは大しタ威力じゃネェ!あたッてもナンのモんだイもねえガそれじゃアたりネぇ!」

    斑井「アの状キょうでテめぇの動キヲよみ!絶望をアタえル!」

    アルターエゴ『斑井は徐々に顎の力を強めながら、血走った目でそう言った』

    斑井「さァ!コロしtやル!」

    ググググ……

    こまる「あっ…あぁっ!!!」ポロッ…

    こまる(ッ…!拡声器が…!)

    七海「こまるちゃーん!!」

    斑井「ナナみ…こイツヲ助ヶタいか…?」

    七海「!」

    アルターエゴ『この期に及んで交渉?七海は全力で頭を回転させる。この状況で、斑井は自分の魔法を怖がっていると仮定した。そうした場合、天秤にかかるのはこまるの命だろう。そうこう考えている内に、背後で斑井の尻尾がこちらの隙を伺っているのも…気配こそ消してはいるが、想像がついた』

    七海「………」

    斑井「オマえガ死ねば…コいツは助けよウ」

    七海(…ここまでは、予想通り。何も動じなくていい)
  257. 257 : : 2014/07/28(月) 05:09:30


    七海(某裁判ゲームでもあった……ピンチの時こそふてぶてしく笑え…ってね)

    七海「ねえ…怖いんでしょ?」ニッ

    斑井「何がダぁ?」

    アルターエゴ『この状況でおよそするべき表情そう述べる彼女に斑井はやや回復しかけた口調でそう言う』


    七海「君は…優しいね」

    斑井「だカら何がだッてンだよ!」

    七海「君ならもう私を殺せてると…思うよ?」

    七海(斑井くんが本気を出せば私なんて…でもそれをしないのは私の手の内が分からないなのか……それとも)

    斑井「……何が言イたい」

    七海「…だって、尻尾をジリジリ近付けるなんて絡め手、そんなに力を持ってるのにおかしいよ。ガブリアスがないしょばなしを覚えてるみたいにね……いやこの場合はサザンドラかな?」

    斑井「このガキ咥えてンのに、妄言もこコまでくれバ立派だな」

    七海「妄言じゃないよ」

    斑井「チッ…人間ってノは分かんねぇな…。じゃア…今殺してやるよ!!」

    七海「!!」

    アルターエゴ『斑井の頭が…牙が七海を目掛け迫る!』

    七海(嘘…間に合わない……これじゃ皆を斑井君を救えない!!)

    アルターエゴ『一方の七海は動けない。意表をつかれたとかそんなものじゃなかったで“殺す気”で放った一撃だった…つまり速かった。ただ単純にそれが理由だった』




    ─────────



    こまる(ダメ…お姉さんが死んじゃう…このままじゃ……ダメ!!)バタバタ

    アルターエゴ『こまるは必死にもがく……が、ただ牙が体に食い込み血が出るのみだった』

    こまる(救えない…)

    アルターエゴ『そんなことを考える』

    こまる(っ…私が誰かを助けたいなんて、おこがましいことだったのかな…?)

    アルターエゴ『自問自答。答えは返ってこない』

    こまる(もう…魔法が使えない。ごめん…七海さん…ごめんねお兄ちゃん。お兄ちゃんの帰ってくる場所守れないや)


    アルターエゴ『拡声器を離した今、新たに魔法は使えない。つまり彼女はただの平凡な少女だから彼女はこれから起こる惨劇から目を背けるように目を閉じた』


    ─────────




    斑井「死ねぇぇぇエ!!」



    アルターエゴ『そんな怒号とともに迫り来る斑井の顎(あぎと)』




    七海(ごめんね…皆。日向君…さよなら)





    アルターエゴ『そして七海は目を閉じる。自分の死を受け入れるために…目の前の恐怖から目を背けるように』




    七海(…………皆…今までありがとう)






    アルターエゴ『そして……七海千秋はその短い生涯に幕を』
































    アルターエゴ『──下ろさなかった』



    七海「…あれ?」スッ

    アルターエゴ『生きてることに驚きながら七海は目を開く…しかし、開いたその目で見たのはそれ以上に驚く光景だった』

    斑井「ンだこれはァ!?」ドスン!ドスン!


    七海「……え?」


    アルターエゴ『驚くのも無理は無い。何故なら自分を殺そうとしていた筈の斑井が…………踊っていたからだ』



  258. 258 : : 2014/07/28(月) 05:49:20
    斑井「ばッ、ばかナ!…俺ノ意志と…違う!」ドシンドシン!!

    七海「………?」

    アルターエゴ『七海の思考は、完全に遅れていた。しばらくぼーっとした時間が過ぎていく。3秒後、七海はある結論にたどり着き、思わず笑みがこぼれた』

    七海「…プッ」

    こんな戦場でも…笑えるんだね。

    おかしいね。うん、おかしいのはわかってるんだけど、なんだか笑っちゃうの。

    不思議だね。でもよかったね。

    ありがとう、こまるちゃん。

    斑井「クソーーーーッ!!!何故ダ!なンでだよ!!」ドシンドシン!!

    こまる「わっ!」パッ

    ドサッ!

    アルターエゴ『陽気なステップに紛れ、口が開いた瞬間に脱出した。怪我のせいで、不格好な着地にはなったが』

    こまる「…痛い…とっても痛いけど…」

    アルターエゴ『自分の服が赤く染まっていることと、落ちた衝撃による痺れで動かない体に苦しみながら、されどその顔は笑っていて』

    こまる「勝った!勝ったよ七海さん!」

    七海「うん!ありがとう!」

    パァー…

    七海「よし、魔法…やっと発動できるよ!」カッ!!

    七海「『胡蝶の正夢』(ドリーマーズ・ハイ)!!」

    サァ……

    アルターエゴ『斑井を中心として、緑色の魔法陣が広がった。それはまるで、穏やかな草原のようだった』

    斑井「アァ…?」

    アルターエゴ『囲まれた瞬間、斑井の動きが止まった』

    こまる「…綺麗」

    アルターエゴ『魔法陣の端は、通常、魔力が粉のようにして散るものだが、この魔法は違った』

    こまる「蝶……!」

    七海「…斑井君、君はやっぱり優しいね。“騎士”のボディーガードを自らやってたくらいだもん。当然かな」

    斑井「……!」

    『あンたに忠誠を尽くすぜ、“騎士”』

    斑井(…………)

    『体張ることしか出来ねェ俺だけどよ…よろしくな』

    斑井(ンだよ………)

    『俺の仕事は!盾になること!絶望の国を脅かす希望の国なんかに侵略させねぇ!』

    斑井(…………今更思い出して来やがッた…)

    七海「優しいよ、斑井君は。だから本当は私を殺したくなかったんだって…今ならわかる」

    斑井(やめろよ…七海…俺ァお前らを殺すつもりで…)

    七海「このままじゃ納得できないよね。…教えてあげる」

    七海「こまるちゃんの魔法は、言わば「極度の思いこみ」なんだよ」

    七海「こまるちゃんの声を媒体にして、直接語りかけるの。それが干渉の正体」

    七海「だからヒットしたと思ったらヒットするし、かわせたと思えばかわせるんだよ」

    七海「…最初の「踊れ」。ずっと響いてたんでしょ?だから頭の中で違和感を拭いきれなかった」

    斑井(…………)

    七海「攻撃も、頭に当たってよかったね。心に当たってたら助からなかったよ。心は変えられないからね」

    斑井「……ケッ」

    七海「…じゃあ、そろそろお別れの時間」
  259. 259 : : 2014/07/29(火) 10:33:11
    とても面白いです!1お二人とも無理せず頑張ってくださいね!
  260. 260 : : 2014/07/29(火) 23:58:34
    >>259
    ありがとうございます!
  261. 261 : : 2014/07/29(火) 23:58:45


    斑井「別に名残惜しいわけじゃあねぇが最期に言わせてほしいことがあるんだが」

    七海「何かな?」

    斑井「俺は人間が嫌いだ」

    七海「……」


    アルターエゴ『強くハッキリとした口調で言う彼に対し七海は何も言い返さなかった。そして斑井はそんな七海を見たうえで続ける』


    斑井「自己中心的なうえに、自分が主人公って思ってるかのように振る舞う」

    斑井「俺はよォ、魔界から呼び出されてきたんだよ。俺の力を無理矢理利用するためにな」



    斑井「ま、俺をそう上手く制御できるわけもねぇ、その呼び出した奴は当然殺した」

    斑井「だけどな、不愉快なことにソイツが死ぬ直前に言ったのは命乞いじゃあ無かった」

    斑井「『俺には愛すべき家族がいる。貴様を野放しにはさせない!』つって、俺の力を八つに分けて人間にしやがった」

    斑井「テメェが呼び出しておいて、何言ってンだって話だよなァ」


    斑井「だから俺は人間が嫌いだ」


    七海「………」

    こまる「…………」


    斑井「…それだけだ、俺は地獄でソイツとあってくるぜ……じゃあな」


    七海「……何を言ってるのかな?」

    斑井「だから、じゃあな。…二度と会うことは無いだろうけどな」

    七海「斑井君は死なないよ?」

    斑井「……は?」

    七海「だから君は死なないよ?」

    斑井「…この大掛かりな魔方陣に溢れる膨大な魔力…つまり」

    七海「あのね、この魔法の効果は……あるべき所に返す魔法」


    七海「別次元に来たという夢を覚ますように、元の居場所…元の世界へ還す魔法なんだよ」


    斑井「俺は必死になって魔界へ帰る方法を探していた…だが、こんな魔法聞いたことねぇぞ」

    七海「そうかもね…だってこれウサミちゃんが私に唯一教えてくれた魔法だからね。一度しか使えないから使い時を選ぶようにって言われてたけど…使うなら今だよね」

    斑井「あのウサギがか…」

    七海「それに最初に言ったでしょ。私は君を殺すんじゃなくて倒すって言ったんだよ?」

    斑井「…そういえばそうだったな…ケケケッ!」


    アルターエゴ『斑井はたまらずに吹き出す。それは邪気のこもってない純粋な笑いだった』



    斑井「おい、確かこまるっつぅ女」

    こまる「何?」

    斑井「さっきは悪かったな」

    こまる「…別に、私が暴れて自傷しただけだし。それより頭1つ落ちちゃったけど大丈夫なの?」

    斑井「ん?ああまた生えるから大丈夫だ」

    こまる「あははぁ…そ、そうなんだ…」


    パァァァ!!


    アルターエゴ『さらに眩い光が斑井を包み込む』

    七海「これでお別れだね」

    斑井「ああ……なあ、七海」

    七海「何かな?」

    斑井「俺はさっき、人間のことが嫌いっつッたけどよ…」

    アルターエゴ『やや、言葉を濁しつつも自身がここに留まれる時間が少ないことを察したのか意を決したようにこう続ける』

    斑井「少なくとも…テメェらは……嫌いじゃなかったぜ」

    こまる「…素直じゃないの」

    斑井「うるせぇ喰うぞ!」

    こまる「ひぃっ!」

    斑井「冗談なんだが」

    七海「斑井君」

    斑井「…何だ」

    七海「…また話そうね!」

    斑井「…………へッ今度はねぇよ…それに俺たちそんな大して話して無かっただろうがよォ」


    アルターエゴ『ぼやくように言いながら、だけれど笑顔で斑井…もといヤマタノオロチは希望の国から姿を消した』


  262. 262 : : 2014/07/30(水) 03:02:30
    こまる「…終わったんだね」

    七海「うん……協力してくれて本当にありがとう。痛い思いさせてごめんなさい」ペコッ

    こまる「いいの!国の…それにお兄ちゃんと、お姉さんのためだもん!」

    七海「…ふふ、ありがとう」

    こまる「さっ!早速国を直すよ!」

    七海「うん!」

    アルターエゴ『2人は、道端に落ちている煉瓦を拾い始めた』

    こまる(お兄ちゃん!必ず帰って来てね!!)

    アルターエゴ『空を見上げ、煉瓦を積み立てながら心の中でつぶやいた。今日も希望の国は、雲一つない青空だった』


    ━━━━━━━━━━━


    【絶望の国:中央広場】

    アルターエゴ『空は赤黒い雲に覆われ、それは終焉を表しているかのように存在した。その下で、二つの風が火花を散らしている』 
    キィン!キィン!

    ジェノ「んん~速い!やるわねアンタ!」

    戦刃(まだ喋る余裕があるの…)

    カァン!

    アルターエゴ『サバイバルナイフと、悪趣味な鋏がぶつかり合い、離れ、そしてまたぶつかり合う。その度に片方は喜び、片方は舌打ちをした』

    戦刃(じり貧…)

    アルターエゴ『数度目の火花が散った時、戦刃が仕掛けた』

    戦刃「『大旋風』(スピア・トルネード)!!」

    アルターエゴ『竜巻がドリルのように螺旋を描き、対象をえぐる魔法!』

    ビュォオオオ!!

    ジェノ「あら、こんくらいなら………!?」

    アルターエゴ『軽い足取りのステップ。長い経験を積んだジェノサイダーだからこその感覚での回避…それが、いつもと違うことに気づいた』

    ジェノ(風にひっぱられてる!?)

    アルターエゴ『ジェノサイダーの体は強くひっぱられ、そして!』

    ジェノ「ふむ」

    ジャキン!

    アルターエゴ『ジェノサイダーは、その突破方法を思いついた』

    ジェノ「うーんと…」モゾッ

    アルターエゴ『サッと太股に装着された鋏ケースに手をやり、別の鋏を取り出す』 

    ジェノ「これこれ♪」ジャキン!!

    ジェノ「『絶対強者による搾取』(クッキング・ママ)!!」

    スパーーーーン!!

    戦刃「………!」

    アルターエゴ『竜巻は、中心から切り裂かれるようにして四散した』

    戦刃(あの鋏…!)

    ジェノ「ゲラゲラゲラ!意外にあっさりしてるわねん!」

    戦刃「……」

    アルターエゴ『ジェノサイダーの言葉に返事をするように、鎌鼬を形成。中央広場が見えない刃物によって埋め尽くされようとする』

    ジェノ「おっと!」

    ブワッ!!

    アルターエゴ『ジェノサイダーは体を回転させながら、両手をせわしなく動かして鎌鼬を一つ一つ消滅させていった!』

    戦刃「…!」

    アルターエゴ『それを見て、戦刃は前進する』

    ダッ!

    アルターエゴ『ジェノサイダーの回転…その死角である真上に位置取って、サバイバルナイフをモリ突き漁のようにして構える!』

    戦刃「上がお留守…そこを狙わない程お人好しじゃないよ」

    アルターエゴ『そして、脳天めがけて一気に突き出した!』

    ジェノ「ほっ!」

    トンッ!

    アルターエゴ『が、これをステップで回避する』

    戦刃「………」ニヤッ

    ジェノ「!」

    ジェノ「あベラッ!!」ザシュッ!!

    アルターエゴ『回避した先で、ジェノサイダーの体を見えない刃が待ちかまえていたように切り裂いた!』

    ジェノ「…くっ……」ヨロッ

    アルターエゴ『少なくはないダメージに、硬直。戦刃はそれを見逃さない。着地と同時にダッシュし、サバイバルナイフに風をまとわせて!』

    戦刃「とどめっ!」ブンッ!!
  263. 263 : : 2014/07/30(水) 03:03:31
    アルターエゴ『大きく右下からサバイバルナイフを振り上げる…!』

    ジェノ「どぅわっ!!」ズサァ!!

    アルターエゴ『ジェノサイダーの腹部から、血が噴水のようにして巻き上がった』

    ジェノ「グフ……ッ」

    戦刃「……さよなら」

    アルターエゴ『冷たく言い放った。しかし、それに対しての返事は、意外な言葉だった』

    ジェノ「…まだ序章よぉ…!!」

    アルターエゴ『これまでにない歪んだ笑みで、そう言うと』

    ジェノ「私の血は!私の魔法の発動条件!!」

    戦刃「!」

    アルターエゴ『危険を察知し、完全に息の根を止めようと再びサバイバルナイフを構えるが!』

    ガシッ!

    戦刃「!」

    モノクマ「だめだめ。ヒーローが何かする時は攻撃しないのが怪人の基本でしょ?」

    戦刃「何…コイツ!」

    ジェノ「ここはアウェーよ…?何があっても不思議じゃねぇだろうが!お前それでも軍人かァ!!」

    ジェノ「さぁ血よ舞い踊れ!私の美しき殺人劇の幕開けなりぃ~!!ユックリシテイッテネ!」

    ジェノ「『退廃の殺人鬼』(ブラッディ・デッド・エンド)!!」

    戦刃「……邪魔!」

    モノクマ「ギャッ スパッ!

    アルターエゴ『モノクマを鎌鼬で斬った時、戦刃は一瞬、本当に一瞬、ジェノサイダーを視界の中心から外した』

    アルターエゴ『それが、いけなかった』

    戦刃「…………!?」

    アルターエゴ『見覚えのない、自らを覆う鉄格子。消えたジェノサイダーの姿。しかし、景色はさっきまでと同じ』

    戦刃(…何…………?)
  264. 264 : : 2014/08/02(土) 13:06:46



    戦刃「これじゃまるで罪人みたいで…不愉快!」ブンッ!

    ダァンッ!!

    アルターエゴ『戦刃はその細い足で鉄格子を蹴る。それだけでいとも容易く鉄格子の一部は弾け飛んだ』

    戦刃(脆すぎる…閉じ込める魔術じゃない?)

    アルターエゴ『戦刃は軽やかにジャンプし鉄格子の中から脱出。そして意識を先程まで居た鉄格子へ向ける……それがいけなかった』


    ヒュンッ!!


    戦刃「!!」


    アルターエゴ『誰も居なかった筈の場所からの斬撃の、風を裂くような音。それに対し戦刃は数多もの戦場の果て身に付けた感覚で体を伏せることにより紙一重でかわす……のだが』

    シュッ!!

    アルターエゴ『体制が崩れた所へ容赦なく加えられる追撃。しかも今度は背後でもなく真横から』

    スパッ!!

    戦刃「くっ…」

    アルターエゴ『流石の戦刃もこれを完璧にかわすのは不可能。鋭利な刃物が僅かに頬を掠めた』


    戦刃(どういう…)


    アルターエゴ『戦刃は状況を理解出来ない苛立ちのまま辺りを見渡す。そこには誰も居ない…………“はずだった”』


    戦刃「……え?」


    アルターエゴ『結論から言えば人は居た、戦刃を取り囲むように…だが、戦刃が間抜けな声を出したのはそれが原因だからではなかった』


    戦刃「…何で?」


    アルターエゴ『戦刃は彼、彼女らに面識があった。だからこそ…不可思議なのだ。そして戦刃は全員の顔を確認し、こう続けた』



    戦刃「何で生きてるの?……」










    戦刃「ちゃんと私が……………殺したはずなのに」


    アルターエゴ『そう。戦刃を取り囲んで居たのは、自らの手で葬ってきたはずの……絶望の国の兵士達だった』



  265. 265 : : 2014/08/02(土) 14:26:55
    戦刃「………気持ち悪い…また殺してあげる!」

    シュッ!

    アルターエゴ『戦刃の言葉がトリガーになったのか、兵士達の手が一斉に伸びた』

    戦刃「っああ!」

    ズバッ! キィン! スパッ!

    アルターエゴ『次々と、止むことのない嵐のような攻撃に、的確に対応していく。そして隙があらば、兵士を直接斬りつけた』

    戦刃「…埒があかない!」

    アルターエゴ『斬っても斬っても、攻撃の手は休まることを知らず。むしろ激しくなっているようにも見える』

    戦刃「そんなの…!」

    バッ!!

    アルターエゴ『戦刃が跳ねた。空中で描かれた白の魔法陣を背にして、地上の兵士達に両手を向けた』

    戦刃「『妖精の羽ぼうき』(オーバーフェルミング・フェザー)!!」

    アルターエゴ『魔法陣から出現する白き弾丸が、雨のように地上に降り注ぐ!!』

    ドドドドドドドドドド………!!!

    兵士達「ぐわぁぁぁぁぁあ!!」

    アルターエゴ『…そして、地上に立っている者が居なくなった時、戦刃が着地。魔法陣は消滅した』

    戦刃「………」

    戦刃(これで終わり…?)

    アルターエゴ『そんなわけがない』

    「お見事!この程度じゃなーんも感じないわけねん」

    戦刃「……“殺人鬼”」

    ジェノ「そーよ、アタシが“殺人鬼”。有名になるのも考え物だわー!ゲラゲラゲラ!!」

    戦刃「…声はするけど、姿は見えない。ここはあなたが作った仮想世界?」

    ジェノ「惜しい。こうすればわかる?」

    パチン!

    戦刃「………!」

    アルターエゴ『地面の一部が、ドロリと水のように変化した。そしてその水が空に上がる。空中で自由自在に動くそれは、何かの形を作ろうとしているのがわかった。そして、それは人型だった。それもよく知っている』

    戦刃「“英雄”……」

    アルターエゴ『完成した。胸が小ぶりで、そばかすがあり、そして髪飾りが白いウサギと言うところ以外、まったく同じの“英雄”が』

    戦刃「…結構違うけど。“英雄”だってことはわかるよ」

    ジャキン!

    アルターエゴ『目の前の“英雄”が、サバイバルナイフを取り出した』

    戦刃「…まいったなぁ。今日だけで“英雄”と二戦目か」
  266. 266 : : 2014/08/04(月) 22:39:56



    英雄(?)「違うよ」

    アルターエゴ『今までの兵士とは違い“英雄”は喋った。それはどこか聞き覚えのある声だった』

    戦刃「…何が違うの?」

    英雄(?)「私は英雄じゃない。英雄に何てなれない…私は…」

    戦刃「ご託はいいよ、早く始めよう」

    英雄(?)「私は、戦うつもりは──!」

    戦刃「じゃあ何でナイフを構えてるの」

    英雄(?)「それはアンタが構えてるから…」

    戦刃「……話しても無駄なようだね。やらないならこっちから行くよ」ダンッ!!

    アルターエゴ『爆風にを放ち一瞬で戦刃は姿を消す』

    戦刃(何て言うか…不愉快。一撃で終わらせる)

    アルターエゴ『戦刃は英雄の真上に居た。そして重力に身を委ね、風によるブースターを使い英雄の首目掛けてナイフを放つ』


    キィンッ!!!


    戦刃「!」

    英雄(?)「無駄だよ」

    アルターエゴ『まるでどこから来るか分かっていたように英雄は戦刃の斬撃をいなした』

    戦刃(それなら風の刃!)

    アルターエゴ『戦刃は身体を捻り、風を使い強引に英雄から距離を取る…そして』

    英雄(?)「鎌鼬…か」

    戦刃「ッ!」

    アルターエゴ『魔法を発動し終える前に英雄は鎌鼬と言い切った。まるで分かってるかのように』

    戦刃(分かってても、この量なら防げない!!)

    ヒュンッ!!!!


    英雄(?)「無駄」


    ヒュンッ!!!!


    パシュっ!!


    アルターエゴ『四方八方に取り囲むように配置された風の刃が英雄に迫る……が、全く同じ風の刃によりそれは相殺された』



    戦刃「どういう…?」

    英雄(?)「アンタじゃ、私には勝てないよ」

    アルターエゴ『いつの間にか背後に居た英雄が諭すようにそう言う』

    戦刃「分からないよ」ブンッ!

    スカッ

    アルターエゴ『振り向きながらナイフを振るうも、響いたのは虚しく空気を裂く音だけだった』

    英雄(?)「分かるよ。…私には分からないことが分からない」

    戦刃「?…日本語が安定してないのだけれど」

    英雄(?)「私は英雄じゃない。偽物」

    戦刃「……薄々は気付いてたけど、やっぱり偽物なんだ」

    アルターエゴ『薄々ではなく戦刃は元々偽物ということに気付いていた。何故なら彼女は英雄のことを盾子ちゃんと呼ぶからだ。…だが分かっているうえで戦刃は何故かそれを認めたくなかった』

    戦刃(私が、盾子ちゃん以外に実力で負けるなんて…)

    アルターエゴ『余談だが苗木の一戦は彼女の中では戦う前から負けていたのでノーカンということになっている』

    英雄(?)「誰かが誰かの代わりなれるわけないし、誰かが誰かになれるわけないんだよ…いくら好きでもいくら憧れても」

    戦刃「何かの小説でその台詞、そっくりそのまま聞いたことあるよ」

    英雄(?)「そうだろうね。じゃないと私が知ってるはずないし」

    戦刃「はあ…ますます意味が分からない」

    英雄(?)「アンタが分かろうとしてないだけだよ」

    戦刃「そう……」スッ

    アルターエゴ『戦刃は小さくため息を漏らしながらナイフを構える』

    戦刃(きっと彼女を殺せば私の胸のモヤモヤはなくなる…はず!)

    タッ!!

    アルターエゴ『そして跳ぶ。目の前の少女を殺すために!』



  267. 267 : : 2014/08/05(火) 12:34:05
    ダッ!!

    アルターエゴ『すると相手も同じように跳び、空中で二つの刃が交わった』

    戦刃「コレなら負けないよ…」

    キィン!

    アルターエゴ『弾き、英雄(?)をその勢いで地面に叩きつけようとする。が、そこまでとはいかず、ほんの少し後退させる』

    グァッ!

    アルターエゴ『そして、戦刃は足下に竜巻を発生させ、上昇。すぐ下を投げられたサバイバルナイフが通過した』

    英雄(?)「チッ」

    戦刃「はぁっ!」

    アルターエゴ『そして、そのまま空を蹴り、一気に加速。頭から英雄(?)に突撃…モロにヒット。荒々しい2人の着地を歓迎するように地響きが唸った』

    戦刃「………」チャキッ

    アルターエゴ『マウントポジションを取った戦刃が、サバイバルナイフを喉仏に当てる』

    戦刃「勝ちだね」

    英雄(?)「まだだね」

    ザクッ!!

    戦刃「!!」

    アルターエゴ『背後から強襲した物体に、戦刃の体は反り返ったまま吹き飛ばされる。受け身を取り、なんとか体勢を取り直す』

    ……ドクドク…

    アルターエゴ『背中から淀みなく流れる血液のせいで、気が散る。背中の違和感。正体はわかっていた』

    戦刃「…さっきのサバイバルナイフ」

    アルターエゴ『英雄(?)の戦刃に対する反応が鈍かったのは、風でサバイバルナイフを操っていたからなのだと納得した。そして、いつの間にか周囲を鎌鼬が覆っていることも』

    戦刃「………!」

    アルターエゴ『同じ鎌鼬を出現させる時間はなく』

    ヒュオオオオオ!

    スパスパスパッ!!

    アルターエゴ『戦刃の体は、切り刻まれていった』

    戦刃「……アァッ!!」

    アルターエゴ『痛みを逃そうとしてか、思わず声が出た。戦刃の体が限界を迎えてきたのは明らか』

    戦刃「………はぁ……はぁ…」グラッ…

    アルターエゴ『なんとか立ち上がる…しかし』

    戦刃(……やっばい。意識がもうろうとしてきた)

    戦刃(そりゃそうか…これだけ血を流しちゃ……)

    英雄(?)「…もうやめて!死んじゃうよ!」

    あなたがこうさせたんでしょうが!

    アルターエゴ『その言葉は、口から出すことが出来なかった』

    英雄(?)「…殺したくない…もう…たくさん……」

    戦刃(………!)

    アルターエゴ『はっきりしない、ぼやけた視界の中、戦刃は目の前の変化に気がついた』

    アルターエゴ『先ほどまで派手だった見た目が、徐々に地味に。色は薄くなり、髪は黒く、そして服装はまるで軍人のように…』

    戦刃(……そっか)

    アルターエゴ『錆びた歯車程度にしか回転しない今の頭で、戦刃ははっきりと理解した。いや、理解させられた』

    あなたは……

    戦刃「私…」

    英雄(?)「!!」

    英雄(?)「声を出しちゃだめ…!」

    戦刃「…いい……の…私だから……」

    アルターエゴ『先ほどまで“英雄”の姿だった女性が駆けより、戦刃をギュッと抱き締めた』

    戦刃「痛い痛い……」

    アルターエゴ『口ではそう言うが、心は不思議と穏やかだった』

    英雄(?)「うっ……ごめんなさい……ごめんなさい……」ポロポロ…

    戦刃「……いいの。あなたは私。私はあなた。自分を憎んでも仕方がないもんね」

    英雄(?)「ありがっ…とう…うう………」


    シュゥゥウウウウウ………


    「はぁ?なんで憎まないの!?なんでもう1人の自分を好きになれるの!?」

    「ありえないっ!そんなの!笑えないじゃないっ!!」

    「この魔法が………効かないなんてっ!!」

    パリーーーーーン!!!

  268. 268 : : 2014/08/05(火) 12:34:43
    戦刃「…………」

    アルターエゴ『世界がガラスのように砕け散った。そして気がついたら、そこは元の景色』

    ジェノ「なんで……なんで……!」

    戦刃「…自分を否定してる人で、強い人なんていないんだよ」

    ジェノ「……なによっ!根暗なんか好きになれるわけないじゃない!!」

    戦刃「……そう。それがもう1人のあなた」

    ジェノ「殺殺殺殺殺!萌える男子でない以前に男子ですらないあなたをこの手で殺すのは!あたしの殺人道の歴史を塗り替える偉大なことよっ!ゲラゲラゲラ!!覚悟せいっ!!」

    ダッダッダッダッダッダッ………!!

    戦刃「無駄だよ」

    ドスッ!!

    ジェノ「!」

    ジェノ「………嘘…立っているのも…やっとなはずなの……に……」

    戦刃「自分を否定している人に…私は負けない」

    アルターエゴ『腹部に刺したサバイバルナイフを引き抜くと、ジェノサイダーは倒れた。しかしその顔はどこか、ジェノサイダーとはまったく違う雰囲気をかもし出していた』

    戦刃「そう…それがもう1人のあなた…」

    ドサッ

    戦刃(あ……もう立てないや……)

    戦刃(あー…しゃべっちゃだめって私に言われたのに、しゃべりまくっちゃったからかな……)

    戦刃(だめだね。全然私のことわかってなくて)

    戦刃(……私って…………ほんと残念………)




    ガクッ



  269. 269 : : 2014/08/07(木) 00:54:41
    お二人の合作大好きです!

    頑張ってください!
  270. 270 : : 2014/08/07(木) 03:31:42
    頑張ってください!
    気になって眠れなかった……親に怒られる……
  271. 271 : : 2014/08/08(金) 23:48:20


    >>269
    ありがとうございます!
    とても嬉しいです!

    >>270
    気になるような展開なのに待たせていて申し訳ないです!
    頑張ります!





    アルターエゴ『ジェノサイダーが使っていたのは罪の魔法』

    アルターエゴ『対ジェノ用に、ジェノとは別人格の腐川が生み出した魔法』

    アルターエゴ『腐川は自身の罪に負け体を“支配された”』

    アルターエゴ『一方、戦刃むくろは罪を“受け入れた”』

    アルターエゴ『結果的に見ればこの殺し合い(戦い)は引き分け。しかしどちらかを勝者とあげるならば、それはきっと戦刃むくろだろう』

    アルターエゴ『しかし戦場はそんな甘い所では無い。勝とうと負けようと引き分けであろうと、結局人が死ぬのだ』





    ??「終わっちまってたか」

    アルターエゴ『そんな声をもらしつつ、ふわり…とその体格に似合わぬ擬音を纏い、大柄の男が倒れた二人の前に降り立つ』


    ??「見たところ相討ち…、いやどちらもまだ生きてるな」


    アルターエゴ『悲しげに二人を眺め、だが芯のある言葉で男はこう続ける』


    ??「トドメはささない。が、救ってやることも出来ない…悪いな」


    ??「俺の拳は…殺すことしか出来ないからな」


    シュンッ!


    アルターエゴ『そして男は跳びたち姿を消した。そのスピードは戦刃やジェノを遥かに凌駕していた…』



  272. 272 : : 2014/08/08(金) 23:49:17
    ーーーーーーーーーー


    アルター桑田『アポ』

    桑田「」ガクリ

    朝日奈「桑田!?しっかりして」

    五月雨「あっと…ごめんね。あまり手荒な真似したくなかったけどちょっと彼の攻撃が胸に集中してたから…つい……大丈夫生きてるから」

    朝日奈「生きてるからって気絶するような一撃くらって大丈夫なわけないでしょ!」

    五月雨「一応ここは戦場だよ?きっと私以外の人が相手だったら君たち死んでたよ」

    朝日奈「…私たちは…そんな弱くない!バカにしないで!!」

    五月雨「……そっか、そうだよね。ここは戦場。油断は死を招く」

    五月雨「──だから、手を抜くのはやめるよ。使わせてもらうね」

    朝日奈「何を…する気なの?」

    五月雨「君のお友だちも使っていた魔法だよ」

    朝日奈「桑田…?」

    五月雨「いや、えっと確か、苗木君……だったっけ?」

    朝日奈「!……それって」

    五月雨「それじゃあ行くよ…『精神集中』!!」カッ

    朝日奈「!!」

    アルターエゴ『危険──五月雨の自信ありげな目を見て朝日奈は直感的にそう思った』

    朝日奈(私の魔法じゃ…劣化魔法じゃ彼女の魔法は止められ──)


    プシュゥー


    アルターエゴ『が、彼女が思考を終えるより前に、戦場に間抜けな音が響く』


    五月雨「やっぱり見よう見まねじゃダメだよね…はぁ」


    朝日奈(あれ?私何もしてないのに、勝手に失敗した。いや違う…失敗したんじゃなくて出来ないんだ!)


    アルターエゴ『落胆した表情を見せる五月雨。その隙を見逃さず朝日奈は突撃する…魔法が得意ではない故に』

    ひょいッ

    五月雨「よっと…危ないなぁ」

    アルターエゴ『五月雨はひらりとステップするように朝日奈の隙をついた一撃を軽やかに躱す』

    アルターエゴ『何故なら朝日奈と五月雨の間にはそれほどの差があるからだ』

    五月雨「私もどっちかって言うと君みたいなタイプだからさ力の差は分かるんだよね…戦うのは止めておかないかな?」

    アルターエゴ『強者故の余裕。それ故の優しさ。五月雨はそう提案した』

    朝日奈「私は…」

    アルターエゴ『朝日奈は口ごもる。彼女は気付いてるのだ、自分と五月雨との力の差に、勝てないという現実に…』

    アルターエゴ『そこへ与えられた甘い選択肢。本来なら受けるのが得策…の筈なのだが、彼女は口ごもっていた』


    朝日奈(失敗する魔法だけであんなに怖くて…戦場に行くのも怖くて…)


    朝日奈(怖くて。…逃げてばかりで…困難に立ち向かおうとしなくて)


    朝日奈(でも…逃げることは悪いことじゃないよね………そうだよ…無謀なことなんて無理なことなんて──)


    「我はあえて茨の道を行こう」


    朝日奈「!」

    アルターエゴ『突如彼女は親友の言葉を思い出す。どこで言われたか分からないのだが、何処かで聞いた…そんな言葉を』


    朝日奈(そうだ…やっぱり…そうだよね)


    五月雨「いやぁ、流石に霧切ちゃんの頼みでも女の子に怪我させるのはやっぱり抵抗があってさ、君彼女と歳も近いしね……じゃあ私はこれで」

    アルターエゴ『黙りこくっていた彼女に、自分の提案に対し肯定したと受け取りこの場を去ろうとする』

    朝日奈「待ってッ!!!」

    五月雨「…どうしたのかな」

    アルターエゴ『それを朝日奈は大声で制止求む』

    朝日奈「貴女が私に勝たないと、私はその霧切ちゃんって子の所に向かう…!」

    五月雨「……脅しのつもりなのかな…残念だけど彼女は私より強──朝日奈「そうじゃない!!!」

    五月雨(……あぁ…そういうことか…)

    アルターエゴ『五月雨は否定されて初めて彼女の意図を汲み取った……だからこう言う』

    五月雨「分かった…さっきの提案は無し。本気でやろうか」ザッ

    アルターエゴ『そう言いながら五月雨は朝日奈にの方へ向き直し、脚に力をいれる』


    朝日奈「当然だよ…。私はもう逃げない!」


    アルターエゴ『朝日奈は挑発によって自らの逃げ道を塞いだ───五月雨結に勝つため…自分自身を奮い立たせるため』
  273. 273 : : 2014/08/09(土) 00:45:56
    すみません、この演劇(?)のチケット売ってますか?
    いくらですか?
  274. 274 : : 2014/08/09(土) 01:58:49
    >>273
    1000円です。ですが予備学科は10000円です。
    前にもこんなことがあったような…といったところで自分の番書いてきます。
  275. 275 : : 2014/08/09(土) 15:26:13
    五月雨「手加減しないと言った以上……君がどうなっても知らないよ。私も戦争は今日が初めてだったから……どこまで魔力を出せばいいかわからなかったけど……」

    ボォッ!!

    朝日奈「!!」

    五月雨「……恨まないでね」

    朝日奈(なんて……なんて魔力なのっ!)

    アルターエゴ『朝日奈は戦闘経験が、希望ヶ峰学園の中でも特に少ない(その数は10に満たない)。実技戦闘の授業も、彼女は消極的だった』


    ━━━━━━━━━━

    【希望の国:町はずれの森】


    朝日奈「………」

    …ここは、私の憩いの場。

    町から少し離れたところにあるこの森は、町の忙しさとか……うるささとか……そういうものとは一切関係なくて、ただただ静かに、私を癒してくれる。

    私は周りよりも少しだけ体術ができるからという理由で、希望ヶ峰学園に入学した。
    天才少女なんて呼ばれたりもしてたっけ…。

    でも…入学してからは散々。周りのレベルに着いていけないし、戦争なんてしたくない……。

    仁「……ここにいたのか」ザッ

    朝日奈「! 先生…!」

    仁「探したぞ。今日は授業じゃないか」

    アルターエゴ『仁は朝日奈の隣に腰をかけた』

    朝日奈「先生こそ…授業…」

    仁「ん?さぼったんだよ」

    朝日奈「……フフッ!先生サイテーだよ!」

    仁「なぁに言ってるんだ!先生は非行少女のためにこうして授業を投げ出してだな……」

    朝日奈「………うん。ありがとう先生」

    仁「…君は優しすぎるんだよ。だからこの前の実戦授業も、私に対する攻撃は赤ん坊の駄々のようだった」

    朝日奈「………」

    仁「だが私は……君程優しい人を見たことがない」

    朝日奈「!」

    仁「君の優しさは、君だけの取り柄。長所なんだ」

    仁「だから…ずっと優しい君でいてほしい」

    朝日奈「……先生………」


    ━━━━━━━━━━


    朝日奈(桑田との戦いでも…私は甘さを捨てきれなかった!戦いの中に、集中できなかった…!)

    朝日奈(だから私は……!!)キッ!!

    ボォォオッ!!

    五月雨「!! 君……それは!!」

    朝日奈「……?」

    『我流・精神集中』!!



    ━━━━━━━━━━


    【絶望の国:1番街】

    花村「らららコッペパン♪ケツにコッペパン♪」

    豚神「食べ物を粗末にするなと言っているだろう花村。料理人ともあろう者がそれを心得ないでどうする」

    花村「あっ、ツッコムとこそこなんだ」

    花村(今のツッコムは!コッペパンをケツにツッコムともかけているんだよ!さぁツッコメ豚神くん!)

    豚神「しかし、絶望の国と言えば一度食べたい物があったんだが……確かビー…ビー…」

    ?「ビーフストロガノフ…かな?」

    豚神「それだ」

    花村「ちょ、豚神くん!敵!敵!」

    豚神「むっ!」ザッ

    ?「時間が惜しい。タイムイズマネー。さっさと終わらせて高級レストランで晩餐を楽しむとするさ」

    アルターエゴ『しきりに時計を気にするその男は…“ダブルゼロ”の異名を持つ』

    豚神「七村彗星か……」

    七村「ほう、私を知っているのか」

    花村「!?」

    豚神「知らん方がおかしいだろう…」

    花村「!!?」

    花村(あぁ…僕だけが除け者にされて会話が進んでいく……宇宙の誕生を見ているようだ……)ハァハァ

    七村「なら、この魔法も知っているかな?」ズズズ……

    豚神「! 奴から離れろ!!」バッ!!

    花村「え?」

    七村「『激情にして最速』(アレグロ・アジタート)!!」
  276. 276 : : 2014/08/09(土) 16:24:37
    七村さん⁉︎
    そのうちトリプルゼロクラスの人も…

    今更だけど、このss神過ぎます‼︎
  277. 277 : : 2014/08/11(月) 19:49:16
    >>276
    ありがとうございます!
    多分出ません!
  278. 278 : : 2014/08/11(月) 19:50:36


    アルターエゴ『一瞬光が七村を中心に発生したかと思えば彼の姿はそこには無い』

    花村「え?」


    豚神「チッ…間に合え!」

    ドンっ


    アルターエゴ『豚神は七村が魔法を唱えるのと同時に花村へ向け駆け出し、押し飛ばす』

    花村「いてっ」

    花村(豚神君…何で僕を押し飛ばしたの?!…押し倒すのでは無く!!)

    アルターエゴ『そして花村は突き飛ばされる最中、訳の分からぬまま豚神に目をやる…そこには』

    ドゴッ!!

    豚神「がァ!!」


    七村「おおっと、血を吐かないでくれよ。この服は決して安くないんだ」


    アルターエゴ『七村の拳が腹に深々と突きささった豚神白夜の姿だった』

    花村(いつの間に!?…いや、そんなことどうでもいい!)

    花村「豚神君!!なんで僕を庇ったの!?」


    アルターエゴ『戦争行きを決める戦いで先鋒を勤めた花村と、希望つまり最強のポジションについた豚神。どちらが強くどちらがこの戦場に必要かは分かりきっていることだった。』

    アルターエゴ『それゆえに花村は庇われたことに疑念を持った、だからそう叫んだ。それに対し豚神は』

    豚神「理由など…仲間だからと言う理由で十分だろ?」ガハッ!

    アルターエゴ『口内に溜まった血を吐き出しながらそう言った』


    七村「おいおい」

    アルターエゴ『そんな彼に対し七村は今にも笑いそうな顔で言い、吐血を避けるため既に豚神から距離をあけた場所でこう続ける』

    七村「嘘は止めたまえ。嘘は人の価値を下げてしまう…まあどうやら君には価値が無いようだけれど」

    アルターエゴ『口から血を流しながらも強がるように言う豚神に対し七村は言う。嘘をつくな…と。』

    花村「ど、どういうこと?」

    七村「何、そのままだよ。豚神君…と言ったかな。君は魔法を使えない、いや彼の反応から正確には、使えなくなった…と言うのが正しいのかな」

    豚神「…くっ」

    花村「豚神君が…魔法を使えない?そんなバカなことがあるわけないよ!」

    七村「お友達はそう言ってるけど、どうなのかな?」

    豚神「………」

    七村「ほら。言い返してごらんよ」

    豚神「…………」

    花村「豚神…くん?」

    豚神「………るさ…」

    七村「ん?よく聞こえないね」

    豚神「使えるに………使えるに決まってるだろう!!ナメるな愚民!!」

    ピカッ!!!!!

    七村「ッ!」バッ

    アルターエゴ『豚神が怒号をあげると同時に彼の手のひらから閃光が放たれる。不意をつかれたその光に七村は腕をクロスさせるようにし目を覆いその場から後ずさる』

    七村(基本的、そのうえ誰でも使える一般的な魔法。ナメるなはこちらの台詞だ、近付けば気配で…)

    アルターエゴ『目を瞑りながらも戦闘体制を崩さない七村。だが、豚神の追撃はなかった。』


    アルターエゴ『そして閃光は止まり白くボケていた七村の視界は徐々に街並を捉え始めた頃七村は気付く』

    七村「居ない…!逃げたのか。全く、私の手を煩わせないでほしい」

    アルターエゴ『みすみす逃がしてしまったことへの苛立ちを七村は瞬時に切り替える。何故なら金にならないから…そして大した問題ではないからだ』

    七村「彼ら程度なら速くて数分で見つけられるだろう」ニッ

    アルターエゴ『そんな言葉を残し七村は、一瞬だけ光を放ち。消えた』



    ーーーーーーーーーー


    【ダストボックス】



    花村「ふう…行ったみたいだね。彼とは相性が良さそうだ。ちょうど僕も逝った…」

    豚神「少しは自重しろ!」

    花村「それにしてもダストボックスで二人きりなんて、ムードを考えようよ。まあ僕はバッチコイなんだけどね!」

    豚神「何故その流れで話が進む!…ここに隠れたのはゴミの臭いで血の臭いを誤魔化すためだ」

    花村「ふんふんなるほどね。それにしても逃げずに隠れるなんてよく思いついたね!いつか覗きのコツをレクチャーしてよ。それか一緒に入らない?」

    豚神「断る」

    花村「ヤらないか?♂」

    豚神「やらない」

    花村「そっか残念だな…それでさっきのことなんだけど。やっぱりあの人♂の言うことは間違ってたんだよね?」

    豚神「……」

    花村「戦争の代表争いの時だってあんなに凄い魔法使ってたし」

    豚神「………」

    花村「しかもさっきだって魔法を使っ──豚神「…花村。よく聞け」

    アルターエゴ『もう耐えれない。そんな彼らしからぬ表情をしながら豚神は言う』

    豚神「俺は魔法は………あの時希望戦で見せた魔法は………もう使えないんだ」

    花村「……え?」

    アルターエゴ『もう使えない。つまり二度と使えない。豚神は戦場のど真ん中でそんな絶望的なこと言った』



  279. 279 : : 2014/08/11(月) 19:54:24



    ーーーーーーーーーー



    『我流・精神集中』


    アルターエゴ『我流とはよく言ったもの。朝日奈のそれは『我流・精神集中』であって決して精神集中ではない』


    アルターエゴ『補足であるが肉体強化魔法と違って、モードオーガや精神集中などの魔法は無我の境地を極めないと使えないものだ』

    アルターエゴ『そしてモードオーガと精神集中の最大の違いは足し算と掛け算と言うところである』

    アルターエゴ『モードオーガは、大神さくらという器に力を重ねる魔法。だから姿も変わる』

    アルターエゴ『一方精神集中は限界を越える魔法。人では不可能なことを一通り可能にしてしまう魔法。つまりは先程まで述べた通り限界突破の魔法』

    アルターエゴ『対して朝日奈の『我流・精神集中』は限界を越える魔法ではない。朝日奈が優しさによりセーブしているものを解き放つ。ようはリミッター解除の魔法』

    アルターエゴ『つまりどちらかと言えば七海がこまるに使った魔法に近い。…たが最大の違いは、能動も受動も彼女自身なので相性は完璧ということである!』








    五月雨「……」

    アルターエゴ『目の前の少女の覚醒。それを見た五月雨は自分のポリシーと霧切を天秤にかける』


    五月雨(ああ…この子は絶対に霧切ちゃんの所に行かせちゃダメだ)


    五月雨「かかってきなよ。後遺症が残らないくらいにはしてあげるから」クイッ

    アルターエゴ『眼鏡の位置を整えながらそう言う五月雨…だが、眼鏡に意識を向けたその一瞬で既に朝日奈のいた場所には砂塵が上がっていた』

    五月雨「!!」

    朝日奈「はァ!!」

    ドゴッ!

    アルターエゴ『五月雨の背中に強い衝撃が走った。朝日奈の正拳突きである』

    五月雨「グゥっ!」タッ!

    アルターエゴ『拳を受け流すため瞬時に前に跳ぶも、それで勢いが完璧に殺せるはずもなく五月雨は痛みによりうめき声をあげる』

    五月雨(速いな…そして何より、迷いが無い)

    アルターエゴ『そして五月雨は改めて朝日奈へ向き直し構えた』




  280. 280 : : 2014/08/11(月) 22:17:58


    五月雨「……なるほど。見違える進化だよ」

    アルターエゴ『左手を前に突きだし、右手を腰の辺りに構える。やや半身となって、朝日奈の出方を伺った』

    アルターエゴ『普段なら、こうはしない。出方を伺っていれば、相手が魔法を使う隙となるから』

    アルターエゴ『しかし、今回の相手は体術に特化している。それならばと、カウンターを主体に攻めることにした』

    五月雨(ほら、どこからでもきなよ。どうせ次の組み合いで終わりになる……それなら好きなことさせてあげるよ)


    ━━━━━━━━━━


    【絶望の国:2番街】

    不二咲「はぁ……はぁ……!」ダッダッ!!

    アルターエゴ『不二咲千尋は、たった1人で絶望の国に放り込まれた』

    アルターエゴ『周りのモノ全てが敵に見えた。元々臆病な性格の彼。そんな彼の出した結論は、「走る」ことだった』

    アルターエゴ『周りのモノが景色として流れていく。これならばいつかは、味方に会える!』

    不二咲「…………」ダッダッ!!

    アルターエゴ『……しかし、一向に、味方はおろか敵の姿すらない』

    不二咲(……だめだ。落ち着かないと!)

    アルターエゴ『…故、不二咲は足を止め、いったん呼吸を落ち着かせる』

    スー… スー…

    不二咲(………よし)

    アルターエゴ『そして、魔法を詠唱!』

    不二咲「『天空の眼』(ゼウス・アイ)!」

    ヴォオーン!

    不二咲(これで…みんなの位置を把握すれば!)


    ━━━━━━━━━━


    【inダストボックス】


    ガタンッ!!

    豚神・花村「!」

    アルターエゴ『暗いダストボックスの中を、光が照らした』

    七村「やぁ…お二人さん」

    ドォン!!

    アルターエゴ『ダストボックスを無理矢理破壊し、強引に左右に飛び出した』

    アルターエゴ『七村を挟んで、豚神と花村が向かい合うように立つ』

    豚神「…早かったな」

    七村「ここは私達の国だ。そこに隠れるなんて君は随分と浅はかだったようだね」

    豚神「チッ!」

    七村「…さぁ、鬼ごっこはもう終わった。これからはコロシアイの時間だ」

    花村「……っ」

    七村「………!?」

    アルターエゴ『まさに絶体絶命かと思われた……その時』

    アルターエゴ『七村の目に、異形な物体が映り込んだ』

    七村(なんだ……あれは…)

    空に浮かぶ……眼!?

    七村(………)

    アルターエゴ『七村は頭を回した。彼は頭の回転がとにかく早い。故、答えにたどり着くのも早かった』

    七村(危険な魔法を使う輩がいる…!)

    アルターエゴ『七村は、あの魔法がどういうモノか知らない。しかし、七村の戦闘によって培った経験と、勘が、今相手にしている2人より……そしてこの戦争に影響を及ぼす程危険だと判断した』

    七村「……すまない。優先順位が変わったようだ」

    カッ!

    アルターエゴ『七村の足下に、魔法陣が出現した。そしてそれに吸い込まれるように、七村の姿が消えた』

    豚神「………」

    花村「………た、 「助かってねぇぞ」

    豚神「!! 花村ーッ!」


    ━━━━━━━━━━


    不二咲(……見えた!みんなの位置が!)

    七村「やぁ、ご機嫌よう」

    不二咲「!」バッ!

    七村「ふふ…どうしたんだい?死体の第一発見者みたいな顔をして」

    不二咲「ハァ……ハァ…!」

    アルターエゴ『ゼウス・アイは対象者の戦闘力をおおよその数値として表すことが可能である。それによって出された目の前の男の数値は……松田夜助と遜色のない高さだった』

    ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!

    不二咲(この相手と戦ったら……僕は……!)

    七村「………ふふふ。君は実にいい顔をするね。結構好みだよ」ペロッ

    アルターエゴ『七村は、頬を赤らめて舌で上唇を舐めた。不二咲の背中に悪寒が走る』

    七村「決めた。君は殺さない。私専用のペットにしよう…!」

    不二咲「───ッ!!」ポロッ…

    アルターエゴ『不二咲の目には、涙が溜まっていた』
  281. 281 : : 2014/09/14(日) 21:56:54

    不二咲(怖い…怖いよぉ)

    アルターエゴ『戦争という圧力に加え純粋な恐怖が不二咲の心を押し潰し「恐れ」で彼自身を支配していた』

    七村「君はペットだ。両手を地面についてこうべを垂れろ」

    不二咲(強くなったって思ってたのは自分だけだった…僕は何も変わってなんか…いなかった)スッ

    アルターエゴ『膝を震わせながら、不二咲は膝を曲げる』

    七村「さあ、近付いて舐めるんだ」

    アルターエゴ『七村はそんな不二咲に追い討ちをかけるように靴を向ける』

    不二咲「…」

    七村「返事はどうした?」

    不二咲「……は…」


    ヒュゥウウウウウッ!!


    「このゲスがぁぁ!!」


    不二咲「…え?」


    ダァン!!!!

    アルターエゴ『不二咲の返事を遮るようにその声は響き、それと共に七村と不二咲の間に空から少女が落ちてきて巨大なクレーターを作った』

    七村「…安い登場の仕方だ…。スーツが汚れたらどうする」

    「不二咲よ…無事だったか?」

    不二咲「その声…まさか!」




    大神「一人で不安だったな…。待たせてすまなかった」


    アルターエゴ『窮地に陥っていた不二咲の前に現れたのは、かつて力をぶつけた希望ヶ峰学園最強の一人と言われている少女…大神さくらだった』




  282. 282 : : 2014/09/14(日) 21:58:10


    七村「まるで悲劇の少女の前に現れた王子様のようだね。…不愉快だよ」

    大神「我は女だが?」

    七村「……おっと、それは失礼」

    不二咲「僕は男だよぉ」

    七村「!!」

    アルターエゴ『七村は動揺を隠せなかったようで、目を見開きながら口を開く』

    七村「そうかそうか…それなら君は要らないよ…女性と言うなのペットとしての価値が無いのなら首だけになって貰わないと」

    不二咲「ひぃっ!」

    アルターエゴ『七村は先程のいやらしい目付きではなく金と言うなの獲物を狙う獣のような目を不二咲に向けた』

    大神(ヤツの戦う理由は金か…)


    アルターエゴ『それに対し大神は嫌悪を抱いたわけでも呆れたわけでも無く、そういうことだと理解した』

    アルターエゴ『人には戦うのに必ず理由がある。そしてそれに応じた強さを持っている。それだけのことだと』


    大神「三分だ」

    七村「何のことだい」

    大神「三分で決着をつける」

    七村「ははっ、何を言うかと思えばそんなことか……違う違う」

    アルターエゴ『七村は可笑しそうに笑い、嘲るようにこう続けた』

    七村「── 一分だ。勿論君が負けて決着がつく。君たちの命は金になる。だから…死ね!!」シュンッ!!

    アルターエゴ『七村は発光を起こし、彗星のような速さで大神目掛け襲いかかった!』

    不二咲「大神さん!!」

    アルターエゴ『彼女はモードオーガをしていない状態だった…つまり最高の状態ではない』

    七村(先手必勝さ…一分も掛からなかったな)

    アルターエゴ『そして、七村の手刀は大神の首を貫──────かなかった』

    ドゴンッ!!!

    七村「ガはっ!?」

    アルターエゴ『背中に走る激しい痛みと共に七村の体は地面に叩きつけられる』

    アルターエゴ『正確には半身で七村の手刀を躱した大神のアームハンマーによってだ』

    七村「ッあ!!……くそ…貴様ァ!!」

    アルターエゴ『慢心を捨て血走った目で七村は大神を睨み付ける』

    アルターエゴ『それに対し大神は、余裕の表情で…だが一切の隙を見せずにこう言う』

    大神「確かにお主は速い…だが、速いだけの人間に我は負けぬ」

    七村「高々ガキが調子に乗るな!」

    アルターエゴ『吠えるように七村は叫ぶ。それでも大神は穏やかな表情で不二咲に対しこう言う』

    大神「不二咲よ…少し離れていろ。…一瞬で終わらせる」

    アルターエゴ『そう言い終えると同時に赤黒いオーラが大神の身を───』


    不二咲(これで良いの?…後ろで女の子が戦うのを見ている…これが僕の目指していた強さ?……違う。違うよ僕が目指していた本当の強さは!!)

    不二咲「……待って」


    アルターエゴ『──包む直前。不二咲は制止を呼び掛けた』

    大神「どうしたのだ?」

    不二咲「あの形態になるのは凄くエネルギーを使うよね?」

    大神「ああ」チラッ

    アルターエゴ『大神は七村の動向を伺いながら不二咲の質問に答える』

    不二咲「なら、こんな『雑魚』相手に使うのは勿体ないよぉ」

    七村「雑魚…だと?」

    不二咲「彼程度なら…ぼ、僕一人で十分だよ。だから、大神さんみたいに強い人は舞園さんや朝日奈さんの元に行ってあげて!」

    大神「…それではこの場はどうする」

    不二咲「僕が倒す」

    大神「!…本気か?」

    不二咲「本気だよ。僕だって誰かを守るために戦いたい。強くなるためでもお金のためでもなく誰かのために!!」


    ??「よく言った不二咲!!」


    ドスンッ!!


    アルターエゴ『そんな声とともにまたも地面にクレーターが造り出される』

    豚神「いけ、大神さくら。ここは俺と花村不二咲の三人で十分だ」

    花村「僕らに…任せて」

    アルターエゴ『現れたのは既にボロボロの花村と豚神白夜だった』

    不二咲「…大神さん…僕らに任せて……いや信じて」

    大神「…………分かった。だが決して死ぬな」シュンッ!!

    アルターエゴ『大神は不二咲の目を見て、彼を信じることを決めその場を後にした』



    七村「おやおや、一人減ってしまったか…だが結果的に金が増えた。ふふふっ、どちらが雑魚か骨身の髄まで叩き込んであげよう!!」

    アルターエゴ『3対1 明らかに人数差で不利な状況でも七村は絶望するのではなく。嬉しそうに本心から笑っていた』

    豚神「弱い犬ほど良く吠えるな…。」

    七村「ん?」

    豚神「宣言しよう一撃だ。一撃でお前を殺す…十神では無く、俺の名に懸けてだ!!!」

    七村「やってごらん…一撃で死ぬのはどちらかな?」



  283. 283 : : 2014/09/16(火) 22:31:05


    カッ!

    アルターエゴ『言い終わると同時に七村の体が青白い光に包まれる』

    フッ

    アルターエゴ『そして、3人の視界から一瞬で姿を消した』

    豚神「!」

    七村「後ろだ」

    豚神「チッ!」バッ

    アルターエゴ『声に振り向き、構えを取る』

    花村「うわぁっ!」

    アルターエゴ『が!』

    豚神「!? 花村!」

    アルターエゴ『前のめりに倒れ込み、地面とキスをする花村…そしてそれに視界を移すと』

    七村「こっちだ…」

    豚神「!」

    アルターエゴ『今度は真上からの声…』

    豚神「ッ!」バッ

    アルターエゴ『それに反応し、とっさに回避行動を取った。しかし!』

    豚神「!」

    七村「やぁ…いい反応じゃないか」

    豚神「……!」

    アルターエゴ『回避した先に…七村は居た』

    ドガッ!!

    不二咲「!!」

    アルターエゴ『蹴り上げられ、巨体が宙に浮く。そしてその途中、花村がやっと体を起こしたところ…花村は再び地面にキスをした』

    不二咲「あ…あぁ…!!」

    …糸。

    そう、青白い光が通ると、それは糸のような残像を残し…それに当たった仲間が傷ついて行く。

    アルターエゴ『不二咲はその光景を、自分の太股をこすりあわせながら見ているしかなかった』

    アルターエゴ『そしてそんな自分に、たまらなく悔しい思いを感じていた…』

    不二咲(僕には攻撃力がない…)

    不二咲(僕の魔法なら…どうにかあの素早い動きも“視る”ことができる)

    不二咲(…でも、それを口で伝えるんじゃ遅い…通信魔法は…気を散らせてしまう…)

    豚神「ッ…!」

    七村「どうした?デカいのは口と体と態度だけかな?」

    花村「グッ……カ、彼は…ペ○スだって……!」ググ…

    七村「おや、失礼したね」

    バキッ!

    花村「……グフッ…!」ドサッ

    不二咲(……!)

    不二咲(時間がない…!でも、僕ならどうにか出来るはず…わかる!何をすればいいか!)

    バッ!

    アルターエゴ『不二咲は上空を見つめ、0.2秒頭を回転させた。(この間、誰かが攻撃を受けた音が一瞬思考を鈍らせる)そして答えをそのまま実行しようと、もう一度2人を“視る”!』

    七村「!」

    アルターエゴ『そして、七村はまた感じた…あの魔法を見た時と同じ予感…』

    七村(そうだ!私としたことが…目の前の豚2匹なんかより、あの子の方がよっぽど危険だったというのに!)

    ヒュンッ

    アルターエゴ『青白い閃光が不二咲に向かって伸びてゆく。文字通り彗星となった七村のスピードは、光にすら近づきつつあった』

    アルターエゴ『……だか、七村は知らなかった。いや、気づかなかった。自分よりも速く動いていたモノに…』

    ガシッ!

    七村「!」

    花村「えへへ…捕まえたよ!」

    七村「なっ!?」

    豚神「よくやった!花村!そして…不二咲!!」

    七村「!?」

    不二咲「えへへ…!僕、役に立てた!」

    豚神「あぁっ!お前は立派な…強い男だ!!」

    七村「………!!?」

    アルターエゴ『七村より速かったモノ。それは不二咲が放った魔法だった』

    アルターエゴ『そう。不二咲の魔法、『天空の眼』(ゼウス・アイ)は確かに強力。しかし、肉体の強さがあってこそ真価を発揮する魔法である』

    アルターエゴ『そこで考えた。『天空の眼』(ゼウス・アイ)を他人に移すことは可能か?』

    アルターエゴ『決まっていた答えは、「やってみなくちゃわからない!」。すぐさま決行し、そして結果は…見ての通り。圧倒的視力の強化によって、動きを予測し、七村を捕獲することに成功した』

    不二咲「『天空の悪戯』(ゼウス・トリック)……!!」
  284. 284 : : 2014/09/29(月) 03:43:21



    七村「…なるほど大体分かった。だが愚策だ、背後から不意打ちを仕掛ければ少なからずダメージは与えられていた筈だったのにな!!」

    アルターエゴ『七村はしがみつく花村を強引に振りほどこうとする───その瞬間!!』


    ゴゥ!!!


    アルターエゴ『そんな音とともに巨大な鋼の腕が3本、地面を裂くようにして現れた』

    七村「なんだこれは!?」

    花村「この『眼』だからこそ分かる。君の強さが!僕の攻撃じゃ、“まだ君を逝かせる”ことは出来ないってことがさ!!!」

    不二咲「だから!!これで決めさせてもらうよ!」ブンッ!

    アルターエゴ『不二咲が手を翳すのと同時に力強く握られた鋼の拳が一斉に七村を襲う!』

    七村「!」

    花村「へへっこれで終わりだよ!」

    七村「…甘い」タンッ!

    アルターエゴ『誰もが勝利を確信したであろう瞬間。七村は一瞬の光と共に跳んだ。左右に避けさせまいと必死に組み付いて居た花村の逆手を取るように』

    豚神「なん…だと?」

    アルターエゴ『七村は簡単に言えばバク宙をした。…そして一瞬だけ後ろを向いた…つまり花村を鋼の拳へ向けた』

    花村「…嘘でしょ」


    バキベキボキッ!!!!!


    花村「うわぁぁぁあぁぁあん!!!!!」

    アルターエゴ『耳を塞ぎたくなるような破壊音。目も背けたくなるほどの絶望的な光景』

    七村「なるほどなるほど、これを見切れないとは先程の魔法は尽きたのかな?」ニヤッ

    アルターエゴ『花村の拘束が解けた七村は勝ちを確信し、嫌な笑みを不二咲へ向けた』

    不二咲「…」ハァハァ


    アルターエゴ『明らかに疲弊している不二咲。それもその筈、元々魔力を大幅に使う『天空の眼(ゼウス・アイ)』を新たに『天空の悪戯(ゼウス・トリック)』へと進化させたのだ…一瞬使えただけでも褒められたことだろう──』


    七村「万策尽きたようだね…先程の白髪にも礼をしたい所なのでそろそろ終わらせてもらおうか」


    アルターエゴ『──だが、死んだら何も残らない。この魔法も記録に載らず誰からも褒められはしない。…残るものがあるとするならばせいぜい墓標に刻まれる自身の名前ぐらいだ』


    不二咲「うぅ…」

    七村「狼狽えてもダメだよ。…少年」スッ

    アルターエゴ『七村は一歩…また一歩と、不二咲に近付く。ゆっくりと楽しむように』


    花村「ま………ち…なよ」


    アルターエゴ『その時。花村は既に外も中もズタボロの身体を奮い立たせ立ち上がった。そしてこう言い放つ』

    花村「総受けの不二咲君を攻めるのは……僕の役目さ」ウィンク☆ミ

    不二咲「!!」

    七村「死に損ないが…悲しいな、それが最期の言葉とは!」


    ピカッ!!!


    アルターエゴ『その時、戦場に見慣れた眩い光が発せられる!!…ただし、発生源は…』

    豚神「この為に魔力を練り続けた!!やれ!花村!!!」

    七村「豚が…一度見た魔法だ。私には無意味だ!」

    花村「だから……だから何だって言うんだ!!!うぉおおおおおおおおお!!!!!!!」ダァァン!!!!!!!!

    七村「!?」

    アルターエゴ『花村は大地を蹴る。それに対し七村は一瞬怯んだ。──何故ならそのスピードは今までとは桁違いに速かったからだ』



  285. 285 : : 2014/09/29(月) 03:44:02



    『花村輝々は誰よりもタフな所が長所だった。』

    『だが、それと同時に誰よりも遅く。誰よりも魔力の量が少なかった。』

    『朝日奈のように魔力を魔法に変える力が無いわけではなく。魔力がごくわずか、予備学科にも劣るほど無かった』

    『そんな花村が何故希望ヶ峰学園に呼ばれたか…タフだったからか?勿論違う』

    『『痛み返し』これが花村の本当の魔法名』

    『名の通り、受けた痛みを相手に返すカウンターの魔法──と思われているがこれはかなりの語弊』

    『正確には、痛みを…受けたエネルギーを魔力に変える。ダメージを受ければ受けるほど魔力として“返ってくる”魔法……これが本当の『痛み返し(ドMの美学)』』







    豚神「これで…奴の命を狩る所に届く!!」

    七村(この猪が言っていた、「“まだ”届かない」はそういうことか!!)

    花村「一撃で…決める!!!!」


    ギゥイイイイイイン!!!


    アルターエゴ『発光を纏い七村へ向け高速で迫る花村。その瞬間七村にはあるビジョンが見えた』

    七村(このスピードこの光…ハハハ、全く皮肉だよ)

    七村「これは、白髪の女には彼らの首を持って感謝しなくてはな!!!」

    アルターエゴ『七村は花村を自分自身に重ねた、そしてその対策を先程その身で受けたばかりだった』

    七村「いくら速くても──…!?」

    アルターエゴ『一歩脚をずらし、半身になり七村は両手を握り振り上げた……そしてその瞬間に見た』

    不二咲「……」

    アルターエゴ『『天空の眼(ゼウス・アイ)』を発動している不二咲千尋に』

    七村(アイツは一体何を視ている?何を…)


    アルターエゴ『明らかに無意味である魔法の発動への自問。その答えは一瞬で分かった』


    ゴゥッ!!


    アルターエゴ『目の前に既に見慣れた鋼の腕が地面から現れたことによって』


    花村「たぁ!!!」ドゴゥ!!!!

    アルターエゴ『そしてそれを花村は三角飛びの要領で蹴り、反動で鋼の腕を吹き飛ばしながら跳んだ!』


    七村「ッ!!!」


    アルターエゴ『そして、高速のまま腕を振り上げ隙だらけのボディに花村は突っ込む!!』


    七村(う、嘘だ)


    七村(これは何かの間違いだ…)


    不二咲「君は勘違いしていた…僕の鋼の腕の合計操作数は…四本!」


    七村(悪い夢…悪夢。そうとしか考えられない…そうでなければ…)


    豚神「全てはこの一撃の為のブラフだった!やれ!花村!!」



    七村「何故私が…こんな…こんな屑どもにィイイ!!!!」




    花村「ヤられたらヤり返す……百倍返しだッ!!!!」カッ!!


    七村「クソォオオオオオオオオオオ!!!!!!!」


    アルターエゴ『七村は避けることが、否、動くことが出来なかった。いくら高速で動ける彼も、そのスピードを初速から出すことは不可能だからだ』


    ゴキャッッ!!!!!!!!!!!


    アルターエゴ『そして人と人が衝突したとは到底思えない音が響き。戦場にまた一つの終わりを告げた』


    不二咲・豚神・花村 win


  286. 286 : : 2014/10/03(金) 19:09:49

    【絶望の国:6番街】


    ~♪

    アルターエゴ『空気の読めない陽気なBGMが、静まり返った戦場に、これまた静かに反響していた』

    アルターエゴ『おおよそ戦場に似つかわしくないスーツという格好で、片手をポケットに突っ込み、隙だらけな空間を演出しながら、鼻歌まじりに歩いている男がいた』

    ヒュゥウン…

    アルターエゴ『その男の命を刈り取るべく、壁から浮き出るは赤の魔法陣』

    アルターエゴ『その光に男が気づいた…その瞬間』

    ボォォォオオオオ!!

    アルターエゴ『魔法陣から放出された、生き物を根絶やしにする力…灼熱の炎』

    ~♪

    アルターエゴ『……を、鼻歌まじりにヒラリヒラリと避けていく』

    アルターエゴ『乱舞する炎なんざ、どこ吹く風と言った表情で』

    「………」

    アルターエゴ『壁に大きく穴が空いたその家を見て、鼻歌が止まった』

    「………スゥ」

    アルターエゴ『小さく息を吸い込み…そして』


    ━━━━━━━━━━


    霧切「!!」

    ザワッ!

    アルターエゴ『全身が「警告」を伝えるようにして身震いした』

    アルターエゴ『居る。霧切は確信した』

    アルターエゴ『外から漏れた…今まで感じたことのない魔力。それに対する既視感。矛盾』

    アルターエゴ『その答えとなるべくして、待ちかまえる人物には心当たりがあった』

    アルターエゴ『ぽっかりと空いてしまった壁の大きな穴は、皮肉にも霧切の心を映しているかのようだった。その穴をくぐり…外に出ると』

    仁「………」

    霧切「………」

    アルターエゴ『敵は居た』

    アルターエゴ『お互いに言葉は交わさず。目と目で相手をさぐり合う』

    仁(……鮮麗された魔力の練り方…隙のない構え…見事だ)

    仁(…少し嬉しくなってしまうな)ニヤ

    霧切「ッ!」ゾクッ!!

    仁(おっと…感情が高ぶると魔力のコントロールが効かない癖まで…受け継いでないといいが…)

    ズキッ!

    仁「! ガッ!」

    霧切「!(吐血…!?)」

    仁「…フフ…私に限られた時間は少ないようだ……」

    仁(死ぬまで攻撃し続ける魔法…どうやら本当だったようだ。まったく、恐ろしい魔法を開発する)

    仁「私に復讐を望むなら…早くしたまえよ…!」

    ゴォッ

    アルターエゴ『唐突な魔力の流れ…霧切は当然反応する』

    アルターエゴ『対抗するように魔法を詠唱しようとする。が、遅い』

    仁「…『動けない。動かない』(コカトリス・ブレス)」

    ブワァッ…!

    アルターエゴ『霧切を中心に、濃い霧が景色を包んだ』

    アルターエゴ『詠唱をやめ、咄嗟に後方へ跳ぶと…』

    カチ…コチ…

    霧切(…!辺りの草木が石のように固まっていく…)

    アルターエゴ『咄嗟に。ただ咄嗟に』

    霧切「『裏切りへの模範回答』(カウンター)!」

    バサッ!

    アルターエゴ『霧切の魔力が突風となって、辺りの霧を払った』

    仁(おぉ…いい魔法だ。まるで私を倒すためにあるような)

    スタッ

    アルターエゴ『霧の晴れたところに、霧切は着地した。仁はその様子を眺めながら、次なる魔法の詠唱へと入る』

    霧切「…私はあなたを許さない」

    仁「そうか。少しでも記憶があってよかった」

    ボォ…

    アルターエゴ『仁を中心に、今度は赤い霧が辺りに立ちこめた』

    仁「この魔法は少し違う。さっきのような魔法では対処できないだろう」

    霧切「………」

    仁「さぁ…どうする!」

    パチンッ!!

    アルターエゴ『指を鳴らした瞬間、閃光が霧切の視界を塞ぎ───』

    仁「『360度』(エアー・ボム)!」

    ドゴォォオオオオン……!!!

    アルターエゴ『霧は、爆発へと変わった』


  287. 287 : : 2014/10/06(月) 17:45:42
    大変なことになってきたなぁ…あ、今更か
    あと、見直してみてやっと分かったんですけど
    「騎士」ってもしかして「VUQ」ですか?
    PCの暗号です

    期待×100です!頑張ってください!
  288. 288 : : 2014/10/06(月) 19:04:52
    違いました。「]ox/」でした
    連投ごめんなさい
  289. 289 : : 2014/11/05(水) 03:27:58
    >>287
    期待ありがとうございます!

    リレーなので、伏線に気付かないことも多々です!騎士は言ってしまうとよく分かりません!
  290. 290 : : 2014/11/05(水) 03:28:59



    アルターエゴ『爆風でスーツの裾を揺らしながら仁は煙の中心を眺める』

    仁「まだ終わりじゃないだろう?がっかりさせないでくれ」

    アルターエゴ『そして煙が晴れたとき…そこに霧切の姿はなかった』

    仁「ほう…逃げたか?───霧切「後ろよ!」ブンッ



    アルターエゴ『一瞬見せた隙。それを見逃さず霧切は蹴りを放つ…だが』

    スカッ

    霧切「!?」

    アルターエゴ『確かにその蹴りは仁を捉えた、脚は胴体を蹴り抜いていた筈だった。しかし手応えは無かった』

    仁『いつ、その私が私だと錯覚していた?』

    アルターエゴ『その声とともに霧切の目の前に居た仁は霧のように消え先程まで居た爆心地に仁は立っていた』

    仁「おやおや、怪我をしてるじゃないか…『360度(エアー・ボム)』すら避けることが出来ないのかい?」

    アルターエゴ『仁は挑発するように言う。いやこの場合は試すように』

    仁「もっと、私を楽しませてくれよ」

    霧切「別に私は貴方のために戦ってるわけじゃないわ…全部私のため!」スッ

    アルターエゴ『霧切は手を仁に向け手を伸ばし放つ』

    霧切「死神の呪縛(イン・ビトロ・ローズ)!」

    仁「……何も起こっていないが?」

    アルターエゴ『仁は一切の隙を見せることなく、霧切の魔法の出方を窺っていた』

    霧切「ええ、そうね。貴方の見える範囲では」

    アルターエゴ『その言葉とともに地面から無数の薔薇のツタが現れ仁を捕縛する』

    仁「ぐっ…」

    アルターエゴ『棘が食い込み血が流れ、それを養分とするように一面に紅い薔薇が咲き誇る』

    霧切「私がさっきまで立っていた場所よ。何もしてないわけないでしょう?」

    仁「…なるほど、面白い」ククッ

    霧切「何が可笑しいのかしら?」

    アルターエゴ『明らかに劣勢。その状況で仁は笑っていた』

    仁「いや、可笑しいんじゃない。嬉しいんだ」

    霧切「痛みで快楽を覚える人もいると本で読んだことがあったのだけれど、実際に見ると異常ね」

    アルターエゴ『未だツタを張り巡らせ、四肢を切り裂くように食い込む棘』

    仁「君と久し振りに話せて私は嬉しいよ。だが、そろそろ遊びは終わりにしよう…」

    アルターエゴ『その一言のあと、薔薇は消えた。まるで雲散霧消するかのように』

    霧切(私の魔法が消えた?一体何が…)

    仁「さあ、第2ラウンドだ響子。早く私を楽しませてくれ!」

    霧切「…!」ゾワッ

    アルターエゴ『未知とは恐怖だ。その時霧切は初めて、己の恨みの相手に恐怖した』






  291. 291 : : 2014/11/05(水) 08:03:13


    仁「響子……思えば、お前をどこにも連れて行ってやれなかったなぁ……」

    霧切「……!」ズキンッ!!

    アルターエゴ『言葉の一つ一つが棘となって、記憶というぽっかりと空いた複数の小さな穴を刺激した。脳裏に蘇る…家庭を映したフラッシュバック』

    霧切(…こんな時に……)

    仁「『霧が全てを包み込む』(ドミネイト)……」

    ファサァ……

    霧切「っ!」

    この霧は…風で散るような生やさしい物じゃない!下手に飛ばしては、皆に迷惑がかかる…!

    バッ!

    仁「!」

    アルターエゴ『霧切はあろうことか敵前で背を向け、自分の家の中へと走り出した。戦争で逃げる兵士など、本来なら許されるはずもないが』

    仁「…ハハ、待ってくれよ響子」

    アルターエゴ『“親子喧嘩”なら、それは許されるだろう』

    霧切「……」タッタッタッ!!

    「響子…ごめんな。今日も遅くなる」

    「えー…遊べないの?」

    「ごめんな…パパの力が必要な人が、この世にはいっぱいいるんだ」

    ……私だって、パパの力が必要なのに

    霧切「!」ズキッ!

    霧切(また…!)

    アルターエゴ『蓋が外れ、限界まで入れられていたその壺から“記憶”が止めどなく溢れ出す』

    「私の言うことを聞きなさい!響子!」

    「うぇーん……うぇーん……」

    霧切(……うるさい)

    霧切(うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!!)

    仁「いい家に住んでるじゃないか…」

    霧切「…!人の家に…土足で踏み込まないで!!」

    ブワァーーッ!

    …つれないなぁ、響子

    霧切「!」

    アルターエゴ『魔力のエネルギーを凝縮した弾が、仁の額めがけて撃ち出された!』

    ギュゥゥゥウウウ……!!

    人の記憶には、土足で踏み込んでもいいのにかい?

    パァン…!

    霧切「………っ…」

    アルターエゴ『…その弾は、仁から放出されたまったく同じ弾によって、仁のすぐ目の前で四散した』

    仁「…綺麗な色だな。まるで響子みたいじゃないか?」

    霧切「…ハァ……ハァ………」

    ………うるさい

    仁「…だが、言ったはずだぞ。遊びは終わりだと…。まだ甘え足りないのか響子」

    霧切「うるさい!!!」

    仁「!」



  292. 292 : : 2014/11/09(日) 18:38:25
    期待!
  293. 293 : : 2014/11/12(水) 17:09:46
    きたーーーーーーい
  294. 294 : : 2014/11/25(火) 00:08:04


    霧切『精神…集中!!』


    ヒュオオォっ!!


    アルターエゴ『霧切が深く目を瞑り開く。彼女を中心に覇気が円を描くように広がった』


    仁「精神集中…か。とても魔力が綺麗に練られているよ」

    霧切「余計なお世話よ」

    仁「…流石に私達の技術を盗み改良した松田君には及ばないか…だが、シンプルでスタンダードだ。苗木君のような不安定さも無い」

    霧切「…随分と余裕ね」イラッ

    仁「感情を抑えなさい響子。魔力を練ることに関しては怒りは邪魔だ。全く困った娘だよ本当に…」


    ざァァァ──…


    「助けて…皆を助けてよ!!」

    「…私は、彼らを助けない…彼らには悪いが彼らは死ぬべきだ」


    ──ざァァァーーッ!!



    霧切「ッ!!…私は忘れない!貴方は父なんかじゃない!!貴方は…村を滅ぼした…敵よ!!」

    仁「…やはり、私程度の記憶操作じゃ不具合が起こってしまうか…結論しか残っていない…」

    霧切「どういうこと、さっきから意味が分からないわ!!」

    仁「そうだね。昔のようにお話してあげよう…そしたら全て分かるよ。ただし、話終わるまでに生きていられたらだけどね」ニコッ

    アルターエゴ『凍るような笑み。狂気に歪んだように広角をつり上げながら仁は笑う。』

    霧切「良いわ。もし、貴方が生きていられたら最後まで聞き遂げてあげる」


    ダンッ!!!!


    アルターエゴ『二人は予備動作無く、目の前の敵に襲いかかる。戦場に、確かな殺意と狂気の笑みが衝突する』









    ーーーーーーーーーー







    アルターエゴ『一方』



    日向「……おい大丈夫か!?」


    アルターエゴ『日向は見つけていた。戦場で大量に血を流し、既に瀕死に近い二人の少女を。ジェノサイダーと戦刃を』

    カムクラ(これは、希望の国と絶望の国の兵ですね…相討ちのようですが。一応息はありますトドメをさしてはどうでしょう?)

    日向「はあ!?お前何言ってんだよ」

    カムクラ(ああ、誤解しないでください二人では無いです。希望側につくなら眼鏡の彼女を、絶望側につくならそばかすの彼女を殺してください。)

    日向「選ぶなんて、俺に出来るわけないだろ!!」

    カムクラ(安心してください。残った方は僕が魔法の効果で微量に使えるようになった治癒魔法で治します)

    日向「!」

    カムクラ(…出来ないなら僕か殺しても構わないのですが?)

    日向「……いや…良い、決めた。」

    カムクラ(そうですか…それでどちらにするのですか?)

    日向「どっちも助ける」

    カムクラ(?…何故ですか。それは貴方が危険になるとしか思えません)

    カムクラ(そして貴方は確かに希望の国に少しの間居たとはいえ、元は絶望の国の人間です。僕はてっきりそばかすの彼女を殺すかと)

    日向「絶望の国の人間と言われた所で、俺に温かくしてくれた希望の国の人たちを裏切りたくないんだ──」


    アルターエゴ『日向は、まるで一人言のようにそう呟きこう続ける』


    日向「──それに、女の子を助けるのに理由なんて居るかよ」

    カムクラ(…………やはり貴方は甘い…。だけど嫌いじゃない…これは自画自賛というやつでしょうか)

    日向「ん?何か言ったか?」

    カムクラ(貴方は難聴系主人公ですか?)




    「そこの君、何をしている!!!!」



    カムクラ(敵です構えて)

    日向「!」バッ

    アルターエゴ『突然背後からした声に二人は反応し、そちらを向く。そこに居たのは…』

    石丸「君は絶望の国の人間だな!」

    日向「違ッ─…うくもないけど…」


    石丸「なっ、…後ろに居るのは戦刃くんか!?まさか、女性を相手に2対1、卑怯な!!許さない──」

    日向「それは違うぞ!誤解だ!!」


    石田「──許さねぇぞオラァ!!!!」

    カムクラ(相手は聞く気は無いみたいですよ)

    日向「…だな」

    カムクラ(では、頑張ってください)

    日向「はあ!?俺が勝てるわけないだろ?」

    カムクラ(勝てます。何故なら貴方は僕の器になれる人間なのだから)

    日向「意味が分からないぞ!」



    石田「ごちゃごちゃ独り言うっせぇんぞ!!いくぞオラァ!!!」ダッ

    カムクラ(来ますよ)

    日向(やるしか…ないのか!!)スッ

    アルターエゴ『石田は魔力を纏い黄色く輝く拳構え正面から突っ込む、それに対し日向はぎこちなく剣を構えた!!!』

    日向(なんか俺の描写カッコ悪いぞッ!!)




  295. 295 : : 2014/11/25(火) 08:09:30

    石田「くらいやがれぇ!!」

    ダッ!!

    アルターエゴ『飛び上がり、魔力の濃く練られた右腕を振り上げる!』

    石田「『怒りの鉄槌』!!」

    アルターエゴ『背後から現れた人型の巨大な魔神!それとシンクロしながら、日向に向かって一気に右腕を振り下ろした!』

    ドゴォォオッ…!!

    アルターエゴ『その衝撃に地面が抉れ、煉瓦が四方に飛び散った』

    石田(だが手応えはない……ッ!)

    フッ

    アルターエゴ『背後の魔神が消えた。同時に、石田の右腕が宙を舞った』

    石田「なっ……!」

    アルターエゴ『腕から飛び散った血しぶきが、斬ったモノの正体を赤く染めた。遠くで自分の腕が落ちる音がして、石田は我に返り、距離を取って止血する』

    日向「…悪く思わないでくれ。俺は 石田「うっせーっつってんだよゴルァ!」

    日向「!」

    カムクラ(…今更平和的に解決出来るとでも思ったのですか)

    日向「いや…俺はただ、あいつに死んで欲しくないだけさ」

    カムクラ(構えた途端、えらく強気になりましたね)

    日向「…わかんねぇけど、俺、剣の構え方は知ってるみたいだ」

    カムクラ(それだけではないですよ。しばらく続けてみなさい)

    石田「……また独り言かよ…余裕じゃねぇか…!」

    アルターエゴ『止血を終え、石田が再び構えを取る』

    石田「生憎だが、俺の利き手は左!右を失ったところでキレはかわらねぇ!」

    カムクラ(本当ですよ。魔力が一切乱れていません。お見事ですね、普通は恐怖で魔力が練れなくなってもおかしくないのですが)

    日向「ここに来るってことは…それなりの覚悟を背負ってるのさ」

    石田「そうだ!俺は親友を助けるためにここに来た!」

    ダッ!!

    シュゥゥゥウ!!

    アルターエゴ『黄色の光が、渦を巻くように石田の左手に集まっていく。それは日向に近づく程に輝きを増し…』

    日向「…剣と拳じゃ…どっちが強いか明らかだろ!」

    スッ

    アルターエゴ『正面に剣を構え、石田に合わせるようにタイミングを見計らう』

    石田「ドラァ!」

    日向「!」

    バッ!

    アルターエゴ『が、それを読んだようで、左右の激しいステップを織り交ぜ対応した。剣は一振りが大きい故、外したら相手の攻撃をダイレクトに受けることになる』

    日向「…ハァ…ハァ……!」

    アルターエゴ『日向は、それを“判っていた”。それは彼の知らない所の経験か、あるいは』

    石田「!」

    アルターエゴ『天性による才能か』

    タンッ!

    アルターエゴ『石田のステップに生じる僅かな隙。それは着地する際の回避の狭さ!』

    グッ

    アルターエゴ『その僅かな隙の出る直前、日向は左足を一歩前に踏み出した。即ち』

    ブンッ!!

    アルターエゴ『日向の剣が、届く距離まで!』

    石田「しゃら…!」

    アルターエゴ『対する石田。完璧な太刀筋に回避は不可能と瞬時に理解した。その上で取った行動は』

    ブンッ!!

    アルターエゴ『右から来た剣を、左で打ち砕くという意志の上での裏拳!』

    アルターエゴ『剣vs拳(けん)。日向の言った明らかに勝てる対決がここに実現した』

    カッ────!

    アルターエゴ『さて、勝ったのは…?』

    石田「………」

    日向「………くっ……」

    アルターエゴ『………!ドロー!!』

    アルターエゴ『拳は剣を受け止めた!』

    日向「何ッ!?」

    アルターエゴ『これは予想外…。石田の拳は傷一つつかず、もちろん血も流さない』

    石田「……ウォラァ!」

    ブンッ!

    日向「ぐっ!」タッ…

    アルターエゴ『拳を振り切り、日向ごと剣を弾いた』

    石田「てめぇの剣なんか大したことねぇんだよ!俺は許さねえ…戦刃を殺したてめぇを!必ず戦刃と同じ目に遭わせてやるぜ!!」

    ボゥッ!

    日向「……!」

    アルターエゴ『左手のみだった黄色の魔力が…今度は足下から溢れ出るようにして、石田の身を纏った』

    カムクラ(……手こずるようなら、僕がやりますか?)

    日向「いや…いい」

    アルターエゴ『日向は、ぎこちなく…なくなっていて、今度は凛々しく剣を構えた』
  296. 296 : : 2014/12/01(月) 21:48:00


    日向(カムクラは恐らくこの男を殺す。だから、俺が倒さないと…本当に誰も助けられなくなる!)

    石田「良かったのか?俺に時間を与えてよォ!!」

    アルターエゴ『魔力が石田を包み込む、そこには失われた筈の右腕があった』

    日向「お前…腕が」

    石田「魔力を圧縮して作った義手みてぇなもんだ。ただ、本来の右腕と違い魔力で出来てるから硬度も破壊力も桁違いだけどなァ!」

    アルターエゴ『その一声と共に石田は地を蹴り拳を振る!』

    石田「うおらァ!」ブンッ!ブンッ!!

    日向「くそっ!」ブンッ

    キィン!!!!

    キィン!!

    キィン!!!


    アルターエゴ『それに日向は手数が文字通り二倍になった石田に防戦を強いらる』

    石田「ちょこまかと…」

    アルターエゴ『だが、相手の攻撃をいなし時にかわすことで日向は未だに掠り傷1つ無かった。当然石田もであるが』

    石田「守ってばっかりで何が出来る!攻撃とは最大の防御って言葉知らねぇのか?!」ブンッ!!

    日向「そんな余裕ねぇんだよッ!」キィン!!!


    アルターエゴ『一心一体の攻防、日向にとっては一瞬の気の緩みが死を招く状況、しかしその目は死んでいなかった。心が折れること無く僅かしかない勝機を模索していた』


    石田「なら何で無傷なんだよアァン?、さっさとその面で俺の拳を受け止めやがれ!!」ゴウッ!!!

    日向「そんなのハイそうですかで受けれるかよ!!」ブンッ!


    アルターエゴ『…確かに、未だ石田の拳も日向も傷1つついていなかった、心も折れていなかった────ただ剣だけは例外だった』


    ──バキッ!!


    日向「!?」

    アルターエゴ『何の脈絡もなかった。ヒビなど入っていなかった。だが石田の拳は剣の刀身をへし折り──』

    石田「…へッ!!くらいやがれ!!!!」


    アルターエゴ『───そのまま振り抜かれる!!!』


    日向(避けきれ──)


    ドゴォッッ!!!!!


    日向「がハぁッ!!……!」


    バキバキっ!!


    アルターエゴ『剣で勢いを殺しても大量の魔力を纏った重い一撃。日向は体をくの字に折り曲げ無人の民家に突っ込んだ』







    日向(くっそ…痛すぎるだろ……一瞬意識飛びかけたぞ…)

    日向「…………っ!」

    アルターエゴ『意識が朦朧とするなかで日向は見る。自身にトドメを刺すために迫る石田の姿を』

    日向(……)

    アルターエゴ『自身の命を狙う強者に対し、戦う武器も無く、逃げるための体も無く、まさに絶体絶命』

    アルターエゴ『そんな誰しも死を悟る状況で、日向の脳裏浮かんだのは希望の国の仲間でも、絶望の国の人物でもなく、1つの疑問だった』


    そう言えば、何で俺はあの時剣の剣の構え方を知ってるなんて言った?



    俺は、失った記憶の中で体に染み付くほど覚えていたのか?


    洞窟の時は、苗木相手に御粗末な剣技を繰り広げてたクセに

    …!

    もしかして……俺は思い出しているのか?


    アルターエゴ『微かな疑問、些細な矛盾。たが、その疑問が日向と言うなのパズルを僅かながらも完成へ近付ける』


    スッ!



    石田「んだァ?手を前に伸ばして、命乞いか?」


    日向「ちげぇよ…まだ、俺は諦めてなんか…いない」





    俺が希望の国で“予備学科”に入学できたのは、魔力を持っていたからだ

    魔力を持ち自由に操れたものにのみスカウトの届く希望ヶ峰学園


    予備学科と本科の違いは“自由に操れる”かだけなんだ!


    …そうだよ、魔力は記憶と違って消えたりしないんだ…使い方を忘れているだけなら!!


    ─ドクンッ!!


    カムクラ(…!)


    石田「諦めてねェか…。テメェは随分頑張った…だが、これで終いだ!!!」ブンッっ!!!


    日向「違う!終わらない!これから…始まるんだ!!!」



    ───バチィッ!!!



    石田「アァン?」

    アルターエゴ『確かに石田の右腕は日向へ向けて放たれた。それなのに目の前には先程と変わらない日向の姿がある』

    石田「どういう… 日向「右腕」

    アルターエゴ『石田が何かを言いかけたとき、日向が遮るように口を開く』

    日向「右腕…魔力で造ってるから硬度が抜群なんだよな?」

    石田「あ?そうだが」

    日向「見てみろよ」

    石田「──ッ!」

    アルターエゴ『促されるように右腕を見ようとする石田。だが、それは出来なかった…何故なら』

    石田「俺の魔力で造った最高硬度の腕が…無いッ!」

    アルターエゴ『そう、見ることなど出来る筈無かった。彼の二の腕から先、そこには既に何もなかったからである』


    日向「さあ、始めようぜ……いや終わらせようぜ」

    石田「テメェ…」ギリッ



  297. 297 : : 2014/12/02(火) 17:19:20

    トンッ トンッ

    アルターエゴ『大地を、二度叩き』

    スッ…

    アルターエゴ『そして、天空に円を描くように剣の先端を一度回した』

    石田(……?)

    シン……

    アルターエゴ『一瞬にして、世界が止まったかのような静寂が2人を包み込んだ。そうかと思えば、突如その静寂を切り裂く言葉が石田に向けられる』

    日向「ここから先、俺に魔力の類は一切通用しないと思ってもらおう」

    アルターエゴ『剣は赤色の空に向けられたまま、力強い眼孔が石田から離れないのを、石田は鬱陶しく感じ始めた』

    カムクラ(……あぁ、やっと使うんですね。あなただけの力)

    日向「忘れていた物を思い出すって、こういう感覚なんだな。すっげぇクリアな気分だよ。休日の10時起きみてーな感じだ」

    カムクラ(よくわかりませんが…とにかく見届けますよ)

    日向「見せてやるよ…退屈かもしれないけどな」

    チャキンッ!!

    アルターエゴ『刀身が90度回転し、刀を持った手を引いて、先を石田に向け構えた』

    アルターエゴ『対し、石田は冷静ではなかった』

    石田(俺の腕が…松田との修行が…苗木の救出が…!!)

    アルターエゴ『脳内の海は荒れ模様。大シケに見回れ、石田という船は舵を失った』

    石田「う…ウォォオオオオ!!!」

    アルターエゴ『理性という舵を』

    日向「!」

    アルターエゴ『迷い込んだのだ。魔力の暴走のさらに先…『暴走の果て』(バミューダ・トライアングル)へ!』

    ボォォォオオオオ!!

    アルターエゴ『湯水のように溢れ出る魔力は!生命エネルギーを代償として支払われた死へのカウントダウン!』

    ペキペキパキパキ……!!

    アルターエゴ『石田の魔力が、腕になったように!』

    ペキパキペキペキ…ゴキッ!!

    石田「ウォォオオオオオオ!!」

    アルターエゴ『魔力は、石田の全身を包み込んだ!そこにはもちろん、魔力によって治された腕も存在する!より強化されて!!』

    ゴゴゴゴゴゴ………!!

    石田「………フシュウ…!!」

    『対価は禁断』(キャンドル・ドーピング)

    アルターエゴ『二回り程大きくなった図体から、蒸気のように魔力が吹き出された』

    日向「……お前の覚悟は認めるよ。だからこそ、楽に助けてやりたいと思う」

    日向「…俺の魔法、我ながらよく出来てるよ。本当に都合がいい…まるで」

    アルターエゴ『その先を言う前に、石田は拳を振り下ろし』

    ゴォォッ!!

    日向「……」

    スパンッ!!

    アルターエゴ『瞬きする程度の時間が過ぎる中、拳は三度斬り落とされることとなった』

    石田「!?」

    日向「…そろそろ学べよ。力だけに頼っちゃ…せっかくの動きがもったいないぜ!」

    ターン

    アルターエゴ『喋りながら、つま先だけの跳躍で、石田の頭上をとった。石田に目を合わせると』

    石田「オオオオォォォ…!!」

    アルターエゴ『哀しい紅があった。出会った時に見た覚悟と闘志は、とっくに氾濫した魔力に飲み込まれていたのだ。その目に力はないが、魔力はある。そんな目を見て、日向は切ない感情に一時目を細めた』

    日向「今助けてやる…」

    アルターエゴ『が、すぐに刮目。空中で剣を振りかぶり!』

    日向「【絶望ヶ峰流剣術第十二目ー落花生ー】!」

    カラン…

    アルターエゴ『日向が剣を振ると、乾いた音が静かに響いた』

    スタッ

    アルターエゴ『着地し、日向は振り向いたのだが、振り向く前からすでに、日向が目にする光景は日向の中で決められていた』

    石田「………」

    ドサッ

    シュパンッ……!!

    アルターエゴ『倒れる石田と、放れていく魔力の粒子が、日向の攻撃が成功したことを物語っていた』


    “騎士”について。

    絶望の国が誇る絶対強者にして最高戦力。

    主な武器は剣であり、幾度となく“英雄”の剣を国の危機から退けてきたもう1人の“英雄”。

    剣士でありながら、使う剣を選ばない。

    そんな彼の使う魔法は、剣士の究極とも言える答え。

    『斬るべきものを斬る』(コトノハ)

    魔法史に残るこの魔法は、希望の国民には決して使えない絶望の刃である。


    (絶望の国魔法全書124P “騎士”の項目より抜粋)


    日向「魔力だけを斬ったから、魔力はもうないだろう……じゃあな」

    キンッ

    カムクラ(……知っている物を見るのは、やはりツマラナイですね)

    日向「辛いんだよコメントが!」

  298. 298 : : 2014/12/21(日) 22:32:27



    石丸「僕は…負けたのか」

    アルターエゴ『表面に表れていた魔力も無くなり、石田では無く石丸は天を仰ぎながらそう言った』

    日向「ああ、そうだよ。それにしても魔力を切り落として0にしたのにまだ意識があったのか」

    石丸「…二つ聞きたいことがある」

    アルターエゴ『既に棘のある口調もなくなり、石丸は溢すようにそう言う』

    日向「なんだ?」

    石丸「1つは、何故へし折った筈の剣が手に握られているのだ?」

    日向「ん、ああこれは俺のもう1つの魔法だ」バチバチッ!

    アルターエゴ『日向が手を前に出すと、そこが青白く発光する』

    日向「電気系統の魔法の応用だ…と思う、引き寄せて磁力で繋げた。ただそれだけだ」

    石丸「雷系の魔法…か、珍しいものだな…、それと、もう1つ…」

    日向「……どうした?」

    石丸「…僕は………………僕は…何故生きているの…だ?」

    アルターエゴ『きっとそれが石丸にとっての一番の疑問だったのであろう。彼は絞り出すようにそう言う』

    日向「別に大した理由は無いぞ、強いて言うなら俺が人殺しじゃなくて騎士だから…じゃないか?」

    石丸「!…最初から殺す気など無かったのか…それでも僕は負けたのか…、僕の…完敗だ…」ガクッ

    カムクラ(…意識を失いましたね)

    日向「魔力を上手く循環出来なくなったからだろうな。まあ、いずれ魔力の回復と共に目を覚ますだろ…多分」

    カムクラ(…それにしても先程は虫の息だったのに良く動けましたね)

    日向「ああ、逆にこっちは魔力を効率良く循環出来るようになったからな。ステータスが底上げされた感じだ」

    カムクラ(…“ステータス”ですか、少し前の貴方らしからぬ発言ですね)

    日向「そうか?とりあえず、瀕死の二人を生きれる所まで治療して先に進むぞ。ここで立ち止まるわけにもいかないし」

    カムクラ(それもそうですね)







    ーーーーーーーーー







    朝日奈「はぁ…はぁ」

    五月雨「ふぅ…なかなかやるね」

    アルターエゴ『肉弾戦とは言え互いに全力、体力は勿論魔力も消耗し御互い長くは持たないと悟っていた』

    朝日奈(そろそろ決めないと負けちゃう…一瞬だけでも隙があれば)

    五月雨(何かを狙っているみたいだね。隙を見せずこのままカウンター主体で押し切る!)ザッ

    朝日奈(…魔力を魔法に割いちゃったら発動前に肉弾戦で押し負けちゃうよね…。身体能力向上に使えばジリ貧……どうしたら…)

    アルターエゴ『五月雨は朝日奈の行動に備え構える。肉弾戦では有利に立ち回っている五月雨には後出しの権利があるのだ』

    朝日奈(何か…決定的な何かがあれば…)

    アルターエゴ『願望、運頼みと言えばそうなのかもしれない。だがここは戦場。敵地。乱戦状態』

    アルターエゴ『だからこそ、その“何か”は起こった。いや正確には…現れた』




  299. 299 : : 2014/12/25(木) 15:15:44
    期待です!
  300. 300 : : 2015/03/04(水) 23:37:09
    期待です!
  301. 301 : : 2015/03/05(木) 15:06:56
    期待
  302. 302 : : 2015/03/07(土) 15:28:34
    期待です!
  303. 303 : : 2015/03/23(月) 01:57:36

    ・魔力覚醒について

    魔力の量は、生まれつきでほとんど決まるとされている。

    修行で増やすことも出来るが、それでも限界がある。

    魔力とは才能によるものが大きい。

    逆に言えば

    生まれつきは少なくても、修行により大幅に増やすことも可能である。

    これもまた、才能。

    五月雨結は普通の家庭に産まれた。(この場合の普通は、何不自由なく暮らせる家庭を指す)

    両親共に魔力は並、使う魔法もまた、教科書通りの基礎魔法。

    当然、子に宿る魔力も並に思えた。

    しかし、そんなことはなく、五月雨に宿った魔力はまったくと言っていいほどなかったのだ。

    当時の医者は、信じられないと首を横に振った。

    …戦いの基本は肉体だが、勝敗を分ける大きな要因は魔法である。

    その魔法の源である魔力が0であること、それ即ち
    、多くの者が入り乱れる戦場では役たたずであることに直結した。

    中には魔法を使わず、その身1つで戦場を生き抜く者も極わずかに確認されていたが

    それもまた、武術に関しては天賦の才を持った者達である。

    才能という名の暴力に、五月雨は何度も涙を流した。

    涙を流しながら、それでも必死に、戦乱の世を生き抜くためにひたすら磨いたのが

    朝日奈「はぁっ!」

    五月雨「……」スッ

    ユラァ……

    朝日奈「!」

    ドガッ!

    朝日奈「っあ!」ズサァッ!!

    【本能反射ーカウンター】である。

    ギリギリで避け、余裕を持って反撃し、距離を取る。お手本のようなヒット&ウェイ。

    そしてそれを可能にするのが、同時に鍛えた脚力。

    魔力の才はなくとも、その脚には宿っていた。

    ユラァ……

    五月雨(……よし、もう少し!)

    他を凌駕する、天賦の才が!

    そして!

    朝日奈「!」

    本人より先に気づいたのは、対峙している朝日奈だった。

    ユラァ……

    五月雨の身を纏う、そのオーラに

    そして

    そのオーラの正体に

    五月雨「!」

    ザッ

    攻めの姿勢を崩さなかった朝日奈の足が、止まった。

    直感したのだ。「この先はやばい」と

    朝日奈(……今は近づけない…!)

    まさしくその通り!

    朝日奈の出方を見て、五月雨は自らに起こった異変に気がついた。

    五月雨(!! 体が……熱い!?)

    そう

    体から蒸気のように溢れ出る、魔力という名のオーラに!

    五月雨(嘘、嘘、嘘!これって!!)

    【魔力覚醒】

    宿っていた!!

    蓋されていた魔力が、今!!

    五月雨「………ハハハ…すごい……これが……!!」

    ちなみに、魔力覚醒は滅多なことでは起こらない。

    それこそ、地球に隕石の雨が降り注ぐような、突拍子もない確率。

    そんな確率を引き当てることもまた

    朝日奈「…………」

    天賦の才であることに、他ならない。
  304. 304 : : 2015/04/13(月) 00:14:21
    期待ッス!
  305. 305 : : 2015/05/21(木) 20:16:54
    期待
  306. 306 : : 2015/07/11(土) 22:55:03
    期待
  307. 307 : : 2015/07/20(月) 18:39:05
    >>304>>305>>306
    期待ありがとうございます!
  308. 308 : : 2015/07/20(月) 18:42:34



    モノクマ「うんうん。凄いクマね」

    そんな高揚する空気に水をさすかのように一匹の熊がそう告げた

    五月雨「何時の間に!!」

    モノクマ「うんうん、お互いがお互いの限界を越えて拳を交える。うぷぷドラマチックだよね」

    五月雨の質問に答える様子が無いのか、モノクマは構わずに話を続けた

    モノクマ「でもさあ、そんな覚醒した二人が後から来た全く関係ない奴に殺されたら絶望的だと思わない?」シャキンッ

    五月雨(…来る!!)





    モノクマ「爪での攻撃かと思った?残念上でした」


    朝日奈「何、あれ…」

    ゴォオオオオッっと激しい音をたてながら空から何かが降り注ぐ

    モノクマ「ん?何って隕石」

    新たな力を得、希望を持った二人の少女に質量の暴力が襲い掛かる


    そして──


    朝日奈「このままじゃ、ヤバイよ!何とか出来ないの!?」

    五月雨「無理だよ…あれは逃げられないし、撃ち落とすことも出来ない…」

    朝日奈「そんな…」ヘタリ

    モノクマ「さようなら」うぷぷぷぷぷ


    ──力への希望は無力への絶望へと代わった





    ドゴォオオオオオオオンッ!!!!!!!!





    ーーーーーーーーーー



    ドゴォオオオオオオオンッッ!!!!!!!!




    仁「凄いな。あとで見に行ってみないと」

    霧切「話は終わってないわ!!」ブンッ

    仁「おっと…。おいおい響子、飛ばしすぎじゃないか?それじゃあ持たないぞ?」

    放たれた光球を最小の動きで避けながら仁は言う

    霧切「余計な心配よ」

    仁「そうか。じゃあ、まず問題だ。絶望の国にいる君だが、君の滅ぼされた故郷はどこだい?」

    霧切「それは…」

    霧切の動きが止まる

    仁「そうだ。答えられないだろう?まあ当然私が記憶処理を行ったからなのだが」

    霧切「何でそんなことしたのよ!!」

    仁「強くなってほしかったからだよ」

    数多の攻防を繰り広げる中でも仁は薄い笑みを浮かべながらこう続けた

    仁「英雄になってほしかったからね。君の母親を殺した男を殺すために………昔の話さ」






    ~~~~~~~~~~


    アルターエゴ『時は遡ること二十数年。一人の"天才"がその才能を開花させた』




  309. 309 : : 2015/07/23(木) 22:23:29
    期待
  310. 310 : : 2015/08/04(火) 19:16:57
    期待
  311. 311 : : 2015/09/05(土) 02:04:29
    期待です!!
  312. 312 : : 2015/09/10(木) 14:55:58
    これはホントに劇なのか...?期待です!
  313. 313 : : 2015/09/22(火) 20:24:31
    隕石って狛枝かよ!期待!
  314. 314 : : 2015/09/23(水) 11:13:14
    みんな忘れてないか?これはアドリブの劇だぞ!
  315. 315 : : 2015/10/10(土) 18:12:50
    期待
  316. 316 : : 2016/01/11(月) 23:49:17
    苗木君がどうなるのか楽しみです。
  317. 317 : : 2016/05/02(月) 09:15:12

    希望の国と絶望の国はシーソーのように互いの優劣が入れ替わりながら戦争を続けてきたのだが、当時はそんな歴史の中で極めて異例だった。

    シーソーは大きく傾いていて、それは希望の国の圧倒的劣性を示していた。

    それでも希望の国は希望の国らしく、希望を捨てず健闘し続ける。

    だがそれも、当時絶望の国の軍師として希望の国を苦しめた男、龍造寺月下の前では駄々をこねる赤ん坊のように無力。赤子の手を捻るという言葉の意味を国民が身を持って痛感していた。

    そんな中、希望の国で産まれた男が一人。名を──と言う。

    ──の家は代々魔力に秀でた兵士を排出してきた名家であり、希望ヶ峰学園も彼を特待生として迎え入れた。

    彼の成長こそがシーソーを傾ける鍵であると、誰もがそう確信していた。

    しかし、国民の希望を背負った彼の学園生活は、国民の希望を大きく裏切る形になる……。


    「やめろ……やめてくれ……!」

    赤に染まっていた。名門校の由緒正しき校舎が、生徒が、伝統が。

    これは、後に希望ヶ峰学園史上最大最悪の事件と語られる──






    「『透明着色料』(ハブ・ア・ナイスデイ)!」





    ──余興。

    「あ……」

    目と口を大きく開けた最高に惨めな表情に、涙か鼻水かもわからない、あるいはその両方がブレンドされた液体で化粧されていた。



    死化粧。


    グ……ググ……

    ……………グガ…………

    それは人体がありえない方向に曲がる際に発生する音なのか、苦痛に歪んだ呻き声なのか、口角を上げて右手を向ける彼にはわからなかった。

    グ………

    その音を最期に、男は花火となり、自分を中心とした辺り一帯にこれでもかと血をばら蒔いた。

    男は20人目の犠牲者であり、同時に、魔力に秀でた血筋を持つ、期待の、希望の、特待生だった。

    今はもう、学園のどこにでもある赤い色と混在して、彼が何者なのか知る由もない。

    たった一人を除いて

    塔和「やってやったぜ!くだらねぇ!」

    塔和灰慈。優秀な成績で希望ヶ峰学園に入学した一般生徒である。

    塔和「……アハァ…あと一人。おい、お前も兵士志望なら出てこいよ。階級上げてやっからよぉ」

    そして彼もまた

    「……」

    一般の生徒だった。天才という点を除けば、だが。

  318. 318 : : 2016/05/02(月) 13:36:03


    塔和「なあ、戦争と喧嘩の違いが分かってるか?」

    「………」

    男は何も答えず。ただ冷ややかな目で灰慈を見ていた。

    塔和「利益が出るかどうかだよ」

    「………」

    塔和「向こうの姫とこっちの国王は出来てんだよ。繋がりがあるんだ」

    「………」

    塔和「希望ヶ峰ってなんだ。希望って何だ。俺たちは所詮有能な捨て駒(将棋の飛車や角)みたいなものだろ?奴らからしたら、王が生きていれば良いのさ」

    「だが、そんな証拠どこにもない」

    塔和「うちが劣勢になろうと国内に影響が出てないのがそれさ。俺はもうウンザリだ。だからこう決めた。希望をぶっ壊して優れている絶望側に寝返るってなぁ」

    子供の語る将来の夢、はたまた推理モノで犯人が自ら動機の語る様に、灰慈は口を動かす。

    「それでこんな行動を起こすのは無謀であり無価値だ…。お前のいう話が本当なら上層部に繋がりのある時点でお前は絶望側に受け入れられない」

    塔和「良いや。国王達が終わるのも時間の問題さ」

    「………何故?」

    塔和「いつかこの事は明るみになる。そうなれば民衆は反旗を翻すだろうな。そして革命が起こる。世論は人すら殺すんだ」

    「そうか」

    短く相槌を打ち、こう返した。

    「俺は世論じゃないからな。君は殺せない。だけど止めてあげるよ」

    塔和「あ?気にくわねぇなぁ、そのスカした態度が!───全てを見透かしたような視線が!!!」

    「確かに、殺された彼は強かった。でもそれは君が強いって事にはならない」

    塔和「へぇ、言うじゃん。じゃあ殺してやるよ」

    「沸るなよ劣等生。それと、君じゃあ俺は殺せない」

    塔和「小さい頃に習わなかったか?行動で示せって、『透明着色料(ハブ・ア・ナイスデイ)』!」

    「確かにその魔法は恐ろしい。だけどねどの魔法も共通して言える事は当たらなければ同じって事さ。『動けない。動かない(コカトリス・ブレス)』」

    (そよっ

    塔和「………は?」

    濃い霧が充満したりなどしなかった。ただ霧がそよ風に様に吹かれた。

    それが塔和灰慈の魔法を止められるはずもなく、男はその場から跳び、自らの足で離れる。

    塔和「………ははっ」

    ただそれだけ。

    塔和「ハハハハハハハハハハ!!!!!!!こいつは傑作だ。お前の事天才って呼ぶ奴が居たけどよ、本当は無茶苦茶弱いだろ!!!────霧切仁!!!!!!!!!」

    灰慈は霧切仁を指差し、嗤う。

  319. 319 : : 2016/05/02(月) 14:43:24

    しかし、不愉快な嗤い声は聞こえてこなかった。

    嘲笑の限りを尽くした表情と、それを助長する人差し指はピタリと固まったまま動かない。何も変わらない。呼吸をしていないだけ。 

    霧切「……残念だよ。キミとはわかりあえたはずなのに……」

    石像となった灰慈を背にし、霧切仁は希望ヶ峰学園を去った。

    直にこの事件が明るみになったのだが、霧切仁はすでに学園の生徒ではなくなった。










    パラパラ……










    ━━━━━━━━━━


    希望の国の外れにある、自然の豊かな小さな村。

    霧切仁はそこにいた。そこは彼の故郷だった。

    仁「ふぅ……」

    学園で鍛えた肉体が存分に生きる農作業は、彼にとって戦争よりもよっぽど意義のあることだった。

    事件から4年。こんな田舎にまで届いた事件の概要に、霧切仁の名前はなかった。だから、畑を耕した。

    仁「っと、今日はこの辺にしておこうかな」

    「おとうさ~ん!」

    仁「おっ、きょ【ザーーーーー】。来てくれたのか」

    「うん!ねぇね、あそぼうよー。おかあさんもまってるよー」

    仁「お、こっちも丁度終わったところだ」

    「やったー!かたぐるましてー!」

    仁「よーし!…よっと!それ、いくぞ~!」

    「きゃー!はやーい!」

    タッタッタッ……

    家に戻ると、妻は幼少の頃に遊んだゲル状のおもちゃに似た姿で、寝転んだまま私達を出迎えた。

    「……」

    仁「……お前」

    家を出る前に壁や床を赤くしたのか、仁には思い出すことが出来なかった。そこまで、それほどまでに。 

    仁「な、なんだよこれぇええええええええ!!!!」

    在学中、で一度も着いたことのない膝をあっさりとついた。

    仁「そんな……ウッ、オエェ……!!」

    「……よぉ、天才クン」

    その声は霧切仁に紛れても、はっきりと、透き通る不愉快さで家の中を反響した。

    「だれ……?おとうさん……?」

    娘は幸か不幸か、まだ玄関を潜っていなかったため、母の姿をまだ見てはいなかった。先に、そいつの姿を見た。

    「違うよ。お嬢ちゃん」

    塔和「俺は…世論だよ」

    途端、村の各地から悲鳴が上がった。

  320. 320 : : 2016/05/02(月) 17:06:37


    塔和「そう怒んなよ。まだ死んでいない」

    仁「お前…何でここに」

    せり上がってくるん負の感情と吐き気に顔を歪ませながら仁は問う。

    塔和「俺の目論見は間違って無かった。ただ予想外なことも起こった」

    塔和「まさか英雄と姫が駆け落ちしてその2人を殺す事で希望の国と絶望の国が手を取り合う事になるなんてなァ!?」

    塔和「お陰で俺は、俺は!!何方の国からも忌み嫌われる存在になった!!」

    地団駄を踏みながら今は亡き人物達に八つ当たりをする灰慈。

    その身勝手な行動と言動に仁は更に嫌悪を覚える。

    仁「君は…いやお前は、あの時殺しておくべきだった」ゴゴゴゴゴゴゴ

    塔和「おお!おお!魔力が定まってないぜ?!」

    仁「煩い…。死ね」

    怒りに任せ放たれる魔法。

    それが灰慈に牙を向ける。


    「『不完全な模範解答(ヒューリスティック)』」


    だがそれは何者かによって防がれる。

    仁「ッ!」

    「何でお前の奥さんがこんな目に遭ってるか分かるか?」

    いつの間にか灰慈の横に立っていたのは小さな子供。だがその眼は酷く濁っていた。

    仁「復讐…か?」

    「違う。俺にとっては、だが」

    バッサリと否定し、少年は言葉を続ける。

    「それはな。貴重なサンプルだから」

    仁「!!」ブチッ

    最愛の妻をサンプルと言い切るその発言でこの少年を改めて敵と認識し、殺意を向ける。

    魔力は更に乱れるがその量は増す。

    仁「誰だ…お前は…!!」

    松田「俺の名か?まあ名乗る義理は無いサンプルを提供してくれたお礼に名乗っといてやるよ松田夜助だ」

    仁「何で、何で俺の妻なんだ!!」

    松田「『精神集中』を取得し、完成させ俺だけのものにするためさ」

    仁「『精神集中』…?」

    松田「『精神集中』。それはな、絶望の国にいる特別な血を持つ人種にしか使えないものだ。見様見真似で出来る技じゃない」

    松田「だからソイツらを解剖(研究)奪う(修得)しようと思った」

    松田「でも絶望の国には手は出しづらいだろ?今友好的な関係だし」

    松田「その民は仲間意識が高い。それが希望の国の人間と結婚して、わざわざ絶望の法の届かない希望の国へ来てくれるなんて鴨がネギなんてレベルじゃないぜ」

    松田「俺は『精神集中』が欲しかった。ただその絶望の村の住人はまあ、皆殺し(不幸な事故)みたいなモノで全員死んじまって生け捕りできなかった」

    松田「死体でもある程度研究は出来た。だがあと一歩足りなかった。生きている人間を解剖する必要があったからな、わざわざ半分ゲル状にしてサンプルにしたんだ。だからお前の女、もらって行くぜ?」

    仁「ふざけるな!!!!!!!!!!!!!!」

    横暴な物言い、道徳を無視した行動。それは仁にとって些細な事だった。

    だが、愛する者に危害を加えた。

    それは仁の逆鱗だった。

    ゴォオオオオオオ!!!!!!

    激昂。ウチに秘めた魔力をその身から垂れ流す。

    その魔力は仁の足元を石にし、ジリジリとその円を広げる。

    松田「おいおい、これは取引であり交渉なんだぜ?」

    仁「……」

    松田「お前、そんな小さな子供を守りながら俺達に勝てると思ってるのか?」

    仁「!」

    松田「言い方を変えよう。妻を見捨てろなんて言わない。娘を守ってやれよ」

    反吐が出る程汚い言葉を綺麗事かのように松田は言う。

    松田「俺達を見逃せばお前は娘を守った偉大な父となり妻を見殺しにした誇りなき父となる。まあ両方死ぬよりは良いんじゃあ無いか?」

    仁「両方守るに決まっているだろう!!それが父だ!!!!!」

    松田「はいはい、カッコいいセリフ言うのは良いからさ。ほら見てみろよ。お前の魔力に当てられて娘の方は息をするのも苦しそうだ」

    「……」ヒュ-…ヒュ-

    仁が後ろを向くと、床に倒れ込み口から涎を垂らしながら弱々しく息をする娘の姿があった。

    仁「き【ザーー】!!!!!」

    松田「ま、そういう訳だ」

    笑う松田の方へ振り返ると、既に妻と灰慈の姿は無かった。

    仁「!!」

    松田「はい。御苦労さん。じゃあ最後に何か言いたい事はあるか?」

    仁「お前らは…必ず俺が殺す!!!!!」

    松田「やって見ろよ。お前じゃ俺には手を出せない」

    そう言い残し、松田も夜に紛れるようにして姿を消した。

  321. 321 : : 2016/05/02(月) 22:25:03

    仁「待て!!!…………」ハッ

    仁「【ザーーーー】!!!」

    「っ…………おとう……さ…………」

    仁「大丈夫だ……大丈夫……」ギュッ

    絶望の兵士「おい!こっちに生き残りがいるぞ!」

    仁「!」

    絶望の兵士2「お、おい……なんか様子が……」

    仁「……『霧が全てを包み込む(ドミネイト)』」

    サァッ……

    それは決してそよ風などではなく、辺りを濃い霧が立ち込めた。

    霧切仁の栓を切った魔力の膨大さを表すような、そんな霧が。

    絶望の兵士「……」

    兵士の一人が身の丈程の剣をもう一人に向ける。そして

    絶望の兵士2「おい、どうし……」ザクッ

    突き刺した。深く、深く。動かなくなるまで、何度も。

    絶望の兵士「……俺は」

    血塗られた剣を自身の首に当て、焦点の合わない目をぐるぐると移動させながら呟いた。

    絶望の兵士「何をやってるんだ……?」

    ブシュッ

    鮮血が吹き出した後、その目は動かなくなった。

    仁「フゥ!!フゥ!!フゥ!!もっとだ…!!もっと!!」

    無限地獄。阿鼻叫喚。

    覚えることはあっても一生使わないような言葉が、この場所にはよく似合う。

    村に来た絶望の兵士は、すでにほとんどが身内とのコロシアイや自殺によってこの世を去っていた。

    仁「もう少し……!」

    自らが耕した畑が、親切な村人達が、壊れている。

    仁の足取りは自然と力強いものになっていく。

    絶望の兵士3「生き残りか!死ね!!さっきのバカ二人みたいになぁ!!」

    仁「……」カッ

    絶望の兵士3「! うっ……」

    ドサッ

    仁「……」

    兵士の死体にはなんの興味もないが

    さっきの二人、という言葉はひっかかった。

    仁「……まさか」

    すぐ目の前に、家があった。

    霧切の家の隣に位置するこの家には

    【ザーーーー】が仲良くしている、同い年の男の子がいた。

    仁(二人とは言ったが……親子とは言ってない!)

    男の子の両親は、真面目で実直な、お似合いの二人だった。

    その二人のことだ。子供を庇ったのだろう。つまり隠されている可能性が高い。

    仁(早くしなければ!)ダッ

    霧切仁は、乱暴に扉を蹴り破ると、家の中へと駆け込んだ。
  322. 322 : : 2016/05/07(土) 00:35:14

    扉を開けた向こう側には月明かりに照らされる男が居た。

    それは決して映えたものでは無く。でっぷりと肥った顔と体に影が出来て余計に不快な印象を受ける。

    だが、それ以上に。それなどどうでも良くなる程醜悪なものを仁は見た。

    お手玉の様に。3人の頭を弄ぶその姿を。

    絶望の兵士4「誰ダァ?お前?」

    座っている状態で此方を振り向きながら男は手を止めた。

    座っているのは椅子では無く、胴体だけになった2人の大人と1人の子供。

    仁「……っ」

    この時仁は悟った。

    俺には誰も守れない。と。

    守りたい者を守ろうとするのでは無く。守るべき者を強くする必要があると。

    絶望の兵士4「あ?これか?丁度良かった。今なこのガキの首を捥いだんだけどよ」

    仁「………ろ」

    絶望の兵士4「どうにもバランスが悪くってな」

    ブツブツと何か言う仁を気にもとめず、男は糸を引きながら口を動かす。

    仁「そ……口を………ろ」

    こんな辺鄙な村に居る人間など居ても居なくても変わらないかの様に無視しながら男はこう続けた。

    絶望の兵士4「だからお前の頭とこのガキの頭交換しようぜ?」

    交換。男に取って、命とは交換出来るほど安いものだった。

    仁「その汚い口を閉じろ!!!!!」ダンッ!!!

    激情したまま床を踏み締める。

    それを合図かの様に辺りに霧が立ち込め、床は底無しの沼の様にグジュグジュに崩れ始める。

    絶望の兵士4「あ?あ?ンだこの魔法!!!!」

    男は立ち上がろうとするが時既に遅し。その足は石膏の様に固まり、地面に倒れ込む。

    仁「弱いな。もう少し骨がある人間を連れて来てくれないと、俺の気が晴れない」

    絶望の兵士4「やめろ…やめろよ。俺が悪かった…」


    仁「分かった。止めてあげよう」



    絶望の兵士4「本当か!?」



    仁「ああ。お前らのその醜い頭でジャグリングをする事だけは勘弁してあげるよ」



    絶望の兵士4「ひぃっ」



    ジュブジュブと崩れる床を、仁だけ何も影響が無いのかスタスタと近付き。



    仁「だから、その頭は要らないよな?」




    グシャリ…と身動きの取れない兵士の頭を踏み潰した。




    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    「ん…」

    仁「! きょ【ザーー】無事か?お父さんの事分かるか?」

    「おとうさん…、おかあ…さんは?」

    暫くして意識を完全に取り戻した娘が不安そうに口を開く。

    仁「………ママは──」

    ビシッ

    「キャッ!」

    仁が何かを言いかけた時、此方の方へ石が飛んできた。

    飛んできた方へ視線を向けるとそこに居たのは子供だった。

    仁「何をするんだ!」

    村人「出て行け」

    誰かがそう言った。いや誰かなんてものじゃあ無い。

    よく買い物にいって話していた店の主人だ。

    「「出て行け」」

    続くように誰かが言った。

    腫れ物を扱うように、疫病神を見るように。

    誰か、何て言い方は可笑しい。

    当然名前も知っている会話もした事がある。

    村長「お前らのせいで沢山の人達が死んだ!!!!間接的にだろうとお前らのせいだ!!」

    「そうだそうだ!」

    「出て行け!!!」

    だけどもう何も思い出したく無い。

    幸せだった時間は、あっという間に崩れ去った。否、崩壊させられた。

    仁と娘はその日のウチに村を去った。

    「おとうさん……、おかあさんは?」

    村を出る時に、再度何も知らぬ娘が無邪気にそう訊いた。

    仁「…ママはね少し遠い所に行っちゃったんだ」

    守れなかった事、無力な自分を恨む様に唇を噛み締める。

    「そっかっ、早くおかあさんにごうりゅーして3人でまた帰って来ようねっ」

    仁「…ああっ…」ギュッ

    「おとうさんっ、なんでないてるの?」

    仁「お前だけは…お前だけは何があっても死なせない…」

    「?」

    仁は暫くの間。娘を抱き締め咽び泣いた。

    二人がその村に立ち寄る事は二度と無かった。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    その後仁は国に取り合った。だが国はそれを揉み消した。

    何故かは単純だ。

    松田夜助と云う男は国の重要な一手を担う何かなのだから。

    彼は国という加護に守られている。

    奴を仕留めるには、王か英雄になるしかない。

    権力を牛耳る側に。加護を籠に変える力を。

    だが、霧切仁にそれは不可能だった。

    松田夜助に対する危険人物。国は彼を王宮に招く事は無かった。

    その後松田夜助は、『精神集中』は『モード:オーガ』を参考にし生み出した魔術だと、大々的に広めた(隠蔽した)


    そして仁とその娘が流れた付いたのは希望の村と呼ばれる小さな村であった。


  323. 323 : : 2016/05/07(土) 22:17:18
    更新待ってました!
  324. 328 : : 2017/03/18(土) 20:32:06
    続きお待ちしてます!
  325. 330 : : 2017/05/24(水) 19:05:58
    まだ?
  326. 331 : : 2017/05/31(水) 18:46:50
    返事ぐらいしてくれ
  327. 332 : : 2017/05/31(水) 18:51:24
    忙しいんだろう・・・
  328. 333 : : 2017/08/20(日) 23:11:10
    やっとここまで読めた!
    リレーとは思えないクオリティだなあ
    忙しいと思いますが、続きいつまでも
    お待ちしてます。
  329. 334 : : 2017/09/12(火) 17:04:32
    こ、ここまで読むのにすごい時間かかった……w
    これ、劇ですよね..?リレーって言うのもすごいけど。劇ってことを忘れてしまいます(≧∇≦*)
    続き期待しております!!
  330. 335 : : 2018/03/06(火) 22:57:20
    更新期待です!
  331. 336 : : 2018/05/24(木) 16:30:15
  332. 337 : : 2018/07/02(月) 16:59:43
    面白いです!
  333. 338 : : 2020/03/08(日) 02:52:57

    仁「ここまでオーケー?休憩といこう」


    時は戻り、引き裂かれた親子は感動の再開を祝うが如く互いに獲物を持って対峙していた。

    霧切が右手を仁に向けると、滞空させていた複数の光球がうねるように仁のもとへ高速飛行していく。

    光球は仁の目前に迫るが、仁は落ち着いた表情で紳胸ポケットに手を忍ばせ、取り出したのはポケットの容量を大きく越えた1本の赤い薔薇の花だった。


    仁「響子もたくさんの薔薇をくれたね。私からは1本の薔薇をプレゼントだ。花言葉はなんだっけか……」

     
    ヒュンッ!!


    薔薇の花が霧切に向かって頭を垂れると、それに伴って光球は減速し、やがて静止すると、今度はビデオテープを逆再生したように来た道を同じ速度で引き返していく。


    霧切「……」


    パァッ


    右手を凪ぎ払えば、それらは霧散して空気中に一体となった。

    体内に練った魔力を足元から微弱に波状放出することで、光球に代わって滞空した霧切が仁を見下ろす形になる。


    霧切(あいつの魔力は底が知れない。長期戦は状況を悪くする)

    仁(ほう、先に霧の対策を見せておいてなお警戒するか。随分と私を高く買ってくれている。嬉しいじゃないか)


    ふわ、と仁の足元から魔力の放出による風圧が円となって優しく弾けると、仁もまた霧切と同じ目線まで浮上した。


    霧切(ここで決める……)


    続けざまに、霧切が体内に蓄積された魔力を放出する。魔力は光の粒子となって、二丁拳銃の形に成ると、霧切の両手に収まるようにして顕現した。


    霧切「『天界に名を連ねよ』(メメント・モリ)」


    穢れなき純白の銃身より放たれる光球が光より速く対象を正面から撃ち抜けば、貫通した光球が背中より生える翼のように見えることから、民衆に死を想起させるメメント・モリ。


    仁「ほう、魔法で出来た魔具かね。面白いじゃあないか。それが響子のとっておきか」


    仁は頭の垂れた薔薇を直角になおすと、花びらに向け肺に溜めた空気を浴びせた。


    仁「『動けない。動かない』(コカトリス・ブレス)」

    霧切「!」


    次第に石化した花弁が風に乗る刃となり、また、風自体が石化の性質を含むことから霧切は回避を強制させられる立場となることから、花弁の刃に対し身を翻すようにして上空へと旋回した。


    仁「霧は私の体内で生成される魔力のひとつの形に過ぎない。この様に風に乗せることで、響子の見せた対策も風化させることが出来るんだよ」

    霧切「もう対策の必要もないわ。ここで風化し朽ちていくのは貴方」


    仁と、ふたつの銃口の目があった。

    今にも天使を増やしたくて仕方のない光球に、仁は微笑みをひとつ。


    仁(銃ねえ。扱いには慣れていなさそうだが、不足分の魔力や命中精度も精神集中によって補うわけか。噛み合いが悪いように見えて、相性はいいのだろう)

    仁「だが焦りが見えるな、響子。まだ私が最初に見せた“魔法を無効化する魔法”の正体を掴めていない。戦闘のレクチャーが先かね?」


    言い終わるのを待たず放たれた光球は刹那を越え仁を撃ち抜かんとしたが、しかし仁は瞬きしてもなお無傷のまま、霧切に目をあわせた。


    霧切「……」

    仁「さ、休憩は終わりにしようか。強がってはいるが、響子の精神集中もそろそろ時間切れだろうしね……」


    スッ……


    霧切「!」


    霧切の周辺が、空が、色を変えていく。


    仁「空に逃げたのは失敗だよ響子。だが空に立つ墓標も洒落ていて素敵だな」


    その原因は、紛れもなく仁の魔力そのもの。


  334. 339 : : 2020/03/09(月) 22:25:41



    霧切(全方位囲まれてしまったわ)


    気付いた時にはもう遅く。逃げる道は当然なく。

    『裏切りへの模範解答(カウンター)』では間に合わない。



    彼女が解決するべき謎は3つある。



    1つ目は仇である男との関係性。

    蓋をされていた記憶が目を覚まし続けているが、果たして仁の言葉を信じて良いのか。
    信じた時、何故戦う必要があるのか。



    2つ目は魔法を消す魔法。

    魔法を消す魔法など伝説クラス。それこそ御伽噺の代物。それを涼しい顔で使う種。



    3つ目はこの状況の打破。

    突風では間に合わない。一方向では状況は変わらない。相手は触れれば石となる死の吐息。







    霧切はその中で2つの解答には既に辿り着いていた。



    魔法が無効化された理由も、この状況を打破する方法も────






    記憶の通りに魔力を編み魔法を形成する。





    霧切「『360度(エアー・ボム)』」




    ドゴォォォオオン……!!!




    霧切を包み込んでいた霧は爆風によって散り散りになり、文字通り霧散される。


    仁「ほう…。それは私の魔法」

    霧切「ええ、貴方の魔法よ」

    霧切は一度深く目を瞑る。小さく息を吸い込んでから彼女は口を開いた。

    霧切「これは貴方が、貴方の魔法が奪われた時のために私に教えてくれた最初の魔法」








    魔法の得手不得手は本人の知識ではなく、血に左右されることが大きいとされている。

    一子相伝の魔法【モード・オーガ】は当然鬼の血族である大神家以外の人間には使えない。

    水系統の魔法が得意な両親を持つ子供は、92%が水系統を1番得意とする。

    それは魔法の根源たる魔力の質も遺伝されるからだというのは魔法に携わる者なら誰でも知っている一般常識である。







    仁「そこまで思い出す事が出来たのなら、私の魔法を消す魔法の謎は解けたのかな?」

    霧切「とぼけているつもり?種は割れているわ。「死神の呪縛(イン・ビト・ローズ)』も貴方が私に教えた魔法でしょ?」

    霧切「貴方は消す魔法を使ったんじゃなくて、魔法を相殺しただけ。自分の使った魔法だからって普通出来る技じゃないけれど、私の記憶の中にいる貴方なら可能の筈よ」

    霧切「そもそも魔法を消す魔法があるのなら光球を躱す必要はないもの」

    仁「……冷静な分析と判断だ。流石、私と母さんの娘だよ」

    一抹の嬉しさに緩めた口元から息を吐いて、仁は小さく呟いた。

    霧切「ねえ。貴方は本当に村を滅ぼしていないの?」

    仁「ああ……ただ見捨てはしたがね」

    霧切「何故?貴方なら希望の村を襲った絶望の残党なんて全滅出来たはずなのに」

    互いに魔法を使おうとはせず、向き合いながら2人は会話を続ける。

    仁「単純な話だ。天秤が傾いたのさ」

    霧切「天秤?」

    仁「……響子を危機に晒したくはなかった」

    霧切「私は復讐の道具なんでしょう?」

    仁「……ああ。私では松田夜助には届かない」

    霧切「…………」

    仁「……私では松田夜助から響子を守りきれない」

    先程まで親の仇の様に恨んでいた相手へ霧切は問い掛ける。

    霧切「私は足手纏いだったのかしら?」

    それに対して仁は。

    仁「いや。……何よりも大切だったんだ」

    真っ赤な鮮血と共に言葉を紡いだ。


  335. 340 : : 2020/03/10(火) 00:15:07


    仁「ぐっ!!」

    霧切「!」


    仁の足元に散る薔薇の花弁は魔法によるものではなく、純粋に体内より排出された血液。

    その量と苦悶の表情を見比べれば、仁の体に異変が起きていることは確かだった。



    仁「フフッ……なんとか間に合ったようだな」

    霧切「貴方……」

    仁「松田夜助の魔法『生命制限』(インフィニティ・バースト)だ……。命果てるまで永久に苦痛を与え続けるこの毒の治療薬は死。もうじき治る」

    霧切「……!その魔法……やっぱり……あの時の……」


    霧切の脳裏に過るのは、先の戦争で自分を庇い、松田と交戦した仮面の男。

    仮面の男の声、背丈、魔法。点と点が繋がれば、仮面が外れ、霧切仁が浮かび上がった。


    霧切「ずっと……私を守っていたのね……」

    仁「……」ニコッ


    仁「だが、もう守ることは出来ない……戦争も佳境だというのに……」

    霧切「……」


    挑発的な言動も、全て、自分を成長させ生存させるためだったのか。仁が魔力の放出を抑え着陸するのを見て、霧切も同じく着陸した。


    仁「響子。苗木クンを頼れ。彼とならきっと、この世界を正しく導くことが出来る……ガァッ!!」


    仁が膝を着き、先程までの余裕にまみれた風貌からは想像もできないほど弱々しく小さく佇む。

    その様子が、彼がもう長くことないことを、何よりも雄弁に物語っていた。


    霧切「わかったわ。だからもう……」

    仁「……」


    絶望の兵士A「おやぁ?そこで倒れてるのは希望の国の仁さんじゃあ~りませんかっ!」

    霧切「!」

    絶望の兵士B「もう虫の息!?こいつを仕留めたらいったいどれだけ報酬が出るか……」

    絶望の兵士A「学園2位の霧切ちゃん、ここは譲ってね。そっちは明るい未来があるだろうけどさ、こっちはその日暮らしで大変なのよ」

    絶望の兵士B「こいつの首を国王の前に差し出せば一生安泰ってね」

    絶望の兵士A「やっちゃう?」

    絶望の兵士B「やっちゃう?」


    ダンッ!!

    二人の兵士が同時に地を蹴った。振りかざす剣の先端が赤黒い空を反射して、不幸を振り撒かんと振り下ろされる──


    霧切「『霧が全てを包み込む(ドミネイト)』」


    ──はずだった。そんな未来はすんでのところで書き換えられ、辺りに発生した奇怪な霧が、兵士二人の剣先を互いに向かわせた。


    絶望の兵士A「あれ、その首、俺の」

    絶望の兵士B「あれ、虫の息なの、俺?」


    二人は示し合わせたように倒れると、二度と口を開くことはなかった。


    霧切「……」


    そして残ったのは、静寂の中で新たなる復讐へと炎を燃やす少女一人。


    霧切「……今までありがとう、お父さん」


    父を背中に、霧切は苗木を探し、次なる戦場へと足を運んだ。



    ━━━━━━━━━━


    【絶望の国:?番街】


    苗木(ハァ……十神クンからは随分離れちゃったなぁ)


  336. 341 : : 2020/03/12(木) 18:02:37
    土地勘の無い苗木は戦場を駆け回る。辺りは魔法の余波で破壊されており、轟音の発信源は際限なく動き回る。

    苗木(先ずは、霧切さんと合流しよう。彼女なら力になってくれる筈だし。この国の地形にもきっと詳しい)

    精神集中は使わず。屋根の上を飛び回る事も決してせず。苗木は静かに地面のブロックを蹴りつづける。

    それも当然。苗木にしてみればアウェーの国で、且つ松田夜助という強者に追われている状況。

    この状況でそれが出来るのは英雄の様な圧倒的『個』のみである。

    苗木にはそこまでの力はなく、自身の力に対する傲りもない。

    故に街道を通っていた。だからこそ彼女に出会った。


    金髪の少女「ぐすっ…ぐすっ」

    苗木(泣いてる……)

    苗木「あの、大丈夫?怪我したの?」

    足を抑え、電球の割れた街灯にもたれる少女。格好はチェックのスカートに長袖のカッターシャツ

    一瞬自称妹のこまるが頭に過ぎる。

    チェックのスカートに長袖のカッターシャツ。

    近付き、顔を覗き込む。可愛らしい顔をした歳の近い少女は目元を赤くはらし、大粒の涙を流していた。

    苗木「キミはこの国の学生?僕が安全な場所まで運ぶから安心して」

    苗木は完全に理解できていないが、いまこの国は戦争中であり乱戦中。

    安全な場所など何処にもない。

    そう。

    ここも安全では無かった。

    苗木「ぐっ…」

    腹部に鋭い痛みを感じ、その場を飛び退く。

    ジワリと熱が左腹部に広がる。

    金髪の少女「あは」

    少女は嗤う。

    金髪の少女「あはははははほはははは」

    苦痛に顔を歪め、驚きの表情を向ける苗木を見下ろして。

    金髪の少女「ほーんと、男って馬鹿ばかり」

    金髪の少女。もとい九頭龍菜摘は嘘泣きを辞め。スカートを軽く叩く。

    菜摘「どーれーにーしーよーうーかーなー……よしこれだ」

    苗木「!?」

    菜摘はスカートの丈より遥かに長い刀を取り出し、切っ先を苗木へ向ける。

    菜摘「よし決めた。あんたを殺す魔具はこれだ」

    苗木(魔具……本人の魔法を補助、拡張するマジックアイテム。また魔具自体に魔法が組み込まれている場合もある武器)

    知っている。知識として知っている。

    希望の国で、希望ヶ峰学園に通う者は誰一人魔具を使わない。使う必要がない。

    そもそも魔具は使い手を選ぶ代物。

    苗木(どれにしようかな……?)

    様々な思考を張り巡らせる。

    そんな余裕はないというのに。

    白い光が苗木の右肩を焼く。

    苗木「っぅ!!!」

    ジュゥゥゥ…!

    身を翻し、半身になる事で光から逃れ咄嗟の判断で路地裏へ転がる。

    焼かれた肩は被害が浅く動かす事は可能だが、白い光を上げた服の肩の部分は黒い煙を上げていた。

    苗木「はぁはぁ……」

    救おうとした対象から悪意を向けられ、痛みに動揺する。

    苗木(呼吸を整えろ。次の一手がくるぞ)

    苗木(離脱するか?泣いて動かず油断させる様な相手だ。きっと、逃げる事は出来る)

    苗木(幸い肩の傷も酷くないし、脇腹は出血をしているけれど、動けないほどじゃない)

    苗木(彼女はきっとこれからかなりの脅威になる。仮に魔具が複数使えるのなら、規則性のない攻撃。そうとう厄介だ)

    苗木(今なら、直ぐそこにいる。今なら不意をつかれる事はない)

    苗木(精神集中は極力使いたくない)

    苗木(その状況で遠距離攻撃の相手。僕の苦手な相手)


    刹那の時間、思考の海を泳ぐ。

    一瞬の時間で最良の選択を。

    これは英雄から受けた1ヶ月の修行(地獄)の中で苗木が無意識に獲得しつつある才能だった。

    苗木(逃げるか…戦うか。さあ。どうする)

  337. 342 : : 2020/03/12(木) 23:53:46


    どうする、なんて自問は愚問。


    苗木(ここで残したら後々驚異となる。ああいうのは最優先で倒すよう習ってきただろ!)


    タンッ


    苗木が隣接する建物の屋根まで跳び移ると、つい先程まで立っていた位置を白い光が走った。


    菜摘「ねーなんでかわすのー?当たると思ったのに~」

    苗木(冗談じゃない!あんなの直撃したら即死だ!)


    頬を一筋の冷や汗が伝う。苗木の目に、少女の持つ魔具の全貌が映り込んだ。


    苗木(それにしても、見たことがない形の剣だ……けど、魔具はそもそもが希少だし、当たり前か)


    希望の国で一般的に剣といえば刀身の両側が刃となっているが、菜摘の持つ剣は片側のみが刃となっている。刃の反対側は三日月のように反っていて、それがそのまま魔具の名称となっている。


    菜摘「魔具『鶴に夜太刀』(ミカヅキ・ムネチカ)ほどの名刀に斬られて死ぬなんて、あんたなんかには勿体ない名誉だわ!」

    苗木(随分細身の剣だし、斬り合いになれば勝てるか……いや、あの剣筋を読めない以上は近づきたくない)


    英雄と対峙することを想定し、必要最低限の消費でこの局面を越えなくてはならない。


    パッ


    あらゆる光が屈折する。それは菜摘の握る刀が振り下ろされたことを意味し、同時に、苗木の足場となっていた屋根はバターとしてトーストに塗られるつもりなのか、あっさりと斬り伏せられた。


    苗木「くっ!」


    バックステップで建物へ跳び移り、更に距離を取った。獲物が刀であれば、稼いだ距離の分安全が保証される。


    刀であれば。


    苗木「!」


    苗木は刮目し、即座に回避行動に移った。今菜摘の手に握られているのは、明らかに刀ではない。

    苗木の頭上を、雷が通過した。


    菜摘「ちぇっ、魔具『閃光花火』(クー・ド・フードル)もかわすか」


    かつて飛来した雷を素手で掴み取り、武器として使用した豪傑の伝説を元に作られたその弓は、練り込まれた雷の魔力を矢として放つ。


    苗木(やっぱり複数の魔具を使えるのか!)


    先に述べた通り、魔具は誰にでも扱える武器ではない。使用者に宿る魔力との相性、適正が重要視されるが、九頭龍菜摘は特例中の特例。

    絶望の国に現存する魔具の内10種と適合し、あまつさえ使いこなす、有史以来の“神童”であった。


    菜摘「戦争っておもしろーい!早く英雄ともコロシアイたいな~!」


    菜摘の手より放たれる雷の群れが次々と苗木に襲いかかる。

    一旦放たれた雷は決して避けられる速度ではないが、弓の性質上、構えから狙いを先読みし事前に回避行動をとることで苗木は致命傷を避け続けた。


    しかしそれは苦肉の策。


    苗木(……ダメだ、いつか当たる!僕の受けたダメージだって決して少なくない……これ以上は動き回っちゃダメだ!)


    苗木も、何も考えなしに避け続けていたわけではない。

    全ては機を伺うため。

    この戦いを終わらせる、反撃の機を!


    菜摘(ここ!!)

    苗木「!」


    だが、相手は“神童”の名を冠する者。

    戦闘におけるセンスも一流。それは苗木が攻撃に転じる瞬間の隙を、決して見逃さず捉えるほどに!


    菜摘が弦を引くと、自由を得た雷が空中を一直線に泳ぎ、苗木の右胸部を貫いた。


    迸る激痛は苗木を複数回昇天させるが、一方で、楽には逝かせないよう異なる激痛を以て無理矢理目を開かせる。


    昏睡と覚醒を刹那で繰り返しながら、苗木は力なく屋根から宙へと放り出された。


    菜摘「やった!」

    苗木(ここ!!)

    菜摘「!」


    菜摘の視界が一変し、天地が逆転する。

    空に直立する、苗木を見上げて


    菜摘は空へ、落ちていく。


    ドッ!


    当然受け身を取ることも出来ず、菜摘の体は頭の天辺から落下し、逆転した天地をなんとか元に戻した。

    その時には、菜摘の喉元に当たる冷たく尖った感触が、未だ事情を理解していない脳に敗北の二文字を刻むことになるが。


    苗木「ハァ……ハァ……」

    菜摘「……」


    菜摘「……早く殺して」



  338. 343 : : 2020/03/21(土) 20:15:28


    苗木「…………」

    菜摘「なに……?日和ったの?」

    剣に力を込めず、菜摘は自身を見下ろす苗木へそう問い掛ける。

    苗木「違う……。僕は君を殺さない。僕の剣は殺すためじゃなくて守る為にあるから」

    肩で息をしながら菜摘へそう返すと、苗木は剣を首筋から離す。

    菜摘「そうなんだ…………ありがとう」


    それを聞いた菜摘は。


    菜摘「馬鹿でいてくれて」


    魔具を取り出し口角を吊り上げる。


    菜摘「『誓いのキスの三秒後(グレイヴヤードゥ・オブ・ライフ)』」


    苗木「っ!?」

    大地が裂け、底の見えない崖を二つ作り出す。

    その中心に居るのは苗木誠と九頭竜菜摘。


    菜摘(ばーかっ)


    菜摘が扱う魔具はその殆どが伝説級。

    それらの魔具を扱える者は100年近く現れる事はなかった。それを可能にしたのは菜摘の特殊な素質。

    『強制同調(コネクト)』

    魔法を吸い寄せる素質。

    全ての魔具を扱えると云えば聞こえが良いが、それは敵が放った魔法は自身へ必中に。仲間が敵へと放った魔法ですら、その身に吸い寄せてしまう負の体質。

    自身の放つ魔力だけは対象から外れる為、彼女は攻撃の戦力としては期待されていた。

    1人で戦う事を義務付けられ、溢れる才能を持っていたとしても絶望ヶ峰には招かれない。

    その時手を差し伸ばし支えたのが実の兄、九頭竜冬彦であった。

    冬彦は魔法を使わない戦い方を専攻し磨いた。絶望ヶ峰学園に居ながらも、妹の為に。

    そんな兄は英雄に殺された。

    殺されたからこそ殺すのだ。

    菜摘(アンタも道連れ。英雄の駒は私が殺す)

    生に執着は無かった。兄のいない世界なのだから。

    菜摘(お兄ちゃん。私もそっちに行くね……)


    生を諦めた少女は静かに目を閉じる。



    では、少年は?



    苗木(ここで、死ぬわけにはいかない!)

    当然諦めていない。苗木は剣を崖へと突き刺した。

    崖へと突き刺さり固定された剣の柄を蹴って反対側へ飛び、左手1つで崖へとぶら下がる。


    ガシッ!!


    菜摘「……は?」

    残った右手は九頭竜菜摘の左手を捕まえていた。
  339. 344 : : 2020/03/21(土) 20:18:18
    菜摘「なんでアンタ。私の手掴んで……」

    苗木「…………」

    剣は役目を果たしたかの様に地の底へと落下し、十数秒後微かに音を鳴らす。

    菜摘「分かってないの?!アンタは二回も騙されて、何回も……何回も殺されそうになってるのに」

    苗木「分かるさ。……僕だってそこまで馬鹿じゃない……」

    菜摘「じゃあ……なんで……」

    苗木「希望の国と絶望の国は手を取り合える……僕はそう信じてるから……。僕は殺さない、見捨てたりしない。僕は兵士じゃなければ騎士でもない。僕だから、だから助けるんだ」

    菜摘「意味……分かんない」

    苗木の傷口から血が噴き出す

    苗木「ぐっ……ぅぅ」

    歯を食い縛り、指先の力を強める。

    出血は未だ止まらず、震える四本の指2人分の身体を支えるのは人の限界を超えて居たとしても長くは続かない。

    苗木誠は既に『精神集中』を使っていた。



    菜摘「……さっき使った転移魔法使えないの?」

    苗木「ごめん。あれは転移魔法じゃないんだ、今は何の役にもたたない……」


    菜摘「…………」

    菜摘「魔具にはさ、相性があるんだ」

    苗木「その話今必要?!」

    菜摘「これから必要になる筈だよ」

    苗木「?」

    菜摘「魔具は適正者を傷つけない。アンタが魔具『鶴に夜太刀(ミカヅキ・ムネチカ)』の一撃を受けて致命傷を負ってないのは多分そういう事。あそこまでダイレクトにくらったら普通風穴空いてるからね」

    苗木「それがなに……」

    菜摘「あげるよ。剣崖の下に落ちちゃったでしょ」

    苗木「なんで?」

    菜摘「…………私にはもう必要がないから」

    苗木「!」

    それを聞いた苗木は、菜摘の腕を握る力を更に強める。

    菜摘「手……離してよ。私、潔癖なんだけど」

    苗木「嫌だよ。僕だって……潔癖なんだ……手を汚させるつもり?」

    菜摘「……余裕ないくせに皮肉言わないでよばーか」


    苗木(ここは戦場。だれかが来るなんて都合が良いことはそうそう起こらない)


    苗木(だから自分を超えろ。松田君と同じ境地へ辿り着け。精神集中のその先へ。人智を超えた更にその先へ)


    苗木(奇跡だとしても起こすしかない!今は僕しかいないんだ!!)


    苗木(精神集中・改!!!)



    神へ願う様に心の中で唱える。

    祈るだけで強くなれる世界なら、江ノ島盾子は英雄にはなり得ない。

    気休めで終わるはずの祈り。しかし苗木へ変化は訪れた。



    苗木(身体が軽い!!これなら!!!)



    腕を使い、跳ねるように崖へと飛び上がる。

    限界を超えた。火事場の馬鹿力。

    それは思い込みだった。

    軽くなった事は物理的で。

    助ける事が出来たと安堵し、見つめた自身の右手の先。

    赤い鮮血を滴らせる、九頭竜菜摘の手首から先がそこにあった。


    苗木「えっ……、そんな」


    身を乗り出す様に崖の下へと目を向ける。


    右手に血で赤く染まる魔具を構え、暗闇へと落ちていく少女の姿。


    苗木と目が合うと少女は小さく笑う。

    少女の声は風に遮られながらも、精神集中をした(人間の限界を超えた)苗木へと届く。

    菜摘「……戦争を止めてよ。アンタなら出来る気がする。子供みたいな絵空事だけど、不思議だけどアンタなら」


    自由落下。

    重力に逆らえず、自ら生み出した墓場へと。

    地の底へと。


    苗木「あ……ぁ」


    手を伸ばすが届かない。


    彼女に対しては、長距離でも魔力のパスが繋がる。


    まだ間に合────



    ゴッっっ!!!!!!!!



    苗木「っ!!!!」



    激痛と共に苗木の身体は宙へ待う。


    肺の空気を失いもがく中、か細い魔力のパスが途切れた事だけが分かった。



    「おいアホ毛」



    蹴り上げた主は、苗木を見上げながら静かに告げる。


    苗木の事をアホ毛と呼ぶ人物など、この世界に1人しか居ない。


    松田「お前は敵国へ、紐なしバンジーでもしに来たのか?」
  340. 345 : : 2020/03/21(土) 20:38:31
    凄いな。もう6年近く執筆してるのか
  341. 346 : : 2020/03/21(土) 21:26:09


    苗木「……松田クン」

    松田「ふん……いい夢見れたか。さぁ」


    松田「夢から覚めて、悪夢を見ようぜ」

    苗木「!」


    落下を待たずして、苗木は空を蹴り後方へと飛んだ。

    咄嗟の判断というよりは、反応。目前に迫る死を延期させるだけの、本能。


    苗木「ぐっ!」


    松田の追撃を見て、絶え間なく動き回りながら精神集中の効果を拡大。止血と、痛覚の遮断。回復魔法より悪影響な寿命の前借りは法外。


    松田「言ったよなぁ~アホ毛ぇ。お前は絶対に俺が殺すって」


    常人には不可視な程の加速と急停止を繰り返し、それでも紙一重で攻撃を回避し続ける苗木の体は無言の悲鳴を上げ続けた。

    内蔵へのダメージは甚大で、水分不足から始まった脱水症状も全て、苗木は自分に嘘をつき、進行形で無かったことにし続けている。


    対する松田のコンディションは万全だった。一目でわかってしまう総合的な実力差に、それでも苗木は!


    苗木「殺されない!」

    松田「なら殺すのか!この俺を!」


    苗木の回避を先読みした松田の右手が、苗木の胸部へと伸ばされた。この手のひらが密着したとき、どうなるかはすでに学んでいる。


    しかし相手は英雄の右腕。知っているから対処出来る、なんて、生易しい魔法も体術も持ち合わせていない。

    同じ精神集中使いとして見ても、練度が違う。まともにやりあえば松田に軍配が上がるのは明白。


    松田の指先が苗木に届いた。1秒とかからず苗木に死の呪いが降りかかる。

    対して、苗木は。



    苗木「殺さない!」

    松田「!」


    松田は自ら手を引き、それだけでなく、距離を取った。

    松田が苗木から離れる。これの意味するところは大きい。


    松田「……んだそりゃ」


    松田の行った先読み。

    それはあくまで松田が知る範囲での苗木が適用されるわけだが

    この国に来て、苗木は変わった。


    知見が、覚悟が、そして武器が。


    その双肩が背負う意思が!


    苗木「魔具『鶴に夜太刀(ミカヅキ・ムネチカ)』……手に馴染むよ。ありがとう」


    (菜摘「……戦争を止めてよ。アンタなら出来る気がする。子供みたいな絵空事だけど、不思議だけどアンタなら」)


    苗木「ボクがみんなを悪夢から覚ます!」


    刀の切っ先を松田に向け、苗木は、自らを鼓舞するようにそう叫んだ。


    松田「……」

    松田「……はぁ~、魔具、ねえ。そいつぁ希望の国にはない剣だ。お前もすっかり絶望の国に染まっちまったな」

    苗木「松田クン……違う。ボクは……」

    松田「聞かねえよ。いや、言わせねえな」


    瞬間。

    苗木の目に映る光景。例えば雲。例えば風に揺れる草。例えば自らの持つ刀。例えば松田夜助。

    それら全てが、時の流れから隔離されたとして

    苗木がそう感じたとして


    それはあながち虚実とも言い切れない。

    事実、松田は苗木が生涯を懸けて修行しても辿り着かない境地へ辿り着いていて、それが、精神集中のその先なのだから。


    もうひとつ。

    松田が精神集中・改を発動し、苗木の命を摘まみとる直前

    走り去った光珠が、松田の行動を抑制し、苗木に流れるべき時間を正しく進ませたとしたら


    霧切「最後まで言わせてあげてちょうだい。後で、私も」

    苗木「霧切さん!」


    松田「……今日は運がいいな」


  342. 347 : : 2020/04/15(水) 00:03:48


    霧切「あら、果たして運が良いのはどちらかしらね?」

    松田「俺の方さ。今日の運勢は1位だったんだ。ラッキーアイテムは、赤い服だ」

    霧切「そう、案外ミーハーなのね。それにして貴方の服、決して赤くはないと思うのだけれど」

    松田「大丈夫だ。これから赤くなる」ザッ

    霧切「!」

    一瞬だった。

    霧切が目で終えたのは一瞬だけ。

    それだけで十分だった。

    霧切「貴方は毎回。初撃は死角に回り込むのね。良いのかしら、そこは私の通ってきた道よ」

    松田「なに?」

    数多の薔薇の蔦が現れた、松田を捕縛せんと向かう。

    霧切「『死神の呪縛』(イン・ビトロ・ローズ)」

    鳥籠を模す様に造られた棘の生えた蔦は、松田に迫りながらも絡み合い、徐々にその形を小さくしていく。

    松田「成る程なぁ。だがただの蔦だ、なんの意味もないことを教えてやる」

    松田は未だ余裕のある表情で剣を構える。

    一方の霧切は、前方にいる苗木を見つめながら、小さく呟いた。

    霧切「大丈夫?そっちは風下よ」

    石化の魔法。それはもう霧切仁だけの魔法ではない。

    霧切「『動けない。動かない』(コカトリス・ブレス)」

    石化の霧は蔦の鳥籠を石の檻に換え、余裕を死へ替えようと松田へ迫る。

    松田「………」

    松田夜助は動かない。

    ゴウッ

    霧に呑みこまれたことを確認し、霧切は苗木の元へ駆ける。

    苗木「霧切さん……来てくれてありがとう。それで松田クンは大丈夫なの?」

    霧切「……あの程度で死ぬのなら、私の父は生きていたわ」

    苗木「それってどういう……」

    松田「簡単さ。俺はこの女の父親を殺したんだ。名を霧切仁という。お前も知っているだろ?」

    苗木「なっ!?」

    理解できなかった。動きも、言葉の意味も。

    正確には許容出来なかった。

    受け入れたくなかった。

    苗木「仁先生を殺したの?」

    噛み砕く為に口にする。否定してくれと願いながら、無駄な祈りを懲りもせず。

    松田「ああ。俺が殺した」

    苗木「……なんで?」

    松田「質問すれば答えてもらえると思ってるのか?お前はいつまで経っても弟子の気分でいるんだよアホ毛。お前は、今はもう絶望側なんだぜ?」

    苗木「……なんで簡単に殺せるんだよ。なんで……」

    苗木には分からなかった。何故ならその行為こそが自身の村を襲った絶望の兵士そのものなのだから。

    その質問に対して、松田夜助は嘲笑の後にこう言った。

    松田「単純な話さ。それは俺より弱いからだ」

    霧切「『天界に名を連ねよ』(メメント・モリ)!!」

    苗木「『鶴に夜太刀(ミカヅキ・ムネチカ)』!!」

    同時に2人は魔具へ魔力を込める。


    苗木「そんな事を……そんな事を訊いているんじゃない!!」

    霧切「あまりにも不愉快ね。御免なさい苗木君。殺してしまうかもしれないわ」

    刀身と銃口に集約される高密度の魔力を見つめても尚松田夜助は笑う。

    松田「光球に、光の斬撃か。どちらも単調だな」


  343. 348 : : 2020/04/18(土) 21:48:20


    霧切「それでいいのよ」


    濃霧に姿を隠されていようと、声の出所から松田の位置は筒抜けだった。逆に言えば、完全に気配を消し去ることで直撃を避けられる可能性もあったはず。

    それでも声を発した、余裕。挑発。二人をモノクロの衝動が突き動かした。

    昂った感情は魔力を更に助長させ、意図せずとも魔具の性能は限界近くまで引き出されていた。


    苗木「ハアアアアアアァッ!!!!」


    夜空を裂くような美しさと大地を叩き割るような豪快さを共存させ縦一文字に振り下ろされた『鶴に夜太刀(ミカヅキ・ムネチカ)』は、今しがた斬り伏せた虚空を松田夜助へと事実改変すべく自身の分身たる衝撃波を真っ直ぐに走らせた。

    並走するのは、霧切が放った光球。共に光の速さを以て、非生物でありながら感情と目的を共有し、それを成就すべく疾駆する。


    間もなく霧が晴れた。光球と衝撃波を歓迎するようにして、無防備な松田の体を差し出すようにして。

    檻の中で松田は生身のまま存在した。しかし松田の身動きを一切封じるサイズまで収縮したこの檻は、二人の攻撃に必中を約束し、それを果たすと、役割を終えた。


    光の通り道が黒く塗り潰され、焼き焦げた匂いと灰が舞う。檻の残骸が散乱する焦土に、生命の痕跡はない。

    本来ならば。


    霧切「……予想はしていたけれど、流石に傷つくわね」


    二人の視線の先には、衣服を黒くした松田が立っていた。


    松田「なんで攻撃した方が傷ついてんだ?傷ついたのはこっちだっつーの」

    苗木「松田クン」

    松田「あぁ?」

    苗木「占い、ハズレたね」

    松田「うぜえぞアホ毛!!」

    苗木「ごめん……そんなことより、仁先生が死んだのは、松田クンに負けたからかもしれない。でもボクが知りたいのは理由だ。そこに至るまでの紆余曲折。一言じゃ語り切れないんだよね?」

    松田「だからいつまで弟子の気分なんだよ」

    苗木「いつまでもだよ……ボクは松田クンのお陰で生きてここに立っている」

    松田「とんでもねえ一撃くらわしといてよくいうぜ……」


    ザザッ……


    霧切『苗木クン、本格的なコロシアイが始まる前によく聞いて』

    苗木『霧切さん?通信魔法か』

    霧切『結論から言うわ。私はあいつを殺す気で戦う』

    苗木『え!?』

    霧切『でもあなたは彼に生きていて欲しいのでしょう?』

    苗木『うん……そりゃあ』

    霧切『苗木クンの疑問に、私ならいくつか答えられる自信がある。納得もさせられるはず。それでも?』

    苗木『うん。霧切さんからももちろん聞きたいけど……本人から直接聞いて……自分の答えを見つけたい。きっと、僕が聞かされるのは受け止めがたい真実なんでしょ?』

    霧切『……ええ、そうね。わかったわ。安心して。私とあなたが全力で、彼を殺す気でかかろうと、まともなコロシアイになるかすら危ういわ』

    霧切『彼は希望の国の“英雄の右腕”。英雄を支え、絶望の国に勝ち続けたもう一人の英雄。歴史に名を刻んでいる、生きる伝説よ』

    苗木『わかってるさ。松田クンの強さはよく知ってる……だからボクが、ボクも、霧切さんも、松田くんも納得出来るような結末を用意しなきゃいけないんだ!』

    霧切『……通信を切るわ。まずは生きて、また話しましょう』


    通信魔法が切れて、二人は魔力を練り直す。あらゆる雑念を振り払わなければ、松田を前に立つことは出来ないと悟って。


    松田「あー、冥土の土産に聞いとけ。通信魔法のコツは魔力をいじくって波線を描くようにイメージするんだ。そうすりゃあ傍受されにくい」

    苗木・霧切「!」


    松田「でもいいぜ。さっきのを見てなお俺を殺そうとするメンタルは認めてやる。アホ毛ぇ、見習っとけ」

    苗木「ボクは!」

    松田「お前は小難しく考えすぎだ……来世は何がいい?それだけ考えて、ゆっくりおやすみ……」


    ヒュンッ


    二人の視界から松田の姿が消えた。

    脳裏に霧切の言葉が過る。


    初撃は、死角。


    松田「!」


    松田の鼻先を光が掠めた。


    苗木「当たり……正面!」

    松田「つくづくうぜえアホ毛だなっ!」


  344. 349 : : 2020/04/19(日) 02:28:11

    霧切「……?」

    死と隣り合わせの激闘の中、霧切は一種のデジャブを感じ魔力を練りながら思案する。

    霧切(……)

    しかし答えには至れない。

    至れずとも時間は流れていくばかり。

    松田「アホ毛、お前の悪い癖だ。自分の予想通りに事が運んだ時、必ず油断する」

    苗木「っ!」

    刀が。『鶴に夜太刀(ミカヅキ・ムネチカ)』が宙を舞っていた。


    ドゴォッ!!


    苗木の手は虚空のみを掴み、遅れてきた衝撃で後方へ吹き飛ばされる。

    苗木「ぐっ!!」

    松田「ただの蹴りだぞ?」

    苗木「まだっ……!」

    歯を食いしばり、転がる勢いを利用して立ち上がり跳ぶ。刀へと手を伸ばしながら。

    松田「ああ。必要だよなぁ。託されたからなぁ!!」

    苗木が剣を取りに行くことを松田は見越しており、苗木より後に跳んだにも関わらず苗木よりも早く刀へ辿り着く。

    松田「アホ毛。お前にこのオモチャは勿体ねぇよ」

    空中で身動きの取れない苗木へ向け、『鶴に夜太刀』が振るわれる。

    苗木(……それこそが僕の狙い!!)

    苗木は空中で魔力を練り"パス"が繋がる一瞬のタイミングを待つ。

    3センチ。

    これが九頭竜菜摘(特別)を除いたの苗木誠の射程範囲。

    入れ替える魔法。

    それは決して空間魔法でない。

    斬る対象が斬られる対象に

    投げる対象が投げられる対象に。

    勝つ対象が負け、負ける対象を勝ちにしてしまう後出しの禁忌。

    状況を入れ替える魔法。

    名を────











    松田「──『自分だけの規則本』(ワイルドカード)と言った所か?」

    苗木「!!」

    松田は振るう刀を離し投げた。

    刀を振るわないとは近付かないという事であり、苗木の魔法は発動しない。

    虚を突かれた一撃は、苗木の左脚の太ももへ深く突き刺さった。

    苗木「っぅッ!!!!」

    松田「……フン」

    霧切「貴方にも当て嵌まるじゃない悪い癖」

    ダァンっ!!

    松田「なんだと…?」

    鋭い痛みが松田の腹部を中心に広がり、焦げた臭いとともに血液が流れる。

    白い弾丸が松田の腹部から半分顔を出しており、白い結晶となって霧散した。

    霧切「光球を弾丸の様に圧縮して放てば速度は先程の比ではないわ。まあ、操作出来ない分扱いが難しいのだけれど」

    霧切(貫通出来ないなんて化け物すぎないかしら?)

    松田「…成る程な。破壊力や操作性すらも速力に変換してやがるのか、夏休みの自由研究にでも作った手造り魔具にしては良くやる」

    数ミリの傷痕を緑の魔力が包み込む。傷の小ささや松田の能力から傷が治るのは僅か数秒。


    しかし戦場ではその僅かが勝敗を分ける。


    苗木「ぅああああああああああ!!!!!!!!──『鶴に夜太刀(ミカヅキ・ムネチカ)』ァァァ!!!!!」

    悲鳴を上げながらも苗木は立ち上がり1歩を踏み出す。

    苗木は切った。精神集中の痛み止めの効果を。

    精神集中を全て自身の推進力に換える為に!

    松田夜助に近づく為に!!

    苗木「っっっっ!!!!!」

    右脚で跳び、左脚の太腿から後ろへ伸びる光の柱で更に加速。

    松田(くそ。反応が遅れた、1つずつ捌け。カウンターを狙えばそれこそ『自分だけの規則本』(ワイルドカード)の餌食だ。先ずはいなす。距離を取れば良いだけだ──)

    霧切「天界に名を連ねよ』(メメント・モリ)」ダダダダダダダッ!!!!

    松田(連射だと!?アイツ!俺をアホ毛事やるつもりか!!)

    無数の光の弾丸が松田夜助と苗木誠に迫る。

    松田「チッ…!『不完全な模範解答(ヒューリスティック)』」

    松田夜助の魔法。これは魔法を呑み込む見えない壁を作りだす出来損ないの空間魔法。

    消すのではなく送るだけなので燃費も良い。

    出来損ないとはいえ発動すれば魔法の対処"は"完璧に行える対魔法用の魔法。

    では体術は?

    故にこの魔法は不完全な模範解答。

    苗木(届く!!)

    全身の裂傷から血を流し、赤い流星の様になりながらも苗木は拳を構える。



    松田(残念だがお前の一撃は俺に届く事はない)



    不完全。

    松田夜助以外が使うのならば。

    『精神集中・改』の松田に対し、体術のみで傷を負わせる事は英雄であっても不可能だ。

    松田は血が滲み真っ赤になった苗木の袖口を掴む。

    圧倒的な速度の拳を更に圧倒し掴む。

  345. 350 : : 2020/04/19(日) 02:31:03


    その瞬間。3センチの壁は崩壊する。

    ズキリッ、と。

    左脚(・・)に激痛が走った。

    視線だけを落とす。そこにあるのは1本の刀。

    『鶴に夜太刀』(ミカヅキ・ムネチカ)は松田夜助の太腿に深々と突き刺さっていた。

    松田(行動以外も入れ替えられるのか!?)

    答えは簡単。滴り落ちる血液が物語っていた。

    苗木「僕の勝ちだよ」

    刀という蓋を失った左脚から、ドロリと鮮血を流しながら苗木はいう。

    松田「……アホ。せめて光の斬撃で俺の脚を斬り飛ばしてから言えっての。やる気あるのか?」

    険しい表情の苗木とは対照的に、松田は小さく笑っていた。

    霧切「やる気あるのかは、こっちの台詞なのだけれど」

    未だ『天界に名を連ねよ(メメント・モリ)』を携えたまま霧切は2人へと近付き口を開く。

    松田「なぁお前さっきからなんなんだ?俺の言葉に突っかかってきたばかりだ。俺のこと好きなのか?」

    霧切「煙に巻かないで頂戴。因みに嫌いよ。殺すわ」

    苗木「ちょっと待ってよ霧切さ──うわっ!」ガクッ

    苗木は人工魔具の銃口を向ける霧切と松田の間へ割って入ろうとするが、ほぼ脚に感覚は無く。そのまま地面に跪く。

    松田「チッ。本当に調子が狂うな」

    松田によって練られた緑の魔力が苗木を包む。

    苗木「ありがとう。松田君」

    松田「よせ、俺程度の回復魔法じゃただの気休めにしかならねぇよ。それとも首落として楽にしてやろうか?」

    太腿に刺さった剣を引き抜き、刀身を苗木へ向ける。

    苗木は先程までの緊張感が嘘の様にキョトンとした表情で首を傾げた。

    その一連の流れを見ていた霧切は憎悪を奥底に秘めながらこう口にする。

    霧切「殺す気なんてない癖に」

    松田「あ?」

    霧切「考えればおかしいのよ。貴方、苗木君には1度も攻撃魔法を使わないのね」

    松田「……」

    霧切「不意を突いた一撃も吹き飛ばす様に蹴るだけ」

    松田「……」

    霧切「最後の一撃だって。手を掴むんじゃ無くて攻撃系の魔法を放つだけでよかったじゃない」

    表情を変えない松田とは反対に、霧切は態とらしく驚いた表情を作り口元を隠す。

    霧切「…もしかして貴方。苗木君の事好きなの?」

    松田「マジで殺すぞブス」

    霧切「それに苗木君の魔法に勝手に名前を付けてるし。もしかしてストーカー?思い人の私物を勝手にコレクションにしてるタイプの悪質なやつね」

    松田「自分の最高位の魔法じゃ擦り傷しか付けられなかったからって精神攻撃にシフトするんじゃねぇよ。チッ、本当に捻るぞ」

    ガキの戯言だと聞き流そうとしながらも、松田夜助も人の子。若干の苛立ちを表に出しながら舌を鳴らす。

    苗木「ねえ松田君。僕も教えて欲しいんだ。思い返せば、君は僕が即死する一撃は決して放たなかった。セレスさんと逃げた時も君なら直ぐに捕まえれた筈なのに追い掛けてこにった」

    松田「……はぁ」

    ひとつの大きな溜息をした後、松田は口を開く。

    松田「アホ毛。お前は何でか知らねぇが、英雄のお気に入りだ。で、俺は英雄の右腕。それが理由だ」

    苗木「それが……理由?」

    あまりにも拍子抜けする返答に苗木は言葉を失っていた。

    松田「おかしいか?それとも何だ?空が青いからとかにすれば良かったのか?」

    苗木「いや、良くないけど…」

    霧切「……」

    好奇心ではなく違和感。

    ピースが足りないパズルの様なもどかしさ。

    それを霧切は口にする。

    霧切「本当にそれだけが理由なのかしら?」
  346. 351 : : 2020/04/19(日) 21:37:19


    松田「とは言え……お前を殺してやりてえのは本音だぜ。教えを乞いに来たかと思えば今度は謀反。さらに敵国で敵国の魔具持って、戦力を減らしてるときた。何がしたいのかまるでわからない」

    苗木「……ボクもわからなかった。だから知りたかった。これからも、もっと知りたいことがたくさんある!」

    松田「……」

    霧切「言葉を変えるわ。松田夜助、あなたの目的は何?」

    松田「祖国の勝利だ。大人しくしてりゃあお前を名誉市民にしてやってもいいぜ」

    霧切「お断りよ。そっちの国にはないでしょう?ビーフストロガノフ」

    松田「ビーフ……なんだって?」

    苗木(……やっぱり)

    苗木(松田クンは、嘘をついてる)

    苗木(狛枝クンの話した真実とはどうしても食い違う……いや、そもそもボクはあの話を鵜呑みにしていたけれど、あれが本当に真実なのか?ボクらの国の歴史が嘘で、敵国が本当?それっぽい話を真実だと錯覚してるだけなんじゃないか?)

    苗木(……っ!それを確かめるために話を聞きたいのに、ボク自身が全てを疑ってどうする!仮定して、一つずつ潰していくべきだろ!)


    苗木「松田クン。キミに着いていっちゃダメかな?」

    松田「ハァ!?」

    霧切「!?」


    苗木(霧切さんから懐疑の視線を感じる。たしかに前のやり取りを考えるとオカシイことを言ってるのは自分でもわかってる……けど!)


    聞き出せる気がしない。それが素直な感想だった。


    苗木(だから聞き出さない!全ての行動を見て、ボクが理解する)


    霧切「……」

    松田「おいおい、お前の出身国はどこだ?お前は誰の味方なんだ?」


    苗木「……」

    苗木「……無理なお願いなのはわかってる。だから、今は……」


    松田「……」


    重い沈黙がのしかかった。敵国の真ん中で何をやっているのか。そもそも戦争の渦中であることすら踏まえて、苗木は、第三者視点から自分を見て酷く滑稽であると嘲笑した。

    一方で、自分には信念がある。約束がある。今は滑稽でいいと叱咤して、松田を見つめる。


    松田「……俺は城に行く。キングにチェックをかけに、な」

    松田「“英雄”もいるだろう。最終決戦だ」


    松田「死に損ないのお前が行ったところで、見れるのは三途の川くらいだろうな」


    苗木「……あっ」


    苗木は誤魔化しきれないダメージを再確認する。出血を見るに、今生きて立っているのが奇跡なはずだ。精神集中による痛み止めのその場しのぎがいつまで持つか……。なんにせよ、魔力も限界だった。


    今意識を失えば、精神集中の解除と共に命まで失ってしまうだろう。


    霧切「苗木クン、私の学校にいきましょう。保健室で応急処置ができるはず……運がよければ彼女も」


    霧切が絶望ヶ峰学園の方へ一瞥を送る。苗木もそれを目で追った。


    苗木「松田クンは──」


    振り向くと、苗木の視線は宙をさ迷って、行き場を失くしたので、仕方なく霧切に視線を戻して、二人はこの場を背にした。


  347. 352 : : 2020/04/19(日) 22:45:05


    モノクマ「ねえ。どこに行くクマ?」

    霧切「!!」

    苗木「!!」

    目の前に白黒のクマが居た。

    それは何もない所から現れ、トボける様に首を傾げた後、鋭い鉤爪を両手から伸ばし隙のあるポーズで身構える。

    苗木「えっと……モノクマ?」

    緊張感に欠けるシルエットに気味の悪さを感じても、2人は武器を構える事は無かった。

    モノクマ「そうクマそうクマ。うぅっ、苗木君から斬られた傷が痛むよぉ」

    霧切「何これ。田中君の破壊神暗黒四天王の売れ残りかしら?」

    モノクマ「えーいプンプン。ひどいクマ!あんな雑魚と一緒にされるなんて心外だよ。ボクとあれじゃあ格が違う」

    苗木「!?」

    ブワッ、と。

    死の魔力が辺りを覆う。

    霧切は一瞬でその魔法の正体に気付き行動を移す。

    モノクマ「『動けない。動かない(コカトリス・ブレス)』」

    霧切「『裏切りの模範回答(カウンター)』!!」

    自身と苗木を台風の目にして、暴風が吹き荒れる。

    霧が晴れた先で見たものは。

    霧切(氷柱の雨!田中君の『千本氷柱(インフィニティ・レイン)

    苗木「ぐっ!?」

    同時に過剰な重力が2人を襲う。

    苗木(これは…、カムクラ君の使っていた……!)

    霧切(ソニアさんの『王女の命令(グラビトン・ザ・ギブ)ですって!?)

    2つの魔法。故人(2人)の魔法。

    霧切(苗木君を庇ってこの状況をどうやって凌げば……)

    思考を回す。危機的状況の解答を求めて。

    答えは脳へと流れ着く。


    (動くな!アホ毛とブス!)


    通信魔法。この戦場で1番弱い魔法。

    だが、多対1でこれ程便利な魔法もない。

    松田「『不完全な模範回答(ヒューリスティック)』」

    松田自身の魔法で見えない壁を作り苗木達を覆う。

    氷柱はそれへと吸い込まれる。

    モノクマ「おやぁ?死体漁りの松田君。服黒いね。カラスでも目指してるの?」

    松田「死ね」

    モノクマ「うわぁん辛辣ぅ。ボクは……ボクは悲しいよぉ」

    無表情のまま、声色だけを変えたモノクマは、相変わらずケロリとした表情でこう続けた。

    モノクマ「だから。殺すね」

    見えない音の刃が松田を襲う。

    モノクマ「ボクの歌をきけぇ!!ソニックブーム!!」

    松田「くそっ。『不完全な模範回答(ヒューリスティック)』!!」

    松田は自身の周りに見えない防御壁を形成。相手の出方を窺う。

    それは苗木達の周りにある防御壁を解くという事。

    モノクマ(♫)



    (まだだ。まだ動くな)


    モノクマは魔法を使い、松田の声色で通信魔法を苗木と霧切に伝える。

    苗木と霧切は静かに頷く。

    2人は松田を信じて動かない。

    2人は松田(英雄の右腕)を信じて動けない。

    故に必中。

    音の刃が2人を切り裂く。

    苗木「ぐぁぁあっ……!!」

    霧切「つゥっ!」

    松田「なっ!?何固まってやがる!!ここは戦場だぞ!!」

    多対1でこれ程便利な魔法はない。

    モノクマ「『霧が全てを包み込む(ドミネイト)』」

    紫の霧が3人を呑み込んだ。
  348. 353 : : 2020/04/20(月) 18:41:21


    松田(チッ、これは霧切仁が使っていた魔法……俺と英雄がいなきゃ希望の国最強の魔法だ。めんどくせえ効果に決まってるぜ)

    モノクマ「うぷぷぷぷ……あとはキミだけだね!」

    松田(キミだけ、ねえ。まるで倒したような口ぶりだが間違いじゃねえ。現に苗木は虫の息……対応してねえでさっさと殺すのが吉だな)

    松田(まずはこの最悪な視界を開く!)


    濃霧の中、松田が放ったのは回し蹴り。自身の周囲を凪ぐその回し蹴りが放つ風圧は、三人をいとも容易く飲み込んだ霧を容易に振り払った。


    松田「最近やけに霧と縁があるな……おいアホ毛、女」

    苗木「松田クン、ボクは大丈夫!」


    苗木が 『鶴に夜太刀(ミカヅキ・ムネチカ) 』を構え、地を蹴った。


    霧切「同じよ」


    霧切も光球を生成、周囲に滞空させながら、続々と装填していく。


    松田「いい!お前らは手を出すな!」


    その時には、松田はモノクマの背後をとっていた。


    モノクマ「!!」


    ガキンッ!!


    モノクマの視界が一瞬にして360度を見渡したら、そこで暗黒が訪れる。

    松田(しかしなんだ?このぬいぐるみ野郎、霧の中で攻撃を仕掛けてこなかった。普通はそこを好奇と見て叩く。だがあいつはまるで……)

    モノクマ「……」

    松田(もうその必要はないとでも言いたげに、追い討ちのひとつもしてこなかった)

    モノクマ「……」


    松田は右手に収めたモノクマの頭部と目を合わせた。仰向けになった胴体との別れを惜しむこともなく、頭部は何も語らない。
     

    松田「おいお前ら、本当に異常はないんだろう……」


    松田の頬を、光弾が掠めた。切れた頬から飛び散った赤い滴が光弾を追う。


    霧切「あら、やっぱり狙いを合わせるのが難しいわね」

    苗木「松田クン、ボクらも加勢するよ!」

    松田「あぁ!?」


    苗木は刀を振り下ろす。

    霧切響子に向かって!

  349. 354 : : 2020/04/21(火) 23:50:56
    松田(支配する(ドミネイト)とこの状況──まさか誤認識させる魔法か!?」

    現に霧を防いだ松田のみ、この正常な異常に気付けている。

    松田(あの女が俺を攻撃するのは、この状況ではイかれているがまだ理解出来る。けど、アホ毛があの女を斬るのはオカシイ)

    正直松田にとって霧切が死ぬ死なないは些細な話だった。

    苗木「くらえ!!」

    ただし、苗木誠が斬ると云うのなら話は違った。

    霧切は防ぐ様子もなく、松田を睨み光弾を構えている。

    松田(不完全な模範回答(ヒューリスティック)を使う暇はねぇな)

    ダンっ!!!

    愚直なまでに直線に松田は地を蹴った。

    同時に放たれた光弾を致命傷になり得るモノだけを躱し、霧切と振り下ろされた刀の間に自身の剣を噛ませる。

    松田「敵の魔法に操られて安いポリシーまで捨てて何がしたいんだ、アホ────」

    松田「違う」

    思わず口に出た。自身の滑稽さに気付いてしまったから。

    松田(何やってんだ俺は。俺こそ今何をやっているんだ)

    腕や脚、頬や肩、穴の空いた左腹部から赤い流血を流しながら松田は剣を2人の間から引き抜いた。

    苗木「死ね!!!」

    再度振り上げられた刀は、無防備な霧切を袈裟斬りにする。

    松田「ほぅら。簡単だろ」

    そして2人の間を引き抜いた剣は、苗木の首を撥ねていた。











    ドロリ。ドロリと。4つの肉が融けてそこにボタリと落ちた。

    松田夜助は知っていた。先程から使われている魔法は故人のものであるという事を。

    そして魔法大辞典に記されている伝説級の欄には、分身魔法と変身魔法がある事を。

    信じたくはないがモノクマが死者の魔法を使えると結論する。

    記されているという事は使えるものがいたという事。現代にその二つを使えるものはいない。つまり分身魔法と変身魔法の使い手は死んでいる。

    モノクマが本当に死んでいるのなら2人の幻覚は解けているはず。故に斬られたモノクマ偽物。故にあれは分身。

    そして。違和感があった。

    誤認識させる魔法ならば、斬られたモノクマは彼らにどう映った?

    松田本人の行動に対しても何のアクションも無い。

    見えないわけじゃない。だって霧は晴れたのだから。

    そして変身魔法に辿り着いた答え。それは彼ら自身の行動に対する違和感。斬りかかられても抵抗をしない霧切に威力の高い光弾(故に偽物)鶴に夜太刀(ミカヅキ・ムネチカ)の光の斬撃を使わず、言動のオカシイ苗木誠。

    冷静に考えれば相違点など幾つも存在していた。

    松田「お前。化ける才能ないな。それでも狸か?」

    モノクマ×2「「クマだよ!!!バカにするなよ!!クマ!!」」

    松田「それでアホ毛達は何処へやった?」

    質問しつつも自身の脳内で、答えを探す。

    1。最も濃厚な線。モノクマによる空間魔法の強制退去。またその他の魔法で別の場所にいる。

    2。霧切による魔法の対処。

    3。跡形もなく殺されている。

    松田(ま。3はないだろうな。アホ毛しぶといし)

    現実逃避による楽観しではなく、松田には何故か確信があった。

    モノクマ×2「「知らなぁい。気付いたら消えてたんだもーん。クマ」」

    松田「は?」
  350. 355 : : 2020/04/22(水) 17:38:42


    ──────────



    【絶望ヶ峰学園:保健室】



    霧切「助かったわ……ありがとう、罪木さん」

    罪木「危なかったですぅ……霧切さん、なんなんですか、この人」


    苗木と霧切が窮地に陥った瞬間、罪木の魔法、 『救急脱出装置』(テレポーション) が発動した。

    これは 『固定するご奉仕』(コール・ホワイト) の上位魔法であり、対象の足元に出現させた魔法陣から魔力で強化した包帯を放出し、対象を固定した後、自分の下へ転送する魔法。

    対象とは“罪木蜜柑を求める想いの強さ”と“距離”で決まり、罪木が拠点とする場所の近辺に張り巡らせたか細い魔力の糸がこれを感知することで個人の特定まで達成し、詠唱へと移る。


    この魔法には前例がなく、歴史上で使用者は罪木蜜柑ただ一人。常時優勢であるはずの希望の国が絶望の国を捉え切れないのはこの魔法によるところが大きい。

    彼女自身の回復魔法も優秀で、肉体への誤魔化しがなく、文字通り完全回復に導くことが出来る。彼女もまた、魔法学の百年先を行く天才。


    今回は霧切達と絶望ヶ峰学園との距離がそこまで遠くなかったこと、状況が切迫しており願いの力が強まったことから、罪木の詠唱が間一髪で成功した。


    苗木「……」

    罪木「ここまでの傷と出血、内蔵もダメ……常人なら3回は死んでますよぉ」

    霧切「常人じゃないのよ。彼は脳のリミッターを外し、自分を強化する魔法で生き長らえたの」

    罪木「脳を!?脳に干渉する魔法は負担がひどいんですよぉ!更に肉体にまで影響を及ぼす魔法なら、この人は……」

    苗木「……」


    苗木は黙して、動かなかった。

    転送の直後、真っ先に回復魔法の雨を浴びた彼は、それを感謝すると目を閉じて、全身から力が抜けたようにして崩れ落ちた。

    そのままベッドへと移され、現在に至る。


    霧切「……」


    霧切もまた回復魔法を浴び、平静を保ってはいるが、罪木の話を聞いて苗木と自分を重ねてしまった。

    「私もその魔法を使っていたのよ」とは言えるはずもないまま、何処と無く気まずさを感じて、霧切は話題を探した。


    霧切「それにしても静かね。戦争が始まって随分立つのに……。あなたは激務に追われているかと思ったけれど」

    罪木「そうですねぇ。霧切さん達が今日初めてのお客さんなくらいですよぉ」

    霧切「私達が?」

    罪木「はいぃ……うぅっ……」

    霧切「ちょっと、突然泣き出さないでちょうだい」

    罪木「ずびばぜぇん……でも、澪田さんは助けられなくて……」

    霧切「!」

    罪木「澪田さぁん……うぅ……」

    霧切「……ごめんなさい」

    罪木「いえ……うくっ……」


    苗木「……うぅ」

    霧切「! 苗木クン!!」

    苗木「霧切さん……ボクはどのくらい寝てたの?」

    霧切「少しも寝てないわ。5分くらいかしら」

    苗木「そっか、よかった」

    罪木「よくないですよぉ!!」

    苗木「!」


    シーツを剥がし、起き上がろうとする苗木を制止するべく、罪木が肩を掴んだ。


    罪木「戦争が終わるまでここで横になっていてください!あなた死にますよぉ!?」

    苗木「……大丈夫。ボクが戦争を終わらせ……くっ」


    苗木は罪木を優しく振り払おうとする、が。


    苗木(嘘だろ……腕が……!足も動かない!)


    精神集中を使えば動かすことは出来るだろうが、つまり、これから戦争が終わるまで精神集中を切らすことは出来ない。


    苗木(くっ!回復魔法を受けてこれか!痛みはなくなったけど、とっくに取り返しがつかないところまで来ているんだ!)


    罪木「とにかく安静ですぅ!」

    霧切「……」


    苗木(……ボクは!)



  351. 356 : : 2020/04/24(金) 01:12:11


    苗木「……僕は、戦争を止める」

    苗木は背中で這うようにしてベッドの背もたれに寄り掛かり上体を起こす。

    霧切はその一連の動作に手をかさず、手を貸そうとする罪木を腕で静止して、冷たい声色を返す。

    霧切「どうやって?」

    苗木「江ノ島さんを止める」

    霧切「江ノ島……英雄ね。何故?英雄を止めれば戦争が止まるの?」

    苗木「それは……」

    言葉に詰まる苗木。それを見て霧切は言葉を重ねる。

    霧切「それにどうやって止めるの?その身体で」

    苗木「精神集中を使えば動くんだ……だから!」

    『精神集中』を使い、右手を動かす。本当に壊れているのは苗木の思考なのか、彼は躊躇いもなくそれを使う。

    霧切「だから?だから何だって言うの?」

    霧切は言葉を続ける。声色に微量の怒りを込めながら、そして憐みと、一縷の悲しみを添えて。

    霧切「精神集中を使って、動かない身体を動かす。ただ、それだけじゃない。良い?ハッキリと言うけれど今の貴方は足手纏いよ。そこら辺の兵士に殺されるか、反動で死ぬかの2択」

    霧切「大丈夫。罪木さんは優秀な治癒魔法の使い手よ。きっと、貴方もきっと…元の身体に戻ることが出来るわ……。ねえそうでしょう?」

    罪木「え、えっと数週間掛ければ日常生活では支障が無いほどに回復するとは思いますぅ。勿論、治癒魔法の治療込みの日数ですが」

    苗木「!」

    霧切「なら、それで良いじゃない」

    苗木「それじゃあ遅いんだよ!」

    霧切「何度言わせれば良いの?貴方死にたいの?」

    苗木「死にたいわけじゃない。でも、僕が動かないと誰かが死ぬ。だから、僕は──」

    苗木「僕が護らないといけないだ。じゃないと僕は何の為に生かされたんだ。僕がこの状況で何も出来なかったら、父さんと母さんは無駄死にじゃないか……」

    霧切「……貴方にも辛い過去があったのね」

    霧切「でもね。貴方が死ねば、貴方の両親は浮かばれない筈よ」

    苗木「……それでも」

    霧切「貴方が動けば貴方が死ぬのよ。きっと貴方の友達はそれを望まない」

    苗木「それでも託されたんだ……」

    チラリと立て掛けられた刀へ目を向ける。

    『鶴に夜太刀(ミカヅキ・ムネチカ)』は泡白く光る刀身は何も写さない。

    霧切「じゃあ、貴方も誰かに託せば良いじゃない」

    苗木「え?」

    ストンと腑に落ちてしまった。それが苗木にとっては堪らなく辛いものであった。

    苗木(僕は、心のどこかで諦めてしまっているのか?)

    彼は無自覚の潔癖であった。

    それは手が泥で汚れるのを嫌うという意味でなく。心が汚れてしまうのを嫌うと言うこと。

    苗木「…………」

    ぽっかりと心に穴が開いたような気がした。

    先程まで前へ突き出していた腕をだらんと下げ。苗木は俯く。


    苗木「まだ、僕は何も成し遂げちゃいないんだ……」

    霧切「そんな事は無いわ。だって貴方が居なければ、私は松田夜助に殺されていた筈だもの。だから──」

    息を吸い込んでから霧切は口を開く。

    霧切「だから。私が貴方の意思を継ぐわ」

    苗木「──いや、僕は」

    苗木は何か言おうとした。同時に精神集中を使おう(立ち上がろう)とした。

    霧切「バカね」

    ゴトッと鈍い音がして、苗木はベッドへ倒れ込む。

    音の正体は霧切の頭突きが苗木のおでこを捉えた音だった。

    苗木は再び意識を失う。

    罪木「わぁぁぁっ!なんてことしてるんですかぁ!?傷が、傷が増えてますぅ!」

    霧切「大丈夫でしょ?だって貴女がいるもの。それにあのままだと彼、きっと無茶をしていたわ」

    罪木「ご、ご期待されるのは嬉しいんですけど、荒療治すぎますぅ!」

    霧切「彼の事、宜しくね」

    罪木「は、はいぃ!」

    霧切は保健室を飛び出し学園を後にする。

    罪木「霧切さん。どうか気を付けて」

    緑の魔力を苗木に向けながら、罪木蜜柑は呟いた。


    ーーーーーーーーーー


    霧切「彼、石頭ね」

    頭を摩りながら霧切は絶望の街を駆ける。

    頭の中では目紛しい程に様々な思考が走り回る。

    霧切(受け入れられない事が多すぎる。感覚が麻痺しそう)

    霧切仁──父の死。

    苗木誠の状況。

    戦争を止めるという途方もない重荷。

    戦争中というイカれた現状。学生の身でコロシアイに身を投じる事は常識ではあり得ない。

    霧切は息を吐き、無駄な思考を止める。

    向かう先は絶望の城。狛枝凪斗が居る王の間へ。

    その道中、彼女は黒髪の少女とすれ違う。

    霧切(敵国の人間!)

    舞園「ちょ、ちょっと待ってくれませんか?苗木君と学園長に何かあったんですか!?」

    霧切「え?」

    銃と包丁。

    互いに武器を構えながらも共通の名前に警戒が僅かに緩む。
  352. 357 : : 2020/05/09(土) 02:04:52
    行進待ってました!
  353. 358 : : 2020/09/28(月) 10:48:01
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986

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