この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
とんでも日常が出来上がるまで
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- 1 : 2014/11/17(月) 01:54:06 :
- どうも遅筆に定評がありすぎる私です。
たまにはオリジナルも書こうかと思いまして、自サイトに載せるにはイマイチ量が足りないものを持ってきました。
続き物のノリで書いていますがこれの前は今のところありません。気が向いたら続くかもしれませんが。
それでは書き始めます。
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- 2 : 2014/11/17(月) 01:55:33 :
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「さぁ薫。お兄ちゃんの大事な漫画をどこへやったか、教えてご覧?」
がんがらがっしゃんどかーん。という表現するのも難しい無駄に派手な音を立てて、あたしの日常はいつも通り、あっけなく崩壊した。それはやけに肌寒い五月の朝方の話になる。
【とんでも日常が出来上がるまで】
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- 3 : 2014/11/17(月) 01:57:00 :
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高校に入学したばかりのあたしはすこぶる疲れていた。いや、疲労していた。え、どっちも一緒だって? そんなわけないだろう。疲労と書いたほうがずっとそれっぽいじゃないか。――とにかく、あたしは疲労していた。
「んぁ……ふぇ?」
あたしは寝ぼけていた。昨日は遅くまで幼馴染とその先輩が引き起こしたドタバタに巻き込まれてしまったからだ。それこそ一日では溜め込んだ疲労が取れるわけないってくらいだ。
それで気持ちよく寝ていたところを目覚ましなんかに起こされて……まぁ、寝ぼけるのもわかってもらいたい。おいそこ! 今寝ぼけた声が可愛いな、とか思っただろう。学校来たら覚悟しろよ!
寝ぼけ眼を擦りながら、あたしは静かに目を開けた。目の前にあるのはいつもの天井――じゃ、ない。目、いや、顔?
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- 4 : 2014/11/17(月) 01:58:08 :
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「もう朝だよ。オレの可愛い か・お・るっ」
ぞぞぞーっと背筋を冷たいものが走る。あたしは一瞬で布団を捲り、薄気味悪い撫で声を出したソイツに向かって投げつける。急に顔面に布団を投げつけられ、ソイツは馬鹿みたいに仰け反った。
そこへあたしは拳を叩き込む。目指すはその鳩尾、奴の弱点に――。
「痛ッ! ちょっと待て、オレだよ薫っ! お前の大好きなお兄ちゃんだっ!」
「問答無用っ! 今日こそ塵にして窓から捨ててやる!」
はっ! と、掛け声を上げ、あたしはシスコン兄貴へもう一度強烈な一撃を放った。今度はさっきのようなチャチなものじゃない。食らえば即ノックアウトというくらい力強い攻撃。
だが、あたしの必殺ともいえるその一撃を兄貴は片手で受け止め、薄い唇を吊り上げて笑う。
「っく――いい拳だ。だがオレには届かぬよ、我が愛しの妹よ……」
「ぇ、そんな……」
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- 5 : 2014/11/17(月) 01:59:08 :
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あたしは一瞬にして絶望の底に叩きつけられた。奴は本気だ。同じ血を分けた眼は、妖しく邪な欲望に光っている。ヤバイ。これってヤバイ。
「ど、どうせあたしを辱めようとしてるんだろう!? エロ同人みたいにっ!」
あたしは出してしまった拳を引っ込めようと、硬直したままの身体を動かそうとした。が、
「考えが甘いな。流石はオレの妹だ。だが、それがいいッ!」
よくねぇよ! というツッコミは兄貴の行動で遮られる。こ、コイツ……。
「あぁ、薫たん。可愛いよ薫たん……オレの妹の薫たん」
あたしの頭を撫でながら、兄貴は猫撫で声を気持ち悪い方向に極めた声を上げる。全く意味がわからない。ここでふにゃぁとか鳴けばそれは猫娘だ。兄貴は当然男だけど。
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- 6 : 2014/11/17(月) 02:00:00 :
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しかしそこで大人しく陥落するようなあたしではない。兄貴の細めた目が更に細められたその瞬間を狙い、いつの間にかベッドに乗り上げていた奴の身体に頭突きを放つ。そう、ベッドから落とすくらいの威力で、だ。
「成敗!」
「ぐおっ!?」
突然の攻撃に驚いた声を上げながら、兄貴はベッドからシーツごと滑り落ちていった。――あぁ哀れ兄貴よ。あたしという妹を持たなければこんな最期を迎えることもなかったのにな……。
あたしは頭から落ち、おそらく気絶しているだろう兄貴の屍を見下ろした。気分はそう、戦争に勝利した英雄みたいな感じ。これから平和な世の中でどうしてやろうと考えている時の英雄の気分だ。
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- 7 : 2014/11/17(月) 02:00:45 :
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「うぅ……せっかく気持ちよく寝てたのにな」
しかし、相変わらず目覚めは最悪である。ただでさえ疲労が溜まり、高校一年生ながら老体のように重い身体。それを朝っぱらから、よりにもよって兄貴の為に使ってしまった。
でも、何で兄貴はあたしの部屋に来たのだろう。いや、確かにあたしが小さい頃は毎日のように部屋に忍び込み、両親や姉が引き離すまで離れてくれなかった兄貴だ。でも最近はそういうことも少なくなったし、食事中にあたしの食べる姿をジロジロ見つめることを除けば無害な奴になっていた。
……うわ、なんか思い出すだけで吐き気がしてきた。クソ兄貴。最悪だ。
あたしは過去の痛ましい出来事の数々を思い出し、頭を思い切り抱え込んだ。馬鹿でクソな兄貴と過ごして十五年。生まれた時からこれまで、兄貴に振り回されてきた記憶しかない。
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- 8 : 2014/11/17(月) 02:01:50 :
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「薫ぅ……」
と、壁の方を向いて塞ぎこむあたしの背中に声が掛かる。亡霊の声だ。聞く必要なんてないだろう。
「薫ぅ。お兄ちゃん困ってるんだよぉ」
気持ちの悪い声だな、と頭の片隅で思う。実はクソ兄貴は学校じゃ地味にモテるみたいだ。……信じられないこんなにシスコンなのに。幼稚園の頃使っていたあたしの箸を宝物庫とか書いた箱に保管しているくらい気持ちが悪いのに。
「薫やぁい」
「んだ」
「お兄ちゃん。首、折れそう」
「手、貸すか?」
「宜しく頼みたい」
溜息をついてから振り返り、でんぐり返ってこちらを見つめる兄貴を起こしてやる。寝違えた時みたいに首を擦りながら、兄貴はようやく普通に笑った。
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- 9 : 2014/11/17(月) 02:02:56 :
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「で?」
「で? って?」
目をパチパチさせてあたしを見つめた兄貴に拳を突きつけてやりたい衝動に駆られたが、まぁ仕方ない。そこは我慢する。
「何の用があって妹の部屋に兄貴が忍び込んだのかって訊いてるんだ。まさか、用が全くなかったなんて言わないだろうな?」
睨みつけると、兄貴はしゅんとなって子犬のようにあたしを見上げた。あ、ちなみに兄貴の体制は正座だ。当たり前である。
「用はある」
「ほうほう。聞こうか」
笑みを浮かべるあたし。兄貴は少し躊躇ってから、でも何故かイヤラシイ目をして口を開いた。
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- 10 : 2014/11/17(月) 02:03:47 :
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そして話は冒頭に戻る。はい、回想終了おつかれさん。
「漫画?」
ま、ん、が。その三文字によってあたしの精神はあの世までぶっ飛ばされたと思いきや、兄貴の超高速ハグによって一気に舞い戻ってきた。
「ちょ、兄貴離せぇっ」
「薫ぅ……お兄ちゃんの大事な漫画をどこへやったか、教えてご覧よ」
そのままガッチリと固められ、ギリギリと締められる。コレ駄目だ。落ちるアレだ。
「し、知らない! 兄貴が自分でどこかやったんだろ!」
「そうかなぁ?」
ニタニタと笑いながら拘束する力を強めていく。やめろ! 意識が、遠くなる……だろっ!
だがあたしの意識がとうとう吹っ飛びそうになった瞬間、兄貴はふっと力を弱める。
「あの漫画さ。元々姉貴のやつなのは知ってるだろ? 激甘ーな少女漫画」
そして耳元で吐息たっぷりに囁いてから、ニコリと笑ってみせた。手が自由なら殴っていた。
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- 11 : 2014/11/17(月) 02:05:17 :
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「あ、あたしは少女漫画なんて知らないっ! そんな恥ずかしい奴なんて読まないし!」
「ほほう。でもな、俺は薫のことは細胞単位で愛しているし何でも知っているが、少女漫画が嫌いなんて知らないんだよなぁ」
うぐぅ、と思わず声が漏れる。
「ば、馬鹿兄貴! あたしは恋愛とか苦手だし、甘いのなんて読みたくもないんだ! だから少女漫画なんて読まないから知らないし!」
「じゃあ何でさっきから顔が赤いのかな? ……もしかして内容知ってるんじゃないか?」
顔が赤いなんて嘘だと言おうとしたけど、思わず抑えた頰が熱い。
「そ、そりゃ……有名だし、内容くらい知ってる」
「ほう。あれさ、すげぇエロいよな。モロじゃん。ところで我が妹よ、俺はタイトルを教えたつもりはないぞ」
「え!? あ、あぅ……え?」
ハメられたと気付いた時には既に遅く、兄貴は勝ち誇ったように意気揚々と腕を広げる。
「さあ薫の負けだ。大人しくお兄ちゃんに返しなさい。あれがないと姉貴が悲しむんだ」
「あ、透姉は兄貴の頼みなら許してくれるし、もうちょっと借りてもいいじゃないか――!」
ここまでくれば最早必殺開き直りしかない。
「俺も出来ればそうしたいんだがなぁ。愛しい小さな薫が大人の世界に踏み出すにはまだ早いと思って」
「あたしはもう高校生だ! それに何でそもそも兄貴があれを持ってたんだよ!」
そう、そうだ! そもそも兄貴の部屋に話題の漫画が置いてある時点でおかしい。だからあたしは悪くない!
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- 12 : 2014/11/17(月) 02:06:04 :
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「……残念だが薫。お兄ちゃんは早朝から女児向けアニメを観るようなお兄ちゃんなんだ……今更少女漫画くらいどうってことないんだよ」
突然悲しそうな顔でしんみりと呟く兄貴。んなわけあるか、いつも朝からあたしに引っ付いてるくせに。
「嘘乙だ。兄貴はプリマギ見ない」
「バレたか」
「どうせ透姉に読めって言われてそのままハマったんだろう」
「図星だ」
我が兄ながら中々にわかりやすい兄貴である。
「んで、早くお兄ちゃんに漫画返しなさい。あれ以上読んだら心が穢れてしまう」
「あー、あれな。あの漫画はさ、兄貴のだと思ってさー」
目を泳がせる。出来れば言いたくなかったが、ここまできたのなら仕方がない。万事休すだ。
「とても悪いと思ったんだけどさ。あんまりにもエロかったから何だか萎えちゃって、最初の方だけ読んで売っちゃった」
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- 13 : 2014/11/17(月) 02:07:57 :
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***
「何だこれ」
「小説だ」
「それはわかる。何故あたしのことを書いてあると訊いてるんだ」
放課後の文芸部。夕日の差し入るそこは温かい空気で満ちていた。
俺の幼馴染はジトーっとした目でこの何でもパソコンでやる時代にわざわざ原稿用紙に書かれた小説を読んでいたが、不意に顔を上げてさっきの一言を呟いたわけである。
「あー、肖像権とか著作権のことならすまん。だがどうせこれは校内限定だ」
「そういうことじゃない。いや、それもそうだけど」
まあ、いつも通り先輩の無茶振りに付き合わされた俺は原稿の締め切りが明日という修羅場の中にいたわけだ。
そりゃ知人だろうと幼馴染だろうと、ネタがあれば飛びつくさ。
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- 14 : 2014/11/17(月) 02:08:50 :
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「別にあたしじゃなくても良かったじゃないか。身近な人間がいいなら加納先輩の方が面白い人なんだし……」
「先輩は最早とんでもなさすぎて普通だからな。かえってお前の家の方がちょうどいい」
「あ、兄貴だって部誌になったら嫌がるっ。ああ見えて学校じゃ普通っぽいし……」
「優さんなら平気だろう。あの人お前がいれば自分なんてどうでもいいって人だし」
そう言うと、薫は怒ったように呟く。
「――あんなクソ兄貴大嫌いだ」
優さんが聞いたらその場で卒倒しそうな言葉だ。
「悪いが今回は見逃してくれ。お前ならわかるだろう? 俺の大変さが」
「そりゃまぁわかるが……。流石にこんなことを書かれるのは嫌だ」
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- 15 : 2014/11/17(月) 02:09:31 :
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だんだんと尻すぼみになっていく薫の言葉にしびれを切らし、少し投げやりに返す。
「大丈夫だろう。お前の家よりヤバいところなんてこの学校じゃそこらに溢れてる」
「そ、そういうわけじゃなくてだなっ!」
唐突に叫んだ後、薫は恥ずかしくなったのかそっぽを向く。
「……ただ、小説にされるのはかなり恥ずかしいんだ」
消えるように呟く。耳まで赤くなっていた。
「とは言っても、俺は今日中にこいつを仕上げなきゃならないんだぞ。先輩の言うことは絶対だ」
「む……そこをどうにか出来ないのか? 名前変えられただけじゃバレるだろうし……」
俺は机から立ち上がり、背後に立つ薫を無視して窓辺へ向かう。そして、先輩がいつもそうするように窓の外を眺めながら、薫へと声をかけた。
「そういうことなら仕方ないから諦める。だが――」
そこで首だけ振り向いて、不安そうにこちらを見る薫に言った。
「今日はお前も付き合ってくれ。俺一人じゃ無理だ」
「勝手に書いたわりに偉そうだな。……まあ、当然違うものが出来上がるまで付き合うけど」
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- 16 : 2014/11/17(月) 02:10:50 :
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***
屋上へと続く階段に私と彼は腰掛けていた。目の前には蛍光灯に照らされた文芸部の部室がある。
「加納はあれでいいのか?」
「さあな。私にはわからない。だが、こうして君と二人であそこを眺めるのは、少し寂しい気はするな」
時折謎の破裂音や暴言が飛び交う部室は楽しそうで、それでいて羨ましいものだった。
「水上こそ、大切な妹なのだろう?」
「ふっ……俺は薫の全てだからな。たまには大人の余裕を見せてやるのも兄として大事だ」
「そ、そうか」
後輩の柏木君に無茶を言ったのは私だ。文芸部の部長である私には部の全てを取り仕切る権利がある。それを利用しただけだ。
いつも通り柏木君を弄んでやるつもりだった。だから原稿の締め切りなんて本当は存在しない。柏木君が困ればそれで良かったのだ。それを助けるのが私の役目なのだから。
「……今回は私の負けだな。薫」
「何か言ったか?」
「いや、ちょっとした負け惜しみだ」
口の端を吊り上げて笑ってみせる。水上薫。柏木君に一番近く、性格も似ている新入生。とても面白い。
……次は本気で立ち向かうとしよう。
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- 17 : 2014/11/17(月) 02:11:35 :
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「――ところで水上。柏木君たちが叫んでいたことだが、本当にあんなことはあるのか?」
「ん? ああ……薫はああ見えてフリークだからな。部屋に少女漫画をこっそり溜め込んでいる。そう、だからさっきの話でおかしいとすれば、薫が漫画を売ったというところだな」
「ほう、よく知ってるな。流石は校内名物のシスコンだ」
「加納こそ。校内一の変人じゃないか」
「心外だな。水上には言われたくない」
これから暫く協定を結ぶ水上(兄)を見やる。地味な妹とは似つかない美形だが、こいつの頭には妹しかない。私より一つ学年が上であるにも関わらず貫禄が全くないのはきっとそれが理由だ。
そしておそらく私の頭も彼と大して変わらない。
「さて、これからどう柏木誠人をいたぶるかな……」
水上は指の関節を鳴らしながら。
「まあ、とりあえずは君の妹を引き離したいな」
私は首の骨を鳴らして。
「行こうか。我らの戦地に」
「ああ。せいぜい宜しく頼むよ」
とんでもない日常を望んでいるらしい彼らに会いに行こうじゃないか。
《完》
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- 18 : 2014/11/17(月) 02:14:25 :
- 短いですが以上で終わりです。
わりと実験的な作品なので昔から使っているオリキャラでの物語になりました。
いい加減トイレットペーパーの方も更新したいので頑張らなくては。
それでは失礼します。読んで下さった方、ありがとうございました。
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